抗不安薬とは?
種類・効果・副作用・依存リスクを徹底解説
不安・焦り・緊張が日常生活に支障をきたすほど強い場合、抗不安薬による治療が選択肢になります。ベンゾジアゼピン系・タンドスピロン・SSRIの違い、副作用・依存リスク・減薬・高齢者への注意・非薬物療法との組み合わせまで、必要な情報をすべてここにまとめました。
抗不安薬とは
抗不安薬は不安・緊張・焦燥感を和らげる薬剤の総称です。「精神安定剤」とも呼ばれ、不安障害・パニック障害・社交不安障害などの治療に用いられますが、依存性や副作用への正しい理解が欠かせません。
抗不安薬の定義と位置づけ
抗不安薬(こうふあんやく、anxiolytics)とは、不安・緊張・焦燥感を和らげることを主な目的として使用される薬剤の総称です。一般に「精神安定剤」とも呼ばれ、心療内科・精神科において不安症状を伴うさまざまな疾患に対して処方されます。
抗不安薬は「不安という症状そのもの」に作用する薬であり、根本的な疾患を治癒させるものではありません。発熱に対して解熱剤を使うように、強い不安という症状を緩和することで、患者が日常生活を送れるようにサポートし、さらに心理療法などの根本的治療に取り組みやすくする補助的な役割を担います。
不安のメカニズムと抗不安薬の必要性
不安は、脳の扁桃体(へんとうたい)を中心とした神経回路が過活動状態になることで生じます。本来、不安は危険を察知し身を守るための重要な感情ですが、以下のような場合には医学的介入が必要になります。
このような状態では、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れており、心理的なアプローチだけでは改善が難しいことがあります。抗不安薬はこの神経学的なアンバランスを薬理学的に修正することで、症状を緩和します。
抗不安薬の歴史
抗不安薬の歴史は1960年代に始まります。それ以前は、不安の治療にはバルビツール酸系薬(フェノバルビタールなど)が使用されていましたが、依存性・過量服薬の危険性が高く、より安全な代替薬が求められていました。
抗不安薬の種類と分類
抗不安薬は作用機序によって大きく分類されます。ベンゾジアゼピン系の作用機序、半減期による分類などを整理します。
抗不安薬の大分類
抗不安薬は、その作用機序と化学構造によって大きく以下のカテゴリーに分類されます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用機序
ベンゾジアゼピン系薬剤は、脳内のGABA(γ-アミノ酪酸)受容体に作用することで効果を発揮します。
GABAは脳内の主要な抑制性神経伝達物質であり、神経の過剰な興奮を抑制する「ブレーキ」のような役割を持っています。ベンゾジアゼピン系薬剤はGABAA受容体に結合することでGABAの働きを増強し、神経の興奮を鎮め、不安・緊張を和らげます。
作用時間(半減期)による4分類
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、体内での「半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)」によって以下の4タイプに分類されます。半減期が短いほど即効性がある一方、効果が切れたときの反跳性不安(リバウンド)が生じやすい特徴があります。
主なベンゾジアゼピン系薬剤一覧と比較
日本では34種類のベンゾジアゼピン系薬剤が処方可能であり、世界的に見ても処方量が多い国のひとつです。代表的な薬剤の特徴と比較を整理します。
日本でよく処方される代表的なベンゾジアゼピン系
主要ベンゾジアゼピン系抗不安薬の比較
| 一般名(商品名) | 作用時間 | 抗不安力 | 筋弛緩 | 依存リスク | 主な適応 |
|---|---|---|---|---|---|
| エチゾラム(デパス) | 短時間型 | 強 | 強 | 高 | 不安・緊張・不眠・筋緊張 |
| ロラゼパム(ワイパックス) | 短時間型 | 強 | 中 | 中〜高 | 不安障害・パニック障害 |
| アルプラゾラム(コンスタン・ソラナックス) | 短〜中間型 | 強 | 中 | 高 | 不安障害・パニック障害 |
| ブロマゼパム(レキソタン) | 中時間型 | 中 | 弱〜中 | 中 | 不安・緊張・心身症 |
| ジアゼパム(セルシン・ホリゾン) | 長時間型 | 中 | 中 | 中 | 不安障害・筋緊張・離脱 |
| クロナゼパム(リボトリール) | 長時間型 | 強 | 中 | 中〜高 | てんかん・パニック障害 |
| ロフラゼプ酸エチル(メイラックス) | 超長時間型 | 中 | 弱 | 低〜中 | 慢性的な不安・心身症 |
非ベンゾ系・SSRIベースの抗不安薬
タンドスピロン(セディール)に代表される非ベンゾジアゼピン系と、現在の不安障害治療の第一選択薬であるSSRI・SNRIを解説します。
タンドスピロン(セディール)の特徴
タンドスピロン(商品名:セディール)は、ベンゾジアゼピン系とは全く異なる作用機序を持つ抗不安薬です。アザピロン系に分類され、セロトニン1A(5-HT1A)受容体への部分アゴニストとして作用します。
セロトニン系に直接働きかけることで不安・緊張を緩和しますが、GABA系には作用しません。このため、ベンゾジアゼピン系に特有の「眠気・ふらつき・筋弛緩・依存性」という副作用が大幅に少ない点が最大の特徴です。
- 依存性がないGABA受容体に作用しないため、身体的依存が形成されない。長期服用後に急に中止しても離脱症状が起きにくい。
- 眠気・ふらつきが少ない日中の作業能率や運転への影響が少ない(ただし個人差がある)。
- 認知機能への影響が少ない記憶力・判断力への悪影響が少ない。
- 高齢者にも使いやすい転倒・骨折リスクを高めにくく、高齢者への処方に適している。
- 効果発現に時間がかかる最大の欠点は、効果が出るまでに2〜4週間かかること。即効性はない。
- 効果はやや弱め重症の不安には効果が不十分な場合がある。
- 主な適応心身症(胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症など)に伴う不安・抑うつ・睡眠障害。
標準用量:1日30mg(10mgを1日3回服用)。最大60mg/日まで増量可能。
SSRIベースの抗不安薬——なぜ第一選択なのか
現在の不安障害(全般性不安障害・パニック障害・社交不安障害・強迫性障害など)の治療ガイドラインでは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が薬物療法の第一選択として推奨されています。
SSRIはもともと「抗うつ薬」に分類されますが、不安に関わる神経回路(セロトニン系)に作用し、不安障害に対しても高い治療効果を示します。ベンゾジアゼピン系と比較した際のSSRIの利点は以下の通りです。
- 依存性がない継続服用しても身体依存が形成されない。急に中止すると「中断症候群」は起きる場合があるが、ベンゾジアゼピン系の離脱症状とは異なる。
- うつ病の合併にも対応不安障害とうつ病は合併することが多く、SSRIは両方に効果がある。
- 長期服用が安全認知機能への悪影響が少なく、長期的な維持療法に適している。
- 再発防止効果長期服用により再発リスクを下げる効果がある。
不安障害に用いられる主なSSRI・SNRI
| 薬剤名(商品名) | 分類 | 主に適応する不安障害 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| パロキセチン(パキシル) | SSRI | パニック障害・社交不安障害・PTSD・強迫性障害 | 不安障害への適応が広い。鎮静作用がやや強め。中断症候群に注意 |
| エスシタロプラム(レクサプロ) | SSRI | 全般性不安障害・パニック障害・社交不安障害 | 副作用が少なく忍容性が高い。現在最も使いやすいSSRIの一つ |
| セルトラリン(ジェイゾロフト) | SSRI | パニック障害・PTSD・社交不安障害 | 副作用が比較的少なく、長期使用実績が豊富 |
| フルボキサミン(デプロメール・ルボックス) | SSRI | 強迫性障害・社交不安障害 | 日本では強迫性障害への保険適用あり |
| ベンラファキシン(イフェクサーSR) | SNRI | 全般性不安障害・社交不安障害 | セロトニンとノルエピネフリン両方に作用。疼痛にも効果 |
| デュロキセチン(サインバルタ) | SNRI | 全般性不安障害・うつ病 | 痛みを伴う身体症状にも有効 |
疾患ごとの薬物療法の位置づけ
抗不安薬の副作用
ベンゾジアゼピン系・SSRI・タンドスピロンそれぞれに特徴的な副作用があります。アルコールとの併用は厳禁です。
ベンゾジアゼピン系の主な副作用
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、GABA系への作用が広範なため、不安を和らげる一方でさまざまな副作用が生じます。特に以下の副作用に注意が必要です。
アルコールとの併用は絶対禁止
SSRIの主な副作用
不安障害の第一選択薬であるSSRIにも副作用があります。
- 消化器症状服用開始初期に吐き気・下痢・腹部不快感が生じることがある。食後の服用や少量からの開始で軽減できる。
- 性機能障害性欲低下、射精遅延(男性)、オルガズム障害が比較的多い副作用。
- 不安・焦燥感の一時的増強服用開始直後(1〜2週間)に不安が強まることがある。これは一時的なものがほとんど。
- 中断症候群(中止後症候群)急に中止すると、めまい・電気ショック感・吐き気・情緒不安定などが生じる。必ず漸減する。
- 体重増加長期服用で体重が増加するケースがある(特にパロキセチン)。
- セロトニン症候群まれに過剰なセロトニン作用によって高体温・発汗・筋硬直・混乱などが生じる。複数のセロトニン系薬を併用した場合のリスクが高い。
タンドスピロン(セディール)の副作用
タンドスピロンの副作用はベンゾジアゼピン系と比べて格段に少ないですが、以下のものが報告されています。
- 消化器症状吐き気・胃部不快感。
- 頭痛・頭重感服用初期に生じることがある。
- 眠気ベンゾジアゼピン系より少ないが、人によっては眠気を感じることがある。
- 効果の遅れ副作用ではないが、2〜4週間効果が出ないため服用をやめてしまう患者も多い。継続が重要。
依存性と耐性——抗不安薬の最大リスク
ベンゾジアゼピン系の最大の問題点が依存性です。身体依存・精神依存・耐性のメカニズム、リスク因子、離脱症状を整理します。
ベンゾジアゼピン依存のメカニズム
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の最大の問題点は依存性です。依存には「身体依存」と「精神依存」の2種類があり、これに「耐性」が加わります。
- 身体依存(生理的依存)薬を継続して服用することで、脳がその薬の存在を「通常の状態」とみなすように適応してしまう状態。薬を減らしたり中止したりすると「離脱症状」が現れる。ベンゾジアゼピン系の場合、数週間〜数ヶ月の継続服用で生じうる。
- 精神依存(心理的依存)「この薬がないと不安」「薬がないと生きていけない」という心理的な欲求。薬そのものの薬理作用だけでなく、安心感を薬に求める認知のパターン。
- 耐性(タキフィラキシー)同じ量の薬を使い続けると徐々に効果が減少し、同じ効果を得るためにより多くの量が必要になる現象。ベンゾジアゼピン系の催眠作用は数週間で耐性が生じやすい。
依存形成のリスク因子
全ての服用者が依存になるわけではありませんが、以下の因子がある場合はリスクが高まります。
- 長期服用:一般的に2〜4週間以上の連続服用で身体依存のリスクが高まる
- 高用量での使用:推奨用量を超えた使用
- 短時間型の使用:半減期の短い薬剤(エチゾラム、アルプラゾラムなど)は依存形成が起きやすい
- アルコール・薬物依存の既往:過去にアルコールや他の薬物への依存経験がある場合はリスクが格段に高い
- 不安障害の重症度:不安が強いほど薬に頼りやすく、依存が形成されやすい
- 心理社会的サポートの欠如:薬以外のコーピング手段(心理療法・社会的支援)がない場合
離脱症状の種類と重症度
ベンゾジアゼピン系薬剤を急に中止したり大きく減量したりすると、以下の離脱症状(退薬症状)が現れることがあります。
- 軽度の離脱症状不安の増強(リバウンド不安)、不眠、焦燥感、震え、発汗、動悸、頭痛、吐き気。
- 中等度の離脱症状知覚過敏(光・音・皮膚感覚への過敏)、脱人格感・離人感、感情の不安定、記憶力・集中力の低下。
- 重篤な離脱症状(急激な中止で生じうる)てんかん発作(けいれん)、幻覚・妄想、意識障害、せん妄。
長期服用の問題点と減薬の進め方
日本は世界的にベンゾジアゼピン処方量が多い国です。長期服用の認知機能への影響、減薬の基本原則と工夫を解説します。
日本における長期処方の問題
日本は世界的に見てもベンゾジアゼピン系薬剤の処方量が多い国として知られています。かつては「安全で使いやすい」と認識されていたこれらの薬剤が、長期にわたって漫然と処方されてきた実態があります。
- 添付文書上の注意多くのベンゾジアゼピン系薬剤の添付文書には「長期投与は依存形成のリスクがある」と明記されているが、実際には数年〜十数年にわたって処方されているケースも多い。
- 厚生労働省の対策2017年以降、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期処方に関する診療報酬上の制限が設けられ、依存形成防止のための取り組みが推進されるようになった。
- 患者側の「怖さ」長期服用者の多くが「薬をやめると悪くなる」という恐怖から減薬に踏み出せない悪循環に陥っている。
長期服用と認知機能への影響
ベンゾジアゼピン系薬剤の長期服用と認知機能(記憶力・判断力・処理速度)の低下については、複数の研究で関連が報告されています。
- フランスの大規模コホート研究(2012年)では、ベンゾジアゼピン系の服用が将来的な認知症リスクの上昇と関連することが報告され、世界的な議論を引き起こした
- 一方で、「もともと不安が強い人が認知症になりやすいのであって、薬との直接の因果関係ではない」という反論もある
- 現時点では「長期服用が認知機能に何らかの悪影響を与える可能性がある」という慎重な見方が主流であり、不要な長期服用を避けることが推奨される
減薬・断薬の基本原則
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の減薬は、必ず医師の指導のもとで、ゆっくりと行うことが最も重要な原則です。
減薬中に起こりうること
- 反跳性不安(リバウンド不安)薬を減らすと、もとの不安症状が一時的に強くなる。これは「再発」ではなく、脳が新しい状態に適応しようとするプロセスである場合が多い。
- 離脱症状不安・不眠・震え・発汗・頭痛・吐き気などが現れることがある。減量ペースを落としたり、一時的に前の量に戻したりすることで対応する。
- 心理的な抵抗「薬がないと怖い」という心理的な恐怖。認知行動療法で「薬がなくても大丈夫」という体験を積み重ねることが助けになる。
減薬を成功させるための工夫
高齢者でベンゾジアゼピン系が問題になる理由
高齢者(一般に65歳以上)では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用が若年者よりはるかに深刻になります。
- 薬の代謝・排泄の低下加齢に伴い肝臓・腎臓の機能が低下するため、薬が体内に長く留まり、蓄積しやすい。特に長時間型では過剰鎮静のリスクが高まる。
- 脳の感受性の変化高齢者の脳はベンゾジアゼピン系に対してより感受性が高く、少ない量でも強い効果・副作用が出やすい。
- 転倒・骨折リスク筋弛緩・ふらつきの副作用が、高齢者の転倒につながりやすい。転倒による骨折(特に大腿骨骨折)は高齢者にとって生命を脅かす重大事故になりうる。
- 認知機能への影響もともと認知機能が低下傾向にある高齢者では、ベンゾジアゼピン系によるせん妄・認知機能悪化がより起きやすい。
- 依存形成高齢者も依存が形成されるリスクがあり、一度依存が形成されると減薬がより困難になる。
高齢者に適した代替薬と対処法
- タンドスピロン(セディール)依存性・筋弛緩・転倒リスクがほとんどなく、高齢者に向いている抗不安薬。効果発現は遅いが、安全性が高い。
- SSRI不安障害の根本治療として推奨。高齢者では少量から開始し、慎重に増量する。
- ロラゼパム・オキサゼパムどうしてもベンゾジアゼピン系を使わざるを得ない場合は、肝臓での複雑な代謝を受けないこれらの短時間型が比較的安全とされる。
- 非薬物療法認知行動療法・マインドフルネス・運動療法・生活習慣の改善が特に重要。
- ポリファーマシー(多剤服用)の見直し高齢者はすでに複数の薬を服用していることが多く、抗不安薬を追加することで相互作用リスクが高まる。他の薬を整理する視点も重要。
非薬物療法との組み合わせ
認知行動療法・マインドフルネス・生活習慣の改善は、薬物療法と並んで不安障害治療の柱です。組み合わせで再発予防効果が高まります。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、不安障害に対して最もエビデンスの蓄積された心理療法です。薬物療法との組み合わせで、特に長期的な改善・再発予防に効果的です。
マインドフルネスに基づく療法
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)やマインドフルネスに基づく認知療法(MBCT)は、「今この瞬間に意識を向け、判断せずに観察する」実践を通じて、不安に対する反応性を変えていく療法です。
- 不安障害・うつ病・慢性疼痛など幅広い疾患へのエビデンスが蓄積されている
- 「不安な思考が浮かんでも、それに飲み込まれず、ただ観察する」能力を育てる
- 薬物療法との組み合わせで、再発予防効果が高まる
- 日常的なマインドフルネス実践(瞑想・ヨガ・ボディスキャンなど)が症状改善に役立つ
生活習慣の改善
薬物療法・心理療法と並んで、日常的な生活習慣の改善も不安症状の緩和に重要な役割を果たします。
- 運動有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳など)が不安・うつ症状を軽減するエビデンスが豊富にある。週3〜5回、1回30分以上が目安。
- 睡眠不規則な睡眠は不安を悪化させる。就寝・起床時刻を一定にする、スクリーンタイムを就寝前に減らす、カフェインを午後以降避けるなどの睡眠衛生を実践する。
- カフェイン・アルコールの制限カフェインは不安を増強し、アルコールは一時的な緩和の後に反跳性不安を生じさせる。
- 社会的つながりの維持孤立は不安を悪化させる。家族・友人・支援グループとのつながりを意識的に維持する。
- ストレスマネジメント仕事の量の調整、時間管理、断る勇気など、ストレスの源泉に対処する行動変容。
薬物療法と非薬物療法の組み合わせ方
| 病期・重症度 | 薬物療法 | 非薬物療法 |
|---|---|---|
| 急性期(症状が強い時期) | SSRI開始+ベンゾジアゼピン系短期補助(必要に応じて) | 生活習慣の整備、専門家によるサポート |
| 安定期(症状が落ち着いてきた時期) | SSRIを継続(6ヶ月〜1年以上)、ベンゾジアゼピン系を漸減 | CBT・マインドフルネスを本格的に開始 |
| 維持期・再発予防期 | SSRIを適切な期間継続後、医師と相談しながら減薬検討 | CBTで習得したスキルを日常的に実践、生活習慣の維持 |
| 軽症例・予防 | タンドスピロン等の依存リスクの低い薬剤(必要な場合) | CBT・マインドフルネス・生活習慣改善が中心 |
服用前に医師に伝えるべきこと
抗不安薬を処方される際には、以下の情報を必ず医師に伝えてください。
- ✓現在服用中の薬(市販薬・漢方薬・サプリメント含む):相互作用が起きる可能性があるため必須
- ✓アルコール・タバコ・違法薬物の使用状況:特にアルコールは抗不安薬と重篤な相互作用を起こす
- ✓既往症:呼吸器疾患(睡眠時無呼吸症候群など)・重症筋無力症・緑内障・肝臓疾患・腎臓疾患があると禁忌または慎重使用が必要
- ✓妊娠・授乳中:ベンゾジアゼピン系は胎児・乳児への移行があるため、必ず申告する
- ✓アルコール・薬物依存の既往歴:依存リスクが高まるため、医師が代替薬を検討する重要な情報
- ✓運転・機械操作の有無:眠気・反応時間への影響があるため、服用中の運転については医師の指示を守る
服用中のセルフモニタリング
- ✓効果の確認:服用して不安が和らいでいるか、日常生活の質が改善しているかを観察する
- ✓副作用の確認:眠気・ふらつき・記憶の問題・気分の変化などが起きていないか記録する
- ✓「なければ不安」という感覚への気づき:薬がないと極端に不安になる場合、依存が形成されているサインの可能性がある。医師に相談する
- ✓量が増えていないか確認:同じ量では効かなくなり、自己判断で量を増やすことは危険
精神保健福祉センターと自立支援医療制度
不安障害で精神科・心療内科への通院が必要な場合、医療費の負担を軽減する制度があります。
抗不安薬についてのよくある質問
A. 抗不安薬は不安・緊張という症状を直接和らげる薬で、ベンゾジアゼピン系が代表的です。即効性がある一方、依存リスクがあります。抗うつ薬(SSRI・SNRIなど)は、もともとうつ病に用いられる薬ですが、不安障害にも高い治療効果があることが明らかになっており、現在では不安障害の第一選択薬として推奨されています。抗うつ薬は依存性がなく長期使用が安全ですが、効果が出るまでに2〜6週間かかります。実際の治療では、急性期に抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)を短期補助として使いながら、抗うつ薬を導入し、徐々に抗不安薬を減らしていくという組み合わせがよく行われます。
A. 抗不安薬には「定期服用(毎日決まった量を飲む)」と「頓服(必要な時だけ飲む)」の2つの使い方があります。全般性不安障害のように常に不安が続く場合は定期服用が一般的です。パニック発作への対処や、特定の場面(プレゼン・試験など)への不安に対しては頓服が用いられることがあります。ただし、頓服を繰り返すことで「薬を飲まないと乗り越えられない」という依存的な認知が形成されるリスクがあります。特にパニック障害では「お守り薬」依存が問題になります。どちらの使い方が適切かは疾患・重症度・治療目標によって異なるため、主治医と相談して決めましょう。
A. 適切な量を医師の指示のもとで服用する限り、「廃人になる」「人格が変わる」ということは起きません。これはインターネット上に広まった誤情報です。ただし、ベンゾジアゼピン系の長期服用・高用量服用では、認知機能の低下・感情の鈍化・無気力感が生じることがあります。また、依存が形成された状態で急に中止すると重篤な離脱症状が起きます。このようなリスクがあるからこそ、「短期間・最小限の量・医師の管理下」で使用することが大切であり、「だから飲んではいけない」ということではありません。不安障害の治療において抗不安薬が適切に使われれば、生活の質は大幅に改善します。恐れと正しい知識のバランスを持つことが重要です。
A. パニック発作は激しく怖ろしい体験ですが、通常10〜20分以内に自然におさまります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬を頓服で飲んでも、効果が出るまで30〜60分かかるため、発作が最高潮を迎えるころにはもう過ぎていることが多く、「薬が効いた」のか「自然におさまった」のかが区別できなくなります。これが「お守り薬」依存の形成につながります。パニック障害の根本治療には、認知行動療法(発作が起きても大丈夫という体験を積む「暴露療法」)が特に有効です。頓服の使用については主治医と相談の上、慎重に判断しましょう。
A. ベンゾジアゼピン系抗不安薬を長期服用後に急に中止すると、離脱症状(強い不安・不眠・震え・発汗・場合によってはけいれん)が起きることがあります。これは意志の弱さではなく、脳の生理的な反応です。まず今すぐ服用を元の量に戻し(急な中止が危険なため)、必ず医師に相談してください。減薬は医師の管理下で、長い時間をかけてゆっくり行うことが安全です。「一人でやめなければ」と思わなくていいです。精神保健福祉センターでも減薬に関する相談を受け付けています。
A. 小児・青年への抗不安薬の使用は慎重に行われます。ベンゾジアゼピン系は、発達中の脳への影響や依存形成リスクから、子ども・10代への使用は原則として推奨されておらず、どうしても必要な場合は短期間・最小量に限られます。タンドスピロン(セディール)は依存リスクが低く10代の方にも処方されることがあります。不安障害を持つ子ども・10代への第一選択は、薬物療法よりも認知行動療法などの心理療法であることが多いです。また、子どもへの薬物療法を行う場合は、小児精神科・児童精神科の専門医への相談が重要です。
A. ベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用している間の自動車運転については、薬剤の種類・用量・個人の感受性によって大きく異なります。多くのベンゾジアゼピン系薬剤は、眠気・反応速度の低下・注意力の散漫などを引き起こすため、服用中の運転は原則として控えることが推奨されており、薬の添付文書にも「眠気・注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」と記載されています。道路交通法上、薬物の影響により正常な運転ができない状態での運転は違法になります。必ず主治医に「運転してもいいか」を確認してください。タンドスピロン(セディール)はベンゾジアゼピン系より影響が少ないとされますが、個人差があります。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
抗不安薬について不安や疑問がありませんか。薬のこと、減薬のこと、不安のこと——どうかあなたの悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
不安障害・パニック障害などで精神科・心療内科に継続通院している方には、自立支援医療制度(精神通院医療)があり、医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。申請は市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターへ。このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。薬に関する疑問・不安は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
