産業カウンセラーとは?
役割・資格・職場メンタルヘルスでの活用を解説
日本の職場で精神障害による労災認定が急増する中、企業の従業員メンタルヘルスを守る専門職として注目を集めるのが産業カウンセラー。JAICO認定の民間資格で6万人以上が活躍する役割・資格・違い・相談方法を、必要な情報をすべてここにまとめました。
産業カウンセラーとは——定義と民間資格の概要
産業カウンセラーは、企業・組織で働く人のストレス・メンタルヘルス・キャリアに関する悩みを心理学的手法で支援する専門家です。一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)が認定する民間資格で、現在6万人以上が取得し、職場の心理支援を担っています。
産業カウンセラーの定義
産業カウンセラーとは、企業・組織で働く従業員が仕事や職場の人間関係から生じるストレス・メンタルヘルスの問題・キャリアに関する悩みを抱えたとき、心理学的な手法を用いてその解決を援助する専門家です。「産業」という言葉は、農業・工業・商業などすべての産業分野で働く人を対象としていることを意味しており、特定の業種に限定されない幅広い支援を行います。
産業カウンセラーは国家資格ではなく、一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO:Japan Industrial Counselors Association)が認定する民間資格です。1971年に認定を開始した歴史ある資格であり、現在6万人以上が取得しています。日本産業カウンセラー協会は1967年に設立され、産業カウンセリングの普及・啓発と産業カウンセラーの育成・認定を担う中心的な団体として機能しています。
産業カウンセリングの3つの大きな領域
産業カウンセリングは、以下の3つの大きな領域・機能に分けられます。
来談者中心療法と3つの基本姿勢
産業カウンセリングの中核には、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した来談者中心療法(Person-Centered Approach)の考え方があります。カウンセラーは答えや解決策を一方的に与えるのではなく、相談者自身が自分の力で問題に気づき、主体的に解決できるよう支援します。この姿勢は「自己成長の支援」と表現され、相談者の自律性・自己決定を最も大切にするものです。
具体的には、傾聴(しっかりと話を聞く)、受容(相手の気持ちをそのまま受け止める)、共感(相手の立場に立って理解する)という3つの態度が、産業カウンセラーの基本姿勢として求められます。
産業カウンセラーに関する統計・現状
産業カウンセラーの仕事内容と3つの役割領域
産業カウンセラーの業務は、個人へのカウンセリングだけにとどまりません。組織への介入や予防・啓発活動まで、3つの役割領域で職場の心の健康を支えます。
個人へのカウンセリング(個別支援)
産業カウンセラーの最も中心的な業務は、従業員との個別カウンセリングです。相談者が自分の問題をより明確に理解し、自らの力で解決策を見つけられるよう、専門的な傾聴・対話技術を用いて支援します。
組織・職場環境への介入(組織支援)
産業カウンセラーは個人へのカウンセリングにとどまらず、職場環境そのものを改善するための組織へのアプローチも行います。
予防的・啓発的活動
問題が深刻化してから対応するだけでなく、一次予防(問題が起きないような環境づくり)と二次予防(早期発見・早期対処)にも積極的に関わります。
産業医・EAP・公認心理師・臨床心理士との違い
職場のメンタルヘルス支援には、産業カウンセラー以外にも複数の専門職が関わります。それぞれの役割・資格の種別・できることの違いを理解することで、適切な支援を選べます。
職場メンタルヘルスを支える5つの専門職
職場のメンタルヘルス支援には、産業カウンセラー以外にも複数の専門職が関わっています。それぞれの役割・資格の種別・できることの違いを正確に理解することが、適切な支援を受ける上で重要です。
産業医との違い——医療行為と設置義務
産業医と産業カウンセラーの最大の違いは、資格の種類と業務範囲にあります。
- 産業医は医師産業医として活動するには医師免許と産業医資格が必要。診断・処方など医療行為が可能で、健康診断結果の判定、長時間労働者への面接指導(義務)、就業制限・職場復帰の意見書作成、ストレスチェック実施者などの法的義務を担います。
- 産業カウンセラーは医師ではない医療行為を行えません。診断・処方・就業制限の命令などはできず、あくまで心理的支援・対話・相談援助が業務の中心です。
- 設置義務産業医は常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任義務があります(労働安全衛生法)。産業カウンセラーには法的な設置義務はありません。
- 補完関係産業医と産業カウンセラーは対立するのではなく、医学的・心理的の両面から職場の健康を守る補完的な関係にあります。
EAP(従業員支援プログラム)との関係
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、従業員のメンタルヘルスや生活上の問題に対して専門的なカウンセリングを提供する企業向けサービスです。EAP自体は「プログラム」であって、特定の職種ではありません。
- EAP提供機関に産業カウンセラーが在籍EAP機関は、産業医・精神科医・臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士・産業カウンセラー・社会保険労務士・キャリアコンサルタントなどの有資格者による専門家集団で構成されます。産業カウンセラーはEAP機関の主要なスタッフの一つです。
- 外部EAPと内部EAP外部EAPは企業が外部の専門機関に支援を委託するモデル。内部EAPは自社にカウンセラーを配置するモデル。どちらでも産業カウンセラーが活躍しています。
- 守秘義務と中立性EAPの大きなメリットは、社外の機関が支援を担うことで相談者が「会社にバレる」という不安なく利用できる点です。産業カウンセラーは守秘義務を徹底します。
公認心理師・臨床心理士との違い
公認心理師・臨床心理士と産業カウンセラーはいずれも心理的支援を行いますが、以下の点で異なります。
- 資格の種別公認心理師は2017年に誕生した国家資格(心理職唯一の国家資格)。臨床心理士は日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格。産業カウンセラーはJAICO認定の民間資格。
- 活動の場の広さ公認心理師・臨床心理士は医療・教育・司法・福祉・産業など幅広い分野で活動しますが、産業カウンセラーは職場・産業分野に特化した専門資格です。
- 支援の深さと方向性公認心理師・臨床心理士はより深刻な精神疾患への心理療法・心理査定が得意領域。産業カウンセラーは予防的・日常的な職場の問題への対処とキャリア支援を強みとしています。
- 両資格を保有するケースも公認心理師や臨床心理士の資格を持ちながら、さらに産業カウンセラー資格も取得して職場支援に特化する専門家も少なくありません。
資格取得方法——受験資格・試験内容・合格率
産業カウンセラー試験は、3つの受験ルートと2段階の試験で構成されます。働きながら取得を目指せる現実的な資格です。
産業カウンセラーの受験資格——3つのルート
産業カウンセラー試験を受験するためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- ルート① 養成講座の修了日本産業カウンセラー協会が認定する産業カウンセラー養成講座を修了した者。最も一般的な受験ルートで、心理学の学歴・職歴を問わず、社会人が働きながら受講できます。
- ルート② 大学・大学院での専攻4年制大学または大学院において、心理学・人間科学など心理学に隣接する学問を専攻し、協会が指定する科目・単位を取得している者。
- ルート③ 社会人経験+大学院での学習社会人として3年以上の職業経験があり、大学院研究科において心理学や心理学に隣接する指定科目を修了している者。
養成講座は通信学習と面接授業(スクーリング)を組み合わせた形式が多く、土日に開催されるスクーリングが中心となるため、フルタイムで働きながら受講することが可能です。講座の受講期間は約1年が一般的です。
試験内容と構成——学科Ⅰ・学科Ⅱ・実技
産業カウンセラー試験は、学科試験と実技試験の2段階で構成されています。
学科試験では産業カウンセリングの理論・技法・メンタルヘルスの知識が問われ、実技試験では実際のカウンセリング場面での傾聴・応答技術が評価されます。養成講座では実技試験対策として、受講者同士でロールプレイの練習を繰り返し行います。
合格率・費用・更新——受験前に押さえる6項目
- 合格率例年60〜70%台と比較的高く、養成講座でしっかりと学習すれば合格を目指しやすい資格です。ただし実技試験は座学だけでは対応できず、実際のカウンセリング技術の習得が求められます。
- 養成講座の受講費用日本産業カウンセラー協会の養成講座(1年コース)の費用は、受講料・テキスト代などを合わせて30万〜40万円程度です。
- 受験料約12,000〜15,000円程度(詳細は協会公式サイトを確認)。
- 試験実施時期通常、学科試験は1月・実技試験は2月に実施(年1回)。
- 資格更新産業カウンセラー資格は5年ごとに更新が必要。更新には継続教育(研修への参加・活動実績)が求められます。
- シニア産業カウンセラー資格取得後にさらに実践経験を積み、所定の研修・試験に合格することで認定される上位資格。より高度な専門性を持ち、産業カウンセラーの養成・指導にも携われます。
企業内・EAP・独立——9つの活躍フィールド
企業・組織内、EAP機関・支援機関、独立・フリーランスの3つの大きな枠組みで、産業カウンセラーは多様な現場で活動しています。
職場のメンタルヘルス支援における具体的な役割
厚生労働省が提唱する『4つのケア』のすべてに関わり、不調者支援・ハラスメント対応まで多面的に職場の心を支えます。
メンタルヘルスの4つのケア
厚生労働省は、職場のメンタルヘルス対策として「4つのケア」の推進を提唱しています。産業カウンセラーはこのすべての領域に関わります。
メンタルヘルス不調者への対応プロセス
産業カウンセラーがメンタルヘルス不調の従業員に関わる一般的なプロセスを説明します。
ハラスメント対応における役割
職場のハラスメント(パワーハラスメント・セクシャルハラスメント・マタニティハラスメントなど)は、深刻なメンタルヘルス問題の原因となります。産業カウンセラーはハラスメント対応において多面的な役割を担います。
- 被害者へのカウンセリングハラスメントを受けた従業員の心理的ダメージを受け止め、対処方法を一緒に考えます。
- 相談窓口担当者の育成ハラスメント相談窓口の担当者(人事・総務)が適切に相談を受けられるよう、傾聴・対応スキルを研修で指導します。
- 防止研修の実施全従業員・管理職向けにハラスメントの定義・事例・防止法を解説する研修を実施します。
- 行為者へのフォローハラスメントを行ってしまった当事者(行為者)へのカウンセリング・再発防止プログラムへの関与(被害者との利益相反に注意が必要)。
ストレスチェック制度との連携
2015年に義務化されたストレスチェック制度。産業カウンセラーは『実施者』にはなれませんが、運用全体で重要な役割を果たします。
ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度は、2015年12月から常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して実施が義務化された制度です(労働安全衛生法第66条の10)。年1回以上、従業員自身がストレスの程度を把握するための調査(ストレスチェック)を実施し、結果を本人に通知します。
ストレスチェック制度の目的は、①一次予防(メンタルヘルス不調の発生防止)と②職場環境改善の二つです。単なる「気づき」のツールにとどまらず、その後の支援・職場改善につなげることが重要です。
ストレスチェック実施者と産業カウンセラーの関係
ストレスチェックの実施者(結果の確認・高ストレス者の選定を行う者)は、法律上、医師・保健師・精神保健福祉士・公認心理師に限定されています。産業カウンセラーは実施者にはなれませんが、ストレスチェック制度全体の運用において重要な役割を果たします。
- 実施事務従事者としての役割ストレスチェックの実施補助(調査票の配布・回収、データ入力・集計など)を「実施事務従事者」として担当できます。
- 高ストレス者へのフォローアップストレスチェックで高ストレスと判定された従業員への個別カウンセリングを実施。医師面接(義務)の前後のケア、面接を受けるよう勧奨するサポートを担います。
- 集団分析の活用支援職場(部署・チーム)ごとのストレスチェック結果の集団分析データを活用し、職場環境改善のための提案を行います。
- 研修・啓発との連動ストレスチェック実施時期に合わせて、セルフケア研修・ストレス対処法研修を実施し、従業員の理解促進と活用を促します。
職場環境改善への貢献
ストレスチェックの集団分析結果は、職場環境改善のための貴重なデータです。産業カウンセラーはこのデータを活用して組織レベルの改善に関わります。
- ストレス要因の特定集団分析で特定の部署・チームに高いストレスが集中している場合、その背景(業務量・裁量権・サポート体制・人間関係)を分析します。
- 改善策の提案業務の分担見直し・コミュニケーション促進施策・休憩環境の改善など、具体的な改善策を経営層・管理職に提案します。
- 取り組みの評価翌年のストレスチェック結果と比較し、改善施策の効果を検証する「PDCAサイクル」の運用を支援します。
キャリア支援・組織コンサルティングへの関わり
メンタルヘルス支援だけでなく、キャリア相談・組織変革にも産業カウンセラーは深く関わります。個人のキャリアと組織の活性化を結ぶ存在です。
キャリアカウンセリングの内容——5つの場面
産業カウンセラーのもう一つの重要な役割がキャリアカウンセリングです。メンタルヘルスの問題がない場合でも、仕事や職業生活に関する悩みを抱える従業員の支援を行います。
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの違い
キャリア支援に関しては、産業カウンセラーとキャリアコンサルタント(国家資格)が重複する部分があります。両者の違いを理解しておくことが大切です。
- キャリアコンサルタント2016年に国家資格化。職業選択・キャリア開発の専門家として、就職・転職・キャリアアップの相談に特化する傾向がある。ハローワーク・就職支援機関・大学のキャリアセンターでも活躍。
- 産業カウンセラーキャリア支援を包含しつつ、メンタルヘルス・人間関係・職場環境改善まで広くカバー。特に精神面の問題に触れる場面が多い。企業・EAP機関での活躍が中心。
- 両資格を取得するケース両方を取得することで、メンタルヘルス支援とキャリア開発支援の両方を高度に提供できる専門家として活躍するケースも多いです。
組織コンサルティングへの関与
産業カウンセラーは個人支援だけでなく、組織全体の健康(組織の活性化・働きやすい職場環境)にも貢献します。
- ウェルビーイング施策の立案支援従業員エンゲージメント・満足度向上のための施策を人事・経営層とともに検討します。
- 組織風土・心理的安全性の向上「失敗を恐れず意見を言える」心理的安全性の高い職場づくりに向けた研修・コンサルティング。
- 離職防止・定着率向上優秀な人材の離職を防ぐための組織的施策を支援。特に入社後早期(3年以内)の離職防止に向けた若手フォロー体制の構築。
- ダイバーシティ・インクルージョン推進多様な背景を持つ従業員(障害者・外国人・LGBTQ+・シニア)が活躍できる職場環境づくりへのカウンセリング的アプローチ。
企業・組織の従業員として相談する場合
所属する企業・組織に産業カウンセラーが配置されている場合、または外部EAPと契約している場合は、以下の方法で相談できます。
- 社内相談窓口・健康管理室人事部門・健康管理室に設置されている相談窓口で予約を取り、社内産業カウンセラーと面談する。多くの場合、無料・守秘義務あり。
- 外部EAPの利用会社が外部EAPと契約している場合、EAPのフリーダイヤルに電話するか、ウェブから予約して相談できる。従業員の自己負担なし(企業が費用を負担)のケースが多い。
- 電話・オンライン相談EAPによっては、24時間対応の電話相談・チャット相談・ビデオカウンセリングが利用できる。夜間・休日でも利用可能なサービスも増えている。
- 相談内容の守秘産業カウンセラーには守秘義務があります。相談内容が上司や人事に無断で伝わることは原則ありません(本人の同意なく情報共有されることはない)。
個人として相談する場合の費用——4つのルート
企業の福利厚生として利用できる産業カウンセラーサービス以外に、個人として産業カウンセラーに相談したい場合の費用の目安です。
相談する際の4つのポイント
- 「ちょっとした悩み」でも相談できる深刻な精神疾患を抱えている人だけのものではありません。「職場の人間関係が気になる」「キャリアの方向性がわからない」といった日常的な悩みでも歓迎されます。
- 初回は状況説明から初回の面談では、カウンセラーが状況をヒアリングします。「何でも話してもいい場所」として、気になっていることを率直に伝えましょう。
- 合わなければ変えてもよい産業カウンセラーとの相性は重要です。「この人には話しにくい」と感じた場合は、遠慮なく変更を依頼することができます。
- 医療が必要な場合はつないでもらえる症状が重く精神科・心療内科への受診が必要と判断された場合、産業カウンセラーが適切な医療機関を紹介してくれます。
産業カウンセラーを活用するメリットと企業導入のポイント
生産性の維持、休職コスト削減、法的リスク軽減——産業カウンセラー導入で企業が得られる5つのメリットと、効果を最大化する5つの導入ポイントをまとめます。
企業にとっての5つのメリット
産業カウンセラーを導入・活用することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
企業導入のポイント——5つの成功条件
- 内部EAPか外部EAPかの選択大企業で多数の従業員を常時支援するには内部(常勤)カウンセラーが有効。中小企業・全国展開企業には外部EAP機関との契約が費用対効果に優れる。
- 守秘義務の徹底と周知従業員が安心して相談できるよう、「相談内容が上司・人事に漏れない」という守秘義務の原則を組織全体に周知することが利用率向上の鍵。
- 産業医・保健師との連携体制の構築産業カウンセラー単独ではなく、産業医・保健師・人事担当者とのチームアプローチにより、より包括的な支援が可能になる。
- 管理職の理解を得る産業カウンセラー制度の効果を最大化するには、管理職がその役割を理解し、部下の相談を勧める姿勢を持つことが重要。
- 利用率の把握と改善相談窓口の利用件数・内容(個人情報を除く)を定期的に把握し、制度の周知・改善に活用する。
産業カウンセラーが必要とされる背景——職場メンタルヘルスの現状
日本の職場では、メンタルヘルスの問題が急速に深刻化しています。法的義務の強化と社会的需要の高まりから、産業カウンセラーの存在感はますます大きくなっています。
職場メンタルヘルスの深刻化
日本の職場では、メンタルヘルスの問題が急速に深刻化しています。
- 精神障害の労災認定急増厚生労働省によると、精神障害に関する労災認定件数は2020年度の608件から2024年度には1,055件へと約1.7倍に増加。件数は過去最多水準を更新し続けている。
- 強いストレスを感じる労働者が約6割厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活に関して強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者は常に5〜6割台で推移している。
- ハラスメント相談の増加厚生労働省の「個別労働紛争解決制度」への相談件数のうち、いじめ・嫌がらせに関する相談は年々増加傾向にあり、近年はすべての相談類型の中で最多となっている。
- リモートワーク・孤立の問題コロナ禍以降のテレワーク普及により、孤立感・コミュニケーション不足・在宅でのストレスが新たな課題となっている。
企業の安全配慮義務とメンタルヘルス対策
企業(使用者)は、従業員に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っています。これは、従業員が安全に働けるよう必要な配慮をする義務であり、身体的な安全だけでなく精神的な健康(メンタルヘルス)の保護も含まれます。
- 過労うつ・過労自殺への使用者責任過重労働や職場のハラスメントによりうつ病を発症・悪化させ、最悪の場合に自殺に至った場合、企業は損害賠償責任を問われるリスクがある。実際に多くの判例で企業の使用者責任が認められている。
- 「合理的配慮」の要請障害者雇用促進法の改正により、精神障害のある従業員に対しても「合理的配慮」を提供することが企業に義務づけられている。産業カウンセラーはこの「配慮」の具体化を支援できる。
- メンタルヘルス対策の義務化拡大ストレスチェック制度(50人以上の事業場に義務)のほか、長時間労働者への医師面接指導、過重労働防止対策など、企業のメンタルヘルス対策に関する法的要請は年々強化されている。
産業カウンセラーへの社会的需要の高まり
このような背景から、産業カウンセラーへの社会的需要は高まり続けています。
- 中小企業でのニーズ拡大大企業では産業保健体制が整備されつつあるが、中小企業では専任の産業医・保健師すら配置できないケースも多い。外部EAPや産業カウンセラーの訪問相談サービスへのニーズが拡大している。
- 多様な働き方への対応テレワーク・副業・フリーランスなど働き方の多様化に伴い、新たなストレス課題への対応力が求められている。
- ウェルビーイング経営の浸透「従業員の幸福度・ウェルビーイングが企業業績に直結する」という考え方が普及し、メンタルヘルス支援への投資を積極的に行う企業が増えている。
よくある質問と相談すべきタイミング
国家資格との違い、守秘義務、医療機関との使い分けなど、産業カウンセラーへのよくある質問と、相談を考えるべきサインをまとめました。
以下のサインがあれば早めに相談を
下記のサインが続いている場合は、産業カウンセラー・心療内科・精神保健福祉センターなど専門家への相談を検討してください。
- ✓仕事のことを考えると気持ちが重く、朝起きられない日が続いている
- ✓職場の人間関係が気になり、職場に行くのが怖い・憂うつと感じる
- ✓以前は楽しめていた仕事や趣味に興味が持てなくなった
- ✓ミスが増えた・集中できない・判断力が落ちたと感じる
- ✓眠れない・食欲がない・疲れが取れないなど身体的な不調が続いている
- ✓キャリアの方向性がわからなくなり、漠然とした不安がある
- ✓ハラスメントを受けているが、どこに相談すればよいかわからない
- ✓「消えてしまいたい」「仕事をやめれば楽になれる」という考えが頭をよぎる
状況別・相談先の選び方
- 職場・キャリアの悩みが中心の場合産業カウンセラーへの相談が適切。会社の相談窓口・EAP・産業保健総合支援センターを活用する。
- 精神的な症状が目立つ場合心療内科・精神科への受診と並行して、または受診前の相談として産業カウンセラー・精神保健福祉センターを利用する。
- キャリアの転換点・就職・転職の悩みの場合産業カウンセラーまたはキャリアコンサルタントへの相談が適切。公共職業安定所(ハローワーク)のキャリアコンサルティングサービスも無料で利用できる。
- 費用の負担が心配な場合精神保健福祉センター・産業保健総合支援センターは無料。精神科・心療内科への通院には自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで医療費の自己負担が原則1割に軽減される。
よくある質問
A. 産業カウンセラーは国家資格ではなく、一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)が認定する民間資格です。1971年から認定が始まった歴史ある資格で、現在6万人以上が取得しています。心理職の国家資格としては「公認心理師」(2017年創設)があり、産業カウンセラーとは別の資格です。なお、産業カウンセラーと公認心理師の両方を取得しているカウンセラーも多くいます。産業カウンセラーは民間資格ですが、企業・EAP機関・産業保健機関で広く活用されており、職場のメンタルヘルス支援分野での専門性と信頼性を持つ資格として認知されています。
A. 産業カウンセラーへの相談内容は、仕事・職場に関連するものであれば幅広く受け付けています。具体的には、①仕事上のストレス・燃え尽き感・過労感、②上司・同僚・部下との人間関係トラブル・パワーハラスメント、③転職・異動・昇進などキャリアの方向性に関する悩み、④育児・介護休業からの復帰に関する不安、⑤職場での不安・抑うつ・やる気の低下などのメンタルヘルス症状、⑥リモートワークでの孤独感・コミュニケーション不足など、多岐にわたります。「これは相談していいのかな」と迷う必要はありません。「ちょっとしたモヤモヤ」の段階で相談することで、問題が深刻化する前に対処できます。
A. 産業カウンセラーには守秘義務があり、相談者の同意なく相談内容を会社(上司・人事など)に伝えることはありません。これはカウンセリングの基本原則であり、産業カウンセラーとしての倫理規定でも定められています。ただし、例外として①相談者本人または第三者の生命に危険が及ぶ可能性がある場合(自殺念慮・他害のリスクなど)は、必要な範囲で情報共有が行われることがあります。この例外についても、できる限り事前に相談者に説明されます。「会社に知られたくない」と感じている場合は、最初に「守秘義務の範囲」についてカウンセラーに確認してから話すと安心できます。
A. 症状の程度によって異なります。不眠・食欲不振・強い抑うつ感・仕事への支障が続いている場合は、まず精神科・心療内科を受診して医学的な診断と治療を受けることをお勧めします。産業カウンセラーは医師ではなく、診断・処方は行えません。一方、「職場でストレスを感じているが病院に行くほどではない」「キャリアの悩みがある」という段階であれば、産業カウンセラーへの相談から始めることが適切です。産業カウンセラーは状況を聴き取った上で、必要であれば医療機関を紹介する「つなぎ」の役割も担います。迷った場合は産業カウンセラーに相談し、受診の必要性を一緒に判断してもらうことができます。
A. 最も一般的なルートである日本産業カウンセラー協会の養成講座(1年コース)の場合、受講料・テキスト代などを含めて概ね30万〜40万円程度の費用がかかります。期間は約1年で、通信学習と週末スクーリングを組み合わせた形式が多いため、フルタイムで働きながら取得することが可能です。養成講座修了後、学科試験(1月)と実技試験(2月)に合格し、協会に入会することで資格が取得できます。合格率は例年60〜70%台です。また、大学・大学院で心理学の指定科目を修了している場合は養成講座なしで受験できますが、この場合でも実技試験対策のための準備が必要です。
A. 会社に産業カウンセラーが配置されていない場合でも、以下の相談先を利用できます。①各都道府県に設置されている産業保健総合支援センターでは、労働者・事業者向けの産業保健相談を無料で提供しており、産業カウンセラーや産業医に相談できます。②精神保健福祉センター(都道府県・政令市設置)では、こころの健康に関する相談を無料で受け付けています。③オンラインカウンセリングサービス(有料、1回3,000〜8,000円程度)で産業カウンセラー資格を持つカウンセラーに相談することもできます。④会社の健康保険組合(健保)によっては、メンタルヘルス相談サービスを提供していることもあるため、加入している健保のサービスを確認することもお勧めします。
A. ストレスチェックで高ストレスと判定された場合、まず自分の結果をしっかり確認し、どの領域(仕事の量・コントロール・人間関係・サポートなど)でストレスが高いかを把握しましょう。次に、①本人が希望する場合は産業医による面接指導を申し出ることができます(申し出ても不利益な取り扱いは禁止されています)。②産業医面接に加えて、または代わりに、産業カウンセラーへの相談を行うことで、ストレスの背景や対処法について丁寧にサポートを受けられます。③すでに眠れない・職場に行くのが怖いなどの症状がある場合は、早めに心療内科・精神科を受診することをお勧めします。高ストレス判定は「病気」を意味するものではありませんが、対処せずに放置すると不調が深刻化するリスクがあります。一人で抱え込まず、専門家に相談することが重要です。
職場のストレス・人間関係・
キャリアの悩みを抱えるあなたへ
「これくらいで相談していいのかな」と迷う必要はありません。職場のモヤモヤも、キャリアの不安も、ココトモに話してみませんか。一人で抱え込まず、最初の一歩を踏み出しましょう。
うつ病・適応障害などで精神科・心療内科への通院が必要な場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。申請窓口は市区町村の福祉担当部署です。詳細は最寄りの精神保健福祉センターにご相談ください。このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
