認知症とは?
症状・種類・原因・治療・家族の関わり方をわかりやすく解説
日本に約700万人、世界に5500万人——認知症は誰にとっても身近な問題です。アルツハイマー型・血管性・レビー小体型などの種類、中核症状とBPSD、診断・治療・予防、家族の接し方や公的支援制度まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
認知症とは
認知症とは、脳の神経細胞が傷害・消失することで認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態です。「物忘れ」だけでなく、見当識・言語・判断力・実行機能など様々な機能に影響します。
認知症の定義——「普通の老化」を超えた認知機能の低下
認知症(Dementia)とは、脳の神経細胞が何らかの原因で傷害・消失することにより、記憶・判断力・言語・実行機能などの認知機能が以前より著しく低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態の総称です。特定の1つの疾患ではなく、様々な原因疾患(アルツハイマー病・脳血管疾患・レビー小体病など)による症候群として理解されます。
WHO(世界保健機関)によると、認知症の診断には①記憶など複数の認知領域の機能低下、②それが以前の水準から低下していること、③日常生活への支障があること、の3点が必要です。「もの忘れ」だけでなく、時間・場所の見当識や判断力・実行機能の低下が組み合わさることで「認知症」と診断されます。
加齢による物忘れと認知症の違い
「年をとると物忘れが多くなる」のは正常な加齢現象ですが、認知症による記憶障害とは質的に異なります。以下の違いを知ることで、受診の判断に役立てることができます。
MCIとは——認知症の「一歩手前」の段階
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)とは、正常な加齢による物忘れと認知症の中間に位置する状態です。記憶力や判断力などの認知機能が年齢相応の水準よりも低下しているものの、日常生活には大きな支障がない段階を指します。MCIは認知症の「前駆段階」として注目されており、適切な介入によって認知症への移行を遅らせることができると考えられています。
MCIの診断基準(Petersenの基準)
- 1. 本人または家族による認知機能の低下の訴えがある本人の自覚・周囲の気づきが重要
- 2. 客観的な認知機能テストで低下が確認できるMMSE・HDS-R・MoCA等で確認
- 3. 日常生活動作(ADL)は基本的に自立している日常生活に大きな支障はない
- 4. 認知症の診断基準は満たさない認知症未満の状態
・HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
・MoCA-J(モントリオール認知評価 日本語版)
・頭部MRI・CT(脳萎縮・血管病変の確認)
・SPECT(脳血流量の評価)
・血液検査(甲状腺機能・ビタミン欠乏の除外)
・約30〜40%は正常範囲に回復
・残りは長期間MCIにとどまる
・運動・認知トレーニングで移行リスクを低減
・早期介入が最も効果的
認知症の早期発見のために——受診のサイン
認知症は早期に発見・介入するほど、症状の進行を遅らせ、より長く自分らしい生活を維持できます。以下のサインが本人や家族に見られたら、早めに医療機関に相談することをお勧めします。
- ⚠同じことを何度も聞く・話す
- ⚠最近の出来事を全く覚えていない
- ⚠日付・曜日が頻繁にわからなくなる
- ⚠慣れた道や場所で迷う
- ⚠言葉が出てこない・「あれ」「それ」が増える
- ⚠以前できた料理・金銭管理ができなくなった
- ⚠理由なく怒りやすくなった・性格が変わった
- ⚠趣味や人付き合いへの意欲がなくなった
認知症の症状
認知症の症状は「中核症状」(認知機能の低下)と「BPSD(行動・心理症状)」に大別されます。BPSDは適切なケアによって軽減できる場合があります。
中核症状は、脳の神経細胞が直接傷害されることで生じる認知機能の低下です。すべての認知症で見られ、疾患の進行とともに程度が重くなります。
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)は、認知症の方に見られる様々な行動上・心理上の問題です。BPSDは不安・恐怖・孤独感・身体的不快(痛み・空腹など)が引き金になることが多く、原因に対応したケアで改善できる場合があります。
認知症の種類別の割合と特徴
日本の認知症患者の約60〜70%がアルツハイマー型認知症ですが、他にも血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症など様々な種類があります。
若年性認知症——65歳未満で発症する認知症
若年性認知症とは、65歳未満で発症した認知症の総称です。日本では約3.8万人(人口10万人あたり約50人)が罹患していると推計されており、就労・経済・家族への影響が大きいという特徴があります。
・血管性認知症 約17.1%
・前頭側頭型認知症 約9.4%
・レビー小体型 約4.5%
・その他(外傷・アルコール等)
・住宅ローン・子育て費用の問題
・配偶者・家族への精神的負担
・高齢者向けサービスとのミスマッチ
・社会的孤立・疎外感
若年性認知症で利用できる制度
- 精神障害者保健福祉手帳医療費割引・税制優遇・障害者雇用枠での就労継続が可能に
- 障害年金就労が困難になった場合の所得補償(1〜2級)
- 自立支援医療(精神通院医療)外来医療費の自己負担が原則1割に軽減
- 介護保険(40歳以上)若年性認知症は特定疾病として40歳から介護保険が利用可能
- 若年性認知症コールセンター専門の相談窓口(0800-100-2707、月〜土 10〜15時)
認知症の原因とリスク要因
認知症の発症リスクは、変えられない要因(年齢・遺伝)と、生活習慣で変えられる要因の両方があります。予防可能なリスクへの対処が重要です。
認知症のリスク要因——変えられないものと変えられるもの
認知症の最大のリスク要因は「加齢」ですが、生活習慣や環境要因によって発症リスクを変えられる部分も大きいことが研究で示されています。以下は主要リスク要因の影響度のイメージです。
認知症予防のための生活習慣
認知症を「完全に予防できる」という保証はありませんが、以下の生活習慣が発症リスクを低下させることが科学的に示されています。
認知症の治療とケア
認知症には現時点で完全に「治す」方法はありませんが、薬物療法と非薬物的ケアを組み合わせることで症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することが可能です。
認知症の診断——どのように診断されるのか
認知症の診断は、単一の検査で確定できるものではなく、複数の評価を組み合わせて行われます。かかりつけ医や「もの忘れ外来」では、問診・認知機能検査・画像検査などを通じて包括的に評価します。
認知症の薬物療法
現在の認知症薬は症状の進行を遅らせる「対症療法」が主体です。2023年以降、アミロイドβを標的とした「病態修飾薬」も登場し、早期段階での根本的な治療への期待が高まっています。
非薬物的ケアアプローチ
薬物療法だけでなく、その人らしさを尊重したケアや環境調整・活動療法などの非薬物的アプローチが、認知症の方の生活の質を大きく左右します。
家族・介護者の方へ
認知症の介護は「愛情だけ」ではできません。正しい知識・適切なサービスの活用・介護者自身のケアが、長期的な介護を可能にします。
認知症の方への接し方——6つのポイント
利用できる主な支援サービス
認知症の介護を一人で抱え込まないために、地域には様々な公的・民間の支援サービスがあります。早めの活用が介護者・本人の双方の負担軽減につながります。
- 居宅介護支援(ケアマネ)介護全体のコーディネート
- デイサービス・デイケア日中の通所介護・医療的ケア
- ショートステイ短期間の入所(介護者のレスパイト)
- 訪問介護・訪問看護自宅での介護・医療サービス
- 認知症カフェ当事者・家族・専門家の交流の場
- 認知症家族の会家族同士の情報交換・相談
- 成年後見制度財産管理・意思決定支援の法的仕組み
- 地域包括支援センター介護・福祉・医療の総合相談窓口
認知症で使える公的支援制度——費用・手続きのガイド
認知症と診断された後は、様々な公的支援制度を活用することで、医療費・介護費の負担を軽減し、より長く自立した生活を続けることができます。制度は複数あり、組み合わせて利用することが重要です。
認知症施策推進大綱と認知症基本法——社会全体での取り組み
日本政府は2019年に「認知症施策推進大綱」を策定し、「共生」と「予防」を両輪とした認知症施策を推進してきました。さらに2023年に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立・施行され、認知症の人の権利擁護と社会参加を法律で保障する枠組みが整備されました。
認知症に関するよくある質問
認知症についてよく寄せられる疑問に、専門的な観点からお答えします。
A. 一部の認知症には遺伝的要因があります。アルツハイマー型認知症では「APOE ε4遺伝子」を持つ方はリスクが高まりますが、これはあくまでリスク因子であり、必ず発症するわけではありません。家族性アルツハイマー病(若年発症・常染色体優性遺伝)は全体の1〜5%と少数派です。一方、血管性認知症や前頭側頭型認知症の一部にも遺伝性のものがあります。「家族に認知症がいる=自分も必ず発症する」ということはなく、生活習慣の改善がリスク低減に有効です。
A. 道路交通法により、認知症と診断された場合は運転免許の取消し・停止の対象となります。75歳以上の免許更新時には認知機能検査が義務付けられており、「認知症のおそれがある」と判定された場合は医師の診断が求められます。認知症と診断された場合は、安全のため自主的に運転を控えることが強く推奨されます。地域によっては「運転免許自主返納者への支援(バス・タクシー割引など)」もあります。
A. 軽度の認知症・MCIであれば、業務内容によっては就労継続が可能な場合があります。若年性認知症の場合は精神障害者保健福祉手帳を取得することで障害者雇用枠での就労継続ができることがあります。職場への相談・業務内容の調整・短時間勤務への切り替えなどを早めに検討することが重要です。就労継続に関する相談は、地域障害者職業センターや若年性認知症コールセンターでも対応しています。
A. コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)やメマンチンは、認知症の症状進行を遅らせる効果があるため、基本的には継続的な服用が推奨されます。「飲んでいても改善しない」と感じることがありますが、薬を止めると急激に悪化することがあるため、自己判断での中止は避けてください。服薬の継続・変更・中止については必ず主治医に相談してください。
A. 認知症ケアにおいて「治療的なウソ(セラピューティック・ライ)」が議論されています。例えば「亡くなった夫はどこ?」という問いに「お父さんは外出中よ」と答えるケースです。現実を突きつけて混乱・悲しみを増幅させるより、その人が感じている感情(安心・つながり)に応えることが優先される場合があります。ただしすべての場面でウソが適切なわけではなく、ケアの倫理的判断として専門家とも相談することが重要です。
A. 特定の「脳トレアプリ」が認知症予防に直接効果があるという強いエビデンスは現時点では限定的です。一方で、読書・楽器演奏・語学学習・社会参加など「実生活に根ざした多様な知的活動」が認知予備能を高め、認知症リスクを低下させることは研究で示されています。最も効果があるとされているのは「有酸素運動」であり、脳トレ単独より、運動・社会的活動・食事改善を組み合わせた多因子介入が有効とされています。
A. 認知症の診断を拒否することは珍しくなく、「自分がそんな病気のわけがない」「病院に行きたくない」という気持ちは理解できます。無理やり連れて行くのではなく、かかりつけ医への「物忘れ相談」や「健康診断」という名目で受診を促す方法が有効な場合があります。認知症疾患医療センターや地域包括支援センター、精神保健福祉センターでは「家族からの相談」にも対応していますので、まず家族だけで相談することも可能です。
A. 現時点では、認知症(特にアルツハイマー型)の進行を完全に止める治療法はありません。ただし、2023年以降に承認されたレカネマブ(レケンビ)などの抗アミロイド薬は病態そのものへの作用を持ち、早期段階での進行抑制に一定の効果が示されています。既存の薬(コリンエステラーゼ阻害薬・メマンチン)も進行を遅らせる効果があります。また、生活習慣の改善・適切なケア・合併症の管理によって、QOL(生活の質)を高水準で維持することは十分可能です。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
認知症の介護や、ご家族の物忘れへの不安——つらい気持ちを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科・もの忘れ外来への受診をご検討ください。認知症と診断された場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで通院医療費の自己負担が軽減される場合があります。お住まいの市区町村の障害福祉課または精神保健福祉センターにご相談ください。
