クライシスプランとは?
作り方・WRAPとの違い・安全計画までわかりやすく解説
精神的な状態が悪化したときに備えて、心が安定しているうちに作成する「危機対応の事前計画書」。前兆サイン・対処法・連絡先・入院基準を文書化し、本人・家族・支援者が一貫した対応をとるためのツールです。意義・構成要素・作り方・疾患別活用・安全計画まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
クライシスプランとは
クライシスプランは、精神的な状態が悪化したときに備えて、心が安定しているうちに自分自身と支援者が一緒に作成する「危機対応の事前計画書」です。再発のサイン・対処方法・連絡先・入院の判断基準などを文書化しておくことで、いざという場面でも適切な行動ができるようになります。
クライシスプランの定義
クライシスプラン(Crisis Plan)とは、精神疾患を抱える人が、精神的に安定している時期に、将来起こりうる「危機的な状態」に備えてあらかじめ作成しておく行動計画のことです。「危機計画」「クライシス・プラン」などとも呼ばれ、精神医療・精神保健福祉の現場で近年急速に普及しています。
精神疾患は、一度症状が落ち着いてもストレスや生活の乱れ、服薬の中断などをきっかけに再発・悪化することがあります。そのような「危機」が訪れたとき、本人が冷静に判断して適切な対処をとることは非常に難しい状態になります。感情の波に飲み込まれ、普段なら当然できる判断が困難になり、誰に連絡すればよいかさえわからなくなることも少なくありません。
クライシスプランは、そうした「危機の瞬間」のために、元気なうちに「自分の危険サイン」「対処法」「連絡すべき人と機関」「入院の判断基準」などをあらかじめ書き留めておくツールです。これにより、本人・家族・支援者が同じ情報を共有でき、危機が生じても素早く・一貫した対応が可能になります。
「当事者主体」というあり方
クライシスプランの重要な特徴は、「支援者が一方的に決めるのではなく、本人が主体となって作る」という点です。当事者が自分の状態・価値観・希望を反映させることで、危機時にも本人の自己決定が尊重される計画が生まれます。これはリカバリー志向の精神医療において非常に重要な考え方であり、単なる治療計画とは根本的に異なる「当事者主体のツール」です。
日本における導入の流れ
日本では、2010年代以降、精神科医療や地域精神保健福祉の現場でクライシスプランの導入が進んでいます。国立精神・神経医療研究センターや日本精神保健福祉士協会なども普及に取り組んでおり、入院治療中に作成して退院後の地域生活に役立てる取り組みが広がっています。
クライシスプランの基本的な目的
- 危機状態でも適切な行動がとれるよう「事前の準備」をする
- 本人・家族・支援者が共通の情報をもとに連携できる
- 再入院や緊急搬送を可能な限り防ぎ、地域生活を継続する
- 本人の自己決定と主体性を危機時にも守る
- 危機を「回避・軽減・早期解消」につなげる
なぜ事前に作るのか——危機時の判断力低下
「いざとなれば自分で判断できる」と思っている人は多いですが、精神的な危機状態においては脳の認知機能が著しく低下します。だからこそ、判断力が正常な「元気な時期」にプランを文書化しておく必要があります。
危機時に起こりやすい判断力の変化
うつ状態では思考力・集中力・決断力が落ち、躁状態では衝動性が高まって冷静な判断ができなくなります。統合失調症の急性期には現実認識そのものが歪みます。こうした状態では、普段なら当たり前にできる「誰に電話するか」「今すぐ病院に行くべきか」という判断すら困難になります。これは意志の弱さや努力不足ではなく、脳の機能的な変化によるものです。
「助けを求めること」自体が難しくなる
精神的な危機では「助けを求めること」そのものへの抵抗感が強まることもあります。「迷惑をかけたくない」「自分が悪いのだから仕方ない」「誰も助けてくれない」といったネガティブな思考が強化され、本来なら頼れるはずの人に連絡できなくなります。事前にクライシスプランで「このときは〇〇さんに電話する」と決めておくことで、そうした心理的障壁を乗り越えやすくなります。
家族・支援者にとっての指針にもなる
家族や支援者の側も「どう対応すればいいかわからない」という問題を抱えています。精神的な危機を目の当たりにした家族は、パニックになったり、逆に問題を過小評価したりすることがあります。クライシスプランが存在すれば、家族も「こういう状態になったらこう対応する」という具体的な指針を持てます。
クライシスプランの構成要素
決まったフォーマットはありませんが、一般的に以下の6要素が含まれます。状態のゾーン分け、前兆サイン、各段階の対処、連絡先、入院基準、希望の言語化を、自分の状況に合わせてカスタマイズします。
状態の段階分け(3段階モデル)
多くのクライシスプランでは、自分の精神的・身体的状態を3〜5段階に分けて記述します。よく使われる3段階の例を以下に示します。
クライシスプランの6つの構成要素
プランに含めるべき要素を、必要なポイントとともに整理しました。順序通りに並べる必要はなく、自分にとって意味のある形にカスタマイズして構いません。
自分の危機パターンを知る
良いクライシスプランを作るためには、まず「自分の危機のパターン」を理解することが必要です。この作業を「セルフモニタリング(自己観察)」と呼びます。自分の感情・思考・行動・体の状態を日々観察・記録し、パターンを把握する実践です。
- 気分日記・ムードチャート:毎日の気分の状態を10点満点で記録、睡眠時間・食欲・出来事を短く書き留める。手帳・スマートフォンアプリで実践。双極性障害ではムードチャート(気分表)が一般的。
- 睡眠記録アプリ:睡眠時間・睡眠の質を客観的に記録できるツール。前兆サインの早期発見に役立つ。
- 通院ワークブック:国立精神・神経医療研究センターが提供する自己観察用のワークブック。
- WRAPワークシート:WRAP(元気回復行動プラン)が提供する、日常から危機まで体系的に記録できるワークシート。
- 主治医・支援者からのフィードバック:精神科・心療内科の定期診察時に、自分の状態変化について客観的な意見をもらう。
支援者・家族と一緒に作るプロセス
クライシスプランは本人が一人で作るものではありません。主治医・看護師・精神保健福祉士・ケースワーカー・訪問看護師・家族など、本人を取り巻く支援ネットワークが協力して作成するのが理想です。ただし「本人が主体」が大原則。
完成までの4ステップ
支援者が一方的に「こうすべき」と決めるのではなく、本人の言葉・希望・価値観を最大限尊重しながら作り上げるプロセスが重要です。
プロセスを支える5つの心得
- 支援者が「教える」のではなく「一緒に考える」姿勢で臨む
- 完璧なものを一度で作ろうとしない(何度も改訂する前提で)
- 本人が「書きたくない」と思う項目は無理に記入しない
- 「こうしてほしくない」という否定的な希望も尊重する
- 作成過程そのものが治療的な意味を持つことを意識する
WRAP(元気回復行動プラン)との関係
WRAP(Wellness Recovery Action Plan:ウェルネス・リカバリー・アクション・プラン)は、1997年にアメリカの精神障害当事者であるメアリー・エレン・コープランドが提唱したセルフヘルプ・プログラムです。日本でも2000年代から当事者・支援者の間で活用されています。
WRAPを構成する6つのプラン
WRAPは精神疾患からのリカバリーを支えるツールとして世界中に広まり、以下の6つのプランで構成されています。
- 1. 日常生活管理プラン元気でいるために毎日すること
- 2. 引き金に対する行動プラン状態悪化の引き金になる出来事への対処
- 3. 注意サインに対する行動プラン前兆サインへの早期対処
- 4. 調子が悪くなってきているときの行動プランさらに悪化した状態への対応
- 5. クライシスプラン最も深刻な危機状態への対応
- 6. クライシスを脱したときのプラン危機後の回復を支えるアクション
この構造から分かるように、クライシスプランはWRAPの一部を構成しています。つまり、クライシスプランはWRAPに含まれる「危機時対応」の専門的パートですが、WRAP全体は日常の元気管理から危機後の回復まで、より広いスパンをカバーしています。
WRAPとクライシスプランの違い
疾患別の活用——双極性障害・統合失調症・うつ病
クライシスプランは様々な精神疾患に有効ですが、疾患ごとに特有の危機パターンがあるため、それぞれに合わせた内容が重要です。
疾患ごとに変わる、注目すべきポイント
疾患を切り替えて、それぞれのクライシスプラン作成のポイントを確認できます。
躁状態とうつ状態が交互に現れるため、「躁転の前兆」と「うつ転の前兆」の両方を記録することが重要です。
再発時に幻覚・妄想・まとまりのない思考などの陽性症状が前面に出ることが多く、「自分が病気であるという認識(病識)」が低下することが特徴です。
最も重要な要素のひとつが「自殺リスクへの安全計画」。自殺念慮や自傷衝動が強まる時期があるため、具体的な手順を事前に決めておくことが命を守るうえで非常に重要です。
- 躁転の前兆:睡眠時間の急激な減少(「眠れなくてもなぜか元気」)、過剰な計画・行動への衝動、多弁・多動、浪費・性的逸脱行動。躁状態では本人が「むしろ絶好調だ」と感じるため、自覚が非常に難しい。
- うつ転の前兆:急激な活動量の低下、何に対しても意欲・喜びが感じられない、「死にたい」気持ちが頭をかすめる。受診意欲も失われるため「家族が主治医に電話してよい」という具体的な許可をあらかじめ与えておく。
- 客観的指標で行動を決める:「睡眠が3日連続で4時間以下になったら必ず主治医に連絡する」など。
- 気分安定薬の自己中断をしない合意:躁状態では「薬が不要に感じる」ため自己中断しがちだが、これが急速サイクリングを引き起こす大きなリスクになる。
- 「外から見てわかる前兆サイン」を家族・支援者と共有することが特に重要:「急に眠れなくなる」「変な言動が増える」「幻聴について話し始める」「薬を飲まなくなる」など。
- 「妄想的なことを言うようになったら、その内容を否定せずに病院に連れて行く」といった具体的な対処法を書いておく。
- 長期療養・地域生活移行の場面では、訪問看護ステーション・精神科クリニックがクライシスプランを中心に、グループホーム・就労移行支援事業所・保健所と連携する「多職種チーム支援」が有効。
- 「死にたい気持ちが出てきたら〇〇に連絡する」という具体的な手順を事前に決めておく。
- 「体調が悪い時に増える思考パターン」を記録:「どうせ自分はダメだ」「迷惑をかけているだけだ」「消えてしまいたい」といった思考が浮かびやすいことを自覚し、「危険サイン」として認識できるようにする。
- 「回復と悪化を繰り返しながら徐々に回復する」経過を理解:一見回復したように見えて、実は危険が増している時期(回復初期の希死念慮増加)があることを、本人・家族・支援者全員が知っておく。
自殺リスクへのクライシスプラン(安全計画)
自殺リスクのある方に対するクライシスプランは、特に「安全計画(Safety Plan)」と呼ばれます。1990年代にアメリカのスタンレー博士とブラウン博士が開発した「Stanley-Brown Safety Planning Intervention」が世界的に普及したものです。
スタンレー&ブラウンの安全計画——6ステップ
自殺念慮や自傷衝動が高まる危機の瞬間に、自分を守るための具体的な行動ステップをあらかじめ決めておくツールです。
「死にたい気持ち」を話し合うことの重要性
安全計画を作成するには、「死にたい気持ち」「自傷衝動」について正直に話し合うことが必要です。一見「死について話すことで自殺リスクが高まる」と心配する人もいますが、研究によれば、安全に話し合うことはリスクを高めず、むしろ孤立感を減らし、援助希求行動を促進することが示されています。
安全計画は、「死にたいと思っても死なないために何ができるか」を一緒に考えるプロセスそのものに治療的価値があります。支援者との対話の中で「自分の命を守る行動計画」を作ることが、それ自体として希望を育てる作業になります。
今すぐ危険な状態の場合
いのちの電話:0120-783-556(無料・24時間)/よりそいホットライン:0120-279-338(無料・24時間)/救急・警察:110 / 119/近くの緊急精神科受診
危機時の連絡先リスト作成
クライシスプランの中でも、連絡先リストは最も実用的で重要な要素のひとつです。危機の瞬間に「誰に連絡すればいいかわからない」という状況を防ぐために、あらかじめ複数の連絡先を整備しておきます。
連絡先リスト作成のポイント:
- 「誰に・何をお願いするか」を具体的に書く(「話を聞いてほしい」「病院に連れて行ってほしい」など)
- 優先順位をつけ、「まずはAに連絡、次にB」と手順化する
- 定期的に番号を更新し、「つながらない番号」を残さない
- スマートフォンの連絡先に「クライシスプラン:〇〇さん」として登録し、すぐ見つかるようにする
- 連絡先リストのコピーを財布・冷蔵庫・スマートフォンなど複数箇所に保管する
- いのちの電話:0120-783-556(無料・24時間)
- よりそいホットライン:0120-279-338(無料・24時間)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(平日・各都道府県)
- 精神保健福祉センター:各都道府県に設置(電話相談・来所相談)
- 保健所:精神保健相談窓口あり(要事前確認)
- 精神科救急情報センター:各都道府県(夜間・休日の精神科受診調整)
入院への意思表明書・事前指示書
クライシスプランのより発展的な形として、「事前指示書(Advance Directive)」や「入院への意思表明書」があります。本人が判断能力を持っている間に、「将来の危機時・入院時に自分がどのような治療・対応を望むか(あるいは望まないか)」を文書化しておくものです。
事前指示書に記載できる内容:
- 使用を希望する・希望しない薬剤の種類
- 入院した場合に連絡してほしい人・してほしくない人
- 身体拘束・隔離に関する希望
- 緊急時の医療上の決定を委ねる代理人の指定
- 宗教的・文化的な配慮の希望
- ペットや家族の世話に関するお願い
- 退院後の生活に関する希望
事前指示書は、精神科医療においてはまだ法的拘束力が明確でないケースも多いですが、主治医や医療チームに対して「本人の意向」を伝える強力なツールです。特に、過去の入院で「こういう対応をされてつらかった」「こういう対応があると回復しやすかった」という経験を伝えることで、入院治療の質を向上させることが期待できます。
入院判断基準の明文化:「入院したくない」という気持ちは当然ありますが、「3日間眠れない状態が続いた場合」「自傷行為を行ってしまった場合」「一人で食事ができなくなった場合」など、客観的な基準をあらかじめ合意しておくことで、いざという場面での判断が感情的にならずに済みます。「どの病院に入りたいか(希望する病院・希望しない病院)」「任意入院を希望するか、医療保護入院は認めるか」といった入院形態に関する意向も記載できます。
- 任意入院:本人の同意に基づく入院。最も推奨される形態。
- 医療保護入院:精神保健指定医の診察と家族等の同意に基づく入院。本人の同意は不要。
- 措置入院:自傷他害の恐れがある場合に、都道府県知事の命令で強制入院。
- 応急入院:急性期に家族等と連絡がとれない場合の72時間以内の入院。
クライシスプランの定期的な見直し
クライシスプランは、一度作ったら終わりではありません。人の状態・生活状況・支援ネットワークは変化します。それに合わせてプランも定期的に更新することが非常に重要です。
見直しのタイミング:
- 定期的な見直し:3〜6ヶ月ごと、または年に1回の外来受診時
- 状態が大きく変化したとき:症状の改善・悪化・新しい疾患の診断など
- 生活環境が変わったとき:転居・就職・離職・家族構成の変化など
- 支援者が変わったとき:担当医・支援者の変更
- 危機を経験した後:入院・再発などの後に、「何が起きたか」を振り返り改訂する
- 連絡先に変更があったとき:番号変更・担当者交代など
危機後の振り返りと改訂:危機・入院を経験した後は、「何が前兆として現れたか」「プランの通りに動けたか」「何が機能して何が機能しなかったか」を丁寧に振り返ります。例えば「プランに書いてあった連絡先に実際には電話できなかった」場合、「なぜできなかったか」を考えます。「恥ずかしくて電話できなかった」なら、電話の敷居をさらに下げる工夫(「文章で連絡してもいい」など)を追加。「番号が変わっていた」なら連絡先を更新。危機の経験を「失敗」として終わらせず、「プランを改善するための情報」として活かすことがポイントです。
見直しの方法:主治医・支援者との定期面談の際に、「最近、前回と比べて変わったことはありますか?」という問いかけをきっかけに、プランの内容を確認し、必要な変更を加えます。改訂のたびに「バージョン(日付)」を記録しておくと、変化を振り返りやすくなります。
実践に役立つポイントとよくある落とし穴
クライシスプランを実際に役立てるためには、いくつかの実践的なポイントと、よくある落とし穴を知っておくことが大切です。
実践に役立つ6つのポイント
よくある6つの落とし穴
「作っただけ」「使えなかった」とならないために、以下の落とし穴に注意しておきましょう。
クライシスプランへのよくある疑問
A. クライシスプランは、精神疾患の診断を受けている方だけでなく、強い不安やストレスを抱えやすい方、過去にメンタルヘルスの危機を経験したことがある方、自傷・自殺を繰り返す傾向がある方など、幅広い方が活用できるツールです。精神科に通院していない方でも、自分で作成することは可能です。ただし、より実効性の高いプランを作るためには、かかりつけの精神科・心療内科の医師や支援者と一緒に作成することをお勧めします。まだ通院していない方は、精神保健福祉センターや保健所に相談することから始めることができます。一人で抱え込まず、支援につながりながら作ることが理想的です。
A. クライシスプランが初めての危機で完全に機能しないことは、決して珍しいことではありません。危機時の判断力低下は予想以上に大きく、「プランがあってもそれを実行できない状態」になることもあります。大切なのは、「使えなかった」経験をそのまま終わりにせず、「なぜ使えなかったか」を振り返り、プランを改訂することです。「電話する勇気が出なかった」なら連絡方法をメール・LINEに変更する、「プランの存在を思い出せなかった」なら見える場所に貼り付けるなど、具体的な改善ができます。クライシスプランは「使いながら育てるもの」であり、経験から学ぶプロセスそのものに意味があります。
A. 家族にクライシスプランを見せることへの抵抗感は、多くの方が感じることです。「心配させたくない」「弱いところを見せたくない」「どう思われるか怖い」といった気持ちは自然です。まず、プラン全体を見せることにこだわらず、「緊急時に連絡してほしいこと」「このサインが出たら病院に連れて行ってほしい」など、最低限必要な情報だけを共有することから始めることもできます。また、主治医や支援者に同席してもらい、「プランの説明を一緒にする場」を設けることで、家族への伝え方がスムーズになることもあります。家族への開示のしかたも、支援者と相談しながら決めていくとよいでしょう。
A. これは双極性障害の方が直面する最も難しい課題のひとつです。躁状態では自分の状態変化に気づく「病識」が著しく低下するため、いくらプランを作っていても、「今は大丈夫」「プランなど必要ない」と感じてしまいます。この問題への有効なアプローチのひとつは、「客観的・行動的な指標」をプランに盛り込むことです。例えば「主観的にどう感じていても、睡眠が3日連続4時間以下なら主治医に連絡する」という自動的な行動ルールを設けます。また、家族や信頼できる支援者に「このサインが見えたら、本人が拒否しても連絡する」という役割を事前に委ねることも、プランの中に記載しておくことが有効です。元気な時期に「躁状態のときの自分は判断力が変わっている」という認識を十分に話し合っておくことが、何より重要です。
A. クライシスプランと安全計画は、重なる部分が多いですが、完全に同じではありません。クライシスプランは精神疾患全般の危機対応を包括した計画であり、前兆サイン・ゾーン分け・連絡先・入院基準など、幅広い要素を含みます。一方、安全計画(Safety Plan)は特に「自殺リスク・自傷」への対応に特化したツールで、「スタンレー&ブラウン方式」など国際的に標準化されたフォーマットがあります。自殺リスクのある方に対してはクライシスプランの一部として安全計画を組み込む形が多く、実際には「クライシスプランの中に安全計画の要素を含める」という作り方がよく見られます。どちらも本人主体で、支援者との協働で作成するという原則は共通しています。
A. 残念ながら、クライシスプランの重要性を十分に理解していない医療者がまだいることも事実です。その場合は、いくつかのアプローチが考えられます。まず、「クライシスプランを作りたい」と明確に伝えてみてください。「前回入院したときのような状況に備えたい」という具体的な動機を伝えると、理解を得やすいこともあります。それでも難しい場合は、精神保健福祉士・訪問看護師・相談支援専門員など、他の支援者に相談することも有効です。また、精神保健福祉センターでは、クライシスプランの作成支援を行っている場合もあります。さらに、WRAP(元気回復行動プラン)のワークショップに参加し、仲間と一緒に作成するという方法もあります。医師が関与しなくても、当事者主体で作ることは十分可能です。
A. はい、クライシスプランは強制入院を防ぐうえで重要な役割を果たす可能性があります。強制入院になるケースの多くは、「本人が助けを求める前に状態が限界まで悪化してしまった」「本人の意向が確認できない状態で緊急対応が必要になった」という状況で起こります。クライシスプランがあれば、前兆の段階で早期に医療介入できる可能性が高まります。また、「このような状態になったら任意で入院を受け入れる」という本人の意向があらかじめ明示されていれば、医療者・家族が強制的に判断しなくても済む場面が増えます。さらに、入院が必要な場合でも、事前指示書に本人の希望する入院形態・病院が記載されていれば、本人の自己決定がより尊重された入院治療が実現しやすくなります。クライシスプランは強制入院を100%防ぐものではありませんが、任意入院・早期入院・適切な治療への移行を促進する重要なツールです。
A. 子どものメンタルヘルス支援においても、クライシスプランの考え方は有効です。特に、自傷・希死念慮のある子ども・思春期の若者に対して、「学校のスクールカウンセラー」「かかりつけの児童精神科医」「保護者」が連携して安全計画を作成することは、非常に重要な支援です。子どもの場合は、プランの内容を子ども自身が理解・同意できる言葉と形式にすることが大切です。また、親・学校・医療機関の連携体制をプランに明記し、「誰が何を担うか」を分担しておくことも重要です。思春期の若者には、「危機のときに親に言いたくない」という感情もあるため、「まずスクールカウンセラーに連絡する」など、段階的な連絡先の選択肢を設けることも実用的です。
「次の危機」に備えたい
あなたへ
元気な今だからこそ、未来の苦しい自分を守るためのクライシスプランを作る価値があります。一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
