メンタルヘルス用語辞典 · IPV

パートナーへの暴力(IPV)とは?
DVとの違い・4類型・サイクル理論・影響・相談先・保護命令まで解説

IPV(Intimate Partner Violence)は、配偶者・事実婚・恋人・元交際相手など親密な関係にある相手から受ける身体的・精神的・性的・経済的暴力の総称です。定義、DVとの関係、4類型、周囲が気づけるサイン、Lenore Walkerのサイクル理論、背景・原因、心身・子ども・生活への影響、安全に離れるためのステップ、2024年改正で拡大された保護命令、回復のプロセス、主要な相談窓口まで、必要な情報をすべてここにまとめました。

ABOUT IPV

IPV(パートナーへの暴力)とは

IPV(Intimate Partner Violence)は、配偶者・事実婚パートナー・恋人・元交際相手など、親密な関係にある相手から受ける身体的・心理的・性的・経済的暴力の総称です。DV防止法の対象となる『配偶者等からの暴力』とほぼ同義で、世界保健機関(WHO)も重大な公衆衛生・人権問題と位置づけています。

定義とDVとの関係

IPVとDV、呼び方の違いと共通点

IPV(Intimate Partner Violence)は国際的な学術・医療分野での標準用語で、WHO・米国CDC・世界各国のガイドラインで採用されています。日本で一般に使われる『DV(Domestic Violence)』は家庭内暴力全般を指す広い語で、IPVはその中核部分にあたる『親密なパートナー間の暴力』です。法律上、日本のDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の対象は『配偶者(事実婚含む)および生活の本拠を共にする交際相手』であり、これがIPVに最も近い範囲です。

『うちはDVじゃない』と思っていませんか?『殴られていないからDVではない』は誤解です。IPVには身体的暴力・心理的暴力・性的暴力・経済的暴力の4類型があり、どれか1つでも当てはまればIPVです。特に心理的暴力・経済的暴力は可視化されにくいため、被害者自身が『自分の思い違いかも』と感じていることが珍しくありません。
最新統計

IPVの最新統計——『身近にある問題』

内閣府男女共同参画局の発表によると、令和6年度の配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は約12.8万件で、前年度から微増。配偶者・交際相手からの暴力経験率は、女性で約22.5%(約4人に1人)、男性で約10.5%(約10人に1人)とされており、性別を問わずIPVが広く存在していることが示されています。警察が受理したDV相談も9,000件超に達しています。

12.8万件
令和6年度 配偶者暴力相談支援センター相談件数
22.5%
女性の約4人に1人がパートナーからの被害経験あり
10.5%
男性の約10人に1人もまた被害経験あり
⚠️
相談件数は氷山の一角実際に相談に至るケースはごく一部で、『自分が我慢すればいい』と考えて声を上げられない人が多数います。あなたの経験も『統計には出ない多数』の一人かもしれません。相談することは弱さではなく、自分と家族を守る力です。
法制度の歩み

DV防止法の成立から現在まで

日本のIPV対策は、2001年のDV防止法成立によって本格的に始まりました。それまでは『家庭内の問題』として公的介入が困難でしたが、同法により配偶者暴力相談支援センターの設置、保護命令制度、一時保護、自立支援などが整備されました。

  • 2001年DV防止法成立。配偶者暴力相談支援センター設置、保護命令制度の新設
  • 2004年改正。元配偶者・面前DVを対象に追加。基本方針を策定
  • 2007年市町村基本計画の策定を努力義務化。電話等禁止命令の新設
  • 2013年『生活の本拠を共にする交際相手』を対象に追加(事実上のデートDVへの拡大)
  • 2019年児童虐待との連携強化、被害者の自立支援を明記
  • 2024年改正法施行。接近禁止命令の対象を『自由・名誉・生活平穏を害する脅迫』にまで拡大、命令期間も6ヶ月から1年に延長
💡
2024年の改正により、身体的暴力の直接の恐れがなくても、言葉の脅迫や精神的暴力を根拠に保護命令を出せるようになりました。保護の網が広がっています。

国際的にも、WHOは2013年の報告書で『パートナーからの暴力は女性の暴力被害の最大の類型』と位置づけ、加盟国に対しIPVの予防・対応体制の整備を求めています。日本のDV防止法はこうした国際潮流と連動して改正を重ねてきましたが、加害者プログラムの公的実施、シェルター運営の安定財源、男性被害者の支援、LGBTQ+カップルへの対応など、残された課題は少なくありません。支援制度を『使いこなす』ためにも、まずは『#8008』『DV相談+』という最初の扉を知っておくことが重要です。

TYPES

IPVの4類型

IPVは身体的・精神的・性的・経済的の4類型に分類されます。実際には複数が組み合わさって起き、単独で起きることはまれです。『殴られていないから違う』とは限りません。

4類型の概要

4つの暴力——身体・精神・性・経済

統計上、相談件数の多くは『身体的+精神的』の複合型です。経済的暴力は専業の配偶者に、性的暴力は年齢・性別を問わず起こります。

💥
身体的暴力(Physical IPV)
殴る・蹴る・刃物で脅す・首を絞める・物を投げつける・髪を引っ張るなど、身体に直接危害を加える行為。殺害・重傷に至る最も可視化された暴力です。警察が介入する典型的なケースでもあります。『一度だけ』であっても身体的暴力は身体的暴力であり、エスカレートする可能性があります。
💬
精神的・心理的暴力(Psychological IPV)
暴言・侮辱・脅迫・無視・人前での恥辱・外出の制限・友人関係の遮断・宗教や趣味の支配・『お前は何もできない』といった繰り返しの否定など、目に見えない形で心と尊厳を壊していく暴力。外からはほとんど見えないため、長期間にわたって被害が続きやすい類型です。
🔞
性的暴力(Sexual IPV)
同意のない性行為・避妊に協力しない・性行為を取引材料にする・妊娠を強要する・望まない中絶を強要する・性的な画像を撮影・流布するなど。『夫婦だから同意は必要ない』という誤解がありますが、2023年の刑法改正により婚姻関係にあっても同意のない性行為は不同意性交等罪に該当します。
💰
経済的暴力(Economic IPV)
生活費を渡さない・働くことを禁じる・配偶者の収入を取り上げる・借金を肩代わりさせる・クレジットカードの利用を監視・制限するなど、経済的に支配し自立を妨げる行為。被害者が逃げられない最大の要因のひとつであり、特に専業主婦・主夫に多い類型です。
各類型の詳細

具体例で見る4つの暴力

タブを切り替えて、各類型の具体例を確認してください。どれか一つでも当てはまればIPVに該当します。

💥身体的暴力(Physical IPV)

殴る・蹴る・刃物で脅す・首を絞める・物を投げつける・髪を引っ張るなど、身体に直接危害を加える行為。殺害・重傷に至る最も可視化された暴力です。警察が介入する典型的なケースでもあります。『一度だけ』であっても身体的暴力は身体的暴力であり、エスカレートする可能性があります。

具体例
  • 拳・平手で殴る
  • 首を絞める・口をふさぐ
  • 刃物や道具で脅す
  • 階段から突き落とす
  • 妊娠中でも殴る・蹴る
  • 寝ている間に襲う
  • ペットを傷つけて威嚇する
⚠️
『モラハラ』と『DV』の境目『モラハラ(モラルハラスメント)』は心理的IPVとほぼ同義です。『殴っていないからDVではない』という言葉は、被害を矮小化する文化の残り香です。暴言・無視・支配は、身体的暴力と同じく尊厳を壊す暴力です。

心理的IPVの中でも近年注目されているのが『ガスライティング』と呼ばれる支配手法です。『そんなこと言っていない』『お前の記憶違いだ』『お前は頭がおかしい』——と繰り返し言われることで、被害者は自分の認識・記憶・判断に自信を失い、加害者の言葉を『正しい』と受け入れるようになります。ガスライティングは暴力の物理的痕跡を残さないため、外部から発見されにくく、被害者自身も『自分が悪いのかもしれない』と思い込みやすいのが特徴です。『話せば話すほど自分がおかしいと感じる関係』は、危険信号です。

経済的暴力についても、日本ではまだ『モラハラの一種』としか捉えられていない側面があります。しかし、通帳・カード・収入の完全管理、働くことの禁止、離婚時の財産開示拒否、借金の押し付けなどは、明確に経済的な支配・暴力であり、国際的にはIPVの独立した類型として位置づけられています。特に専業主婦(夫)、高齢期の配偶者、在留資格を配偶者に依存する外国人パートナーは経済的暴力の影響を強く受けやすく、『逃げたくても金がない』という状況を生み出します。離婚時には財産分与・年金分割・婚姻費用分担請求などの法的手段があることを知っておいてください。

SIGNS

周囲が気づける、被害のサイン

IPV被害者自身は『私が悪いのかも』と思い込み、自分では声を上げにくくなっています。だからこそ、家族・友人・同僚など周囲の『気づき』が重要な入口になります。

6つのサイン

身近な人に現れる6つのサイン

以下のサインが複数・長期にわたって現れていたら、IPV被害の可能性を考慮してください。1つだけでは判断せず、全体として『普段と違う』様子を観察します。

🩹
説明のつかないあざ・けが
繰り返し顔・腕・背中などにあざや傷が見える。本人は『転んだ』『ぶつけた』と説明するが状況と一致しない。ファンデーションや長袖で隠している。
😶
表情が乏しく、いつも緊張している
会話の途中で夫(妻)の反応を伺う。夫が部屋に入ると急に口調が変わる。笑顔が不自然で、肩や顔がこわばっている。
📵
連絡が極端に減った・途絶えた
以前はまめに連絡をくれた友人・家族から返信が来なくなった。SNSを急に削除した。誕生日や集まりを理由をつけて欠席するようになった。
💸
自由に使えるお金がない
『小遣いをもらっている』『カードは持たせてもらえない』といった話。買い物のたびに夫(妻)に許可を取る。美容院・医療費を我慢している。
🚪
自宅に招かれなくなった
以前は普通に家に招いていた人が、急に『家は散らかっているから』と言い続ける。夫(妻)の機嫌を理由に来訪を断る。外で会うことしかしなくなった。
🧒
子どもの様子がおかしい
子どもが怯えた様子・退行・情緒不安定を見せる。面前DVで子どもも精神的虐待を受けている可能性。学校で落ち着きがなくなった。
『おせっかい』を恐れないで『プライベートに踏み込むのは失礼かな』と感じるかもしれません。でも、DV被害者の多くは『誰かに気づいてほしかった』と後から語ります。『最近大丈夫?』の一言が、閉じられた関係の中にわずかな光を届けます。

被害者自身にも気づきのチェックポイントがあります。『パートナーの機嫌を過剰にうかがってしまう』『自分の発言・服装・交友関係を常に事前に検閲してしまう』『友人や家族に本当のことを言えない』『自分の時間・お金・判断の自由がほとんどない』『パートナーが怖いのに別れられない』——このような状態は、あなたが悪いのではなく、IPVの影響下に置かれている可能性があります。『私は大げさかもしれない』という感覚そのものが、長期的な支配の結果であることがよくあります。

⚠️
デジタルストーキングにも注意近年はGPS・監視アプリ・SNS連携による『見えない監視』が増えています。スマホに知らない管理アプリが入っている、パートナーがあなたの位置情報を常に把握している、SNSのパスワードを共有させられている——これらはすべてデジタル面でのIPVに該当します。相談前にスマホのセキュリティ設定を見直し、可能であれば支援機関と一緒に安全な連絡手段を準備してください。
CYCLE

暴力のサイクル——なぜ逃げられないのか

IPVの関係には、緊張期→爆発期→ハネムーン期→再緊張期の4フェーズのサイクルがあります。『いい人なのに時々暴力をふるう』という矛盾は、このサイクル理論で説明できます。

Walkerの理論

Lenore Walkerの暴力サイクル理論

心理学者Lenore Walkerの提唱した『暴力のサイクル理論』は、IPVの典型的なパターンを説明する古典的モデルです。サイクルが繰り返されるほど、ハネムーン期は短くなり、爆発期は激しくなる傾向があります。

PHASE 1
緊張期
ささいなことで不機嫌に。被害者は『機嫌を取る』ために細心の注意を払う。
PHASE 2
爆発期
暴力・暴言が爆発する時期。数分〜数時間の出来事でも深刻なダメージ。
PHASE 3
ハネムーン期
『もう二度としない』と涙を流し謝る。プレゼント・旅行の提案。『昔の優しい人』が戻ってくる。
PHASE 4
再び緊張
サイクルの繰り返し。期間は徐々に短くなり、暴力は激化していく傾向がある。
ハネムーン期こそ『最も逃げにくい時期』ハネムーン期の優しさに触れた直後は『もう治るかもしれない』という希望が生まれ、逃げる決断を下しにくくなります。しかし、これはサイクルの一部であり、『本当の姿』ではありません。希望と現実の区別は、専門家の助けを借りて整理できます。
CAUSES

背景と原因——なぜIPVは起きるのか

IPVは『特別な悪い人』の問題ではなく、加害者の心理、関係性の力学、社会・文化的な背景が複雑に絡み合って生まれます。構造を理解することで、予防と支援の道筋が見えてきます。

3領域の背景

加害者心理・関係性・社会構造

タブを切り替えて、3つの領域を確認してください。どれか1つだけで起きるのではなく、重なることで強化されていきます。

🧠加害者側の心理要因

加害者の多くは低い自己肯定感や幼少期の暴力体験、怒り・嫉妬の制御困難、支配欲、男尊女卑的な価値観などを抱えています。『愛している』気持ちと『支配したい』欲求が混在するのが特徴。職場ではむしろ温厚・優秀と評価される人も多く、『家庭内だけの別人格』が加害者像の典型です。

  • 幼少期のDV目撃・被虐待経験
  • 低い自己肯定感
  • 怒り・嫉妬の制御困難
  • 男尊女卑・家父長制的な価値観
  • 飲酒問題・薬物依存
  • 精神疾患(反社会性・自己愛性パーソナリティ障害など)
  • 職場ストレスの家庭持ち込み
💡
『被害者側の問題』は原因ではないかつて『被害者に原因がある』という誤った言説がありましたが、現在の学術的コンセンサスは明確に否定しています。暴力を選ぶのは常に加害者の責任であり、被害者のふるまいが暴力を正当化することはありません。

『なぜ逃げないのか』という問いは、IPVの構造を理解すれば自然に変わっていきます。被害者が逃げられない理由には、恐怖(逃げた後の報復)、経済(生活の基盤が加害者依存)、子ども(親権・養育・面会の問題)、愛情(サイクル理論によるハネムーン期への期待)、孤立(支援者とのつながりが切られている)、自己否定(『自分なんて』という思い込み)、社会的スティグマ(『離婚は恥』という周囲の目)、法的知識の不足(保護命令・支援制度を知らない)など、複数が重なり合っています。つまり『逃げないのはおかしい』のではなく、『逃げられない状況』が作られているのです。支援とは、この構造の一つひとつに丁寧に対応し、『逃げられる道』を一緒に組み立てていく仕事です。

加害者プログラム(バタラー介入プログラム)は、欧米では1980年代から実施されており、Duluthモデル・認知行動療法モデル・ナラティブモデルなど複数のアプローチがあります。エビデンス上、一定の効果はあるものの、『完治』を保証するものではなく、被害者の安全確保が前提であることに変わりはありません。日本では一部の民間団体・研究機関がプログラムを提供していますが、公的な実施体制はまだ整っていません。加害者側の責任を問い、行動変化を促す取り組みは、IPV予防のもう一つの重要な柱です。

IMPACT

IPVが心身・子ども・生活に与える影響

IPVの影響は『今の苦しみ』にとどまりません。脳と身体、精神、子どもの発達、仕事、生命まで広範囲に及びます。同時に、離れた後に適切な支援を受ければ、回復も可能です。

6つの影響

心・身体・家族・生命への広がり

WHOの調査によると、IPV被害者は非被害者に比べて、うつ病リスクが約2倍、自殺企図リスクが約3倍、アルコール乱用リスクが約2倍、早産・低出生体重児リスクが約1.5倍になるとされています。

🧠
脳と身体への慢性的な影響
長期にわたる恐怖・ストレスは、脳の扁桃体を過敏にし、海馬を萎縮させる、コルチゾール分泌を乱すといった生理的変化をもたらします。慢性頭痛・胃腸障害・免疫低下・心血管疾患のリスクが上がることも疫学研究で報告されています。
🌀
PTSD・複雑性PTSD
フラッシュバック、過覚醒、回避、解離、感情制御困難、対人関係の困難、否定的な自己イメージなど、複雑性PTSDの症状群が形成されやすくなります。離れた後も数年にわたって症状が続くことがあります。
😔
うつ病・不安障害
DV被害者はうつ病の有病率が非被害者の2〜4倍、自殺企図リスクが3〜4倍になるとの研究があります。『自分が悪い』『自分は価値がない』という認知の歪みが深く根を張り、治療介入が必要になるケースが多くあります。
👶
子どもへの影響(面前DV)
子どもの目の前での暴力は、2004年の改正DV防止法で心理的虐待と明記されています。目撃した子どもは脳の視覚野の体積が変化し、PTSD、発達の遅れ、情緒不安定などの症状を示すことが知られています。
💼
仕事・社会生活への影響
通院・休業・転居の必要により、仕事を続けられなくなるケースは少なくありません。経済的自立の喪失はさらに逃げることを困難にし、悪循環を生みます。
💀
最悪の場合、生命の危険
DVは殺人に発展することがあります。警察庁の統計では、夫婦・交際相手間の殺人未遂事件は毎年発生しており、被害者が女性である割合が非常に高いことが知られています。別れ話のタイミングは最も危険な時期とされており、単独で対処すべきではありません。
⚠️
離れるタイミングこそ最も危険研究では、被害者が加害者から離れようとする瞬間(別居・離婚の意思表示・シェルター入所の直前)に重大事件が起きやすいことが知られています。一人で『話し合って終わらせよう』とせず、必ず支援機関や警察と計画を立ててから行動してください。
回復のプロセス

離れたあとの回復——4つのフェーズ

IPVから離れたあと、被害者は『安全の確保』→『感情の揺り戻し』→『自己の再構築』→『統合と前進』という4つのフェーズを辿ることが多いとされています。『離れればすぐに元気になれる』わけではなく、回復には時間が必要です。途中で加害者を懐かしく思うような揺り戻しがあっても、それは回復のプロセスの一部であり、あなたの決断が間違っていたわけではありません。

PHASE 1
安全の確保
まずは身体的・心理的に安全な場所に身を置くこと。シェルター入所、実家への避難、保護命令の申立てなど、物理的な距離と法的保護を確保する段階です。この段階では『離れたのに落ち着かない』『眠れない』『加害者の気配を感じる』など、過覚醒症状が強く出ることがあります。
PHASE 2
感情の揺り戻し
安全な環境に入ると、それまで抑えていた感情が一気に噴き出すことがあります。怒り、悲しみ、罪悪感、加害者への愛情、自己嫌悪——矛盾する感情が同時に押し寄せ、混乱することもあります。この時期にはカウンセリングやピアサポートが特に役立ちます。
PHASE 3
自己の再構築
『自分は何が好きか』『何をしたいか』といった、長く抑え込まれてきた自分自身の輪郭を取り戻していく段階。趣味・仕事・人間関係・経済的自立など、一つひとつ『自分の選択』を積み重ねていきます。ここまでくるのに数ヶ月〜数年を要することもあります。
PHASE 4
統合と前進
過去の被害経験を『自分の一部』として受け入れ、未来に向けて進む段階。同じ経験をした人の支援活動に関わる人もいれば、静かに新しい生活を築く人もいます。大切なのは『もう被害者ではなく、生還者(サバイバー)である』という自己認識です。

回復を支える大きな要素は、①安全な環境、②否定せずに話を聴いてくれる存在、③専門的なトラウマケア、④経済的自立、⑤同じ経験をした仲間とのつながり(ピアサポート)の5つです。カウンセリング、EMDR、トラウマ焦点型認知行動療法などのエビデンスある治療法も選択肢に入ります。回復のスピードは人それぞれです。数ヶ月で日常を取り戻す人もいれば、数年かけてゆっくりと自分を取り戻す人もいます。『早く元気にならなきゃ』と焦る必要はまったくありません。

『サバイバー』という言葉英語圏ではDV被害を経験した人を『victim(被害者)』ではなく『survivor(生還者)』と呼ぶことが一般的です。あなたは、暴力を受け続けながらも生き延びてきた人です。その事実そのものが、あなた自身の強さの証拠です。回復は、『失ったものを取り戻す』だけでなく、『新しい自分を築く』プロセスでもあります。
SAFE EXIT

安全に離れるためのステップと保護命令

IPVから安全に離れるためには、準備と支援が不可欠です。衝動的に家を出るのではなく、計画を立て、専門機関と連携し、法的保護も視野に入れてください。

5ステップ

離れるまでの5つのステップ

以下はあくまで一般的な流れです。個別の状況により順序や内容は変わるため、必ず配偶者暴力相談支援センターなどの専門家と一緒に計画してください。

STEP 1
安全計画を立てる
離れるタイミング・持ち出す物(通帳・保険証・身分証・印鑑・着替え・薬)・逃げ先(実家・シェルター・友人宅)を事前に決めます。携帯のGPS履歴には要注意。
準備が最重要
STEP 2
配偶者暴力相談支援センターに相談する
各都道府県に設置されている公的相談機関。電話での匿名相談から、面談、シェルター入所、法的手続きの支援まで一貫して対応します。『#8008』で最寄りにつながります。
公的支援の入口
STEP 3
一時保護・シェルターへ
緊急性が高い場合、配偶者暴力相談支援センターや婦人相談所を経由してシェルター(一時保護所)に入所できます。住所は秘匿され、加害者からは分からない仕組みです。
住所秘匿・安全確保
STEP 4
保護命令を申し立てる
裁判所に申し立てて、加害者に接近禁止命令・退去命令・電話等禁止命令を出してもらえます。違反すれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金。弁護士・支援センターがサポート。
裁判所の命令
STEP 5
住民票の閲覧制限・DV被害者支援
住民票・戸籍の附票を加害者が閲覧できないよう自治体に申し出ます(支援措置)。健康保険・年金・子どもの転校・保育園入園などの手続きもセンターが支援します。
住所特定の防止
保護命令

保護命令制度——裁判所による接近禁止

保護命令は、地方裁判所が加害者に対して発する命令で、DV防止法に基づきます。主な内容は次のとおりです。

  • 接近禁止命令加害者に、被害者の身辺につきまとう・住居や勤務先近くで徘徊することを禁止(2024年改正により6ヶ月→1年)
  • 退去命令共同生活していた住居からの退去を命令(2ヶ月間)
  • 電話等禁止命令電話・メール・LINE・SNS・GPS追跡などの連絡や監視を禁止
  • 子への接近禁止命令同居の子どもへの接近も禁止
  • 親族等への接近禁止命令被害者の親族・関係者への接近も禁止

違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金。申立ては地方裁判所に行い、診断書や相談記録が証拠として重要になります。手続きは配偶者暴力相談支援センター・法テラス・弁護士が支援します。

2024年の改正で、身体的暴力の直接の恐れがなくても、自由・名誉・生活の平穏を害する脅迫を受けている場合に保護命令を申し立てられるようになりました。精神的暴力のみのケースでも法的保護の道が開かれています。

実際の申立ては、①配偶者暴力相談支援センター・警察・法テラス・弁護士のいずれかに相談し、②陳述書(被害の経緯)を作成し、③地方裁判所に申立書を提出し、④裁判所の審理(原則として1週間以内に審尋)を経て、⑤命令発令という流れです。裁判所の手数料は1,000円程度と低額で、法テラスを利用すれば弁護士費用の立替制度もあります。発令率は約8〜9割と高く、要件を満たしていれば命令が出される可能性は十分にあります。『裁判所に行くのは敷居が高い』と感じるかもしれませんが、実際は支援機関が同行・代理してくれるケースも多く、一人で手続きを進める必要はありません。

『証拠がないから無理』と思い込まないで保護命令の申立てに必要な証拠は『完璧な記録』ではありません。医師の診断書、相談記録、LINE・メールのスクリーンショット、日記のメモ、録音、第三者の目撃証言など、積み重ねられた複数の証拠が総合的に評価されます。証拠がないと感じていても、相談員と一緒に整理すれば『実は証拠があった』というケースは少なくありません。まずは相談から始めてください。
SUPPORT

支援制度と相談窓口

IPV被害者のためには、相談・保護・自立までを一貫して支援する公的な仕組みが整っています。まずは『#8008』『DV相談+』への1本の電話から始めてください。

主な窓口

目的別に選べる6つの窓口

電話・SNS・メール・対面など、利用しやすい手段を選んでください。複数の窓口を並行利用しても構いません。

📞
DV相談ナビ『#8008』
全国共通短縮ダイヤル。24時間、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
▸ #8008・全国共通
💬
DV相談+(プラス)
24時間対応の電話(0120-279-889)・メール・SNSチャット相談。10カ国語の通訳対応もあり、外国人被害者にも開かれています。
▸ 0120-279-889・多言語
🏛
配偶者暴力相談支援センター
都道府県・政令市・中核市に設置。相談、カウンセリング、一時保護、自立支援、情報提供、証明書発行まで一貫支援。
▸ 公的総合窓口
🚨
警察(110 または #9110)
緊急時は110番、緊急でない相談は#9110。DV事案には専門の担当者が対応します。保護命令の申し立てにも協力。
▸ 緊急・非緊急両対応
法テラス(日本司法支援センター)
DV・離婚・保護命令などの法律相談を無料で受けられる(収入要件あり)。弁護士費用の立替制度もあります。
▸ 0570-078374
🌸
よりそいホットライン
24時間・通話料無料(0120-279-338)。DV・女性・性暴力・外国語対応などの専門ラインが用意されています。
▸ 0120-279-338
相談は『離婚する』ための電話ではありません『離婚する決心がついていないから相談できない』と思う必要はありません。『どうしたらいいか分からない』『まずは話を聴いてほしい』——その段階からの相談を、センターは歓迎しています。

経済的自立の支援として、母子家庭等就業・自立支援センター、生活保護、児童扶養手当、住宅確保給付金、母子父子寡婦福祉資金貸付、ハローワークのマザーズコーナーなどの制度があります。これらはDV被害者も優先的に利用できるケースが多く、配偶者暴力相談支援センターと連携すれば、子どもの転校・保育園の優先入園・医療費助成までワンストップで案内してもらえます。『制度が多すぎて分からない』という状態こそ、相談員の出番です。

💡
医療機関もIPV発見の窓口怪我や体調不良で受診した病院・クリニックには、DV被害を発見したら支援機関につなぐ通告義務・努力義務があります。『誰にも言えない』と思っていた被害も、医師・看護師に打ち明けることで、安全な次の一歩につながることがあります。産婦人科・救急科・小児科では特に訓練を受けたスタッフが配置されていることもあります。
FOR FAMILY & FRIENDS

周囲の人ができること

家族・友人・同僚がIPVに気づいたとき、どう接すればよいか——その一言が、被害者を救う入口になることがあります。『何もできない』と感じる必要はありません。

関わり方

してよいこと・してはいけないこと

よかれと思った言葉が、かえって追い詰めることがあります。以下を参考にしてください。

✓ してよいこと
『あなたは悪くない』と伝える
話を否定せずに聴く
相談窓口の情報を渡す
いつでも逃げ込める場所を用意する
定期的に連絡を取り続ける
緊急時は110番に通報する
✗ してはいけないこと
『なぜ離婚しないの』と責める
『あなたにも原因が』と言う
加害者と直接対峙しに行く
本人の意思を無視して決定する
SNSで事情を広める
見て見ぬふりをする
💡
『話を聴く』ことそのものが大きな支援です。決断を急かさず、本人のペースを尊重しながら、選択肢があることだけを伝え続けてください。

IPV被害者を支える側も、無理をしすぎないことが重要です。話を聴くことで自分自身が動揺したり、眠れなくなったり、加害者への怒りが湧いてきたりすることは自然な反応です。『支援者の二次受傷』と呼ばれるこの状態は、長期的に関わる上で誰にでも起こりうるものであり、必要に応じてあなた自身もカウンセリングやピアサポートを利用してください。『支える人が倒れない仕組み』こそ、持続的な支援を可能にします。被害者に寄り添う道は短距離走ではなく、時には何年もかかる長距離走であることを、心に留めておいてください。

もし相手が『やっぱり戻る』と言ったらあなたが時間と力を使って支援しても、被害者が加害者のもとに戻る決断をすることはあります。それは珍しいことではなく、サイクル理論の中で繰り返し起こる現象です。そのとき、支援者として『裏切られた』と感じたり、『もう関わらない』と突き放したりせず、『いつでも戻ってきていいよ』という扉を開けておくことが何よりの支えになります。最終的に離れる決断ができるまで、平均して7回の『戻り』を繰り返すとも言われています。
FAQ

よくある質問

Q. DVとIPVは何が違うのですか?

A. DV(Domestic Violence)は『家庭内暴力』の意味で、広義には親子間・きょうだい間の暴力も含みます。IPV(Intimate Partner Violence)は『親密なパートナー間の暴力』の意味で、夫婦・事実婚・恋人・元交際相手などを対象とします。国際的にはIPVが学術用語として定着しつつあり、WHOや米国CDCはIPVを公式用語として使っています。日本の法律ではDV防止法が『配偶者(事実婚含む)・生活の本拠を共にする恋人』を対象としており、IPVの一部に相当します。

Q. 『一度だけ殴られた』でもDV/IPVですか?

A. はい、一度でも身体的暴力はIPVに該当します。『カッとなっただけ』と本人・加害者が軽視するケースは多いですが、一度起きた身体的暴力は統計的にほぼ確実に再発します。『次はない』と思っても、数週間〜数ヶ月後に再び起きることがほとんどです。早期に専門機関に相談しておくことが、エスカレートを防ぐ唯一の方法です。

Q. 子どもがいるので離婚できません。どうすれば?

A. 子どもがいることは、むしろ支援につながる理由になります。子どもの前でのDV(面前DV)は心理的虐待として児童相談所の介入対象でもあり、DV支援と児童相談所が連携して動くことができます。経済的自立、住居の確保、養育費・面会交流の法的手続き、保育園・学校の転校支援など、一連の流れを配偶者暴力相談支援センターで相談できます。『一人で解決する必要はない』ことをまず知ってください。

Q. 夫(妻)は職場では優しいと評判です。私の思い違いでは?

A. DV加害者の多くは家庭の外では温和・真面目・優秀と評価されることが珍しくありません。『家庭内だけで見せる顔』があるのがDVの特徴です。外から見える姿と家庭内の姿のギャップは、周囲に話しても信じてもらえない苦しさを生みます。専門の相談窓口は、その構造をよく理解しており、あなたの話をそのまま受け止めてくれます。

Q. 保護命令って具体的に何ができる制度ですか?

A. 保護命令は地方裁判所が発する命令で、①接近禁止命令(6ヶ月間、被害者に近づくことを禁止)、②退去命令(2ヶ月間、共同生活している住居からの退去を命令)、③電話等禁止命令(電話・メール・SNSの連絡を禁止)、④子どもへの接近禁止、⑤親族等への接近禁止などが含まれます。違反すれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金。申立てには医師の診断書や相談の記録があると有利です。法テラスで弁護士の無料相談を受けられます。

Q. 加害者が更生プログラムに参加すると変わりますか?

A. 条件付きで可能性はあります。ただし、加害者が『自分に問題がある』と自発的に認め、長期にわたってプログラムに通い続けた場合に限られます。被害者が『私が頑張れば変わる』と期待して残ることは危険です。変化には数年単位の時間がかかり、その間に被害者の安全が守られる保証はありません。安全を最優先に、距離を取ったうえで加害者の変化を見守るのが原則です。

Q. 男性がIPVの被害者になることもありますか?

A. はい、あります。内閣府の調査では配偶者から暴力を受けた経験がある男性は10.5%(女性は22.5%)と報告されています。男性被害者は『男のくせに』という偏見から相談しにくく、潜在化している傾向があります。DV相談+、よりそいホットラインなどは男性の相談も受け付けています。『男性だからDV被害者ではない』ということはありません。

Q. 外国人配偶者ですが、離婚すると在留資格を失いますか?

A. 一定の条件を満たせば在留資格を維持できる制度があります。『日本人の配偶者等』『永住者の配偶者等』の在留資格で滞在している方で、DV被害により離婚に至った場合、『定住者』への変更が認められるケースがあります。出入国在留管理庁への相談、および外国人のためのDV相談窓口(DV相談+の10カ国語対応など)を活用してください。言語の壁で諦める必要はありません。

Q. 加害者を警察に通報したら、逆恨みされないか心配です。

A. 『通報したら余計にひどくなるのでは』という恐怖は被害者の多くが抱く自然な感情です。しかし警察への相談・通報そのものが記録として残ることは、あとの保護命令申立てや離婚調停で重要な証拠になります。緊急でない場合は『#9110』で相談専用窓口に、身の危険が迫る場合は110番へ。通報後の安全確保として、シェルター入所・住民票閲覧制限などを同時に進めることができます。単独で通報するのではなく、配偶者暴力相談支援センターと連携しながら段取りを組むのが原則です。

Q. 加害者が泣いて謝り、『もう二度としない』と約束しました。信じていい?

A. サイクル理論でいうハネムーン期の典型的な現象です。加害者は涙を流し、手紙を書き、贈り物をし、『本当は優しい人』の姿を見せます。被害者は『やっぱり夫(妻)は変われるんだ』という希望を持ち、逃げる決断を撤回しがちです。しかし研究によれば、専門的な加害者プログラムに長期間(最低でも半年〜数年)参加し続けないかぎり、行動パターンが根本的に変わることはきわめて稀です。『今回は違う』という感覚は、多くの場合サイクルの一部です。判断は一人でせず、必ず専門家と共有してください。

Q. DV被害に気づいた友人にどう声をかければよい?

A. まずは責めたり急かしたりせず、『心配している』『いつでも話を聞くよ』と伝えるだけで十分です。具体的なアドバイスや解決策を提示すると、被害者は『理解してもらえていない』と感じて距離を取ってしまうことがあります。話してくれたら、否定せずに最後まで聴く。『あなたは悪くない』『一人じゃない』と繰り返す。相談窓口の情報をそっと渡す。緊急時のために自分の連絡先を書いた紙を渡しておく——これらのシンプルな行動が、『声を上げてよい』という信号になります。

Q. LGBTQ+のカップル間でもIPVは起きますか?

A. もちろん起きます。米国の研究では、同性カップル間でもIPVの発生率は異性カップルと同等かそれ以上との報告があります。しかし『同性カップルのDVは社会に理解されにくい』『加害者が暴露(アウティング)をちらつかせて支配する』『男性同士のDVは軽視されがち』など、LGBTQ+特有の困難が重なります。日本でも、よりそいホットラインのセクシュアルマイノリティ専門ラインや、LGBTQ+支援団体がDV相談を受け付けています。『同性だから支援は受けられない』ということはありません。

Q. デートDVとIPVの違いは?

A. デートDV(デートバイオレンス)は『交際関係にある若年層の間で起きる暴力』のことで、IPVの若年層版と位置付けられます。結婚前・同居前の関係で起きるため、DV防止法の対象外となるケースがあり、支援制度の空白地帯になりがちです。しかし2013年改正により『生活の本拠を共にする交際相手』はDV防止法の対象となりました。高校生・大学生のデートDV被害率は約4割との調査もあり、若者への啓発・教育が急務とされています。

Q. 一時保護(シェルター)の生活はどのようなものですか?

A. 各都道府県の婦人相談所や民間シェルターは、加害者から身を守るための緊急避難施設です。所在地は非公開で、入所時には携帯電話・GPS機器の使用が制限されることがあります。原則2週間程度の短期入所が中心ですが、次の生活場所(母子生活支援施設、アパート確保など)が決まるまで延長されることもあります。食事・寝具・日用品は用意されており、子どもと一緒に入所できます。心理的ケアや自立支援プログラムも提供され、『次の一歩』を組み立てる安全基地として機能します。

Q. 相談するとき、何を準備しておけばよいですか?

A. まず、何も準備がなくても相談して大丈夫です。そのうえで、可能であれば①暴力を受けた日時・場所・状況のメモ、②ケガの写真(日付つき)、③病院の診断書、④加害者からの脅迫メール・LINEのスクリーンショット、⑤身分証・保険証のコピー、⑥通帳・印鑑の情報、などがあると法的手続きで役立ちます。ただしこれらを準備することで加害者に気づかれるリスクがある場合は、無理をせず、まず電話相談から始めてください。順序や方法は相談員が一緒に考えてくれます。

Q. 子どもが加害者を好きで、離れることに罪悪感があります。

A. 子どもが加害者を『好き』と感じることは自然なことであり、あなたの罪悪感を強めるものではありません。しかし面前DVを受けた子どもは、たとえ直接暴力を受けていなくても、脳の発達・情緒・対人関係に長期的な影響を受けることが多くの研究で示されています。『子どものために我慢する』が『子どものために離れる』に変わった例は少なくありません。児童相談所、配偶者暴力相談支援センター、スクールカウンセラーなどと連携しながら、子ども自身の気持ちもケアしつつ、安全な環境を整えていくことができます。

Q. 精神的な暴力だけで、身体的な暴力はありません。それでも相談していいですか?

A. はい、もちろん相談できます。精神的暴力は身体的暴力と同じくIPVの一類型であり、長期的にはPTSD・うつ病・自殺念慮などの重大な影響を及ぼします。2024年のDV防止法改正により、精神的暴力(自由・名誉・生活の平穏を害する脅迫)を受けている場合にも保護命令を申し立てられるようになりました。『殴られていないから大したことない』と自分の被害を軽視する必要はまったくありません。『傷は見えないけれど苦しい』——その状態こそ、支援の対象です。

Q. 加害者プログラムは日本にもありますか?

A. 数は限られますが、民間団体を中心にDV加害者向けの更生プログラムが運営されています。認知行動療法をベースに、怒りのコントロール、ジェンダー平等の学習、被害者視点の理解などを組み合わせたプログラムが中心です。ただし、加害者が自発的に参加し、長期にわたって継続することが前提であり、『参加すれば必ず変わる』わけではありません。被害者側は加害者の変化を期待して残るのではなく、自分自身の安全を最優先にしたうえで、距離を取りながら状況を見守ることが原則です。

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