学習障害(LD)とは?
種類・原因・診断・支援法をわかりやすく解説
学習障害(LD/SLD)は、知的能力は正常なのに、読む・書く・計算するなどの特定の学習に著しい困難がある発達特性です。種類・原因・診断・支援、二次障害の予防、ICT・AI活用、職場での合理的配慮まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
学習障害(LD)とは
知的能力は正常なのに、読む・書く・計算するなどの特定の学習に著しい困難がある発達特性です。全児童の約5〜10%に見られるとされ、決して珍しいものではありません。「怠けている」「努力が足りない」のではなく、脳の情報処理の特性によるものです。
学習障害の概要
学習障害(LD: Learning Disability / SLD: Specific Learning Disorder)とは、全般的な知的能力には問題がないにもかかわらず、読む・書く・計算するといった特定の学習領域に著しい困難を示す状態です。文部科学省の定義では「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すもの」とされています。
学習障害の本質は、脳における情報処理の特性にあります。目や耳から入った情報を脳で処理し、アウトプット(読む・書く・計算する)に変換する過程のどこかに、通常とは異なるパターンがあると考えられています。これは知能や努力の問題ではなく、脳の機能的な特性です。
学習障害は「見えない障害」とも呼ばれます。外見からは障害があるとは分からず、知的能力も正常であるため、「やればできるのにやらない」「怠けている」と誤解されやすいのが大きな問題です。本人は懸命に努力しているにもかかわらず成果が出ない状況は、深刻な自己肯定感の低下や心理的な問題につながることがあります。
重要なのは、学習障害は適切な支援と配慮により、その困難を大幅に軽減できるという点です。ICT機器の活用、学習方法の工夫、合理的配慮の提供など、さまざまな方法が開発されています。早期に発見し、適切な支援につなげることが、その方の人生を大きく左右します。
用語の整理(LD・SLD・ディスレクシア)
学習障害に関連する用語はやや複雑で、文脈によって意味が異なることがあります。ここで整理しておきましょう。
- LD(Learning Disability / Learning Disabilities)日本の教育現場で最も広く使われている用語です。文部科学省の定義は上述の通りで、「聞く」「話す」も含む広い範囲を対象としています。教育的な支援の対象を定義するための用語として使われています。
- SLD(Specific Learning Disorder)DSM-5(米国精神医学会の診断基準)で使われている医学的な診断名で、日本語では「限局性学習症」と訳されます。「読字の障害を伴うもの」「書字表出の障害を伴うもの」「算数の障害を伴うもの」の3つに分類されます。医学的な診断名であるため、教育用語のLDとは範囲がやや異なります。
- ディスレクシア(Dyslexia)読字障害を指す用語で、学習障害の中で最も頻度が高いタイプです。国際ディスレクシア協会(IDA)は「神経生物学的な原因に基づく特異的な学習障害」と定義しています。日本では「発達性読み書き障害」とも呼ばれます。
- ディスグラフィア(Dysgraphia)書字障害を指す用語です。
- ディスカリキュリア(Dyscalculia)算数障害を指す用語です。これらはいずれも特定の学習領域における困難を表す専門用語です。
頻度と疫学
学習障害の頻度は、使用する定義や基準によって異なりますが、一般的に全児童の約5〜10%に見られるとされています。文部科学省の2012年の調査では、「学習面で著しい困難を示す」児童・生徒は約4.5%と報告されています。2022年の調査では、学習面または行動面で著しい困難を示す児童・生徒は約8.8%に上り、以前の調査よりも増加しています(認知度の向上による検出率の上昇と考えられています)。
性別では、男児に多いとされており、男女比は約2〜3:1と報告されています。ただし、女児は行動上の問題が少なく目立ちにくいため、見過ごされている可能性が指摘されています。近年の研究では、実際の性差は従来考えられていたほど大きくないとする見方もあります。
学習障害のタイプ別の頻度は、読字障害が最も多く(LD全体の約70〜80%)、次いで書字障害(約20〜30%)、算数障害(約10〜20%)の順です。複数のタイプを合併していることも多く、読字障害と書字障害の併存は特に多く見られます。
学習障害は世界中のあらゆる言語・文化で報告されていますが、その頻度は言語の特性によって異なります。英語のように文字と音の対応が不規則な言語(深い正書法)では読字障害の頻度が高く、イタリア語のように規則的な言語(浅い正書法)では頻度が低い傾向があります。日本語はひらがな・カタカナ(浅い正書法)と漢字(深い正書法)が混在するため、独特のパターンを示します。
学習障害の種類と症状
読字障害、書字障害、算数障害の3タイプがあり、それぞれ特有の困難パターンを示します。年齢とともに困難の現れ方も変化します。
学習障害の3つのタイプ
学習障害は対象とする学習領域によって、大きく3つのタイプに分類されます。それぞれのタイプで特徴的な困難のパターンが見られます。
タイプ別に見る詳しい症状
各タイプの具体的な症状を見ていきましょう。タブを切り替えると、それぞれのタイプの代表的な症状群が表示されます。
年齢別に見られるサイン
学習障害のサインは年齢とともに変化します。それぞれの段階で見られやすい特徴を確認しましょう。
学習障害の原因と関連要因
学習障害の発現には、複数の要因が複合的に関与しています。タブを切り替えてそれぞれの要因を確認しましょう。
学習障害の中核にあるのは、脳における情報処理の特性です。読字障害では、文字の視覚的処理と音韻(言語の音の単位)処理の連携に困難があることが分かっています。脳機能画像研究により、読字障害のある人では左半球の後頭葉-側頭葉領域(文字認識に関わる領域)や前頭葉のブローカ野(音韻処理に関わる領域)の活動パターンが定型発達者と異なることが示されています。算数障害では頭頂葉内溝(数の処理に関わる領域)の機能的な違いが報告されています。
学習障害には強い遺伝的要因があることが知られています。家族内での発症率は一般人口と比べて4〜8倍高く、一卵性双生児の一致率は約70%と報告されています。読字障害に関連する遺伝子として、DCDC2、KIAA0319、DYX1C1などの候補遺伝子が同定されています。これらの遺伝子は主に胎児期の神経細胞の移動(ニューロンマイグレーション)に関わっており、脳の皮質構造の形成に影響を及ぼすと考えられています。ただし、一つの遺伝子だけで学習障害が決まるわけではなく、複数の遺伝子が複合的に関与しています。
遺伝的な素因に加えて、環境的要因も学習障害の発現に影響します。周産期のリスク因子(低出生体重、早産、妊娠中の飲酒・喫煙・薬物使用など)が学習障害のリスクを高めることが報告されています。また、乳幼児期の言語環境(読み聞かせの頻度、家庭内の言語的な刺激の量)も、読字障害の発現に影響を与える可能性があります。ただし、環境要因だけでは学習障害は説明できず、あくまで遺伝的素因と環境要因の相互作用として理解されています。
学習障害は単独で存在することよりも、他の発達特性と併存していることの方が多いです。ADHD(注意欠如・多動症)との併存率は30〜50%と非常に高く、注意力の問題が学習困難を増幅させることがあります。発達性協調運動障害(DCD)との併存も多く、手先の不器用さが書字障害の背景となることがあります。自閉スペクトラム症(ASD)、言語発達遅滞、吃音なども併存することがあり、包括的なアセスメントが重要です。
よくある誤解と真実
学習障害には根強い誤解があります。一つひとつ、科学的根拠とともに整理します。
診断の流れ
学習障害の診断は、以下のような段階を経て行われます。
主な検査の種類
学習障害の評価では、複数の標準化された心理検査が用いられます。
- WISC-V(ウェクスラー式知能検査第5版)5歳0ヶ月〜16歳11ヶ月を対象とした知能検査です。全検査IQ(FSIQ)に加え、言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリー、処理速度の5つの指標得点が算出されます。指標得点間のばらつき(ディスクレパンシー)が大きいことは、学習障害の可能性を示唆します。たとえば、言語理解は高いのに処理速度が低い場合、理解はできているが読み書きのスピードについていけないという状態を反映していることがあります。
- K-ABC II(カウフマン式知能検査第2版)2歳6ヶ月〜18歳11ヶ月を対象とした検査で、認知処理能力と学力の両方を測定できるのが特徴です。継次処理(順番に処理する力)と同時処理(全体をまとめて処理する力)のバランスを見ることができ、その方に合った学習方法の手がかりを得ることができます。
- STRAW-R(標準読み書きスクリーニング検査改訂版)小学1年生から高校3年生を対象とした、読み書き能力のスクリーニング検査です。ひらがな・カタカナ・漢字の読み書き速度と正確性を標準化されたデータと比較することで、読み書きの困難の程度を客観的に評価できます。
- その他の検査音韻認識検査(音韻処理能力の評価)、RAN(Rapid Automatized Naming:自動化された呼称速度の検査)、Rey複雑図形検査(視覚的記憶・構成能力の評価)なども、必要に応じて実施されます。
入学試験・資格試験での配慮
入学試験や資格試験では、学習障害のある方が実力を発揮できるよう、複数の配慮が用意されています。
試験での配慮を受けるためには、通常、医師の診断書や心理検査の結果、学校での配慮の実績を示す書類などの提出が必要です。申請は通常、試験の数ヶ月前に行う必要があるため、早めに情報を集め、準備を進めることが重要です。高校入試では各都道府県の教育委員会に、大学入学共通テストでは大学入試センターに問い合わせましょう。
具体的な支援方法
学習障害への支援は、ICTの活用、個別指導、学校体制、認知トレーニング、心理サポートの5つの柱で構成されます。
家庭でできる支援の工夫
家庭では、それぞれのタイプに応じた具体的な工夫を取り入れることができます。
- 読字障害への工夫読み聞かせを継続する(年齢に関係なく有効)。オーディオブックや読み上げアプリを活用する。文字を拡大したり、行間を広げたりして読みやすくする。リーディングトラッカー(読んでいる行をハイライトする道具)を使う。DAISY教科書(デジタル音声つき教科書)を申請する。漢字学習には、部首カードやイラスト記憶法を活用する。
- 書字障害への工夫キーボード入力や音声入力を早期に導入する。書くことにこだわらず、タブレットのノートアプリを活用する。マス目の大きいノートや特殊罫線のノートを使う。板書はカメラで撮影して後から確認する。漢字練習は量より質——少ない字数を多感覚で覚える。筆圧の調整が難しい場合は、書きやすい筆記具(太軸の鉛筆、滑りの良いボールペンなど)を試す。
- 算数障害への工夫具体物(おはじき、ブロック、お金など)を使って数の概念を体感する。百マス計算などの反復練習よりも、数の意味の理解を重視する。電卓を早期に使えるようにし、計算の負担を減らして思考力を伸ばす。視覚的な教材(数直線、円グラフ、面積図など)を多用する。日常生活の中で数に触れる機会を増やす(買い物、料理の分量など)。
二次障害を防ぐために
学習障害そのものよりも、誤解や叱責の積み重ねから生じる二次障害が、長期的な人生に大きな影響を与えることがあります。
二次障害とは何か
二次障害とは、学習障害そのものによって直接引き起こされるのではなく、その特性ゆえに生じる繰り返しの失敗体験、周囲からの誤解・叱責・いじめ、自己否定の積み重ねによって、後から生じる心理的・行動的な困難を指します。
学習障害のある方は、「頑張っているのにできない」という状況を長期間にわたって経験します。知能は正常であるため、「なぜ自分だけできないのか」という疑問と苦しみは非常に深刻です。「怠けている」「やる気がない」と誤解されて叱責され続けることで、自己肯定感が著しく低下し、やがて「どうせ自分はダメだ」という学習性無力感に陥ってしまいます。
二次障害として現れやすい状態には以下のものがあります。
- 不登校・登校しぶり学校が「失敗する場所」として認識されるようになると、登校を拒否するようになります。学習障害のある子どものうち、不登校を経験する割合は一般の児童・生徒と比べて著しく高いとされています。
- うつ・抑うつ状態慢性的な失敗体験と自己否定が積み重なることで、抑うつ気分、意欲の低下、睡眠障害、食欲不振などのうつ症状が現れることがあります。小学校高学年以降のお子さんに多く見られます。
- 不安障害テストや発表の場面、読み書きが求められる状況に強い不安や恐怖を感じるようになります。学校恐怖症(スクールフォビア)の背景に学習障害が隠れていることもあります。
- 反抗・攻撃的行動苦しさや怒りが行動として現れ、授業中の問題行動や家庭での反抗的な態度として出てくることがあります。「問題児」とレッテルを貼られてしまい、学習障害への気づきがさらに遅れるという悪循環に陥ることもあります。
- 社会的孤立友人との学習活動(グループ学習、読書感想文の共有など)で困難を経験することで、友人関係に自信を持てなくなり、孤立しやすくなります。
二次障害の早期サイン
以下のようなサインが見られた場合、二次障害が始まっている可能性があります。早期に気づき、適切な対応をとることが重要です。場面別に整理しました。
- 登校を強く拒否するようになった
- 保健室や相談室に頻繁に行くようになった
- 以前は頑張っていた宿題を全くしなくなった
- 「学校なんて意味ない」と言うようになった
- テストや発表の前日に体調不良を訴える
- 授業中に突然泣いたり、怒ったりする
- 「自分はダメだ」「死にたい」などと言うようになった
- 睡眠の乱れ(眠れない、または過度に眠る)
- 食欲の著しい変化(食べない、または食べ過ぎる)
- 以前楽しんでいた趣味や遊びへの興味喪失
- 部屋に閉じこもるようになった
- 自傷行為や暴力的な行動が見られる
- 友人の名前を全く聞かなくなった
- いじめを受けている可能性がある
- 大人(親、教師)への不信感が強くなった
- 「どうせ誰も分かってくれない」という言葉が増えた
- 急に反抗的・攻撃的になった
- SNSへの依存が強まった(現実逃避)
二次障害の予防と対応
二次障害を予防するためには、5つのアプローチを組み合わせて行うことが重要です。
メンタルヘルス支援と相談窓口
二次障害が疑われる場合や、すでに不登校・うつ状態などの問題が生じている場合は、メンタルヘルスの専門家への相談が必要です。
- スクールカウンセラー学校に配置されている心理専門職です。子ども本人だけでなく、保護者の相談にも応じています。学習障害と二次障害の両方について相談でき、学校内の支援体制の調整にも協力してくれます。
- 児童精神科・子どもの心の診療不登校、うつ、不安障害などの二次障害の診断と治療を行います。必要に応じて薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬など)を行うことがあります。また、心理療法(認知行動療法など)を通じて、否定的な思考パターンの修正を図ることもあります。
- 精神保健福祉センター各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神的な健康に関するさまざまな相談を無料で受け付けています。学習障害の二次障害に関する相談や、適切な支援機関への紹介も行っています。学習障害のある本人・家族が、専門的なアドバイスを受けられる重要な窓口です。
- 発達障害者支援センター発達障害のある方とご家族への総合的な支援を行う機関です。学習障害を含む発達障害に関する相談、就労・生活に関する支援、関係機関との連携調整などを行っています。
- 自立支援医療制度(精神通院医療)精神疾患(うつ、不安障害など)による通院医療費の自己負担を軽減する制度です。学習障害の二次障害として精神科・心療内科に通院する場合、この制度を利用することで医療費が原則1割負担になります。申請は市区町村の窓口で行います。学習障害そのものではなく、二次障害としての精神疾患に対して適用されます。
テクノロジーと学習障害支援
ICT機器やAIの進歩により、学習障害のある方が自分のペースで学べる環境が急速に整いつつあります。
ICT活用で変わる学習環境
2020年度から全国の小・中学校で一人1台の学習用端末(GIGAスクール構想)が整備されたことで、学習障害のある児童・生徒がICT機器を使った学習を行いやすい環境が急速に整いました。かつては「特別な配慮」だったタブレットやパソコンの活用が、今では全員が端末を持つ当たり前の環境となり、個別の支援ツールとして活用しやすくなっています。
- 読字障害へのICT活用タブレットに搭載された音声読み上げ機能(iOSの「読み上げ」機能、Androidのアクセシビリティ設定など)を使えば、教科書や教材を耳で聞くことができます。デジタル教科書の拡大表示、色調整、行間調整なども有効です。2024年度からは小中学校で学習者用デジタル教科書の本格的な導入が始まり、音声・拡大・ハイライトなどのアクセシビリティ機能が標準搭載されるようになっています。
- 書字障害へのICT活用キーボード入力、フリック入力、手書き認識(Apple PencilやSペンなど)、音声入力(Google音声入力、iOS音声入力など)など、「書く」以外の方法で文字を入力する手段が豊富になっています。黒板やホワイトボードをカメラで撮影して後から確認することも、板書に苦労する書字障害のある児童・生徒にとって非常に有効な支援です。
- 算数障害へのICT活用計算アプリ、スプレッドシート(Excelなど)、グラフ作成ツールを活用することで、計算そのものの負担を軽減し、数学的な思考力を発揮することに集中できます。視覚的な数の表現(ブロック、数直線、円グラフなど)をインタラクティブに操作できる教育アプリも多数あります。
AIと生成AIの学習支援への活用
近年急速に発展しているAI(人工知能)・生成AI技術は、学習障害のある方の学習支援にも新たな可能性をもたらしています。
- 生成AIによる文章支援ChatGPT、Claude、Geminiなどの生成AIは、音声や簡単なキーワードから文章を作成してくれる機能があります。書字障害のある方が「伝えたいこと」を口頭や箇条書きで伝え、AIに文章を整形してもらうという使い方が可能です。学校での課題や職場でのメール作成の補助として活用することで、書字の困難を大幅に軽減できます。
- 音声認識・変換技術の向上Googleの音声入力、AppleのSiriなど、音声認識技術は年々精度が向上しています。かつては誤認識が多かった日本語の音声入力も、2024年現在では非常に高い精度で認識できるようになっています。読み上げと音声入力を組み合わせることで、「聞いて・話す」スタイルの学習が可能になります。
- AIを活用した個別学習学習者の応答パターンを分析し、最適な問題を提供するアダプティブラーニングシステムが普及しています。学習障害のある方の「できること」と「苦手なこと」を把握し、強みを活かした学習ルートを自動的に構築してくれるシステムも登場しています。
- 自動字幕・翻訳授業動画や教材動画に自動字幕を付けるAI技術(YouTubeの自動字幕、Zoomの字幕機能など)は、聴覚からの情報処理が得意な読字障害のある方にとって非常に有用です。逆に、テキストを音声に変換する(TTS: Text to Speech)技術も精度が向上しており、より自然な日本語読み上げが可能になっています。
高校・大学での学習支援体制
高等教育機関でも、学習障害のある学生への支援体制が充実しつつあります。
- 大学入学後の支援ほとんどの国立大学、および多くの私立大学に「障害学生支援室」または「学生相談室」が設置されており、学習障害のある学生への個別の支援が提供されています。具体的な支援内容としては、試験時間の延長、パソコン持込みでの解答許可、レポートの口頭試問への変更、ノートテイカー(授業のノートを代わりに取る支援者)の派遣などがあります。
- JASSO(日本学生支援機構)の取り組みJASSOは全国の大学における障害学生支援の実態調査を毎年実施しており、学習障害(限局性学習症)のある学生数は年々増加しています。合理的配慮の提供実績のある大学も増えており、大学進学時には各大学の障害学生支援の状況を事前に確認することを勧めます。
- 高校での支援高校入試において、各都道府県の教育委員会に事前申請することで、試験時間の延長、別室受験、問題用紙の拡大などの配慮を受けることができます。通信制高校は、自分のペースで学習できる点、対面での読み書き試験が少ない点などから、学習障害のある生徒にとって選択肢の一つとなっています。サポート校(通信制高校と連携したサポート機関)でも個別対応が可能なところがあります。
- 大学入学共通テストでの配慮学習障害(限局性学習症)と診断されており、高校でも配慮を受けていた場合、大学入学共通テストにおいて以下の配慮を申請できます。試験時間の延長(1.3倍)、別室受験、拡大文字問題冊子の提供、チェック解答(マーク不可の場合)、パソコンによる解答などがあります。申請は受験の数ヶ月前に大学入試センターへ行う必要があります。
学習障害のある方に役立つツール一覧
タイプ別に、実際に使われている代表的なツールを紹介します。
- Google テキスト読み上げ:Androidの標準読み上げエンジン。多くの画面テキストを読み上げ可能
- iOS「読み上げ」機能:iPhoneのアクセシビリティ設定から利用可能。文章選択での読み上げや画面全体の読み上げができる
- DAISY教科書:デジタル音声付き教科書。NPO法人エッジなどから申請できる
- Natural Reader:テキストや文書を音声読み上げするソフト
- Voice Dream Reader:PDFや電子書籍の読み上げアプリ
- Google 音声入力:Androidスマートフォンやパソコンで利用可能な高精度音声入力
- iOS 音声入力:iPhoneのキーボードから利用できる音声入力機能
- Just Right!(ジャストシステム):校正・文書作成支援ソフト
- OneNote(Microsoft):手書き・キーボード・音声を組み合わせたノートアプリ
- GoodNotes / Notability:Apple Pencilでの手書きノートアプリ
- 電卓アプリ:スマートフォンの標準電卓。複雑な計算の補助に
- Microsoft Excel / Google スプレッドシート:表計算ツール。数値処理を自動化
- Photomath:数式をカメラで読み取って解法を説明するアプリ
- Khan Academy:視覚的な説明で数学の概念を学べる無料の教育プラットフォーム(日本語対応)
- 算数・数学の視覚化アプリ:GeoGebra、Desmos(グラフ描画ツール)など
社会・職場での学習障害支援
学習障害のある方が自分らしく働くために利用できる制度と支援を知りましょう。大人になってから困難に気づくケースも少なくありません。
職場での法的権利と合理的配慮
2016年に施行された障害者差別解消法と、2024年の改正による民間事業者への適用義務化により、職場においても合理的配慮の提供が法的に求められるようになりました。
合理的配慮の具体例(職場):
- ✓文書作成・メール作業への音声入力ソフトの使用許可
- ✓誤字脱字のチェックには文書校正ソフトの使用許可
- ✓口頭指示に加えた図・動画・チェックリストでの説明の追加
- ✓計算業務への電卓・スプレッドシートの使用許可
- ✓テレワーク(在宅勤務)環境の整備(自分のペースで作業)
- ✓業務マニュアルの音声化・動画化
- ✓試用期間中の業務量や種類の調整
- ✓作業手順の視覚的なチェックリスト化
- 障害者手帳と就労支援学習障害のある方は、二次障害として精神疾患(うつなど)を発症した場合、精神障害者保健福祉手帳の申請が可能です。手帳を取得することで、障害者雇用枠での就職、各種税制優遇、公共交通機関の割引などのメリットがあります。ただし、学習障害単独では手帳が取得できない場合もあるため、主治医への相談が必要です。
- 自立支援医療制度(精神通院医療)学習障害の二次障害として精神科・心療内科に通院している場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。市区町村の窓口で申請できます。精神保健福祉センターや発達障害者支援センターに相談すれば、申請手続きについての詳しい情報を得られます。
大人の学習障害
学習障害は子どもだけの問題ではありません。大人になってから初めて「もしかして学習障害かもしれない」と気づく方も少なくありません。特に、就職して文書作成や計算業務を求められる場面で困難が顕在化することがあります。
大人の学習障害でよくある困りごと:報告書やメールの作成に異常に時間がかかる。誤字脱字が多い。数値のチェック作業でミスを繰り返す。マニュアルを読んで理解するのが苦手。会議の議事録が取れない。研修資料の読み込みについていけない。
職場での合理的配慮の例:音声入力ソフトの使用許可。文書校正ソフトの導入。口頭での指示に加えて図や動画での説明。計算作業への電卓やツールの使用。試験的な業務配置転換。テレワーク環境の整備(自分のペースで作業できる)。
大人の学習障害の診断は、発達障害の診断ができる精神科・心療内科を受診します。生育歴、学校での成績、過去の困り感などの情報が重要です。診断を受けることで、障害者手帳の取得や障害者雇用枠の利用、就労移行支援事業所の利用などの選択肢が広がります。
一方で、長年にわたり自分なりの対処法を編み出して社会適応している方も多く、必ずしも診断が必要なわけではありません。「困っている」と感じたときに、専門家に相談する門戸は常に開かれています。
学習障害のある方の仕事選びのコツ
学習障害のある方が自分らしく働くためには、自分の特性を理解し、それを活かせる仕事・環境を選ぶことが重要です。
得意を活かせる職種の例:
仕事環境選びのポイント:文書作成・報告書作成の量が少ない職場、口頭コミュニケーションが中心の職場、マニュアルが視覚的・動画的に整備されている職場、失敗を受け入れてくれる社風の職場などを選ぶことが、長く働き続けるためのポイントです。就職活動の際には、オープン就労(障害を開示して就職)とクローズ就労(障害を開示せず就職)の両方の選択肢を検討し、自分にとって最適な方を選ぶことができます。
利用できる福祉サービスと支援機関
就労を支える福祉サービスは複数あり、それぞれ役割が異なります。
- 就労移行支援一般就労を目指す障害のある方(18〜65歳)が利用できる福祉サービスです。就職に必要なスキルのトレーニング、職場実習、就職活動の支援、就職後の定着支援などを行います。原則2年間、利用者負担は所得に応じた額となります。学習障害の診断があり、就職に困難を抱えている方が対象となります。
- ジョブコーチ(職場適応援助者)就職した後の職場定着を支援する専門職です。障害のある労働者と職場の双方に対して、職場での課題解決のための支援を行います。学習障害のある方には、業務の読み書き部分の工夫(ICT活用方法の提案)、上司への特性説明のサポート、業務手順の視覚化支援などを行います。
- 障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ)就業と生活の両面にわたる支援を行う機関です。就職活動、職場での悩み、収入・生活管理など、就労に関連するさまざまな相談に対応しています。都道府県ごとに複数設置されており、無料で利用できます。
- 精神保健福祉センターへの相談学習障害のある成人が職場での困難、生活上の問題、二次障害(うつ、不安障害など)に直面した場合、精神保健福祉センターへの相談が窓口となります。センターでは相談に対応するとともに、適切な支援機関(就労移行支援、医療機関など)への紹介も行います。
- 自立支援医療制度(精神通院医療)の活用精神科・心療内科への継続的な通院が必要な場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで医療費が軽減されます。制度の詳細については、居住地の市区町村窓口または精神保健福祉センターにお問い合わせください。
学習障害があっても活躍している人たち
学習障害(特にディスレクシア)は、古今東西、多くの著名人が抱えていた特性です。彼らの経験は、「学習障害があっても、自分らしい方法で活躍できる」という大きな希望を示しています。
歴史上の偉人:発明王トーマス・エジソンは、学校で「頭が悪い」と言われ退学させられましたが、視覚的・実験的な思考で数多くの発明を成し遂げました。アルバート・アインシュタインも読み書きに困難があったとされ、数学・理科のみに特化した思考で相対性理論を打ち立てました。レオナルド・ダ・ヴィンチは鏡文字を書く習慣があり、ディスレクシアだったと言われています。
現代の著名人:映画監督スティーブン・スピルバーグは成人後にディスレクシアと診断され、「撮影現場では脚本を読む代わりに、すべてのシーンを頭の中で映像として考えていた」と語っています。ファッションデザイナーのカール・ラガーフェルドや起業家のリチャード・ブランソン(ヴァージングループ創業者)もディスレクシアを公言しています。日本でも、エジソンの「才能は9割の汗と1割のひらめき」という言葉を体現するように、さまざまな分野で活躍する学習障害当事者がいます。
重要なのは、これらの人々が「学習障害を克服した」のではなく、「自分の特性を理解し、得意な方法で思考・表現することを選んだ」という点です。読み書きが苦手でも、視覚的・空間的な思考で突出した能力を発揮する。計算が苦手でも、直感的なビジネス判断で成功する——学習障害のある方は、しばしば「標準的な学習方法」では評価されない、独自の強みを持っています。
ご家族・周囲の方へ
正しい理解と適切な支援で、学習障害のある方の可能性を最大限に引き出しましょう。日常生活の工夫から学校・支援機関との連携まで、できることはたくさんあります。
日常生活でできる工夫
学習障害は「学習の障害」であって「人生の障害」ではありません。工夫と配慮で可能性は広がります。
ご家族の理解と支援
家族の関わり方は、学習障害のあるお子さんの自己肯定感と将来に大きな影響を与えます。
学校との効果的な連携
学習障害のある児童・生徒への支援を成功させるためには、家庭と学校の連携が不可欠です。
- 特別支援教育コーディネーターとの連携各学校に配置されている特別支援教育コーディネーターは、校内の支援体制の中心的な役割を担っています。まずはコーディネーターに相談し、お子さんの状況と必要な配慮について話し合いましょう。
- 個別の教育支援計画(IEP)の活用合理的配慮の内容、具体的な支援方法、評価の方法などを書面でまとめた計画を作成してもらいましょう。計画は定期的に見直し、お子さんの成長に合わせて更新していきます。進級・進学時の引き継ぎにも活用できます。
- 通級指導教室の利用通常学級に在籍しながら、週に数時間、個別の指導を受けることができる「通級による指導」は、学習障害のある児童・生徒にとって非常に有効な支援の場です。読み書きの個別指導、学習方法の指導、自己理解の促進などが行われます。
- テスト・評価方法の工夫テストの解答時間の延長、問題用紙の拡大、口頭試問への変更、評価基準の調整など、その方の学力を正しく評価するための工夫を依頼しましょう。「テストで測れない力」を適切に評価してもらうことも重要です。
相談窓口と支援資源
学習障害について相談できる公的・民間の窓口は複数あります。状況に応じて使い分けましょう。
- 発達障害者支援センター各都道府県・政令指定都市に設置されている公的な相談機関です。学習障害を含む発達障害に関する相談、情報提供、助言を行っています。相談は無料です。
- 教育相談センター(教育支援センター)各自治体に設置されている教育に関する相談機関です。心理検査の実施や、学校への支援のアドバイスなどを行っています。
- NPO法人EDGE(エッジ)ディスレクシアの啓発と支援を行っている団体です。音声教材BEAM(ビーム)の提供、ディスレクシアに関する研修、当事者・保護者のネットワーキングなどの活動を行っています。
- DAISY教科書デジタル音声付き教科書で、読字障害のある児童・生徒が音声を聞きながら教科書を読むことができます。NPO法人エッジや日本障害者リハビリテーション協会などから申請・入手できます。
- 特別支援教育に関する情報文部科学省の「特別支援教育」のページや、国立特別支援教育総合研究所(NISE)のウェブサイトに、学習障害に関する最新の情報や教材が公開されています。
「頑張っているのにできない」と
悩むあなたや、ご家族へ
学習障害は「怠け」ではなく、脳の情報処理の特性です。一人で抱え込まず、ココトモに気持ちを聞かせてください。あなたに合った学び方が、必ずあります。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
