メンタルヘルス用語辞典 · ストレングスモデル

ストレングスモデルとは?
6つの原則・6領域・病理モデルとの違い・実践・エビデンスを徹底解説

「あなたには何ができますか?」——これがストレングスモデルの出発点です。チャールズ・A・ラップが提唱し、精神疾患や障害を抱える人の「強み・希望・資源」に焦点を当てる回復支援アプローチ。定義・歴史・6原則・6領域・アセスメント・精神科リハビリへの応用・リカバリー・エビデンス・日本の導入状況・誤解・相談先まで、必要な情報をここに集約しました。

ABOUT STRENGTHS MODEL

ストレングスモデルとは

ストレングスモデルは、精神疾患や障害を抱える人を「弱み・問題・できないこと」ではなく、その人が持つ「強み・能力・資源・希望」に焦点を当てて支援するアプローチ。「あなたには何ができますか?」という問いから始まる、人の可能性を信じる支援哲学です。

定義

ストレングスモデルとは何か

ストレングスモデル(Strengths-Based Model/Strengths Model)とは、精神疾患や障害を抱える人を支援する際に、その人の「弱み・問題・できないこと」ではなく、その人が持っている「強み(ストレングス)・能力・資源・希望」に焦点を当てて支援を組み立てていくアプローチです。

「ストレングス(Strengths)」とは英語で「強さ・強み・力」を意味します。精神保健・社会福祉の文脈では、単に「得意なこと」だけを指すのではなく、その人が持つ可能性、夢や希望、これまで生き抜いてきた力、趣味や関心、支えてくれる人間関係、利用できる地域の資源など、回復と生活の質の向上に役立てられるあらゆる要素を広く指します。

個人のストレングス
熱望・能力・自信
希望や夢、できること・経験、セルフエフィカシー(自己効力感)。
環境のストレングス
資源・関係・機会
地域の資源、社会的な関係・つながり、活かせる機会。
核心は「人は誰でも回復できる力を持つ」精神疾患の診断があっても、障害があっても、その人は一人の人間として豊かな可能性を持っており、適切な支援と環境があれば、自分の望む人生を生きることができる——この根本的信念がストレングスモデルの中心です。
時代背景

ストレングスモデルが生まれた時代的背景

ストレングスモデルが生まれた1970〜80年代のアメリカは、精神科病院への長期入院から地域生活への移行(脱施設化)が急速に進んでいた時期です。多くの精神障害者が地域に戻ったものの、従来の「問題に焦点を当てる」支援では地域での安定した生活の維持が難しく、再入院率が高いという深刻な問題がありました。

この状況に対し、カンザス大学社会福祉学部のラップ教授らは「問題ではなく強みに注目することで、当事者の主体性と希望が引き出され、地域生活が安定するのではないか」という仮説に基づいて研究と実践を重ね、ストレングスモデルを体系化しました。この革新的なアプローチは、その後の精神保健福祉・ソーシャルワーク・看護・作業療法など広範な支援領域に深い影響を与えることになります。

広がる活用領域

精神保健を超えて広がる「ストレングス」

日本では当初「精神障害者のためのケースマネジメント」として紹介されましたが、現在では精神保健福祉の領域を超え、以下のような幅広い分野で活用されています。

  • 精神科病院・精神科訪問看護
  • 地域活動支援センター・就労継続支援事業所
  • 相談支援専門員・ケアマネジャーによる個別支援計画
  • スクールカウンセリング・教育相談
  • 児童福祉・高齢者福祉・障害福祉全般
  • 産業保健・EAP(従業員支援プログラム)
  • 認知症ケア・緩和ケア
💡
ストレングスモデルはメンタルヘルス支援の一手法を超えて、「人の可能性を信じる支援哲学」として広く認識されるようになっています。
FOUNDER & HISTORY

提唱者チャールズ・A・ラップとその背景

ストレングスモデルは、カンザス大学のチャールズ・A・ラップ教授らが現場の実践研究から体系化したアプローチです。共著者ゴスチャの貢献、邦訳の系譜、日本の普及推進者を含めて成り立ちを見ていきます。

提唱者

チャールズ・A・ラップとは

チャールズ・アンソニー・ラップ(Charles Anthony Rapp)は、アメリカ・カンザス大学社会福祉学部の教授(名誉教授)。1970年代後半から精神障害者のケースマネジメントに関する研究を始め、「問題やできないことではなく、強みや資源に焦点を当てることで当事者の回復と地域生活の安定が促進される」というアプローチの有効性を、実践研究によって実証的に示してきました。

ラップは単なる理論家にとどまらず、カンザス州の実際の地域精神保健センターで実践モデルの開発・実装を行った「実践研究者」でもあります。彼の研究チームは、ストレングスモデルに基づくケースマネジメントを実施したグループが、従来の支援を受けたグループに比べて入院日数が少なく、地域生活の質が高いことを複数の研究で示しました。

主要著作

主要著作と日本への影響

ラップの主要著作は、リチャード・J・ゴスチャとの共著である『Strengths Model: A Recovery-Oriented Approach to Mental Health Services(ストレングスモデル:リカバリー志向の精神保健福祉サービス)』です。版を重ね、原著第3版は2012年に刊行。日本では田中英樹氏の監訳により金剛出版から邦訳版が出版されています。

EDITION
第1版(1998年邦訳)
「精神障害者のためのケースマネジメント」として日本に初めて体系的に紹介。
EDITION
第2版(2008年邦訳)
リカバリーの概念との統合が深化。ストレングスアセスメントのツールが整備。
EDITION
第3版(2014年邦訳/原著2012年)
副題が「リカバリー志向の精神保健福祉サービス」に変わり、リカバリーとストレングスモデルの一体性が明確化。ゴスチャの加入で訓練・スーパービジョン・組織実装の側面が充実。

日本では、この書籍の翻訳と普及が精神保健福祉士の養成教育や実践現場に大きな影響を与え、精神保健福祉士の国家試験の出題範囲にもストレングスモデルが含まれるようになっています。

共著者と推進者

リチャード・J・ゴスチャと日本での推進

リチャード・J・ゴスチャ(Richard Joseph Goscha)はカンザス大学でラップに師事し、その後もストレングスモデルの普及・研修・研究に従事した研究者です。ラップとゴスチャは共同で、ストレングスモデルに基づく支援者向けの研修プログラムを開発し、アメリカ国内外での普及に貢献しました。第3版ではゴスチャが加わったことで、訓練・スーパービジョン・組織実装の側面がより充実しています。

日本でのストレングスモデル普及に貢献した人物としては、監訳者の田中英樹氏(精神保健福祉士・研究者)のほか、精神看護領域では萱間真美氏(聖路加国際大学教授)が「ストレングスシート」などの実践ツールを開発し、看護教育への普及を推進してきた点も特筆されます。

VS PATHOLOGY MODEL

病理モデル・医学モデルとの違い

ストレングスモデルは、長く精神医療を支配してきた「病理モデル」「医学モデル」へのアンチテーゼとして発展しました。両者の根本的な違いと、医療治療との補完的関係を整理します。

病理モデル

病理モデル(医学モデル)とは

病理モデル(pathology model)あるいは医学モデル(medical model)とは、支援者が利用者の「問題・症状・できないこと・不足していること」を診断・評価し、それを改善・治療することを目的とする支援パラダイムです。

精神医療においては長らくこのモデルが中心でした。精神科医が症状を診断し、薬物療法や入院治療によって症状を軽減することが支援の中心とされていました。問題のある部分に専門家が介入して「修復する」という考え方は、医療においては当然の前提とも見えますが、精神疾患を持つ当事者の「生活の質」「主体性」「希望」という側面が見落とされがちになるという批判があります。

  • 焦点:症状・問題・弱み・できないこと
  • 主体:専門家が診断・評価・決定する
  • 目標:症状の除去・欠損の補完
  • 当事者像:患者(治療を受ける受動的な存在)
  • 回復観:症状がなくなることが回復
生活モデル

生活モデルとの関係

ソーシャルワークの歴史において、医学モデルへの批判から生まれた生活モデル(life model)は、人間を「生活者」として捉え、人と環境の相互作用に焦点を当てます。エコロジカルな視点から、個人の問題を社会・環境との関係の中で理解しようとするアプローチです。

ストレングスモデルは生活モデルのさらなる発展形として位置づけられます。生活モデルが「問題と環境の関係」を見るのに対し、ストレングスモデルはさらに積極的に「当事者の強みと地域の資源をどう活かすか」に焦点を移します。

比較表

病理モデルとストレングスモデルの比較

比較項目
病理モデル
ストレングスモデル
焦点
症状・問題・できないこと・欠如
強み・希望・能力・資源
当事者の役割
治療を受ける患者(受動的)
自らの人生の主体(能動的)
支援者の役割
専門的知識で診断・介入する治療者
強みを引き出し共に歩む伴走者
目標設定
専門家が症状改善の目標を設定
当事者が自分の希望・夢をもとに目標を設定
回復の定義
症状の消失・機能の回復
自分らしい人生を生きること(リカバリー)
地域・環境の見方
問題が発生する場・治療が必要な場
活用できる資源のオアシス
支援関係
専門家が優位な非対称な関係
対等なパートナーシップ
💡
医療治療を否定するわけではないストレングスモデルは医学的な治療を否定するのではありません。薬物療法や精神科的治療は当然必要ですが、それだけでは当事者の「生きる力」と「人生の充実」は取り戻せません。医学的治療とストレングスモデルに基づく支援は補完的な関係にあります。
重要性

なぜ「強みへの焦点」が重要なのか

精神疾患や障害を抱える人が長い間「問題のある人」「できない人」として扱われ続けると、その人自身もそのように自分を認識するようになります。これを「否定的アイデンティティの内面化」と呼びます。

「私は病気だから」「私には無理だから」という思い込みが根づいてしまうと、支援者がどれほど環境を整えても、当事者自身が一歩を踏み出そうとしなくなります。ストレングスモデルはこの悪循環を断ち切るために、意図的に「あなたにはこんな力がある」「あなたはこんなことを成し遂げてきた」に焦点を当て、当事者の自己効力感と希望を回復させることを目指します。

  • 自己効力感(「自分はできる」という信念)の回復が行動変化の前提となる
  • 希望は回復の最も強力な予測因子の一つであることが研究で示されている
  • ポジティブな体験の積み重ねが脳の神経可塑性にも良い影響を与える
  • 強みに焦点を当てることで支援関係そのものが温かく協働的なものになる
SIX PRINCIPLES

ストレングスモデルの6つの原則

チャールズ・A・ラップが提唱した6つの原則は、支援の方法論であると同時に、支援者が持つべき価値観・信念の表明であり、実践の指針でもあります。

6 PRINCIPLES

ラップが提唱した6原則

これら6つの原則は単なる「方法論」ではなく、支援者が持つべき価値観・信念の表明であり、実践の指針です。

PRINCIPLE 1
すべての人は回復し、生活を改善・向上させる能力がある
どれほど重度の精神疾患があっても、どれほど長期間入院していても、回復の可能性は失われていないという根本的信念。慢性疾患としての精神疾患観(「一生治らない」「次第に悪化する」という悲観的見方)に真っ向から異議を唱える。統合失調症を含む重篤な精神疾患であっても、長期的には多くの当事者が有意義な回復を遂げることが縦断研究で示されている。
回復の信念
PRINCIPLE 2
焦点は病理ではなく個人の強みである
支援者の視点と言語を「何が問題か」から「何ができるか・何が強みか」へと転換する。アセスメントの場面でも「問題リスト」ではなく「ストレングスリスト」を作成する。支援者が本心から「この人には力がある」と信じることで、関わり方・声かけ・目標設定のすべてが変わる。
焦点の転換
PRINCIPLE 3
地域は資源のオアシスである
「地域社会は危険で適応が難しい場所」という見方をしりぞけ、「地域にはその人の回復と生活を支えるあらゆる資源が存在する」という視点へ転換。医療機関や福祉サービスだけでなく、コンビニ、図書館、公園、スポーツクラブ、ボランティア活動、宗教コミュニティ、職場の同僚、友人・知人など、生活を豊かにしうるあらゆるものが含まれる。
地域観の転換
PRINCIPLE 4
当事者は支援プロセスの監督者(ディレクター)である
支援の方向性・目標・優先順位を決めるのは専門家ではなく当事者自身。支援者は専門的知識・技術を持つが、「どのような人生を生きたいか」を決める権限は当事者にある。「患者は自分のことがわからない」「判断能力が低下している」として意思が軽視されてきた伝統への強い批判を含む。当事者を「自分の人生の専門家」として尊重する。
自己決定
PRINCIPLE 5
支援者と当事者の関係が根本である
技法や手順よりも「支援者と当事者の信頼関係」が最も重要。ラップは良い支援関係の特徴として「本物の興味・関心」「一貫性と誠実さ」「対等なパートナーシップ」「当事者の自律性への尊重」を挙げる。支援者が「専門家としての役割」を超えて一人の人間として向き合う姿勢が欠かせない。
信頼関係
PRINCIPLE 6
支援者の主な仕事の場は地域である
支援者は事務所で当事者を待つのではなく、当事者が実際に生活する地域へ出向くのが基本。当事者が住む家、よく行くカフェ、通っている就労支援事業所、散歩する公園——現実の生活の場での関わりの中で初めて、真のストレングスとニーズが見えてくる。原則3とも連動する。
アウトリーチ
原則3「地域は資源のオアシス」と原則6「支援の場は地域」は連動しています。支援者が地域に出ることで、当事者の真のストレングスとニーズが見えてきます。
SIX DOMAINS

6つのストレングス領域とその内容

ラップとゴスチャはストレングスを「個人」と「環境」の2次元×3要素=6領域で整理しました。それぞれが互いに関連し、一つの領域の強化が他の領域にも良い影響を与えます。

2つの次元

ストレングスの2つの次元と6つの領域

ラップとゴスチャはストレングスを「個人のストレングス」「環境のストレングス」の2次元に整理し、それぞれ3つの要素を設定することで、合計6つのストレングス領域を提唱しています。

これら6領域は互いに深く関連しており、一つの領域の強化が他の領域にも良い影響を与えます。支援においては、どの領域に特に強みがあるか、どの領域に課題があるかを丁寧にアセスメントすることが重要です。

6領域の中身

6つのストレングス領域

🌅
熱望(Aspirations)[個人]
その人が抱いている夢・希望・目標・「こうありたい」という願い。「自分の部屋に帰って一人で暮らしたい」「以前やっていた趣味(料理・音楽・絵を描くこと)をまたやりたい」「働いて自分でお金を稼ぎたい」「家族に感謝を伝えたい」「地域のボランティアに参加したい」など。長期治療や入院の中で「どうせ自分には無理」という諦め(学習性無力感)を学習している当事者も少なくない。どれほど小さく見える希望も回復への大切な動機づけになる。
🛠
能力(Competencies)[個人]
その人が現在持っている、あるいは過去に持っていたスキル・知識・経験・資格・才能。料理・掃除・洗濯などの家事スキル、コンピュータ操作・プログラミングなどの技術、音楽・絵・写真・手芸などの芸術的才能、語学力・調理師免許・英語検定などの資格、人の気持ちに敏感で共感する力、苦労した経験から得た知恵(ピアサポートに活かせる)など。「かつてできたこと」「練習すればできること」も含まれる。
💡
自信(Confidence)[個人]
自己効力感(「自分にはできる」という信念)と自尊心を含む概念。精神疾患の発症・長期入院・社会からの孤立により多くの当事者は自信を大きく損なっている。小さな成功体験の積み重ね、他者からの肯定的フィードバック、「以前の自分はこんなことができた」という記憶の再発見などを通じて、線形的でない形で少しずつ育っていく。
🏠
資源(Resources)[環境]
活用できる環境的・物質的・制度的支援要素。住居(自宅・グループホーム・公営住宅)、経済的資源(障害年金・生活保護・就労収入)、医療・福祉サービス(訪問看護・相談支援・デイケア)、就労・日中活動の場、移動手段(公共交通・福祉車両)、情報へのアクセス(インターネット・図書館)など。
🤝
社会的関係(Social Relations)[環境]
当事者を支え、つながりをもたらす人間関係の総体。家族・親族(たとえ関係が複雑でも)、友人・知人・元同僚、ピア(同じ経験を持つ当事者)サポーター、支援者・ケアマネジャー・訪問看護師、地域のサークルやグループへの参加、オンラインコミュニティなど。一人でも「会いたい」と思える存在が回復の大きな支えになる。
🚪
機会(Opportunities)[環境]
参加・活用できる地域の活動・機会・制度。就労・職業訓練の機会(就労継続支援A型・B型、就労移行支援など)、ボランティア活動・地域貢献の機会、趣味・スポーツ・文化活動への参加、教育・学習の機会(リカバリーカレッジなど)、宗教的・精神的なコミュニティへの参加、ピアサポーターとして他の当事者を支える機会など。
💡
どの領域も、支援者だけが見つけるものではありません。当事者と一緒に対話を重ね、「気づき直す」プロセスを通じて発見されていきます。
ASSESSMENT

ストレングスアセスメントの方法と実践

ストレングスアセスメントは支援者が一方的に行う「評価」ではなく、当事者と支援者の対話による「共同作業」。4つの視点と7つのステップ、そして実践上の注意点を整理します。

アセスメントとは

ストレングスアセスメントの考え方

ストレングスアセスメント(Strengths Assessment)とは、当事者と支援者が協働して、当事者のストレングス(強み・資源・希望)を系統的に把握するプロセスです。従来のアセスメントが「何が問題か・何ができないか」を明らかにすることを目的としていたのに対し、ストレングスアセスメントは「何が力になるか・何が活かせるか」を明らかにすることを目的とします。

一方的な評価ではなく共同作業「私はあなたのことをよく知りたい。あなた自身について一緒に考えていきましょう」という姿勢で臨みます。
4つの視点

ストレングスアセスメントの4つの視点

ラップのモデルをもとに、日本でも以下の4つの視点からストレングスを整理するアプローチが広く使われています。

🌱
性格・人柄・個人的特性
その人らしさ、人柄の特徴(温かい・ユーモアがある・粘り強い・思いやりがあるなど)。
🎨
才能・素質・スキル
特定の技術・知識・資格・経験(料理が上手・人の話を聞くのが得意・コンピュータに詳しいなど)。
🏘
環境のストレングス
利用可能な資源・社会的関係・機会(頼れる家族がいる・近くに公園がある・障害年金を受給しているなど)。
💗
興味・関心・向上心
好きなこと・やってみたいこと・大切にしていること(音楽が好き・いつか仕事をしたい・家族と食事したいなど)。
進め方

ストレングスアセスメントの具体的な進め方

アセスメントは一度の面接で完結するものではなく、継続的な対話の積み重ねを通じて深まっていくものです。

STEP 1
安全な関係の構築
まずは信頼関係を築くことに時間をかける。評価されない安心感が、正直な対話の前提となる。
信頼形成
STEP 2
現在の状況の確認
「今の生活はどうですか?」「最近どんなことがありましたか?」という日常会話から始める。
対話の入口
STEP 3
過去の経験の探索
「昔はどんなことが好きでしたか?」「以前できていたことはありますか?」と過去の力に光を当てる。
歴史の確認
STEP 4
希望・夢の確認
「いつかやってみたいことはありますか?」「どんな生活をしたいですか?」と熱望を引き出す。
熱望の探索
STEP 5
強みの言語化
支援者が気づいた強みを積極的に言葉にして伝える。「それはすごいことですよ」「その力は大切にしてください」。
フィードバック
STEP 6
ストレングスシートへの記録
対話の内容をストレングスシート(記録用ツール)に整理する。当事者も確認・修正できるようにする。
記録
STEP 7
目標設定への接続
明らかになった強みと希望をもとに、個別支援計画の目標を設定する。
計画への接続
実践上の注意

ストレングスアセスメントの注意点

  • 問題を否定しない:強みに焦点を当てることは、問題の存在を無視することではない。問題を認めながらも、対処するための力に目を向ける
  • 比較しない:「他の人は〇〇ができる」という比較は禁物。その人固有の強みに注目する
  • 「こうあるべき」を押しつけない:「就職が目標のはず」「退院が良いはず」という支援者の価値観を当事者に押しつけてはならない
  • 小さな強みも大切に:「毎日決まった時間に薬が飲める」「部屋をきれいに保っている」という一見小さなことも、立派なストレングス
  • 時間をかける:長期入院や疾患の影響で、自分の強みを見つけることが非常に難しくなっている当事者も多い。焦らず関係を続ける
APPLICATION

精神科リハビリテーションへの応用

ストレングスモデルは精神科リハビリテーション・ケースマネジメント(SMCM)・デイケア・就労支援・訪問看護・ACTなど、実践のあらゆる場面で応用されています。

応用領域

4つの応用領域

🏥
精神科リハビリテーション
「当事者が選んだ環境で、選んだ役割で成功し、満足すること」(ボストン大学精神科リハビリテーションセンター定義)をめざす精神科リハビリテーションの思想的基盤として、ストレングスモデルが中心的役割を果たす。
🎨
デイケア・就労支援
グループ活動への応用(料理・音楽・アート・スポーツなど得意・好きを中心に据え参加意欲と自己効力感を高める)/職業リハビリテーションへの応用(支援者が選んだ仕事ではなく当事者が望む仕事への就職支援)/6か月・1年後の目標を一緒に作成し具体的ステップを支援計画に盛り込む。
🚐
精神科訪問看護
生活の場に入るためストレングスモデルとの相性が特に良い。料理好きと気づき一緒に料理しながら希望を探る/手先の器用さを活かし創作活動で自信を回復/「ペットの世話が生きがい」を支援計画に組み込む/訪問時に「今日できたこと」を一緒に振り返るなど。萱間真美氏開発の「ストレングスシート(萱間版)」が看護教育で広く活用されている。
🤲
ACT(包括型地域生活支援)
重篤な精神疾患を持ちながら地域で生活する当事者を支える多職種チームによる24時間対応型支援プログラム。「地域での生活を支える」「当事者の希望を中心に置く」という価値観を共有し、多くのACTがストレングスモデルを基盤とする。日本でも2000年代以降いくつかの地域で導入。
SMCM

ストレングスモデルに基づくケースマネジメント(SMCM)

精神科領域でのSMCM(Strengths Model Case Management)は、最も広く研究・実践されているストレングスモデルの応用形態です。特徴は次の通り。

  • 少人数担当制(1人のケースマネジャーが担当するクライアント数を少なく保つ)
  • 地域に出向くアウトリーチ型の支援(事務所面接より現場訪問を優先)
  • ストレングスアセスメントに基づく個別支援計画の策定
  • 当事者が設定した目標への段階的な取り組み
  • チームによるスーパービジョンと支援の質の維持
💡
ボストン大学の精神科リハビリテーション定義「当事者が選んだ環境で、選んだ役割で成功し、満足すること」——これは、まさにストレングスモデルの理念と一致します。
実践事例

ストレングスモデルによる変化——60代男性の事例

統合失調症と診断され長期入院していた60代男性の事例

📋
従来支援従来の支援では「症状の管理」「服薬継続」が中心だった。
ストレングスモデル導入後ストレングスアセスメントで①「自分の家でのんびり暮らしたい」「買い物は一人でしたい」「歩かないと体が衰える」という明確な目標意識、②長年の入院でも自室をきれいに保ち、毎日決まった時間に起床するという規律、③遠方に住む姉と電話でやりとりが続いている——という強みが明らかに。「一人暮らしの夢を実現する」目標に向け、病棟内での調理体験、短期外泊、地域のグループホームでの体験宿泊を経て、念願どおり自宅退院が実現したと実践報告されている。

従来の「問題中心アプローチ」では見えてこなかった当事者の力が、ストレングスモデルによって浮かび上がった好例です。

HOPE & RECOVERY

希望・リカバリー・エンパワメント

希望(Hope)はリカバリーの最も強力な予測因子の一つ。ストレングスモデルは希望を引き出す対話技法とエンパワメントの実践、リカバリー概念との接続を通じて、当事者の人生を支えます。

希望の力

希望(Hope)がリカバリーの基盤となる理由

精神疾患からの回復において、「希望(Hope)」は最も重要な予測因子の一つです。多くのリカバリー研究において、当事者が語る回復のきっかけとして「誰かが私の可能性を信じてくれた」「はじめて未来を想像できた」という体験が繰り返し報告されています。

長期入院や疾患の慢性化、社会的な差別・偏見の経験は、当事者から希望を奪います。「どうせ自分には無理だ」「一生薬を飲み続けるしかない」「もう普通の生活はできない」——こうした無力感は、しばしば「症状」と誤認されますが、実際には長年の否定的な経験から学習された悲観的な認知です。

  • 希望は、回復への動機づけと積極的な行動の前提条件
  • 希望がある当事者は、服薬継続率・社会参加率・主観的ウェルビーイングが高い傾向がある
  • 支援者が「あなたは回復できる」と本気で信じていることが伝わることで、当事者の希望が育つ
  • 一つの希望の実現が、次の希望を生む好循環が起きやすい
対話技法

希望を引き出す5つの対話技法

🔮
未来志向の質問
「もし何でもできるとしたら、何をしたいですか?」「5年後の自分はどんな生活をしていると思いますか?」など、未来への想像力を刺激する質問。
🔍
例外の探索
「調子がいいときはどんなことができましたか?」「昔、うまくいったことはどんなことでしたか?」など、例外的な良い体験に注目する。
📊
スケーリング
「今の生活の満足度を0〜10点で表すとしたら何点ですか?」「では、0.5点上がるためには何があればいいですか?」などの段階的な目標確認。
🪞
強みの反映
「それはすごいことですよ」「その経験があるからこそできることだと思います」と、当事者が見落としがちな強みを言語化して返す。
🤝
コプロダクション(共同作成)
支援計画・目標・活動をすべて支援者が決めるのではなく、当事者と一緒に作り上げる姿勢。
エンパワメント

エンパワメントと自己決定の促進

エンパワメント(empowerment)とは、自分自身の人生に対するコントロール感と自己決定能力を取り戻すことです。精神疾患を持つ当事者は、非自発的入院・強制的な治療・社会からの排除などによって、自己決定の機会を長期にわたって奪われてきた場合があります。支援者はこの状況を意識し、意図的に自己決定の機会を増やします。

  • 日常的な小さな選択(今日は何を食べるか、どの服を着るか)から始める
  • 支援計画の目標設定・変更に当事者が主体的に参加する
  • 情報を当事者と共有し、選択肢を提示する(パターナリズムの排除)
  • 失敗しても責めず、経験として一緒に振り返る
  • ピアサポーターとして他の当事者を支える役割を担う機会を提供する
リカバリーとの接続

リカバリー概念とストレングスモデル

リカバリー(Recovery)は、1990年代以降急速に広まった概念。「症状の消失・機能の完全回復」ではなく、「精神疾患という体験の中で・あるいはそれにもかかわらず、充実した・有意義な・希望ある人生を生きること」を指します。当事者の声から生まれたこの概念は、症状が残存していても社会参加・人間関係・生きがいを取り戻せるという、ラジカルな可能性を示します。

パーソナルリカバリー
個人的回復
当事者一人ひとりが自分の意味で「回復」を定義し、自分の道を歩むプロセス。ストレングスモデルはこれを実践に落とし込む枠組み。
クリニカルリカバリー
臨床的回復
症状の軽減・機能の回復という従来の医学的視点での回復。

研究者のリア・ハスカム(Leah Haskam)らはリカバリーを4次元で捉え、ストレングスモデルはそれぞれの次元の促進に寄与します。

希望(Hope)
未来への期待・可能性への信頼。ストレングスモデルは熱望と自信を通じて希望を育てる。
アイデンティティ(Identity)
「精神疾患患者」ではなく「一人の人間」としての自己。ストレングスモデルは能力・才能・価値を通じてポジティブなアイデンティティを回復させる。
意味(Meaning)
自分の経験・苦しみに意味を見出すこと。ストレングスモデルは当事者の体験を「生きてきた力の証拠」として意味づける。
エンパワメント(Empowerment)
自分の人生の主人公であること。ストレングスモデルは当事者の自己決定と選択を中心に置く。
ピアサポート

ピアサポートとストレングスモデル

近年日本でも広まりつつあるピアサポート(同じ体験を持つ当事者同士の相互支援)は、ストレングスモデルと深く親和的な支援形態です。ピアサポーターは「生きてきた経験(Lived Experience)」という独自のストレングスを持ち、支援を受けるだけでなく支援する側にもなることで、エンパワメントとリカバリーが促進されます。

ストレングスモデルはピアサポーターの独自の強みを「専門的経験と同等以上に価値あるもの」として位置づけることで、ピアサポートの普及を支持する理論的基盤を提供しています。

EVIDENCE

エビデンス——国内外の研究・効果

SMCM・若者向け強み基盤介入・リカバリーカレッジについて、海外RCTやメタ分析、日本の実践研究で示されている効果と課題を整理します。

海外エビデンス

ストレングスモデルに関する海外のエビデンス

SMCMについては、海外を中心に複数のランダム化比較試験(RCT)と系統的レビューが蓄積されてきました。

🏥
入院日数の減少
SMCMを受けた重度精神疾患患者群は、通常のコミュニティケアを受けた群と比較して、入院日数が有意に少ないことが複数のRCTで示されている。
💼
就労・教育達成率の向上
SMCMにより、就労や教育への参加率が通常のケアより高まることが報告されている。
🌱
自己効力感・希望の向上
ストレングスモデルに基づく支援を受けた当事者において、自己効力感と希望の指標が有意に改善することが示されている。
😊
主観的ウェルビーイングの向上
生活の質(QOL)・生活満足度・幸福感などの主観的指標が改善する傾向が報告されている。
📊
2025年メタ分析(Springer Nature)「Trait-based recovery enhances engagement and reduces anxiety and depression symptoms」では、強み・特性に基づくリカバリーアプローチにより、参加者においてうつ症状が71.5%、不安症状が58.5%減少という顕著な効果が示されています(N=139)。回復力・自己認識などの特性においても有意な改善が確認されました。

ただし、研究のデザイン・対象・測定指標の多様性から「エビデンスとしては有望だがさらなる研究が必要」という評価も系統的レビューで示されており、現時点では「効果の可能性は高く、実践上の有用性は多くの現場で報告されているが、エビデンスの質をさらに高める研究が求められる」という状況にあります。

青少年研究

青少年・若者を対象とした研究

2025年にEuropean Child & Adolescent Psychiatry誌に掲載された系統的レビューとメタ分析(「Strength-based capacity-building interventions to promote adolescents' mental health」)では、青少年を対象とした強みに基づく能力育成介入が、メンタルヘルスの促進に有効であることが示されました。

  • レジリエンス(回復力)の強化に有意な効果
  • 抑うつ・不安症状の軽減
  • 社会的スキルと自己効力感の向上
  • 予防的介入としての有効性(問題が深刻化する前の段階での支援)

これは、ストレングスモデルが重度精神疾患の成人への支援にとどまらず、若者の精神的健康の予防・促進においても重要なアプローチであることを示しています。

日本の研究

日本における研究・実践報告

  • 統合失調症への適用:「統合失調症者へのストレングスモデル活用の有用性」(看護教育研究学会誌)において、ストレングスモデルの適用が当事者の自己効力感と退院意欲の向上に関連することが報告されている
  • 看護実習での効果:「看護学生が精神保健看護実習でストレングスモデルを自身の看護に取り入れるプロセス」(日本精神保健看護学会誌)では、ストレングスモデルの視点を持つことで看護学生が当事者の強みを発見し、支援関係の質が向上することが示されている
  • 相談支援専門員への研修効果:スーパービジョンと組み合わせたストレングスモデル研修を受けた相談支援専門員において、支援の質と当事者の生活満足度が改善したとする報告がある
リカバリーカレッジ

リカバリーカレッジの普及とエビデンス

リカバリーカレッジ(Recovery College)は、精神疾患の当事者とその支援者が共同で学ぶ「学びの場」。ストレングスモデルの「当事者の強みと可能性への焦点」「コプロダクション(共同創造)」の理念を色濃く反映しています。

2025年にFrontiers in Psychiatry誌に掲載された系統的レビュー(2013〜2024年の研究対象)では、参加が以下の効果をもたらすことが示されています。

  • 希望・エンパワメント・回復力の向上
  • 精神科サービスの利用頻度の減少(病院への依存度低下)
  • 社会参加と就労の増加
  • 当事者が支援する側(ピアサポーター・共同ファシリテーター)になることによる追加的な恩恵

日本でもリカバリーカレッジの普及が進んでおり(東京・千葉・大阪等)、ストレングスモデルの理念が具体的な実践の場として広がっています。

JAPAN STATUS

日本における導入状況と現状の課題

1990年代後半に紹介されてから30年弱、日本のストレングスモデルは看護教育を中心に普及が進む一方で、文化・組織・人員・スーパービジョン体制の課題が残ります。制度との接続も進みつつあります。

普及経緯

日本でのストレングスモデルの普及経緯

日本にストレングスモデルが紹介されたのは1990年代後半。田中英樹氏によるラップの著書の邦訳(1998年)が普及のきっかけとなり、2000年代には精神保健福祉士の養成教育カリキュラムにストレングスモデルの考え方が組み込まれるようになりました。

精神保健看護の領域では、2010年代以降に萱間真美氏がストレングスシートなどの実践ツールを開発・普及させたことで、看護教育における導入が急速に進みました。

2023〜2024年調査回答を得た72校の看護系大学のうち71校が「対象者の強みを生かした看護実践」の教授活動を行っており、そのうち66校がストレングスモデルを実践モデルとして使用していると報告されています。
各専門職

各専門職への普及状況

👤
精神保健福祉士
国家試験の出題範囲に含まれ、養成教育での普及度は高い。実践現場への浸透はまだ発展途上。
👤
精神科看護師・訪問看護師
看護教育での普及度は高く(約90%の看護系大学で教授)、実践ツール(ストレングスシート)の活用が広まっている。
👤
相談支援専門員
個別支援計画作成にストレングス視点の導入が求められているが、現場での活用度にはばらつきがある。
👤
作業療法士
クライアント中心の実践(Client-Centred Practice)という観点から親和性が高く、積極的に取り入れる実践者が増えている。
👤
心理士(公認心理師・臨床心理士)
ポジティブ心理学との関連から注目が高まっているが、系統的なトレーニングプログラムの整備は課題。
課題

日本における導入の課題

  • 言語・文化の壁アメリカで開発されたモデルであり、日本の文化的文脈(集団主義・謙遜文化・「強み」を自己主張することへの抵抗)とのギャップがある。
  • 組織文化の問題「問題解決」を中心とする組織文化が根強く、ストレングス視点への転換が組織全体では進みにくい。
  • 時間・人員の制約信頼関係を丁寧に築きストレングスアセスメントを行うためには時間と人手が必要だが、日本の精神医療・福祉の現場はマンパワー不足。
  • スーパービジョン体制の未整備実践の質を維持するためにはスーパービジョンが不可欠だが、日本では定期的なスーパービジョンを受けられる環境が整っていない支援者が多い。
  • エビデンスの蓄積不足日本語での実証研究はまだ少なく、効果検証のためのデータが乏しい。
制度との接続

精神保健福祉制度との接続

日本の精神保健福祉施策においても、ストレングスモデルの理念に沿った制度整備が進んでいます。

  • 精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(2021年〜)精神疾患を持つ人が地域で「自分らしく暮らせる」社会の実現を目指す国の方針は、「地域は資源のオアシス」という理念と一致。
  • 障害者総合支援法の個別支援計画当事者の「希望」と「強み」を計画の基軸に置くことが明文化されつつある。
  • 就労定着支援・就労移行支援当事者の能力と意欲を活かした就労支援はストレングスモデルを実践的に体現している。
  • ピアサポーター活用推進(2020年〜)国がピアサポーターの配置を支援事業の加算対象とするなど、当事者の「生きた経験」をストレングスとして活用する動きが制度化されつつある。
MISUNDERSTANDINGS

ストレングスモデルに関するよくある誤解

「良いことしか見ない」「ほめるだけ」「希望の押しつけ」「医療の否定」「即効性のある技法」——よくある5つの誤解を解きほぐし、本来のストレングスモデルの姿を整理します。

5つの誤解

ストレングスモデルに関する5つの誤解

MYTH 1
「良いことしか見ない支援」ではない
問題を無視するものではない。困難・課題・症状も現実として認めながら、それに対処するための力・資源・方法を当事者と一緒に探す。例えば「幻聴がある」という問題を否定するのではなく、「幻聴がある中でも毎日散歩を続けている」「幻聴があっても自炊ができている」という強みに注目する。問題と強みは同時に存在する。
MYTH 2
「あいまいなほめ言葉を言う支援」ではない
「すごいですね!」「よくできましたね!」と表面的にほめるだけでは実践とはいえない。当事者の具体的な行動・経験・能力を丁寧に観察・確認した上で、「このことができているということは、〇〇という力があるということですよね」という形で具体的かつ真摯にフィードバックする。
MYTH 3
「希望を押しつける支援」ではない
「もっと前向きになって!」「回復できるはずです!」と一方的に希望を押しつけることは相いれない。絶望の中にいる当事者に「希望を持て」と迫ることは、現状の否定であり追い詰めることにもなる。まず「今あなたがつらいこと」を十分に受け止めることが、その後の希望の芽生えを支える。
MYTH 4
「医療・薬物療法を否定する支援」ではない
薬物療法・精神療法など医学的治療を否定しない。症状の安定は地域生活の基盤であり、医学的治療と補完的な関係にある。服薬を継続できていること自体が、当事者の「責任感」「自己管理能力」というストレングスである。
MYTH 5
「すぐに効果が出る魔法の技法」ではない
一夜にして当事者を変える「技法」ではない。長期的な信頼関係の構築と継続的な支援を通じて、少しずつ自己効力感・希望・社会参加が育っていくプロセス。短期的な成果を求めすぎることは、かえって当事者にプレッシャーを与え関係を損なうことがある。
SUPPORT & FAQ

活用できる相談・支援機関とFAQ

ストレングスモデルの理念に近い支援を受けたいとき、まずどこに相談すればよいか。代表的な機関と公的制度、そして当事者・家族・支援者からよく寄せられる質問にお答えします。

相談・支援機関

ストレングスモデルを活用できる相談・支援機関

🏛
精神保健福祉センター
都道府県・政令指定都市に設置。精神科医・精神保健福祉士・心理士・保健師などの多職種スタッフ。心の健康相談(電話・来所・メール)、当事者・家族への情報提供、社会復帰・就労相談、自立支援医療の申請窓口や案内、地域サービスへのつなぎを担う。
🗂
相談支援事業所・基幹相談支援センター
相談支援専門員が在籍し、当事者の「強みと希望」を軸にしたサービス等利用計画(個別支援計画)を作成。基幹相談支援センターは地域の中核的相談窓口として複合的支援ニーズに対応。
🎨
精神科デイケア・就労支援機関
得意なことや好きなことを活かした活動メニュー、「やってみたいこと」を起点とした就労支援など、ストレングスモデルの理念に基づくプログラムが日常的に展開される。
🏥
精神科病院・精神科訪問看護ステーション
入院・外来・訪問看護の場でストレングス視点を取り入れた看護実践が広がる。特に訪問看護は生活の場に出向くため、ストレングスを自然に発見・活用する機会が豊富。
💳
自立支援医療制度(精神通院医療)
統合失調症・うつ病・双極性障害・不安障害・発達障害など精神疾患の通院治療を継続する人が対象。通常3割負担の医療費を原則1割負担に軽減(所得に応じ上限あり)。市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターで申請、1年ごと更新。経済的理由で通院を中断しないために重要な「環境のストレングス」。
💡
自立支援医療制度のポイント対象は統合失調症・うつ病・双極性障害・不安障害・発達障害など精神疾患の通院治療を継続する人。3割負担が原則1割負担に軽減(所得別上限あり)。市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターで申請、1年ごとの更新が必要。経済的理由で通院を中断しないために、支援者は積極的に紹介することが重要です。
FAQ

よくある質問

Q. ストレングスモデルとポジティブ心理学の違いは何ですか?

A. どちらも「強み・資源・可能性」に焦点を当てる点で共通しますが、発展の文脈と主な応用領域が異なります。ポジティブ心理学はマーティン・セリグマンらが1990年代に提唱した心理学の一分野で、幸福・フロー・強み・レジリエンスなどを科学的に研究します。一方、ストレングスモデルはチャールズ・ラップらが1970〜80年代に精神障害者の地域生活支援という実践的問題意識から開発したソーシャルワーク・ケアマネジメントの実践モデルです。近年は融合方向にあり、現場ではVIA強み分類などポジティブ心理学の知見とストレングスアセスメントを組み合わせる実践も生まれています。

Q. 急性期(重篤な症状がある時期)にもストレングスモデルは使えますか?

A. 急性期よりも回復期・維持期に特に適したモデルですが、急性期においても基本的な姿勢(当事者を問題の集まりではなく強みを持つ人間として尊重する)は常に有効です。「今日ここにいる、それだけでも力があること」「治療に来てくれたこと自体が強み」と些細な「できていること」に目を向ける姿勢は、信頼関係の基盤を形成します。一方で、急性期には症状の安定化・安全の確保が最優先であり、ストレングスアセスメントや希望の探索は状態が安定した後に行うことが適切です。

Q. 家族はストレングスモデルの考え方をどう活かせますか?

A. 支援専門職だけのものではなく、家族も活かせる視点です。精神疾患を持つ家族を「問題のある人」「できない人」として見ていると意欲と自信を奪ってしまうことがあります。逆に「この人にはこんな力がある」と見ることで関わり方が変わり回復を後押しできます。具体的には、本人が「やりたい」と言ったことを「無理だ」と決めつけず一緒に小さな一歩を考えること、達成したことを具体的に言葉で伝えること、本人の希望や意見を家族会議・支援計画の場で代弁することなど。家族自身が精神保健福祉センターの家族相談や家族会でサポートを受けながら実践することも大切です。

Q. 自分自身のメンタルヘルスにもストレングスモデルの考え方は使えますか?

A. はい、活用できます。自分の「強み・好きなこと・できること・大切にしている価値観」を書き出す「パーソナルストレングスリスト」を作ることで、自己肯定感を高め困難な状況でも自分の資源を思い出す助けになります。「今日できたこと日記」として、どれほど小さなことでも「できたこと」を毎日書き記す習慣は、うつ・不安傾向のある人の認知の偏りを修正するのに役立ちます。「私には何もない」と感じるときこそ、「今日も生きている」「誰かと会話できた」という小さな事実がストレングスであることを思い出してください。難しい場合はカウンセラーや支援者と一緒に取り組むことを検討してください。

Q. 支援を受けることに抵抗があります。ストレングスモデルの支援はどう違いますか?

A. 「支援を受ける=弱いと認めること・依存すること」というイメージを持つ方は少なくありません。しかしストレングスモデルでは、支援を受けることは「強みを活かして目標に向かうためのリソースを活用すること」です。支援者は「問題を直す人」ではなく「あなたの力を引き出すパートナー」として関わります。当事者が自分の希望を主体的に設定し、支援者がそこへの道を一緒に考える関係は、従来の「お世話してもらう」関係と根本的に異なります。現在の支援で「問題ばかり指摘される」「自分の意見が通らない」と感じるなら、ストレングスモデルを理念とする支援機関への相談を検討してみてください。

Q. ストレングスモデルに基づく支援を受けるにはどこに相談すればいいですか?

A. まずは各都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センターに相談することをお勧めします。精神保健福祉士・心理士・精神科医などが在籍し、ストレングスモデルを理念とする支援者や機関へのつなぎを行っています。また地域の相談支援事業所・基幹相談支援センターでは、当事者の強みと希望を中心にした個別支援計画の作成を行っています。精神科病院・クリニックに通院中の方は、主治医・PSW(精神保健福祉士)・担当看護師に「ストレングスモデルを活用した支援を受けたい」と伝えることで地域資源へのつなぎを受けられます。自立支援医療制度(精神通院医療)の活用で経済的負担も軽減されます。

Q. うつ病や不安障害にもストレングスモデルは有効ですか?

A. もともと統合失調症など重篤な精神疾患の支援として開発されましたが、その理念はうつ病・不安障害・適応障害・その他のメンタルヘルス上の問題にも広く応用できます。うつ病では「自分には何もできない」「自分には価値がない」という否定的な自己認知が中心症状の一つであるため、「できていること・価値があること・強みであること」に丁寧に注意を向けるアプローチは、認知行動療法の「行動活性化」「認知再構成」とも相補的に機能します。2025年の研究では強みに基づくリカバリーアプローチによりうつ症状が71.5%、不安症状が58.5%減少したというデータも報告されています。

あなたの「強み」に気づくところから、
回復は始まります。

「自分には何もない」と感じているとき、それでも今日ここにいるあなたには必ず力があります。つらい気持ちや不安を、ぜひ一度ことばにしてみませんか。ココトモのチャット相談では、あなたの話をしっかり聞きます。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料
精神保健福祉センター各都道府県・政令市に設置。電話・来所・メール相談(無料)。精神疾患・回復・地域生活に関する専門相談
自立支援医療制度(精神通院医療)精神科・心療内科への通院医療費が原則1割負担に。市区町村窓口または精神保健福祉センターへ申請

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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