集団いじめとは?
定義・心理メカニズム・PTSD・対応・回復方法を徹底解説
クラス全員が一人を無視する。グループLINEで悪口を回す。複数人が囲んで攻撃する——集団いじめは、一対一とは比べものにならない深刻な心理的ダメージを与えます。文科省2024年度のいじめ認知件数は76万9,022件と過去最多。被害者にPTSD・うつ病・自殺念慮など重大なメンタルヘルス影響をもたらします。定義・統計・心理メカニズム・影響・対応・回復まで、必要な情報をすべてまとめました。
集団いじめとは
集団いじめは、複数の人間が組織的・継続的に特定の一人を標的に攻撃・排除・嘲笑・支配を行う行為です。一対一のいじめとは比較にならない深刻な心理的ダメージを被害者に与え、PTSD・うつ病・自殺念慮など重大なメンタルヘルス影響をもたらします。
集団いじめの定義
集団いじめとは、複数の人間が組織的・継続的に特定の一人(または少数)を標的とした攻撃・排除・嘲笑・支配を行う行為です。日本のいじめ防止対策推進法(2013年)では、いじめを「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は身体的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。
この定義において「集団いじめ」は、加害側が複数名であるという構造的特性を持ちます。クラス全員が一人の子を無視する、グループLINEで悪口を回す、複数人が囲んで暴力を振るう——集団という力が組織的に一人を攻撃する構造は、被害者から逃げ場を完全に奪います。
集団いじめに固有の6つの特徴
集団いじめは、一対一のいじめとは異なる固有の構造を持っています。次の6つの特徴が、被害を深刻化・長期化させます。
森田洋司の4層構造モデル
社会学者の森田洋司は、いじめを「被害者」「加害者」「観衆(はやし立てる人)」「傍観者(見て見ぬふりをする人)」の4層構造として捉えるモデルを提唱しました。集団いじめの理解に欠かせない枠組みです。
一対一のいじめとの違い
集団いじめが一対一のいじめと根本的に異なるのは、「社会的現実」の操作です。一人の加害者なら被害者は「あの人は間違っている」と認識する余地があります。しかし集団全員が「あなたはおかしい」「嫌われている」という態度を取り続けるとき、被害者は自分自身の認識を疑い始めます。心理学では、集団からの持続的な否定的フィードバックが自己概念そのものを書き換えてしまう現象が知られており、「クラス全員が自分を嫌いなのだから、自分に価値がないのだ」という歪んだ確信が形成され、自尊心の崩壊と抑うつをもたらします。
集団いじめの種類・形態
集団いじめは身体的・心理的・ネットの3領域で発生し、これらは複合的に組み合わさることが多くあります。標的になる子の類型も理解すると、構造が見えてきます。
身体的いじめ
複数人が一人に対して行う身体的攻撃は、最も可視化されやすい形態です。しかし、だからといって対応が容易ではありません。
- 集団暴行複数人が囲んで殴る、蹴る、押さえつけるなどの暴力。傷が残る場合は刑事事件として取り扱われ得ます。
- 遊びを装った暴力「ドッジボールで故意に強く当てる」「じゃれあいのふりをして傷つける」など、遊びに見せかけた暴力。
- 持ち物の破壊・隠匿ランドセル・教科書・体育着などを隠す、破く、汚す行為。
- 強制的な行動の強要下着を脱がせる、汚い場所を舐めさせる、危険な行為を強要する行為など。
心理的・関係性いじめ
集団いじめで最も多く、かつ深刻な心理的ダメージを与えるのが、心理的・関係性いじめです。身体的な傷を残さないため大人が気づきにくく、長期化しやすいという特性があります。
- 集団無視クラスや部活の全員が特定の一人を無視する。話しかけても返事をしない、存在を無いものとして扱う。「一人だけ発表させない」「給食を一人で食べさせる」なども含まれます。
- 仲間はずれ・排除グループ活動、班活動、文化祭や体育祭の準備から意図的に外す。「だれも一緒にいてくれない」状況を作ります。
- 悪口・噂の流布「あいつはくさい」「変だ」「関わるな」などの悪口を集団で広め、デマや事実無根の噂で評判を傷つけます。
- 嘲笑・からかい集団で被害者を笑いものにする。容姿、話し方、趣味、家庭環境などを標的にした嘲笑。
- 心理的脅迫・支配「言うことを聞かなければひどい目に合わせる」という暗黙の脅しによる支配。お金や物を要求する恐喝も含まれます。
- プチ暴力的接触軽く突く、足を引っかける、椅子を引くなど、「遊び」として誤魔化せる軽度の身体的行為を繰り返します。
ネットいじめ(サイバーいじめ)との連動
現代の集団いじめは、学校内のリアルな場とLINE・InstagramなどのSNSを組み合わせたハイブリッド型が多く、被害者は24時間逃げ場を失います。
- グループLINEからの除外・晒し被害者だけを外したグループLINEで悪口を言い合う。または被害者を含めたグループで集団で罵倒する。
- 写真・動画の無断拡散被害者の写真や動画を本人の同意なく拡散し、コメント欄で集団で嘲笑する。
- なりすましアカウント被害者のふりをして不適切な発言をし、評判を傷つける。
- オンラインゲームでの集団排除クラスメート全員が参加するオンラインゲームで、被害者だけを外す、また故意に攻撃する。
- 嫌いな人投票無記名のGoogleフォーム等で「クラスで嫌いな人に投票しよう」と煽り、結果を晒す行為。
ネットいじめが加わると、被害者は帰宅しても休まる場所がなくなります。スマートフォンに通知が来るたびに恐怖を感じ、睡眠障害を発症するケースも多くあります。文科省調査でも「パソコンや携帯電話等でのいじめ」は年々増加傾向にあり、2024年度は全体の約13%を占めています。
集団いじめの類型——なぜその子が標的になるか
いじめ研究者は、集団いじめの発生パターンをいくつかの類型に整理しています。重要なのは「標的になることに被害者の責任はない」という点です。
クラス・グループ内の緊張や不満のはけ口として、特定の子が「生贄」にされる。集団の結束を強めるために外敵を作る心理が働きます。
外見、話し方、趣味、障害、民族的背景など、多数派と異なる特性を持つ子が標的に。「違い」への不寛容が攻撃を生みます。
グループ内での地位を巡る競争から、脅威になりそうな存在を引きずりおろす。成績優秀・容姿が良いといった理由で標的になることもあります。
もともと加害者自身がいじめを受けていたが、別の「弱い」存在の出現で攻撃の対象が移るケース。
特定の「リーダー」がいじめを始め、他のメンバーが「自分もターゲットにされたくない」恐怖から従う。最初は乗り気でない子も次第に加担するようになります。
日本のいじめ統計と実態
文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動調査)は、日本のいじめ実態を把握する最も信頼性の高いデータです。集団いじめは認知件数・形態の両面で深刻化しています。
過去最多を更新し続けるいじめ認知件数
いじめの認知件数は連続して過去最多を更新しています。背景にはいじめ定義の理解の広がり、一人一台端末を活用した心の健康観察の導入、スクールカウンセラーや養護教諭による積極的発見活動の充実があります。「これまで見えなかったいじめが可視化されるようになった」側面も大きい一方、SNSを介したネットいじめの実質的な増加も否定できません。
いじめの種類別発生状況
文科省データでは、最多は「冷やかし・からかい、悪口・脅し文句」で、「仲間はずれ・集団による無視」「軽くぶつかる・遊ぶふりをして叩く」が続きます。これらは典型的な集団いじめの形態です。
いじめの重大事態とは
いじめ防止対策推進法は、以下の2要件のいずれかに当てはまる場合を「重大事態」と定義し、学校・設置者に調査を義務付けています。
- 第1号事態(生命・心身・財産への重大な被害)いじめにより児童等の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがある場合。自殺未遂、重大な傷害、強迫による金品の要求など。
- 第2号事態(長期欠席)いじめにより児童等が相当の期間(年間30日以上が目安)学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合。
2024年度の重大事態は1,405件で過去最多。重大事態の増加はいじめの深刻化を示すと同時に、学校・教育委員会がより積極的に重大事態として認識・対応するようになった変化も反映しています。重大事態認定時、学校・設置者は速やかに調査組織を設置し、事実関係の調査と被害者支援を行わなければなりません。
不登校との密接な関係
いじめと不登校は深く結びついています。2024年度の小中学生の不登校者数は35万人を超え過去最多を更新しました。集団いじめを受けた子どもは学校そのものが「危険な場所」として脳に刻まれ、身体症状(腹痛、頭痛、嘔気)が出て登校できなくなるケースが多くあります。
問題なのは、不登校になっても「学校外」での支援が十分でない場合、子どもが長期にわたって社会的孤立状態に置かれることです。不登校が長期化すると、自尊心の低下、学業の遅れ、対人恐怖の固定化が進み、その後の社会参加が困難になるリスクが高まります。
なぜ集団でいじめが起きるのか——心理的メカニズム
集団いじめが発生・持続する背景には、社会心理学が明らかにしてきた複数の心理的メカニズムが働いています。これらを理解することで、構造を変える糸口が見えます。
集団いじめを支える4つの心理力学
人間は社会的な生き物であり、集団への所属と承認を強く求めます。しかしこの「集団への欲求」が歪んだ形で表れると、集団の結束を強めるために「外敵」や「スケープゴート」を作る行動につながります。
加害者・傍観者・同調者の心理
加害者を「悪い子」と単純化することはできません。主導的加害者・同調的加害者・傍観者の心理は異なり、それぞれに固有の動機と背景があります。
主導的加害者(リーダー)の心理
集団いじめを主導する子どもの心理的背景は複雑で、単純に「悪い子だから」では片付けられません。背景には以下のような要因が絡み合っています。
- 自己肯定感の低さと支配欲自分に自信がないために、他者を支配・攻撃することで優越感を得ようとする。「いじめることで強さを示す」という歪んだ自己表現。
- 共感能力の欠如または抑制発達上の問題で共感能力が育ちにくい場合もあるが、多くは共感能力があっても「道徳的離脱」によって抑制されています。
- 被虐待歴や家庭環境の問題家庭で暴力・支配的関係を経験した子どもが学校でその再現を行うケース。被害者が加害者になるという連鎖。
- ストレスの発散先としてのいじめ家庭・塾・習い事などでの過剰なプレッシャーから、自分より「弱い」相手への攻撃でストレスを解消しようとする。
- 注目・承認欲求「いじめのリーダー」として観衆から注目されることで、承認欲求が満たされる感覚。
同調的加害者(追随者)の心理
いじめに加担するすべての子どもが積極的な意思を持っているわけではありません。多くは「従わざるを得ない」状況に置かれています。
- 自己保身「いじめに加担しなければ自分が次のターゲットになる」という現実的な恐怖から逃れるための行動。
- 帰属欲求グループに属し続けるために、グループのルール(いじめへの加担)に従う。「グループの一員でいたい」欲求が倫理的判断を上回る。
- 罪悪感の希薄化「みんながやっているから」「自分一人が止めても変わらない」という合理化が罪悪感を薄める。
- 段階的エスカレーション最初は軽い参加(笑う、見ている)が徐々に本格的な加担へ。一度加担すると「今さら引けない」心理も働く。
傍観者の心理と「多元的無知」
心理学では「多元的無知(Pluralistic Ignorance)」という概念があります。これは「周囲の人も自分と同じように思っているはずだ」という思い込みから生じる集団的な誤認識です。傍観者の多くは内心「これはおかしい」「助けてあげたい」と感じていても、「みんながやっているから正しいのかもしれない」「自分だけが問題だと感じているのかもしれない」と思い込み、介入しません。
実際には多くの傍観者が同じように「助けたい」と感じているにもかかわらず、互いにその気持ちを表現しないために「誰も問題視していない」という誤った集団認識が生まれます。これが傍観行動を持続させる大きな要因です。
メンタルヘルスへの影響
集団いじめは即時的な心理反応から、うつ病・不安障害・自尊心崩壊・長期後遺症まで、被害者のメンタルヘルスに広範な影響を与えます。脳の機能的変化を伴う医学的な問題です。
即時的な心理的反応
集団いじめが始まった直後から、被害者は強烈な心理的ストレス反応を経験します。これは脳の扁桃体(危険を感知する部位)が過剰に活性化されることによる正常な生物学的反応です。
うつ病・抑うつ状態
集団いじめの被害者は、うつ病および抑うつ状態を発症するリスクが著しく高いことが、国内外の多くの研究で明らかになっています。
- 繰り返し否定されることで「自分は価値のない存在だ」「どこへ行っても嫌われる」という否定的な自己概念が形成される
- 興味・喜びの喪失(アンヘドニア):以前は好きだったことに全く興味が持てなくなる
- 意欲・エネルギーの著しい低下:「何もしたくない」「動けない」状態が続く
- 集中力・記憶力の低下:学業成績の急落、授業に集中できない
- 自己批判の激化:「自分はだめだ」「生きている価値がない」という思考が止まらない
- 日本人の文化的特性として自罰的になりやすく、「いじめられるのは自分に原因がある」と内面化するケースが多い
不安障害・社会不安障害
集団いじめは特定の状況への恐怖(対人恐怖、社会不安)を引き起こしやすく、成人後も続く不安障害の原因になることがあります。
- 社会不安障害(社交恐怖)「人に見られている」「評価されている」という強い恐怖。学校だけでなく成人後も集団の場(会議、パーティ、就職面接)に強い恐怖を感じます。
- 全般性不安障害漠然とした不安が常にあり、「何か悪いことが起きる」という予期不安が止まらない状態。
- パニック障害人が多い場所(学校、電車、スーパー)で突然の動悸、息苦しさ、めまいが生じます。
- 対人恐怖人と関わることそのものへの強い恐怖。目が合わせられない、声が出なくなる、外出できなくなるなどの症状。
自己肯定感と自尊心の崩壊
集団いじめが自尊心に与える破壊的な影響は、その後の人生全体に及ぶことがあります。特に自己概念が形成される思春期(小学校高学年〜高校生)の体験は、その後のアイデンティティ形成に深刻な影響を与えます。
- 「クラス全員に嫌われた」という体験が「自分はどこへ行っても受け入れられない」という信念として固定化される
- 新しい人間関係への強い恐怖と回避(「どうせまた嫌われる」という思い込み)
- 失敗への過剰な恐怖:「一度でもミスをすると集団に攻撃される」という過去経験
- 自分の感情・意見を表現することへの恐怖(「意見を言うと攻撃される」)
- 親密な関係への不信感:「仲良くなった人もいじめてくる」という経験から深い関係を避ける
- 思春期に集団いじめを受けることは、その後のアイデンティティ形成に深刻な影響を与える
長期的・後遺症的影響
集団いじめの影響は、いじめが終わった後も長期間続くことがあります。いじめの「後遺症」として以下の症状が成人後も残ることが研究で示されています。
- 職場での対人困難職場の人間関係でも「いじめられるのではないか」という過剰な警戒心が続く。上司の叱責を過剰に恐れる、同僚の雑談から疎外感を感じやすい。
- 恋愛・結婚関係の困難親密な関係への不信感から深い関係を回避する。または「見捨てられること」への過剰な恐怖から相手への過度な依存が生じる。
- 身体疾患のリスク長期的なストレスが免疫機能の低下、慢性疼痛、消化器系疾患、心血管系疾患のリスクを高めることが研究で示されています。
- 物質依存のリスクいじめによるトラウマを「忘れるため」にアルコールや薬物に依存するケース。
- フラッシュバック・悪夢何十年経った後でも、特定のきっかけ(同窓会の案内、学校に関するニュースなど)でいじめの記憶が突然蘇り、強烈な感情反応が起きる。
集団いじめとPTSD・複雑性PTSD
長期にわたる集団いじめはPTSD(心的外傷後ストレス障害)、特に複雑性PTSD(C-PTSD)の原因になりえます。脳が「この環境は常に危険だ」という状態に固定されることで、症状は成人後も続きます。
いじめがPTSDを引き起こすメカニズム
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は強烈なトラウマ体験(戦争、災害、性暴力など)の後に発症する精神疾患として知られていますが、長期にわたる集団いじめもPTSDの原因になりえることが臨床的に認められています。いじめによるPTSDの特徴は、単発の出来事ではなく繰り返される慢性的なトラウマから生じる点です。毎日同じ場所(学校・クラス)で、同じ人たちから攻撃・排除される体験が積み重なると、脳が「この環境は常に危険だ」という状態に固定されます。
複雑性PTSD(C-PTSD)とは
長期にわたる繰り返すトラウマ体験(いじめ、家庭内暴力、虐待など)によって引き起こされる、通常のPTSDよりも複雑な症状像を複雑性PTSD(C-PTSD)と呼びます。2018年にWHOが作成したICD-11に正式に採用された比較的新しい診断概念です。C-PTSDでは通常のPTSDの症状(再体験・回避・過覚醒)に加えて、以下の「自己組織化の障害(DSO)」が加わります。
- 感情調節の困難感情が激しく揺れ動く。些細なことで激しい怒りが爆発したり、反対に感情が完全に麻痺したりする。
- 否定的な自己概念「自分は壊れている」「生きている価値がない」という深い確信。持続的な恥・罪悪感・無力感。
- 対人関係の困難他者を信頼することが極めて困難。親密な関係を築けない、または築いても維持できない。
長期間にわたる集団いじめは、これらのC-PTSD症状を引き起こすリスクがあります。特に学齢期の子どもはまだ自己概念や感情調節能力が発達途上であるため、長期いじめがC-PTSDとして残りやすいと考えられています。
いじめ後遺症としてのPTSDの具体的症状
いじめによるPTSDは、本人も「これがトラウマの症状だ」と気づかないまま生活に支障をきたしていることが多くあります。以下のような症状がある場合、いじめによるトラウマの影響を疑うべきかもしれません。
- ✓学校・職場の集団の中にいると、理由もなく強い不安や恐怖を感じる
- ✓複数人の笑い声が聞こえると、自分が笑われているように感じて体が固まる
- ✓同窓会の案内が来るだけで激しい動悸・嘔気が起きる
- ✓誰かに批判されると、普通の批評でも強い恐怖・怒り・解離が生じる
- ✓「グループ」「みんな」という言葉に過剰な反応がある
- ✓夜中に突然、いじめの場面が夢に出てくる
- ✓子どもの自分がいじめられている場面を「体で感じる」フラッシュバックがある
集団いじめと自殺リスク
集団いじめは被害者の自殺念慮および自殺行動と深刻な形で関連します。「絶望感」「バーデンサム感」「孤独感」という自殺のリスク要因は、まさに集団いじめが作り出す状況そのものです。
いじめと自殺の深刻な関連
集団いじめは、被害者の自殺念慮(死にたいという考え)および自殺行動(自殺未遂・自殺既遂)と深刻な形で関連することが、国内外の研究で繰り返し示されています。
- いじめを受けた子どもは、受けていない子どもと比較して自殺念慮のリスクが約2〜9倍高いとされる研究がある
- 集団いじめ(特に「仲間はずれ・無視」)を受けた子どもは、単純な言語的いじめに比べ自殺念慮のリスクがさらに高い
- 文部科学省の調査では、小中高生の自殺者数が近年増加傾向にあり、2023年度は過去最多水準に達した
- いじめを「直接の原因」とする自殺は数%にとどまるが、いじめを背景要因とするケースはより多いと考えられる
なぜ集団いじめが自殺リスクを高めるのか
自殺のリスク要因として知られる「絶望感」「バーデンサム感(自分は周囲に迷惑をかけている)」「孤独感」は、まさに集団いじめが作り出す状況そのものです。
緊急のサイン——周囲が気づいたら即行動を
以下のサインがあるときは、緊急のサポートが必要です。
- !「死にたい」「消えたい」「いなくなりたい」という言葉を口にする(冗談っぽくても同様)
- !急に大切なものを人にあげる、日記や手紙に「さよなら」の文脈がある
- !以前関心のあったことへの興味を突然完全に失う
- !極端に引きこもり、誰とも連絡を取らなくなる
- !急に落ち着いて見える(覚悟を決めた状態の可能性)
- !自傷行為(リストカット、過食嘔吐など)が始まるまたは頻繁になる
いじめを受けているサイン——周囲が気づく方法
集団いじめを受けている子どもは「言ったらもっとひどくなる」「自分が弱いのが恥ずかしい」などの理由で自らSOSを発することが困難です。だからこそ、周囲の大人が行動の変化から気づくことが重要です。
子どもが見せる行動の変化
「言ったらもっとひどくなる」「親や先生が動いても状況が悪化するだけ」「自分が弱いのが恥ずかしい」「大人に心配させたくない」——こうした理由から、子どもは自分からSOSを発することが非常に困難です。
- 登校渋り・不登校朝になると体調不良(腹痛、頭痛)を訴えて学校に行きたがらない。心身症の可能性が高く、「仮病だ」と判断しないことが重要。
- 帰宅後の様子の変化帰宅後に疲弊しきっている、無表情、部屋に閉じこもって出てこなくなった。
- 食欲・睡眠の変化食欲が急激に落ちた、または過食。夜中に眠れない、悪夢を見て泣きながら起きる。
- 学校の話をしなくなった以前は学校や友達の話をしていたのに、全く話さなくなった。
- 物が壊れている・なくなっている教科書、体育着、文具などが繰り返し「なくなる」「壊れる」。
- お金を要求する「友達に奢らなければ」「落とした」と繰り返しお金を求める(恐喝のサイン)。
- スマホを見るたびに沈むLINEの通知を見て落ち込む、スマホを隠すようになる。
- 自傷のサイン長袖で腕を隠す、傷を「ぶつけた」と説明する。
先生・教育者が気づくための観察ポイント
教師やスクールカウンセラーが日常的に注意を払うべき観察ポイントを整理します。
- ✓班・グループ活動で特定の子が毎回一人になる、または「余り者」になっている
- ✓休み時間に常に一人でいる、または外で遊ばずに教室に残っている
- ✓給食を一人で食べている、または食べ終わっても誰とも話していない
- ✓特定の子が発言するたびに、他の子たちがクスクス笑う、目を合わせる
- ✓その子が近くに来ると、他の子が急にそっぽを向く、場所を移動する
- ✓清掃や係活動で特定の子だけが重い仕事をさせられている
- ✓アンケートや作文に「学校が嫌い」「クラスに居場所がない」という記述がある
被害者自身ができること——4ステップの対処法
集団いじめを受けているとき、最も重要なのは「一人で抱え込まないこと」。難しいのも事実ですが、安全確保→記録→相談→メンタル保護の順で段階的に動くことができます。
まず、あなた自身に伝えたいこと
今すぐの対処法——4つのステップ
被害者自身ができることを段階的に整理します。すべてを一度にやる必要はなく、できそうなものから始めてください。
保護者・学校・支援機関ができること
保護者の最初の反応、学校の組織的対応、外部専門機関の活用——どれも被害者の回復に大きく影響します。いじめ防止対策推進法(2013年)は学校に明確な義務を課しており、対応が不十分なときは escalation の手段が法的に整備されています。
してよいこと・してはいけないこと
子どもが「いじめられているかもしれない」と感じたとき、または子ども自身が打ち明けてきたとき、保護者の最初の反応が子どもの回復に大きく影響します。
- ・まず聞く、解決策は後(「大変だったね」「話してくれてありがとう」と受け止める)
- ・責めない(「なぜいじめられたの」「あなたにも問題があったのでは」は禁句)
- ・「すぐ学校に言う」を急がない(まず子どもの「どうしてほしいか」を確認)
- ・担任教師にまず報告(記録したメモや写真があれば持参)
- ・担任の対応が不十分なら学年主任・教頭・校長に相談
- ・学校との連絡内容を記録する(日時・担当者・話した内容)
- ・「だから言わなかった」「なぜ早く言わなかった」
- ・「我慢しなさい」「無視しなさい」(集団いじめは無視で解決できない)
- ・子どもの同意を得ずに勝手に動く
- ・「あなたにも問題があったのでは」と原因を探る
- ・親の不安や怒りを子どもにぶつける
- ・「気合いが足りない」「もっと強くなれ」
外部の専門機関を活用する
学校だけで解決しない場合、外部機関の活用が有効です。それぞれ役割が異なるため、状況に応じて選びます。
- 教育委員会の教育相談各市区町村・都道府県の教育委員会に設置されている教育相談窓口。学校への指導・助言の権限を持ちます。
- 法務局の人権相談(子どもの人権110番)0120-007-110。無料で匿名でも相談可能。法務局は学校への働きかけも行うことがあります。「人権侵犯事件」として申告することで調査と是正措置の勧告が行われることもあります。
- 弁護士への相談(法テラス)0570-078374で無料法律相談。いじめが暴行・恐喝・脅迫など犯罪行為に該当する場合、刑事告訴・民事損害賠償の検討が可能。
- 心療内科・精神科への受診子どもの心理的症状(不眠、食欲不振、強い不安、自傷)が継続する場合は専門家への受診を検討。
- スクールカウンセラー(SC)公認心理師・臨床心理士などの資格を持つ専門家。学校内でカウンセリングを提供し、保護者・教師へのコンサルテーションを行います。
- スクールソーシャルワーカー(SSW)社会福祉士・精神保健福祉士などの資格を持つ専門家。家庭・学校・医療・福祉機関をつなぐコーディネーターとして機能します。
いじめ防止対策推進法(2013年)の枠組み
2013年に制定されたいじめ防止対策推進法は、学校・地方公共団体・国が連携していじめ問題に取り組むための法的枠組みです。学校にはいじめ対応についての明確な義務が課されています。
- いじめ防止基本方針の策定国・地方公共団体・学校はそれぞれいじめ防止のための基本方針を策定する義務がある。
- 学校いじめ対策組織の設置学校にはいじめ対策のための組織(いじめ防止対策委員会など)を設置することが義務付けられている。
- いじめの早期発見・対応定期的なアンケート調査、スクールカウンセラーとの連携など、早期発見のための措置を講じる義務。
- 重大事態の調査重大事態(長期不登校・生命・身体への重大被害)が発生した場合、学校・設置者は調査委員会を設置し、事実確認と被害者支援を行う義務。
いじめが確認された場合の学校の対応手順
いじめが確認・疑われた場合、学校は以下の手順で対応することが求められています。
学校の対応が不十分な場合の選択肢
残念ながら、すべての学校がいじめ防止対策推進法の趣旨に沿って適切に対応しているわけではありません。学校の対応が不十分だと感じた場合の選択肢を整理します。
- 教育委員会への相談(市区町村または都道府県の教育委員会は学校への指導・助言の権限を持つ)
- 第三者委員会の設置を求める(重大事態に該当する場合、外部専門家による調査委員会の設置を求める権利がある)
- 法務局・人権擁護委員への申告(「人権侵犯事件」として調査と是正措置の勧告が行われることがある)
- 弁護士への相談と法的手段の検討(損害賠償訴訟、加害者への告訴。教育委員会・学校の不作為に対する行政訴訟も理論上可能)
専門的治療と長期的な回復
集団いじめによるうつ病・PTSD・複雑性PTSDは、医療機関での専門的治療によって改善可能です。回復は直線的ではなく、良い日と悪い日を繰り返しながら少しずつ進むプロセスです。
いじめトラウマに有効な心理療法
「いじめごときで精神科に行くのは大げさ」という考えは間違いです。いじめによる心理的ダメージは脳の機能的変化を伴う医学的な問題であり、以下の心理療法が研究や臨床で効果を示しています。
精神保健福祉センター・自立支援医療制度・薬物療法
医療と公的制度を組み合わせることで、経済的負担を抑えながら継続的な治療が受けられます。
- 精神保健福祉センター各都道府県・政令指定都市に設置。精神科医・精神保健福祉士・心理士が在籍する公的相談機関。電話・面談による無料相談(匿名可)、精神科医療機関への紹介、自立支援医療制度の申請受付窓口。
- 自立支援医療制度(精神通院医療)うつ病、適応障害、PTSD、不安障害などで精神科・心療内科に継続通院する場合、医療費の自己負担が原則1割に軽減される制度。市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターで申請。
- 薬物療法うつ病・不安障害に対するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの薬物療法は症状改善に効果がある。急性期の苦しさを和らげ、心理療法に集中できる状態を作るために有用。
- 子ども・思春期専門の精神科子どものいじめ被害には、小児精神科・思春期精神科の専門家が適切に対応できる。
回復は直線的ではない
集団いじめからの回復は「治った/治っていない」という二択ではなく、良い日と悪い日を繰り返しながら少しずつ前に進むプロセスです。フラッシュバックが起きたり、特定の場所でパニックになったりする日があっても、それは「回復が失敗した」のではなく「まだその部分が癒されていない」というサインです。
成人になってから「子どもの頃のいじめが後遺症として残っていた」と気づく人も多くいます。そのような場合でも、今から専門家に相談することで回復に向かうことができます。「時間が経ちすぎた」ということはありません。
自尊心を取り戻すための実践
集団いじめによって傷ついた自尊心を取り戻すには、日常生活の中での積み重ねが重要です。
- セルフ・コンパッション(自己への思いやり)「自分が悪い」「もっとこうすべきだった」という自己批判に気づき、「傷ついている自分に思いやりを向ける」練習。苦しんでいる友人にするように、自分自身にも温かい言葉をかける。
- 新しい安心できる関係の構築いじめグループとは別の、安心できる人間関係(趣味のサークル、ボランティア、オンラインコミュニティなど)を少しずつ築く。
- 成功体験の積み重ね小さな目標(今日一度外出する、趣味を30分やる)を設定し達成することで「自分にもできる」という自己効力感を回復する。
- 自分の価値観に基づいた行動「嫌われないために」ではなく「自分が大切にしていることのために」行動する練習。他者の評価から自分の行動を切り離す。
- 身体のケア規則的な睡眠、バランスの取れた食事、軽い運動(ウォーキング、ヨガ)はストレスホルモンを下げ、セロトニンを増やす効果がある。
ポストトラウマティック・グロース(PTG)の可能性
ポストトラウマティック・グロース(PTG:外傷後成長)とは、深刻なトラウマ体験を乗り越えることで以前よりも人間として成長する現象です。すべての人に起きるわけではありませんが、いじめ被害者の中にも次のような形での成長を経験する人がいます。
- 共感力の深化「苦しみの中にいる人の気持ち」を深いレベルで理解できるようになる。支援職(医療・福祉・教育)に就く人も多い。
- 本当に大切なものの明確化つらい経験を経ることで、何が本当に大切か(信頼できる関係、自分らしさ、健康)が明確になる。
- レジリエンス(回復力)の高まり「あの体験を乗り越えられたのだから、別の困難にも対処できる」という感覚。
- 人との深いつながり表面的な関係ではなく、本当の意味で支え合える関係を大切にするようになる。
学校以外の「居場所」を見つけること
集団いじめを受けている子どもにとって、「学校だけが社会ではない」という視野を持つことが重要です。不登校になった場合でも、学校以外に安心できる居場所・学びの場があります。
- フリースクール学校に通えない子どもたちが集まる、安心できる学びの場。NPOや民間が運営。出席扱いになる場合もある。
- 教育支援センター(適応指導教室)各市区町村が設置する、学校復帰や社会的自立を支援する公的施設。心理士・教師などが常駐。
- オンライン学習・通信制学習通信制高校・オンライン塾・YouTubeを活用した学習など、学校に行かなくても学べる手段が増えている。
- 習い事・スポーツクラブ学校とは別のコミュニティで、新しい友達や安心できる大人と出会える。
- ネット上の安心できるコミュニティ趣味(ゲーム、アニメ、音楽など)を通じた、学校外のつながりを持つ。
よくある質問
A. 「言えない」と感じるのは当然です。「言ったらもっとひどくなる」「信じてもらえない」「自分が弱いと思われる」など理由は多くあります。身近な大人に言えない場合は、まず匿名で相談できる電話窓口を使ってみてください。子どもの人権110番(0120-007-110)は無料で匿名でも相談できます。相談することは弱さではありません。一人で抱え込むことが最もつらい状況を長引かせます。一歩、誰かに話してみることが回復の第一歩です。
A. 残念ながらこうした対応をされるケースは少なくありません。担任が動かない場合は学年主任・教頭・校長と直接話す機会を作ってください。「記録(日時・被害内容のメモ・スクリーンショット)」を持参し、「いじめ防止対策推進法に基づいた対応を求めます」と伝えることで学校側が組織的に動きやすくなります。それでも改善しない場合は、市区町村または都道府県の教育委員会に相談してください。「重大事態」(長期不登校、生命・身体への被害)に該当する場合は第三者委員会の設置を求める権利があります。
A. はい、適切なサポートによって改善することができます。「人が怖い」「集団が怖い」「批判されることが怖い」という感覚が続く場合、いじめによるトラウマ(PTSDや社会不安障害)が残っている可能性があります。「時間が経てば自然に治る」と放置するよりも、専門家(心療内科・精神科、臨床心理士)に相談することで、より効果的で早い回復が期待できます。特にEMDR、認知行動療法、コンパッション・フォーカスト・セラピーなどはいじめトラウマへの有効性が研究で示されています。一人で「もう大丈夫なはず」と我慢しないでください。
A. 子どもの気持ちを尊重することは大切ですが、「学校には言わない」選択が子どもを安全に守れない可能性もあります。まず「なぜ言ってほしくないのか」を丁寧に聞いてください。「先生が動いても悪化するだけ」「報復が怖い」などの理由があるはずです。その上で「あなたが安全でいることが一番大切だから、一緒に考えたい」と伝えましょう。学校への相談の前に、スクールカウンセラーや教育相談窓口など、子どもとの関係を壊さずに動ける専門家に相談することも選択肢の一つです。子どもを一人で問題に向き合わせないことが重要です。
A. 今は勉強よりも「安全であること」「心が回復すること」を最優先にしてください。勉強の遅れは後から取り戻せますが、精神的なダメージを放置した影響は長期化します。出席日数については、通信制高校への転学・編入、フリースクールや教育支援センターへの通所(学校の出席扱いになる場合がある)、オンライン学習など多様な選択肢があります。不登校でも高校・大学への進学は可能です。今の苦しさに対処することが最優先で、学校の心配はその後です。
A. はい、内容によっては法的責任を問うことができます。暴行・傷害(身体的暴力)、恐喝(お金や物の要求)、脅迫(「言うことを聞かなければ〇〇する」という脅し)は刑事犯罪です。加害者が未成年でも14歳以上であれば刑事責任が問われ得ます。加害者の保護者や学校に対する民事損害賠償訴訟も可能です。法テラス(0570-078374)で無料の法律相談が受けられます。法的手段は精神的・時間的・経済的負担を伴うため、弁護士と十分に相談した上で判断することをお勧めします。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
集団いじめのつらさを抱えていませんか。あなたの大切な悩みを、ココトモに聞かせてください。一人で抱え込むことが、最もつらい状況を長引かせます。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。精神科への通院費用の軽減には自立支援医療制度(精神通院医療)が利用でき、自己負担が原則1割になります。詳しくは最寄りの精神保健福祉センターにお問い合わせください。
