メンタルヘルス用語辞典 · 二次的外傷性ストレス

二次的外傷性ストレス(STS)とは?
支援者の共感疲労・症状・セルフケア・回復をわかりやすく解説

トラウマを負った人を支援する過程で、支援者自身がPTSD様の症状を示す『二次的外傷性ストレス(STS)』。共感疲労・代理受傷との違い、症状・リスク因子・予防・治療・組織対応まで、支援者とその家族のための完全ガイド。ProQOLを参考にしたサインチェック付き。

ABOUT

二次的外傷性ストレス(STS)とは?

トラウマを負った人を支援する過程で、支援者自身がPTSD様の症状を示す現象。『話を聞いただけなのに、なぜ自分がこんなに苦しいのか』——その答えはここにあります。

定義

定義:話を聞くことで、私たちも傷つく

二次的外傷性ストレス(Secondary Traumatic Stress:STS)とは、犯罪・災害・事故・戦争・虐待などの過酷な体験を負った人の話を聞いたり、現場を目撃したりすることで、自らは直接体験していないにもかかわらず、被害者と同様のPTSD様症状を示す状態をいいます。1995年、心理学者Charles Figleyが『Compassion Fatigue』という著作の中で体系化しました。

支援者は、被害者への共感を通して相手の苦しみを自分のものとして感じ取ります。これは援助の本質であり、避けられないプロセスです。しかし共感のコストとして、支援者の心にもトラウマ記憶が転写されるように刻まれていきます。ある日突然「クライエントが語った被害場面が悪夢に出る」「街を歩いていてフラッシュバックが起きる」「家族の安全を極度に心配するようになった」といったサインとして現れます。

📌
STSは『弱さ』ではなく『共感力の証』STSは支援者の能力不足や心の弱さのせいではありません。むしろ、相手の痛みに深く共感できる支援者ほど、STSのリスクは高くなります。『よい支援者ほど傷つく』——この逆説こそが、STSを職業病として認識し、組織で予防する必要がある理由です。
関連概念

STS/共感疲労/代理受傷/バーンアウトの違い

STSと関連する概念は複数あり、研究者や現場で用語の使われ方に揺れがあります。ここでは主要4概念の違いを整理します。

STS
二次的外傷性ストレス
Secondary Traumatic Stress。トラウマを負った人を支援する過程で、支援者自身がPTSD様の症状(再体験・回避・過覚醒)を示す状態。Figley(1995)が提唱した概念で、急性に発症することがあります。
共感疲労
Compassion Fatigue
共感を通じて相手の苦しみを自分のものとして感じ続けた結果、身体的・感情的に消耗する状態。STSとほぼ同義で使われることが多く、「ケアする人のコスト」を表す言葉として一般化しています。
代理受傷
Vicarious Trauma
長期的に被害者の語りに触れることで、支援者の世界観・価値観・自己感・他者との関係性が変容していく現象。McCann & Pearlman(1990)が提唱。STSよりも累積的・慢性的で、世界観の変化が特徴です。
バーンアウト
Burnout
慢性的な職場ストレスにより、情緒的消耗感・脱人格化・個人的達成感の低下が生じる状態(Maslach)。トラウマ曝露に限らず、どんな仕事でも起こり得る点がSTSとの違いです。STSとバーンアウトは併発することが多くあります。
💡
用語の使い分け実務では『共感疲労』が最も広く使われ、『STS』と『代理受傷』は研究・専門文献で頻出します。バーンアウトは組織的ストレスを含むより広い概念です。本記事では、支援者に生じるトラウマ反応の総称として『STS(広義)』を用い、文脈に応じて使い分けます。
概念の歴史

STS概念の歴史と広がり

STSの概念は、ベトナム戦争帰還兵の支援にあたったセラピストたちが次々と不調を訴えたことをきっかけに研究が始まりました。1980年代にMcCann & Pearlmanが『代理受傷(vicarious traumatization)』を、1990年代にFigleyが『共感疲労/STS』を提唱。2000年代以降、米国児童福祉連盟(CWLA)や米国保健福祉省が支援者のSTS対策をガイドライン化し、現在では医療・福祉・司法・教育・災害対応の全領域で必須の知識として位置づけられています。

日本では2000年代以降、阪神・淡路大震災、東日本大震災、犯罪被害者支援の現場を中心に研究と実践が進みました。近年は児童相談所・DV相談・自殺対策・コロナ禍の医療従事者など、さまざまな現場で支援者ケアの重要性が認識されています。

起こりやすい職種

STSが起こりやすい職種

トラウマと向き合う以下のような職種は、STSの「職業的リスク群」として理解しておく必要があります。

🏥
医療従事者
救急医・看護師・ICU・産科・緩和ケア
🧠
心理職・精神保健
臨床心理士・公認心理師・精神科医・精神保健福祉士
👶
児童福祉
児童相談所職員・児童養護施設職員・スクールカウンセラー
🚔
警察・司法
犯罪被害者支援・少年係・検察・弁護士・裁判官
🚒
消防・救急
消防士・救急救命士・災害派遣チーム
📰
報道・ジャーナリスト
災害報道・戦争特派員・事件取材
☎️
電話相談員
いのちの電話・DV相談・虐待ホットライン
🏫
教員・保育者
被災地の教員・虐待対応の担任・特別支援
宗教者・葬祭関係
僧侶・牧師・神父・グリーフケア
🤝
家族・介護者
PTSDの家族・トラウマサバイバーのパートナー
セルフサインチェック

STSのセルフサインチェック10項目

ProQOL(Professional Quality of Life Scale)のSTS下位尺度を参考にした10項目の振り返りリストです。最近1か月で当てはまる項目が複数ある場合、STSのサインの可能性があります。診断ツールではありませんが、状態を見つめ直すきっかけとして活用してください。

  • 支援している相手の体験が、自分の頭の中で何度も繰り返し再生される
  • 相手から聞いた出来事が、自分の夢や悪夢に出てくる
  • 仕事のことを思い出したくなくて、関連する場所や話題を避けてしまう
  • 以前は気にならなかった人や状況に対して、警戒心や不信感が強くなった
  • 些細な物音や気配にビクッとしやすくなった(過覚醒)
  • 家族や自分の身の安全について、過度に心配してしまう
  • 世界は危険で、人は信用できないと感じるようになった
  • 以前楽しめていた活動に興味が持てなくなった、または感情が麻痺したように感じる
  • 寝つきが悪い、または眠りが浅く、朝起きても疲れが取れない
  • 自分の仕事に意味を見いだせず、「もう続けられない」と感じることがある
⚠️
このリストの使い方「ほとんど毎日」「半分以上」レベルで当てはまる項目が複数ある場合、軽度〜中等度のSTSサインの可能性があります。症状が2週間以上続く、日常生活や仕事に支障が出ている、自傷・希死念慮があるといった場合は、必ず専門家(産業医・心療内科・精神科・EAP)にご相談ください。
SYMPTOMS

STSの症状:4つの領域で現れるサイン

STSの症状はPTSDと似ていますが、直接の被害体験がない点が特徴です。『再体験』『回避・麻痺』『過覚醒』の3つに加え、長期的には『世界観の変容』が生じます。

4領域の症状

再体験・回避・過覚醒・世界観

タブを切り替えて、4つの症状領域それぞれを確認してください。

🌊再体験
  • 🎬 侵入的イメージクライエントが語った被害場面が、頭の中で映画のように繰り返し再生される。運転中・入浴中・食事中など、不意に浮かんでくる。
  • 🌙 悪夢支援した被害者の体験が自分の悪夢として現れる。自分が被害に遭う夢、家族が被害に遭う夢を見ることもある。
  • ⚡ フラッシュバック特定の匂い・音・光景などの刺激をきっかけに、クライエントの体験が生々しく蘇る。一瞬その場にいるかのような感覚になることも。
  • 💢 身体反応被害場面を思い出すと動悸・発汗・震え・吐き気などの身体症状が起きる。体が勝手に反応してしまう。
身体のサイン

身体に現れるサイン

STSは心だけでなく身体にも現れます。以下の身体症状が慢性的に続いている場合、STSの可能性を疑ってみてください。

  • 🤕 慢性的な頭痛・肩こり・首こり
  • 🤢 胃の痛み・吐き気・食欲不振または過食
  • 💓 動悸・息苦しさ・胸の圧迫感
  • 😮‍💨 倦怠感・朝起きられない・慢性的な疲労
  • 🤧 免疫力低下・風邪をひきやすい
  • 🩸 月経不順・性欲の低下
  • 🍷 アルコール・カフェイン・たばこの量が増えた
  • 💊 頭痛薬・胃薬・睡眠薬の使用が増えた
3段階の経過

STSの経過:3つの段階

STSは段階的に進行します。早期段階で気づくほど回復は早くなります。

PHASE 1
警告サイン期
小さな違和感:ケースを思い出す回数が増える、寝つきが悪くなる、イライラしやすくなる。この段階で気づいて休養できれば、比較的早く回復します。
気づきの段階
PHASE 2
症状顕在期
明確な症状:悪夢・フラッシュバック・回避・過覚醒が日常化。仕事のパフォーマンスが落ち、家族関係にも影響。この段階で専門的ケアが必要です。
専門ケア必要
PHASE 3
慢性化・世界観変容期
世界観・自己感の変容、仕事への虚無感、離職・転職の検討。バーンアウトと併発することが多く、回復には長期的な休養と治療が必要です。
長期治療
🚨
早期発見が鍵STSは段階を追って進行します。第1段階で気づいて適切な対応(休養・相談・業務調整)を取れば、第2段階・第3段階に進まずに済みます。『自分は大丈夫』と思い込まず、定期的なセルフチェックを習慣にしましょう。
RISK FACTORS

STSになりやすい人の特徴

STSは『弱い人』がなるのではなく、『特定の条件が重なった人』がなります。個人要因と職場要因の両面から理解しましょう。

リスク要因

個人要因と職場要因——12のリスク

個人と職場の両方の要因が重なるほど、STSのリスクは高まります。

👤個人要因
  • 🎭 共感性の高さ共感能力が高い人ほど相手の苦しみを深く受け取るため、STSのリスクが高まります。『よい支援者』の特性そのものがリスク因子という逆説があります。
  • 📜 自身のトラウマ体験幼少期の虐待・ネグレクト、過去のPTSDなど、支援者自身にトラウマ歴がある場合、クライエントの体験が自分の傷を再活性化させることがあります。
  • 🆕 経験の浅さ支援経験が浅い、トラウマケアのトレーニングを受けていない場合、自分の感情と相手の感情を区別する『心理的境界』を引きにくく、STSに陥りやすくなります。
  • 💪 『助けなければ』という使命感過度な責任感、完璧主義、『自分がやらなければ』という考えは、負担を過剰に抱え込む原因になります。
  • 🤐 弱音を吐けない性格『迷惑をかけたくない』『プロだから弱音を吐けない』という思いから一人で抱え込むと、STSの悪化を招きます。
  • 🏠 プライベートの支え不足家族・友人・趣味・娯楽などのプライベートな支えが少ないと、仕事のストレスを解放する場がなくSTSが蓄積します。
保護因子

STSを防ぐ『保護因子』

リスク因子の逆で、以下の要素が揃っている支援者はSTSに対する耐性(レジリエンス)が高いことが研究でわかっています。

  • 定期的なスーパービジョンを受けている
  • 信頼できる同僚・ピアサポートがある
  • トラウマケアの専門研修を受けている
  • 自分の限界を認識し『助けを求める』ことができる
  • 仕事とプライベートの境界線が引けている
  • 家族・友人・趣味などの豊かなプライベート
  • 定期的な運動・睡眠・食事の健康習慣
  • マインドフルネス・瞑想・自己覚知の習慣
  • 自分の支援に意味と誇りを感じられる(共感満足)
PREVENTION

STSを防ぐセルフケア——4つの柱

STSの予防と回復は、身体・心・人間関係・専門的支援の4つの柱で構成されます。どれか1つでは足りません。複数を組み合わせて、支援者としての持続可能性を守りましょう。

PILLAR 1

身体のケア

身体の安定が、心の安定の土台です。

💤
睡眠の確保
7時間以上の質の良い睡眠を死守する。就寝1時間前はスマホ・仕事メールを見ない。寝室は暗く静かに。週末の寝だめではなく毎日の安定した睡眠を目指します。
🏃
運動習慣
週3回・30分以上の有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳)。運動はストレスホルモン(コルチゾール)を下げ、BDNF(脳由来神経栄養因子)を増やし、STSへの耐性を高めます。
🥗
食事の質
加工食品・糖分・カフェイン・アルコールを控え、野菜・魚・発酵食品を意識。腸脳相関を整えることで気分の安定につながります。
🛁
身体リラクゼーション
入浴・ストレッチ・ヨガ・マッサージなどで慢性的な筋緊張をほぐす。特に肩・首・顎は意識的にゆるめましょう。
PILLAR 2

心のケア

侵入的イメージや感情の暴れを鎮めるには、心の習慣も必要です。

🧘
マインドフルネス
呼吸に意識を向ける10分間の瞑想を毎日。『今ここ』に戻る練習は、侵入的イメージやフラッシュバックを静める効果が研究で示されています。
📔
ジャーナリング
感じたこと・考えたことを紙に書き出す。誰にも見せない自分だけのノートに、感情を吐き出す『エクスプレッシブ・ライティング』はSTS軽減に有効です。
🎨
創造的活動
絵を描く、楽器を演奏する、料理をする、園芸、DIY——言語化できない感情を形にする活動は、トラウマ処理に役立ちます。
📱
情報デトックス
SNS・ニュース・仕事メールから意識的に離れる時間を持つ。『見ない自由』を自分に許可しましょう。
PILLAR 3

社会的つながりのケア

人と自然・動物との健全なつながりが、神経系を整えます。

👥
信頼できる人との雑談
仕事の話ではない、たわいない会話。友人・家族・パートナーと笑い合う時間は、神経系をリセットする最良の薬です。
🤝
ピアサポート
同じ職種の仲間と『わかり合える』場を持つ。職場外の研究会・勉強会・支援者コミュニティへの参加は強い保護因子になります。
🐾
ペットとの時間
犬・猫などのコンパニオンアニマルとの触れ合いはオキシトシンを増やし、ストレスホルモンを下げます。
🌿
自然との接触
森林浴・公園散策・海・山。自然環境は副交感神経を活性化させ、過覚醒状態を鎮めます。
PILLAR 4

専門的支援の活用

プロとしてプロのサポートを受けることが、長く働き続ける条件です。

🎓
スーパービジョン
経験豊富な専門家から定期的にケース相談を受ける。STS予防の『王道』であり、質の高い援助のために不可欠です。
🏥
個人カウンセリング
支援者自身がクライエントとなり、定期的に自分の感情を整理する。多くのベテラン支援者が『自分専用のセラピスト』を持っています。
🏢
EAP・産業医
職場のEAP(従業員支援プログラム)や産業医面談は無料で利用できる場合が多く、早期発見・早期対応に役立ちます。
📚
継続的な研修
トラウマケア・自己覚知・セルフケアの研修を継続的に受けることで、知識と技術を更新し続けます。
BOUNDARY

心理的境界線(バウンダリー)を引く

STS予防の核心は『自分と相手を分ける』心理的境界線を引くことです。共感と同一化は違います。共感は『相手の気持ちを理解する』ことで、同一化は『自分が相手になってしまう』ことです。熟練した支援者は、深く共感しながらも『自分は今ここにいる』という感覚を失いません。

  • 🚪 仕事と家の境界:玄関で『スイッチを切る』儀式を作る(服を着替える、手を洗う、深呼吸するなど)
  • ⏰ 時間の境界:勤務時間外はケースの話をしない、仕事メールを見ない
  • 🪞 感情の境界:『これは相手の感情、これは自分の感情』と意識的に分ける
  • 🙅 引き受ける限界:『ここまではできる、ここからは難しい』を明確にする
  • 🤲 自分を責めない:『救えなかった』のではなく『できることをした』と捉え直す
自己犠牲は美徳ではない『自分を犠牲にしてでも相手を助けるのがプロ』という考えは、古いモデルです。現代の支援者倫理は『支援者の健康を守ることが、長期的に質の高い援助を提供する条件』という考え方に立っています。あなたが倒れれば、クライエントも失われます。セルフケアは利己的ではなく、職業的責任なのです。
ORGANIZATION

組織ができるSTS対策

STSは個人の問題ではなく組織の課題です。支援者のケアは組織の責任であり、質の高い援助を持続させるための投資です。

6つの仕組み

組織が整えるべき6つの仕組み

STS対策を「個人努力」で終わらせず、制度として組織に埋め込みます。

SYSTEM 1
定期的なスーパービジョン
全職員に対し、月1回以上の個別スーパービジョンまたはグループスーパービジョンを制度化する。外部スーパーバイザーの活用も有効です。
SYSTEM 2
ケース会議・カンファレンス
難しいケースを一人で抱えず、チームで共有・検討する文化を作る。『これは私のケースではない、私たちのケースだ』という発想の転換。
SYSTEM 3
ケースロード管理
担当ケース数の上限、重症ケースの比率、新規受け入れのペースを管理する。一人の支援者に過剰な負担が集中しない体制づくり。
SYSTEM 4
業務の多様化
トラウマケース以外の業務(研究・教育・事務・地域啓発)をバランスよく配分する。常時トラウマ曝露を避ける工夫。
SYSTEM 5
EAP・産業保健の整備
従業員支援プログラム(EAP)、産業医面談、ストレスチェック、カウンセリング費用補助などを整備し、利用しやすい空気を作る。
SYSTEM 6
研修・教育
STS・共感疲労・セルフケアの研修を新任時と継続的に提供する。『自分のメンタルを守ることも仕事のうち』という組織文化を作る。
管理職の役割

管理職が意識すべきこと

部下のSTS・バーンアウトは、管理職のマネジメントの問題でもあります。

  • 👀 部下の小さな変化(遅刻・ミス・イライラ・表情)に気づく
  • 💬 『最近どう?』と定期的に声をかける(1 on 1 ミーティング)
  • 🏥 体調不良の部下に休むことを促す(『頑張れ』ではなく『休め』)
  • 📊 ケース配分を適切にマネジメントする
  • 🗣 管理職自身がセルフケアを実践し、ロールモデルになる
  • 🚫 『弱音を吐くのはダメ』な空気を作らない
  • 🆘 困難ケースへのバックアップ体制を整える
  • 💰 カウンセリング・研修への予算を確保する
管理職の責任部下のSTS・バーンアウトは、管理職のマネジメントの問題でもあります。『個人の弱さ』として片付けず、組織の構造要因を見直す視点が必要です。
組織文化

『弱さを見せられる』組織文化を作る

どれだけ制度を整えても、『弱音を吐けない』『相談したら評価が下がる』『休んだら迷惑がかかる』という空気があればSTS対策は機能しません。組織文化そのものを変える必要があります。

心理的安全性(psychological safety)という概念があります。これは『チームの中で対人リスクを取っても大丈夫だと感じられる状態』を指します。エイミー・エドモンドソン(ハーバード大)の研究では、心理的安全性の高いチームほど、ミスの報告が多く、革新的で、バーンアウトが少ないことが示されています。STS予防の基盤は、この心理的安全性にあります。

🌱
上司から『助けて』と言える組織にリーダーが率先して『今日は疲れた』『このケース難しくて迷っている』『カウンセリング受けてきた』と開示することで、部下も安心して弱さを見せられるようになります。文化は上から変えるしかありません。
RECOVERY

STSからの回復——専門的支援と治療

セルフケアで改善しない、または症状が重い場合は、専門的な支援・治療が必要です。STSは治療可能な状態です。一人で抱え込まず、助けを求めましょう。

相談タイミング

専門家に相談すべきサイン

以下のいずれかに当てはまる場合は、セルフケアだけでなく専門的支援を受けることを強くおすすめします。

  • 症状が2週間以上続いている
  • 仕事のパフォーマンスが明らかに落ちている
  • 家族関係・日常生活に支障が出ている
  • 悪夢・フラッシュバック・不眠が続いている
  • アルコール・薬物・過食などの不健康な対処が増えた
  • 涙が止まらない・感情のコントロールが難しい
  • 希死念慮・自傷のイメージがある
  • 『辞めたい』『消えたい』という気持ちが強い
🚨
希死念慮があったら今すぐ希死念慮(死にたい気持ち)がある場合は、今すぐ専門機関にご相談ください。いのちの電話(0120-783-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、精神科救急は24時間対応しています。一人で抱え込まないでください。
相談先

どこに相談すればよいか

4つの選択肢があります。状態や好みに合わせて選んでください。

🏢
EAP・産業医
職場に制度があれば最初の入口。無料・守秘義務あり。職場の状況を理解した上で助言してもらえます。
🏥
心療内科・精神科
症状が重い場合、うつ・PTSDとして治療が必要な段階。薬物療法・休職診断書・専門的治療が受けられます。
💬
個人カウンセリング
臨床心理士・公認心理師による継続的な心理療法。支援者ケアに詳しいセラピストを選ぶのが理想です。
👥
ピアサポートグループ
同じ職種の仲間と体験を分かち合う場。孤立感を和らげ、『自分だけじゃない』という安心感を得られます。
有効な治療法

STSに有効な治療法

5つの治療アプローチが、症状や経過に応じて組み合わされます。

TREATMENT 1
認知行動療法(CBT)
STSに伴う認知の歪み(『世界は危険だ』『自分は無力だ』)を現実的な捉え方に修正する。PTSDにも有効性が高い心理療法です。
TREATMENT 2
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
トラウマ記憶を左右の眼球運動と組み合わせて処理する治療法。支援者のSTS治療にも効果が報告されています。
TREATMENT 3
ソマティック・エクスペリエンシング
身体感覚に焦点を当ててトラウマを解放する身体志向の治療。凍りついた神経系をゆっくりと解凍していきます。
TREATMENT 4
マインドフルネス認知療法(MBCT)
マインドフルネスとCBTを組み合わせた治療。再発予防にも有効で、支援者の継続的セルフケアに適しています。
TREATMENT 5
薬物療法
うつ症状・不眠・不安が強い場合、SSRI・睡眠薬・抗不安薬を併用する。症状軽減により心理療法の効果も高まります。
回復プロセス

回復のプロセス——4つのフェーズ

STSからの回復は段階的に進みます。焦らず、自分のペースで歩んでいきましょう。

PHASE 1
気づきと受容
『自分はSTSかもしれない』と認める段階。否認を手放し、専門家への相談を始めます。ここが一番の難関です。
1〜4週
PHASE 2
休養と安定化
業務調整または休職により、過剰刺激から離れる。睡眠・食事・運動の基本生活を立て直し、神経系を落ち着かせます。
1〜3か月
PHASE 3
トラウマ処理
CBT・EMDRなどの治療により、侵入的記憶を処理する。世界観・自己感の再構築を進めます。
3〜6か月
PHASE 4
再統合と復職
徐々に支援現場に戻る。以前と同じ働き方ではなく、セルフケアと境界線を身につけた『新しい支援者』として再出発します。
6か月〜
回復は『成長』でもあるSTSからの回復過程で、多くの支援者は『外傷後成長(Post-Traumatic Growth)』を経験します。痛みを通して、自分自身・他者・人生への理解が深まり、より成熟した支援者になっていく——これは研究でも示されている事実です。傷ついた経験は、決して無駄にはなりません。
FOR FAMILY

支援者を支える家族・パートナーへ

対人援助職のパートナー・家族には、独特の難しさがあります。『仕事の話は守秘義務で聞けない』『帰ってきても心ここにあらず』——そんな日々を支えるあなたへのガイド。

知っておきたいこと

支援者家族が知っておきたいこと

支援者の家族として知っておきたい6つのポイントを整理します。

  • 💼 支援者は仕事の詳細を家で話せません(守秘義務)。具体的な話を聞き出そうとしなくて大丈夫です。
  • 🎭 帰宅直後は『心ここにあらず』な状態になりがち。すぐに家事や子育てに切り替えられなくても責めないで。
  • 🌙 悪夢・フラッシュバックは本人のせいではありません。STSの症状です。
  • 😤 以前より短気・過敏になった場合、疲労とSTSのサインかもしれません。
  • 🏠 家が『唯一の安全地帯』になります。穏やかな雰囲気を保つことが最大の支えです。
  • 🤗 具体的な解決より、『お疲れさま』『大変だったね』と共感する言葉が効きます。
言葉

かけてあげたい言葉・避けたい言葉

かける言葉ひとつで、家を「安全地帯」にもプレッシャー源にもできます。

かけてあげたい言葉
🙆 「今日もお疲れさま」
🙆 「話したくなったら聞くよ、話したくなければいいよ」
🙆 「あなたのやっていることは尊いよ」
🙆 「今日はゆっくり休んで」
🙆 「一緒にご飯食べよう」
🙆 「無理しなくていいよ」
避けたい言葉
🙅 「そんな仕事辞めちゃえば?」
🙅 「もっと強くならなきゃ」
🙅 「他の人はもっと大変だよ」
🙅 「詳しく話してよ、気になる」
🙅 「家のことも手伝ってよ」
🙅 「そんなこと気にしすぎ」
あなたのケア

支える側のあなたのケアも大切

支援者を支えるパートナー・家族は、『二次の二次』と呼ばれるほどの負担を背負うことがあります。相手を支えながら、自分自身のケアも忘れないでください。

  • 🕊 自分の趣味・友人関係・楽しみを手放さない
  • 💬 支援者家族の自助グループに参加する選択肢もあります
  • 🏥 自分もカウンセリングを受けてよい
  • 🧭 『すべてを受け止めなければ』と思わなくていい
  • 🆘 限界を感じたら、相手のEAPや信頼できる第三者に相談する
あなたの存在が最大の保護因子研究では、良好な家族関係・親密なパートナーシップは、STSに対する最強の保護因子の一つです。特別なことをしなくても、『あなたがそこにいてくれる』ことが、支援者にとっての回復力そのものになります。
FAQ

よくある質問

家族からよく寄せられる6つの疑問にお答えします。

  • Q. 支援者の仕事を辞めさせたほうがいいですか?A. 本人の意思を尊重してください。多くの支援者にとって、仕事は使命でありアイデンティティでもあります。辞めさせるのではなく、『休む』『業務調整』『専門的ケアを受ける』という選択肢を一緒に考えましょう。
  • Q. 本人は『大丈夫』と言うのですが、明らかに不調ですA. 支援者は『助ける側』であることに慣れているため、『助けられる側』になることに抵抗があります。正論で説得するより、『一緒に産業医に行ってみない?』『話を聞いてくれる友達を紹介しようか』といった具体的な提案が効くことがあります。
  • Q. 子どもにはどう説明すればいいですか?A. 『お父さん/お母さんは大切なお仕事をしていて、今ちょっと疲れている』『あなたが悪いんじゃないよ』と、年齢に応じて伝えてください。子どもは家族の不調の原因を自分に帰属させがちなので、明示的に安心させることが大切です。
  • Q. パートナーが帰ってきても話を聞いてくれず、寂しいですA. それは本人の問題ではなくSTSの症状です。ただ、あなたの寂しさも本物で、大切な気持ちです。一方的に我慢し続ける必要はありません。落ち着いた時に『最近あまり話せなくて寂しい』と素直に伝えてみてください。
  • Q. 家族である私もうつっぽくなってきましたA. それは珍しいことではありません。支援者家族自身が不調になることは研究でも報告されています。ご自身もカウンセリングや医療機関に相談してください。『共倒れ』を防ぐために、あなたのケアは最優先事項です。
  • Q. STSは治りますか?A. はい、治療可能な状態です。適切な休養・専門的ケア・組織的支援により、多くの支援者が回復し、より成熟した形で現場に戻っています。時間はかかりますが、希望はあります。

一人で抱え込まないでください

支援者のあなたが倒れれば、あなたが助けたい人たちも失われます。『助けを求めること』はプロフェッショナルの条件です。匿名・無料でチャット相談できます。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科・産業医・EAPへのご相談をご検討ください。

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