成年後見制度とは?
法定後見・任意後見の違い、申立て手続き、2025年改正動向まで徹底解説
認知症・知的障害・精神障害により判断能力が不十分になった人を法的に保護・支援する成年後見制度。2024年12月末時点の利用者は253,941人。法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見の仕組み、申立ての流れ、後見人の職務、制度の課題と2025年改正中間試案、メンタルヘルスとの関連、相談窓口まで一括で整理しました。
成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分になった人を法律的に保護・支援する仕組みです。1999年の民法改正により、2000年4月に「禁治産・準禁治産制度」に代わって施行されました。
制度の目的と意義
成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力(事理弁識能力)が不十分になった人を、法律的に保護・支援するための仕組みです。1999年に民法が改正され、2000年4月に「禁治産・準禁治産制度」に代わるものとして施行されました。
制度の目的は、判断能力が低下した本人が不当な契約や詐欺被害などから守られ、必要な医療・福祉サービスを適切に受けられるよう支援することにあります。同時に、本人の残存する能力と意思を尊重し、できる限り自立した生活を支援するという「自己決定権の尊重」も重要な理念として位置づけられています。
成年後見制度の全体像
成年後見制度は大きく2つに分かれています。
成年後見制度の根拠法令
- 民法後見・保佐・補助の規定(第7条〜第21条)、任意後見に関する規定。
- 任意後見契約に関する法律(1999年制定)任意後見制度の詳細を定める。
- 後見登記等に関する法律(1999年制定)後見・保佐・補助・任意後見の内容を登記する制度。
- 成年後見制度の利用の促進に関する法律(2016年制定)成年後見制度の利用促進を国・地方公共団体の責務として明記。
- 成年後見制度利用促進基本計画第一期(2017〜2021年度)・第二期(2022〜2026年度)が閣議決定。
法定後見制度の3類型——後見・保佐・補助
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。判断能力が最も低い状態に対応するのが「後見」、中程度が「保佐」、比較的軽度が「補助」です。
3類型の概要と違い
対象者・支援者の名称・主な権限を比較すると、次のように整理されます。
権限:財産に関するすべての法律行為の包括的な代理権。日用品購入等を除く法律行為の取消権。
権限:民法13条1項所定の重要な行為(借財・保証・不動産処分・相続承認等)についての同意権・取消権。申立てにより特定の行為についての代理権も付与可能。
権限:申立てにより特定の行為についての同意権・取消権、または代理権を付与。本人の同意が開始要件。
後見(こうけん)の詳細
「後見」は最も判断能力が低い状態の人を対象とする類型です。精神上の障害(認知症・精神障害・知的障害など)によって、常時、事理弁識能力を欠く状態にある人が対象となります。
- 代理権の範囲:成年後見人は、本人の財産に関する法律行為について包括的な代理権を持つ。不動産の売買、預貯金の解約、遺産分割など、ほぼすべての財産管理行為を代理できる。
- 取消権:本人が行った法律行為(日用品の購入などを除く)を原則として取り消せる。詐欺被害対策として重要な権限。
- 身上保護:本人の生活・医療・介護に関する契約(入院の同意書の取扱い、介護施設への入所契約等)についても代理権を有する。ただし医療同意権(手術への同意など)については現行法で明確な規定がなく、実務上の課題。
- 本人の意思尊重:民法858条は「成年後見人は、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と定める。
保佐(ほさ)の詳細
「保佐」は、判断能力が著しく不十分な人を対象とします。一般的な日常生活は送れるものの、重要な法律行為(借金、保証、不動産処分、相続の承認・放棄、訴訟など)については適切な判断が難しい状態です。
- 同意権・取消権の対象行為(民法13条1項):元本を領収・利用すること、借財・保証、不動産その他重要な財産の売買、訴訟行為、贈与・和解・仲裁合意、相続の承認・放棄・遺産分割、贈与・遺贈の申し込みを拒絶すること、新築・改築・増築・大修繕、長期賃貸借、これらに準じる行為。
- 同意権の拡張:申立てにより、上記以外の行為についても同意権・取消権を付与できる。
- 代理権の付与:申立てにより、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできる(本人の同意が必要)。
補助(ほじょ)の詳細
「補助」は3類型の中で最も軽い類型で、判断能力が不十分ではあるものの、一定の判断はできる状態の人が対象です。「後見」や「保佐」と異なり、本人の同意なしには補助は開始できません。これは本人の自己決定権を最大限に尊重するためです。
- 権限の個別付与:補助人の同意権・取消権または代理権は、民法13条1項に掲げる行為の一部についてのみ付与される。どの行為について権限を付与するかは、申立ての内容に応じて家庭裁判所が審判。
- 本人の同意要件:補助開始の審判だけでなく、補助人への同意権・取消権付与の審判、代理権付与の審判のいずれについても、本人の同意が必要。
- 軽度認知症・精神障害への活用:MCI(軽度認知障害)、初期の認知症、軽度知的障害、精神障害のある方で、日常生活は自立しているが、特定の重要な判断についてサポートが必要な場合に適している。
任意後見制度の概要と法定後見との違い
任意後見制度は、本人が判断能力を持っているうちに、将来に備えて自ら後見人を選んでおく制度です。最大の特徴は本人が後見人を自分で選べる点にあります。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人が十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が低下したときのために、自分が信頼する人を後見人として選び、あらかじめ委任する事項(財産管理・身上保護の内容)を決めておく制度です。「任意後見契約に関する法律」に基づきます。
最大の特徴は、本人が後見人を自分で選べるという点です。法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、本人の希望する人物が必ず選ばれるとは限りません。任意後見では、信頼できる家族、友人、弁護士、司法書士などを後見人として指定できます。
任意後見契約の締結手順
任意後見契約を結ぶには、必ず公正証書によらなければなりません。これは本人の意思と判断能力を確認し、契約内容の適正を担保するためです。
法定後見と任意後見の比較
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 利用できる時期 | すでに判断能力が不十分な段階 | 判断能力があるうちに契約し、低下後に発動 |
| 後見人の選定 | 家庭裁判所が選任(本人の希望は参考程度) | 本人が自由に選ぶ |
| 権限の範囲 | 類型(後見・保佐・補助)により法定される | 契約内容で自由に決められる |
| 取消権 | あり(後見・保佐は一定範囲で) | なし(任意後見人に取消権はない) |
| 監督 | 後見監督人または家庭裁判所が直接監督 | 任意後見監督人が監督(必須) |
| 費用の目安 | 申立費用(実費)+後見人報酬(月2〜6万円程度) | 公正証書費用(1〜2万円程度)+後見人報酬+監督人報酬 |
| 本人の意思尊重 | 法律に基づく保護が優先されることがある | 本人が事前に決めた内容が尊重される |
任意後見の課題と「発動されない問題」
任意後見制度は理念的には優れていますが、実際には利用件数が非常に少なく(2024年で全体の約2%)、いくつかの課題が指摘されています。
- 発動タイミングの問題判断能力が低下しても、任意後見受任者が「そこまで低下していない」と判断して申立てを行わないケースがある。判断能力低下の客観的な認定が難しい。
- 死後事務は含まれない任意後見は本人の生存中のみ有効。死後の手続き(葬儀・財産処分)は別途「死後事務委任契約」を結ぶ必要がある。
- 取消権がない任意後見人には取消権がないため、本人が不利な契約を結んでしまっても取り消せない。
- 監督コスト任意後見監督人(専門職)への報酬が毎月発生するため、財産が少ない場合はコスト負担が大きい。
成年後見制度の利用状況と統計
最高裁判所事務総局家庭局が2025年3月に公表した「成年後見関係事件の概況 令和6年1月〜12月」のデータをもとに、最新の利用状況を整理します。
2024年(令和6年)の最新統計
開始原因の内訳
成年後見(後見類型)が開始される原因としては、以下のような疾患・障害が挙げられます。
圧倒的に多いのが認知症による申立てで、超高齢社会を迎えた日本の状況を反映しています。精神障害(統合失調症・その他)が合計で約10%以上を占めており、メンタルヘルスと成年後見制度の関係は決して小さくありません。
申立人の内訳
誰が申立てを行っているかについても、重要なデータがあります。
- 市区町村長(23.9%)最多。身寄りのない高齢者や、家族が申立てを行えない場合に市区町村が申立人となる。
- 子(本人の子ども)(23.1%)
- 兄弟姉妹(13.8%)
- 配偶者(5.8%)
- 本人(3.0%)
- その他の親族(30.4%)
後見人等の選任状況
成年後見制度の創設以来、後見人の構成は大きく変化しています。
- 専門職後見人の割合:2000年に全体の約8%だった専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士等)の割合が、2024年には約71%にまで増加
- 親族後見人の割合:2000年に91%だった親族後見人の割合が、2024年には約17%にまで大幅に低下
- 背景:親族後見人による横領・不正利用が相次いで発覚したため、家庭裁判所が専門職後見人を選任する傾向を強めた。しかし本人との関係性が薄い専門職後見人では、きめ細かい身上保護が難しいという批判も生じている
- 2022年の最高裁の方針転換により、親族が適切な後見人候補者として申立てを行えば、特段の問題がない限り親族を後見人として選任するという方針が示された。最新の統計では、親族後見人が認められるケースが再び増加傾向にある
申立てができる人(申立権者)
後見開始の審判を家庭裁判所に申し立てることができる人は、法律で定められています。
- ✓本人(被後見人となる本人自身)
- ✓配偶者
- ✓四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪など)
- ✓成年後見人等(すでに後見人が選任されている場合の変更申立てなど)
- ✓任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人
- ✓検察官
- ✓市区町村長(65歳以上の老人、知的障害者、精神障害者について申立てができる。身寄りがない場合や家族が対応できない場合に重要な役割を果たす)
申立て先と必要書類
申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。東京・大阪などの大都市には複数の家庭裁判所の支部があります。主な必要書類は以下のとおりです(家庭裁判所によって若干異なる場合があります)。
- 申立書・申立事情説明書・親族関係図
- 本人(被後見人候補者)の戸籍謄本・住民票
- 登記されていないことの証明書(法務局発行):現時点で後見・保佐・補助の登記がないことを証明するもの。発行まで1〜2週間程度かかることがある
- 本人の診断書(所定の書式):医師が判断能力の程度を記載したもの。申立て前に主治医に依頼する必要がある
- 後見人候補者の住民票・職歴等申告書
- 本人の財産目録・収支状況報告書:預貯金・不動産・株式等の財産と、年金収入・生活費等の収支を一覧にしたもの
- 申立手数料(収入印紙)・切手:後見・保佐・補助ごとに費用が異なる(後見開始申立ての場合は3,400円程度)
申立てから審判確定までの流れ
申立て費用の目安
| 費用項目 | 目安金額 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 後見:3,400円 / 保佐:3,400円 / 補助:3,400円(各類型) |
| 登記嘱託手数料(収入印紙) | 2,600円程度 |
| 切手代 | 3,000〜4,000円程度 |
| 精神鑑定費用 | 5万〜10万円程度(必要な場合。医療機関によって異なる) |
| 書類取得費用 | 戸籍・住民票・登記なし証明書等の取得実費(計1〜2万円程度) |
| 司法書士・弁護士への依頼費用(任意) | 10〜20万円程度(専門家に申立て手続きを依頼する場合) |
成年後見人等の主な職務
成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の職務は、大きく「財産管理」と「身上保護(身上監護)」の2つに分類されます。
後見人の権限:代理権・同意権・取消権
- 代理権本人に代わって法律行為を行う権限。成年後見人(後見類型)はほぼ全般的な代理権を持つ。保佐人・補助人は申立てにより特定の行為について付与される。
- 同意権本人が行おうとする法律行為に対して同意(または不同意)を示す権限。本人が同意なしに行った重要な行為は取り消せる。
- 取消権本人が単独で行った法律行為(一定の例外を除く)を後から取り消す権限。詐欺被害の対策として重要。
成年後見人等の報酬
成年後見人等への報酬は、家庭裁判所が決定します。本人の財産から支払われます(後見人等が自腹で負担するものではありません)。
- 基本報酬の目安:管理財産額に応じて月額2万円〜6万円程度。管理する流動資産(預貯金等)が1,000万円以下は月2万円、1,000万円超5,000万円以下は月3〜4万円、5,000万円超は月5〜6万円が一般的な目安。
- 付加報酬:不動産の売却、遺産分割、成年後見制度支援信託の手続きなど、特別に困難な事務を行った場合は、付加報酬が認められることがある。
- 親族後見人の無報酬:親族が後見人の場合、報酬を請求しないケースも多い。ただし申立てれば報酬を受け取ることができる。
- 低所得者への支援:本人の財産が少なく報酬を支払えない場合、市区町村によっては「成年後見制度利用支援事業」として報酬の一部を助成している。
後見人の監督と解任
成年後見人等は家庭裁判所の監督下に置かれます。不正行為があった場合は解任されることがあります。
- 後見監督人:家庭裁判所が必要と判断した場合、後見監督人を選任して後見人の活動を監督させることができる
- 定期報告と審査:後見人は年1回程度、財産目録・収支報告書を家庭裁判所に提出し審査を受ける
- 解任事由:不正行為、著しい不行跡、その他正当な理由があるときに、家庭裁判所は職権で後見人を解任できる(民法846条)
- 成年後見制度支援信託・支援預貯金:後見人による横領リスクを軽減するため、本人の流動資産の大部分を信託銀行等に信託し、後見人が自由に引き出せないようにする制度。2024年時点で多くの案件で活用されている
精神障害と成年後見制度
精神障害(統合失調症、双極性障害、重度のうつ病、認知症など)を持つ方が成年後見制度の対象となるケースは少なくありません。2024年の統計でも、統合失調症が開始原因の約9.2%を占めています。
- 症状の波と判断能力:精神障害は症状が安定している時期と不安定な時期がある。調子の悪い時期に衝動的な多額の支出や不利な契約を結んでしまうリスクがある。特に躁状態(双極性障害)の際の浪費は深刻な問題になることがある。
- 補助・保佐の活用:日常生活は自立しているが、大きな財産上の決定についてサポートが必要な場合は「補助」や「保佐」が適している。「後見」では本人の自律性が大きく制限されるため、症状・生活状況に応じた適切な類型を選ぶことが重要。
- 入院中の申立て:精神科病院に入院中の方についての申立ても可能。病院のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)と相談しながら進めることが多い。
- 本人の同意と意思確認:精神障害があっても、症状が安定している時期には本人の意思を丁寧に確認する必要がある。補助開始には本人の同意が必要。
認知症と成年後見制度
認知症は成年後見制度の申立て原因の約62%を占め、最も多い対象疾患です。日本の認知症有病者数は2024年時点で約900万人以上に達すると推計されており、成年後見制度の役割はますます重要になっています。
- 早期からの備え:認知症の初期段階(MCI:軽度認知障害)のうちに任意後見契約を結ぶことで、本人の意思に沿った後見を実現しやすくなる。
- 進行に応じた類型変更:補助・保佐で開始し、認知症が進行した場合に後見類型への変更申立てを行うことができる。
- 不動産売却・相続:認知症の親が所有する不動産を売却するには、後見人が必要になる場合がある(本人単独では有効な契約ができないため)。遺産分割協議においても同様。
- 金融機関の対応:認知症が疑われる口座名義人については、金融機関が口座を凍結するケースが増えている。後見人が選任されることで口座の管理・解約が可能になる。
知的障害と成年後見制度
知的障害のある方が18歳になり成人を迎えると、親がこれまで当然のように行ってきた代理行為(医療・福祉の契約等)が法的には無効になる可能性があります。そのため、知的障害のある方の成年後見申立ては、18歳前後のタイミングで行われることが多いです。
- 18歳成人とのタイミング:2022年4月の民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられた。知的障害のある子どもが18歳を迎える前に申立て準備を始めることが重要。
- 後見が最多:知的障害の場合は重度の方が多く、「後見」類型での申立てが多くなる。
- 親亡き後の問題:知的障害のある方の場合、親が高齢化・死亡した後の財産管理・生活支援をどう担保するかが重要な課題。成年後見制度と福祉サービスを組み合わせた支援体制の構築が求められる。
- 日常生活自立支援事業との連携:判断能力が低下している方が地域で生活する際、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)」と成年後見制度を組み合わせて利用することもある。日常生活自立支援事業は軽度の支援に特化しており、成年後見が必要になった段階で移行するという流れがよくある。
精神科病院・施設入所者への適用
精神科病院や障害者施設に入所している方で、身寄りがない・家族との関係が希薄などの場合、市区町村長申立てによって後見が開始されるケースがあります。
- 精神科病院の精神保健福祉士(PSW)・ソーシャルワーカーが申立てに関する情報提供・調整を行うことが多い
- 施設入所の際の契約(入所申込書への署名等)は、本人の判断能力が不十分な場合は後見人等が代理する必要がある
- 障害年金・生活保護費の管理も後見人の職務に含まれることがある
成年後見制度の問題点と2025年改正中間試案
長年指摘されてきた制度の課題と、2025年6月10日に取りまとめられた改正中間試案の内容を整理します。
制度が抱える主な問題点
成年後見制度が長年抱えてきた最大の問題の一つが、「一度始めたら判断能力が回復しない限りやめられない」という硬直性。相続財産の受け取りや不動産売却という特定の目的のために後見を利用した場合、その目的が達成された後も後見は継続される。本人の状態が改善しても、回復が「完全」とみなされない限り終了できない。
成年後見制度(特に後見類型)は、本人の自己決定権を大幅に制限する仕組み。
成年後見人による横領・不正使用は、制度の信頼性を大きく損なう問題。
成年後見制度は2024年時点の利用者数が約25万人だが、潜在的な対象者数(認知症・知的障害・精神障害のある方)から見ると、普及率はわずか数パーセントにとどまる。
現行制度では「後見」「保佐」「補助」という3類型が固定的に設けられており、申立て後に類型を変更するには別途申立てが必要。判断能力の境界が曖昧な場合、適切な類型の判断が難しいことがある。
- 相続登記のためだけに後見を開始したが、その後ずっと継続しなければならなくなった居所・財産の管理が後見人に委ねられる:本人が「自分の家を売りたくない」と思っても、後見人が本人の利益のために売却を進めることがありえる不正が判明するケースは年間数百件規模で推移(特に親族後見人による横領が多かった)必要にもかかわらず後見人がいない人が多数存在し、特に地方では弁護士・司法書士等の専門職が少なく、適切な後見人の確保が困難「後見」を申立てたが、実態としては「保佐」で十分だったケース
- 軽度認知症だったが後見を開始したところ、症状が改善したのに終了できない本人が望む行動を後見人が阻む可能性:「自分でお金を使いたい」という欲求を後見人が制限するケースがある「成年後見制度支援信託」や「成年後見制度支援預貯金」の活用により、専門職後見人の選任や流動資産の管理を厳格化する取り組みが進んでいる費用・手続きの複雑さ・終了できないことなどから「使いたくない」と感じる人が多い「保佐」で開始したが認知症が進行し「後見」への変更が必要になるケース
- 後見人報酬が毎月発生し続けるため、財産が減り続ける意思決定支援(supported decision-making)との乖離:障害者権利条約(CRPD)では、本人の意思・選好を最大限尊重する「意思決定支援」が推奨されているが、日本の後見制度は「代行決定(substituted decision-making)」モデルであるという批判があるそれでも不正は完全にはなくなっておらず、後見人の監督体制の強化が継続的な課題制度の認知度が低く、そもそも存在を知らない人も少なくない実務上、家庭裁判所が本人の判断能力を適切に評価するための標準的なツールがない
2025年改正中間試案の主な方向性
成年後見制度の問題点を解決するため、法務省の法制審議会に「民法(成年後見等関係)部会」が設置され、抜本的な改正に向けた議論が進められてきました。2025年6月10日には「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられ、パブリックコメントが実施されました。
今後のスケジュール(見通し)
- 2025年中間試案に対するパブリックコメントの実施・取りまとめ
- 2026年法制審議会が最終答申(改正要綱)をまとめる見通し。政府が民法改正案を国会に提出
- 2027年以降改正民法の施行(施行準備期間が必要なため、法律成立から1〜2年後の見込み)
地域連携ネットワークと市民後見人
第二期成年後見制度利用促進基本計画(2022〜2026年度)に基づき、各市区町村において地域連携ネットワークの構築が進められています。
第二期成年後見制度利用促進基本計画(2022〜2026年度)
2022年3月に閣議決定された「第二期成年後見制度利用促進基本計画」は、2022〜2026年度を対象期間として、成年後見制度の普及・改善に向けた国の方針を示しています。
第二期計画の基本的な考え方は、「尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進」です。制度を使うことだけが目的ではなく、成年後見制度を含む多様な権利擁護支援を組み合わせて、本人が地域で豊かな生活を送ることを目指しています。
地域連携ネットワークの4つの機能
第二期計画では、各市区町村において「地域連携ネットワーク」を構築し、以下の4つの機能を発揮することが求められています。
中核機関の役割
地域連携ネットワークの中心となる「中核機関」は、市区町村から委託を受けた社会福祉協議会や専門機関が担うことが多く、以下の役割を担います。
- ✓成年後見制度に関する総合的な相談窓口の運営
- ✓申立て前の相談・手続き支援
- ✓後見人候補者のマッチング支援
- ✓市民後見人の育成・活動支援
- ✓医療・介護・福祉・法律の専門機関との連携調整
市民後見人の育成と活動
市民後見人とは、弁護士・司法書士などの専門職でも、被後見人等の親族でもない、一般市民が後見人を担う仕組みです。法人(NPOなど)が後見人となる「法人後見」とともに、専門職後見人の不足を補う取り組みとして各地で推進されています。
- 育成プログラム:自治体・社会福祉協議会等が市民後見人養成研修を実施。法律の基礎知識、後見事務の実務、本人の権利擁護などを学ぶ
- 活動の実態:財産規模が小さく、専門的な法律判断が必要でないケースに適している。地域のつながりを活かした温かな支援が期待される
- 法人後見:NPO法人や社会福祉法人が後見人を担う「法人後見」は、個人後見人の急病・死亡リスクを回避でき、組織的な監督が期待できる。後継後見人の確保という観点からも有効
- 課題:市民後見人の確保・育成には時間とコストがかかる。活動支援体制(バックアップ機関)が不十分な地域では、市民後見人が孤立してしまうリスクがある
メンタルヘルスと成年後見制度の関連
精神疾患を持つ方にとっての成年後見制度は、認知症の場合とは異なる複数の特徴があります。CRPDとの関係も含めて整理します。
精神疾患を持つ方と成年後見制度
うつ病・双極性障害・統合失調症・パーソナリティ障害などの精神疾患を持つ方にとって、成年後見制度はどのような意味を持つのでしょうか。精神疾患と成年後見制度の関係は、認知症の場合とは異なるいくつかの特徴があります。
- 症状の波による判断能力の変動:うつ病の重篤期や双極性障害の躁状態の時期など、一時的に判断能力が著しく低下することがある。こうした時期に財産や重要な決定を守る仕組みが必要になる場合がある
- 回復可能性:精神疾患は適切な治療で回復・改善が見込めることが多い。「後見を開始したら永続的に続く」という現行制度の硬直性は、精神疾患の方にとって特に問題となりやすい
- スティグマの問題:成年後見制度を利用することで「自分は能力がない人間だ」と感じ、自尊心が傷つくケースもある。本人のエンパワメントを大切にしながら支援することが重要
- 入院との関係:精神科入院中に財産管理者がいないことで生じる問題(家賃の未払い、支払い義務の放置など)への対策として成年後見が有効な場合がある
成年後見制度利用がメンタルヘルスに与える影響
成年後見制度を利用することは、被後見人等のメンタルヘルスに複雑な影響を与えることがあります。
精神保健福祉士(PSW)と成年後見
精神科病院・クリニック・地域の相談支援事業所などで働く精神保健福祉士(PSW)は、精神障害のある方の成年後見制度利用を支援する重要な役割を担っています。
- ✓後見申立てに関する情報提供・助言
- ✓家族・当事者への制度説明と相談
- ✓市区町村・家庭裁判所・弁護士・司法書士との連携・橋渡し
- ✓入院中から退院後の生活を見据えた後見体制の構築支援
- ✓後見人が選任された後の後見人との連携(本人情報の共有、本人の変化の伝達など)
成年後見制度と障害者権利条約(CRPD)
国連の障害者権利条約(CRPD)は、障害者が他の者と平等に法的能力を享有する権利(第12条)を認め、代行決定(後見人が本人に代わって決定する仕組み)から意思決定支援(本人の意思・選好・権利を尊重しながら支援する仕組み)へと転換することを求めています。
日本は2014年にCRPDを批准していますが、現行の成年後見制度はCRPDの理念と必ずしも一致していないという批判があります。2025年の法改正中間試案でも、このCRPDとの整合性を図ることが一つの重要な論点となっています。
- 「代行決定」から「意思決定支援」へのパラダイムシフトが求められている
- 本人の「最善の利益(best interests)」ではなく、本人の「意思・選好・権利(will, preferences and rights)」を優先する
- 日本においても、後見人等が本人の意思を最大限に尊重することを求める実務ガイドラインが整備されつつある
成年後見制度に関連する支援制度
日常生活自立支援事業、自立支援医療制度、利用支援事業、家族信託など、成年後見制度と組み合わせて活用できる制度を整理します。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業(旧:地域福祉権利擁護事業)は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が十分でない方が地域で自立した生活を送れるよう、社会福祉協議会が支援する事業です。成年後見制度よりも軽度の支援を提供します。
- サービス内容:福祉サービスの利用援助(手続きの代行・同行)、日常的金銭管理(生活費の出し入れ、公共料金の支払い確認等)、書類等の預かりサービス
- 対象者:判断能力が十分でないが、契約内容を理解できる程度の能力は有する方
- 費用:訪問1回あたり1,000〜1,500円程度(生活保護受給者は無料)
- 成年後見制度との連携:日常生活自立支援事業では対応できない法律行為(不動産売買・遺産分割等)が必要になった場合は、成年後見制度への移行を支援する
自立支援医療制度(精神通院医療)
自立支援医療制度(精神通院医療)は、精神疾患(統合失調症・うつ病・双極性障害・認知症・てんかん等)の治療のために精神科・心療内科に通院する場合、医療費の自己負担を原則1割に軽減する制度です(通常は3割)。
- 対象:精神疾患による継続的な通院医療が必要な方
- 申請先:市区町村の障害福祉担当窓口または精神保健福祉センター
- 有効期間:1年ごとに更新が必要
- 所得による上限額:世帯の所得に応じて月額の上限が設定されている
- 成年後見との連携:成年後見人が申請手続きの代理を行うことができる。精神障害で成年後見制度を利用している方は、この制度を積極的に活用することで医療費負担を大幅に軽減できる
成年後見制度利用支援事業
後見等の申立費用(実費)や後見人等への報酬を負担できない低所得者に対し、費用の一部を助成する市区町村独自の事業です。
- 対象:老人福祉法・知的障害者福祉法・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律により申立てが必要な方で、申立費用・報酬の負担が困難な方
- 助成内容:申立てに要した費用(収入印紙・鑑定費用等)、後見人等への報酬の全部または一部
- 注意:制度の有無・内容は市区町村によって異なる。自分の市区町村に問い合わせるか、地域包括支援センター・精神保健福祉センターに相談する
障害年金・生活保護との関係
成年後見を利用している方が障害年金や生活保護を受給している場合、後見人等が受給手続きや管理を行うことがあります。
- 障害年金の申請代理:後見人が障害年金の裁定請求(申請)を代理することができる
- 生活保護の申請:本人に代わって申請書を作成・提出することができる
- 年金・給付金の管理:受け取った年金・給付金を後見人が管理し、生活費として適切に支出する
- 不正受給の防止:後見人がいることで、本人名義の口座への不正なアクセスや詐欺被害を防ぐ効果もある
家族信託との比較
近年、成年後見制度の代替・補完として家族信託への関心が高まっています。家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を委ねる民事信託の仕組みです。
| 比較項目 | 成年後見制度 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 対象時期 | 判断能力低下後(法定後見)、または判断能力があるうちに準備(任意後見) | 判断能力があるうちに設定(判断能力低下後は設定不可) |
| 身上保護 | 後見人等が医療・介護の契約代理などを行う | 財産管理のみ。身上保護はカバーされない |
| 柔軟性 | 法律の枠組みに縛られる | 契約内容を自由に設計できる |
| コスト | 月次の後見人報酬が継続的に発生 | 設定時の費用(公正証書作成・登記等)がかかるが、月次報酬は通常不要 |
| 裁判所の関与 | 家庭裁判所が監督 | 原則として裁判所は関与しない |
家族信託は財産管理の柔軟性が高い一方で、身上保護(医療・介護の契約代理)や取消権がないという限界もあります。多くの場合、成年後見制度と家族信託は「どちらか一方」ではなく、状況に応じて組み合わせることが考えられます。
成年後見にまつわる代表的な誤解
成年後見人は「本人のすべての決定権を持つ人」ではない。後見人の権限は法律により限定されており、越権行為は許されない。
- 医療同意は後見人の権限外:手術への同意や治療方針の決定は、現行法では後見人の職務とはされていない(医師が本人の推定意思等を考慮しながら判断する)
- 身の回りの世話は後見人の仕事ではない:食事・入浴・排泄の介助などは介護サービスの役割
- 本人の意思を無視できない:後見人は本人の意思を尊重する法的義務を負っている
かつては「後見開始の審判を受けた者は選挙権・被選挙権を有しない」という規定があったが、2013年の公職選挙法改正により、この欠格条項は廃止された。現在は、成年後見を利用していても選挙権・被選挙権は失われない。
後見人報酬は、家庭裁判所への報酬付与申立てを行った場合に、家庭裁判所が決定した額を本人の財産から受け取れる。自動的にもらえるわけではなく、申立てが必要。また、本人の財産が少ない場合は報酬額が低く抑えられることもある。
任意後見契約は、法律(任意後見契約に関する法律)により、必ず公正証書で締結しなければならない。口頭や私文書での合意では無効。公正証書にすることで、本人の判断能力と意思が確認され、後日の紛争を防ぐ。
よくある質問
A. 成年後見制度の費用は大きく「申立て費用」と「継続的に発生する費用(後見人報酬等)」に分かれます。申立て費用は、収入印紙・切手代(合計1万円程度)、戸籍・登記書類の取得実費(1〜2万円程度)、精神鑑定費用(必要な場合に5万〜10万円程度)、司法書士・弁護士への依頼費用(任意・10〜20万円程度)などを合計すると、5万〜30万円程度になるのが一般的です。継続費用としては、成年後見人(専門職の場合)への報酬が月2〜6万円程度発生します。本人の財産が少なく費用の支払いが困難な場合は、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」の助成を利用できる可能性がありますので、市区町村の福祉窓口や地域包括支援センターに相談してみてください。
A. 必ずしも「すぐに申立てなければならない」というわけではありません。成年後見制度が必要になるタイミングは、主に①財産管理・処分に関する具体的な問題(不動産の売却、金融機関の口座凍結、遺産分割協議など)が発生した時、②悪質商法・詐欺被害の懸念が高まった時、③医療・介護施設の契約など本人が単独では行えない法律行為が必要になった時、などです。軽度の認知症であれば、「日常生活自立支援事業」の活用や家族が支援することで対応できる場合もあります。ただし、「後でよいか」と先延ばしにしているうちに、いざ必要になった時に間に合わないこともあるため、早めに地域包括支援センターや専門家に相談してみることをおすすめします。
A. はい、統合失調症(その他の精神疾患、知的障害なども含む)を持つ方も成年後見制度の対象になります。2024年の統計では、統合失調症が後見開始原因の約9.2%を占めており、精神疾患の方への適用は珍しくありません。ただし、精神疾患の場合は症状の波があるため、類型の選択(後見・保佐・補助のどれが適切か)を慎重に検討することが重要です。日常生活が自立していて一定の判断はできるが、特定の重要事項だけサポートが必要な場合は「補助」が適している場合があります。精神科の主治医やソーシャルワーカー、精神保健福祉センターなどに相談し、本人と家族が納得できる形で進めることをおすすめします。
A. 後見人の変更(解任・新任)は可能ですが、現行制度では容易ではありません。後見人の解任は、「不正行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由」がある場合に限り、家庭裁判所が職権で行えます(民法846条)。「性格が合わない」「コミュニケーションが取りにくい」といった理由だけでは解任は認められにくいのが現状です。ただし、2025年の改正中間試案では後見人交代の柔軟化が提案されており、今後の法改正により変更が容易になる可能性があります。後見人との関係に問題がある場合は、まず家庭裁判所の後見部門に相談するか、後見制度に詳しい弁護士・司法書士に相談してみてください。
A. 任意後見受任者(後見人として指定した人)が死亡した場合、任意後見契約は終了します。ただし、本人(委任者)の判断能力がまだ十分な場合は、あらためて新しい任意後見契約を結ぶことができます。判断能力がすでに低下している場合は、家族等が法定後見の申立てを行う必要があります。こうしたリスクを回避するために、任意後見受任者を複数名指定しておく「予備的任意後見」を活用する方法もあります。また、法人(弁護士法人・司法書士法人・NPO法人など)を任意後見受任者として指定すれば、担当者が変わっても組織として対応が継続されます。任意後見の設計段階で、こうしたリスクについても公証人や専門家と相談しておくことをおすすめします。
A. 成年後見人に就任すると、まず1か月以内に「財産目録」と「年間収支計画書」を家庭裁判所に提出する義務があります。その後は、原則として年1回、定められた時期に「後見事務報告書」「財産目録」「収支状況報告書」を家庭裁判所に提出します。書類の書式は家庭裁判所から案内されますが、レシートや通帳のコピーなど証拠書類も添付が必要です。また、重要な財産行為(不動産の売買、定期預金の解約等)を行う前に事前に家庭裁判所に報告・許可を求めなければならない場合もあります。手続きが煩雑に感じる場合は、司法書士や弁護士に報告書類の作成を依頼することもできます。後見人の義務を怠ったり、不正利用が発覚したりした場合は、解任・損害賠償請求の対象となりますので、誠実な後見事務を心がけてください。
A. 費用の負担が困難な場合には、いくつかの支援制度があります。まず、申立費用や後見人報酬の一部を助成する「成年後見制度利用支援事業」を行っている市区町村があります。これは認知症・知的障害・精神障害のある方で、申立費用や報酬の負担が困難な方を対象としていますので、まずお住まいの市区町村の福祉担当窓口に問い合わせてみてください。また、法テラス(0570-078374)では、資力の乏しい方を対象に弁護士・司法書士費用を立替払いする「審査あり」の支援(法律扶助制度)もあります。成年後見の申立てに関する無料法律相談も実施していますので、まず電話で問い合わせてみることをおすすめします。精神保健福祉センターや地域包括支援センターに相談すれば、地域ごとの利用可能な支援を案内してもらえます。
成年後見制度や
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