医療保護入院・措置入院とは?
非自発的入院の要件・手続き・権利を解説
本人の同意がなくても入院を可能とする「非自発的入院」の制度——医療保護入院(第33条)と措置入院(第29条)。要件・手続き・家族の同意・入院中の権利・退院請求・2024年改正・退院後支援まで、当事者・家族・支援者が知っておくべき情報を包括的にまとめました。
精神科入院の3つの形態と非自発的入院
精神科の入院は、精神保健福祉法によって厳格に規定されており、大きく分けて3つの形態(任意・医療保護・措置)があります。それぞれ要件・手続き・患者の権利の保護水準が異なります。
精神保健福祉法が定める5つの入院形態
日本全体の精神科入院患者の内訳は、任意入院:医療保護入院:措置入院がおおよそ60:40:0.1の割合とされており、任意入院と医療保護入院で大部分を占めています。本記事では、最も広く利用されている医療保護入院と措置入院(および緊急措置入院・応急入院)を中心に詳しく解説します。
本人の同意に基づく入院。決定者は精神科病院管理者。期間定めなし(本人が退院を申し出れば原則72時間以内に退院)。
精神保健指定医の診察+家族等または市町村長の同意(本人同意不要)。決定者は精神科病院管理者。最長3か月(更新可・最長6か月)。
2名以上の精神保健指定医の診察一致+自傷他害のおそれ(本人・家族同意不要)。決定者は都道府県知事・政令指定都市市長。期間は症状消退まで(定めなし)。
1名の精神保健指定医の診察+急速を要する自傷他害のおそれ。決定者は都道府県知事・政令指定都市市長。72時間以内。
精神保健指定医の診察+急速を要する(家族等の同意を得られない場合)。決定者は精神科病院管理者。72時間以内。
「非自発的入院」とは何か
医療保護入院・措置入院を総称して「非自発的入院(Involuntary Hospitalization)」と呼びます。本人の意思によらず、法律の要件を満たした場合に強制的に入院させられる制度です。世界保健機関(WHO)の精神保健行動計画においても、非自発的入院は「最後の手段」として位置づけられており、その適用は必要最小限にとどめるべきとされています。
日本では精神科病床数が世界的に見ても突出して多く、長期入院患者の問題も深刻です。2022年の厚生労働省調査では、精神科の入院患者のうち1年以上の長期入院者が全体の約55%を占めています。こうした背景から、2024年の法改正では入院期間の上限を設け、地域移行を加速させる方向性が示されました。
非自発的入院が問題となるメンタルヘルスの状態
非自発的入院が検討される主な状態として、以下が挙げられます。
医療保護入院(精神保健福祉法第33条)
医療保護入院は、本人の同意がなくても精神保健指定医の診察と家族等の同意があれば入院させることができる制度です。精神科入院患者の約4割を占め、最も頻繁に使用される非自発的入院形態です。
医療保護入院の定義
医療保護入院とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第33条に基づく入院形態で、本人の同意がなくても、精神保健指定医の診察と家族等の同意(または市町村長の同意)があれば入院させることができる制度です。
対象となるのは、「精神障害の症状があり、医療と保護のために入院が必要な状態であるが、患者本人が治療の必要性を理解・判断できず、入院に同意できる状態にない場合」です。統計的には精神科入院患者の約4割が医療保護入院であり、最も頻繁に使用される非自発的入院形態です。
医療保護入院の3つの要件
医療保護入院が成立するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- ①精神保健指定医による診察精神保健指定医(精神科の専門医として厚生労働大臣が指定した医師)が診察を行い、入院の必要性があると判断すること。精神保健指定医は通常の精神科医より上位の資格であり、非自発的入院に関する診断権限を持つ。
- ②医療と保護のための入院の必要性患者の精神症状の程度から、入院による医療と保護が必要と判断されること。外来治療や訪問支援では対応困難な重症度であることが前提。
- ③家族等または市町村長の同意患者の配偶者・親権者・扶養義務者・後見人・保佐人などの「家族等」のうち1名の書面による同意、または家族等が不在・意思表示不能の場合は市町村長の同意が必要。
医療保護入院の手続きの流れ
医療保護入院が行われるまでの手順を時系列で整理します。
医療保護入院の統計と現状
措置入院(精神保健福祉法第29条)
措置入院は、自傷または他害のおそれのある精神障害者を、都道府県知事の権限と責任において入院させる制度です。家族の同意は不要で、公権力による強制入院として、精神科医療の中で最も強制力の強い入院形態です。
措置入院の定義
措置入院とは、精神保健福祉法第29条に基づく入院形態で、自傷または他害のおそれのある精神障害者を、都道府県知事(政令指定都市では市長)の権限と責任において精神科病院に入院させる制度です。
医療保護入院と大きく異なる点は、家族の同意が不要であること、そして入院を決定するのが病院管理者ではなく都道府県知事(市長)であることです。公権力による強制入院であり、本人の意思・家族の同意のいずれも必要とせず、精神科医療の中で最も強制力の強い入院形態です。
措置入院の要件
措置入院が成立するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- ①精神障害の存在対象者が精神障害(精神保健福祉法上の「精神疾患」)を有していること。
- ②自傷他害のおそれ入院させなければ自身を傷つけるか他人に害を加えるおそれがあること。「おそれ」は切迫した具体的な危険を指し、過去の行動・現在の言動・環境等を総合的に判断する。
- ③2名以上の精神保健指定医の診察一致2名以上の精神保健指定医がそれぞれ独立して診察し、措置入院の必要性について同一の意見(意見の一致)がなければならない。1名でも反対意見があれば措置入院はできない。
措置入院の手続きの流れ
措置入院の解除(措置解除)
措置入院の解除は、以下のいずれかの方法で行われます。
- 病院管理者による症状消退の届出症状が改善し、自傷他害のおそれがなくなったと精神保健指定医が判断した場合、病院管理者が都道府県知事に届出を行い、措置解除となる。
- 都道府県知事による措置解除都道府県知事の職権で措置解除とすることもできる。
- 措置解除後の入院継続措置解除後も入院が必要な場合は、本人の同意があれば任意入院へ、同意がなければ医療保護入院に切り替えることができる。
緊急措置入院・応急入院
急速を要し、正規の措置入院や医療保護入院の手続きを踏む時間的余裕がない緊急事態に適用される制度です。それぞれ72時間という時間制限があります。
緊急措置入院(第29条の2)の定義
緊急措置入院は、精神保健福祉法第29条の2に定められた入院形態で、措置入院と同様に自傷他害のおそれのある精神障害者を対象とします。通常の措置入院との最大の違いは、急速を要し、正規の措置入院の手続きを踏む時間的余裕がない場合に適用される緊急版です。
具体的には、今まさに自傷行為・他害行為が発生しているか、数時間以内に発生するおそれが極めて高い緊急事態において、精神保健指定医1名の診察だけで入院が可能となっています。通常の措置入院が2名の診察を要するのに対し、緊急措置入院では1名でよいという要件の緩和が認められています。
緊急措置入院の要件と制限
- 要件①精神障害の存在、②自傷他害のおそれ、③急速を要すること(正規の措置入院手続きが間に合わない)、④精神保健指定医1名の診察。
- 入院期間の制限緊急措置入院は72時間(3日間)を超えることができない。この間に通常の措置入院に移行するか、措置解除(必要に応じて任意入院・医療保護入院へ切り替え)を決定しなければならない。
- 都道府県知事の判断義務緊急措置入院後、都道府県知事は速やかに措置入院へ移行するかどうかを決定する義務がある。
家族等の同意の仕組みと拒否した場合
医療保護入院は家族等の同意が要件となる制度です。「家族等」の範囲、同意拒否時の対応、市町村長同意、家族間の対立など、同意制度を巡る論点を整理します。
「家族等」の範囲(2024年改正後)
医療保護入院における同意者の範囲は、精神保健福祉法の改正によって変化してきました。2024年4月施行の現行法では、同意権者を「家族等」と定め、以下の者が含まれます。
- 配偶者
- 親権者
- 扶養義務者(直系血族・兄弟姉妹・家庭裁判所が選任した扶養義務者)
- 後見人・保佐人
なお、過去に本人を虐待した者は「家族等」から除外されることが2024年改正で明確化されました。本人を虐待した家族が入院に同意して患者を精神科病院に入院させる、という事態を防ぐための規定です。
家族等の同意の仕組み
医療保護入院の同意は、「家族等のうちいずれかの者」の同意で足ります(全員の同意は不要)。複数の家族がいる場合、1人でも同意すれば足りますが、反対の意思を示している家族がいる場合は、後述する問題が生じます。
同意は書面によって行われます。病院は家族等に対して入院の必要性・入院中の処遇・退院請求の権利等について十分に説明した上で同意を求める義務があります。
家族等が同意を拒否した場合・家族等がいない場合
家族等の全員が同意を拒否した場合、または家族等がいない場合(独居で連絡が取れない・行方不明等)は、市町村長の同意によって医療保護入院を行うことができます(法第33条3項)。
市町村長同意は、本来家族等が担う役割を行政が代行するものです。近年、家族の高齢化・核家族化・家族関係の希薄化により、市町村長同意のケースが増加傾向にあります。
入院後に家族等が反対した場合
医療保護入院が開始された後、それまで同意していた家族等が「反対する」と意思を変えた場合、または別の家族等が入院に反対の意思を示した場合は、病院管理者は以下の対応をとる必要があります。
- 入院医療の必要性・手続きの適法性について反対する家族等に説明する
- それでも反対の意思が続く場合は、都道府県知事(精神医療審査会)への退院請求ができることを教示する義務がある
- 反対する家族等は、患者本人の代理として退院請求・処遇改善請求を行うことができる
なお、家族等の反対があっても、精神保健指定医が医療上の必要性があると判断している限り、直ちに退院となるわけではありません。退院の是非は精神医療審査会が判断します。
同意を巡る倫理的問題
医療保護入院の同意制度は、長年にわたり倫理的問題の指摘を受けてきました。
- 「保護者制度」から「家族等」への変更2013年改正以前は「保護者」が同意権を持ち、その保護義務が重すぎるとして廃止された。現行の「家族等」制度でも、家族への過度な負担は残っている。
- 家族間の対立一方の家族が同意し、もう一方が反対する場合のコンフリクト。患者の意思より家族の意向が優先される構造的問題。
- 本人の意思の尊重日本弁護士連合会などは、本人の意思を最大限尊重し、強制入院を廃止・縮小する方向での法改正を求め続けている。
- 国連障害者権利条約との整合性障害者権利条約(日本は2014年批准)は、障害を理由とした強制的な医療を原則禁止しており、日本の非自発的入院制度との整合性が問われている。
入院中の患者の権利と行動制限
非自発的入院であっても、患者には法律が保障する様々な権利があります。一方で、医療または保護に欠くことのできない限度において行動制限が認められますが、絶対的に禁止されている制限もあります。
入院中の患者の権利の概要
非自発的入院であっても、患者には法律が保障する様々な権利があります。病院は入院時に書面で以下の権利を告知する義務があります。
- ✓退院請求・処遇改善請求の権利
- ✓都道府県知事に対して診察を申請する権利
- ✓弁護士・法律扶助機関への相談の権利
- ✓信書(手紙)の発受の自由
- ✓都道府県や人権擁護機関の職員等との面会の自由
- ✓都道府県や人権擁護機関への電話の自由
行動制限の種類と法的根拠
精神保健福祉法第36条は、「精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる」と規定しています。行動制限は大きく「通信・面会の制限」と「隔離・身体拘束」に分けられます。
「絶対的禁止」の行動制限
精神保健福祉法第36条3項および厚生労働大臣告示(昭和63年告示第130号)により、以下の行動制限はいかなる理由があっても禁止されています。
- ✕信書の発受の禁止(手紙を出したり受け取ったりすることを禁じること)
- ✕都道府県・政令指定都市・人権擁護機関の職員との電話・面会の禁止
- ✕弁護士・弁護士法人との電話・面会の禁止
- ✕弁護士費用を支払うことを禁じること
虐待防止措置(2024年4月施行)
2024年4月施行の改正精神保健福祉法では、精神科病院における患者への虐待防止について以下の措置が義務化されました。
- 虐待防止のための研修実施精神科病院の従事者への虐待防止研修が義務化。
- 相談体制の整備病院内に虐待相談窓口を設置する義務。
- 虐待発見時の通報義務従事者が患者への虐待を発見した場合、都道府県等に届け出・通報する義務が課される。
- 指定医の協力義務精神保健指定医は虐待防止措置に協力する義務を負う。
- 業務停止命令等の強化虐待を行った精神科病院に対する行政処分の仕組みが整備。
退院請求・処遇改善請求の手続き
入院中の患者・家族・代理人は、都道府県知事に対して退院や処遇の改善を求める請求を行うことができます。請求は書面でも口頭(電話)でも可能で、精神医療審査会が審査します。
退院請求とは
退院請求とは、入院中の患者(または家族等・代理人)が、都道府県知事(政令指定都市市長)に対して退院させるよう求める請求です(精神保健福祉法第38条の4)。任意入院・医療保護入院・措置入院のいずれの形態でも、退院請求を行うことができます。
退院請求の申請を受けた都道府県は、精神医療審査会に審査を依頼します。精神医療審査会が「退院が相当」と判断した場合、病院管理者はその患者を退院させなければなりません。
処遇改善請求とは
処遇改善請求とは、入院中の患者が受けている処遇(行動制限・隔離・身体拘束・生活環境等)の改善を都道府県知事に求める請求です(精神保健福祉法第38条の4)。退院ではなく、入院を継続しながら処遇の内容の改善を求めるものです。
- 電話・面会制限の解除を求める
- 隔離・身体拘束の解除を求める
- 病室や食事・入浴等の生活環境の改善を求める
- 担当医師の変更を求める
請求できる人
- ✓入院中の患者本人
- ✓患者の家族等
- ✓患者の代理人(弁護士等)
患者本人が精神症状のために自分で請求することが困難な場合でも、家族や弁護士が代理として請求を行うことができます。入院者訪問支援事業(2024年施行)の支援員も、患者が退院請求等を行うための情報提供・支援を行います。
請求の手続き
精神医療審査会の役割
精神医療審査会は、各都道府県・政令指定都市に設置された第三者機関で、精神障害者の人権に配慮しつつ、その適正な医療及び保護を確保するため、専門的かつ独立的に審査を行います。
精神医療審査会とは
精神医療審査会は、精神保健福祉法第12条に基づいて各都道府県・政令指定都市に設置された第三者機関で、「精神障害者の人権に配慮しつつ、その適正な医療及び保護を確保するため、精神科病院に入院している精神障害者の処遇等について、専門的かつ独立的に審査を行う」機関です。
精神医療審査会は、病院から独立した機関として機能し、患者の権利擁護を担います。精神科病院の医療従事者・法律家・地域住民代表等で構成されます。
精神医療審査会の主な機能
- ①入院の定期審査医療保護入院・措置入院の患者について、入院が適正かどうかを定期的に書類審査する。医療保護入院は6か月ごと、措置入院は3か月ごとに病院から報告書が提出され、審査会が審査する。
- ②退院請求・処遇改善請求の審査患者・家族等から退院請求・処遇改善請求が提出された場合、その是非を審査し、都道府県知事へ意見を述べる。
- ③退院等の勧告審査の結果、入院が不要または処遇改善が必要と判断した場合、都道府県知事を通じて病院管理者に退院・処遇改善を命じる勧告を行う。
精神医療審査会の構成
各合議体(審査チーム)は、精神保健指定医委員・法律家委員・有識者委員各1名以上で構成されます。
精神医療審査会の限界と課題
精神医療審査会は患者の権利擁護のための重要な機関ですが、実態としての機能には課題も指摘されています。
- 書類審査中心で実態把握が困難定期審査は書類(診断書・病状報告書)に基づく審査が中心で、患者本人を直接面接する機会が少ない。
- 退院請求の認容率の低さ退院請求のうち「退院相当」と判断される割合は低く、患者・弁護士からは「形式的な審査にとどまっている」との批判がある。
- 都道府県間の格差審査体制・審査の質・退院請求への対応速度に都道府県間で大きな差がある。
- 患者への周知不足退院請求・処遇改善請求の制度を知らない入院患者が多く、権利行使が実質的に制限されている。
入院期間の制限と更新制度(2024年改正)
2024年4月に全面施行された改正精神保健福祉法の最大の変更点の一つが、医療保護入院に入院期間の上限が設けられたことです。改正前は事実上無期限の入院が可能でした。
2024年改正による入院期間の上限設定
2022年12月に改正・2024年4月に全面施行された精神保健福祉法の最大の変更点の一つが、医療保護入院に入院期間の上限が設けられたことです。改正前は医療保護入院に期間の上限はなく、事実上無期限の入院が可能でした。
入院期間の更新手続き
3か月の上限に達した後も入院継続が必要な場合、以下の手続きを経て最長6か月間の更新が可能です。
上限期間(3か月または6か月)が切れた時点で上記手続きが完了していない場合、医療保護入院の法的根拠が失われるため、任意入院に切り替えるか、患者が退院することになります。この「入院期間の強制リセット」制度は、長期入院の防止と退院に向けた積極的な支援を促進することを目的としています。
入院者訪問支援事業(2024年創設)
2024年4月から、入院者訪問支援事業が都道府県・政令指定都市によって実施されています。これは、所定の研修を修了した「入院者訪問支援員」が、入院患者の希望に応じて病院を訪問し、丁寧に話を聞いて必要な情報を提供する事業です。
- ✓患者の希望・ニーズを傾聴する
- ✓退院請求・処遇改善請求の制度について説明する
- ✓地域の相談支援事業者・法律支援機関を紹介する
- ✓入院の継続・退院について患者本人の意思決定を支援する
この事業は、入院患者が社会から孤立しないよう、外部の目を病院内に取り入れる仕組みとして重要です。
退院後支援計画と地域生活への移行
2024年4月の改正法施行により、入院後7日以内に退院後生活環境相談員を選任することが義務付けられました。退院後の地域生活を支える制度・サービスも整備されています。
退院後生活環境相談員の役割
2024年4月の改正法施行により、医療保護入院・措置入院のいずれの場合も、病院は入院後7日以内に「退院後生活環境相談員」を選任することが義務付けられました(改正前は措置入院では努力義務)。
退院後生活環境相談員は、主に精神保健福祉士が担当し、患者・家族と連携しながら退院に向けた具体的な計画を立て、地域の支援機関との橋渡しを行います。
- 患者・家族からの相談・情報提供
- 退院後の住居・福祉サービスの調整
- 地域援助事業者(相談支援事業所等)の紹介(義務)
- 退院支援委員会の開催・進行
- 退院後の生活イメージの具体化
退院後支援計画の作成
措置入院患者については、措置解除(退院)後の支援を確保するため、退院後支援計画の作成が2018年以降ガイドラインで推奨されており、2024年改正でその実施体制が強化されました。退院後支援計画には以下の内容が盛り込まれます。
- 退院後の居住場所・生活環境の確保
- 精神科通院の継続計画(通院先・頻度)
- 利用する障害福祉サービス(就労継続支援・生活介護等)
- 相談支援専門員のアサイン
- 緊急時の対応機関・連絡先
- 再発防止のための本人のセルフケアプラン
地域生活への移行を支える制度
退院後の地域生活を支えるための主な制度・サービスを紹介します。
長期入院患者の地域移行支援
日本の精神科病院には、地域生活が可能にもかかわらず長期入院を続けている「社会的入院」の患者が多く存在します。厚生労働省の推計では、退院可能と考えられる長期入院患者が全体の数万人規模に上るとされています。
これらの患者の地域移行を促進するため、「地域移行支援」「地域定着支援」という障害福祉サービスが設けられています。指定一般相談支援事業者が担当し、入院中から地域移行に向けた支援を行います。
- 地域移行支援精神科病院から地域生活へ移行するための個別支援(住居探し・体験外泊・サービス調整等)。
- 地域定着支援退院後の地域生活の継続を支えるための常時連絡体制・緊急時対応(単身生活者等対象)。
非自発的入院を巡る人権問題と国際動向
国連障害者権利条約は、障害を理由とした強制的な医療を原則禁止しており、日本の非自発的入院制度との整合性が問われています。日本弁護士連合会も強制入院廃止に向けた段階的取り組みを提言しています。
国連障害者権利条約と日本の現状
日本は2014年に国連障害者権利条約を批准しました。同条約第14条は「いかなる場合においても、障害の存在が人身の自由の剥奪を正当化しない」と規定しており、障害を理由とした強制的な入院は原則として条約違反との解釈が国連委員会から示されています。
国連障害者権利委員会(CRPD委員会)は2022年に日本政府に対して、精神保健福祉法に基づく強制入院制度の廃止を勧告しました。日本政府はこれに対して、現時点では強制入院を完全廃止することは困難との立場をとっており、国際的な人権基準との乖離が問題として残っています。
日本弁護士連合会の提言
日本弁護士連合会は2023年2月、「精神保健福祉制度の抜本的改革を求める意見書〜強制入院廃止に向けた短期工程の提言〜」を公表し、以下を求めています。
- 強制入院制度(医療保護入院・措置入院)の廃止に向けた段階的な取り組みの開始
- 強制入院に依存しない、地域中心の精神科医療・福祉体制の整備
- 強制入院を行う際の司法審査の導入(現在は行政審査のみ)
- 精神科への拘禁的入院に関する独立した人権監視機関の設置
世界の非自発的入院制度の現状
非自発的入院の仕組みは国によって大きく異なります。
日本が司法審査なしで行政機関が強制入院を決定できる制度を維持していることは、国際的に見ても珍しいとされており、改革の必要性が指摘されています。
家族・周囲の人が知っておくべきこと
精神科病院から「医療保護入院の同意をしてほしい」と求められた場合、家族は重い決断を迫られます。同意の判断、入院中の関わり方、家族自身のメンタルヘルスケアの3つの観点から整理します。
家族として医療保護入院の同意を求められたとき
精神科病院から「医療保護入院の同意をしてほしい」と求められた場合、家族は非常に重い決断を迫られます。適切に判断するために、以下の点を確認してください。
- 説明を十分に受けるなぜ医療保護入院が必要なのか、どのような治療を行うのか、入院期間の見込みはどれくらいかを医師から詳しく説明してもらう。
- 疑問点は遠慮なく質問する「他に方法はないか」「外来治療や訪問支援では対応できないか」など、代替手段についても確認する。
- 同意する場合は内容を理解した上で同意書に署名する前に内容をよく読み、疑問があれば解消してから署名する。
- 同意を強制されることはない家族が同意を拒否することも法律上可能。ただし、その場合は市町村長同意による医療保護入院が行われる可能性がある。
- 精神保健福祉センターに相談する同意するかどうか判断に迷う場合は、事前に精神保健福祉センターや精神科ソーシャルワーカーに相談することができる。
入院中の本人への関わり方
家族が非自発的入院に同意した場合、本人から「なぜ入院させたのか」「裏切り者だ」と怒りや恨みを向けられることもあります。これは非常につらい状況ですが、以下の点を心がけてください。
- 面会を続ける本人が怒っていても、できる限り面会を続けることが回復の助けになります。「見捨てない」というメッセージを伝え続けることが大切。
- 本人の気持ちを受け止める「入院させたくなかったが、あなたの健康が心配だった」という正直な気持ちを伝える。弁解や正当化より、本人の怒りや悲しみをまず受け止める。
- 退院後の生活について一緒に考える入院治療に集中できるよう、退院後の生活の見通しを一緒に立てる作業が回復への意欲につながる。
- 担当者との連携病院の担当医・退院後生活環境相談員・精神保健福祉士との連携を密にし、本人の状態や退院計画の情報共有を行う。
家族自身のメンタルヘルスケア
精神疾患のある家族を支えることは、家族自身にも大きな精神的負担をもたらします。家族もサポートを受ける権利があります。
- 家族会への参加全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)の家族会、各疾患別家族会(統合失調症・双極性障害等)に参加し、同じ立場の家族と情報交換・交流を行う。
- 精神保健福祉センターの家族相談各都道府県の精神保健福祉センターでは、家族向けの相談・家族教室を実施している。
- 家族のための心理教育疾患の理解・コミュニケーションの方法・再発サインの見分け方などを学ぶ心理教育プログラムが病院・支援機関で提供されている。
- 自分自身のカウンセリング家族自身がうつ状態・不安・疲弊感を抱えている場合は、自分のための心療内科受診やカウンセリングを躊躇なく利用する。
利用できる支援制度と費用
精神科への入院費用は、入院形態によって自己負担の仕組みが異なります。退院後の通院には自立支援医療制度をはじめ、障害者手帳・障害年金・生活保護など多様な支援制度があります。
入院費用の概要
精神科への入院費用は、入院形態(任意・医療保護・措置)によって自己負担の仕組みが異なります。
措置入院は都道府県が費用を負担するため、家族への費用請求は原則ありません。医療保護入院・任意入院については通常の健康保険が適用され、高額療養費制度により月単位での自己負担上限が設けられています。
自立支援医療制度(精神通院医療)
退院後に精神科通院が継続して必要な場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。
- 対象継続的な精神科通院治療が必要な方(統合失調症・うつ病・双極性障害・不安障害・認知症・てんかん等)。
- 負担軽減通常3割の自己負担が1割に軽減される。さらに所得に応じて月の自己負担上限額が設定される。
- 申請先市区町村の障害福祉担当窓口(申請に医師の診断書が必要)。
- 更新2年ごとに更新手続きが必要。
- 対象医療機関の指定自立支援医療は指定された医療機関・調剤薬局でのみ適用される。
その他の利用可能な支援制度
- 障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)精神疾患による障害が一定以上の場合に取得でき、各種割引・免除・福祉サービスの利用が可能。
- 障害年金精神疾患により日常生活・就労に支障がある場合、障害基礎年金・障害厚生年金を受給できる可能性がある。
- 生活保護経済的に困窮し、自立支援医療等でも医療費を支払えない場合は生活保護を申請できる(精神科入院中の申請も可能)。
- 成年後見制度精神疾患等で判断能力が不十分な場合、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選任し、財産管理・契約行為を支援する。
- 日常生活自立支援事業認知症・精神障害等で日常生活管理に困難がある場合、社会福祉協議会が福祉サービスの利用援助・日常的金銭管理を支援。
非自発的入院に関するよくある質問
A. はい、本人が拒否していても、精神保健指定医が入院の必要性を認め、家族等または市町村長が同意すれば医療保護入院は法律上適法に行われます。精神保健福祉法第33条は「本人の同意がなくても」入院できることを明示しています。ただし、本人が拒否の意思を示せる状態であれば、病院は書面で入院の必要性・権利(退院請求できること等)を告知する義務があります。また、本人は入院後いつでも退院請求を行うことができます。非自発的入院は患者の権利に大きく関わるものであり、必要最小限の適用にとどめるべきとされています。
A. 家族全員が同意を拒否した場合でも、市町村長の同意によって医療保護入院を行うことができます(精神保健福祉法第33条3項)。つまり、家族が拒否すれば入院できないわけではありません。ただし、市町村長同意には一定の手続きが必要であり、病院が市町村に連絡・依頼する必要があります。また、「自傷他害のおそれ」が認められる緊急事態であれば、措置入院や緊急措置入院という方法もあります。いずれにせよ、家族の反対があっても適切な治療が提供できる仕組みが設けられています。
A. 最大の違いは要件と入院決定者です。医療保護入院は「医療と保護のために入院が必要な精神障害者」が対象で、家族等の同意があれば適用でき、病院管理者が入院を決定します。措置入院は「自傷または他害のおそれ」が必要要件であり、2名以上の精神保健指定医の診察一致と都道府県知事の決定が必要です。自傷他害のおそれがある場合には措置入院も検討されますが、実際には医療保護入院(家族同意あり)で対応できるケースも多く、措置入院は全入院患者の0.1%程度にとどまります。一般的には、本人の入院拒否がある場合でも家族が同意できれば医療保護入院が、緊急で自傷他害のおそれが明確な場合(警察が関与する状況等)に措置入院・緊急措置入院が検討されます。
A. 退院請求を行っても、直ちに退院できるわけではありません。都道府県が精神医療審査会に審査を依頼し、審査会が「退院が相当」と判断した場合に初めて病院は患者を退院させる義務を負います。審査には一定の時間がかかります(一般的に数週間から1か月程度、緊急性のある場合は短縮)。また、審査の結果「入院継続が相当」と判断された場合は退院できません。ただし、退院請求は何度でも行うことができます。症状の変化・治療状況の変化があれば、再度請求することが可能です。弁護士を代理人として退院請求を行うと、審査の実効性が高まる場合があります。
A. 入院期間は患者の症状・治療への反応・退院後の生活環境等によって大きく異なります。急性期の治療(最初のエピソード)では数週間〜3か月程度で退院するケースが多い一方、再発を繰り返している場合や症状が重篤な場合は長期化することもあります。2024年の法改正により医療保護入院には原則3か月(更新で最長6か月)の期間上限が設けられましたが、この期間を超える場合は更新手続きが必要です。なお、措置入院は現時点では期間上限が設けられておらず、症状が消退するまで継続される場合があります。日本全体では長期入院(1年以上)患者が依然として多く存在しており、地域移行支援の活用が重要です。
A. はい、処遇改善請求という制度を利用することができます。隔離・身体拘束を不当と感じる場合は、都道府県知事に対して処遇改善請求を行い、精神医療審査会に審査してもらうことができます。請求は書面でも口頭(電話)でも可能です。また、弁護士に相談して代理人として処遇改善を求めることも有効です。さらに、精神保健福祉センターへの相談、人権擁護機関(法務局等)への申告も一つの方法です。身体拘束は精神保健指定医の指示が必要で、代替手段がない場合の最終手段でなければならないという法律上の制限があります。不当に長期間の身体拘束が行われている場合は、違法である可能性があります。
A. 自立支援医療(精神通院医療)は「通院による精神科医療」に適用される制度であり、入院費用には適用されません。ただし、退院後の通院に備えて入院中に申請を済ませておくことは可能です。申請先は市区町村の障害福祉担当窓口で、医師の診断書(所定の様式)が必要です。入院中であれば、病院のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が申請手続きのサポートをしてくれる場合が多いので、担当スタッフに相談してみてください。入院中に申請しておくと、退院後すぐに1割負担で通院治療を継続できます。
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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)について——退院後の精神科通院費を原則1割負担に軽減できます。市区町村の障害福祉担当窓口または精神保健福祉センターにお問い合わせください。
