自傷行為(非自殺的自傷・NSSI)とは?
原因・症状・対処法・治療法を徹底解説
自傷行為(NSSI)は、死ぬためではなく「耐えがたい感情をなんとかしたい」ために行われる対処行動です。種類・心理的機能・原因・DSM-5基準・治療法・自傷衝動への対処・周囲の関わり方まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
自傷行為とは
自傷行為(非自殺的自傷/NSSI)とは、自殺する意図を持たずに自分の体を意図的に傷つける行為です。背景には言葉にできない感情的な苦痛があり、感情調節の困難さやトラウマなど複雑な要因が絡みます。
自傷行為の定義
自傷行為とは、自殺する意図を持たずに、自分の体を意図的に傷つける行為を指します。医学的には「非自殺的自傷」(Non-Suicidal Self-Injury: NSSI)と呼ばれ、2013年のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で「今後の研究のための病態」として独立した診断カテゴリーに位置づけられました。
自傷行為の本質は「死にたい」ではなく、「この耐えがたい感情的苦痛をなんとかしたい」というものです。多くの場合、自傷行為は感情を調節するための対処メカニズム——つまり、言葉にできないほどの心の痛みを処理するための、不適応的ではあるものの本人にとっては「機能している」行動です。
自傷行為は「弱さ」や「甘え」の表れではありません。研究によれば、自傷行為を行う人の約90%は行為を他者から隠しており、「注意を引くため」という一般的な誤解とは大きく異なります。自傷行為は、感情調節の困難さ、トラウマ、精神疾患など、複雑な要因が絡み合って生じる深刻な問題であり、適切な理解と専門的な治療を必要としています。
自傷行為の種類
自傷行為には様々な形態があります。最も広く知られているのは「リストカット」ですが、それ以外にも多くの方法が存在します。気になる種類を選択して詳細を確認してください。
最も頻度の高い自傷行為の形態です。刃物やカッターナイフ、カミソリ、ハサミなどの鋭利な道具を使い、主に前腕の内側、太もも、腹部などの衣服で隠しやすい部位の皮膚を切ります。傷の深さは浅い表皮の傷から、縫合が必要な深い切傷まで様々です。切った瞬間に感じる痛みと、血が流れるのを見ることで、感情的な苦痛が一時的に軽減されるという報告が多く見られます。
タバコの火、ライター、熱した金属、マッチ、ヘアアイロンなどを使って皮膚を焼く行為です。カッティングに次いで多い自傷形態であり、腕や手の甲に行われることが多いです。火傷の痕は切り傷よりも目立ちやすく、治癒に時間がかかるため、長期的な身体的影響が大きくなります。
自分自身を拳で殴る、壁や机に頭や体をぶつける、物で自分を叩くなどの行為です。外傷が目に見えにくいことが多く、周囲から気づかれにくい特徴があります。青あざや腫れとして現れることがありますが、「転んだ」「ぶつけた」と説明されることが多いです。
爪や鋭利なもので皮膚を強く引っ掻く行為です。出血するまで繰り返すこともあります。掻き傷は「猫に引っかかれた」「虫刺されを掻いた」などと説明されやすく、自傷行為として認識されにくい形態です。
自分の唇、舌、指、腕などを強く噛む行為です。口腔内への噛む行為は外見からは分からず、最も隠しやすい自傷形態の一つです。歯型の痕や唇の傷、手指の内出血として現れることがあります。
髪の毛を引き抜く(抜毛症)、皮膚をむしる・つまむ(皮膚むしり症)は、自傷行為と分類されることがあります。これらは身体集中反復行動としてDSM-5に独立した診断カテゴリーが存在しますが、感情調節の困難さが背景にある場合は自傷行為の一形態として扱われることがあります。
なぜ自分を傷つけるのか——6つの心理的機能
「なぜ自分を傷つけるのか」——この問いへの答えは一つではありません。自傷行為にはいくつかの心理的「機能」があり、それぞれの人によって主要な機能が異なります。理解することが、適切な支援の第一歩です。
どのくらいの人が経験しているのか
自傷行為は決して珍しいものではありません。世界的な疫学データを見ると、思春期・青年期の自傷行為の生涯経験率は約17〜18%(約5〜6人に1人)に達します。成人では約5〜6%と報告されています。日本国内のデータは限られていますが、中学生を対象とした調査では約10〜15%が「自傷経験あり」と回答しています。
生涯経験率
年齢
精神疾患を併存
性差については、以前は女性に多いとされていましたが、近年の研究では性差は以前考えられていたほど大きくないことが明らかになっています。ただし、自傷の方法には性差があり、女性はカッティングが多く、男性は殴る・ぶつけるなどの方法が多い傾向があります。男性の自傷は「怒りの爆発」として認識されることが多く、「自傷行為」として適切に評価されにくいという問題があります。
発症のピークは12〜15歳であり、多くの場合20代半ばまでに自然に軽減します。しかし、一部の人は成人後も自傷行為を続けており、成人の自傷行為は思春期のそれよりも重症で慢性化しやすい傾向があります。また、自傷行為を経験した人の約80%が少なくとも一つの精神疾患を併存しており、特にうつ病、不安障害、PTSD、境界性パーソナリティ障害、ADHD、摂食障害との併存率が高いことが知られています。
自傷行為の症状とサイン
自傷行為を行う人は傷を隠す傾向が強いですが、身体面・行動面のサインから気づくことができます。自殺リスクの高いサインも併せて確認してください。
気づくきっかけになる身体的サイン
自傷行為を行う人は傷を隠す傾向が強いですが、以下のような身体的なサインに注意を払うことで気づける場合があります。
- ✓前腕の内側、太もも、腹部など、衣服で隠せる部位の切り傷や擦り傷が複数ある
- ✓傷の深さや新旧が混在している(治りかけの傷と新しい傷が同時に存在する)
- ✓火傷の痕(丸い痕はタバコによるものの可能性がある)
- ✓説明がつかない青あざや腫れが繰り返し出現する
- ✓真夏でも長袖を着ている、傷のある部位を常にバンドエイドやリストバンドで覆っている
- ✓手首や前腕に平行な直線状の傷痕がある
- ✓爪や指先の損傷、皮膚の赤みや荒れ
- ✓頭髪の部分的な脱毛(抜毛症の場合)
- ✓口内炎や唇の傷が繰り返し見られる
日常で見られる行動面の変化
身体的なサインに加えて、以下のような行動面の変化も自傷行為の可能性を示唆します。
- ✓急に肌の露出を避けるようになった(長袖、長ズボン、リストバンドなど)
- ✓体育の着替えやプールを避ける
- ✓一人でいる時間が増えた(特にトイレや自室にこもる時間)
- ✓鋭利な物(カッター、カミソリ、ハサミなど)を自室に隠し持っている
- ✓血のついた衣類やティッシュが見つかる
- ✓傷の説明が不自然(「猫に引っかかれた」「ぶつけた」など)
- ✓感情の波が激しくなった、急にイライラしたり泣いたりする
- ✓成績の低下や仕事のパフォーマンスの低下
- ✓友人関係の変化(以前の友人と疎遠になる、新しいグループに入る)
- ✓自傷や自殺に関するインターネット検索履歴がある
- ✓対人関係のトラブル後やストレスフルな出来事の後に一人になりたがる
見逃してはいけない、自殺リスクのサイン
自傷行為そのものは自殺企図ではありませんが、自殺リスクの評価は常に必要です。以下のサインが見られる場合は、直ちに専門的な評価を受けてください。
自傷行為の原因
自傷行為は単一の原因で説明できるものではなく、生物学的・心理学的・環境的な要因が複雑に絡み合って生じます。それぞれの観点から要因を見ていきましょう。
3つの観点から見る自傷の原因
自傷行為の原因は単一ではありません。ここでは生物学的・心理学的・環境の3つの観点から見ていきます。タブを切り替えて、それぞれの要因を確認してください。
自傷行為の背景には、脳の神経伝達物質やホルモン系の機能異常が関与しています。
自傷行為に寄与する心理学的要因は多岐にわたります。
個人の内的要因に加え、社会的・環境的な要因も自傷行為のリスクに影響します。
- 内因性オピオイド系の異常自傷行為の直後に内因性オピオイド(エンドルフィンなど)が放出されることが研究で示されています。このオピオイド放出により、痛み刺激が一時的な安堵感や快感に変わります。自傷行為を繰り返す人では、ベースラインのエンドルフィン濃度が低い可能性があり、自傷行為によってこの不足を「補充」しているという仮説があります。これがオピオイド受容体拮抗薬(ナルトレキソン)が一部の症例で有効である理由の一つです。
- HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)の調節異常慢性的なストレスやトラウマ体験によってHPA軸の機能が乱れると、ストレス反応が適切に調節できなくなります。この調節異常により、軽度のストレスでも過剰な苦痛を感じやすくなり、その苦痛を軽減するために自傷行為に頼る傾向が強まります。自傷後のコルチゾール低下が確認されており、自傷がHPA軸を一時的に「リセット」する機能を持っている可能性が示唆されています。
- セロトニン系の機能低下セロトニンの機能低下は衝動性の亢進と関連しています。自傷行為を繰り返す人ではセロトニン系の機能が低下していることが複数の研究で示されています。セロトニンの低下は攻撃性や衝動性を高め、衝動のコントロールを困難にするため、自傷衝動の発生頻度と強度の両方に影響を与えます。
- 痛覚感受性の変化繰り返しの自傷行為により、痛みに対する感受性が変化する(痛みを感じにくくなる)ことが報告されています。自傷経験者では痛み閾値が上昇していることが実験的に確認されており、これにより自傷のエスカレーション(より深い傷、より頻繁な自傷)が起こりやすくなります。この痛覚の変化は、自殺リスクの上昇とも関連するため、重要な臨床的所見です。
- 感情調節の困難さ自傷行為の最も一貫した心理学的危険因子は、感情調節の困難さです。ネガティブな感情を経験した際に、それを適切に認識し、処理し、表現するスキルが不足している場合、自傷が「最も確実で即効性のある対処法」として選択されるようになります。特に、感情の同定困難(アレキシサイミア——自分の感情に名前をつけられない状態)を抱える人は自傷リスクが高いです。
- 幼少期のトラウマ・逆境体験身体的虐待、性的虐待、精神的虐待、ネグレクト、いじめ、家族内の暴力の目撃など、幼少期の逆境体験(ACE: Adverse Childhood Experiences)は自傷行為の最も強力な予測因子の一つです。メタ分析によれば、性的虐待経験者の自傷リスクは約3倍に上昇します。トラウマは安全な愛着形成を妨げ、感情調節スキルの発達を阻害し、「自分は傷つけられて当然の存在だ」という否定的な自己信念を形成します。
- 自己批判と低い自尊心「自分は価値がない」「自分は悪い人間だ」という強い自己否定的な信念を持つ人は、自傷行為のリスクが高くなります。自己罰として自傷行為を行うパターンは特に根深く、幼少期に「お前が悪い」「お前のせいだ」と繰り返し言われた経験がある人に多く見られます。
- 完璧主義とコントロール欲求高い基準を自分に課し、それに達しないことへの強い苦痛を感じる完璧主義者は、自傷リスクが高いことが報告されています。自傷行為は、コントロールできない状況の中で「唯一コントロールできること」として機能する場合があります。学業や仕事で強いプレッシャーを受けている人に多いパターンです。
- 対人関係の困難さ安定した対人関係を構築・維持することが困難な場合、孤立感や見捨てられ不安が自傷のトリガーとなります。特に境界性パーソナリティ障害の特徴を持つ人では、「見捨てられるのではないか」という恐怖が自傷衝動を引き起こすことが多いです。また、言いたいことが言えない、自分の気持ちを伝えられないといった対人コミュニケーションの困難さも背景要因となります。
- 社会的な模倣(伝染)効果自傷行為には社会的な伝染効果があることが研究で示されています。友人や仲間が自傷行為をしている場合、自傷行為のリスクが2〜3倍に増加します。特に思春期の若者はピア(仲間)の影響を受けやすく、学校のクラスで一人が自傷行為を始めると周囲に広がる「クラスター現象」が報告されています。
- インターネットとSNSの影響インターネット上の自傷に関するコンテンツへの曝露は、自傷行為の発生・維持と関連しています。自傷の画像や体験談の共有、「自傷仲間」の形成、自傷方法の詳細な情報などが、脆弱性を持つ人の自傷リスクを高める可能性があります。一方で、オンラインの回復コミュニティやピアサポートが回復を促進するケースもあり、インターネットの影響は一面的ではありません。
- 学校・職場環境のストレスいじめ、学業のプレッシャー、職場でのハラスメントやパワハラ、過剰なノルマなど、学校や職場のストレスは自傷行為の重要なトリガーです。特にいじめは自傷リスクを約3倍に高めることが大規模調査で示されています。「助けを求めても状況が変わらない」という無力感が、自傷行為への移行を促進します。
- 家庭環境の問題家庭内の不和、親の精神疾患や依存症、養育者の感情的な無反応性(「泣くな」「我慢しろ」という態度)、両親の離婚、経済的困窮などの家庭環境要因が自傷リスクを高めます。特に「感情を表現してはいけない」という家庭内のメッセージは、感情の健全な処理を妨げ、自傷行為という代替的な表出方法を選択させる原因となります。
心理学的要因——5つの危険因子
- 感情調節の困難さ自傷行為の最も一貫した心理学的危険因子は、感情調節の困難さです。ネガティブな感情を経験した際に、それを適切に認識し、処理し、表現するスキルが不足している場合、自傷が「最も確実で即効性のある対処法」として選択されるようになります。特に、感情の同定困難(アレキシサイミア——自分の感情に名前をつけられない状態)を抱える人は自傷リスクが高いです。
- 幼少期のトラウマ・逆境体験身体的虐待、性的虐待、精神的虐待、ネグレクト、いじめ、家族内の暴力の目撃など、幼少期の逆境体験(ACE: Adverse Childhood Experiences)は自傷行為の最も強力な予測因子の一つです。メタ分析によれば、性的虐待経験者の自傷リスクは約3倍に上昇します。トラウマは安全な愛着形成を妨げ、感情調節スキルの発達を阻害し、「自分は傷つけられて当然の存在だ」という否定的な自己信念を形成します。
- 自己批判と低い自尊心「自分は価値がない」「自分は悪い人間だ」という強い自己否定的な信念を持つ人は、自傷行為のリスクが高くなります。自己罰として自傷行為を行うパターンは特に根深く、幼少期に「お前が悪い」「お前のせいだ」と繰り返し言われた経験がある人に多く見られます。
- 完璧主義とコントロール欲求高い基準を自分に課し、それに達しないことへの強い苦痛を感じる完璧主義者は、自傷リスクが高いことが報告されています。自傷行為は、コントロールできない状況の中で「唯一コントロールできること」として機能する場合があります。学業や仕事で強いプレッシャーを受けている人に多いパターンです。
- 対人関係の困難さ安定した対人関係を構築・維持することが困難な場合、孤立感や見捨てられ不安が自傷のトリガーとなります。特に境界性パーソナリティ障害の特徴を持つ人では、「見捨てられるのではないか」という恐怖が自傷衝動を引き起こすことが多いです。また、言いたいことが言えない、自分の気持ちを伝えられないといった対人コミュニケーションの困難さも背景要因となります。
環境要因——4つの社会的トリガー
- 社会的な模倣(伝染)効果自傷行為には社会的な伝染効果があることが研究で示されています。友人や仲間が自傷行為をしている場合、自傷行為のリスクが2〜3倍に増加します。特に思春期の若者はピア(仲間)の影響を受けやすく、学校のクラスで一人が自傷行為を始めると周囲に広がる「クラスター現象」が報告されています。
- インターネットとSNSの影響インターネット上の自傷に関するコンテンツへの曝露は、自傷行為の発生・維持と関連しています。自傷の画像や体験談の共有、「自傷仲間」の形成、自傷方法の詳細な情報などが、脆弱性を持つ人の自傷リスクを高める可能性があります。一方で、オンラインの回復コミュニティやピアサポートが回復を促進するケースもあり、インターネットの影響は一面的ではありません。
- 学校・職場環境のストレスいじめ、学業のプレッシャー、職場でのハラスメントやパワハラ、過剰なノルマなど、学校や職場のストレスは自傷行為の重要なトリガーです。特にいじめは自傷リスクを約3倍に高めることが大規模調査で示されています。「助けを求めても状況が変わらない」という無力感が、自傷行為への移行を促進します。
- 家庭環境の問題家庭内の不和、親の精神疾患や依存症、養育者の感情的な無反応性(「泣くな」「我慢しろ」という態度)、両親の離婚、経済的困窮などの家庭環境要因が自傷リスクを高めます。特に「感情を表現してはいけない」という家庭内のメッセージは、感情の健全な処理を妨げ、自傷行為という代替的な表出方法を選択させる原因となります。
DSM-5の診断基準(今後の研究のための病態)
DSM-5では非自殺的自傷(NSSI)は「今後の研究のための病態」として掲載されています。以下の基準がすべて満たされる場合に該当します。
- A行為の頻度過去1年間に5日以上にわたり、自殺する意思なく、自分の体表面に出血、あざ、または疼痛を引き起こすことが予期される損傷を、故意に自身で行ったこと(例:切る、焼く、刺す、殴る、過度にこする)。この行為は社会的に認知された行為(例:ピアシング、タトゥー、宗教・文化的儀式の一部)ではない。
- B動機・期待自傷行為は、以下の期待のうち1つ以上に基づいて行われる:①ネガティブな感情や認知状態からの解放を得る、②対人的な困難を解消する、③肯定的な感覚状態を引き起こす。
- C先行要因自傷行為に先立ち、以下のいずれかが認められる:①対人的な困難、またはネガティブな感情や思考(例:抑うつ、不安、緊張、怒り、全般的な苦痛、自己批判)、②意図した行為に関する精神的没頭で制御が困難なもの、③自傷行為についての頻繁な思考(実行しなくても)。
- D社会的認知との区別その行為は、社会的に認められたもの(例:ピアシング、タトゥー、宗教・文化的儀式の一部)ではなく、かさぶたをいじる、爪を噛むことに限られるものでもない。
- E臨床的苦痛その行為またはその結果が、対人的、学業的、または他の重要な機能領域において、臨床的に著しい苦痛または障害を引き起こしている。
- F除外その行為は、精神病性エピソードや、せん妄、物質使用障害、物質の離脱中にのみ生じるものではない。知的障害や広汎性発達障害では、常同性の自傷行為として説明されるものは除外される。
臨床的な評価方法——5つの側面
自傷行為の評価には複数の側面からの包括的なアセスメントが必要です。臨床現場では以下の5つの側面から情報を集めます。
- 行為の詳細自傷行為の方法、頻度、期間、重症度(傷の深さ)、使用する道具、傷つける部位などを把握します。最初の自傷行為がいつ、どのような状況で始まったかも重要な情報です。
- 機能分析自傷行為がどのような心理的機能を果たしているかを評価します。自傷の直前に何があったか(先行要因)、自傷中に何を感じたか、自傷後にどのような変化があったか(結果因子)を詳細に聴取します。
- 自殺リスクの評価自傷行為と自殺企図の鑑別は最も重要な臨床的課題です。過去の自殺未遂の有無、現在の希死念慮の有無と程度、自殺の具体的な計画の有無、致死手段へのアクセスなどを評価します。
- 併存する精神疾患の評価うつ病、不安障害、PTSD、境界性パーソナリティ障害、ADHD、摂食障害、物質使用障害など、高率に併存する精神疾患のスクリーニングを行います。
- 環境要因の評価家庭環境、学校・職場でのストレス、対人関係の状況、トラウマ歴、いじめの有無などの環境要因を広範に評価します。
自傷行為の治療
自傷行為には複数のエビデンスに基づく治療法があります。「自傷をやめさせる」ことではなく、感情調節スキルの獲得や背景にある問題への取り組みが治療の目標です。
主な治療アプローチ——5つの選択肢
自傷行為に対してはいくつかの治療法の有効性が確認されています。個人の状況に応じて最適な治療法を選択することが重要です。
治療の目標——「やめさせる」ではなく「育てる」
自傷行為の治療では、単に「自傷をやめさせる」ことが目標ではありません。より包括的な目標設定が回復を持続的なものにします。
自傷に代わる、4つのカテゴリーのスキル
自傷衝動に対しては、自分に合った代替行動を持っておくことが鍵になります。ここでは身体感覚・感情の表出・マインドフルネス・対人的対処の4つのカテゴリーで具体的な方法を紹介します。
- 氷を握りしめる氷を手に握ったり、氷水に手を浸すことで、自傷に代わる強い身体感覚を安全に得ることができます。冷たさによる刺激は自傷衝動を一時的に和らげる効果があります。
- 輪ゴムを手首にはめて弾く輪ゴムのパチンという刺激が、切る衝動の代替となることがあります。ただし、これはあくまで一時的な代替手段であり、繰り返しの使用で効果が薄れたり、輪ゴム自体が自傷のトリガーになる可能性があるため、段階的に他の方法に移行することが推奨されます。
- 冷水で顔を洗う・シャワーを浴びる冷たい水の刺激は自律神経系に作用し、過覚醒状態を落ち着かせる効果があります。DBTのTIPPスキルの一つであり、ダイバーズ・リフレックス(潜水反射)を活用して心拍数を下げ、感情の強度を速やかに低下させます。
- 激しい運動をするランニング、腕立て伏せ、階段の昇降など、短時間の激しい運動は身体的なエネルギーを放出し、エンドルフィンの分泌を促進します。自傷衝動のピーク時に効果的です。
- 赤いマーカーで皮膚に線を描く切りたい衝動がある時に、赤いマーカーで腕に線を描くことで、視覚的に「切った」感覚を得ながら実際には皮膚を傷つけずに済みます。この方法は特にカッティング衝動に対して有効であることが臨床報告されています。
- 感情を紙に書き出す・描く今感じていることをありのまま紙に書きます。文章でなくても、殴り書きや色で表現しても構いません。感情を「自分の外に出す」ことで、感情に飲み込まれる感覚が軽減されます。書いた後に紙を破ったり丸めたりすることも、感情を物理的に「手放す」象徴的な行為として効果があります。
- 声を出す・叫ぶクッションに顔を押し当てて叫ぶ、カラオケで大声で歌うなど、声を使って感情を発散する方法です。特に怒りの感情が自傷のトリガーとなっている場合に効果的です。
- 泣く泣くことは感情の自然な解放手段です。「泣いてはいけない」という信念を持っている人も多いですが、泣くことでストレスホルモンが排出され、感情の強度が低下することが科学的に確認されています。安全な場所で思いきり泣くことを自分に許可しましょう。
- 5-4-3-2-1グラウンディング法「今、見えるもの5つ、聞こえるもの4つ、触れているもの3つ、匂い2つ、味1つ」を順に意識することで、解離状態や感情の暴走から「今ここ」に戻る技法です。自傷衝動は過去のトラウマや未来への不安に引きずられた時に強まるため、現在の感覚に意識を固定する方法が有効です。
- ペース呼吸4秒吸って、4秒止めて、8秒かけて吐く呼吸を繰り返します。呼気を長くすることで副交感神経が活性化され、身体の緊張が和らぎ、感情の波が穏やかになります。スマートフォンの呼吸アプリを活用するのも良い方法です。
- 安全な場所のイメージワーク目を閉じて、自分が最も安心できる場所(実在の場所でも想像上の場所でもOK)を詳細にイメージします。そこの温度、匂い、音、光をできるだけリアルに思い浮かべ、安心感に包まれる感覚を味わいます。自傷衝動が生じた時に即座にアクセスできるよう、平常時から練習しておくことが重要です。
- 自己慈悲のフレーズ「今つらいのは当然のこと」「この痛みはいつか和らぐ」「自分は一人ではない」「自分に優しくしていい」など、自己慈悲のフレーズを声に出して(または心の中で)繰り返します。自傷行為は自己罰的な動機で行われることが多いため、自分への優しさを意図的に向ける練習が重要です。
- 信頼できる人に連絡する自傷衝動が生じた時に連絡できる人を事前にリストアップしておきましょう。「今つらい」「話を聞いてほしい」と伝えるだけでも、一人で感情に閉じ込められる感覚が和らぎます。電話やメッセージで連絡が取れる人を3人以上リストに入れておくことが推奨されます。
- 相談窓口を利用する深夜や休日で身近な人に連絡しにくい時は、いのちの電話(0120-783-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、チャイルドライン(0120-99-7777、18歳以下)、ココトモのチャット相談などの相談窓口を利用しましょう。専門のスタッフが話を聴いてくれます。
- 安全プランを作成する自傷衝動が低い時に、「衝動が生じたらまず何をするか」「次に何を試すか」「誰に連絡するか」「緊急時はどうするか」を段階的に記したカードを作成し、常に携帯します。衝動のピーク時は冷静な判断が困難になるため、事前に作成したプランに従うことで安全を確保できます。
衝動の波に乗る——サーフィン・メタファー
自傷衝動は永遠に続くものではありません。衝動は波のように高まり、ピークに達した後、必ず下がっていきます。多くの場合、ピークは15〜30分程度で通り過ぎます。
周囲の人ができること
大切な人の自傷行為を知った時、どう対応すればよいか戸惑うのは当然のことです。支援のポイントと、避けるべき対応の両方を理解しておきましょう。
知った時の対応と日常的な支援——7つのポイント
大切な人の自傷行為を知った時、どう対応すればよいか戸惑うのは当然のことです。以下のポイントを参考に、本人に寄り添った支援を心がけてください。
- まず落ち着いて受け止める子どもや大切な人の自傷行為を知った時、ショック、恐怖、怒り、悲しみ、罪悪感など、強い感情が湧くのは当然のことです。しかし、その場で感情的に反応する(泣き叫ぶ、怒鳴る、パニックになるなど)ことは、本人をさらに追い詰めてしまいます。まずは深呼吸をして自分の感情を整え、「話してくれてありがとう」「あなたのことが心配だよ」と穏やかに伝えましょう。すぐに完璧な対応をする必要はありません。
- 「なぜ?」ではなく「何が?」を聴く「なぜそんなことをするの?」という質問は、本人にとって責められているように感じられます。代わりに「何がつらかったの?」「どんな気持ちの時にそうなるの?」と、背景にある感情や状況に焦点を当てた質問をしましょう。ただし、詳しく話すことを強制しないでください。「話したい時にいつでも聴くよ」と伝えるだけでも十分です。
- 約束や条件をつけない「もう絶対にしないと約束して」「次にやったら〇〇するよ」という条件付きの対応は避けましょう。自傷衝動は意志だけでコントロールできるものではないため、「約束を守れなかった」という新たな罪悪感と自責の念を生み、悪循環を深刻化させます。代わりに「つらい時は教えてほしい」「一緒に別の方法を考えよう」と、協力的な姿勢を示しましょう。
- 傷の手当てを淡々と行う自傷の傷を見た時は、過度に動揺することなく、必要な手当て(消毒、絆創膏、場合によっては医療機関への受診)を冷静に行いましょう。傷の手当ては「あなたの身体を大切にしたい」というメッセージとして伝わります。ただし、傷を無視したり、見て見ぬふりをすることは避けてください。
- 専門家への相談をサポートする自傷行為は専門的な治療が必要な問題です。「一緒に相談に行ってみない?」と提案し、本人の同意のもとで心療内科や精神科、スクールカウンセラーなどの専門家につなげましょう。本人が受診を嫌がる場合は、まず家族だけで専門家に相談することも有効です。全国の精神保健福祉センター(こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556)に電話で相談できます。
- 刃物などの管理について自傷に使われる道具(カッターナイフ、カミソリなど)を完全に取り上げることは推奨されません。本人にとって「唯一の対処法」を奪われることは極度の不安を引き起こし、より危険な方法で自傷するリスクがあります。ただし、「使った後は一緒にしまおうか」と協力的な提案をすることは有効です。道具の管理は、治療者と相談しながら段階的に行うことが安全です。
- 自分自身のケアも忘れない家族の自傷行為に向き合うことは、支える側にも大きな心理的負担をかけます。罪悪感(「私の育て方が悪かったのでは」)、無力感(「何もできない」)、怒り(「なぜ自分を傷つけるの」)など、複雑な感情を抱えることは自然なことです。家族向けのカウンセリングやサポートグループ(自傷行為の家族会など)を利用し、自分自身のメンタルヘルスも大切にしてください。
避けるべき対応——善意が逆効果になるとき
善意から出た言動でも、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。以下の対応は避けましょう。
本人は自分でも「どうしてこうなるのか」分からず苦しんでいます。叱責はさらなる罪悪感と自己否定を強め、自傷を悪化させます。
自傷行為の多くは「死にたい」ではなく「この痛みをなんとかしたい」という動機です。ただし、希死念慮の確認は必要であり、「つらいことがあるの?」と穏やかに聴くことが適切です。
傷を見せることは本人にとって極めて侵襲的な行為です。傷の確認が必要な場合は、保健室や医療機関で行ってもらいましょう。
自傷衝動は意志でコントロールできるものではないため、約束は必ず破られ、新たな罪悪感を生みます。
自傷行為を誰に伝えるかの決定権は原則として本人にあります。安全上の緊急性がない限り、本人の同意なく他者に伝えることは信頼関係を損ないます。
自傷を軽視することは、本人の苦しみを否定し、支援の機会を逃すことにつながります。
よくある質問
自傷行為に関する、よく寄せられる8つの疑問にお答えします。誤解されやすいテーマだからこそ、正確な理解が支援の第一歩になります。
自傷行為についての8つのQ&A
自分を傷つけてしまう
あなたへ
自傷行為は「弱さ」でも「注意を引くため」でもありません。言葉にできない苦しみを、ひとりで抱え込まないでください。ココトモはあなたの話を、批判せずに受け止めます。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
