精神的ウェルネスとは?
WHO定義・PERMA・日常実践をわかりやすく解説
「自分らしく、いきいきと生きたい」——精神的ウェルネス(Mental Wellness)は、病気がない状態を超えて、人生に意味と充実を感じる積極的な精神的健康。WHO定義からポジティブ心理学・PERMA・レジリエンス・職場ウェルネスまで、必要な情報をすべてここにまとめました。
精神的ウェルネスとは
精神的ウェルネス(Mental Wellness)は、単に精神疾患がない状態ではなく、自分らしく生き生きと過ごし、困難にも柔軟に対処しながら、人生に意味と充実感を感じる積極的な精神的健康の状態です。
精神的ウェルネスの定義と発祥
精神的ウェルネス(Mental Wellness)は、「ウェルネス(Wellness)」と「精神的健康(Mental Health)」が組み合わさった概念です。「ウェルネス」は1961年にアメリカの医師ハルバート・ダン(Halbert Dunn)が提唱したもので、「最高の潜在能力を発揮しながら機能するダイナミックな健康状態」と定義されました。単に病気でない状態ではなく、心身ともに活力があり、自分の人生をよりよく生きようとする積極的な状態を意味します。
精神的ウェルネスはこのウェルネス概念を精神面に特化したもの。具体的には、自分自身の感情や思考パターンを客観的に把握できる自己認識、様々な感情を適切に受け止め表現できる感情調整力、困難からのレジリエンス、他者との社会的つながり、人生の意味・目的を持つことなどが含まれます。
従来のメンタルヘルスが「精神疾患の予防・治療」という病理モデル中心だったのに対し、精神的ウェルネスの視点は「ゼロ(症状なし)からプラス(繁栄・フラーリッシング)へ」の移行を問います。精神疾患がなくてもウェルネスが低い状態(ラングイッシング:languishing)にある人は多く、逆に精神疾患を抱えながらも積極的なサポートと自己ケアでウェルネスを高く保つ人もいます。精神疾患の有無とは独立した、より広い概念です。
精神的ウェルネスを形作る9つの要素
精神的ウェルネスは単一の状態ではなく、複数の能力・実践・状態の組み合わせで構成されます。
現代社会でなぜウェルネスが必要か
精神的ウェルネスが重要視される背景には、現代社会の課題があります。2024年の厚生労働省の調査によれば、仕事や職業生活に関することで強い不安やストレスを感じている労働者の割合は68.3%に上ります。
またSNSや24時間接続可能な情報社会によって休息と刺激のバランスを取ることが難しく、孤立・孤独の問題も深刻化しています。日本政府は2021年に「孤独・孤立対策担当大臣」を設置するほどでした。こうした環境のなかで、精神的ウェルネスを意識的に育み維持していくことは現代人に必須のスキルです。
WHO定義とメンタルヘルスの関係
WHO(世界保健機関)は健康を「単に疾病がない状態ではない」と広義に定義し、メンタルヘルスを積極的なウェルビーイングの状態として位置づけてきました。
1948年の革新的な健康定義
WHOは設立当初より健康を広義に定義してきました。WHO憲章における健康の定義は次の通りです。
この定義は革新的で、精神的・社会的な側面も健康の不可欠な要素として位置づけた点で、当時の医学的常識を大きく超えていました。
メンタルヘルスを「ウェルビーイング」と定義
WHOは2001年の「世界保健報告」でメンタルヘルスを独立した章として取り上げ、次のように定義しました。
この定義はメンタルヘルスを単なる精神疾患のない状態ではなく、積極的な「ウェルビーイング(well-being)の状態」として捉えている点が重要です。
メンタルヘルス世界アクションプラン2013-2030
2022年にWHOは「世界メンタルヘルスアクションプラン2013-2030」を更新し、4つの主要目標を設定しました。
- より効果的なリーダーシップとガバナンス
- 地域に根ざした包括的な精神保健・社会的ケアサービスの提供
- 精神的健康増進と精神疾患予防のための戦略実施
- メンタルヘルスに関する情報システムと研究の強化
これらはいずれも精神的ウェルネスの概念と深く関係し、単なる治療から「ウェルネスの促進」へとシフトするグローバルな方向性を示しています。
ウェルネス・ウェルビーイング・精神的ウェルネスの違い
「ウェルネス」「ウェルビーイング」「精神的ウェルネス」はしばしば混同されますが、それぞれ異なるニュアンスを持ちます。違いを整理しましょう。
行動・状態・統合——3つの視点の違い
3つの概念は対象とする「焦点」と「側面」が異なります。
日本で広がるウェルビーイング経営
近年、日本でも「ウェルビーイング経営」という言葉が注目されています。従業員の幸福感・充実感を企業が積極的にサポートすることで、生産性向上・離職防止・創造性の増大につなげる経営戦略です。
この動向は精神的ウェルネスの視点と深く重なります。日本生産性本部などもウェルビーイング経営の普及に取り組んでおり、ウェルネスとウェルビーイングの両概念は今後ますます重要性を増していくと考えられます。
ウェルネスの多次元モデルとPERMA
精神的ウェルネスは複数の次元から成り立つホリスティックな概念です。ヘッティラーの6次元モデルとセリグマンのPERMAモデルを軸に、その構造を理解します。
ヘッティラーの多次元ウェルネスモデル
ウェルネスの多次元モデル(Multidimensional Model of Wellness)は、1976年にビル・ヘッティラー(Bill Hettler)が提唱した考え方で、ウェルネスを6つの次元から捉えます。これらの次元は互いに深く関連し、一つの次元のバランスが崩れると他の次元にも影響します。
ポジティブ心理学とメンタルウェルネス
ポジティブ心理学(Positive Psychology)は、1998年にアメリカの心理学者マーティン・セリグマン(Martin Seligman)がアメリカ心理学会会長就任演説で提唱した分野です。それまでの心理学が主に精神疾患・障害・機能不全を研究対象としたのに対し、ポジティブ心理学は「人間の強み・美徳・ポジティブな経験・ウェルビーイングを科学的に研究する」ことを目指しました。
中核的研究テーマには次のものがあります。まず「ポジティブ感情」の研究——バーバラ・フレデリクソン(Barbara Fredrickson)は「拡張形成理論(Broaden-and-Build Theory)」を提唱し、喜び・感謝・愛・好奇心・畏敬などのポジティブ感情が、思考・行動のレパートリーを広げ(拡張)、社会的・心理的・知的資源を積み上げる(形成)効果があることを実証しました。
次に「強み(Character Strengths)」の研究。クリストファー・ピーターソンとセリグマンが開発した「VIA強み分類(Values in Action Inventory of Strengths)」は24の人間の強みを同定し、自分の「代表的強み(Signature Strengths)」を活かすことが幸福感・エンゲージメント・達成感の向上につながることを示しました。
「フロー(Flow)」の概念も重要です。ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)が提唱したフローは、活動に完全に没入し時間を忘れるほど集中している最適経験の状態。高い挑戦と高いスキルが一致したとき生じやすく、内発的動機づけ・満足感・創造性と深く関係します。
日本ではポジティブ心理カウンセラー協会やポジティブ心理学スクールを通じて教育・普及が進み、企業研修でも強みを活かすマネジメントやレジリエンス強化プログラムに活用されています。
- 「感謝の日記」を書くことが幸福感・ウェルネスを高める(エモンズら)
- 親切な行動が行為者自身のウェルビーイングも高める(ソニア・リュボミルスキー)
- マインドフルネスによる現在への注意がストレス低減・ウェルネス向上に有効
- 強みを活かした仕事はエンゲージメントと幸福感を大幅に高める
- 楽観主義を学習可能なスキルとして育てることができる(学習的楽観主義)
- ポジティブ感情の比率(ポジティブ3:ネガティブ1以上)が精神的健康と相関
セリグマンのPERMAモデル
セリグマンは2011年、ウェルビーイング・フラーリッシングのモデルとして「PERMAモデル」を提唱しました。5要素の頭文字から成ります。
PERMAモデルの意義は、幸福やウェルネスを単一の感情状態ではなく、複数の独立した次元として捉えた点。ポジティブ感情が少なくても意味・目的感が高ければフラーリッシングに近づける側面もあり、5要素は独立した目標であると同時に互いに強化し合います。
フラーリッシングとデュアル・コンティニアム
フラーリッシング(Flourishing)はポジティブ心理学の中心概念で、「人間が心理的・社会的・感情的に最高の状態で生きること」を意味します。日本語では「繁栄」「開花」「活き活きとした状態」などと訳されますが完全な訳語はなく、英語のまま使われることも多いです。
反対は「ラングイッシング(Languishing)」——精神疾患はないものの活力・目的感・人生の充実感が低い「空虚な状態」を指します。
社会学者のコーリー・キーズ(Corey Keyes)は、メンタルヘルスを「精神疾患の有無(病理的側面)」と「ウェルビーイングの高低(積極的側面)」という2軸で捉えるデュアル・コンティニアム・モデルを提唱しました。このモデルによれば、精神疾患がなくてもラングイッシング状態にある人がいる一方、精神疾患を持ちながらも高いフラーリッシングを実現している人もいます。
日常的なウェルネス実践方法
精神的ウェルネスは特別な治療や大きな出来事ではなく、日々の小さな実践の積み重ねで育まれます。科学的に効果が確認されている6つの実践を紹介します。
科学的エビデンスのある6つの日常実践
どれか一つに絞らず、できそうなものから少しずつ取り入れてください。続けられる方法を見つけることが最優先です。
職場のメンタルウェルネスプログラム
日本では労働者の68.3%が強いストレスを感じており、職場でのメンタルヘルス対策は喫緊の社会課題。ストレスチェック制度・EAP・ウェルビーイング経営の最新動向を解説します。
2015年から義務化された一次予防の仕組み
日本では2015年から「ストレスチェック制度」が義務化され、50人以上の労働者がいる事業場では年1回のストレスチェックの実施が法律で定められています。
ストレスチェックは従業員のメンタルヘルス不調の一次予防(未然防止)を目的としており、高ストレス者を早期に発見し、専門家による面接指導や職場環境の改善につなげるものです。
EAP(従業員支援プログラム)の役割と最新動向
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、企業が従業員の個人的・職業的な問題に対してカウンセリングや支援を提供するプログラムです。もともとアメリカで1970年代に普及し、日本には1990年代から導入が始まりました。
主なサービスは、メンタルヘルス相談・カウンセリング(対面・電話・オンライン)、ストレスマネジメント研修、職場復帰支援、法律・経済・家族問題などの生活全般の支援です。
2024年現在、EAP市場は急速に成長しており、2027年には世界市場で126.2億ドル規模に達すると予測されています。日本でも「オンラインEAP」の導入がコロナ禍以降に加速し、リモートワーク環境でも従業員がいつでもアクセスできる体制整備が進んでいます。2025年のトレンドとして、AIを活用した自動スクリーニング・パーソナライズされたリソース提供、財務・身体・メンタルを統合した「ホリスティックウェルネス」アプローチの強化が見られます。
心理的安全性とウェルビーイング経営
職場のメンタルウェルネス向上には、個人レベルだけでなく組織・環境レベルの変革が不可欠です。具体的には次の施策が効果的とされています。
- 心理的安全性(Psychological Safety)の確保——失敗や弱さを安心して表現できる職場文化
- 適切な業務量と自律性のバランス
- 上司・同僚間のサポート関係の構築
- ハラスメント防止・対処体制の整備
- フレキシブルな働き方(テレワーク・時差出勤・育児介護休暇等)の整備
これらは単なる福利厚生ではなく、組織の持続的な生産性と創造性を支える経営戦略でもあります。
ウェルビーイング経営(Well-being Management)という概念も注目されています。従業員の身体的・精神的・社会的ウェルビーイングを経営の中核に据え、従業員が自分らしく活き活きと働ける環境を整える経営哲学です。日本生産性本部などが普及を推進し、先進的企業では「最高ウェルネス責任者(Chief Wellness Officer)」の設置や包括的なウェルネスプログラムの導入が進んでいます。
ウェルネスとレジリエンスの関係
レジリエンスは精神的ウェルネスと深く相互依存した概念。生まれつきの資質ではなく、後天的に育てられるスキルであることが現代の研究で明らかになっています。
レジリエンスとは——回復力・適応力・成長力
レジリエンス(Resilience)は、「逆境・困難・大きなストレスに直面したときに、適応し、回復し、さらに成長する能力」を指します。もともとは材料科学の用語(弾性・回復力)でしたが、心理学・精神医学の分野で「精神的な回復力・折れない心」として広く使われるようになりました。
精神的ウェルネスが高い人はレジリエンスを発揮しやすく、レジリエンスが高い人は困難を乗り越えることで精神的ウェルネスをさらに高めます。この相互強化的な関係を理解することが重要です。
レジリエンスを支える6つの保護因子
研究で確認されているレジリエンスを高める主な要因(保護因子)は次の6つです。
レジリエンス・トレーニングとPTG(外傷後成長)
レジリエンスは生まれ持った固定的な資質ではなく、「育てられるスキル」であることが現代の研究で明らかになっています。
レジリエンス・トレーニング(RT:Resilience Training)プログラムは、ポジティブ心理学の知見をベースに、認知の再構成、強みの発見・活用、感情調整スキル、問題解決スキル、社会的サポートの構築などを組み合わせた実践的介入として、企業・学校・地域で広く普及しています。特にペンシルバニア大学が開発した「レジリエンス・プログラム(Penn Resiliency Program)」は世界各国で導入されており、日本でも教育・企業分野への応用が進んでいます。
レジリエンスの概念は「PTG(外傷後成長:Post-Traumatic Growth)」と深く関係します。PTGとは、非常に困難なトラウマや試練を経験した後に、それ以前よりも高いレベルの機能・意味・つながり・強さを獲得するプロセス。精神的ウェルネスの高まりを示す現象の一つであり、人間の精神的な回復力と成長可能性を示しています。
デジタルウェルネスとテクノロジーとの付き合い方
スマートフォン・SNS・インターネットが生活に深く浸透した現代において、テクノロジーとの健全な関係を築くデジタルウェルネスが精神的ウェルネスの重要な一側面です。
デジタルウェルネスとは
デジタルウェルネス(Digital Wellness)とは、「テクノロジーを活用しながら、精神的・身体的・社会的健康に悪影響を及ぼさないよう意識的にバランスを取る取り組み」です。
デジタル時代の精神的ウェルネスへの影響
デジタルテクノロジーが精神的ウェルネスに与える課題は多岐にわたります。
SNS過剰使用との関係——Instagramなどのビジュアル系SNSの過剰使用は、他者との比較・理想の自己像との乖離による自己肯定感の低下、「FOMO(Fear of Missing Out:取り残される恐怖感)」、承認欲求の際限ない追求などと関連することが研究で示されています。特に思春期・青年期の若者でSNS使用と抑うつ・不安症状との関連が報告されています。
情報過多(インフォメーションオーバーロード)の問題——24時間流れ込んでくるニュース・通知・メッセージは脳に継続的な認知負荷とストレスをかけます。特に悲惨なニュースを繰り返し閲覧する「ドゥームスクローリング(Doom Scrolling)」は、不安・無力感・抑うつを高めることが明らかになっています。また常に接続されている状態(always-on culture)は「切断できない不安」を生み出し、休息と回復に必要な「オフタイム」を奪います。
一方で、デジタルテクノロジーは精神的ウェルネスを支援するツールとしても大きな可能性を持ちます。マインドフルネス・瞑想アプリ(Calm・Headspace・Meditopia等)、メンタルヘルス相談アプリ、オンラインカウンセリング・セラピーサービス、フィットネス追跡・睡眠管理アプリ、コミュニティ・ピアサポートプラットフォームなどが実践を支援しています。AIを活用したデジタルセラピー(Woebot等)や、CBT・DBT・ACTに基づくデジタル介入プログラムの開発も急速に進んでいます。
デジタルウェルネスを高める8つのヒント
- スクリーンタイム管理1日のスマートフォン・SNS使用時間を意識的に制限する。
- 通知の整理不要なアプリの通知をオフにし、情報の流入を自分でコントロールする。
- デジタルデトックス週に1日、または毎日数時間のオフライン時間を設ける。
- 就寝前ルール就寝1時間前にはスクリーンを手放す(睡眠の質の向上)。
- SNSのキュレーションネガティブな感情を引き起こすアカウントのフォロー解除・非表示。
- 意図的なテクノロジー使用娯楽的な使用と目的ある使用を意識的に区別する。
- 対面交流の優先デジタル上のつながりと対面のつながりのバランスを保つ。
- ニュース消費の制限信頼できる情報源を絞り、チェックする時間帯を決める。
日本社会でのメンタルウェルネス文化の醸成
日本独自の文化的背景の中で、精神的ウェルネスに関するスティグマの低減、伝統文化の活用、健康経営の広がりなど、文化を醸成する取り組みが進んでいます。
日本独自の文化的背景と課題
日本には「メンタルヘルスは個人の弱さ・甘えの問題」という根強い偏見・スティグマ(差別・偏見)が存在します。また「我慢すること」「空気を読んで自分の感情を抑えること」を美徳とする文化的規範が、感情表現や支援希求(ヘルプシーキング)を抑制しやすい環境を作ってきました。
こうした文脈において「スティグマの低減」が最も重要な課題の一つです。「こころの病気」「精神科受診」への偏見を減らし、精神的健康について気軽に語り合える社会文化を作ることが求められています。当事者の体験談の発信・メディアの啓発報道・教育現場でのメンタルヘルスリテラシー教育などが有効なアプローチです。
2021年に日本政府が「孤独・孤立対策担当大臣」を設置したことは、社会的つながりとウェルネスの関係が政策レベルで認識された重要な動きです。学校教育においてもSEL(社会的・感情的学習:Social-Emotional Learning)の導入が広がりつつあります。SELは感情認識・感情調整・社会的スキル・自己認識・責任ある意思決定などを系統的に教育するアプローチで、子どもの精神的ウェルネスの基盤を学校生活の中で育てます。
日本の伝統文化とウェルネスの親和性
日本の伝統文化には、精神的ウェルネスと親和性の高い要素も多くあります。
- 「禅(Zen)」の実践とマインドフルネスの関係
- 「茶道・華道・書道」など「道(どう)」の修練がもたらす集中・フロー体験
- 自然との共生を大切にする「里山文化」
- 「家族・地域のつながり(絆)」を大切にする文化的価値観
これらの伝統的実践を現代の精神的ウェルネスの文脈で再評価・活用することは、日本独自のウェルネス文化を育む上で重要です。
「産業保健」の分野でも変化が起きています。厚生労働省は「健康経営」の概念を普及させ、従業員の精神的・身体的健康に投資することが企業の持続的成長につながるという認識を広めています。健康経営優良法人認定制度により、メンタルウェルネスに積極的に取り組む企業が社会的に評価される仕組みも整ってきました。
日本のメンタルウェルネスに関する主な公的取り組み
- ✓ストレスチェック制度(2015年〜):50人以上の事業場での年1回実施義務
- ✓健康経営優良法人認定制度:メンタルヘルス対策含む健康経営企業の認定・表彰
- ✓こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)
- ✓精神保健福祉センター:各都道府県に設置、無料相談・支援
- ✓自立支援医療制度(精神通院医療):医療費の自己負担軽減(最大9割)
- ✓孤独・孤立対策推進法(2024年施行):社会的孤立の防止・対処の国家的取り組み
- ✓子ども・若者育成支援推進法:若者のメンタルヘルス支援体制整備
支援機関・相談窓口とよくある質問
精神的ウェルネスを高める実践の中で「一人で抱え込まない」ことが最も大切。困難を感じたとき、誰かに相談することそのものがウェルネスの重要な実践です。
活用したい4つの支援機関
日本には様々な相談窓口・支援機関があります。状況に応じて使い分けましょう。
よくある質問
A. メンタルヘルス(Mental Health)は精神的健康全般を指す広い概念で、精神疾患の有無・精神機能の状態・精神的ウェルビーイングを含みます。一方、精神的ウェルネス(Mental Wellness)はメンタルヘルスの中でも特に「積極的・予防的・促進的な側面」に焦点を当てた概念です。「病気でないこと」だけでなく、「自分らしく生き生きとしていること」「感情的に豊かであること」「人生に意味と充実を感じていること」を目指します。メンタルヘルスが「病理モデル(問題の除去)」を含む広い概念であるのに対し、精神的ウェルネスは「成長モデル(豊かさの促進)」を重視する視点です。精神疾患を抱えていても精神的ウェルネスを高める取り組みは意味があり、精神疾患がなくてもウェルネスが低い状態(ラングイッシング)にある人もいます。
A. 今日から始められる小さな実践があります。まず「感謝日記」——就寝前に今日感謝できることを3つ書くだけで、ポジティブな感情が増し、幸福感・睡眠の質が向上することが研究で示されています。次に15〜30分の散歩など軽い身体活動。運動はセロトニン・エンドルフィンを分泌し、気分改善に即効性があります。「今この瞬間」に意識を向ける5分間の腹式呼吸や瞑想もすぐ始められます。スマートフォンの通知を就寝1時間前にオフにして睡眠環境を整えること、大切な人に「ありがとう」と伝える、あるいは短いメッセージを送ることで社会的つながりを意識的に育てることも有効です。どれか一つから試してみてください。
A. 単純な「ポジティブ思考(ネガティブな感情を抑え、常に明るく考えようとすること)」だけでは精神的ウェルネスは高まらず、むしろ逆効果になることがあります。自分の本当の感情(不安・悲しみ・怒り)を無理に押し込めることは「感情の抑圧」につながり、長期的にはストレスや心身の不調を引き起こします。これは「毒になるポジティビティ(Toxic Positivity)」と呼ばれる問題です。重要なのは、ネガティブもポジティブも「自分の内側からの情報」として受け入れ、適切に扱う感情リテラシーです。つらい感情があるときはそれを否定せず、「今私は悲しい・不安だ」と認識することがウェルネスの第一歩。ポジティブ心理学が推奨するのも「ネガティブな経験の中に意味を見出し、強みを活かして対処する」ことです。
A. 職場環境の改善は精神的ウェルネスに大きな効果をもたらします。個人レベルでは、境界線(バウンダリー)を設けること(業務時間外のメール・連絡への対応を減らすなど)、昼食は席を離れてリセットする時間を取ること、困ったことがあれば上司や同僚に早めに相談することなどができます。組織レベルでは、心理的安全性のある職場文化の構築が最も重要です。失敗や困難を安心して表現・相談できる雰囲気、互いの強みを認め合うコミュニケーション、ハラスメントが起きない環境整備などです。日本では産業医・産業保健師・EAPサービスが職場の精神的健康支援を担っており、まず相談することも有効。ストレスチェック後の職場環境改善措置は事業者の努力義務とされています。
A. 数千件以上の科学的研究が蓄積されており、精神的ウェルネスへの有効性は広く認められています。特に「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」と「マインドフルネス認知療法(MBCT)」が最も研究が進んでいます。MBCTについては、うつ病の再発予防効果が抗うつ薬と同等であることが複数のランダム化比較試験(RCT)で示されており、イギリスのNHS(国民保健サービス)でも正式な治療法として承認されています。脳科学的研究では、定期的なマインドフルネス実践で感情調整に関わる前頭前皮質が厚くなり、ストレス反応に関わる扁桃体の反応が弱まることが示されています。8週間のMBSRプログラムで扁桃体の灰白質密度減少(ストレス反応減弱)が確認されています。ただしトラウマ症状がある場合は専門家のガイダンスのもとで実践することが推奨されます。
A. 「使い方次第」というのが現時点での研究知見です。受動的なSNS使用(他者の投稿を眺めるだけ)は孤独感・羨望・自己肯定感の低下・抑うつとの関連が報告されています。一方、積極的なSNS使用(自分の経験を発信し他者とやりとりする)は孤立感の低減・社会的サポートの増大と関連する研究もあります。特に問題とされているのは、1日2〜3時間を超える長時間使用、就寝前の使用(睡眠妨害)、理想化された他者の生活との比較(上方社会比較)です。一方でピアサポートコミュニティや当事者同士の情報交換の場として機能する側面もあります。SNSを「意識的に・目的を持って・時間を決めて」使うこと、フォローするアカウントを「自分が前向きになれる・学びになる」ものに絞ること、開く前に「なぜ今これを開くのか」と一瞬立ち止まる習慣をつけることがデジタルウェルネスの実践です。
A. かつてはレジリエンスは生まれつきの特性・気質として固定的に捉えられていましたが、現代の研究は後天的に学習・育成可能なスキルであることを明確に示しています。米国心理学会(APA)も「レジリエンスは特別な人だけが持つ特性ではなく、誰でも学び育てることのできるプロセスである」と強調しています。レジリエンスを高める主なアプローチとして、認知行動療法(CBT)に基づくリフレーミング、マインドフルネスによる感情への気づきと受容、自分の強みを知り意識的に活かす実践(VIA強み活用)、社会的サポートネットワークの構築、問題解決スキルの学習などが有効です。ポジティブ心理学の研究者が開発した「レジリエンス・トレーニング」プログラムは学校・企業・軍隊などで実績を上げており、日本でも研修・ワークショップで普及しています。
A. 子どもの精神的ウェルネスの基盤は、家庭での安心・安全な愛着関係にあります。親が子どもの感情を「受け止め・共感する」こと(感情コーチング)が、子どもの感情調整力・自己肯定感・社会的スキルの発達に深く関わります。子どもの感情表現を否定しない(「泣かないの!」「そんなことで怒らないの」を控え、「悲しかったんだね」「怖かったんだね」と感情を言語化して受け止める)、毎日15〜20分の「特別な時間(Special Time)」を設け子どもが主導する遊び・活動に集中して付き合うことが重要です。強みに注目したフィードバック(失敗を責めるより努力・プロセス・強みを認める)、「助けを求めていい」と伝え支援希求行動を育てること、学校や地域とのつながりを支援すること、スクリーンタイムのルールを設け自然・身体活動・対面交流を大切にすることも効果的。親自身が精神的にウェルである(ロールモデルになる)ことも大きな支えになります。
「もう少し、自分らしく
生きたい」と感じるあなたへ
精神的ウェルネスは、特別な人だけのものではありません。今日の小さな一歩から始められます。「最近疲れている」「心が空っぽに感じる」——そんなときは一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
