メンタルヘルス用語辞典 · 衝動性

衝動性とは?
原因・タイプ・関連する障害と対処法をわかりやすく解説

衝動性とは、結果を十分に考えず感情や欲求のまま即座に行動してしまう傾向のことです。「意志の弱さ」ではなく脳の機能と深く関わっています。ADHDや境界性パーソナリティ障害との関連、脳のメカニズム、具体的な対処法まで詳しく解説します。

ABOUT IMPULSIVITY

衝動性とは

衝動性とは、結果を十分に考慮せずに行動したり、感情や欲求のまま即座に反応してしまう傾向のことです。誰にでもある自然な心の働きですが、度を超えると日常生活に大きな支障をきたします。

定義

衝動性の定義——「考える前に動く」心の傾向

衝動性(Impulsivity)とは、行動の結果や影響を十分に考えることなく、感情・欲求・状況の刺激に即座に反応してしまう心理的傾向です。心理学や精神医学では「抑制機能(インヒビション)の低下」や「報酬への敏感さ」と関連する特性として広く研究されています。

衝動性は本質的に悪いものではありません。素早い判断や行動が求められる場面ではむしろ有利に働くこともあります。問題となるのは、「衝動を抑えるべき場面でも抑えられない」「衝動的な行動が繰り返し自分や他者に害をもたらす」という状態が慢性的に続く場合です。

日常的な衝動性
誰にでもある自然な反応
美味しそうなものを見て食べたくなる。面白いものを見て衝動買いしそうになる。しかし多くの場合、状況を考えて抑えることができる。生活への支障は最小限。
問題となる衝動性
制御困難な繰り返す衝動
衝動を抑えられないことが繰り返し起き、仕事・人間関係・経済・安全などに実際の害が生じている。本人も「やめたい」「止めたい」と思っているが止められない苦しさを抱えている。
「意志の弱さ」と衝動性は違います衝動性は「意志が弱い」「自制心がない」という性格の問題ではなく、脳の前頭前野機能や神経伝達物質(特にドーパミン・セロトニン)の働きと深く関わっています。「努力が足りない」のではなく「脳の機能的な特性」として理解することが、適切な対処への第一歩です。
衝動性のタイプ

衝動性の4つのタイプ——自分の傾向を知る

衝動性はひとつの単純な概念ではなく、複数の側面を持ちます。研究者によって様々な分類がありますが、以下の4タイプが臨床的に重要とされています。自分がどのタイプの衝動性を持ちやすいかを知ることが、対処の第一歩です。

行動的衝動性
考える前に行動してしまうタイプ。衝動買い、衝動的な発言、危険な行動への参加など、「後先を考えずに動いてしまう」ことが特徴です。結果を予測せずに行動するため、後から後悔することが多くなります。
衝動買い突発的な発言リスクの見落とし
🧠
認知的衝動性
素早い意思決定を好み、熟考することが苦手なタイプ。情報が不十分でも即断してしまったり、計画を立てずに物事に取り組んだりします。「じっくり考える」より「すぐに答えを出したい」という傾向があります。
即断即決計画性の欠如情報収集の省略
💥
感情的衝動性
感情の波に乗って行動してしまうタイプ。怒りや興奮、喜びなどの感情が高まると抑制が効かなくなり、感情的な言動が出やすくなります。後から「なぜあんなことを言ったのか」と後悔することが多いです。
感情爆発後悔の多さ感情に左右された判断
🎯
動機的衝動性
即時の報酬や快楽を優先し、長期的な利益を先送りにしてしまうタイプ。「今すぐ楽しい・気持ちいい」を選び、「将来のために我慢する」が難しくなります。依存行動や先延ばしとも深く関連します。
報酬への過反応遅延割引長期目標の断念
複数のタイプの衝動性を同時に持つことも珍しくありません。また、状況やストレスレベルによって現れやすいタイプが変わることもあります。「どんな場面でどのタイプが出やすいか」を観察することが重要です。
脳のメカニズム

衝動性を生む脳のメカニズム

衝動性は「脳のブレーキが効きにくい状態」として理解できます。特に前頭前野(理性・計画・抑制)と辺縁系(感情・報酬・本能)のバランスが崩れることで衝動性が高まります。

🧠衝動性に関わる脳の部位
前頭前野(PFC)抑制・計画・意思決定

衝動性が高い人では前頭前野の活動が低下し、「ブレーキ機能」が弱くなります。行動を実行する前に「本当にこれで良いか」と立ち止まる力が弱まります。

扁桃体感情・報酬処理

扁桃体の過活動により、感情的な刺激への反応が過剰になります。特に怒りや恐怖、欲求などの感情が高まった際に行動抑制が困難になります。

腹側線条体(報酬系)報酬への期待・動機づけ

報酬系の過敏性が高まると、即時報酬への反応が過剰になり「今すぐ得たい」という衝動が強化されます。ドーパミンの調節異常が関与しています。

セロトニン系感情調節・衝動制御

セロトニンの低下は衝動制御の困難と強く関連しています。攻撃的衝動性や感情爆発のリスクが高まります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が治療に用いられる根拠のひとつです。

ドーパミン系動機づけ・報酬学習

ドーパミン系の異常は即時報酬への偏重と関連しており、ADHDや物質依存における衝動性の中心的なメカニズムです。報酬予測誤差の処理に問題が生じます。

🔬 前頭前野と辺縁系のバランスモデル

健康な脳では「アクセル(辺縁系の衝動・欲求)」と「ブレーキ(前頭前野の抑制)」のバランスが取れています。衝動性が高い状態では、アクセルが強くなる(辺縁系の過活動)か、ブレーキが弱くなる(前頭前野の機能低下)か、あるいはその両方が起きています。重要なのは、前頭前野は練習によって強化できるという点です。マインドフルネスや認知行動療法がこのブレーキ機能を高めることが脳科学的に確認されています。

頻度・疫学

衝動性の問題はどれくらい一般的か

衝動性の問題は単独の疾患というよりも、様々な精神疾患に横断的に現れる特性です。そのため正確な有病率の把握は難しいですが、いくつかの研究から概要が示されています。

5〜10%
成人における臨床的に問題となる衝動性の推定頻度
70%
ADHDを持つ成人の約70%が衝動性の問題を報告している
2〜3
衝動性が高い人の事故・怪我のリスクは一般集団の2〜3倍
衝動性は年齢とともに変化します。10代〜20代前半で最も高く、年齢を重ねるにつれ前頭前野が発達・成熟し、衝動制御能力が向上するのが一般的です。ただし、ADHDや脳損傷などの場合は年齢とともに改善しないこともあります。
セルフチェック

衝動性の問題——セルフチェックリスト

以下の項目に当てはまるものが多い場合、衝動性が日常生活に影響を与えている可能性があります。あくまで参考であり、診断には専門家による評価が必要です。

🔍 セルフチェックリスト
  • 🔍
    後先を考えずに行動してから後悔することが頻繁にある
  • 🔍
    怒りや興奮などの感情が高まると、行動を止めることが難しくなる
  • 🔍
    衝動買いや衝動的な決断で問題が生じたことがある
  • 🔍
    「もう少し考えればよかった」と後悔することが多い
  • 🔍
    危険な行動(無謀な運転、危険な性行動など)をしてしまうことがある
  • 🔍
    物質(アルコール、薬物など)や特定の行動(ギャンブル、ゲームなど)の衝動を止めることが難しい
  • 🔍
    衝動的な発言で人間関係が悪化したことがある
  • 🔍
    衝動的な行動が仕事や学業に支障をきたしている
💡
上記に4つ以上当てはまり、それが仕事・人間関係・日常生活に支障をきたしている場合は、精神科・心療内科への相談を検討してください。衝動性の問題は適切な支援で大幅に改善できます。
HOW IT APPEARS

衝動性の現れ方

衝動性は日常生活・対人関係・仕事・学業など様々な場面で現れます。「ちょっとしたこと」に見えても、繰り返されることで大きな問題につながっていきます。

🛒
衝動買い
計画していなかった購入をしてしまう。セールや限定品を見ると考えが止まらなくなる。後から「なぜ買ったのか」と後悔するが、次も同じことを繰り返す。経済的な問題につながることも多い。
📱
スマートフォンや動画の過度な使用
「少しだけ」のつもりが数時間経ってしまう。やめようと思っても止められない。睡眠や仕事・学業を犠牲にしてしまう。
🍽
衝動食い・過食
感情的なストレスに反応して食べてしまう。空腹でなくても食べ続ける。ダイエット中でも誘惑に勝てない。後から後悔するが繰り返してしまう。
💬
衝動的な発言
思ったことをそのまま口に出してしまう。相手が傷つくかもしれないと分かっていても止められない。後から「言わなければよかった」と後悔する場面が多い。
計画の急な変更
衝動的に予定を変更したり、始めたことを途中でやめてしまう。「急にやる気がなくなった」「もっと良いものが見つかった」という理由で約束を破ることがある。
💴
金銭管理の困難
衝動的な支出を繰り返し、お金が貯まらない。クレジットカードの使い過ぎ。借金をしても衝動的な支出が止まらない。
「後悔のサイクル」に気づくことが第一歩衝動的な行動の多くは「衝動→行動→後悔→自責」というサイクルを繰り返します。このサイクルに気づき、「行動」と「後悔」の間に「一時停止」を挿入することが支援の核心です。後悔することは、衝動性の問題があることを自覚しているサインでもあります。
リスク要因

衝動性を高める要因

以下の要因が重なると、衝動性はより強くなります。自分の状態を把握し、リスクが高い時期には特に注意しましょう。

衝動性を高めるリスク要因
ADHD(遺伝的素因)
90%
幼少期のトラウマ・虐待
82%
物質使用(アルコール・薬物)
78%
睡眠不足・慢性疲労
70%
慢性ストレス・感情抑圧
65%
男性(一部の衝動性タイプ)
58%
⚠️
睡眠不足と衝動性の関係睡眠不足は前頭前野の機能を著しく低下させ、衝動制御能力を大幅に低下させます。「いつもより衝動的になっている」と感じる時は、まず睡眠が取れているかを確認してください。睡眠の改善だけで衝動性が大幅に軽減されることもあります。
CAUSES & BACKGROUND

衝動性の原因・背景

衝動性は単一の原因で生じるのではなく、遺伝・脳の機能・環境・経験・医学的状態が複雑に絡み合っています。「自分が悪い」のではなく、多様な要因の結果として理解することが重要です。

🧬遺伝的・気質的要因

衝動性には明確な遺伝的基盤があります。特にADHDを中心とした衝動制御の問題は遺伝率が約70〜80%と非常に高いことが双子研究で示されています。ドーパミン受容体遺伝子(DRD4、DRD2など)やセロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)の多型が衝動性と関連することが報告されています。ただし遺伝は「運命」ではなく、環境や介入によって衝動性の発現は大きく変わります。気質(temperament)として生まれながらに「刺激追求傾向」が高い場合も、衝動性が現れやすくなります。

  • ドーパミン受容体遺伝子の多型(DRD4、DRD2)
  • セロトニントランスポーター遺伝子の関与
  • ADHDの遺伝率約70〜80%
  • 気質的な刺激追求傾向(Novelty Seeking)
  • ノルアドレナリン関連遺伝子の関与
衝動性の「強化ループ」に注意衝動的な行動が一時的な快楽や緊張解消をもたらすと、脳はそのパターンを強化します。「衝動→行動→快楽/緊張解消→さらに衝動が強化」というループが形成され、時間とともに衝動性が強くなっていくことがあります。早期の適切な介入がこのループを断ち切るために重要です。
発達的視点

衝動性の発達——年齢・成長との関係

衝動制御能力は脳(特に前頭前野)の発達とともに変化します。人間の前頭前野は25歳前後まで発達を続けるため、10代〜20代前半は構造的に衝動性が高くなりやすい時期です。

年齢別の衝動性の特徴
幼児期(〜5歳)

前頭前野がまだ発達中のため、すべての子どもが衝動的です。「おしまい」「待って」が理解できても行動できない時期。この時期は衝動性は正常発達の一部です。

学童期(6〜12歳)

前頭前野の発達により衝動制御能力が急速に発達します。この時期にADHDなどの衝動制御の問題が目立ちやすくなります。学校場面での問題(授業中の不適切な発言、順番を待てないなど)が顕在化します。

青年期(13〜25歳)

報酬系(辺縁系)の発達が前頭前野の発達を上回るため、リスクへの感受性が高まり衝動性が増す時期。冒険的・刺激追求的な行動が増えます。この時期の衝動性の問題はADHDや物質使用との関連が特に重要です。

成人期(25歳〜)

前頭前野の発達完了とともに衝動制御能力が安定します。ただし、ADHDを持つ成人や、トラウマ・物質使用がある場合は成人後も衝動性が高いまま続くことがあります。

子どもの衝動性を「躾の問題」だけで捉えるのは危険です。前頭前野の発達には個人差があり、ADHDなどの神経発達特性がある場合、サポートなしに「大人になったら自然に治る」とは限りません。早期の適切な評価と支援が重要です。
RELATED DISORDERS

衝動性に関連する精神疾患

衝動性は多くの精神疾患の重要な特徴のひとつです。衝動性の問題が深刻な場合は、その背景にある疾患の適切な評価と治療が重要です。

衝動性は多くの異なる精神疾患にまたがる「横断的な症状」です。衝動性が問題になっている場合、その背景にどのような疾患・特性があるかを理解することが、適切な対処につながります。

ADHD(注意欠如・多動症)
衝動性の関与: 高
衝動性はADHDの中核症状のひとつです。「後先考えずに発言する」「順番を待てない」「他者の話を遮る」「衝動買いをする」などが典型的な表れです。多動・不注意とともに現れることが多いですが、衝動性が最も目立つ「多動・衝動優勢型」も存在します。成人ADHDでは衝動的な感情爆発(ADHD関連の感情調節障害)も重要な問題です。
🌊
境界性パーソナリティ障害(BPD)
衝動性の関与: 高
衝動性はBPDの診断基準の核心的な特徴です。自傷行為、過食・拒食、浪費、危険な性行動、物質乱用、無謀な運転など、自己を傷つける可能性のある領域での衝動的行動が特徴的です。感情調節の困難と衝動性が複雑に絡み合っています。DBT(弁証法的行動療法)が効果的な治療法として知られています。
📈
双極性障害(躁状態)
衝動性の関与: 高
躁状態・軽躁状態では、衝動性が著しく高まります。衝動的な大きな決断(転職、離婚、大きな買い物)、性的衝動の増大、無謀な行動、多弁などが現れます。「いつもより気分が高揚して何でもできる気がする」時期の衝動的行動には特に注意が必要です。
💢
間欠爆発性障害
衝動性の関与: 中
反復的な感情的・衝動的攻撃行動を特徴とする障害。些細なきっかけで激しい怒りの爆発が生じ、言語的・身体的攻撃行動につながります。爆発後に後悔や恥を感じることが多く、本人も「なぜそうなるのかわからない」と苦しんでいます。衝動制御障害の代表的な例です。
🔄
物質使用障害(依存症)
衝動性の関与: 高
衝動性は物質使用障害の発症リスクを高め、また依存症が進行することでさらに衝動性が強化されるという悪循環があります。「我慢できない」「今すぐ欲しい」という即時報酬への強い衝動が依存行動を維持します。物質による前頭前野機能の低下がさらに衝動制御を困難にします。
🔁
強迫性障害(OCD)
衝動性の関与: 中
OCD の強迫的な行動衝動は、衝動性とは異なる側面を持ちますが、関連する脳回路を共有しています。強迫症における衝動は「やりたい」ではなく「やらなければならない」という強制感を伴う点で、一般的な衝動性と区別されます。ただしOCDと衝動制御障害は併存しやすいことも知られています。
診断は専門家が行います衝動性が問題になっている場合、自己診断は避け、精神科・心療内科または心理士による専門的な評価を受けることをお勧めします。適切な診断があって初めて、最も効果的な治療法を選択できます。
衝動制御障害群

衝動制御障害群——衝動性が主な問題となる疾患

DSMやICDでは、衝動性の制御困難が主な問題となる疾患群を「衝動制御障害群」(Disruptive, Impulse-Control, and Conduct Disorders)として分類しています。

主な衝動制御障害
間欠爆発性障害

繰り返す衝動的な攻撃的行動爆発(言語的攻撃・身体的攻撃)が特徴。刺激に比例しない過剰な反応が繰り返される。

窃盗癖(クレプトマニア)

盗みたいという衝動を繰り返し抑制できない。経済的必要からではなく、衝動の緊張を解消するために盗む。

放火癖(パイロマニア)

意図的な放火への衝動・強迫。火への緊張・興奮・魅力と関連している。

強迫的ギャンブリング(ギャンブル症)

ギャンブルへの制御困難な衝動が継続し、社会的・経済的機能が著しく障害される。

反抗挑戦性障害

権威への拒否的・挑発的・反抗的な行動パターン。衝動的な怒りと感情調節の困難が特徴。

COPING STRATEGIES

衝動性への対処法

衝動性は適切な対処と支援によって大幅に改善できます。即時対処から長期的なスキル構築、医療的支援まで、段階的なアプローチが効果的です。

「一時停止ボタン」を使う
衝動を感じた瞬間に、行動する前に意図的に「間」を作ります。深呼吸を3回する、10まで数える、水を1杯飲む——どんな方法でも構いません。衝動のピークは通常90秒以内に過ぎると言われており、この「間」を作るだけで行動化を防げることがあります。「衝動→即行動」の回路を「衝動→一時停止→選択」に書き換えるトレーニングです。
🔍
「もしも」思考法
行動する前に「もしこれをしたらどうなるか?」「明日の自分はどう感じるか?」と未来の視点から考える習慣をつけます。衝動は「今この瞬間」に意識が集中しているため、時間軸を未来に向けるだけで衝動の力を弱めることができます。スマートフォンのリマインダーに「5分待ってから決める」と設定しておくのも有効です。
🏃
身体を動かす
衝動を感じた時に身体を動かすことは、感情的な興奮を発散させる即効性のある方法です。その場でスクワット、散歩、ランニング——運動は前頭前野の機能を高め、衝動制御能力を向上させます。特に有酸素運動は長期的にも衝動性を低下させることが研究で示されています。「衝動が来たら走る」というルールを決めておくのも効果的です。
「衝動=悪」ではない衝動性のエネルギーは本来、行動力・創造性・情熱の源でもあります。衝動性を「なくす」ことが目標ではなく、衝動を「知る・認める・方向づける」スキルを身につけることが目標です。自分の衝動性と上手に付き合えるようになることで、その長所を活かしながら短所を最小化できます。
DBTスキル

DBT(弁証法的行動療法)の衝動制御スキル

DBT(Dialectical Behavior Therapy:弁証法的行動療法)は、マーシャ・リネハンが境界性パーソナリティ障害の治療のために開発した心理療法ですが、衝動性全般に対して高い効果があることが示されています。特に「波に乗らず波を乗り越える」スキルが核心です。

DBTの衝動制御スキル(一部)
ウェイブサーフィング

衝動を「波」として捉え、波が来ては去ることを体験的に学ぶスキル。衝動に「乗る」のではなく、「乗り越える」ことを練習します。

反対行動(オポジットアクション)

感情が命じる行動とは「反対の行動」を意図的にとることで感情の強度を下げます。「怒鳴りたい衝動→穏やかに話す」などの練習です。

チェックザファクト

感情的判断の前に「事実」と「解釈」を分離する練習。衝動のきっかけとなった出来事の「事実」だけを書き出し、感情的な解釈を切り離します。

ラジカルアクセプタンス

変えられない現実を「根本的に受け入れる」スキル。衝動が生じる状況を「あってはならない」ではなく「そういうことが起きている」と受け入れることで、苦しみが軽減されます。

専門的治療

専門的な治療法

衝動性の問題が日常生活に著しい支障をきたしている場合、専門的な治療が有効です。背景にある疾患によって最適な治療法が異なります。

認知行動療法(CBT)

衝動的な思考パターンを特定し、より適応的な思考と行動パターンに置き換えるトレーニング。「自動的な衝動的反応」を「意識的な選択」に変えていきます。

DBT(弁証法的行動療法)

衝動制御・感情調節・対人関係・苦悩耐性の4つのスキルを体系的に学ぶ療法。BPDや感情的衝動性に特に有効です。

薬物療法(ADHD)

ADHDに伴う衝動性にはメチルフェニデート(コンサータ)やアトモキセチン(ストラテラ)が有効。前頭前野機能を高め、衝動制御能力を向上させます。

マインドフルネスベース介入

MBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)が衝動性の低減に有効。前頭前野の灰白質を増加させることが研究で示されています。

治療の選択は専門家との相談が不可欠です。衝動性の背景にある疾患(ADHD、BPD、双極性障害など)によって、最適な薬物療法・心理療法の組み合わせが異なります。
FOR SUPPORTERS

周囲の人へ——衝動性を持つ人のサポート

衝動性の高い人のそばにいることは、時に大変なことです。しかし適切な理解とサポートが、本人の回復に大きな力となります。支える側のあなた自身のケアも大切にしてください。

理解する

まず「理解」から始めましょう

衝動性を持つ人をサポートする上で最も重要なのは、「意志の弱さ」や「性格の問題」ではなく、「脳の機能的な特性」として理解することです。本人が最も苦しんでいることを忘れないでください。

よくある誤解と正しい理解
❌ 「何度言っても同じことを繰り返す。懲りない人だ」
✅ 衝動性は「懲りない」のではなく、衝動が生じた瞬間に前頭前野の抑制機能が一時的に働きにくくなる状態です。分かっていてもやめられない苦しさを抱えています。
❌ 「もっと自制心を持てばいいだけ」
✅ 自制心は意志力で増やせるものではなく、前頭前野の機能や神経伝達物質のバランスと関わっています。「頑張れ」という励ましは逆効果になることが多いです。
❌ 「大人なんだからちゃんとしてほしい」
✅ ADHDや幼少期トラウマが背景にある場合、衝動制御は年齢とともに自然に解決しないことがあります。年齢にかかわらず専門的なサポートが有効です。
具体的サポート

具体的なサポートのポイント

✅ 有効なサポート
「意志の弱さ」ではなく「脳の機能の問題」と理解する
衝動性は「だらしない」「自制心がない」という性格の問題ではなく、前頭前野の機能や神経伝達物質に関わる脳の問題です。本人も苦しんでいることを理解してください。
衝動行動直後は批判しない
衝動行動の直後は感情が高ぶっている状態です。この時点での批判や説教は逆効果で、関係を悪化させるだけです。感情が落ち着いた後に、穏やかに話し合いましょう。
「予防」のための環境設定を手伝う
衝動的な問題が起きやすい状況を一緒に考え、環境を整えることを手伝いましょう。例えば衝動買いが問題なら「買い物は一人で行かない」などのルールを一緒に作ることが有効です。
小さな成功を認める
衝動を抑えることができた時に、具体的に声をかけましょう。「さっきよく我慢できたね」という一言が自己効力感を育てます。
自分自身のケアも忘れずに
衝動性の高い人のそばにいることは疲弊します。支える側もサポートグループや専門家への相談を活用し、自分のメンタルヘルスを守ってください。
❌ 避けるべき対応
感情爆発中に議論する
感情が高ぶっている状態での議論は油に火を注ぐだけです。冷却期間を置いてから穏やかに話しましょう。
公の場での指摘・批判
人前での批判は羞恥心と怒りを高め、衝動的な反応を引き出します。プライベートな場所で話し合いましょう。
「いつもそうだ」という一般化
「あなたはいつも〜」という表現は本人を傷つけ、変化への意欲を奪います。具体的な行動について話しましょう。
全てのサポートを一人で背負う
支える側も疲弊します。家族会や専門家への相談を積極的に活用してください。
「境界線」を持つことも大切なサポート衝動的な行動で傷つけられる場合は、明確な「境界線」を伝えることが本人にとっても重要なフィードバックです。「〇〇されると私はとても傷つく」と穏やかに伝えることは、支配ではなく誠実なコミュニケーションです。支える側が我慢し続けることは長期的には良い結果をもたらしません。
支える側のケア

支える側のセルフケア

🛁
自分の感情を認める
「疲れた」「腹が立つ」「もう無理だ」と感じることは当然です。その感情を否定しないでください。支える側も人間であり、感情を持つことは健全なことです。
👥
サポートグループを活用する
ADHDや発達障害の家族会、BPD家族会など、同様の経験を持つ人たちのグループへの参加は、孤独感を和らげ実践的なアドバイスを得る場になります。
💬
自分自身もカウンセリングへ
支える側もカウンセリングや心理士への相談を活用してください。「患者ではないから」と遠慮する必要はまったくありません。自分の心を守ることが長続きの秘訣です。
🎯
関係の「限界点」を認識する
衝動的な行動による暴力・経済的被害・精神的虐待が続く場合は、専門家(心理士、精神保健福祉士、弁護士など)への相談を躊躇しないでください。

一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。

衝動性の問題で悩んでいませんか。「やめたいのにやめられない」苦しさを、ぜひ聞かせてください。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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