メンタルヘルス用語辞典 · 性的暴力

性的暴力とは?
種類・心理的影響・治療・支援をわかりやすく解説

性的暴力(レイプ・痴漢・セクハラ・デートDV・性的虐待など)は、被害者の性別・年齢・服装に関係なく起こります。本ページでは、性的暴力の定義・種類・心理的影響(PTSD・うつ)・トラウマ反応の正しい理解・治療法・日常のセルフケア・周囲の人へのサポート方法・男性被害者・二次被害・支援制度まで、必要なすべての情報を網羅しています。

ABOUT SEXUAL VIOLENCE

性的暴力とは何か

性的暴力とは、相手の同意なく行われる一切の性的な行為・言動です。レイプや痴漢だけでなく、セクシャルハラスメント、盗撮、リベンジポルノなど多様な形態があります。性的暴力は被害者の性別・年齢・服装・行動に関係なく起こり、責任は100%加害者にあります。

定義

性的暴力の定義——同意なき性的行為はすべて暴力

性的暴力(Sexual Violence)とは、相手の明確な同意なく行われる一切の性的な行為・言動・接触・強制を指します。法律上の「性犯罪」に限らず、人の尊厳と性的自己決定権を侵害するあらゆる行為が含まれます。内閣府男女共同参画局は、性暴力を「強制性交に限らず、身体を触る、性的な言葉を投げかける、避妊をしないなどの個人の意に反した性的行為」と広く定義しています。

性的暴力は「見知らぬ人による突然の襲撃」というイメージが一般的ですが、実際には加害者の多くが被害者にとって顔見知り——恋人、配偶者、家族、友人、職場の同僚、教師など——です。また、性的暴力は女性だけでなく、男性・子ども・高齢者・障害者・性的マイノリティ(LGBTQ+)など、あらゆる人が被害者になりえます。

よくある誤解
性的暴力とは
「知らない人による突然のレイプだけ」「被害者が大げさに感じている」「はっきり抵抗しなければ被害ではない」「特定のタイプの人だけが被害を受ける」
実際の性的暴力
広範な形態と実態
「加害者の多くが顔見知り」「被害者の服装・行動は無関係」「フリーズ(凍りつき)は生物学的反応」「あらゆる人が被害者になりえる」「同意のない性的接触はすべて暴力」
⚠️
性的暴力の責任は100%加害者にあります被害者の服装、行動、時間帯、場所、飲酒の有無、過去の性的関係——これらはいずれも、性的暴力の責任を加害者から被害者に移すものではありません。同意のない性的行為の責任は、例外なく、100%加害者にあります。
統計データ

日本における性的暴力の実態

性的暴力の被害件数は、警察への届け出が極めて少ないため、公式統計(認知件数)は氷山の一角に過ぎません。研究者の推計によると、実際の性的暴力被害件数は届け出件数の何十倍にも及ぶと考えられています。

6人に1人
交際経験のある女性のうち、デートDV(交際相手からの性的暴力を含む)を経験した割合(内閣府調査)
54%
性的暴力被害者のうちPTSDを発症する割合。他の外傷体験被害者の10倍以上の発症率
約24万人
日本で年間、重大性犯罪(強姦・強制わいせつ等)被害を受けると推計される人数(調査から予測した数値)
4人に1人
女性のうち配偶者から何らかの暴力(性的暴力を含む)を経験した割合(内閣府男女間暴力調査)
70%超
性的暴行中に「身体が動かせなかった(フリーズ・トニック不動)」と報告した女性の割合(研究データ)
約7割
男性の性的暴力被害者が、誰にも相談しなかった割合(内閣府調査)
💡
届け出率の低さが示すもの内閣府の調査では、無理やり性交された経験のある女性のうち、警察に相談・届け出した割合はわずか約4%に過ぎません。医療機関への受診は約15%、誰かに相談した割合でも約60%であり、被害の多くが表面化していない現状があります。届け出率が低い主な理由は「恥ずかしかった」「自分が悪いと思った」「誰も信じてくれないと思った」「報復が怖かった」などです。
同意とは

性的同意——「ノー」がなければ「イエス」ではない

性的暴力を理解するうえで最も重要な概念が「同意(consent)」です。2023年の刑法改正により、日本でも「同意なき性行為は犯罪」という原則が明確化されました。では「同意」とは何を意味するのでしょうか。

同意とは何か

性行為における「同意」とは、すべての当事者が自由意思のもと、明確に(言葉または行動で)性行為に賛成していることを指します。同意は、脅迫・強制・恐怖・アルコール・薬物などの影響下での承諾ではありません。沈黙・無反応は同意ではありません。「ノーと言わなかった=イエス」ではありません。

同意は撤回できる

一度同意しても、いつでも撤回することができます。過去に性行為に同意したことは、将来の同意を意味しません。恋人や配偶者であっても、毎回の同意が必要です。同意を撤回した後に性行為を強行することは性的暴力です。

同意できない状況

アルコールや薬物の影響下にある人、睡眠中の人、意識を失っている人、脅迫や強制のもとにある人、権力関係(教師と生徒、上司と部下など)がある場合に立場の弱い側の人、18歳未満の子どもは、同意能力のある状態にありません。

日本の法改正(2023年)

2023年の刑法改正により、「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」に改正されました。「暴行・脅迫」がなくても、同意のない性行為はすべて犯罪となりました。これにより、フリーズ反応による抵抗の欠如が加害者の免責理由にならなくなりました。

「同意」は確認するもの性的な場面では「相手が嫌と言わなければOK」という受動的な姿勢ではなく、「相手が積極的にYESと意思表示しているか」を確認する能動的なコミュニケーションが必要です。同意は強制・脅迫・プレッシャーのない自由な状態で与えられなければなりません。
よくある誤解

性的暴力に関するよくある誤解と正しい理解

性的暴力に関する誤解(神話・ミュート)は、被害者への二次被害を生み出し、被害申告を困難にします。以下によくある誤解と正しい理解を整理します。

誤解:「本当の性暴力被害者はすぐに警察に届け出る」
正しい理解:届け出は非常に困難です。ショック、恐怖、羞恥心、自責感、加害者との関係性など多くの要因が届け出を妨げます。被害後何年も経ってから申告するケースは珍しくありません。
誤解:「抵抗しなかったなら同意していた」
正しい理解:フリーズ(凍りつき)反応は生物学的な防衛反応です。研究では性的暴行を受けた女性の70%以上が、被害中に身体が動かせなかったと報告しています。抵抗の欠如は同意の証拠ではありません。
誤解:「性的暴力は知らない人によって起こる」
正しい理解:被害者を知っている人(恋人・配偶者・家族・友人・職場関係者)が加害者であるケースが圧倒的多数を占めます。
誤解:「性的暴力は女性だけの問題」
正しい理解:男性・子ども・高齢者・障害者・LGBTQ+の人々も性的暴力の被害者になります。ただし、女性が被害を受ける割合は統計上高く、社会的なジェンダー不平等が背景にあることは重要な文脈です。
誤解:「性的暴力は衝動的な犯罪」
正しい理解:多くの性的暴力(特に顔見知りによるもの)は計画的・段階的に行われます(グルーミング)。また、加害者は自分の行為が「暴力ではない」と自己正当化していることが多いです。
誤解:「すぐに立ち直れなければ弱い」
正しい理解:性的暴力は深刻なトラウマであり、回復には時間がかかります。症状(PTSD、うつ、フラッシュバック)は弱さではなく、異常な出来事への正常な反応です。
TYPES OF SEXUAL VIOLENCE

性的暴力の種類と特徴

性的暴力は単一の行為ではなく、多様な形態で存在します。レイプや痴漢から、デートDV、セクシャルハラスメント、子どもへの性的虐待、リベンジポルノまで、すべて被害者の意に反した性的行為です。

性的暴力のあらゆる形態に共通するのは、「相手の同意なく行われる」という点です。被害の形態によって心理的影響や求められる支援が異なるため、各形態の特徴を正しく理解することが重要です。

強制性交・レイプ
同意なく性行為を強制する行為です。見知らぬ人による「見知らぬ人レイプ」だけでなく、知人・友人・恋人・配偶者によるケースが多数を占めます。内閣府の調査によると、無理やり性交された女性のうち加害者が「交際相手」「配偶者」「元交際相手」「知人・友人」であった割合が大半を占めており、「見知らぬ他人」によるレイプは少数派です。被害者がすぐに被害を認識できなかったり、加害者への感情(愛情・恐怖・依存)があるために被害の届け出が困難になるケースが多くあります。
最も深刻な性的暴力知人間で多い届け出率が極めて低い
性的ハラスメント(セクハラ)
職場・学校・地域社会などにおいて、相手の意に反する性的な言動を行うことです。性的な冗談・発言、身体への不必要な接触、性的な内容のメールや画像の送付、性的関係の強要などが含まれます。職場における優越的な地位・権力関係を利用した場合はパワーハラスメントと重複します。学校における教師から生徒、先輩から後輩への性的ハラスメントも深刻な問題です。
職場・学校で発生権力関係が関与被害を申告しにくい
痴漢・盗撮
公共の場(電車内、駅、路上、店内など)で他者の身体に性的な目的で無断で触る行為(痴漢)や、性的な目的で他者の姿を無断で撮影する行為(盗撮)です。日本では痴漢被害の多くが電車内で発生しており、特に通勤・通学時間帯に集中しています。警察庁の統計では、不同意わいせつ(旧強制わいせつを含む)の検挙件数は年間数千件にのぼりますが、実際の被害件数はその何十倍とも推計されています。
公共の場で発生暗数が多い繰り返し被害が起きやすい
デートDV(恋人間の性暴力)
恋人・交際相手から性的行為を強制・強要される暴力です。「好きだから当然」「付き合っているんだから拒否するのはおかしい」といった誤った認識のもとで行われることが多く、被害者自身も「これが暴力だ」と認識しにくいのが特徴です。内閣府の調査では、交際経験のある女性の約6人に1人がデートDV被害を経験していると報告されています。身体的DVと精神的DVを伴うことも多くあります。
恋人・交際相手が加害者被害認識が困難若年層に多い
配偶者間性的暴力(婚姻関係内レイプ)
婚姻関係内においても、配偶者から性的行為を強制される行為は明確な性的暴力です。「夫婦だから拒否できない」という誤った観念が根強く残っており、被害者が被害を認識したり、外部に相談することを困難にしています。日本では2023年の刑法改正により「不同意性交等罪」が新設され、婚姻関係を問わず同意なき性行為が犯罪として明確化されました。
法改正で明確に犯罪に被害認識が特に困難DVと重複することが多い
性的虐待(子どもへの性的暴力)
子どもに対して性的な接触・行為を行う重大な虐待です。大人から子どもへの性的暴力は深刻な権力の乱用であり、子どもには同意能力がないため、いかなる状況でも犯罪です。加害者は見知らぬ他人よりも、家族・親族・知人など信頼関係にある人物であることが多く(グルーミング:段階的に信頼関係を構築して性的虐待に至る手法)、被害が長期間に渡って発見されないケースがあります。
子どもには同意能力なし身近な大人が加害者に多い長期的な影響が深刻
リベンジポルノ・非合意ポルノ
別れた恋人や元配偶者が、交際中に撮影した性的な写真・動画を、相手の同意なくインターネット上に公開したり、拡散する行為です。日本では2014年に「リベンジポルノ被害防止法」が施行されましたが、被害は後を絶ちません。一度拡散された画像・動画は完全に削除することが困難であり、被害者は長期間にわたって精神的苦痛を受け続けます。近年はディープフェイク技術を使った性的画像の作成・拡散も新たな問題となっています。
デジタル空間での性的暴力被害の完全解決が困難法整備が進む
グルーミング・性的搾取
子どもや若者に対して、オンライン・オフラインを問わず段階的に信頼関係を構築し、性的な行為へと誘導・強制する手口です。SNS・マッチングアプリ・ゲームなどオンラインプラットフォームを通じたグルーミング被害が近年急増しています。加害者は最初は友好的・保護的な態度をとり、徐々に性的な話題に誘導します。被害者は「自分から関係を持った」という認識を持たされることがあり、被害の申告が特に困難になります。
段階的な信頼構築オンライン被害が増加若年層が標的
性的暴力は単独では起きない場合も性的暴力はしばしば、身体的暴力・精神的暴力・経済的暴力(DVの形態)と組み合わさって発生します。また、インターネットやSNSを通じた性的暴力(オンライングルーミング、非合意ポルノの拡散)は近年急増しており、新たな対策が求められています。
PSYCHOLOGICAL IMPACT

性的暴力が心身に与える影響

性的暴力は「魂の殺人」とも呼ばれるほど深刻な心理的影響を与えます。PTSD、うつ病、不安障害、解離症状、対人関係の損傷など、多岐にわたる影響が現れます。これらはすべて、異常な体験への正常な反応です。

心理的影響

性的暴力が引き起こす主な心理的影響

性的暴力は、人の精神に多重的で長期的な影響を与えます。以下に示す影響は、被害後に非常に多くの被害者が経験するものです。これらの症状は弱さや欠点ではなく、深刻なトラウマ体験への脳と心の反応です。

😰
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
性的暴力被害者の約54%がPTSDを発症するとされており、これは他の外傷体験と比較して極めて高い発症率です。フラッシュバック(被害場面が突然よみがえる)、悪夢、回避行動(被害を想起させる状況・場所・人物を避ける)、過覚醒(常に周囲を警戒する)などの症状が現れます。
😔
うつ病・抑うつ状態
深刻な悲しみ、無力感、無価値感、興味・喜びの喪失などのうつ症状は、性的暴力被害後に非常に多く見られます。「自分が汚れた」「自分のせいだ」という誤った自責感がうつ症状を悪化させます。重症の場合、自傷行為や希死念慮(死にたいという気持ち)が生じることがあります。
😨
不安障害・パニック障害
全般的な不安の高まり、特定の場所や状況に対する強い恐怖、パニック発作(突然の激しい動悸・息切れ・恐怖感)などが生じます。電車や人混みなど、被害の記憶と結びついた状況で症状が誘発されることが多く、外出が困難になるケースもあります。
🌫
解離症状
被害を受けた際・その後に、自分が自分でないような感覚(離人感)、現実が現実でないような感覚(現実感の喪失)、記憶の空白(解離性健忘)などが生じることがあります。解離は圧倒的な苦痛から心を守るための緊急防衛反応であり、性的暴力被害者に特に多く見られます。
💔
対人関係・信頼感の損傷
性的暴力による裏切りは、人への信頼感を根底から揺るがします。他者との親密さへの恐怖、性的な関係への回避、孤立感が生じやすく、恋愛・友人・家族関係が大きく損なわれることがあります。「誰も信じられない」という感覚が回復の妨げになることもあります。
🔥
羞恥心・自責感・汚染感
「自分が悪かった」「自分が汚れた」という強烈な羞恥心と自責感は、性的暴力被害者に非常に多く見られます。これは性暴力の本質的な帰結ではなく、社会的な「被害者バッシング」や文化的規範が内面化された結果です。この羞恥心が支援を求めることを阻む大きな壁となっています。
🍺
物質使用・自傷行為
アルコール・薬物への依存、自傷行為(自分を傷つけること)は、性的暴力のトラウマを抱える人に多く見られます。これらは痛みから一時的に逃れるための対処行動として始まることがほとんどですが、長期的には状況を悪化させます。非自殺的自傷行為は「死ぬための行為」ではなく、「生きるための対処」として理解することが重要です。
😶
性的機能・身体イメージの変化
性的暴力後に、性的な関係への強い回避、性的機能の変化(性的な接触への強い嫌悪感や、フラッシュバックの誘発)、自分の身体に対する否定的なイメージが生じることがあります。これらは被害の正常な反応であり、適切なケアと時間をかけて回復することが可能です。
💡
複雑性PTSDについて長期・反復的な性的暴力(性的虐待、繰り返される夫婦間性的暴力など)を受けた場合、「複雑性PTSD(Complex PTSD / ICD-11)」が発症することがあります。複雑性PTSDでは、通常のPTSD症状に加えて、感情調整の深刻な困難、否定的な自己概念(「自分は根本的に欠陥がある」)、対人関係の著しい障害が特徴として現れます。治療には段階的・専門的なアプローチが必要です。
身体的影響

性的暴力が身体に与える影響

性的暴力のトラウマは「心だけの問題」ではなく、身体にも深く刻み込まれます。「トラウマは身体に宿る(The Body Keeps the Score)」という言葉があるように、脳と神経系・内分泌系・免疫系に長期的な影響をもたらします。

😴
睡眠障害
不眠、悪夢、夜驚症(眠っている間に突然叫び声を上げる)などが頻繁に生じます。性的暴力に関連した悪夢は非常にリアルで、毎晩繰り返されることがあります。
💓
自律神経の乱れ
動悸、過呼吸、発汗、めまい、吐き気、手の震えなど。過覚醒状態(常に危険を警戒している状態)では、些細な刺激でも自律神経系が過剰反応します。
🤕
慢性的な身体の痛み
原因不明の頭痛、腹痛、腰痛、全身の痛みなど。心の傷が身体化(ソマタイゼーション)することで、医学的な原因が特定できない身体症状が続くことがあります。
🔋
慢性疲労
強い倦怠感・疲労感が持続します。PTSD・うつ・過覚醒による消耗に加え、回復に向けた心理的エネルギーの消費も疲労の原因となります。
🍽
摂食の変化
食欲の著しい低下または過食が見られることがあります。摂食障害(拒食症・過食症)は性的暴力被害者に多いことが知られています。身体のコントロールを取り戻そうとする試みとして現れることがあります。
🏥
性・生殖器系への影響
性感染症のリスク、望まない妊娠、性的機能への影響(性交時の痛み、性的接触への強い拒否反応)など。婦人科・泌尿器科での定期的なフォローアップが重要です。
社会的影響

性的暴力が生活・社会生活に与える影響

性的暴力のトラウマは、仕事・学業・対人関係・経済状況など、生活全般に広範な影響を及ぼします。これらの影響は「性格の問題」や「努力不足」ではなく、トラウマの直接的な結果です。

💼
仕事・学業への影響
集中力の低下、記憶力の問題、欠勤・欠席の増加、パフォーマンスの低下などが生じます。職場や学校での人間関係(特に加害者と同じ環境にある場合)が極めて困難になります。
👥
対人関係の困難
人への不信感、親密さへの恐怖、孤立・引きこもりが生じます。誰かと二人きりになることへの恐怖、人混みへの回避など、社会参加が著しく制限されることがあります。
🏠
生活機能の低下
食事の準備、掃除、買い物、外出など、日常的な生活機能が損なわれることがあります。PTSD・うつ症状の重症例では、ひきこもり状態になるケースもあります。
💰
経済的影響
仕事ができなくなることによる収入の減少、治療費の負担、住居の移転が必要になる場合など、経済的な困難を抱えるケースがあります。支援制度の活用が重要です。
影響の程度は人によって異なります性的暴力後の影響の種類・深刻さ・持続期間は、一人ひとり異なります。軽い症状で比較的早く回復する人もいれば、長期間深刻な症状に苦しむ人もいます。どちらが「正常」かという基準はなく、あなたの回復のペースがあなたのペースです。症状の重さで回復の可能性が決まるわけではありません。
TRAUMA RESPONSES

被害時・被害後のトラウマ反応を理解する

「なぜ抵抗しなかったのか」「なぜすぐに言わなかったのか」——これらの問いは、性的暴力の生物学的・心理学的な反応を無視した誤解に基づいています。フリーズ反応、解離、遅延した感情反応は、脳と身体が生き延びるための正常な反応です。

トラウマ反応とは

性的暴力への脳・身体の反応——「正常」な「異常への対処」

性的暴力を受けた時に起こる様々な反応——フリーズ、解離、感情の麻痺——は、脳と神経系が極度の脅威から生き延びるために発動する自動的な防衛反応です。これらは意識的な選択の結果ではなく、生物学的なプログラムに基づいた反応です。

🧊
フリーズ(凍りつき)反応
「なぜ抵抗しなかったのか」という問いへの答えの一つが、「フリーズ(凍りつき)」という生物学的反応です。人間は極度の脅威に直面した際、「戦う(fight)」「逃げる(flight)」だけでなく、「凍りつく(freeze)」という反応を示します。これは神経系の自律的な反応であり、意図的な選択ではありません。
🧠
トニック不動(無意識の身体の硬直)
性的暴行の際に身体が動かせなくなる「トニック不動状態」は、生物学的な保護反応です。研究では、性的暴行を受けた女性の70%以上が、被害中に「動けなかった」と報告しています。これは脳幹レベルの自律反応であり、「抵抗しなかった=同意した」という誤解は完全に根拠のない認識です。
💭
遅延した感情反応
被害直後は感情が麻痺し、「なんとなく普通に過ごせた」というケースがよくあります。これは解離による感情の遮断であり、後になって(数日・数週間・数年後に)強烈な感情反応が出てくることがあります。「すぐに泣かなかった=大したことない」という認識は完全に誤りです。
🔄
フラッシュバックと過覚醒
特定の感覚(匂い、音、触感、映像)が引き金(トリガー)となり、被害場面が現在進行形のように生々しくよみがえるフラッシュバックは、PTSDの中核症状の一つです。常に周囲を警戒し、些細な物音にも過剰に反応する過覚醒状態は、神経系が「まだ危険の中にいる」と判断しているためです。
🚫
回避と麻痺
被害を思い出させるあらゆる刺激を避けようとする「回避」は、PTSDの重要な症状です。同時に、感情の麻痺(何も感じない状態)、外界への関心の喪失、未来への希望の喪失が生じることがあります。回避は一時的には心を守りますが、長期的にはPTSD症状の維持・悪化につながります。
💡
「正常な状況への正常な反応」
性的暴力への心理的・身体的反応——フリーズ、解離、PTSD、うつ、羞恥心——はすべて、異常な状況(性的暴力)に対する正常な人間の反応です。「自分はおかしくなった」「弱い」という自責は不要です。これらの反応は、あなたの脳と身体が生き延びるために精一杯働いた証拠です。
「なぜ抵抗しなかったのか」への答えフリーズ(凍りつき)反応、トニック不動状態は生物学的な防衛反応です。抵抗できなかったことはあなたの弱さでも、同意の証拠でもありません。あなたの脳と身体が精一杯あなたを守ろうとした証拠です。
被害後の経過

被害後の時間的経過と心理的変化

性的暴力の心理的影響は、被害直後から長期にわたって変化します。以下は一般的な経過のモデルですが、個人差があり、すべての人がこのような経過をたどるわけではありません。

被害後の心理的変化のモデル
1
急性期(直後〜数週間)——ショック、感情の麻痺、解離、混乱、身体症状(動悸・吐き気・頭痛)、不眠・悪夢が生じます。「現実感のなさ」「夢を見ているような感覚」を報告する人も多くいます。
2
中期(数週間〜数ヶ月)——フラッシュバック、回避行動、過覚醒などのPTSD症状が現れることがあります。うつ症状、強い羞恥心・自責感、対人関係の困難が生じることも多いです。「普通に見えていた」人でもこの時期に急激に崩れることがあります。
3
長期(数ヶ月〜数年)——適切な支援なしでは、PTSD・うつ・対人関係の困難が慢性化することがあります。一方、適切な治療と支援を受けることで、多くの人が症状の改善と生活の質の向上を経験します。「回復」は直線的ではなく、波があります。
4
回復(個人差あり)——回復は「被害前の状態に戻る」ことではなく、「体験を自分の人生の一部として統合し、前に進める状態になる」ことです。回復後も特定の状況(記念日、関連するニュース)で一時的に症状が戻ることがありますが、それは失敗ではありません。
💡
「遅れた開示(Delayed Disclosure)」は珍しくありません被害直後に誰にも言えず、数年後・数十年後に初めて打ち明けるケースは非常に多くあります。時間が経ってから被害を打ち明けることは、記憶の改ざんや虚偽申告の証拠ではありません。羞恥心、恐怖、自責感、加害者との関係などが、長期間の沈黙の原因となります。
TREATMENT AND RECOVERY

性的暴力被害の治療と回復

性的暴力後のPTSD・うつ・不安障害などは、適切な治療と支援によって改善することができます。回復には時間がかかりますが、多くの被害者が回復を経験しています。焦らず、自分のペースで専門家のサポートを受けることが大切です。

最初のステップ

被害後の最初のステップ

性的暴力を受けた後、すぐに何をすればいいかわからない方も多いと思います。以下に、被害後の主なステップを示します。ただし、何をどの順番でするかは、本人の意思と安全を最優先に考えてください。

被害後の主なステップ(本人の意思を最優先に)
1
安全の確保——まず自分の身の安全を確保することが最優先です。安全な場所(信頼できる人の家、支援センターなど)に移動しましょう。
2
証拠の保全(希望する場合)——被害を警察に届け出たい場合、証拠の保全(入浴・着替え前に医療機関へ)が重要です。ただし、届け出は義務ではなく、後から決めても構いません。
3
ワンストップ支援センターへの連絡——#8891(はやくワンストップ)に電話すると、最寄りのセンターにつながります。24時間365日対応しているセンターが全国にあります。医療・法律・心理的支援をまとめて相談できます。
4
医療機関の受診——性感染症検査・緊急避妊・外傷の治療などのために、できるだけ早く(可能なら72時間以内に)医療機関を受診することが推奨されます。
5
精神的サポートの開始——トラウマ症状(フラッシュバック、不眠、強い不安)が続く場合は、精神科・心療内科・カウンセラーへの相談を始めましょう。
⚠️
自傷・自殺念慮がある場合自傷行為をしたい、死にたいという気持ちがある場合は、すぐに「よりそいホットライン(0120-279-338)」または「いのちの電話(0120-783-556)」に電話してください。あなたの命はかけがえのないものです。
心理療法

性的暴力被害のPTSDに有効な心理療法

性的暴力後のPTSDやうつ病の治療において、心理療法(精神療法)が中心的な役割を果たします。安全な治療関係を基盤として、段階的にトラウマ記憶の処理と統合を行います。

持続エクスポージャー療法(PE)WHO推奨・エビデンスあり

証拠に基づいたPTSD治療法の一つで、安全な環境の中で段階的にトラウマの記憶に近づき、感情処理を促します。回避することでPTSD症状が維持されるという原理に基づき、トラウマ記憶の想起と日常の回避行動の修正を行います。性的暴力被害者のPTSDに対して高い有効性が示されています。

認知処理療法(CPT)国内でも導入が進む

性的暴力後に生じる歪んだ思考パターン(「自分が悪かった」「自分は汚れた」「誰も信じられない」など)を特定し、より現実的で適応的な考え方へと修正することを目指す認知行動療法の一種です。日本でも国立精神・神経医療研究センターが実施可能性を確認しており、PTSDへの有効性が高く評価されています。

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)WHO推奨

眼球運動などの両側性刺激を用いながら、トラウマ記憶の感情的な重荷を軽減する心理療法です。WHOがPTSD治療法として推奨しており、性的暴力被害者の治療にも広く用いられています。特に言語化が難しいトラウマ記憶に対して効果的とされています。

ソマティック(身体志向)アプローチ非言語的アプローチ

トラウマは脳と身体に刻み込まれるという視点から、身体感覚への気づきを通じてトラウマを処理するアプローチです。ソマティック・エクスペリエンシング(SE)、センサリーモーター・サイコセラピーなどが含まれます。言語的な処理が難しい性的暴力のトラウマに対して、身体からのアプローチが有効なことがあります。

薬物療法(補助的)心理療法との併用が基本

PTSDやうつ病の症状を緩和するために、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:セルトラリン、パロキセチンなど)が補助的に用いられます。薬物療法単独では根本的な回復は難しく、心理療法と組み合わせることが重要です。睡眠障害や過覚醒に対しては他の薬剤が処方されることもあります。

グループ療法・ピアサポート孤立感の解消に効果的

同じ経験を持つ人々とのグループ療法は、孤立感の解消・共感体験・相互サポートという点で個人療法とは異なる力を持ちます。「自分だけではない」という気づきが回復を大きく促進することがあります。ただし、グループへの参加は本人の準備ができた段階で、専門家の管理のもとで行うことが重要です。

回復の段階

回復の三段階モデル——ジュディス・ハーマンの理論

精神科医ジュディス・ハーマンが提唱した「回復の三段階モデル」は、性的暴力を含む複雑なトラウマからの回復に広く適用されています。各段階をしっかり踏むことが、持続的な回復の基盤となります。

回復の三段階
1
第1段階:安全の確立——身体的・心理的な安全を確保することが最優先です。安全な住環境、必要な法的保護、感情を安定させるスキル(グラウンディング、呼吸法)の習得、サポートネットワークの構築を行います。まずここをしっかり固めることが、後の段階の基盤となります。
2
第2段階:記憶と悲しみの処理——準備が整った段階で、トラウマ記憶を安全な環境の中で段階的に処理します。PE、EMDR、CPTなどのトラウマ焦点化療法がこの段階で中心的な役割を果たします。被害への怒り・悲しみ・喪失を十分に感じ、表現することも重要です。
3
第3段階:つながりの回復——孤立から抜け出し、他者とのつながりを再構築します。対人関係への信頼の回復、地域・社会への再参加、自己概念(「私は何者か」)の再構築が中心的なテーマとなります。性的暴力が奪ったものを取り戻し、自分の人生の主体を取り戻す段階です。
回復は直線的ではありません。第2段階に入った後に第1段階に戻ることも珍しくなく、それは失敗ではありません。大切なのは、自分のペースで、安全に進み続けることです。
DAILY SELF-CARE

日常のセルフケア

治療と並行して、日々の生活の中でも回復を支えるためにできることがあります。セルフケアは「治療の代替」ではなく「治療を補う土台」です。完璧にやろうとせず、できることから少しずつ取り入れましょう。

🛡
安全な空間を整える
家の中に、自分が安心できる「安全な場所」を作りましょう。お気に入りのブランケット、植物、落ち着く音楽など、五感に働きかける安心アイテムを集めた空間が、感情の調整に役立ちます。
🌬
呼吸法でグラウンディング
過覚醒やフラッシュバックが始まったら、「4-7-8呼吸法」(4秒吸って、7秒止めて、8秒で吐く)を試してみてください。呼吸のコントロールは副交感神経を活性化し、神経系を落ち着かせます。
🖐
5-4-3-2-1法(感覚グラウンディング)
今ここにある「見えるもの5つ、触れるもの4つ、聞こえるもの3つ、匂うもの2つ、味わえるもの1つ」を確認します。現在の感覚に意識を向けることで、フラッシュバックの波から抜け出す助けになります。
📓
日記・ジャーナリング
気持ちや体験を書き出すことは、感情の整理に役立ちます。ただし、トラウマ体験の詳細を無理に書こうとする必要はありません。今日の良かったこと・感じたこと・体の状態など、小さなことから始めましょう。
🧘
穏やかな身体活動
ヨガ、太極拳、ウォーキングなどの穏やかな身体活動は、身体とのつながりを取り戻し、トラウマが身体に残した緊張を解放するのに役立ちます。激しい運動よりも、身体感覚を意識した動きが特に効果的です。
🤝
信頼できる人とのつながり
すべてを話す必要はありません。ただそばにいてくれる人、話を聞いてくれる人との時間が、回復の大きな支えになります。信頼できる友人・家族・支援者との関係を大切にしましょう。
📅
日常のルーティンを保つ
食事・睡眠・活動の規則的なリズムは、神経系に「予測可能な安全」を伝え、PTSD症状の安定につながります。完璧でなくて構いません。小さなルーティン(毎朝お茶を飲む、散歩に出るなど)から始めましょう。
⚠️
トリガーを把握・対策する
どんな状況・感覚・言葉がフラッシュバックや強い感情反応を引き起こすか(トリガー)を把握しておきましょう。支援者とともに「トリガーマップ」と「対処プラン」を作成しておくと、予期しない反応にも備えられます。
🚫
アルコール・薬物への依存を避ける
アルコールや薬物は一時的に感情を麻痺させますが、PTSDやうつ症状を長期的に悪化させます。つらい気持ちを緩和したいときは、専門家への相談やセルフケアの技法を活用してください。
「自分を責めないこと」が最大のセルフケア性的暴力への反応(PTSD症状、回避行動、感情の波)を「自分の弱さ」と捉えることは、回復の最大の妨げとなります。「この症状は、あの体験への正常な反応だ」「自分はよく生き延びてきた」という視点を少しずつ育てることが、回復の基盤となります。
関連する用語
PTSD複雑性PTSDトラウマ解離グラウンディングフラッシュバックDV性虐待
FOR FAMILY AND FRIENDS

大切な人が被害を受けたとき——周囲の人にできること

あなたの大切な人が性的暴力被害を打ち明けてくれたとき、どう反応するかが回復に大きな影響を与えます。最も大切なのは「信じること」と「責めないこと」です。周囲の人の適切な支援が、回復の大きな力になります。

最初の対応

打ち明けられた時の最初の対応

性的暴力被害を打ち明けることは、被害者にとって非常に大きな勇気を必要とする行動です。最初の対応が、その後の回復と支援の関係を大きく左右します。以下の言葉と姿勢を心がけてください。

最初に伝えるべき言葉
💬「話してくれてありがとう。勇気を出してくれてありがとう」
💬「あなたは悪くない。あなたのせいでは絶対にない」
💬「あなたのことを信じています」
💬「あなたは一人じゃない。一緒に考えていきます」
💬「何をするかはあなたが決めていい。私はサポートします」
💡
まず「聞く」こと——解決しようとしない最初の対応で最も重要なのは「解決策を提示すること」ではなく「ただ聞くこと」です。被害者が打ち明けた勇気を受け止め、「どうすれば良いか」を一緒に考える前に、まず「今どんな気持ちか」を聞いてください。
対応のポイント

してほしいこと・避けてほしいこと

✅ してほしいこと
「あなたは悪くない。あなたのせいではない」と、繰り返し伝え続ける
話してくれたことに「話してくれてありがとう」と感謝し、勇気をたたえる
本人が話したいだけ聞き、話したくない時はそれを尊重する
「信じる」という姿勢を明確に示す——疑いの目を向けない
受診やカウンセリングへの同行を申し出る(強制しない)
日常のルーティンを一緒に支え、安定した環境を作る
被害について詳細を聞き出そうとするより、今のつらさに寄り添う
自分自身も支援者のためのカウンセリングや相談を活用する
❌ 避けてほしいこと
「なぜその場で抵抗しなかったのか」「なぜすぐ言わなかったのか」と責める
「あなたにも落ち度があったのでは」「服装が原因」などの被害者バッシング
「もう終わったこと」「早く忘れなさい」と回復を急かす
被害の詳細を無理に聞き出そうとする——再トラウマ化のリスクがある
「警察に行くべきだ」と本人の意思を無視して行動を押し付ける
「このことは絶対に誰にも言わないで」と口止めする——孤立を深める
加害者への怒りを一方的にぶつけ、本人がさらに混乱する状況を作る
支える側のケア

支える側のセルフケア

大切な人の性的暴力被害を知ることは、支える側にも大きな心理的衝撃(代理トラウマ・二次的トラウマ)を与えます。支える側が心身ともに健全でいることが、長期的なサポートの基盤です。

🛁
自分の回復と休息を大切に
支える側も、怒り・悲しみ・無力感・罪悪感などの感情を抱えることがあります。これは自然な反応です。自分自身のケアと休息を意識的に確保しましょう。
👥
一人で抱え込まない
支援者向けのカウンセリング、家族会、ピアサポートグループなどを活用しましょう。精神保健福祉センターでも、家族・支援者向けの相談を受け付けています。
📚
性的暴力について学ぶ
性的暴力のメカニズム・被害者の反応・回復のプロセスを学ぶことで、より適切なサポートができるようになります。「なぜそういう反応をするのか」が理解できると、焦りや無力感も軽減されます。
📋
境界線を設ける
サポートには限界があります。「自分にできること・できないこと」の境界線を明確にし、できない部分は専門家に引き渡す勇気を持ちましょう。完璧なサポートを目指す必要はありません。
あなたが穏やかでいることが最大のサポートですあなた自身が心身ともに健康でいることが、大切な人への最高のサポートです。自分を犠牲にしてまでサポートしようとすることは、長期的には双方の回復を妨げます。
MALE SURVIVORS

男性の性的暴力被害者——特有の困難と支援

性的暴力は女性だけの問題ではありません。男性も性的暴力の被害者になります。しかし、「男性は被害者にならない」という社会的神話が、男性被害者の被害認識・支援希求・回復を大きく妨げています。

🧱
社会的な「男性神話」の壁
「男性は性暴力の被害者にならない」「男性は性的に強いはず」という誤った社会的規範が、男性被害者の被害認識と支援希求を妨げています。内閣府の調査では、男性被害者の約7割が誰にも相談していないことが示されており、女性(約4割)よりも孤立する傾向が顕著です。
😶
被害認識の困難
男性が性的暴行を受けた際に身体的反応(勃起など)が生じることがあり、これが「同意していた証拠」と誤解されることがあります。しかし身体的反応は自律神経系の生理的反応であり、同意や快楽の証拠ではありません。この誤解が男性被害者の自責感を深め、被害申告を阻みます。
😰
同性からの性暴力
男性が男性から性的暴力を受けた場合、「自分がゲイと思われるのでは」「男らしくないと思われる」という恐れから、被害を打ち明けることが特に困難になります。この社会的スティグマは、男性被害者が支援にアクセスすることを阻む重大な障壁です。
🏥
支援リソースへのアクセス困難
性暴力被害者向けの支援機関は女性向けのものが多く、男性が利用しやすい環境が十分に整っていない現状があります。近年は男性被害者向けの相談窓口も整備されつつありますが、まだ十分とは言えません。よりそいホットライン(0120-279-338)では男性の性的暴力被害についての相談も受け付けています。
💪
男性被害者への適切な理解
男性であることは、性的暴力の被害者にならない理由にはなりません。性暴力は被害者の年齢・性別・性的指向・服装・行動に関係なく起こりえます。男性被害者が受ける特有の困難を理解し、男性が支援を求めやすい環境を社会全体で整えていくことが重要です。
🔑
回復への道
男性被害者の回復には、社会的な偏見や「男性神話」を乗り越えることが特に重要なテーマとなります。「被害に遭ったことは弱さではない」「支援を求めることは強さである」というメッセージが、男性被害者の回復を支える基盤となります。男性被害者に特化した支援者や心理士への相談も有効です。
男性被害者へあなたが受けた被害は本物です。男性であることは、被害者にならない理由にはなりません。支援を求めることは強さの証であり、弱さではありません。「#8891」またはよりそいホットライン(0120-279-338)に相談することができます。
男性向け支援

男性被害者が利用できる支援

近年、男性の性的暴力被害者向けの支援体制が少しずつ整備されています。男性でも以下の窓口に相談することができます。

男性被害者が利用できる主な窓口
よりそいホットライン(0120-279-338)——24時間・無料、性的暴力被害の相談可能
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)——男性の利用も可能
法テラス(0570-078374)——法律相談・弁護士費用の立替
精神保健福祉センター——各都道府県・政令市に設置、無料相談
男性専用の相談窓口——一部自治体・NPOで提供(最寄りの支援センターに確認を)
CHILD SEXUAL ABUSE

子どもへの性的暴力——発見・支援・回復

子どもへの性的虐待は、脳の発達・心理・行動に深刻かつ長期的な影響を与えます。加害者の多くが子どもの信頼する大人であること、子どもが秘密を守らされることから、発見が遅れることが多い深刻な問題です。

📉
発達への深刻な影響
子ども期の性的虐待は、脳の発達に直接的な影響を与えることが研究で示されています。特にストレス反応系(扁桃体・海馬・前頭前皮質)の発達が阻害され、感情調整の困難、衝動制御の問題、注意集中の困難が生じやすくなります。これらは「問題行動」として表面化することがあり、虐待の発見が遅れる原因にもなります。
🎭
行動上のサイン
性的虐待を受けている子どもは、年齢に見合わない性的な知識・言動、自傷行為、退行(おねしょ、指しゃぶりなど発達上以前の行動への退行)、突然の成績低下、特定の大人への強い恐怖・回避などのサインを示すことがあります。これらのサインに気づいたら、速やかに専門機関に相談することが重要です。
🔒
秘密の保持(口止め)
性的虐待の加害者は多くの場合、子どもに「これは秘密だよ」「言ったら大変なことになる」などと口止めをします。子どもは加害者への恐怖・愛情(加害者が保護者の場合)・罪悪感などから、長期間秘密を守り続けます。子どもが被害を打ち明けた場合は、必ず信じること・感謝することが不可欠です。
🌱
早期介入と回復の可能性
子ども期の性的虐待は深刻な影響を及ぼしますが、早期発見・早期介入によって回復の可能性は大きく広がります。子どもに特化したトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)は、子どもの性的虐待後のPTSD・うつ・行動上の問題に高い効果が示されています。保護者への支援も治療の重要な柱です。
📞
相談・通告の義務と方法
子どもへの性的虐待が疑われる場合、成人には児童相談所(189)への通告義務があります(児童虐待防止法)。「確証がない」「関係を壊したくない」という懸念より、子どもの安全が最優先です。通告は匿名でも可能です。
⚠️
子どもへの性的虐待が疑われる場合子どもへの性的虐待が疑われる場合は、ためらわずに「児童相談所全国共通ダイヤル(189)」に連絡してください。通告は匿名でも可能です。「確証がない」場合でも通告は可能であり、むしろ疑いの段階での早期通告が推奨されています。あなたの通告が子どもの人生を救うことがあります。
グルーミング

グルーミング——段階的な性的虐待の手口

グルーミング(Grooming)とは、子どもや若者に対して、段階的に信頼関係を構築し、性的な行為への境界線を徐々に下げていく手口です。加害者は最初はプレゼント・特別扱い・友好的な態度によって子どもの信頼を得、徐々に性的な内容に誘導します。

グルーミングの段階
1
ターゲットの選定——孤立している、家庭環境が不安定、自尊心が低いなど、脆弱性のある子どもを標的にします。
2
信頼関係の構築——プレゼント、特別扱い、相談に乗るなど友好的な関係を築きます。親・家族ごと信頼させることもあります。
3
秘密の共有——「二人だけの秘密」を作り、子どもが他者に話しにくい状況を作ります。
4
孤立化——家族・友人から子どもを徐々に引き離し、加害者への依存を強めます。
5
性的接触の段階的エスカレーション——最初は無害に見える身体接触から始め、徐々に性的な内容にエスカレーションします。
6
口止めと秘密の維持——「言ったら大変なことになる」「誰も信じない」「家族が傷つく」などの言葉で口止めをします。
子どもへの性教育・防犯教育の重要性子どもに「自分の身体は自分のもの」「嫌なことはノーと言っていい」「秘密にしなければならない大人の秘密は持たなくていい」「信頼できる大人に話していい」ということを年齢に合わせて伝えることが、性的虐待の予防と早期発見につながります。
SECONDARY VICTIMIZATION

二次被害——社会の反応が被害者を再び傷つける

二次被害(セカンドレイプ)とは、性的暴力の被害後に、周囲の人・医療機関・警察・メディアなどの不適切な反応・言動によって、被害者がさらに深く傷つくことを指します。二次被害の防止は、社会全体の取り組みです。

🗣
「なぜ抵抗しなかったのか」という問い
性的暴力被害者が最も多く受ける二次被害の一つが「なぜ抵抗しなかったのか」という問いです。前述のように、フリーズ(凍りつき)反応は生物学的な防衛反応であり、抵抗しなかったことは同意の証拠でも、被害者の落ち度でもありません。この問いは被害者に強い自責感と羞恥心をもたらします。
👗
服装・行動への言及
「あんな格好をしているから」「あんな時間に出歩くから」という、被害者の服装や行動に責任を転嫁する発言は典型的な二次被害です。性的暴力の責任は100%加害者にあります。服装・時間帯・場所・被害者の行動は、加害者の責任を軽減しません。
🤷
「その気があったのでは」という疑い
「本当は嫌じゃなかったのでは」「後から嘘をついているのでは」という疑いは、被害者を深く傷つける二次被害です。性的暴力の虚偽申告率は他の犯罪と比べて高くないことが研究で示されており、「申告する被害者を信じる」ことが二次被害を防ぐ基本姿勢です。
司法・捜査過程での二次被害
警察での事情聴取、医療機関での証拠採取、裁判での尋問など、被害申告から司法手続きに至る過程は、被害者に大きな心理的負担をかけることがあります。詳細な被害状況の繰り返しの説明、プライバシーへの侵害、加害者側弁護士からの反対尋問は、二次トラウマ(再被害)を引き起こしかねません。
👥
周囲・SNSでの二次被害
被害が周囲に知られることで、噂・中傷・心ない言葉による二次被害を受けるケースがあります。SNS上での被害情報の拡散、誹謗中傷は、被害者をさらに深く傷つけます。「被害者を信じ、支える」姿勢を社会全体で持つことが、二次被害の防止につながります。
🏥
医療機関での不適切な対応
医療機関における性的暴力被害者への不適切な対応(冷淡な態度、プライバシーへの配慮不足、感情的なサポートの欠如)も二次被害となりえます。近年はワンストップ支援センターと連携した病院での研修が進んでいますが、すべての医療機関での対応改善が求められます。
💡
二次被害を防ぐために私たちができること性的暴力に関するニュースや話題に接した時、「被害者にも問題があるのでは」という視点ではなく、「なぜ加害者はその行為をしたのか」「どうすれば被害者を支援できるか」という視点を持つことが、二次被害のない社会づくりの第一歩です。
二次被害からの自衛

二次被害を受けた・受けそうな場合

二次被害を受けた場合、それはあなたのせいではありません。不適切な反応をした人の言葉・行動が間違っているのです。以下のことを覚えておいてください。

二次被害はあなたの責任ではない——不適切な反応をした側の問題です
二次被害を受けた体験についても、信頼できるカウンセラーや支援者に相談できます
すべての人に被害を打ち明ける必要はない——信頼できる人だけに話しましょう
支援センターのスタッフ・専門の相談員は二次被害を防ぐ訓練を受けています
医療機関・警察での対応に問題があった場合、支援センターに相談することができます
SUPPORT AND RESOURCES

利用できる支援制度・相談窓口

性的暴力被害は一人で抱え込まなくてよい問題です。医療・法律・心理・経済的支援など、様々な支援制度が日本では整備されています。あなたには支援を受ける権利があります。

支援制度

性的暴力被害者が使える主な支援制度

性的暴力被害後の支援は、医療・法律・心理・経済など多岐にわたります。「どこから相談すればいいかわからない」という場合は、まず「#8891(はやくワンストップ)」または「よりそいホットライン(0120-279-338)」に電話することから始めることができます。

🏥
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
被害直後から総合的な支援(産婦人科医療、相談・カウンセリング、法律相談、警察や裁判所への付添い等)をワンストップで提供します。全国共通番号「#8891(はやくワンストップ)」に電話すると最寄りのセンターにつながります。24時間365日対応しているセンターも多くあります。
🌙
SARC(性暴力救援センター)
性暴力救援センター(SARC)は医療機関に設置された支援機関で、証拠採取・緊急避妊・性感染症検査・カウンセリングなどを提供します。SARC東京(03-5607-0799)など各地にあります。被害直後の72時間以内に相談することで、より多くの医療的支援を受けられる可能性があります。
🏛
精神保健福祉センター
各都道府県・政令市に設置されており、性的暴力被害によるPTSD・うつ・不安などの精神的問題について、無料で相談を受け付けています。必要に応じて医療機関への紹介、精神科ソーシャルワーカーによる支援、家族への相談対応なども行います。
📋
自立支援医療制度(精神通院医療)
性的暴力被害によるPTSD・うつ・不安障害等の治療で精神科または心療内科に継続的に通院する場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。市区町村の障害福祉窓口で申請できます。
犯罪被害者支援センター・法テラス
性的暴力が犯罪行為にあたる場合、犯罪被害者支援センター(全国47都道府県)で心理的支援・法律相談・裁判所への付添い支援を受けられます。法テラス(日本司法支援センター)では、弁護士費用の立替制度(審査あり)や法律相談を利用できます。
📱
よりそいホットライン・各種相談窓口
よりそいホットライン(0120-279-338)は24時間無料で相談を受け付け、性的暴力被害についての相談も可能です。「性暴力被害者のための専用ダイヤル」が設けられているセンターもあります。チャット相談など、声を出さずに相談できるオンライン窓口も整備されています。
医療費支援

自立支援医療制度(精神通院医療)の活用

性的暴力被害によるPTSD・うつ病・不安障害などの治療で精神科または心療内科に継続的に通院する場合、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を申請することで、通常3割の医療費自己負担が原則1割に軽減されます。性的暴力被害者にとって、長期間に及ぶ通院治療の経済的負担を大きく軽減する制度です。

📋自立支援医療(精神通院医療)の申請手順
1
主治医への相談——担当医に自立支援医療制度の利用を希望することを伝え、診断書(意見書)を作成してもらう。
2
市区町村の障害福祉窓口へ申請——申請書・診断書・健康保険証の写し・マイナンバー確認書類等を持参して申請する。
3
認定・受給者証の受け取り——審査後、「自立支援医療受給者証」が発行される(有効期間は1年、更新が必要)。
4
指定医療機関での受診——受給者証に記載された指定医療機関での受診時のみ1割負担が適用される。
💡
所得に応じた負担上限額があります自立支援医療制度では世帯の所得に応じて月ごとの自己負担上限額が設定されており、低所得の方は自己負担がゼロになる場合もあります。詳細は市区町村の窓口またはかかりつけ医に確認してください。
法的支援

法的支援・犯罪被害給付制度

性的暴力が犯罪にあたる場合、様々な法的支援・経済的補償制度を利用できる可能性があります。以下の制度について、弁護士や支援センターに相談してみてください。

犯罪被害者等給付金制度——生命・身体被害を受けた被害者・遺族への給付金制度(公安委員会に申請)
犯罪被害者支援センター——心理的支援・弁護士紹介・法律相談・裁判所への付添い支援(全都道府県)
法テラス(0570-078374)——弁護士費用立替制度・無料法律相談(審査あり)
被害者参加制度——刑事裁判に被害者が直接参加し、意見陳述等ができる制度
意見陳述・被害者への情報提供制度——刑事手続きの進捗状況の通知を受ける権利

一人で抱え込まないで。
あなたの話を聞かせてください。

つらい体験を抱えていませんか。誰かに話すことが怖いですか。ここには、あなたを責めない、あなたの話を信じる人がいます。どうかあなたの大切な気持ちをのぞかせてください。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料
性暴力ワンストップ#889124時間対応センター多数
精神保健福祉センター各都道府県・政令市に設置(無料相談)

自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、精神科・心療内科の通院医療費が原則1割負担に軽減されます。市区町村の障害福祉窓口にご相談ください。このページの情報は医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

keyboard_arrow_up