産後うつとは?
症状・原因・治療法・家族の対応・支援制度をわかりやすく解説
出産後の母親の約10〜20%が経験する産後うつ。「心が弱いから」でも「母親失格だから」でもありません。ホルモン・睡眠不足・育児ストレスが重なる中で誰にでも起こりうる疾患です。定義・症状・原因・EPDS・治療・家族のサポート・支援制度まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
産後うつとは——定義と発症時期
産後うつ(産後うつ病)は、出産後の一定期間に発症するうつ病の一形態です。「気の持ちよう」や「根性の問題」ではなく、ホルモン・睡眠・社会的要因が複合して起こる医学的な疾患であり、適切なサポートで多くの場合は回復します。
産後うつの定義
産後うつ(産後うつ病)とは、出産後の一定期間(主に産後4週間以内〜数か月)に発症するうつ病の一形態です。医学的には周産期うつ病(Perinatal Depression)あるいは産後うつ病(Postpartum Depression/PPD)と呼ばれ、DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)では「周産期発症型」のうつ病として分類されます。
「産後うつ」という名称から、産後だけに発症するものと思われがちですが、実際には妊娠中から発症する場合もあります。最新の概念では、妊娠中から産後1年間にわたる時期に発症するうつ症状全体を「周産期うつ病」と捉えることが増えています。
産後うつが発症しやすい時期
産後うつは出産後いつでも発症する可能性がありますが、以下のようなタイミングで発症しやすいことが知られています。
産後うつは「弱さ」の表れではない
「母親なのに弱音を吐けない」「甘えだと思われたくない」——多くの人がそう感じて、ひとりで抱え込んでしまいます。しかし産後うつは、ホルモン変化・睡眠不足・育児のプレッシャーが重なれば誰にでも起こりうる医学的な疾患です。早期に支援を求めることで、回復は十分に可能です。
マタニティブルー・産後精神病との違い
産後に起こる精神的な問題は「産後うつ」だけではありません。マタニティブルー・産後うつ病・産後精神病の3つを区別し、それぞれの位置づけを理解することが、適切な対処の第一歩です。
産後に起こる3つの精神的な状態
産後の精神的な不調は、主に次の3つに分類されます。それぞれ発症時期・症状・頻度・対応が大きく異なります。
マタニティブルーと産後うつの比較
マタニティブルーは、出産直後から産後3〜5日をピークに起こる一過性の気分の落ち込みや情緒不安定な状態です。日本では産後女性の30〜80%が経験するとされており、分娩後のホルモンの急激な低下(特にプロゲステロン・エストロゲン)が主因です。通常は産後2週間以内に自然回復し、治療を必要としない場合がほとんどです。
マタニティブルーが産後うつへ移行することも
重要なのは、マタニティブルーが産後うつへと移行することがある点です。マタニティブルーの症状が2週間経っても改善しない・むしろ悪化している場合は、産後うつへの移行が疑われます。
産後うつの有病率と実態
産後うつは決して珍しい状態ではありません。日本では産後女性の約10〜20%が経験するとされ、しかも多くのケースが見逃されているのが現状です。
日本における産後うつの有病率
産後うつの有病率は調査方法や対象によって異なりますが、日本では以下のデータが報告されています。
長期化する産後うつ
産後うつは「産後すぐ」だけの問題ではありません。名古屋大学が2025年に発表した研究では、産後2年以上経過した後も、うつ傾向が長引く人が24.1%、産後しばらくして不調を来たす人が12.7%存在することが明らかになっています。適切な治療を受けなかった場合、慢性化するリスクが高まります。
産後うつが見逃される現状
産後うつの問題として深刻なのは、多くのケースが見逃されていることです。その背景には以下のような要因があります。
- 本人の自覚の難しさ睡眠不足や疲労が当たり前という認識から、うつ症状との区別がつきにくい。
- 「母親なのに弱音を言えない」社会的プレッシャー強さを求められる文化的規範が相談を妨げる。
- 産後の受診機会の少なさ産後1か月健診以降、定期的に医療機関を受診する機会が減る。
- 赤ちゃんへの罪悪感「子どもがいるのに自分のことを考えている場合ではない」という自責感。
- パートナーや周囲の無理解「甘え」「気のせい」と受け流されてしまう。
産後うつの症状
産後うつの症状は通常のうつ病と共通する部分が多いですが、育児環境特有の症状も加わります。精神的症状・身体的症状・産後特有のサインの3つの角度から整理します。
主な精神的症状と身体的症状
産後うつ特有のサイン
産後うつには、一般的なうつ病と共通する症状に加え、育児環境に特有のサインがあります。
- ✓赤ちゃんの泣き声に対して極度の恐怖や怒りを感じる
- ✓赤ちゃんを傷つけてしまうのではないかという強迫的な恐怖(実際に傷つけたいという欲求とは異なる)
- ✓授乳中にも「楽しい」「幸せ」と感じられない
- ✓「自分は母親に向いていない」と確信している
- ✓育児書・SNSと自分を比較して激しい劣等感を感じる
- ✓夫・パートナーや実母に対して強い怒りや憎しみを感じる
- ✓外出するのが怖い、人に会いたくない
産後うつと産後不安症
産後うつと並んでよく見られるのが産後不安症(Postpartum Anxiety)です。産後うつ病の診断基準を満たさなくても、強い不安症状が主体となることがあります。産後の女性では、うつより不安が先行したり、うつと不安が混在したりするケースも多く、「産後うつ」という言葉が指す範囲は実際には幅広いと考えてください。
生物学的・心理的・社会的・産科的要因
ホルモン・神経伝達物質・睡眠の生理学的な変化が深く関与します。
パーソナリティや既往歴、過去の経験が発症リスクに影響します。
孤立・サポート不足・経済的負担などの環境が大きく影響します。
妊娠経過や分娩体験そのものが、産後うつのリスクに直結します。
- ホルモンの急激な変化:妊娠中に大量分泌されていたエストロゲン・プロゲステロンが分娩後に急激に低下。これらはセロトニン・ドーパミンなど気分調節に関わる神経伝達物質と深く関係している
- 甲状腺ホルモンの変化:産後甲状腺炎が発症することがあり、疲労感・気分の落ち込みなど産後うつと類似した症状を呈する。評価では甲状腺機能の確認も重要
- 睡眠不足の影響:新生児の不規則な授乳・夜泣きによる慢性的睡眠不足は、前頭前皮質の機能を低下させ感情調節を困難にする
- 遺伝的要因:東北大学の研究チームは産後うつの発症しやすさに関与する遺伝子座を特定しており、遺伝的素因の関与が示唆されている
- うつ病・不安症の既往歴:過去にうつ病や不安症を経験した人は産後うつのリスクが高い(最も強いリスク因子の一つ)
- 完璧主義・高い自己期待:「完璧な母親でなければ」という信念が自己評価の低下を招く
- 育児への不安・自信のなさ:特に初産婦で育児経験のない人は、わからないことへの不安が高まりやすい
- 望まない妊娠・複雑な感情:妊娠に対して両価的な感情がある場合、産後に罪悪感として現れることがある
- 過去のトラウマ・虐待経験:幼少期のトラウマや虐待経験がある場合、産後うつのリスクが高まる
- 社会的孤立:核家族化・地縁の薄れにより育児を一人で抱え込む状況がリスクを高める
- パートナーのサポート不足:夫・パートナーの育児参加が少なく、一人で育児を担う状況
- 実家・義実家との距離:地方出身者や転勤族など、頼れる家族が近くにいない
- 経済的ストレス:育休中の収入減・育児費用への不安
- キャリアへの不安:復職できるかどうか、職場での立場への不安
- SNSによる比較:SNS上の「幸せそうな育児」との比較で自己評価が下がる
- 妊娠中うつ・不安症状:妊娠期の抑うつ・不安症状は産後うつの最大のリスク因子の一つ
- 緊急帝王切開・難産:予期しない分娩経過がトラウマ的体験となる場合がある
- 早産・NICU入院:赤ちゃんが健康でない不安、NICUへの面会の負担
- 授乳困難:母乳育児がうまくいかないことへの自責感
- 多胎妊娠(双子・三つ子):育児負担が倍増し、疲弊しやすい
- 東京都妊産婦コホート研究(2025年):若い初産婦では妊娠中に頼れる人が6人以上いると産後うつ症状が有意に軽減されることが明らかになった
EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)
EPDSは1987年にJ.L.Coxらによって開発された産後うつ病のスクリーニングツール。日本では9点以上をカットオフとし、感度75〜82%・特異度93〜95%という高い精度が報告されています。
EPDSとは——スクリーニングの目的と精度
EPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale)は、母親自身が10の質問項目に回答し、合計点数(0〜30点)によってうつのリスクを判定します。日本では9点以上を産後うつの疑いありとするカットオフ値として用いられており、産後1か月健診時に多くの医療機関で実施されています。
EPDSの10の質問項目
EPDSでは「過去7日間」について以下の10の領域を評価します(各0〜3点)。
- 1笑うことができたか、物事のおかしい面がわかったか
- 2物事を楽しみにして待てたか
- 3物事がうまくいかないとき、自分を不必要に責めたか
- 4はっきりした理由もないのに不安になったり、心配したか
- 5はっきりした理由もないのに恐怖に襲われたか
- 6することが山積みになっていると感じたか
- 7不幸せなので、眠りにくかったか
- 8悲しくなったり、惨めになったりしたか
- 9不幸せなので、泣いていたか
- 10自分自身を傷つけようという考えが浮かんだか
EPDSの限界と注意点
- EPDSが9点未満でも産後うつが否定されるわけではない(見逃しの可能性)
- 産後1か月の1回だけでなく、産後3か月・6か月にも実施することが望ましい
- EPDSは「うつ」のスクリーニングであり、不安症状は十分評価されない場合がある
- スクリーニングで高得点だった場合、必ず医療機関や保健師に相談するよう促すことが重要
子ども・乳幼児への影響
産後うつは母親自身だけでなく、子どもの発達にも影響を与えうることが研究で示されています。ただし「産後うつの母親が子どもを傷つける」のではなく、早期治療と支援で影響を最小化できます。
愛着形成への影響——マレー教授らの研究
英国の心理学者リンネ・マレー教授らの研究では、産後うつの母親に見られやすい特徴として以下が指摘されています。
- 乳児の要求にどのように応えるかに戸惑いやすい
- 乳児がなぜ泣いているのかわかりにくい
- 抑うつ感情により、子どもの要求より自分の感情状態にとらわれやすい
- 赤ちゃんとの触れ合い(アイコンタクト・声かけ・微笑み返し)が減少しがちになる
エコチル調査の知見(富山大学)
富山大学のエコチル調査研究グループは約7万6000人の母親を対象とした大規模調査を行い、産後1か月時点のボンディング(母子の感情的絆)と産後うつの関係を分析しました。
- 「育児不安」「母親感情の欠如」いずれについても、産後うつとの有意な関連が確認された
- 産前に赤ちゃんと触れ合う体験を増やすことが育児不安軽減につながる可能性が示唆された
子どもの長期的発達への影響
産後うつが適切に治療されないまま長期化した場合、子どもの発達に以下の影響を与える可能性が研究で示されています。
ボンディング障害について
ボンディング障害とは、出産後に母親が赤ちゃんに対して感情的な絆を感じられない状態のことです。産後うつとは異なる概念ですが、産後うつを抱える母親に合併することがあります。
- 「この子を可愛いと思えない」「赤ちゃんが他人のように感じる」という感覚
- 育児を義務としてこなしているが喜びを感じられない
- 「こんな感情を持つ自分は最低な母親だ」という強い罪悪感
父親・パートナーの産後うつ
産後うつは母親だけの問題ではありません。国立成育医療研究センターが2025年1月に公開した「父親支援マニュアル」でも強調されているように、父親(男性パートナー)の産後うつも深刻な問題です。
父親の産後うつの実態
父親の産後うつは産後数か月以降に多く発症する傾向があり、周囲のサポートが減る一方で、離乳食対応・夜中の世話など育児負担が増加する時期と重なります。「仕事でのプレッシャー」「家庭の変化への適応困難」「パートナーとのコミュニケーション不足」「育児スキルへの自信のなさ」などが重なって発症します。
パートナー間の相互影響——「二重うつ」のリスク
産後うつは、母親と父親が互いに影響し合うことが研究で示されています。
- 女性が産後うつになると、男性が産後うつになる確率が24〜50%上昇する(国内外の複数研究による)
- 父親が産後うつになると、パートナーのサポートが減少し母親の負担がさらに増大する
- 夫婦双方のメンタルヘルスが悪化する「二重うつ」状態に陥るリスクがある
父親の産後うつの症状と特徴
父親の産後うつは母親の産後うつと異なる形で現れることがあります。
産後うつの治療法
産後うつは適切な治療を受けることで回復できる疾患です。治療の3本柱は「徹底的な休養」「薬物療法(SSRI)」「心理療法」。加えて産後ケア事業の活用も有効です。
まず大切なのは受診すること
産後うつの治療の第一歩は、専門家に相談・受診することです。産婦人科・心療内科・精神科のいずれでも構いません。「これくらいで受診していいのか」「大げさではないか」という心配は無用です。
治療の3本柱
薬物療法(抗うつ薬)の詳細
産後うつの薬物療法では、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられます。SSRIは比較的副作用が少なく、産後の女性にも使用しやすい薬剤です。
- 授乳中の服薬について代表的なSSRI・SNRI・NaSSAは母乳への移行率が非常に低く、多くの追跡調査でも重大な問題は報告されていない。授乳継続の可否は医師と相談して個別に判断する。
- 効果が出るまでの時間抗うつ薬の効果が現れるまでに通常2〜4週間かかる。途中でやめないことが重要。
- 服薬中断のリスク「よくなったから」と自己判断で服薬をやめると再燃するリスクが高い。必ず医師の指示に従って減薬・中止する。
心理療法の種類
心理療法は薬物療法と並ぶ重要な治療選択肢です。
- 認知行動療法(CBT)「ダメな母親だ」「みんなに迷惑をかけている」などの歪んだ思考パターン(認知の歪み)を同定し、現実的で柔軟な思考に変えていく。産後うつへの有効性が多くの研究で確認されている。
- 対人関係療法(IPT)役割の変化(「自分」から「母親」への移行)や対人関係の問題に焦点を当てた心理療法。産後うつへの有効性が特に高いとされる。
- マインドフルネス認知療法(MBCT)「今ここ」の気づきを育てることで、反芻思考や自責感のサイクルを断ち切る。再発予防にも有効。
- カウンセリング・支持的精神療法専門家が傾聴し、感情を受け止めてもらうだけでも症状の改善につながる。
産後ケア事業の活用
日本では2021年4月から市区町村が産後ケア事業を実施することが努力義務となり、2024年度末時点で全国の約84%の市区町村で実施されています。
セルフケアと日常の工夫
セルフケアの3本柱は「休養」「社会的つながり」「日常生活の工夫」。治療と並行して、これらを意識することが回復を支えます。
休養を最優先にする
産後うつのセルフケアで最も重要なのは休養です。「育児をしながら休む」ことは矛盾しているように感じるかもしれませんが、以下の工夫が助けになります。
- 赤ちゃんが寝たら一緒に寝る家事の優先度を下げ、睡眠を最優先にする。
- 「完璧な育児」をやめる赤ちゃんが安全であれば、それで十分。床が多少散らかっていても命に関わらない。
- 夫・パートナーや家族に頼む「お願いするのは申し訳ない」という気持ちを手放し、具体的な助けを求める。
- 外部サービスを利用する家事代行・宅食・ネットスーパーなど、無理せず外注する。
社会的つながりを保つ
産後うつでは孤立が症状を悪化させます。「外に出る気力がない」という状況でも、つながりを保つ工夫をしましょう。
- 地域の子育て支援センターへ同じ月齢の子を持つ親と話すだけで孤立感が和らぐ。
- オンラインコミュニティの活用外出が難しいときはオンラインの育児グループも有効。
- 産後うつの当事者グループ同じ経験をした人の声を聞くことで「自分だけじゃない」と実感できる。
- 保健師との定期的な面談市区町村の保健師は産後の心のケアをサポートする専門職。積極的に活用しよう。
日常生活での工夫
- 日光を浴びる朝の光はセロトニンの分泌を促し、気分の安定に役立つ。赤ちゃんと短時間の外出を習慣にする。
- 適度な運動軽いウォーキングやストレッチが産後うつの症状改善に有効という研究がある。無理のない範囲で行う。
- 食事・栄養を整える鉄分・オメガ3脂肪酸・ビタミンDは気分の安定に関連。食欲がないときも水分補給と栄養補助食品を活用。
- SNSから距離を置く比較を引き起こすSNSは一時的にオフにすることも選択肢のひとつ。
- 自分を責める言葉に気づく「私はダメな母親だ」という言葉が浮かんだとき、「私は今つらい状況にある。それでも頑張っている」と言い換える。
家族・パートナーにできるサポート
パートナーや家族が産後うつを正しく理解することが、回復を大きく助けます。「励まし」のつもりが逆効果になることも珍しくありません。
産後うつを理解することの重要性
- 産後うつは「甘え」「気の持ちよう」ではなく、医学的な疾患である
- 本人は「頑張りたい」と思っていても、心と体がついてこない状態にある
- 「もっと頑張れ」「他の人は普通に育てている」という言葉は絶対に言ってはいけない
- 回復には時間がかかる。「なぜまだ治らないの?」というプレッシャーは逆効果
パートナーができる具体的なサポート
- 話をじっくり聞く解決策を提示するより先に、「大変だったね」「つらいね」と共感する。
- 夜間授乳・夜泣きの対応を分担する睡眠不足の解消が産後うつ改善の基本。交代で担当する。
- 具体的な家事・育児を担う「何かできることある?」ではなく「洗濯をやっておくね」と具体的に行動する。
- 一人の時間をつくる週に1〜2時間だけでも、母親が一人になれる時間を確保する。
- 受診に同行する医師への相談をひとりでさせず、一緒に行くことで安心感が増す。
- 外部サービス・支援制度を調べる産後ケア・ファミリーサポート・保健師への相談など、具体的な支援リストを作る。
言ってはいけない言葉・してはいけない行動
サポートする側のセルフケアも大切
産後うつのパートナーや家族を支えることは、サポートする側にも大きな負担がかかります。父親の産後うつが約10%に発症することでもわかるように、サポートする側も自分のメンタルヘルスに注意が必要です。
- 「一人で全てを支えなければ」と思わず、外部の支援(産後ケア・相談窓口)を活用する
- 自分も保健師や相談窓口に「父親・パートナーとして相談したい」と話してみる
- 自分の疲れやストレスを認め、必要に応じて休息を取る
利用できる支援制度・相談窓口
産後うつには、保健センター・精神保健福祉センター・子育て世代包括支援センター・自立支援医療制度・産後ケア事業・ファミリーサポートなど、多様な支援が用意されています。
6つの主な支援制度・相談窓口
産後うつを予防するために
完全に予防することは難しいですが、妊娠中からの準備・社会的つながりの維持・社会全体での取り組みによって、リスクを下げ重症化を防ぐことができます。
妊娠中からの準備が鍵
産後うつは、妊娠中から準備をしておくことで発症リスクを下げたり、発症した場合の重症化を防いだりすることができます。
- 産後のサポート体制を具体的に話し合うパートナーとの役割分担、実家のサポート、利用できる地域の支援などをリストアップしておく。
- 「完璧な母親」という期待を手放す育児に正解はない。「安全に育てる」ことを最低ラインとする。
- 妊娠中の精神的健康を大切にする妊娠中の抑うつ・不安は産後うつの最大のリスク因子。妊娠中から必要であれば支援を求める。
- 赤ちゃんとの生活について現実的なイメージを持つ育児学級・母親学級に参加し、夜泣き・授乳の大変さを事前に知っておく。
出産後の社会的つながりの維持
東京都妊産婦コホート研究(2025年)では、若い初産婦が妊娠中に頼れる人が「6人以上」いると産後うつ症状が有意に軽減することが明らかになっています。「助けてもらえる人を増やすこと」が予防の有効な手段です。
- パートナー・両親・義両親・友人・職場の同僚など、複数の人との関係を妊娠中から大切にする
- 産前の両親学級・育児学級で同じ状況の友人をつくる
- 地域の子育て支援センター・保健センターに妊娠中から顔を出しておく
- SNSの育児コミュニティで産前からつながりを作る
社会全体で産後うつを防ぐために
産後うつは個人・家族の問題だけでなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題です。
- 育児休業の取得・パートナーによる育児参加を当たり前にする職場文化の醸成
- 産後うつに関する正しい知識の普及啓発(「甘え」という偏見の払拭)
- 産後ケア事業・子育て支援の全市区町村への普及と質の向上
- 医療機関でのスクリーニング(EPDS)の定着と、陽性者への確実なフォローアップ体制の整備
専門家への相談を検討するサイン
「受診するほどじゃないかも」と感じても、以下のサインに当てはまれば早めの相談を。早期治療ほど回復が早く、長期化を防ぐことができます。
こんな状態なら今すぐ相談を
以下のいずれかに当てはまる場合は、できるだけ早く産婦人科・心療内科・精神科または相談窓口に連絡してください。
- !「消えてしまいたい」「死にたい」「いなくなりたい」という気持ちが頭をよぎる
- !自分や赤ちゃんを傷つけることへの恐怖が止まらない
- !赤ちゃんのお世話が全くできなくなった
- !幻覚(声が聞こえる・見えないものが見える)や妄想(誰かに追われているなど)がある
- !食事・水分が全く摂れない状態が続いている
- !症状が2週間以上続いており、日常生活(育児・食事・睡眠)に著しく支障をきたしている
受診を迷っている方へ
「受診するほどじゃないかも」「大げさかな」と思っている方でも、以下のひとつでも当てはまれば相談してみてください。
- ✓産後2週間を過ぎても気分の落ち込みや不安が改善しない
- ✓赤ちゃんに愛情を感じられないことに強い罪悪感がある
- ✓「自分がいないほうが赤ちゃんのためだ」と思うことがある
- ✓EPDSで9点以上だった
- ✓何をしても楽しくない・笑えない状態が続いている
- ✓家族から「最近様子がおかしい」と言われた
よくある質問
産後うつについて、本人・パートナー・家族からよく寄せられる質問にお答えします。
7つのよくある質問
A. 適切な治療(薬物療法・心理療法・休養)を受けた場合、多くの方が数か月以内に症状が改善します。しかし、治療開始のタイミング・重症度・周囲のサポート状況などによって個人差があります。軽症の場合は数週間〜数か月、重症の場合や治療が遅れた場合は1年以上かかることもあります。名古屋大学の研究では産後2年以上うつ傾向が続く方が24.1%いることも報告されており、「いつ治るか」と焦らずに治療を続けることが大切です。治療を途中でやめると再燃するリスクが高まるため、医師の指示に従って継続してください。
A. 多くの抗うつ薬(特にSSRI)は、授乳中でも比較的安全に使用できるとされています。代表的なSSRI・SNRI・NaSSAは母乳への移行率が非常に低く、母乳育児をした母子の追跡調査でも重大な健康上の問題はほとんど報告されていません。ただし、薬によって安全性の根拠の量や質は異なりますので、必ず担当医(産婦人科医・精神科医)と「授乳を続けたいのですが、使用できる薬を教えてください」と相談の上、個別に判断してもらいましょう。授乳をやめることで治療の幅は広がりますが、授乳を継続しながら治療できる選択肢もあります。
A. 産後うつによるボンディング障害(赤ちゃんへの感情的な絆が感じにくい状態)は、虐待とは別のものです。「愛情を感じられない」と気づいて心配している時点で、あなたは赤ちゃんのことを大切に思っています。ボンディング障害は産後うつの治療が進むにつれて多くの場合改善されます。ただし、「赤ちゃんを傷つけてしまいそう」という強い衝動や恐怖を感じる場合は、すぐに医療機関か相談窓口に連絡してください。一人で抱え込まず、専門家に話すことが最善の対処法です。
A. はい、産後うつは第1子に限らず、2人目・3人目の出産後にも発症します。むしろ、過去に産後うつを経験したことがある方は、次回の出産時のリスクも高まる傾向があります。また、上の子の育児と重なることで育児負担が増大し、発症リスクが上がることもあります。過去に産後うつを経験した方は、次の出産前から産婦人科や精神科医と相談し、産後のサポート体制を整えておくことをお勧めします。
A. 産後うつをパートナーに伝えることは難しく感じるかもしれません。まずは「最近とてもつらい」「助けてほしい」というシンプルな言葉から始めてみてください。うまく言葉にできない場合は、産後うつに関する情報(この記事・パンフレットなど)を見せるだけでも伝わることがあります。また、保健師・助産師・産婦人科医に相談した際に「パートナーに一緒に話してほしい」とお願いすることも有効です。医療者が客観的な立場から説明してくれることで、パートナーの理解が深まることがあります。「甘えだ」「頑張ればいい」などの言葉が返ってきた場合でも、まずはあなた自身が医療機関に相談することを優先してください。
A. 費用面での不安がある場合、いくつかの制度・窓口が助けになります。まず、市区町村の保健センターの保健師への相談は原則無料です。精神保健福祉センターへの相談も無料で受けられます。通院治療を続ける必要がある場合は、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。また、住民税非課税世帯などでは月額の上限が非常に低く設定されています。受診する医療機関のソーシャルワーカーや、市区町村の福祉相談窓口に「費用が心配なので相談したい」と伝えてみてください。
A. 完全に予防することは難しいですが、リスクを下げる取り組みは妊娠中から始めることができます。特に効果的とされているのは、(1)産後のサポート体制(パートナーとの役割分担・実家のサポート・地域の支援制度)を妊娠中から具体的に話し合っておくこと、(2)頼れる人・話せる人を6人以上つくること(東京都妊産婦コホート研究の知見)、(3)妊娠中に抑うつ・不安がある場合は早めに相談・治療すること、(4)「完璧な母親にならなければ」という期待を手放すこと、の4点です。産前の両親学級・育児学級への参加も、知識を得るだけでなく同じ状況の友人をつくるという意味で有効です。
「ダメな母親だ」と
自分を責めてしまうあなたへ
産後うつは「弱さ」でも「甘え」でもありません。ホルモン変化・睡眠不足・育児のプレッシャーが重なれば誰にでも起こりうる疾患です。一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。あなたが助けを求めることは、あなた自身と、大切な赤ちゃんのためでもあります。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、産婦人科・心療内科・精神科への受診をご検討ください。
