メンタルヘルス用語辞典 · 思考挿入

思考挿入(しこうそうにゅう)とは?
症状・原因・治療法をわかりやすく解説

思考挿入とは、自分の頭の中に外部から考えが入れられている・植え付けられていると感じる体験です。統合失調症の代表的な症状であり、シュナイダーの一級症状に含まれます。強迫観念との違い、脳のメカニズム、治療法、日常の対処法から家族の対応までを包括的にまとめました。

ABOUT THOUGHT INSERTION

思考挿入とは、どのような症状か

思考挿入(しこうそうにゅう)とは、自分の頭の中に外部から考えが入れられている・植え付けられていると感じる体験です。統合失調症の代表的な症状であり、シュナイダーの一級症状に含まれます。

定義

思考挿入の定義——「考えを入れられる」体験

思考挿入(しこうそうにゅう、thought insertion)とは、自分の頭の中に、外部の力(他者・機械・超自然的存在など)によって考えが入れられている・植え付けられていると感じる体験です。「考想吹入(こうそうすいにゅう)」とも呼ばれます。

思考挿入を経験している方は、「この考えは自分のものではない」「外から送り込まれた異質な考えが頭の中にある」と確信しています。通常、私たちは自分の思考を「自分が生み出したもの」と自然に感じていますが、この基本的な「所有感」が失われ、思考が「外部からの侵入物」として体験されるのです。

思考挿入は統合失調症の自我障害の一つであり、シュナイダーの一級症状に含まれます。思考伝播(考えが外に漏れる)・思考奪取(考えが抜き取られる)とともに「思考に関する自我障害のトライアド」を形成し、これらが同時に出現することも珍しくありません。

思考挿入は脳の機能の変調です思考は外部から物理的に入れられることはありません。思考挿入は脳のセルフモニタリング機能の一時的な変調によって生じる症状であり、適切な治療で改善が期待できます。
強迫観念との違い

思考挿入と強迫観念の違い

「望まない考えが頭に浮かぶ」という点で、思考挿入は強迫症(OCD)の強迫観念と混同されることがあります。しかし、両者は本質的に異なります。

比較項目
思考挿入
強迫観念
思考の帰属
外部からのもの
自分のもの
自覚(病識)
乏しい
不合理と自覚している
主な反応
被害感・怒り
不安・強迫行為
併存症状
幻聴・妄想
回避・確認行為
主な疾患
統合失調症
強迫症(OCD)
💡
この区別は治療法の選択に直結します。思考挿入には抗精神病薬、強迫観念にはSSRIと認知行動療法が第一選択です。
頻度

思考挿入の頻度

15〜25%
統合失調症患者のうち思考挿入を経験する割合
52%
20年間の前向き研究で思考挿入が持続的に見られた割合
70%以上
抗精神病薬で陽性症状が改善する割合
思考挿入は適切な治療で改善できます。一方で、一部の患者では長期にわたって持続することもあり、継続的な治療と支援が重要です。
心理社会的影響

思考挿入が日常生活に与える影響

思考挿入は、当事者の日常生活・社会参加・対人関係に深刻な影響を及ぼします。「自分の思考が信用できない」という体験は、意思決定・集中・コミュニケーション全体に影響します。

💠
就労・学業への影響
集中力低下・思考の混乱による作業効率の著明な低下。「誰かに思考を読まれている」恐怖から職場・学校での人間関係が困難になる。休職・休学を余儀なくされる例も多い。
💠
対人関係の困難
「自分の考えが伝わってしまう」「他者が自分の思考に入ってくる」という体験から、孤立・引きこもりに至ることが多い。信頼関係の構築が困難になる。
💠
意思決定の障害
どの思考が「本当に自分の考え」かわからず、日常的な判断(買い物・会話・行動選択)が著しく困難になる。判断の遅延と混乱が生活全般に影響する。
💠
家族・介護者への影響
家族が症状理解・対応に疲弊しやすい。「なぜそんな考えを持つのか」という批判的表出(EE)が再発リスクを高める。家族支援が不可欠。
SYMPTOMS

思考挿入の具体的な症状パターン

思考挿入はさまざまな形で体験されます。典型的なパターンを知ることで早期発見と適切な対応が可能になります。

📥
「外から考えを入れられる」
自分の頭の中に、自分のものではない考えが外部から入ってくる体験。「誰かがテレパシーで考えを送ってくる」「機械で思考を植え付けられている」などと訴えます。入ってきた考えは自分の意志とは無関係であり、しばしば不快で受け入れがたい内容です。
📡
「電波・電磁波で思考を送り込まれる」
テレビ・ラジオ・インターネット・携帯電話などの電波を通じて、特定の人物や組織が自分の頭に考えを送り込んでいると感じます。テクノロジーを媒介とした表現は現代社会に特徴的です。被害妄想と密接に関連します。
👤
「特定の人物が考えを植え付けている」
上司・隣人・国家機関・宗教団体・悪霊など、特定の人物や存在が自分の頭の中に考えを送り込んでいると確信します。「この考えは〇〇が入れたものだ」と断定的に語り、被害妄想の対象と一致することが多いです。
🔀
「自分の考えではない異質な考えがある」
自分の通常の思考パターンとは明らかに異なる、異質で違和感のある考えが頭の中に存在すると感じます。「この考えは自分のものではない」「誰かの考えが混ざっている」という体験です。自我障害の核心的な現象です。
🧲
「思考をコントロールされている」
自分の思考プロセス全体が外部から操作されていると感じます。「考える内容を決められている」「思考の方向を変えられる」。思考挿入とさせられ体験(作為体験)が重なり合ったパターンです。
😰
「不快な考えを無理やり入れられる」
暴力的・性的・冒涜的な内容の考えが外部から入れられると体験されます。これは強迫観念(intrusive thoughts)との鑑別が重要です。強迫症では「自分の望まない考え」と認識しますが、思考挿入では「外部から入れられた考え」と確信している点が異なります。
受診の目安

こんな時は受診を

  • 🔍
    「自分のものではない考えが頭に入ってくる」と感じる
  • 🔍
    「誰かが考えを送り込んでいる」と確信している
  • 🔍
    声が聞こえる(幻聴)体験がある
  • 🔍
    被害感・監視されている感覚がある
  • 🔍
    異質な考えのせいで集中力が著しく低下している
  • 🔍
    日常生活や仕事に支障が出ている
  • 🔍
    睡眠パターンが大きく乱れている
  • 🚨
    「消えてしまいたい」「死にたい」と思うことがある
⚠️
希死念慮がある場合は「消えてしまいたい」「死にたい」という思いがある場合は、すぐに相談窓口に連絡してください。いのちの電話:0120-783-556(24時間・無料)
CAUSES & MECHANISMS

思考挿入の原因とメカニズム

思考挿入は脳のセルフモニタリング機能の障害と自我境界の変容によって生じます。タブで詳細を切り替えてご覧ください。

🧠セルフモニタリングの障害

思考挿入は、脳が自己生成の思考を「自分のもの」と認識するセルフモニタリング機能の障害として説明されています。通常、脳は思考を生成する際に遠心コピー(efference copy)を作成し、「これは自分が生成した思考だ」とタグ付けします。統合失調症ではこの機能が障害され、自分の思考の一部が「外部からのもの」と誤帰属されます。fMRI研究では、左側頭葉・前頭前野・側頭頭頂接合部(TPJ)の機能異常が報告されています。特にTPJは「自己と他者の区別」に重要な役割を果たす領域であり、この部位の機能障害が思考の帰属の誤りに直接関与していると考えられています。

  • 遠心コピー機能の障害——自己生成思考の認識失敗
  • 左側頭葉の機能異常——内言語処理の障害
  • 側頭頭頂接合部(TPJ)の障害——自他区別の困難
  • 前頭前野の実行機能低下——思考の制御障害
  • デフォルトモードネットワークの異常
思考挿入は「本当に考えを入れられている」のではなく、脳が自分の思考を「自分のもの」と認識できなくなっている状態です。治療可能な症状です。
DIAGNOSIS

思考挿入の診断と鑑別

思考挿入は統合失調症の診断における重要な症状ですが、強迫症や解離性障害との鑑別が必要です。

思考挿入の診断では、詳細な問診による症状の評価、他の精神症状(幻聴・妄想・思考障害等)の有無の確認、身体的検査(脳MRI・血液検査等)による器質性疾患の除外が行われます。DSM-5では思考挿入は統合失調症の診断基準A(妄想)の一部として位置づけられています。ICD-11でも統合失調症の特徴的症状として記載されています。

思考挿入があるからといって直ちに統合失調症と診断されるわけではありません。経過・他の症状・機能障害を含めた総合的な評価が行われます。
鑑別診断

思考挿入と鑑別すべき状態

思考挿入に似た体験は複数の疾患に現れます。正確な診断のために、以下の鑑別が重要です。

🔬
統合失調症
思考挿入が最も典型的に見られる。幻聴・妄想・解体した発語を伴う。DSM-5診断基準Aの一症状として位置づけ。
🔬
強迫症(OCD)
侵入思考はOCDにも見られるが、「自分の思考」であることの自覚(自我違和感)を保っている点が異なる。思考挿入では「外から来た」感覚が特徴。
🔬
解離性障害
解離性同一症(DID)では別人格の思考が「外から来た」ように体験されることがある。詳細な精神科的評価で鑑別。
🔬
双極性障害(躁状態)
躁状態で「考えが飛ぶ」「誰かに考えを入れられる」感覚が生じることがある。気分エピソードとの関連で鑑別。
🔬
器質性疾患
側頭葉てんかん・脳炎・甲状腺疾患などでも精神症状が出現しうる。初発時は脳MRI・脳波・血液検査等で除外が必要。
🔬
薬物・物質誘発
覚醒剤・大麻・LSD等の使用で思考挿入に似た体験が生じる。物質使用歴の詳細な聴取が不可欠。
TREATMENT

思考挿入の治療法

思考挿入は抗精神病薬を中心とした治療で改善が期待できます。認知行動療法や心理教育との組み合わせが推奨されます。

治療法

思考挿入に対する治療アプローチ

抗精神病薬(第一選択)治療の柱

思考挿入は統合失調症の陽性症状として、抗精神病薬による治療が第一選択です。非定型抗精神病薬(リスペリドン・オランザピン・アリピプラゾール・パリペリドン・クエチアピン等)が広く使用され、ドーパミンD2受容体の遮断により症状の改善が得られます。急性期には十分な用量で治療し、安定後は再発予防のため維持療法を継続します。治療抵抗性の場合はクロザピンが選択されます。長時間作用型注射剤(LAI)は服薬アドヒアランスの向上に有効です。抗精神病薬は思考挿入を含む陽性症状に対して70%以上の患者で改善効果が報告されています。

認知行動療法(CBTp)認知の修正

精神病に対する認知行動療法では、「外から入れられた考え」という体験の代替的な解釈を探ります。「この考えは脳の情報処理の一時的な変調によるもの」という理解を促し、症状に伴う苦痛を軽減します。強迫観念との違いを理解し、異質な思考への対処スキルを身につけることも目標です。薬物療法との併用が推奨されます。

心理教育理解と安心

思考挿入のメカニズムを本人・家族に説明し、疾患の正しい理解を促します。「思考は外部から物理的に入れられることはない」「脳のモニタリング機能の変調である」という理解が安心感につながります。再発予防のための前兆サインの認識と早期対処法も心理教育に含まれます。

家族介入・社会復帰支援包括的支援

家族に対する心理教育と介入は再発率の低下に有効です。高感情表出(EE)の家族環境が再発リスクを高めることが知られており、家族との関係調整が重要です。症状が安定した後は、デイケア・就労支援・SST(社会技能訓練)を通じた社会参加の回復を目指します。

注意点

治療の注意点

⚠️
服薬中断は再発の最大リスク抗精神病薬の自己中断後の再発率は80%以上です。「考えが入ってこなくなった」のは薬が効いている証拠であり、治癒ではありません。減薬は必ず主治医と相談の上で段階的に行ってください。
治療は長期にわたりますが、適切な薬物療法と支援の継続で安定した生活を送ることが可能です。
支援制度

利用できる支援制度・福祉サービス

思考挿入を含む精神病症状に対応する様々な支援制度があります。これらを活用することで、治療継続と社会復帰を助けることができます。

🏛
自立支援医療制度
精神科・心療内科への通院医療費を1割負担に軽減。統合失調症など継続的治療が必要な方は必ず申請を。主治医・精神保健福祉士に相談。
🏛
精神障害者保健福祉手帳
1〜3級。税制優遇・公共交通割引・就労支援サービス(就労継続支援B型・就労移行支援等)が利用可能になる。
🏛
障害年金
統合失調症等で就労が困難な場合、障害基礎年金・厚生年金が受給できる。初診日から1年6ヶ月後に申請可能。精神保健福祉士に相談。
🏛
訪問支援・ACT
アウトリーチ支援(訪問看護・ACT=包括型地域生活支援プログラム)が利用できる地域もある。通院困難な方に有効。
DAILY LIFE

日常生活でできること

思考挿入の症状を安定させ、再発を防ぐために、日々の生活でできることがあります。

💊
服薬を継続する
抗精神病薬の自己中断は再発の最大リスクです。「考えが入ってこなくなった=治った」ではなく、薬が効いているから安定しています。副作用は主治医に相談を。
🌙
睡眠リズムを安定させる
睡眠不足は思考挿入を含む精神病症状を直接悪化させます。毎日同じ時間に就寝・起床しましょう。
📝
症状日記をつける
思考挿入がいつ・どのような状況で起きるかを記録しましょう。ストレスとの関連が見えてきます。
🧘
マインドフルネスを実践する
マインドフルネスは「思考を評価せずに観察する」スキルであり、異質な思考への反応を変える助けになります。毎日5〜10分から始めましょう。
🍷
アルコール・薬物を避ける
大麻・覚醒剤・アルコールは症状を悪化させます。完全に避けることが回復の前提です。
👥
人とのつながりを維持する
社会的孤立は症状を悪化させます。家族・友人・デイケアの仲間など、信頼できる人との交流を維持しましょう。
🎯
異質な思考への対処法を持つ
「この考えは脳の誤信号だ」と認識する、呼吸法で落ち着く、体を動かすなど、対処法を事前に決めておきましょう。
🏃
適度な運動を習慣にする
有酸素運動は精神症状の改善と体重管理に効果的です。散歩や水泳など、自分のペースで続けられるものを選びましょう。
まずは「服薬の継続」と「睡眠リズム」の2つから始めましょう。
セルフマネジメント

思考挿入と共に生きるためのセルフマネジメント

思考挿入を含む精神病症状をコントロールしながら生活するためのセルフマネジメントスキルを身につけることが、長期的な安定と社会復帰につながります。

🧭
症状モニタリング
思考挿入の頻度・強度を0〜10で毎日記録。「症状日記」をつけることで再発の前兆に気づきやすくなる。主治医との共有に活用。
🧭
服薬アドヒアランス
「薬を飲み忘れない工夫」(アラーム設定・ピルケース・LAI導入)が再発防止の基本。副作用が辛い場合は自己中断せず主治医に相談。
🧭
睡眠リズムの維持
睡眠不足は精神病症状の悪化因子。就寝・起床時間を一定に保つ。刺激物(カフェイン・スマホ)を夜間に避ける習慣が重要。
🧭
ストレス管理
過度なストレスは再発リスクを高める。自分のストレスサインを知り、早めに休息・相談する。SST(社会生活技能訓練)の活用も有効。
🧭
危機対処計画(CCP)
「症状が悪化したとき誰に連絡するか」「どの病院に行くか」を事前に書いておく。主治医・家族と共有することで緊急時に迷わない。
🧭
社会参加・作業活動
デイケア・就労移行支援・ボランティア等に少しずつ参加。「意味のある活動」への参加が自己効力感を高め、回復を支える。
関連する用語
統合失調症思考伝播思考奪取させられ体験自我障害幻聴妄想強迫症
FOR FAMILY & FRIENDS

周囲の人にできること

思考挿入を経験している方への対応は、否定も肯定もせず安心感を与えることが基本です。

対応のポイント

してほしいこと・避けてほしいこと

✅ してほしいこと
  • 「考えを入れられる」という訴えを否定せず受け止める
  • 安心感を伝え、「あなたは安全だよ」と声をかける
  • 服薬の見守りと自己中断の防止
  • 再発の前兆に気づいたら主治医に連絡
  • 回復の小さな進歩を認める
  • 危機時の対応計画を本人と一緒に作る
❌ 避けてほしいこと
  • ×「考えを入れられるわけない」と強く否定する
  • ×確信を肯定して妄想を強化する
  • ×精神論で説得しようとする
  • ×薬の自己判断での中止・増減
  • ×一人で全サポートを背負う
  • ×症状を他人に無断で話す
支える方のケアも大切です家族会やカウンセリングを活用してください。あなたが穏やかでいることが最大のサポートです。
家族支援

家族が使える支援リソース

思考挿入のある家族を支える方が孤立しないよう、様々な支援リソースが利用できます。

🤝
家族会・全国組織
全国精神障害者家族会連合会(みんなねっと)。地域の家族会では経験を分かち合える仲間と出会える。孤立感の軽減に有効。
🤝
精神保健福祉センター家族相談
各都道府県に設置。専門のケースワーカーが家族の悩みに対応。受診促進・制度案内・危機時対応も相談可能。
🤝
家族心理教育プログラム
統合失調症の家族向け心理教育(疾患理解・対応スキル・感情管理)が、本人の再発率を下げる効果が実証されている。
🤝
レスパイトケア
介護・支援の一時休息。ショートステイ・デイサービスを活用して、家族自身が休む時間を確保することも治療の一部。
FAQ

よくある質問

思考挿入について、当事者・家族からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q. 思考挿入とはどういう体験ですか?

思考挿入(thought insertion)は、「自分の頭に浮かんでいる考えが、自分自身のものではなく、外から誰かや何かによって植え付けられた」と感じる体験です。例えば「悪霊が私の脳に考えを送り込んでいる」「隣人が機械を使って思考を入れてくる」などの形で体験されます。これは精神医学では「自我障害(ego disorder)」の一種であり、「思考の所有感」が障害された症状です。通常の「頭に浮かんだ考え」は「自分が考えた」と感じますが、思考挿入では「誰かに考えさせられた」という感覚を持ちます。統合失調症の特徴的な症状の一つですが、他の疾患でも見られることがあります。

Q. 「思考挿入」と「強迫的な考え(強迫観念)」はどう違いますか?

最も重要な違いは「その思考が自分のものかどうか」という認識です。強迫観念(OCD)では、不快な考えが繰り返し浮かびますが、「これは自分の考えである(ただし望んでいない)」という認識が保たれています(自我違和性)。一方、思考挿入では「この考えは自分の頭に外から入ってきた。自分が考えたものではない」という体験が特徴です。この「思考の所有感の喪失」が思考挿入の核心です。臨床的には、この違いを精神科医が丁寧に聴取して鑑別します。治療も異なるため、正確な診断が非常に重要です。

Q. 思考挿入は治りますか?

適切な治療(抗精神病薬を中心とした薬物療法)により、多くの場合で思考挿入を含む精神病症状は大きく改善します。研究では抗精神病薬で陽性症状(幻覚・妄想・思考挿入など)の70%以上が改善するとされています。ただし、改善の度合いには個人差があります。また、薬を突然やめると再発リスクが高まるため、症状が消えても「維持療法」として服薬を継続することが重要です。「薬を飲み続けることへの不安」は主治医や精神保健福祉士に率直に相談してください。長期的な治療継続と社会的支援の組み合わせが、安定した回復につながります。

Q. 家族が「誰かが思考を入れてくる」と言っています。どう対応すればよいですか?

家族への対応の基本は「否定も肯定もしない、安心感を提供する」です。①「そんなことはない」と否定しない——症状として体験していることは本人にとってリアルであり、否定すると信頼関係が壊れます②「本当にそうなのか」と同調もしない③「それはつらいね」と感情に寄り添う④「一緒に病院に行こう」と受診を促す、という順序が大切です。家族だけで抱え込まず、精神保健福祉センターへの相談や家族教室への参加を検討してください。家族自身のメンタルヘルスケアも非常に重要です。

Q. 思考挿入は危険ですか?暴力につながりますか?

精神疾患のある人が一般的に「危険」であるという誤解(スティグマ)は科学的根拠に乏しく、是正が必要です。研究では、精神疾患のある人による暴力リスクは、薬物・アルコール乱用がない場合は一般人口と大差がありません。むしろ、精神疾患のある方は暴力の被害者になるリスクの方が高いです。思考挿入の症状が重篤で混乱・興奮状態にある急性期には、本人の安全確保と早期の精神科的介入が重要ですが、適切な治療を受けている場合は安定した社会生活が十分可能です。

Q. 何科を受診すればよいですか?

思考挿入が疑われる場合は、精神科への受診が適切です。思考挿入は精神病症状(psychotic symptom)であり、心療内科より精神科での評価が必要です。初診を躊躇する場合は、まず精神保健福祉センターに電話相談して「精神科受診への不安」を話してみることも有効です。家族が受診に同行することで、医師への症状説明がスムーズになります。かかりつけ医(内科)から精神科への紹介状を書いてもらうことで、初診がスムーズになります。思考挿入が初発・急性期の場合は、速やかな受診が重要です。

Q. 思考挿入がある人は仕事(就労)できますか?

症状が安定している場合、就労は十分可能です。ただし、症状の重さ・職種・就労環境によって異なります。支援を活用した就労の選択肢として①就労移行支援事業所(一般就労に向けた職業訓練・支援)②就労継続支援B型・A型(症状に合わせた福祉的就労)③精神障害者雇用枠(障害者手帳取得後、一般企業の障害者枠での雇用)があります。職場での合理的配慮(業務調整・通院配慮)を活用することも重要です。就労支援は精神保健福祉士・ハローワーク(障害者担当窓口)に相談してください。

Q. 薬を飲み続けなければなりませんか?いつまで続けるのですか?

思考挿入を含む精神病症状の治療では、急性期治療後も「維持療法」として抗精神病薬を継続することが推奨されています。理由は再発防止にあります。初発精神病で薬を中断した場合、1年以内の再発率は約80%に上ります。継続した場合は約20%に抑えられます。「いつまで飲むのか」は個人差があります。初発で完全寛解した場合は1〜2年の継続後に段階的な減薬を検討します。再発を繰り返している場合は長期(5年以上)の維持療法が推奨されることもあります。薬の継続に不安がある場合は、主治医と率直に話し合いましょう。自己判断での中断は非常に危険です。

Q. 思考挿入は「霊的な体験」とはどう違うのですか?

一部の文化・宗教的背景では「神や霊からのメッセージ」として外から考えが来る体験を報告する人がいます。精神医学的に問題となる思考挿入は、①体験が本人にとって苦痛・混乱をもたらしている②日常機能(就労・対人関係・自己ケア)が著しく障害されている③体験の内容が文化的規範・宗教的文脈を大きく逸脱しているという点で区別されます。文化的に容認された体験(宗教的文脈での神との交信など)は、それだけで精神病症状とは診断されません。ただし、症状が急激に悪化している場合は文化的背景にかかわらず精神科的評価が必要です。

Q. 思考挿入は子どもや青年に起こりますか?

統合失調症の好発年齢は男性で15〜25歳、女性で25〜35歳であり、思春期〜青年期に初発する例が多いです。10代での発症(早発統合失調症)では、思考挿入より「思考の混乱」「ひきこもり」「学業成績の急激な低下」という前駆症状が先行することが多いです。子どもの場合、「外から考えが来る」という体験を言語化することが難しいため、行動の変化(急に話さなくなる、表情がなくなる、独り言が増える等)を保護者や教師が気づくことが重要です。早期発見・早期介入が長期的予後に大きく影響します。

Q. 思考挿入がある方の家族ができる具体的な支援は何ですか?

家族支援として特に有効なのは①心理教育:病気の仕組み・治療法・再発サインを学ぶ(家族教室・精神保健福祉センターの家族向け講座を活用)②感情表出(EE)の管理:批判・過干渉・巻き込まれを減らし、穏やかに接する③服薬サポート:「薬を飲んだか」の確認より、定期受診の付き添いや副作用の観察を行う④危機時の対応計画:症状悪化時にどこに電話するか、どの病院に行くかを事前に決めておく⑤自分自身のケア:家族会への参加・カウンセリング・短期休息の取得。家族が倒れては支援が続きません。

Q. 思考挿入が始まったのは最近です。すぐに受診が必要ですか?

思考挿入が新たに始まった場合、早期に精神科を受診することを強くお勧めします。精神病の初発から治療開始までの期間(DUP: Duration of Untreated Psychosis)が短いほど、長期的な回復が良いことが多くの研究で示されています。初発精神病の早期介入プログラム(EIP)が整備されている医療機関もあります。「まだ大したことない」「様子を見よう」と思っても、精神病症状は放置すると悪化・慢性化するリスクがあります。「最近、外から考えが来る感じがする」と正直に精神科医や精神保健福祉センターに伝えてください。緊急の場合はよりそいホットライン(0120-279-338)に相談できます。

一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。

『自分の考えではない感じがする』『誰かに思考を入れられている気がする』——そう感じながら、誰にも言えず一人で抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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