神経障害性疼痛とは?
症状・原因・治療法をわかりやすく解説
神経障害性疼痛は、末梢または中枢神経系の損傷・機能異常によって引き起こされる慢性疼痛です。「電気が走る」「焼けるような」という独特の痛みや、軽い触れで激痛が起きるアロディニアが特徴で、通常の鎮痛薬が効きにくい難治性の疾患です。原因・症状・最新の治療法・日常ケアまで詳しく解説します。
神経障害性疼痛とは
神経障害性疼痛は、末梢または中枢神経系の損傷・機能異常によって引き起こされる慢性疼痛です。「電気が走る」「焼けるような」痛みと、触れるだけで痛むアロディニアが特徴で、通常の鎮痛薬が効きにくいことが大きな特徴です。
神経障害性疼痛の定義——神経系の損傷・機能異常による痛み
神経障害性疼痛(Neuropathic Pain)は、国際疼痛学会(IASP)の定義によると「体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる疼痛」とされています。末梢神経系(末梢性神経障害性疼痛)または中枢神経系(中枢性神経障害性疼痛)の損傷・機能異常が原因です。
神経障害性疼痛の最大の特徴は、「通常の組織損傷が治癒した後も痛みが持続する」または「通常なら痛みを引き起こさない刺激(軽い触れ・温度変化など)で激しい痛みが生じる」ことです。これは神経自体が「故障した状態」で異常な信号を送り続けているため生じます。「気のせい」「大げさ」ではなく、神経系の機能的・構造的変化による実在する痛みです。
神経障害性疼痛はなぜ「難治」なのか
神経障害性疼痛では、神経回路自体が変容しています。損傷した末梢神経が異所性放電を起こし、脊髄後角では中枢感作(過感受性)が生じ、脳での痛み処理も変わります。この「神経回路の可塑的変化」が長期間持続するため、通常の鎮痛薬(NSAIDsなど)では効果がなく、特殊な薬剤や心理療法が必要となります。
神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛の違い
神経障害性疼痛を侵害受容性疼痛と区別することは、適切な治療選択のために非常に重要です。
神経障害性疼痛——7人に1人が経験する
神経障害性疼痛は思われているよりはるかに一般的な疾患です。
中枢感作——神経障害性疼痛の核心メカニズム
中枢感作(Central Sensitization)とは、末梢の継続的な痛み刺激によって脊髄・脳での痛み処理が「過感受性」になった状態です。これにより通常は痛みとならない刺激でも強い痛みとして感じるアロディニアや、弱い刺激に対して過剰な痛み反応(痛覚過敏)が生じます。
※ プレガバリン・三環系抗うつ薬・SNRIはこの中枢感作を改善する方向に作用します
こんな時は受診を検討してください
緊急を要するサイン
- ⚠️希死念慮・自傷衝動要緊急対応慢性疼痛に伴う絶望感・抑うつから、「死にたい」「消えてしまいたい」という希死念慮が生じることがあります。このサインは緊急に精神科・心療内科に相談すべき状態です。
- 📈痛みの急激な増悪要緊急対応普段より明らかに痛みが強くなった、または範囲が拡大した場合は、新たな神経損傷・腫瘍・感染などの器質的疾患の可能性があります。早期に医療機関を受診してください。
- 💊薬物使用の急増要緊急対応痛みを和らげるために鎮痛薬・オピオイドの使用量が急増している場合は、薬物依存・乱用の危険があります。自己判断で増量せず、主治医に相談してください。
- 🏠完全な社会的引きこもり痛みのために外出・人との接触が完全にできなくなった場合は、うつ病・社会不安障害の重症化が疑われます。精神科・心療内科への相談が必要です。
- 💤睡眠が全く取れなくなった痛みで全く眠れない状態が数日続く場合は、睡眠薬の見直し・入院治療の検討が必要なことがあります。主治医への早期相談をおすすめします。
- 🧠認知機能の急激な低下要緊急対応記憶・判断力・言語能力が急激に低下した場合は、薬の副作用・中枢神経系の疾患の可能性があります。すぐに医師に相談してください。
神経障害性疼痛の原因とリスク要因
神経障害性疼痛は末梢・中枢神経系の様々な疾患・損傷を原因として発症します。心理・社会的要因が慢性化に大きく関与します。
末梢神経(脳・脊髄より末梢の神経)の損傷や疾患によって引き起こされる神経障害性疼痛です。代表的な原因として、帯状疱疹後神経痛(VZVウイルスによる神経損傷後)、糖尿病性末梢神経障害(高血糖による神経障害)、外傷後神経損傷(手術・外傷)、神経根障害(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症)、がん浸潤や化学療法による神経障害などがあります。末梢神経の損傷・機能異常によって、異所性放電・侵害受容器の感作が生じ、持続的な痛みのシグナルが中枢に送られ続けます。
脳・脊髄(中枢神経系)の損傷や疾患によって引き起こされる中枢性神経障害性疼痛です。脳卒中後疼痛(視床痛・脳卒中後中枢性疼痛)、脊髄損傷後疼痛、多発性硬化症に伴う疼痛、パーキンソン病に伴う疼痛などがあります。中枢神経系の損傷によって、脊髄・脳での痛み処理が変容し(中枢感作)、本来は痛みとして処理されない信号が「痛み」として認識されるようになります。
神経障害性疼痛の主な神経生物学的メカニズムとして、異所性放電(損傷神経からの自発的な電気放電)、シナプス可塑性の変化、中枢感作(脊髄・脳での痛み処理の増感)、下行性疼痛抑制系の機能低下(脳から脊髄への痛み抑制経路の障害)、グリア細胞(ミクログリア・アストロサイト)の活性化による神経炎症などが知られています。ナトリウムチャネル・カルシウムチャネルの過活動、グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の感作なども重要な役割を果たします。
神経障害性疼痛の発症・慢性化・重症化に心理・社会的要因が深く関与しています。痛みへの破局化思考(「この痛みは耐えられない」)・恐怖回避信念(「動くと痛みが悪化する」)・疼痛恐怖は、活動の回避→廃用症候群→さらなる痛み悪化という悪循環を引き起こします。うつ病・不安障害の合併は疼痛の強度と障害度を増加させます。社会的サポートの不足、職場環境の問題、医療不信なども治療効果に影響します。これらは認知行動療法の重要なターゲットとなります。
- 帯状疱疹後神経痛(PHN):最も一般的な神経障害性疼痛のひとつ
- 糖尿病性末梢神経障害:糖尿病患者の約30〜50%が発症
- 外傷・手術による神経損傷
- 椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症による神経根障害
- がん浸潤・化学療法による神経障害
- 三叉神経痛:三叉神経の機能異常による顔面への電撃痛
- 脳卒中後中枢性疼痛(視床痛):脳卒中患者の8〜11%が発症
- 脊髄損傷後疼痛:脊髄損傷患者の65〜85%に疼痛が生じる
- 多発性硬化症に伴う疼痛
- パーキンソン病に伴う疼痛
- 中枢感作(脊髄・脳での痛み処理の過感受性)
- 異所性放電:損傷神経からの自発的・過剰な電気放電
- 中枢感作:脊髄後角・脳での痛み処理の増感
- 下行性疼痛抑制系の障害(SNRI・三環系が作用する部位)
- NMDA受容体の感作(グルタミン酸過剰放出)
- グリア細胞の活性化による神経炎症
- ナトリウムチャネルの過活動(抗てんかん薬が作用する標的)
- 破局化思考:最も有害な認知パターン(疼痛強度・障害度を増加)
- 恐怖回避信念:活動回避→廃用→悪化の悪循環
- うつ病・不安障害の合併(疼痛を増幅)
- 社会的孤立・職場問題・経済的困難
- 医療者との関係・医療不信
- 睡眠障害との双方向的悪循環
慢性化・重症化のリスクを高める要因
神経障害性疼痛の治療法
神経障害性疼痛の治療は薬物療法・心理療法・リハビリテーションの統合的アプローチが最も効果的です。「痛みをゼロにする」より「痛みがあっても生活できる力をつける」が治療目標です。
薬物療法——神経の「過活動」を抑える
三環系抗うつ薬(アミトリプチリン・ノルトリプチリン)とSNRI(デュロキセチン)は神経障害性疼痛の第一選択薬です。下行性疼痛抑制系(脳から脊髄への痛み抑制経路)を強化することで鎮痛効果を発揮します。抗うつ薬としての用量より低用量で使用します。デュロキセチンは糖尿病性末梢神経障害・線維筋痛症に対してFDAが承認しています。副作用(口渇・眠気・便秘・起立性低血圧)の管理が重要です。
プレガバリン(リリカ)とガバペンチンは電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経の過活動(異所性放電)を抑制します。帯状疱疹後神経痛・糖尿病性末梢神経障害・線維筋痛症に対してエビデンスが確立されています。眠気・めまい・浮腫が主な副作用で、少量から開始して漸増します。腎機能低下患者では用量調整が必要です。
トラマドール(弱オピオイド)は神経障害性疼痛にも有効性があり、他の薬剤が無効の場合に検討されます。強オピオイド(モルヒネ・オキシコドンなど)は難治性の神経障害性疼痛に有効ですが、依存・耐性・認知機能低下・便秘などの副作用管理が重要です。がん性疼痛に伴う神経障害性疼痛では積極的な使用が推奨されます。日本では麻薬処方せんが必要です。
局所療法は副作用が少なく有効な場合に特に推奨されます。リドカイン貼付剤(帯状疱疹後神経痛・糖尿病性末梢神経障害)、カプサイシンクリーム・高濃度カプサイシンパッチ(TRPV1受容体の脱感作)、神経ブロック(硬膜外ブロック・交感神経ブロック・トリガーポイント注射)などがあります。特定の部位に限局した神経障害性疼痛に対して有効です。
心理療法とリハビリテーション
神経障害性疼痛に対してエビデンスが最も豊富な心理療法です。痛みへの破局化思考・恐怖回避信念を修正し、活動の段階的再開(グレーデッドアクティビティ)を促進します。痛みを「なくすもの」ではなく「あっても生活できる力をつけるもの」という視点の転換が重要です。睡眠、活動量、社会参加、対人関係の改善を総合的に目標とします。
「痛みをなくす」ことより「痛みがあっても価値ある人生を生きる」ことを目標とするアプローチです。痛みを回避・抑制しようとする思考・行動パターンを変え、自分にとって重要な活動(仕事・家族・趣味)に向かう意欲を高めます。慢性疼痛患者の生活の質(QOL)向上に高い効果が示されています。
「今この瞬間の痛みを、評価・判断せずにただ観察する」マインドフルネスの技法が慢性疼痛の心理的苦痛を軽減します。痛みに対する反応性(破局化・回避)を減らし、痛みとともに生きる力(ペインとの共存)を育てます。マインドフルネスベース認知療法(MBCT)・マインドフルネスベースストレス低減法(MBSR)が慢性疼痛に対して有効性を示しています。
活動の回避によって生じる廃用症候群(筋力低下・関節可動域制限・体力低下)を逆転させるための積極的なリハビリテーションです。グレーデッドエクスポージャー(痛みを恐れる活動への段階的な暴露)、有酸素運動プログラム、作業療法などが含まれます。慢性疼痛の機能回復において薬物療法と同等以上の効果を持つとされています。
最も効果的な治療——多職種連携による統合治療
神経障害性疼痛の診断方法
神経障害性疼痛の診断には、問診・スクリーニングツール・神経学的診察・補助検査を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。「痛みの質」を正確に医師に伝えることが診断の第一歩です。
神経障害性疼痛のスクリーニングツール
神経障害性疼痛は「痛みの質」が特徴的であるため、専用のスクリーニングツールを使うことで客観的に評価できます。日本のペインクリニック・神経内科では以下のツールが主に使われています。
7項目の自覚症状のみで評価できる自記式スクリーニングツールです。「ビリビリ」「電気が走る」「灼熱感」「押すと痛い」「こすると痛い」「寒さで痛い」「突然刺すような痛み」の7項目を点数化します。日本語版が普及しており、ペインクリニック・神経内科で広く使用されています。合計スコアが高いほど神経障害性疼痛の可能性が高くなります。
フランスで開発された10項目の問診票で、医師が施行します。自覚症状4項目(灼熱感・冷感・電撃感・チクチク感)と身体所見6項目(触刺激によるアロディニア・針刺し覚の低下・触刺激による鈍麻・ハイパーアルジェシア等)から構成されます。4点以上で神経障害性疼痛と診断します。日本でも多くのペインクリニックで採用されています。
2010年に日本で独自に開発された7項目の自記式質問票です。合計得点(0〜28点)が9点を超えると神経障害性疼痛の疑いがあると判定します。日本人の言語・文化に合わせた表現で作成されており、プライマリケアでの使用に適しています。
診断の4ステップ
痛みを医師に正確に伝えるコツ
神経障害性疼痛は「どんな質の痛みか」を正確に伝えることが、正しい診断・治療薬選択のために非常に重要です。以下のキーワードを参考に、自分の痛みの特徴を言語化してみましょう。
- 「電気が走るような」「電撃痛」
- 「焼けるような」「灼熱感」
- 「ジンジン」「ビリビリ」「チクチク」
- 「氷のように冷たいのに熱い感じ」
- 「刺すような」「ズキズキ」
- 「服が肌に触れるだけで痛い」
- 「風が吹いただけで激痛になる」
- 「シャワーの水が当たると耐えられない」
- 「軽く撫でただけで強い痛みが出る」
- 「温度の変化で痛みが激しくなる」
- 「夜間に特に強くなる」
- 「安静時にも痛い」
- 「突然・短時間に走る(電撃痛)」
- 「一日中じわじわと続く(持続痛)」
- 「特定の動作・体位で誘発される」
- 「手袋・靴下をはいたような範囲がしびれる」
- 「神経の走行に沿って帯状に痛い」
- 「一側の顔面に突然走る激痛」
- 「脊髄の高さ以下が全部おかしい」
- 「外傷後から徐々に痛みが広がった」
高度な治療——神経刺激療法・インターベンション
薬物療法・心理療法で効果が不十分な難治性の神経障害性疼痛には、脊髄刺激療法(SCS)・神経ブロック・TENSなどの高度なインターベンション治療が有効な場合があります。
神経刺激療法の種類と適応
神経刺激療法は、神経系に電気または磁気刺激を与えて痛みの処理を調整する治療法です。薬物療法で十分な効果が得られない難治性の神経障害性疼痛患者に対して、ペインクリニック・脳神経外科などの専門施設で行われます。
難治性の神経障害性疼痛に対する最も確立された神経刺激療法です。脊髄の硬膜外腔に細い電極リードを留置し、微弱な電気刺激を与えることで痛みの信号を抑制します。日本では30年以上の使用実績があり、健康保険が適用されます。トライアル期間(1〜2週間)で効果を確認してから本植込みを行うため、効果のない方には行いません。2025年には充電頻度を年5回程度に抑えた次世代型SCSシステムも日本で使用開始されました。従来型のパレステジア(しびれ感)型だけでなく、しびれを感じさせないHF10療法・バーストSCSなど新世代の刺激様式も選択できます。
頭部に磁気コイルを当てて脳の特定部位(一次運動野など)を反復磁気刺激することで、中枢性の疼痛処理を調整します。非侵襲的(切開不要)で外来で施行できる点が利点です。脳卒中後中枢性疼痛・線維筋痛症・帯状疱疹後神経痛などへの効果が研究されています。日本ではうつ病に対してTMSが保険適用されており、難治性疼痛への応用も進んでいます。
電極パッドを皮膚に貼り付け、微弱な電気刺激を与える非侵襲的な治療法です。疼痛部位や神経走行上に電極を配置します。ゲートコントロール理論(太い神経線維の刺激が細い痛み線維の伝達を抑制する)および内因性オピオイドの放出が機序とされています。副作用が少なく自宅でも使用できるため、薬物療法との併用で広く利用されています。
局所麻酔薬・ステロイドなどを神経周囲・硬膜外腔・関節腔などに注射することで、痛みの神経伝達を遮断する治療法です。帯状疱疹後神経痛には硬膜外ブロック・星状神経節ブロック・肋間神経ブロック、腰椎神経根障害には硬膜外ブロック・神経根ブロック、CRPSには交感神経ブロックが代表的です。ペインクリニックで日帰りまたは入院で施行されます。効果は一時的なことも多く、繰り返し施行が必要な場合があります。
ペインクリニックでできること
ペインクリニックは「痛みの専門外来」であり、神経障害性疼痛の診断・治療に特化した施設です。麻酔科専門医・ペインクリニック専門医が中心となり、薬物療法・神経ブロック・脊髄刺激療法などを組み合わせた高度な疼痛管理を行います。
栄養・補完療法による自己ケア
適切な栄養摂取と補完療法は、薬物療法と組み合わせることで神経障害性疼痛の管理に役立つ可能性があります。「どんな食事・生活習慣が神経を守るか」を理解することが大切です。
神経障害性疼痛に関連する重要な栄養素
神経の機能維持・修復に関与する栄養素が不足すると、神経障害性疼痛が悪化したり、末梢神経障害が生じる可能性があります。特に糖尿病・アルコール依存症・高齢者ではビタミンB群の欠乏が起きやすいため、食事による補給が重要です。
薬物療法と組み合わせられる補完療法
補完療法は主流の医学治療に「加えて」使用するものであり、「代替」するものではありません。主治医に相談したうえで、薬物療法・心理療法と組み合わせて利用しましょう。
代表的な神経障害性疼痛の疾患
神経障害性疼痛は原因疾患によって症状・治療法が異なります。自分の疾患について正確に理解することが、適切な治療と自己管理の第一歩です。
帯状疱疹後神経痛(PHN)
帯状疱疹(ヘルペスウイルスによる皮膚の水疱・発疹)の後、皮膚が治癒してからも3か月以上痛みが続く状態です。神経障害性疼痛の最も一般的な原因のひとつで、70歳以上では帯状疱疹患者の50〜70%がPHNに移行します。
- 患部(主に胸・腹・顔・腰)の持続的な灼熱痛・電撃痛
- 衣服が触れるだけで激痛(アロディニア)
- 夜間に特に悪化する傾向
- 患部のしびれ・感覚低下
- プレガバリン・ガバペンチン(第一選択)
- 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)
- リドカイン貼付剤(ペンレス)・カプサイシンパッチ
- 硬膜外ブロック・星状神経節ブロック
- オピオイド鎮痛薬(難治例)
糖尿病性末梢神経障害による疼痛
糖尿病の三大合併症のひとつで、高血糖が長期間続くことで末梢神経が障害されます。糖尿病患者の30〜50%に発症し、両足・両手の対称性「手袋・靴下型」の症状が特徴です。血糖コントロールが治療の根幹です。
- 両足裏・足首のジンジン・ビリビリ・灼熱感(夜間悪化)
- 足底のしびれ・感覚低下(やけど・傷に気づかない)
- アロディニア(靴下が触れるだけで痛い)
- 重症例では潰瘍・壊疽に発展する可能性
- 血糖コントロール(HbA1c 7%未満を目標)が最重要
- プレガバリン・デュロキセチン・アミトリプチリン
- α-リポ酸・アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット)
- フットケア(足の毎日の観察・保湿・専用靴)
- 定期的な足病変チェック(糖尿病専門医・フットケア外来)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
外傷や手術の後に発症する難治性の神経障害性疼痛で、組織損傷の程度と比べて不釣り合いに強い痛みと、自律神経・運動機能・皮膚の異常が同一部位に生じます。I型(神経損傷なし)とII型(神経損傷あり)に分類されます。女性に多く、30〜40代に多い傾向があります。
- 灼熱痛・拍動痛(外傷の程度を大幅に超える強さ)
- 皮膚の色・温度変化(赤み・紫変・熱感または冷感)
- 発汗異常・浮腫(むくみ)
- 毛髪・爪の変化(成長異常・脆くなる)
- 動かせない・筋力低下(運動機能障害)
- アロディニア・痛覚過敏
- 早期リハビリテーション(最も重要)
- 鏡療法(ミラーセラピー):健側の動きを鏡で見て患側を動かす錯覚
- プレガバリン・三環系抗うつ薬・ケタミン点滴
- 交感神経ブロック・硬膜外ブロック
- 脊髄刺激療法(SCS):難治例に有効
- ビスホスホネート(骨粗鬆症治療薬):一部に有効
神経障害性疼痛の予防
神経障害性疼痛はすべてを予防できるわけではありませんが、リスクを下げるための有効な対策があります。特に帯状疱疹後神経痛と糖尿病性神経障害は予防可能性が高い疾患です。
神経障害性疼痛リスクを下げる6つの取り組み
以下の取り組みは、神経障害性疼痛の原因疾患の発症予防、または神経障害性疼痛への移行リスクを低減するためのエビデンスに基づいたアプローチです。
神経障害性疼痛の慢性化を防ぐ早期介入
神経障害性疼痛は、急性期(発症後3か月以内)に適切な治療を受けることで、慢性化(難治性疼痛への移行)を防ぐことができます。「そのうち良くなるだろう」と放置せず、早期受診・早期治療が最善策です。
- 帯状疱疹発症後72時間以内の抗ウイルス薬投与(PHN予防の最重要タイミング)
- 骨折・手術後の適切な疼痛管理と早期リハビリテーション
- 「ビリビリ」「電気が走る」という神経障害性疼痛特有の症状が出たら早期受診
- 痛みへの破局化思考・恐怖回避行動が始まったら早期に心理士へ相談
- うつ病・不安障害が合併したら精神科・心療内科に早期受診
- 睡眠障害が生じたら放置せず、睡眠専門外来やペインクリニックで相談
日常生活でできること
神経障害性疼痛の改善には、治療と並行した日常生活の工夫が欠かせません。「痛みを完全になくす」より「痛みと上手に共存する」力を育てることが目標です。
周囲の人にできること
神経障害性疼痛は「見えない痛み」であるため、周囲からの理解が得られにくいことが患者の大きな苦悩です。正しい知識と温かいサポートが回復を後押しします。
してほしいこと・避けてほしいこと
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
慢性的な痛みや心の辛さを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、神経内科・ペインクリニック・心療内科への受診をご検討ください。

社会的サポートと支援制度
神経障害性疼痛は長期にわたる治療が必要なため、医療費・就労・生活面での社会的支援を活用することが大切です。一人で抱え込まず、利用できる制度とサポートを知りましょう。
利用できる社会的支援制度
神経障害性疼痛による生活の制限や経済的困難に対して、様々な社会的支援制度が利用できます。「制度を使うことは恥ずかしいことではない」という認識のもと、積極的に活用しましょう。
精神疾患(うつ病・不安障害など)を合併した神経障害性疼痛患者が精神科・心療内科に通院する場合、医療費の自己負担が原則3割から1割に軽減されます。市区町村の窓口で申請できます。所得に応じてさらに上限額が設定されます。申請には医師の診断書が必要です。神経障害性疼痛に伴ううつ病・不安障害の治療に活用できます。
神経障害性疼痛が重症で日常生活・就労に著しい支障がある場合、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳の申請が可能なことがあります。障害年金(国民年金・厚生年金)は、日常生活や仕事に大きな制限がある場合に受給できる可能性があります。社労士(社会保険労務士)への相談が有効です。
都道府県・政令市に設置された精神保健に関する専門相談機関です。神経障害性疼痛に伴う心理的問題(うつ・不安・引きこもり)について、専門の相談員(精神保健福祉士・臨床心理士)が無料で相談に応じます。本人だけでなく家族も相談できます。電話・対面・オンライン相談が利用可能です。
疼痛のために就労が困難な場合、障害福祉サービスとして就労移行支援(一般就労を目指す訓練)・就労継続支援A型(雇用契約あり)・就労継続支援B型(雇用契約なし)を利用できる場合があります。市区町村の障害福祉課または相談支援事業所に相談してください。
障害者雇用促進法により、事業主には障害のある労働者への「合理的配慮」の提供が義務付けられています(中小企業は努力義務)。神経障害性疼痛に伴う就労困難について、休憩場所の確保・フレックスタイムの利用・テレワーク・業務量調整などを事業主に申し出ることができます。産業医・人事部門との連携も有効です。
慢性疼痛・神経障害性疼痛の患者会やオンラインコミュニティは、同じ経験を持つ仲間とのつながりを提供します。日本慢性疼痛患者支援機構・各疾患の患者会(帯状疱疹後神経痛・線維筋痛症の会など)が全国にあります。「自分だけではない」という感覚が孤立感を減らし、回復の力になります。
職場復帰と就労継続のために
神経障害性疼痛を抱えながら働き続けること、または休職後の職場復帰は、多くの患者が直面する大きな課題です。以下のポイントを参考に、段階的かつ計画的に取り組みましょう。