ピアサポートとは?
歴史・エビデンス・日本の制度・疾患別の活用まで詳しく解説
同じ病気・障害・生きづらさを経験した「仲間(ピア)」が互いに支え合うピアサポート。専門家とは異なる「経験者ならではの共感と希望」を、歴史・研究・日本の制度化・課題まで丁寧にまとめました。
ピアサポートとは——「仲間による支援」の本質
ピアサポートとは、同じ病気や障害、生きづらさを経験した「仲間(ピア)」が互いに支え合う支援の形です。専門家によるケアとは異なる「経験者ならではの共感と希望」を届け、精神疾患からの回復(リカバリー)において世界的に注目されています。
ピアサポートの定義
「ピア(peer)」という言葉は英語で「仲間」「対等な立場の人」を意味します。ピアサポートとは、同じ病気・障害・困難・生きづらさを経験した人が、その体験を活かして他の当事者を支援することを指します。精神疾患の文脈では、精神疾患を経験した人が、現在その困難の中にある人に対して、情緒的・情報的・実践的サポートを提供する関係性のことです。
同じ経験から生まれる深い共感
ピアサポートの最大の特徴は、「同じ経験を持つ」という共通点から生まれる深い共感と信頼にあります。たとえば精神科への入院を経験したことのある人が、初めて入院する人に「私もそこにいたことがある、あなたの不安はわかる」と語りかけるとき、専門家が同じ言葉を言うよりもはるかに大きな安心感をもたらすことがあります。
ピアサポートの主な形態
ピアサポートには大きく分けて、インフォーマル(当事者会・自助グループ)/フォーマル(ピアスタッフ)/オンラインの3形態があります。
リカバリーとエンパワーメントの視点
ピアサポートが大切にする価値観として、「リカバリー(回復)」の視点があります。リカバリーとは単に症状が消えることではなく、病気や障害があっても自分らしい人生を取り戻し、社会の一員として生きていくプロセスです。ピアサポートは支援を受ける側だけでなく、支援を提供する側にとっても、その人自身のリカバリーを深める機会となる——これがピアサポートの独特の相互性です。
また、ピアサポートでは「エンパワーメント(力を取り戻すこと)」も重要な概念です。長期にわたる精神疾患の経験は、当事者から自己効力感や主体性を奪ってしまうことがあります。「同じ経験をしたあの人が回復してあのように活躍している」という姿を目の当たりにすることは、「自分にもできるかもしれない」という希望の源となります。これは「ロールモデル効果」と呼ばれ、ピアサポートの核心的な治療的要素のひとつです。
歴史的背景——セルフヘルプグループからリカバリー運動へ
ピアサポートの起源は20世紀初頭にさかのぼります。1935年のAA誕生から、障害者権利運動、リカバリー運動、そして日本の制度化まで、ピアサポートの歩みを辿ります。
ピアサポート発展の系譜
アメリカのAAから始まったセルフヘルプ運動は、障害者権利運動・リカバリー運動と合流し、現在の制度化されたピアサポートに至りました。
ピアサポートワーカー・ピアスタッフの役割と活動
「ピアスタッフ」「ピアサポートワーカー」とは、精神疾患・精神障害の当事者として医療・福祉機関に雇用され、研修を経てピアサポートを専門的に提供するスタッフです。
ピアスタッフが担う具体的な役割
単に「同じ経験を持つ人」というだけでなく、研修を通じてサポートの技術を習得し、専門職とチームを組んで働きます。
入院中・外来通院中の利用者と話し合い、不安や孤立感を軽減します。
地域の社会資源(精神保健福祉センター・自助グループ・就労支援など)を紹介したり、自らの回復体験を語ることで希望を届けます。
退院後の地域生活への移行支援、就労に向けた相談、日常生活スキルの習得支援なども担います。
ピアスタッフが働く主な場
それぞれの場で、専門職(医師・看護師・精神保健福祉士・作業療法士など)とともにチームの一員として活動します。
- ✓精神科病院・外来クリニック(入院中・通院中の患者への支援)
- ✓精神科デイケア・ナイトケア(日中活動の場での仲間としての関わり)
- ✓地域活動支援センター(地域生活を送る当事者への支援)
- ✓就労継続支援・就労移行支援事業所(働くことへの支援)
- ✓グループホーム(生活の場でのピアサポート)
- ✓当事者研究・研修機関(研修講師・啓発活動)
- ✓行政機関・相談支援事業所(制度的支援とのつなぎ役)
意図的なピアサポート(Intentional Peer Support)
意図的なピアサポート(IPS)は、ピアサポートを「困っている人を助ける」という一方向の関係ではなく、互いに学び合い成長する相互的な関係として意図的に構築するアプローチです。IPSでは、「何が起きているか」を一緒に確認し、「自分たちが望む関係はどんなものか」を話し合い、「世界をどのように理解しているか」を共に探求する、というプロセスを重視します。
「開示(ディスクロージャー)」の問題
ピアスタッフの活動で特に重要なのは「開示」の問題です。自分の病気や入院歴などをどの程度開示するかは、ピアスタッフ自身が選択できます。開示することで利用者との距離が縮まりやすい一方、開示のタイミングや内容によっては関係に影響を与えることもあります。どの程度何を開示するかを事前に考えておくことは、ピアスタッフのトレーニングにおいて重要なテーマです。
専門家支援との違いと補完関係
ピアサポートは専門家による支援(精神科医・臨床心理士・精神保健福祉士など)と対立するものではなく、互いに補い合う関係にあります。それぞれが持つ強みが異なります。
専門家支援とピアサポートの強み
専門家支援の強みは、体系的な知識と技術、診断・治療・薬物療法などの専門的介入、法的責任に基づく継続的なケア管理、複雑なケースへの対応能力にあります。一方で、専門家と利用者の間には「支援する側・される側」という非対称な権力関係が生じやすく、利用者が受動的になってしまうリスクがあります。
ピアサポートの強みは、「同じ経験を持つ」という共感の深さにあります。精神科への入院、強制治療、薬の副作用、社会的偏見、家族との葛藤——こうした体験は、経験していない専門家がどれほど学んでも、完全には理解できない部分があります。「あなたの気持ち、私にはわかる」という言葉が、ピアからのものであれば特別な重みを持ちます。また、「回復した自分」の姿を示すことで、「あの人が回復できたなら、私にも可能かもしれない」という具体的な希望をもたらすことができます。
専門家支援とピアサポートの比較
協働チームを実現する上での課題
専門家チームにピアスタッフを組み込む際には課題もあります。専門職とピアスタッフの間で「対等なチームメンバー」としての関係を築くことが難しいケースがあります。専門職がピアスタッフを「補助者」として見てしまったり、ピアスタッフの提言が軽んじられたりする問題も報告されています。真の意味での協働チームを実現するには、組織文化の変革や、専門職向けのピアサポート教育が不可欠です。
エビデンス——回復率・再入院・QOL改善
ピアサポートの効果については世界中で多くの研究が行われています。確立段階にあるとしつつも、複数の研究でポジティブな結果が報告されています。
ロールズらのシステマティックレビュー(コクラン)
国立精神・神経医療研究センターの資料によれば、ピアサポートの効果はまだ確立段階にあるとしつつも、複数の研究でポジティブな結果が報告されています。2014年発表のロールズらのシステマティックレビュー(コクランレビュー)では、ピアサポートを受けた精神疾患患者は対照群と比べて症状の改善、希望の向上、自己効力感の向上などが認められたと報告されています。精神科への再入院率について、ピアスタッフが関わったグループでは再入院が少ないという研究結果もあります。
京都大学医学部のリカバリー研究
京都大学医学部の研究グループは、ピアサポート活動への継続的参加が精神疾患を持つ人のリカバリーを支えるメカニズムを明らかにしました。支援を提供する側になることで「役に立てた」という自己肯定感が生まれ、それ自体がリカバリーを促進するという「ヘルパーセラピー原則(Helper-Therapy Principle)」が確認されています。
生活の質(QOL)への影響
QOL(生活の質)への影響についても複数の研究で改善が確認されています。特に、孤立感の軽減、社会的つながりの拡大、自己スティグマ(自分自身に対する偏見)の軽減、地域生活への満足感向上などの領域で一貫した改善が報告されています。
エビデンスの限界と方法論的課題
一方でピアサポートのエビデンスには限界もあります。多くの研究は対照条件の設定が難しく、どの成分が効いているのかを特定しにくいという方法論的な課題があります。「盲検化(ブラインド)」が不可能なため、プラセボ効果の排除も困難です。また、ピアサポートの質は実施者のトレーニングや関係機関のサポート体制に大きく依存するため、標準化した効果検証が難しい側面もあります。
それでも研究の蓄積が進むにつれ、ピアサポートが持つ固有の価値——「同じ経験者だからこそ届けられる希望」「ロールモデルとしての存在」「専門家では補えない共感」——は多くの当事者・専門家から認められるようになっています。厚生労働省の研究班やWHOも、ピアサポートを精神保健サービスの重要な一要素として位置づけています。
主要な研究知見のまとめ
- 希望・自己効力感・エンパワーメントの向上(複数のランダム化比較試験で確認)
- 孤立感・自己スティグマの軽減(当事者の主観的報告による一貫した効果)
- 精神科再入院率の低下(一部研究で対照群比較により確認)
- 地域生活満足度・QOLの向上(特に孤立傾向にある人々で顕著)
- ヘルパーセラピー原則:支援を提供する側のリカバリーも促進される
- 通院継続率・治療継続率の改善(支援的関係性の維持による効果)
日本でのピアサポート活動と制度化の状況
日本でピアサポートが制度に組み込まれたのは比較的最近です。2020年度の体制加算創設を中心に、現状と課題を整理します。
2020年度——障害者ピアサポート体制加算の創設
制度的な進展として特に重要なのは、2020年度の障害福祉サービス等報酬改定による「障害者ピアサポート体制加算」の創設です。この加算は、ピアサポーター(精神障害・身体障害・知的障害の当事者)を事業所に配置し、サービスを利用する当事者へのピアサポートを実施した場合に、基本報酬に加算される仕組みです。これにより、障害福祉サービス事業所がピアスタッフを雇用するための財政的根拠が生まれました。
厚生労働省の養成研修カリキュラム
厚生労働省は「障害者ピアサポーター養成研修カリキュラム」を策定し、都道府県・指定都市が実施主体となる研修プログラムを整備しました。研修は基礎研修(2日間)・専門研修(2日間)・フォローアップ研修(2日間)の計6日間で構成され、受講修了者が事業所に配置されることで報酬加算の対象となります。
精神障がいピアサポート専門員
2015年には「一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構」が設立され、「精神障がいピアサポート専門員」という資格制度も整備されています。この資格は精神疾患の当事者・家族が一定の研修を修了することで取得でき、ピアサポートの専門性を担保する仕組みです。
都道府県・政令市の取り組み
各都道府県・政令市でもピアサポート推進の取り組みが広がっています。東京都は「東京都障害者ピアサポート研修事業」を公益財団法人東京都福祉保健財団に委託して実施し、毎年多くのピアサポーターを養成しています。大阪府、神奈川県、愛知県なども同様の研修事業を展開しています。
制度化の中の課題
COMHBO・しっぷろ等の全国ネットワーク
COMHBO(地域精神保健福祉機構)やピアスタッフのための情報サイト「しっぷろ(ピア426)」など、ピアサポーターをつなぐ全国的なネットワークも整備されつつあります。こうした組織がピアスタッフ同士の情報交換・研鑽の場を提供し、孤立しがちなピアスタッフを支えています。
疾患領域別のピアサポート
主な当事者グループ・自助グループの例
- うつ・双極性障害うつ病友の会、みんなのメンタルヘルス、Wellリカバリーグループなど
- 統合失調症NPO法人全国精神障害者地域生活支援協議会加盟の各地グループ
- アルコール依存症断酒会(一般社団法人全日本断酒連盟)、AA(アルコホーリクス・アノニマス)
- 薬物依存症NA(ナルコティクス・アノニマス)、DARC(ダルク)
- 発達障害CPAC Japan(ADHD当事者会)、成人ASD当事者グループ各地活動
- 摂食障害摂食障害の自助グループ(やせの会・過食と向き合う会など)
オンラインピアサポートの普及と特徴
2020年代以降、コロナ禍をきっかけにオンライン化が急速に進みました。今や「対面の代替」ではなく独自の価値を持つ支援形態として定着しています。
オンラインピアサポートの最大のメリット
オンラインピアサポートの最大のメリットは「アクセシビリティの高さ」です。地方在住者や移動が困難な人、外出そのものがハードルになっている重症うつや社会不安障害の方でも、自宅にいながらピアサポートにアクセスできます。匿名性を保てるプラットフォームでは、対面での交流に比べて自己開示がしやすいという報告もあります。
オンラインピアサポートの主な形態
オンライン特有の課題とリスク
日本でも精神疾患・障害の当事者向けのオンラインコミュニティが複数運営されています。注意点はサービスによってモデレーション(危機対応・有害コンテンツ管理)の水準が大きく異なることです。専門機関の監督のもとで運営されているものか、プラットフォームのルールが明確になっているかを確認してから参加することが大切です。
ハイブリッド型ピアサポート
オンラインとオフラインを組み合わせた「ハイブリッド型ピアサポート」も増えています。普段はオンラインで交流しながら、定期的に対面でのオフ会(オフライン交流会)を開く形態は、両者のメリットを活かした方法として注目されています。
ピアサポーター自身のメンタルヘルス管理
支援する側のセルフケアは見過ごされがちながら重要なテーマ。代理トラウマ・共感疲労を防ぐ仕組みを整えることが、活動を持続可能にします。
代理トラウマと共感疲労
ピアサポーターは「自分自身も精神疾患・障害の当事者である」という立場から支援を行うため、支援を通じて自分自身の過去のつらい経験が呼び覚まされることがあります。これを「代理トラウマ(Secondary Traumatic Stress)」「共感疲労(Compassion Fatigue)」と呼びます。
自己開示の範囲を意識的に管理する
ピアサポーターが自分のウェルビーイングを守るために重要なのは、まず「自己開示の範囲を意識的に管理すること」です。自分の過去の経験を語ることは利用者との信頼関係構築に役立つ一方、過剰な開示は自分自身を傷つけることがあります。どこまで語り、どこで線を引くかを事前に考えておくことが必要です。
スーパービジョン(督促的指導)の確保
スーパービジョンとは、より経験豊富な支援者や専門家が定期的にピアサポーターの活動を振り返り、困難なケースへの対処法を一緒に考える機会です。しかし日本では、ピアスタッフがスーパービジョンを受けられる環境が整っていない事業所も多く、課題となっています。
「回復の先にある安定した状態」
「回復の先にある安定した状態にあること」もピアサポーターに求められる条件の一つです。これは「完全に症状がなくなること」ではなく、「自分の状態を自分でモニタリングし、必要に応じてサポートを求められること」を意味します。調子が悪いときには無理をせず、休むことができる環境づくりが重要です。ピアサポーター向けの相互支援の場(ピアスタッフ同士が集まるグループ)も各地で作られつつあります。
ピアサポーターの自己ケアのポイント
- ✓定期的な通院・服薬を継続し、自分の状態をモニタリングする
- ✓スーパービジョンや職場でのサポートを積極的に活用する
- ✓利用者との距離感(境界線)を意識的に管理する
- ✓調子が悪いときは活動を休む選択肢を持ち、それを恥じない
- ✓ピアスタッフ同士のネットワークに参加し、孤立を防ぐ
- ✓自分が楽しめる活動・趣味の時間を確保する
- ✓「自分が助けてもらった経験」を忘れず、支え合いの循環を大切にする
ピアサポートの課題——境界線・燃え尽き・制度の壁
ピアサポートが持つ力は大きい一方で、いくつかの構造的な課題があります。持続的な発展のためには、これらを正直に認識し対策を講じることが不可欠です。
ピアサポートが直面する5つの構造的課題
ピアサポートへのアクセス方法
求めている支援や状況に応じて、ピアサポートにアクセスする方法はいくつかあります。地域・医療機関・オンライン・自分が活動する側になる、それぞれの入口を紹介します。
地域の当事者会・自助グループを探す
精神保健福祉センター(各都道府県に設置)に問い合わせると、地域の当事者会・自助グループの情報を得られます。COMHBO(地域精神保健福祉機構)のウェブサイトでは、全国のピアグループが地域別に掲載されており、活動内容・連絡先を確認できます。かかりつけの精神科医や精神保健福祉士に「地域のグループを紹介してほしい」と依頼することも有効です。
医療・福祉機関を通じたピアスタッフへのアクセス
精神科デイケアや、就労継続支援・就労移行支援事業所にはピアスタッフが配置されているケースがあります。通院している精神科病院・クリニックに「ピアスタッフと話したい」と伝えてみましょう。地域活動支援センターは日中活動の場として、ピアサポートが自然発生しやすい場でもあります。
オンラインコミュニティを活用する
外出が難しい場合や地方在住の場合は、オンラインのピアサポートコミュニティが選択肢になります。精神疾患・障害ごとに特化したオンラインコミュニティや、一般的なメンタルヘルス向けコミュニティがあります。参加する際は、安全なプラットフォームを選ぶこと(個人情報の取り扱い・モデレーションのルールを確認する)が大切です。
ピアサポーターとして活動したい場合
自分の経験を活かしてピアサポーターとして活動したい場合は、都道府県・指定都市が実施する「障害者ピアサポーター養成研修」の受講が基本的な第一歩になります。研修の情報は、各都道府県の障害福祉担当部局や精神保健福祉センターで確認できます。また、地域の当事者会・グループにまず参加してみることも、ピアサポーターへの道への第一歩となります。
ピアサポートを探す主な窓口
- 精神保健福祉センター各都道府県・政令市に設置。地域資源の情報提供・相談
- COMHBO(地域精神保健福祉機構)全国のピアグループ一覧をウェブサイトで公開
- 地域活動支援センター日中活動・交流の場として当事者が集まる拠点
- 精神科デイケア通院先に相談すると、ピアサポートの場を紹介してもらえることがある
- 障害者就業・生活支援センター就労に関するピアサポートの情報も持つ
- 家族会当事者家族向けのピアサポートの場として、全国家族会連合会(みんなねっと)などがある
ピアサポートの未来——共生社会に向けた可能性
ピアサポートは精神保健・障害福祉を超え、社会全体のウェルビーイングを高める力を秘めています。専門職教育・テクノロジー・当事者研究との融合が次のステージを開きます。
「経験者こそが最も力になれる」
「困難な経験を持つ人が支援者になれる」というピアサポートのモデルは、「回復した人は社会のお荷物」という誤った認識を覆し、「経験者こそが最も力になれる」という新しい価値観を社会に広める可能性があります。
専門職教育へのピアサポートの組み込み
日本では、精神保健福祉士・社会福祉士などの専門職教育にピアサポートの視点を組み込む動きが始まっています。将来の支援者が、養成課程においてピアサポートの価値を学び、当事者との協働を当然のこととして身につけることで、支援文化全体が変わることが期待されています。
テクノロジー活用の試み
テクノロジーの活用もピアサポートの可能性を広げています。AIを活用した感情サポートツール、ピアサポーターとのマッチングアプリ、VR(仮想現実)を用いた疑似ピアサポート体験など、新しいテクノロジーとピアサポートを組み合わせた試みが世界各地で始まっています。ただし、テクノロジーがどれだけ発達しても「同じ経験を持つ人間から届く共感と希望」を完全に代替することはできない、という声は根強くあります。
当事者研究との融合——北海道・浦河「べてるの家」
「当事者研究」との融合も注目されます。当事者研究とは、当事者が自分自身の経験・症状・生き方を研究する取り組みで、北海道・浦河にある「べてるの家」から始まりました。自分の経験を研究対象にすることで「自分の専門家」になるというアプローチは、ピアサポートと深く共鳴するものです。
共生社会への希望の循環
共生社会の実現という観点では、ピアサポートは「障害のある人が支援を受けるだけの存在」ではなく「社会を豊かにする貢献者」であるという視点を体現しています。精神疾患や障害を経験したからこそ得られた知恵・共感力・回復力は、専門家にはない独自の価値です。その価値が適切に認められ、制度的・経済的にも支えられるようになることが、日本のピアサポートの今後の課題であり、可能性の核心にあります。
ピアサポートに関するよくある質問
A. ピアサポートへのアクセスに厳格な資格は必要ありません。精神疾患や精神障害の診断がある方であれば、精神科デイケア・地域活動支援センター・当事者会などに参加することでピアサポートを受けることができます。ただし、事業所によっては通院中であること・障害福祉サービスの受給者証を持っていることが条件になる場合があります。インフォーマルな当事者会や自助グループは、診断の有無にかかわらず「同じような経験・悩みを持つ人」であれば参加できるところが多くあります。まず地域の精神保健福祉センターや支援者に「ピアサポートを受けたい」と伝えてみることから始めるとよいでしょう。
A. 基本的な道筋は、都道府県・指定都市が実施する「障害者ピアサポーター養成研修」を受講することです。研修は基礎・専門・フォローアップの計6日間で構成され、修了後に事業所に配置されると報酬加算の対象になります。受講にあたっては「自分のリカバリーがある程度安定していること」が前提となります。また、まず地域の当事者会や自助グループに参加してインフォーマルに経験を積むことや、「一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構」による「精神障がいピアサポート専門員」資格の取得も選択肢です。かかりつけの医師や支援者に相談しながら、自分のペースで進めることが大切です。
A. 「目的・内容・関係性」が根本的に異なります。精神科治療は医師が診断・投薬・療法を行う医療行為で保険が適用されます。臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングは、専門的トレーニングを受けた支援者と1対1で行う心理的支援です。これらは症状の改善・精神的苦痛の軽減を主な目的とします。一方ピアサポートは、同じ経験を持つ仲間との共感・情報共有・希望の提供を通じて、リカバリーや生活の豊かさを支えるものです。「どちらか一方を選ぶ」ものではなく、並行することでより多角的な支援を受けられます。急性期・重篤な症状がある場合は専門的治療が優先されますが、回復の過程で社会的つながりや希望を取り戻す段階では、ピアサポートが特に力を発揮します。
A. まず「何も話さなくてもよい」ことを覚えておいてください。多くのピアサポートグループは、参加して聞いているだけでも問題ありません。自分のことを話す・話さないは完全に自分の判断で決められます。一度参加してみて雰囲気が合わなければ無理に続ける必要はなく、複数のグループに顔を出してみて自分に合った場所を探すことが大切です。事前に「見学だけしたい」と主催者に連絡しておくことも可能なグループが多いです。信頼できる支援者(主治医・精神保健福祉士など)に同行してもらえるか相談してみることも一つの方法です。参加中に気分が悪くなったり感情が高ぶったりしたときは、その場を離れてよいことを最初から確認しておくとより安心できます。
A. 家族が否定的な理由としては、「素人が支援してうまくいくのか」「かえって悪化するのではないか」「個人情報が怖い」「宗教的な団体なのでは」といった不安・誤解が多いです。まず、ピアサポートは「同じ経験を持つ仲間による支援」であり、専門的治療の代替ではなく「補完的な回復の手助け」であることを説明しましょう。多くのグループでは話した内容の守秘が原則とされており、宗教・政治とは無関係であることも伝えられるとよいでしょう。厚生労働省が制度として認め報酬を設けていること、エビデンスに基づく研究が進んでいることを紹介することも説得力につながります。理解が得られない場合は、主治医・精神保健福祉士に家族を含めた面談を設定してもらい、専門家の口から説明してもらうことも有効です。
A. 他者のつらい話を聞いた後、自分の感情が揺さぶられたり夜間に眠れなくなったりすることは「共感疲労(compassion fatigue)」の一形態であり、珍しいことではありません。あなたが他者に対して深く共感できる人だからこそ起きることです。まず、グループで聞いた内容を一人で抱え込まず、主治医や支援者に話してみてください。グループ終了後に「グループの外に話を持ち出さない」ための自分なりのルーティン(好きな音楽を聴く・軽い運動など)を持つことが有効です。参加のたびに強い影響を受けるようなら、今の自分にはそのグループの参加頻度・内容が合っていない可能性があります。一時的に休んでよいこと、参加するかどうかを毎回自分で決められることを忘れないでください。あなた自身の健康が、ピアサポートへの参加よりも優先されます。
A. 異なるものです。共依存(codependency)とは、ある人が他者の問題に過度に関わり、その関係が互いの自立を妨げるほどの依存関係になってしまう状態を指します。健全なピアサポートは、互いの自立と回復を促し合う関係であり、支援者が支援される人の問題を「自分のこととして引き受けすぎない」境界線が保たれています。「適切な境界線(バウンダリー)」の設定は、ピアサポートの研修でも最重要テーマの一つです。「心配するが、その人の代わりに生きることはできない」「最終的な選択はその人がする」という姿勢が基本です。懸念を感じたときは、スーパービジョンやグループのファシリテーターに話してみることが助けになります。ピアサポートを受ける側も「頼りすぎている」と感じるなら、担当者や支援者に正直に伝えることが関係を健全に保つための大切な一歩です。
一人で抱え込まずに、
同じ経験を持つ仲間と話してみませんか
ピアサポートは「あなただけじゃない」と気づかせてくれる場所です。最初の一歩として、ココトモのチャット相談で、気持ちを言葉にしてみることもできます。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
