当事者主導(Service User-Led)とは?
歴史・ピアサポート・リカバリー・実践事例を解説
「当事者主導」とは、精神的な困難の経験を持つ人々が、自らの支援サービスの設計・運営・評価において中心的な役割を担う考え方です。「私たちのことを、私たちなしに決めるな」という理念のもと、ピアサポート・当事者研究・リカバリー概念として広がる、メンタルヘルスの最も根本的な変革理念を網羅的に解説します。
当事者主導(Service User-Led)とは
精神的な困難や精神疾患の経験を持つ「当事者」が、自らの支援サービスの設計・運営・評価において中心的な役割を担う考え方・実践の総称。1970〜80年代の精神医療生存者運動を源流とし、日本ではピアサポート・当事者研究などとして普及しています。
当事者主導の核心
「当事者主導(Service User-Led)」とは、精神的な困難や精神疾患の経験を持つ人々——いわゆる「当事者」——が、自らの支援サービスの設計・運営・評価において中心的な役割を担う考え方・実践の総称です。単に「意見を聴いてもらう」という受動的な参加にとどまらず、当事者自身がサービスの方向性を決定し、スタッフとして働き、研究や政策立案に参画するという、より能動的・主体的な関与を意味します。
この概念は、1970〜80年代に欧米で興った精神医療生存者運動(Survivor Movement)や消費者運動(Consumer Movement)を源流とし、日本においてもピアサポートや自立支援、当事者研究などの形で広く普及しつつあります。メンタルヘルスの分野において、当事者主導は単なる制度的な用語ではなく、「自分の人生を自分で取り戻す」というリカバリーの核心的な価値観と深く結びついています。
「当事者(Service User)」とは誰か
「当事者(Service User)」という言葉は、精神保健福祉サービスを現在利用している人、過去に利用したことがある人、あるいは将来利用するかもしれない人を広く含みます。英語では「consumer(消費者)」「survivor(生存者)」「ex-patient(元患者)」「person with lived experience(生きた経験を持つ人)」などさまざまな呼称があり、それぞれに運動的・政治的な含意があります。日本語では「当事者」「体験者」「利用者」「ピア(仲間)」などと表現されます。
重要なのは、これらの呼称が単なる属性ラベルではなく、「自分の経験に専門的な価値がある」というアイデンティティの肯定を含んでいることです。当事者主導の枠組みでは、精神疾患や精神的困難の「生きた経験(Lived Experience)」そのものが、支援を設計・改善するための不可欠な知識源として扱われます。
「主導」の意味するスペクトラム——参加の梯子と5つの形態
当事者の「主導」や「参加」には段階があります。よく引用されるアーンスタインの「参加の梯子(Ladder of Participation)」を援用すると、最低レベルの「操作・形式的参加」から、情報提供・相談・和解を経て、「パートナーシップ・権限委譲・当事者コントロール」という完全な主導まで連続した段階が存在します。
当事者主導とは、この梯子の上位段階——少なくとも「パートナーシップ」以上——を指します。具体的には以下のような実践が含まれます。
当事者主導を支える価値観
当事者主導の実践は、いくつかの核心的な価値観によって支えられています。
- 自己決定(Self-Determination)自分の治療・支援・生き方について、自分が最終的な決定権を持つという原則。
- エンパワメント(Empowerment)自分の生活を管理する力を取り戻し、社会的・政治的な力を獲得するプロセス。
- リカバリー(Recovery)症状の消失だけでなく、「意味のある人生を送ること」を目標とする、当事者主導で定義される回復の概念。
- 反スティグマ(Anti-Stigma)精神疾患に伴う偏見・差別に対抗し、当事者の市民としての権利を守る姿勢。
- トラウマインフォームドケア多くの当事者が抱えるトラウマ経験を踏まえ、支援の場での再トラウマ化を防ぐ視点。
欧米における精神医療生存者運動の誕生
20世紀前半まで、精神疾患を持つ人々は社会的に周縁化され、精神科病院への長期入院や強制治療が当然視されていました。患者の声は医療の場でほとんど顧みられず、「専門家が最善を知っている」というパターナリズム(父権主義)が支配的でした。
こうした状況に対するアンチテーゼとして、1960年代のアメリカで反精神医学運動が台頭し、トーマス・サスやR・D・レインらが既存の精神医療体制を批判しました。1970年代には当事者自身による組織化が進み、「精神医療消費者/生存者/元患者(c/s/x)」と呼ばれる運動が各地で展開されました。1978年にはカナダのバンクーバーで世界初の当事者主導の精神科危機センター「オン・アワー・オウン(On Our Own)」が開設され、当事者が運営主体となるサービスモデルの実現可能性が示されました。
イギリスでは1980年代以降、精神保健サービス利用者運動(Mental Health Service User Movement)が組織的に発展し、「マインド(Mind)」「メンタルヘルス・ネットワーク(Mental Health Network)」などの当事者・家族団体が政策提言力を持つようになりました。2001年には国家精神保健政策の指針に「リカバリー」概念が組み込まれ、当事者主導はサービス改革の公式な柱のひとつに位置づけられました。
日本における展開
日本では、長らく精神科病院への長期入院が世界的にも突出して多い状況が続いてきました。1960〜70年代の精神衛生法体制のもとで当事者の権利は著しく制限され、社会復帰への道は非常に狭いものでした。しかし1970年代後半以降、当事者による自助グループや回復者クラブが各地に誕生し始めます。
1978年には断酒会・AA(アルコホーリクス・アノニマス)の影響を受けたアルコール依存症からの回復者による当事者主体の活動が広まり、1985年頃からは精神障害をもつ当事者が運営するワークショップや地域活動の場が生まれました。1993年の障害者基本法改正で精神障害が初めて法的に障害として認められ、2000年代に入ると障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)のもとでピアサポート事業が制度的に位置づけられるようになりました。
2010年代以降は「当事者研究」(北海道・浦河べてるの家が発祥)が全国に広まり、当事者自身が自らの経験を研究・言語化し、支援の場に還元する取り組みが注目を集めています。2020年代には精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が国の方針として明示され、当事者主導の理念はより広い政策文脈に組み込まれつつあります。
ピアサポートと当事者主導の関係——定義・エビデンス・日本の制度化
同様の経験をもつ仲間が互いに支え合う「ピアサポート」は、当事者主導の最も広く実践されている形態です。
ピアサポートとは何か
ピアサポート(Peer Support)とは、「仲間(peer)」、すなわち同様の経験をもつ人々が互いに支え合うことです。精神保健の文脈では、精神疾患や精神的困難の「生きた経験」をもつ人が、同じような困難にある人を支援する活動を指します。専門的な訓練を受けた「ピアサポートワーカー(ピアスタッフ)」として有給で働く形態と、自助グループなどボランタリーな形態の双方があります。
ピアサポートは当事者主導の最も広く実践されている形態のひとつです。ピアサポートの核心は、「同じ経験をくぐり抜けてきた人だからこそ伝えられるもの」があるという確信にあります。ホープ(希望)の共有、実践的な情報の提供、社会的なつながりの回復、そしてスティグマの内面化(自己スティグマ)からの解放——これらはピアサポートが最も有効に機能する領域です。
ピアサポートの効果に関するエビデンス
ピアサポートの効果については、国内外で多数の研究が蓄積されています。系統的レビューやメタ分析の結果を総合すると、以下のような効果が示されています。
- ✓入院日数の短縮・再入院率の低下
- ✓希望(ホープ)と自己効力感の向上
- ✓社会的孤立の軽減・社会的つながりの強化
- ✓薬物療法への服薬遵守の改善(一部研究)
- ✓QOL(生活の質)の向上
- ✓精神症状の軽減(効果量は中程度)
ただし、国立精神・神経医療研究センターの整理でも指摘されているように、研究の質やバイアスのリスクに関してはいまだ課題があり、「どのような形のピアサポートが、どのような人に、どのような状況で最も有効か」というより精緻な問いへの回答は継続的な研究課題となっています。
日本のピアサポート制度化の現状
日本では、障害者総合支援法のもとで「ピアサポートを担う人材」の活用が推進されており、厚生労働省は2020年度から「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築にあたってピアサポート専門員の養成研修を整備しました。研修は基礎研修(2日間)・専門研修(2日間)・フォローアップ研修(2日間)の計6日間で構成されています。
2020年度時点で約50の自治体がピアサポート事業を実施しており、その後も普及が進んでいます。しかし依然として地域格差が大きく、ピアサポートワーカーの処遇改善や継続的な研修体制の整備が課題として挙げられています。
リカバリー概念と当事者主導——CHIMEと当事者研究
リカバリーは「症状の消失」ではなく「自分らしく意味のある人生を取り戻すプロセス」。当事者主導と切り離せない概念です。
リカバリーとは何か——CHIMEモデル
「リカバリー(Recovery)」は、もともと医学用語として「症状や機能障害からの回復」を意味していましたが、当事者運動の影響を受けて再定義されました。現在のメンタルヘルス分野で広く使われるリカバリーの概念は、「症状の消失にかかわらず、自分らしく意味のある人生を取り戻すプロセス」と理解されています。
ウィリアム・アンソニーによる定義(1993年)が特に影響力を持ちます。彼はリカバリーを「精神疾患の壊滅的影響から立ち直り、超えていく、非常に個人的でユニークなプロセス。それは、態度・価値観・感情・目標・技術・役割を変えることを含む。精神疾患がもたらす制限の中でも、満足のいく、希望あふれる、貢献できる生活を送ること」と表現しました。
リカバリーを支える要素は「CHIME」という頭字語で整理されることが多いです。
リカバリーは「当事者が自ら定義する」ものであるため、本質的に当事者主導の概念です。専門家が外側から「回復した」と判断するものではなく、当事者自身の主観的な経験と目標によって形成されます。
当事者研究——日本独自の当事者主導実践
北海道・浦河にある「べてるの家」が1990年代後半に生み出した「当事者研究」は、日本における当事者主導の最も独創的な実践のひとつとして国際的にも注目されています。当事者研究とは、自分自身の困難・症状・生きづらさを「研究テーマ」として設定し、仲間とともに言語化・分析し、自分なりの対処法を開発していく営みです。
「自分自身で、共に」というスローガンのもと、当事者が自分を「研究者」として位置づけ、専門家や支援者は「研究を支える仲間」として側に立ちます。これは従来の「専門家が問題を診断・治療する」という図式を根本的に転換するものです。当事者研究は医療機関、就労支援施設、大学、学校など多様な場に広がり、「研究する権利・語る権利」を当事者に取り戻す実践として機能しています。
当事者主導組織の特徴——5つの設計原則
当事者主導のサービスや組織は、従来の専門家主導の機関とは根本的に異なる設計原則をもちます。主な特徴として以下が挙げられます。
- 意思決定権の所在組織の方針・サービスの内容・スタッフの採用に関して、当事者が過半数の意思決定権を持つ。
- 生きた経験の価値化精神疾患や精神的困難の経験を「問題」としてではなく「資産・強み」として位置づける文化。
- 相互性(Mutuality)「支援する側」と「支援される側」の境界が流動的で、相互に学び・助け合う関係性。
- 非階層的な構造できる限りフラットな組織運営、専門家肩書よりも経験・貢献を重視。
- 地域への根ざし地域住民・地域社会との有機的なつながりを重視。
当事者主導における専門職との協働——コプロダクション
当事者主導は「専門職は不要」という立場ではありません。精神科医、精神保健福祉士、心理士などの専門職も重要な役割を担いますが、当事者主導の枠組みでは専門職の役割が「権威として治療を施す人」から「当事者のリカバリーを支えるパートナー」へと変化します。
この関係性の変化は「コプロダクション(Co-production)」という概念で表現されることもあります。コプロダクションとは、サービスの利用者と提供者が対等なパートナーとして、ともにサービスを設計・実施・評価することです。イギリスでは2000年代から国家医療サービス(NHS)においてコプロダクションが推進されており、日本でも地域包括ケアの文脈で浸透しつつある概念です。
トラウマインフォームドアプローチとの統合
当事者主導のサービスは、トラウマインフォームドケア(TIC)の原則とも親和性が高いです。多くの精神疾患や精神的困難の背景には、幼少期からの逆境体験(ACE:Adverse Childhood Experiences)や、精神科入院・強制治療などによる医原性トラウマが存在します。当事者主導の場は、こうしたトラウマの視点を当事者自身がサービス設計に反映できるという強みをもちます。
トラウマインフォームドケアの6原則(安全・信頼性と透明性・ピアサポート・協働と相互性・エンパワメントと選択・文化的・歴史的・ジェンダー的課題)はすべて、当事者主導の実践と深く重なります。
代表的な当事者主導の実践事例
課題と批判——5つの論点
精神保健と人権の交差点
当事者主導の運動は、精神保健と人権の交差する領域に深く根ざしています。国連の「障害者の権利に関する条約(CRPD)」(2006年採択、日本は2014年批准)は、「私たちのことを、私たちなしに決めるな(Nothing About Us Without Us)」という当事者主導の核心的スローガンを実質的に国際法の原則として確立しました。
CRPDは、強制治療・強制入院・身体拘束などについて厳格な制限を求めており、日本の精神保健医療制度が国際基準を大幅に下回っているという批判が国連委員会から繰り返し提起されています。当事者主導の視点からは、法的強制力を持った当事者の権利保護なくして真の主導は実現しないという主張があります。
アドボカシー(権利擁護)の実践
当事者主導の運動は、個人レベルの支援にとどまらず、政策・制度・社会的スティグマへの働きかけというアドボカシー(権利擁護)の次元をもちます。日本においても、精神障害当事者団体による国会への陳情・パブリックコメントへの参加・メディアへの発信などが継続的に行われています。
また、「ピアアドボカシー(Peer Advocacy)」として、精神科病院への入院中や行政機関との交渉において同じ経験をもつ当事者が権利擁護のサポートをする実践も広がっています。
デジタル化時代における当事者主導——可能性とリスク
SNS・オンラインコミュニティ・AIメンタルヘルスアプリの普及が、当事者主導の実践にもたらす可能性とリスクを整理します。
オンラインコミュニティと当事者主導
インターネット・スマートフォンの普及により、当事者主導の実践はリアルな場を超えてデジタル空間にも広がっています。当事者によるSNSでの発信・ブログ・ポッドキャスト・YouTubeチャンネルは、専門家によるフィルタリングなしに当事者の声を社会に届ける新たな回路となっています。また、オンラインの当事者コミュニティ・フォーラムは、地理的・身体的な制約を超えてピアサポートの場を提供しています。
2024年には日本デジタルメンタルヘルス連合会が発足し、デジタルメンタルヘルスサービスの整理・評価が進んでいます。AIを活用したメンタルヘルスアプリが多数登場する中、「当事者の視点がサービス設計に反映されているか」という評価軸がますます重要になっています。
デジタルツールと当事者主導のリスク
一方、デジタル空間における当事者コミュニティには固有のリスクも存在します。オープンなプラットフォームでは誤情報の拡散・有害なコンテンツへの接触・過度な「症状自慢」の文化が形成されることがあります。また、AIチャットボットによる「感情サポート」が、適切な専門的支援へのアクセスを遅延させるリスクも指摘されています。デジタルな当事者主導の実践においても、安全性・プライバシー・クオリティの確保が求められます。
当事者として自分の回復を主導するために——4つの実践
個人レベルで当事者主導を実践するための具体的な方法を解説します。自分の声を見つけ、自助グループを活用し、自己主張をし、ウェルネス計画を作る。
自分の声を見つける
当事者主導は社会的・制度的な次元だけでなく、個人の回復プロセスにおいても実践できます。「自分の経験に権威がある」という確信から出発することが第一歩です。精神的な困難の渦中にいるとき、「専門家に言われたとおりにする」だけが選択肢ではありません。自分が何に困っているのか、何を望んでいるのか、何が自分に合っているのかを言語化し、支援者に伝えることが当事者主導の始まりです。
自助グループ・ピアサポートを活用する
地域の自助グループ・当事者グループへの参加は、「一人ではない」という体験を得る上で非常に有効です。同じ経験をもつ仲間の話を聴き、自分の経験を話すことで、孤立から出て社会的なつながりを回復することができます。グループへの参加は「回復した人」だけのものではなく、困難の真っ只中にいる人にも開かれています。
治療・支援の場での自己主張(アサーション)
精神科通院・入院・相談支援の場で、自分の意見・希望・不満を伝えることは権利です。「先生に逆らってはいけない」「迷惑をかけてはいけない」という考えが自己主張を妨げることがありますが、支援者との対話は一方通行ではなく双方向のプロセスであるべきです。薬の副作用が気になる、別の治療法を試したい、支援の方向性に違和感がある——そういった気持ちを伝えることが当事者主導の個人実践です。もし一人で伝えることが難しければ、信頼できる人やアドボカシー支援を利用することも選択肢のひとつです。
自分なりのウェルネス計画を作る——WRAP
「WRAP(Wellness Recovery Action Plan:元気回復行動プラン)」は、当事者自身が自分の「元気な状態」「調子が崩れるサイン」「回復のための行動」「危機時の対処法」などを自ら記述・作成する回復ツールです。アメリカのメアリー・エレン・コープランドが開発し、日本でも各地でWRAPファシリテーターによるグループが開催されています。WRAPは自己決定・希望・個人責任・学び・サポートという5つの価値観を基盤とした、当事者主導の実践の具体的な形です。
「助けたい気持ち」がコントロールになるとき
家族や支援者が当事者の回復を「助けよう」とするとき、善意の行動が当事者の自己決定を侵食してしまうことがあります。「あなたのためを思って」という言葉のもとでの過干渉・代理決定・保護主義は、当事者の主体性を奪う結果を招きます。これは「共依存(Co-dependency)」のパターンとも関連しており、家族自身が自分の回復(ファミリーリカバリー)に取り組むことが、当事者主導を支える土台となります。
当事者の声を「信じる」こと
当事者主導を支える最もシンプルかつ根本的な支援者のあり方は、当事者の語りを「症状の表れ」や「病気のせい」としてフィルタリングせず、その人の経験の証言として受け取ることです。「そう感じているんだね」と言葉を受け取ることから始まる信頼関係が、当事者が自らの声を信じる力を育む土台となります。
サービスを「一緒に選ぶ」こと
医療・福祉サービスの選択に際して、家族や支援者が「決める」のではなく「一緒に情報を集め、当事者が選べるよう支える」役割を担うことが当事者主導を実践することになります。複数の支援機関・医療機関を比較したり、セカンドオピニオンを求めたりすることは、当事者の権利です。
政策・制度における当事者主導の推進——地域包括ケア・自立支援医療・CRPD
日本の精神保健医療福祉政策における当事者主導の位置づけと、利用できる制度を整理します。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステム
日本政府は2017年以降、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を国の方針として掲げています。このシステムでは、精神科病院だけでなく、住まい・日常生活の支援・就労・教育・地域活動など幅広い領域で当事者が地域で生活できる支援体制の整備が目指されています。当事者主導の理念はこの政策の根幹に関わるものであり、地域協議会への当事者参加・ピアサポートの活用・当事者の意向を反映したサービス評価が重視されています。
自立支援医療制度(精神通院医療)の活用
精神疾患の治療を続けるにあたって、経済的な負担は当事者主導のリカバリーを阻む要因のひとつとなりえます。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、精神科通院にかかる医療費の自己負担が原則1割に軽減されます(所得に応じた月額負担上限あり)。この制度を知らないまま高い医療費を負担し続けているケースも少なくないため、支援者や医療機関からの積極的な情報提供が当事者主導を支える基盤整備となります。
障害者権利条約と日本の課題
2022年の国連障害者権利委員会による日本への勧告では、精神科病院への長期入院・強制入院・身体拘束の問題が繰り返し指摘されました。国際的な「当事者主導」の潮流の中で、日本の精神保健医療福祉制度はいまだ多くの改革課題を抱えています。当事者団体・家族団体・専門職団体・法律家・政策立案者が協働し、当事者の声を制度変革の動力とする取り組みが続いています。
関連用語集
当事者主導を理解する上で重要な10の用語を整理します。
関連用語10選
- ピアサポート(Peer Support)同様の経験をもつ仲間が互いに支え合うこと。精神保健の文脈では、生きた経験をもつ当事者が他の当事者を支援する活動を指す。
- リカバリー(Recovery)症状の消失ではなく、自分らしく意味のある人生を取り戻すプロセス。当事者自身が定義する主観的な回復概念。
- エンパワメント(Empowerment)自分の生活をコントロールする力を取り戻し、社会的・政治的な力を獲得するプロセス。
- 当事者研究自身の困難・症状・生きづらさを研究テーマとして仲間とともに探究する日本発の実践。べてるの家が発祥。
- WRAP(元気回復行動プラン)当事者自身が自らのウェルネスと危機対応計画を記述する自己管理ツール。
- コプロダクション(Co-production)サービスの利用者と提供者が対等なパートナーとしてともにサービスを設計・実施・評価すること。
- トークニズム(Tokenism)形式的な参加にとどまり、実質的な意思決定に関与できない当事者参加の形態。
- 生きた経験(Lived Experience)精神疾患や精神的困難を直接体験したことから得られる知識・洞察・専門性。
- オープンダイアローグ(Open Dialogue)フィンランド発の精神科的危機への対話的アプローチ。当事者・家族・専門家が同じ場で対話する。
- アドボカシー(Advocacy)個人または集団の権利を擁護・代弁すること。当事者運動における政策・制度変革への働きかけを含む。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
あなたの「生きた経験」は、あなた自身の人生の専門知識です。一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。当事者・ご家族・支援者の方からのご相談を温かくお受けしています。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。精神科・心療内科への継続通院が必要な場合は、自立支援医療制度(精神通院医療)により医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。お住まいの自治体の障害福祉課にご相談ください。
