持続エクスポージャー療法(PE療法)とは?
仕組み・4つの構成要素・エビデンス・PTSD治療・他のトラウマ療法との違い・日本での受け方を徹底解説
交通事故、性暴力、虐待、災害、犯罪被害——深刻なトラウマ後に発症するPTSDの世界最高水準のエビデンスを持つ治療法。フォア博士の理論的基盤、4つの構成要素、EMDR・CPT・薬物療法との違い、日本での受け方まで、PTSDで苦しむ方とその家族が知っておくべき情報を包括的にまとめました。
持続エクスポージャー療法(PE療法)とは
持続エクスポージャー療法(PE療法)は、PTSDを治療するために開発された認知行動療法の一種です。エドナ・B・フォア博士が1980年代に開発し、現在世界で最も科学的根拠の確立されたPTSD治療法の一つです。日本でも2016年4月から健康保険の適用が認められています。
PE療法の定義と最大の特徴
持続エクスポージャー療法(PE療法:Prolonged Exposure Therapy)は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を治療するために開発された、認知行動療法(CBT)の一種です。1980年代にアメリカのペンシルベニア大学の心理学者エドナ・B・フォア(Edna B. Foa)博士によって開発され、40年以上にわたる研究と臨床実践によってその有効性が確立されてきました。
「持続(Prolonged)」という言葉は、トラウマ記憶や関連する刺激に対して十分な時間をかけて繰り返し向き合うことを意味します。「エクスポージャー(Exposure)」は「曝露」と訳され、恐怖や不安の対象に意図的に触れていくことを指します。つまりPE療法とは、PTSDをもたらしているトラウマ記憶や回避している状況に、安全な治療環境の中で段階的・継続的に向き合うことで、PTSD症状を根本から軽減する治療法です。
PE療法の位置づけと開発の歴史
フォア博士がPE療法を開発したのは1980年代のことです。当初は主に性暴力被害者のPTSD治療を対象として研究が始まりました。その後、戦闘帰還兵、犯罪被害者、交通事故被害者、虐待サバイバーなど、さまざまな種類のトラウマに対しても有効性が示されるようになり、現在では世界で最も広く使用されるPTSD治療法の一つとなっています。
日本への導入は2000年代初頭から始まり、国立精神・神経医療研究センターの飛鳥井望先生や金吉晴先生らが中心となって研究・普及が進められました。2015年から2016年にかけて厚生労働省の研究班によってPE療法の日本語マニュアルが整備され、2016年4月にはPTSDに対する心理療法として健康保険の適用が認められました。これにより日本においても、より多くの患者がPE療法を受けやすくなっています。
PTSDとはなにか——PE療法を理解するための前提
PE療法を理解するには、まずPTSDの本質を理解する必要があります。PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、生死に関わる出来事や深刻な脅威を体験した後に発症する精神疾患で、以下の4群の症状を特徴とします。
これらの症状は、トラウマ体験後に脳が生き延びるために必死に反応した結果として生じます。しかし症状が1か月以上持続し、日常生活に著しい支障をきたすようになるとPTSDと診断されます。日本での生涯有病率は約1.3〜1.7%とされており、決して珍しくない疾患です。
PE療法の理論的基盤——情動処理理論と恐怖構造
PE療法の理論的核心は、フォア博士が提唱した情動処理理論にあります。不安や恐怖がどのように維持され、どうすれば解消できるか——その答えが「恐怖構造」と「馴化」「認知的変化」のメカニズムです。
情動処理理論と病的な恐怖構造
PE療法の理論的核心は、フォア博士が提唱した情動処理理論(Emotional Processing Theory)にあります。この理論は、不安や恐怖がどのように維持され、どうすれば解消できるかを説明します。
情動処理理論によれば、人間の脳の中には「恐怖構造(Fear Structure)」と呼ばれる記憶ネットワークが存在します。通常の記憶では、ある出来事に関する情報(刺激・反応・意味)が適切に整理されています。しかしトラウマを体験すると、この恐怖構造が病的な形で形成されます。
- 過剰な汎化本来は危険でない状況・物・人が、トラウマと結びついて「危険だ」と認識される(例:交通事故後に車の音すべてに恐怖を感じる)。
- 誤った意味づけ「自分は無力だ」「世界は常に危険だ」「これは自分のせいだ」などの不正確な信念がトラウマ記憶に埋め込まれる。
- 断片化された記憶トラウマ記憶は通常の記憶と異なり、時系列が乱れ、断片的で、感覚・感情が切り離されていることが多い。
この病的な恐怖構造が維持され続けるのは、当事者が回避行動によってトラウマに関連する刺激を避け続けるからです。回避することで一時的に不安は和らぎますが、脳は「回避したから助かった(その状況は危険だ)」という学習を繰り返してしまいます。その結果、恐怖構造はより強固になり、PTSDは慢性化します。
PE療法が恐怖構造を修正するメカニズム
PE療法は、回避の悪循環を断ち切り、病的な恐怖構造を修正するために設計されています。具体的には以下の2つのメカニズムが作用すると考えられています。
なぜ「持続(Prolonged)」が重要なのか
PE療法の「持続(Prolonged)」という言葉には重要な意味があります。エクスポージャーは短時間で切り上げてはいけません。なぜなら、不安が十分に低下するまで向き合い続けることが治療効果の鍵だからです。
もし恐怖が最大値に達したところでエクスポージャーを切り上げてしまうと、脳は「危険だったから逃げた(正解だった)」と学習してしまいます。これは「不完全なエクスポージャー」と呼ばれ、むしろ恐怖を強化してしまう可能性があります。PE療法では、一回の想像エクスポージャーを45〜60分程度継続することで、不安が十分に低下するまで向き合い続けることを重視しています。
心理教育・呼吸再構成法・現実エクスポージャー・想像エクスポージャー
PE療法は以下の4つの主要な構成要素から成り立っています。それぞれの役割と具体的な手順を見ていきましょう。
PE療法のセッション——具体的な流れと期間
PE療法は週1回(または週2回)、1回90分のセッションを10〜12回(場合によっては15回)行います。合計でおよそ3〜4か月で終了することが多く、他の長期心理療法と比べて比較的短期間で終結することも特徴です。
治療の全体的な期間と構造
PE療法は通常、週1回(または週2回)、1回90分のセッションを10〜12回(場合によっては15回)行います。合計でおよそ3〜4か月で終了することが多いです。ただし、複雑なトラウマ歴を持つ場合や、解離症状が強い場合などには、より長い期間が必要になることもあります。
第4回以降の典型的なセッションの流れ
治療の核心部分(第4回以降)の典型的なセッションの流れは以下の通りです。
宿題(ホームワーク)の重要性
PE療法ではセッション内の実施だけでなく、自宅での宿題(ホームワーク)が治療の重要な部分を占めます。
- 録音の聴き直し想像エクスポージャーのセッション録音を、毎日1回(約45〜60分)聴き直す。セッション以外の時間にも馴化が進む。
- 現実エクスポージャーの練習前回のセッションで設定した課題を実施。不安が十分に低下するまで(少なくとも30〜45分)続けることが理想。
- 呼吸再構成法の練習毎日の練習を続け、必要なときに素早く活用できるようにする。
治療初期の一時的な症状悪化について
PE療法を開始すると、特に最初の数週間は症状が一時的に悪化したように感じることがあります。これは避けてきたトラウマ記憶に向き合い始めた結果であり、決して治療が間違っているわけではありません。
このような一時的な悪化は「プロセスの一部」であり、研究でも多くの患者が経験することが確認されています。セラピストは事前にこのことを説明し、悪化が起きた場合にも適切にサポートします。重要なのは、症状の悪化を理由に治療を途中で中断しないことです。多くの場合、継続することで大きな改善が得られます。
PE療法のエビデンスと有効性
PE療法は、PTSD治療における世界で最も科学的根拠の確立された治療法の一つです。その有効性は、数十年にわたる数多くのランダム化比較試験(RCT)によって繰り返し確認されてきました。
世界最高水準のエビデンス
数十年にわたるRCTで有効性が繰り返し確認されてきました。主要なデータは以下の通りです。
主な国際ガイドラインにおける推奨
PE療法は世界の主要な国際ガイドラインで最高レベルの推奨を受けています。
- 米国科学アカデミー医学院(IOM)2008年の「PTSD治療の効果評価」報告書で、すべてのPTSD治療の中で唯一「十分なエビデンスが実証されている」と結論づけた。
- 米国退役軍人省(VA)/国防総省(DoD)PTSD治療ガイドラインで「強く推奨(Strongly Recommended)」のカテゴリに位置づけられ、優先的に提供される一次治療として推奨。
- 英国国立医療技術評価機構(NICE)PTSDに対するトラウマ焦点化認知行動療法として推奨。
- 世界保健機関(WHO)2013年の「PTSDのガイドライン」でトラウマ焦点化認知行動療法を優先的に推奨。
- 日本精神神経学会日本においても認知行動療法(PE療法)によるPTSD治療のエビデンスが学術的に認められており、ランダム化対照比較試験による日本人患者への有効性が飛鳥井らによって確認されている。
長期的な効果と再発防止
PE療法の効果は、治療終了後も長期にわたって持続することが示されています。研究では、治療終了後1年・2年・5年のフォローアップ評価でも、治療効果が維持されていることが確認されています。これは、PE療法が症状を一時的に抑制するのではなく、PTSDの根本にある恐怖構造そのものを変化させる治療だからと考えられています。
また、治療で習得した「不安に向き合う」というスキルは、治療終了後も生活の中で活用できます。新たなストレスやトリガーに直面したとき、自分自身で対処するための力(レジリエンス)が育まれることも、PE療法の重要な側面です。
PE療法が対象とするトラウマの種類
PE療法の有効性は、単一のトラウマだけでなく、多様な種類のトラウマに対して確認されています。DSM-5の基準A(トラウマ体験)に含まれる出来事から、単純性・複雑性PTSDへの適用まで見ていきましょう。
どのようなトラウマに効果が示されているか
PE療法の有効性は、単一のトラウマだけでなく、多様な種類のトラウマに対して確認されています。
PTSDを引き起こすトラウマの多様性(DSM-5基準A)
DSM-5(精神疾患の診断統計マニュアル第5版)では、PTSDの「基準A(トラウマ体験)」として以下が含まれます。
- ✓戦闘・戦争体験
- ✓性的暴力(強姦、性的虐待)
- ✓身体的暴行(強盗、暴行、拷問)
- ✓誘拐・拉致・人質体験
- ✓テロ攻撃
- ✓自然災害(地震、洪水、台風)
- ✓重篤な交通事故
- ✓子ども時代の虐待(身体的・性的・情緒的)
- ✓職場・学校でのいじめ・ハラスメントの極端に深刻なケース
- ✓他者の死亡・重傷を目撃すること
- ✓医療上のトラウマ(重篤な疾患、手術、ICU体験など)
- ✓職業上の暴力的体験(警察官、救急隊員、医療従事者など)
単純性PTSDと複雑性PTSDへの対応
PTSDは大きく「単純性PTSD」と「複雑性PTSD(Complex PTSD)」に分けられます。
複雑性PTSDに対してPE療法を実施する場合、セラピストは解離症状や感情調節の困難さを考慮しながら、段階的に進めることが重要です。安全性の確保と感情調節スキルの習得を優先した後でエクスポージャーに移行する「フェーズモデル」を採用することもあります。
PE療法の適応と禁忌
PE療法は強力な治療法ですが、適応となる条件と、開始前に対処が必要な状態(一時的禁忌)があります。包括的なアセスメントを経て、患者の個別の状態に応じた治療計画が立てられます。
PE療法が適応となる主な条件
PE療法は以下の条件を満たす場合に適応が検討されます。
- ✓DSM-5またはICD-11の基準を満たすPTSDの診断がある
- ✓トラウマを思い出して話すことが心理的に可能である(セラピストとの関係で語れる程度の能力がある)
- ✓現在の生活が一定程度安定している(ホームレス状態、進行中のDV、重度の薬物乱用などがない)
- ✓治療への動機があり、宿題を実施できる
- ✓自殺リスクが高くない(現時点での緊迫した自殺念慮がない)
注意が必要なケース・一時的に禁忌となる状態
以下の状態にある場合は、PE療法を直接開始することが難しく、先に別の対応が必要となる場合があります。
- 重篤な自殺リスク緊迫した自殺念慮や自傷行為がある場合は、まず自殺防止の治療介入を優先する。PTSDの治療は安全が確保された後に行う。
- 重度の解離症状デリアリゼーション(現実感消失)やデパーソナリゼーション(離人感)が重篤で、エクスポージャー実施が困難な場合は、先に解離症状への対処が必要。
- 重篤な精神疾患(活動期)統合失調症や躁病エピソードが活発な状態では、認知行動療法的なアプローチが困難なため、先に精神症状を安定させる。
- 重度のうつ病うつ症状が著しく重篤でPE療法への参加が困難な場合は、まず薬物療法や支持的療法でうつを改善させる。
- 重篤な物質乱用・依存アルコールや薬物への深刻な依存がある場合は、先に依存症治療を行う(ただし、物質使用の問題があってもPE療法を実施できる場合もある)。
- 現在進行中のトラウマ状況DVや虐待が継続中の場合は、まず安全確保が最優先。安全が確保されてからPE療法を開始する。
EMDR・CPT・薬物療法との違いと比較
PTSD治療法として科学的根拠が確立されているものとして、PE療法のほかにもEMDRとCPTがあります。いずれもトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)の一種として国際的に推奨されています。
PE療法・EMDR・CPTの比較
3つの治療法は、いずれもPTSDに対して同等の高い有効性を持つことが研究で示されています。それぞれのアプローチ・特徴を比較しましょう。
どの治療法が自分に合うかをどう判断するか
研究では、これらの治療法の間で治療効果に有意な差がないことが多く報告されています。つまり、「どれが一番効くか」よりも「どれが自分に合っているか」という視点が重要です。
薬物療法との比較・併用について
PTSDの治療には、薬物療法も一定の役割を果たします。主に使用されるのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)であり、PTSD症状全体の軽減に効果があることが示されています(エビデンスレベルA)。
- 薬物療法のみ vs PE療法のみPTSDに対するエビデンスの質と量の観点では、PE療法などのトラウマ焦点化心理療法の方が優れた根拠を持つと評価されることが多い。ただし薬物療法(SSRI、エビデンスレベルA)も有効。
- 薬物療法とPE療法の併用多くの場合、薬物療法はPE療法の妨げにはならず、重篤な抑うつや不安を軽減して心理療法への参加を容易にする効果が期待できる。ただし一部研究では併用が心理療法の長期効果を低減させる可能性も指摘。
- 薬物療法の方が向いているケース心理療法へのアクセスが困難な場合。PE療法に取り組む動機や能力が低い場合。重篤なうつや不安が先行している場合。
PE療法を受ける際に予想されること
PE療法を受ける前のアセスメントから、治療中に生じる感情、治療中断のリスクまで——治療を受ける際に予想されることを事前に知っておくことが、安心して治療に向き合うための力になります。
アセスメント(評価)の段階
PE療法を受ける前に、まずアセスメント(評価)面接が行われます。これは治療開始前の重要なプロセスです。
- PTSD症状の評価CAPS(臨床家が評価するPTSD尺度)などの標準化された評価ツールを用いてPTSDの診断と重症度を確認する。
- トラウマ歴の聴取どのようなトラウマを体験してきたかを確認する。最も困難にしている「インデックストラウマ(標的トラウマ)」を特定する。
- PE療法の適応判断禁忌項目の確認。現在の生活状況、自殺リスク、物質使用、解離症状の程度を評価する。
- 治療への動機づけの確認PE療法についての説明を行い、患者が治療を希望するかを確認する。インフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を得る。
治療中に生じやすい感情・反応
PE療法の治療過程では、さまざまな感情や反応が生じます。これらは回復の一部であることを理解しておくことが大切です。
治療中断について
研究によると、PE療法を受け始めた患者のうち、プログラムが完了する前に治療を中止する割合は10〜38%とされています。中断の理由は様々ですが、「辛くて続けられない」という理由が多く見られます。
治療を中断したいと感じたときは、すぐにセラピストに相談することが大切です。ペースを落とす、休憩を設ける、進め方を調整するなど、柔軟な対応が可能な場合があります。治療の突然の中断は、未完のエクスポージャーが残ることで、かえって症状が悪化するリスクがあるため、可能な限り段階的に終結することが推奨されます。
日本でPE療法を受けるには
2016年4月からPE療法は健康保険の適用対象となりました。保険適用の医療機関で受ける場合は通常の医療費と同様の負担で受けられます。実施機関、信頼できるセラピストの探し方、受診までの流れを解説します。
健康保険の適用について
日本では2016年4月から、PTSDに対するPE療法(認知行動療法)が健康保険の適用対象となりました。これにより、保険適用の医療機関でPE療法を受ける場合、通常の医療費と同様に3割(または自立支援医療制度利用で1割)の負担でサービスを受けられます。
ただし、保険適用にはいくつかの条件があります。
- ✓精神科・心療内科を標榜する保険医療機関で受けること
- ✓認知行動療法の研修を修了した医師または医師の指示のもとで認知行動療法の研修を修了した看護師が実施すること
- ✓医師によるPTSDの診断があること
保険適用外のカウンセリング機関でも、1回1万円前後のPE療法を提供しているところがあります。
PE療法を受けられる主な施設・機関
日本でPE療法を受けられる代表的な機関・施設の種類は以下の通りです。
信頼できるセラピストの見つけ方
PE療法は、適切な訓練を受けたセラピストのもとで実施されることが不可欠です。以下の点を参考にセラピストを探しましょう。
- ✓PE療法の専門訓練を受けているか確認する(国立精神・神経医療研究センターや認定機関が提供するPE療法研修の修了)
- ✓資格を確認する(臨床心理士・公認心理師の資格を持つ専門家であるか)
- ✓精神科・心療内科への受診を起点にする(担当医にPE療法の実施または紹介を相談)
- ✓精神保健福祉センターに相談する(各都道府県のセンターは地域の精神保健医療の情報を持っており適切な機関への紹介を受けられることがある)
- ✓アセスメント面接でセラピストとの相性を確認する(安心して語れるか、信頼できるかという感覚も治療の成否に影響する)
受診までの流れ
PE療法を受けるまでの一般的な流れを説明します。
PE療法と併用できる自己ケア
PE療法は専門的な治療ですが、日常生活における自己ケアとの組み合わせがその効果をより高めます。睡眠・運動・社会的つながり・グラウンディングなど、治療と並行して実践できる方法を紹介します。
治療効果を高める日常生活の工夫
以下の取り組みは、治療と並行して実践できます。
グラウンディング技法(地に足をつける技法)
フラッシュバックや解離が起きたとき、「今ここ」に戻るためのグラウンディング技法は、PE療法の補助として日常生活でも活用できます。
- 5-4-3-2-1テクニック今この瞬間に①見えるもの5つ、②触れられるもの4つ、③聞こえるもの3つ、④嗅げるもの2つ、⑤味わえるもの1つを確認する。五感を使って現在に意識を戻す。
- 足裏の感覚への注意両足を床につけ、足裏の感覚、床の硬さ・温度に意識を向ける。「今、私は安全な場所にいる」と心の中で繰り返す。
- 冷たい水・氷を使う冷水で顔を洗う、氷を手に持つなど、強い感覚刺激が離人感やフラッシュバックを中断させる効果がある。
- 呼吸法(呼吸再構成法)PE療法で習得した呼吸再構成法を、エクスポージャーの外での不安管理として活用する。
家族・支援者がPE療法中の患者にできること
PE療法を受けている患者の家族・パートナーは、治療の重要なサポーターです。適切なサポートが治療の成否に大きく影響します。「励まし」のつもりが逆効果になることもあるため、関わり方を意識しましょう。
してよいこと・してはいけないこと
PE療法中の患者への関わり方には、回復を助けるものと、逆に妨げるものがあります。違いを意識してみましょう。
PE療法に関するよくある誤解と疑問
PE療法について多くの人が抱える疑問・誤解とその答えをまとめました。
A. とても自然な疑問です。答えはPTSDの回避サイクルにあります。トラウマを避け続けることは短期的には楽ですが、長期的には恐怖を維持・強化し、生活の幅をどんどん狭めていきます。安全な環境でトラウマ記憶に向き合うことは「無謀に傷口を開く」ことではなく「傷が適切に処理されるための条件を整える」ことです。外科手術が一時的な痛みを伴いながら病気を根治するように、PE療法は一時的な苦痛を伴いながらPTSDの根本的な回復を目指します。
A. PE療法は幅広いPTSD患者に適用できますが、「今は開始が難しい状態」が存在します。重篤な自殺リスク、活動期の精神病、重度の解離症状などがある場合は、まずそちらへの対処が優先されます。PTSDと診断された全員がすぐにPE療法を受けられるわけではなく、アセスメントの結果によっては準備段階が必要なケースもあります。
A. はい、特に治療初期には症状が一時的に増悪することがあります。これは多くの患者が経験することであり、治療上想定されたことです。セラピストは事前にこのことを説明し、悪化した場合の対処法についても準備します。一時的な悪化を経験しながらも継続することで、長期的な改善につながることが多いです。ただし、自殺リスクが高まった場合、日常生活が送れなくなるほど悪化した場合には、治療ペースの調整や他の介入が必要になります。
A. 複雑性PTSDに対するPE療法の適用については依然として議論があります。研究では子ども時代の慢性的な虐待サバイバーにおいても一定の有効性が示されています。ただし、感情調節の困難さや解離症状、対人関係上の問題など、複雑性PTSDの特徴に応じた配慮が必要です。実際には「フェーズモデル」が採用されることが多く、安全化→トラウマ処理(PE療法など)→統合という段階を経て治療を進めることが推奨されています。
PE療法についてよくある質問
A. まずは精神科または心療内科を受診して、PTSDの診断を受けることから始まります。受診の際に「PE療法(持続エクスポージャー療法)に興味がある」と伝えると、担当医がPE療法を実施している施設や専門家を紹介してくれることがあります。また、各都道府県の精神保健福祉センターに相談することで、地域で受けられる機関の情報を得られることもあります。PE療法は2016年から健康保険の適用がありますので、保険証を持参して受診してください。
A. 標準的には週1回90分のセッションを10〜12回行いますので、おおよそ3〜4か月で治療を完了することが多いです。ただし、トラウマの複雑さ、症状の重症度、個人の回復スピードによって、より短期間または長期間になることもあります。週2回のペースで行う場合はより短期間で完了できます。セラピストと定期的に進捗を確認しながら、治療の長さを調整していきます。
A. 2016年4月から、PTSDに対するPE療法は健康保険の適用対象です。保険適用の医療機関(精神科・心療内科)で受ける場合は、通常の医療費と同様の自己負担(3割)で受けられます。また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると自己負担が原則1割に軽減されます。保険適用外の心理相談室などでは、1回1万円前後の場合があります。費用については受診先に事前に確認することをお勧めします。
A. 治療初期に症状が一時的に悪化することは、多くの患者が経験する正常なプロセスの一部です。ただし、自殺念慮が強くなった、日常生活が全く送れなくなった、解離症状が著しく悪化した、などの場合は、速やかにセラピストに連絡してください。次のセッションまで待てない場合は、緊急連絡先(担当機関の緊急対応や、いのちの電話0120-783-556、よりそいホットライン0120-279-338)に相談してください。治療ペースの調整や他の介入を組み合わせることで対応できます。
A. 研究結果によると、PE療法とEMDRのPTSDに対する治療効果に有意な差はなく、どちらも高い有効性を持つことが示されています。どちらが「効く」かは個人によって異なり、治療へのアクセス可能性、個人の好み、症状の特徴、利用できるセラピストの専門性によって選択することが推奨されます。担当の精神科医やセラピストと相談して、自分に合った方法を選んでください。
A. 薬物療法とPE療法は基本的に併用可能です。多くの場合、SSRIなどの薬物療法は重篤な抑うつや不安を軽減してPE療法への参加を容易にする効果があります。薬を飲みながらPE療法を受けている患者は多くいます。ただし、具体的な組み合わせについては担当医と相談しながら決めることが大切です。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬については、エクスポージャー中の学習を妨げる可能性が指摘されることもあるため、担当医への相談を推奨します。
A. 誰にも話したことがないトラウマに対しても、PE療法は受けられます。むしろ、誰にも話したことのないトラウマを抱えている方こそ、専門的なサポートが必要な場合が多いです。PE療法の最初の段階(心理教育)では、セラピストとのラポール(信頼関係)を丁寧に形成することから始まりますので、「いきなり全部話さなければならない」ということはありません。安心できる関係が整った上で、少しずつ語れるようになるプロセスを一緒に歩みます。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
PTSDやトラウマのことをひとりで抱え続けてきた方へ。あなたの気持ちをぜひ聞かせてください。ここから回復の一歩が始められます。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。PTSDやトラウマの症状が気になる場合は、精神科・心療内科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、継続的な通院の医療費を原則1割に軽減できます。詳細は最寄りの精神保健福祉センターや市区町村の福祉窓口にお問い合わせください。
