メンタルヘルス用語辞典 · 行動嗜癖

行動嗜癖とは?
ギャンブル・ゲーム・買い物依存の原因と治療をわかりやすく解説

行動嗜癖とは、特定の行動(ギャンブル・ゲーム・買い物・SNSなど)に対して依存が形成され、コントロールを失い、生活に深刻な支障をきたす状態です。物質を使わないため見えにくいですが、脳のメカニズムは薬物依存と類似しています。症状・種類・原因・治療法を詳しく解説します。

ABOUT

行動嗜癖とは

行動嗜癖とは、特定の行動(ギャンブル・ゲーム・買い物・仕事など)に対して依存が形成され、コントロールを失い、生活に深刻な支障をきたす状態です。物質を使わない「行動」への依存は見えにくいですが、神経学的には物質依存と類似したメカニズムが関与しています。

定義

行動嗜癖の定義——「行動」への依存

行動嗜癖(ビヘイビアル・アディクション)とは、アルコール・薬物などの外部物質を使用しないにもかかわらず、特定の行動に対して依存が形成され、コントロールを失い、生活に重大な支障をきたす状態を指します。ギャンブル、ゲーム、買い物、インターネット、セックス、仕事、過食など多岐にわたります。

長らく「行動は物質のように依存を形成しない」と考えられていましたが、神経科学の発展により、行動嗜癖においても物質依存と同様のドーパミン報酬回路の変化が生じることが確認されました。2013年のDSM-5ではギャンブル障害が初めて非物質関連嗜癖として正式に認定され、2022年のWHO ICD-11ではゲーム障害も加わりました。

🎰

なぜ「行動」でも依存が生まれるのか

ギャンブルでの勝利・ゲームのレベルアップ・買い物の際の高揚感は、脳の報酬系(側坐核)でドーパミンを大量に放出します。これが繰り返されることで、脳は「その行動=強烈な報酬」として学習し、物質依存と同様の渇望・耐性・コントロール喪失が生じます。「物質がない」だけで、神経学的変化は物質依存と本質的に類似しています。

「趣味の延長」との違いを見極める「ゲームが好き」「パチンコが趣味」という段階から行動嗜癖に移行する境界は、「コントロールの有無」です。「やろうと思えばやめられる」状態であれば問題ありません。しかし「やめたいのにやめられない」「やめると具合が悪くなる」「生活に支障が出ている」であれば、嗜癖の可能性があります。
物質依存との比較

物質依存と行動嗜癖の共通点・相違点

行動嗜癖は物質依存と多くの特徴を共有しながら、重要な相違点もあります。

📊物質依存と行動嗜癖の比較
比較項目
行動嗜癖
物質依存
依存対象
行動・プロセス(ギャンブル・ゲーム等)
物質(アルコール・薬物等)
身体的依存
なし、または軽微
あり(離脱症状が明確)
神経学的変化
ドーパミン報酬回路の変化(類似)
ドーパミン報酬回路の変化(類似)
コントロール喪失
あり
あり
生活への影響
深刻(仕事・関係・財政)
深刻(仕事・関係・財政)
社会的認知
まだ低い傾向
比較的認知されている
DSM-5での公式認定
ギャンブル障害のみ
複数の物質使用障害
診断的特徴

行動嗜癖に共通する7つの特徴

行動嗜癖の種類を問わず、以下の7つの特徴が共通して見られます。

1
没頭・preoccupation
行動について絶えず考え、計画を立て、次の機会を期待している。していない時間も頭の中を占拠している。
2
耐性(tolerance)
同じ満足感を得るために、量・時間・頻度・リスクを増やさなければならなくなっている。
3
離脱様症状(withdrawal-like)
行動を減らしたり止めようとすると、落ち着きのなさ・イライラ・不安・空虚感などの不快感が現れる。
4
コントロール喪失
やめようと繰り返し試みるが、成功しない。「今日こそ最後」と決めても、気づけば行動している。
5
否認・秘密主義
行動の程度を過小に報告したり、隠したり、嘘をついたりする。「自分は依存していない」と強く否定する。
6
機能障害
仕事・学業・家庭・社会的役割が著しく障害されているにもかかわらず、行動を続ける。
7
逃避・気分調節
不快な気分(不安・罪悪感・無力感)から逃れるため、または気分を高揚させるために行動する。
⚠️
「否認」が最大の障壁行動嗜癖の最も大きな特徴のひとつが、問題を認めない「否認」です。「本気で止めようと思えばいつでもやめられる」「自分はまだ大丈夫」という感覚は、嗜癖そのものが作り出す錯覚です。周囲が問題を指摘したとき激しく反発する場合も、否認の表れである可能性があります。
脳のメカニズム

行動嗜癖の神経科学——なぜ止まれないのか

行動嗜癖が「やめたくてもやめられない」状態を作り出す背景には、脳の報酬系の根本的な変化があります。

🎯
可変報酬スケジュール
ギャンブルや一部のゲームは「たまに大きく勝てる」という予測不能な報酬構造を持ちます。この可変強化スケジュールは、一定の報酬より強力な依存形成力を持つことが行動科学で示されています。
📉
ドーパミン受容体の減少
繰り返しの刺激により脳がドーパミン受容体を減らします(ダウンレギュレーション)。その結果、日常的な楽しみでは満足感が得られなくなり、嗜癖行動だけが「普通」の感覚をもたらすようになります。
🔇
前頭前野の抑制機能低下
衝動制御を担う前頭前野の活動が慢性的に低下し、「やめよう」という意志が行動を止める力を持てなくなります。これは意志力の問題ではなく、神経学的変化です。
📳
渇望の自動化
特定の状況(パチンコ店の前・スマートフォンの通知音・飲み会の場)に条件付けられ、考えるより前に行動の衝動が生じる「自動化」が起きます。これが「気づいたらやっていた」状態の正体です。
SYMPTOMS

行動嗜癖の症状と特徴

行動嗜癖は日常の「好き」「趣味」と区別しにくいことが特徴です。以下の症状が複数・長期間にわたって見られる場合、専門家への相談を検討してください。

中核症状

行動嗜癖に共通する中核症状

🧠
強迫的な没頭
行動をしていない時間も、計画・期待・思い出として頭の中を占め続ける。仕事中・就寝前・会話中でも考えが離れない。
⬆️
エスカレーション(耐性)
同じ興奮・満足感を得るために、金額・時間・強度を増やさなければならなくなる。かつての「適量」では物足りなくなる。
😤
離脱様症状
行動をやめると、落ち着きのなさ・イライラ・不安・不眠・空虚感が現れる。これらの不快感から逃れるために行動を再開してしまう。
🚫
コントロール障害
「今日だけ」「最後にする」と何度も決めても守れない。意志の力だけでは止められないと何度も経験している。
🙈
問題認識の困難(否認)
問題の程度を過小評価する、「いつでもやめられる」と思っている、指摘されると激しく否定する。
😔
後悔と自己嫌悪の繰り返し
行動後に強い後悔・罪悪感・自己嫌悪を感じるが、それがまた引き金となり行動を繰り返す悪循環に陥る。
生活への影響

日常生活・対人関係への影響

💼
仕事・学業
遅刻・欠勤・提出物の遅延・業務パフォーマンスの低下。「なんとか体裁を保っている」段階でも、内側では深刻な影響が出ている。
👪
家族関係
嘘・秘密・感情的な距離が生じる。配偶者・子ども・親との信頼関係が深刻に損なわれる。家族が共依存になりやすい。
💸
経済状況
ギャンブル・買い物依存では借金・貯蓄の消耗・生活費への侵食が起きる。経済的危機が精神的苦痛を深め、さらに行動を加速させる。
🏥
身体的健康
睡眠障害・食事の乱れ・運動不足・慢性疲労が蓄積する。深夜のゲーム・パチンコは特に生活リズムを破壊しやすい。
😶
自己評価の低下
「自分はダメな人間だ」「意志が弱い」という自己嫌悪が慢性化する。治療を求めることへの羞恥心も自己嫌悪から生まれる。
⚠️
「まだそこまでひどくない」は危険なサイン行動嗜癖は段階的に悪化します。「まだ仕事を失っていない」「まだ借金がそこまで多くない」という段階でこそ介入が最も効果的です。底をつくまで待つ必要はありません。
TYPES

行動嗜癖の主な種類

行動嗜癖は多岐にわたります。それぞれの特徴を理解することで、適切な支援につながりやすくなります。

ギャンブル障害

ギャンブル障害——唯一のDSM-5公式認定行動嗜癖

DSM-5で「非物質関連障害および嗜癖性障害」として正式認定された唯一の行動嗜癖。

主な症状
  • より多くのお金でギャンブルしなければ興奮が得られない
  • やめようとすると落ち着きがなくイライラする
  • ギャンブルのことを頭から離せない
  • 損を取り返そうとして続ける(チェイシング)
  • 嘘をついてギャンブルの程度を隠す
  • 関係・仕事・学業への重大な影響
日本の状況:日本の有病率は3〜4%程度と推計(他国の2〜3倍)。パチンコ・パチスロが中心。
主な治療アプローチ
認知行動療法(歪んだ思考の修正)GAギャンブラーズアノニマス(自助グループ)家族支援(ギャマノン)経済的支援・法的サポート
ゲーム障害

ゲーム障害——WHO ICD-11(2022年)で認定

WHO ICD-11(2022年)で正式認定。DSM-5ではインターネットゲーム障害として「今後の研究のための状態」に分類。

診断基準(要点)
  • ゲームに費やす時間・頻度をコントロールできない
  • ゲームが他のあらゆる活動・関心より優先される
  • 生活に支障が出ても続ける(12か月以上)
リスクが高い人
  • 10代・20代男性に多い
  • オンラインRPG・バトルロイヤル型ゲームへのリスクが高い
  • 孤独感・社会的不安・うつとの強い関連
主な治療アプローチ
認知行動療法家族療法ゲームフリーな代替活動の探索オフラインの社会的つながりの構築
「ゲームが好き」と「ゲーム障害」の違い日本には数百万人のゲームプレイヤーがいますが、その大多数は嗜癖ではありません。問題は「時間の長さ」ではなく「コントロールの有無」と「生活への支障」です。
買い物依存

買い物依存——「感情の痛み」を買い物で埋める

購入する行為自体が目的化し、買った物への関心がすぐに薄れる
感情的な苦痛(不安・悲しみ)を緩和するために買い物をする
借金や経済的破綻を招いても止められない
購入した物を隠す、領収書を捨てるなど秘密にする

有病率:有病率は5〜8%程度。女性に多い傾向。
関連:完璧主義・低自尊心・ボディイメージの問題との関連が深い。

仕事依存

ワーカホリズム——「頑張り屋」として見えにくい嗜癖

仕事をしていないと強い不安・罪悪感を感じる
休暇・食事・睡眠よりも仕事を優先する
「仕事を頑張っている」として社会的に肯定されやすく気づきにくい
人間関係・健康・趣味が犠牲になる
💡
「努力家」と「仕事依存」の境界仕事に熱心なことは美徳とされますが、「仕事しかできない」「休むと罪悪感で苦しい」「家族との時間を犠牲にしてもやめられない」という状態は、嗜癖の可能性があります。うつ病・燃え尽き症候群・身体疾患(過労死)との関連。完璧主義・承認欲求との関係が深い。
その他

その他の行動嗜癖

📱
SNS・スマートフォン依存
通知確認・スクロールが強迫的になり、スマートフォンを手放すと強い不安を感じる。睡眠障害・注意力散漫との関連が深い。
🔞
セックス依存・ポルノグラフィー依存
セックスやポルノの衝動的・強迫的な追求。関係・自尊心・性生活に深刻な影響を与える。羞恥心から相談が遅れやすい。
🏋️
運動依存
運動をしないと強い不安や罪悪感を感じ、身体の痛みや怪我があっても止められない。摂食障害との関連も多い。
🍔
過食・食べ物依存
特定の食品(高脂肪・高糖質)への強迫的な過食。感情調節手段として機能し、過食障害・拒食症と重複することも多い。
CAUSES & RISK

行動嗜癖の原因とリスク要因

行動嗜癖は単一の原因で生じるものではありません。生物学的素因・心理的要因・環境的要因が複合的に絡み合って形成されます。

リスク要因

行動嗜癖のリスクを高める要因

🧬
遺伝的素因
行動嗜癖(特にギャンブル障害)には遺伝的要因が関与します。衝動制御・報酬感受性に関する遺伝子多型が関連。家族歴がある場合、リスクが2〜3倍高まります。
🧒
幼少期の逆境体験
虐待・ネグレクト・親の依存症・家庭内暴力などのACEs(幼少期の逆境体験)スコアが高いほど、行動嗜癖のリスクが高まります。感情調節スキルの未発達との関連。
😟
精神疾患の併存
うつ病・不安障害・PTSD・ADHDは行動嗜癖の強力なリスク要因です。精神的な苦痛の「自己治療」として行動嗜癖が始まるパターンが多い。
👤
低い自尊心・自己効力感
「どうせ自分はダメだ」という慢性的な自己嫌悪・低い自尊感情は、一時的に万能感や興奮を与える行動嗜癖への親和性を高めます。
🏙
環境へのアクセスと広告
パチンコ店・カジノ・スマートフォンゲームへの容易なアクセス。「ガチャ」等のランダム報酬システムはギャンブルと同様の依存形成メカニズムを持ちます。
👫
社会的孤立と仲間の影響
孤独は最大のリスク要因のひとつ。ゲームコミュニティ・ギャンブル仲間との関係が行動嗜癖の維持を促進することもある。
TREATMENT & RECOVERY

治療と回復

行動嗜癖は回復可能です。適切な治療と支援により、多くの人がコントロールを取り戻し、充実した生活を送っています。

治療法

主な治療・支援アプローチ

認知行動療法(CBT)心理療法

行動嗜癖の維持に関わる認知の歪み(「次こそ勝てる」「ストレスを発散するには仕方がない」等)を特定し、現実的な思考に修正する。引き金の管理、渇望への対処、代替行動の計画が中心。最もエビデンスがある治療法。

動機づけ面接(MI)心理療法

変化への準備が整っていない段階でも有効。「変わりたい気持ち」を引き出し、内発的動機を高める。否認が強い初期段階に特に適している。

マインドフルネスベースの治療心理療法

渇望が来たとき、それを「観察」する距離を育む。渇望サーフィン(urge surfing)技法により、行動しなくても渇望が自然に過ぎていくことを体験的に学ぶ。

自助グループ自助・支援

ギャンブラーズアノニマス(GA)、ゲーム依存自助グループ等。同じ問題を抱える仲間との連帯が孤立感を解消し、長期的な回復を支える。家族向けギャマノンも有効。

家族療法家族支援

行動嗜癖は家族全体に影響を与える。家族療法では共依存パターンの修正、コミュニケーションの改善、家族自身の心理的回復を支援する。

薬物療法(補助)薬物療法

ナルトレキソン(報酬感受性の低下)がギャンブル障害に有効という研究がある。うつ・不安など併存症の治療としてSSRI等が使用されることも多い。行動嗜癖への薬物療法は心理療法の補助的位置づけ。

治療に迷ったらまず相談どこに相談すればいいか分からない場合、まずかかりつけ医に相談するか、地域の精神保健福祉センターに電話してみましょう。専門機関につないでもらえます。
日本の支援機関

日本で利用できる主な支援機関・相談窓口

精神保健福祉センター
各都道府県に設置。依存症の相談、受診先の紹介、家族支援を行う。無料で相談可能。
依存症専門医療機関
全国に指定された専門医療機関がある。厚生労働省の「依存症対策全国センター」のウェブサイトで検索可能。
ギャンブラーズアノニマス(GA)
ギャンブル依存の自助グループ。全国各地で定期ミーティングを開催。参加無料。
ギャマノン
ギャンブル依存者の家族・友人のための自助グループ。家族自身の回復を支援。
DARC(ダルク)
薬物依存から回復した人たちが運営するリハビリ施設。行動嗜癖の相談も可能な場合がある。
よりそいホットライン
24時間365日対応の相談窓口。依存に関する相談も受け付ける。0120-279-338(無料)。
RECOVERY PROCESS

回復のプロセスと再発予防

行動嗜癖からの回復は直線的ではありません。段階的なプロセスを理解し、再発を「失敗」ではなく「回復の一部」として捉えることが、長期的な改善につながります。

回復の段階

回復の5段階——変化のプロセスを理解する

「変化ステージモデル」(プロチャスカ&ディクレメンテ)によれば、行動変容は段階的なプロセスです。それぞれの段階に合ったアプローチが効果的で、段階を無視した介入はむしろ抵抗を生みます。

第1段階
1
前熟考期(気づきの前)
問題があることを認識していない、または強く否定している段階。「自分は大丈夫」「いつでもやめられる」という否認が中心。この段階では、直接的な説得より「情報提供」「心配している気持ちの伝達」が効果的。
第2段階
2
熟考期(葛藤の時期)
「やめたい気持ち」と「やめたくない気持ち」が同時に存在し、両価性(アンビバレンス)の状態にある。動機づけ面接(MI)が最も有効な段階。問題を自覚しはじめているが、行動変容にはまだ至っていない。
第3段階
3
準備期(決断の時期)
変化への意志が高まり、具体的な計画を立てはじめる段階。専門家への相談・受診・自助グループへの参加など、行動の一歩を踏み出す準備ができている。
第4段階
4
実行期(変化の実践)
行動を実際に変えはじめた段階。再発のリスクが最も高い時期でもある。具体的なスキルの習得(渇望への対処・引き金の管理・代替行動)と、周囲のサポートネットワークの構築が重要。
第5段階
5
維持期(回復の定着)
新しい行動パターンが定着し始める段階。しかし「もう大丈夫」という過信が再発につながることも多い。長期的なサポート・自助グループへの継続参加・生活の充実が維持の鍵となる。
再発は「失敗」ではない行動嗜癖からの回復において、再発は珍しいことではありません。研究によれば、回復の過程で多くの人が複数回の再発を経験します。重要なのは再発を「完全な失敗」と捉えず、「何が引き金だったか」を学ぶ機会として活用することです。再発後もすぐにサポートを求めることが、長期的回復の鍵です。
再発予防

再発のサインと予防策——「再び引き込まれる前に気づく」

再発は突然起きるのではなく、多くの場合、数日〜数週間前から「警告サイン」が現れます。これらを早期に認識し、対処することが再発予防の核心です。

😤
H.A.L.T.(空腹・怒り・孤独・疲労)
空腹(Hungry)・怒り(Angry)・孤独(Lonely)・疲労(Tired)の状態は再発リスクを高める。これらの状態を早期に認識し、対処することが予防の基本。
🎉
過度な自信・油断
「もう自分は大丈夫」という気のゆるみ。記念日・特別なイベントの前後など、心理的に解放された状況で再発が起きやすい。
🌀
思考の歪みの再燃
「一度くらいなら大丈夫」「これくらいはコントロールできる」という嗜癖思考が戻ってくるサイン。CBTで学んだ認知の修正スキルが重要になる段階。
🏚
社会的孤立
自助グループへの参加をやめる・支援者との連絡が途絶える・趣味や活動からの撤退が続く。孤立は最大の再発リスク要因のひとつ。
再発予防のための実践的な対処策
  • 「渇望サーフィン」——渇望を行動せずにやり過ごす練習(CBTの技法)
  • 引き金(トリガー)リストの作成と、それぞれへの具体的な対処計画の準備
  • 自助グループへの定期的な参加を継続し、つながりを維持する
  • 緊急連絡先(信頼できるサポーター・相談窓口)をすぐに連絡できる状態にしておく
  • 「一日だけ断つ」(one day at a time)という思考で、長期的プレッシャーを軽減する
  • 生活のバランス(睡眠・運動・食事・社会的つながり)を整え、H.A.L.T.状態を予防する
COMORBIDITY

行動嗜癖と併存しやすい精神疾患

行動嗜癖は単独では存在せず、多くの場合、他の精神疾患を併存しています。併存症を理解することが、適切な治療計画と長期的回復への鍵です。

代表的な併存症

行動嗜癖と高率で併存する精神疾患

行動嗜癖の治療において、併存する精神疾患を見落とすことは治療失敗の大きな原因となります。行動嗜癖のみを対象とした治療を行っても、背景にあるうつや不安、トラウマが未治療のままでは再発のリスクが高い状態が続きます。

うつ病併存率:非常に高い(50〜75%)

うつによる苦痛からの逃避として行動嗜癖が始まることが多い。逆に行動嗜癖が引き起こす生活破綻がうつを悪化させる双方向の関係。どちらを先に治療するか、並行して治療するかが臨床的課題。

不安障害併存率:高い(40〜60%)

社交不安・パニック障害・全般性不安障害などと行動嗜癖は高率で併存。不安を和らげるために行動嗜癖が機能し、依存が深まると不安がさらに増す悪循環が形成される。

ADHD(注意欠如・多動症)併存率:高い(特にゲーム・ギャンブル障害)

衝動制御の困難・報酬系の感受性の違いがADHDと行動嗜癖を結びつける。即時報酬を求める傾向が強く、ゲーム・ギャンブルへの親和性が高い。ADHDへの適切な治療が行動嗜癖の改善にも有効。

PTSD・トラウマ関連障害併存率:中〜高(30〜50%)

トラウマ記憶や感情的苦痛からの解離・回避手段として行動嗜癖が機能する。ACEs(幼少期の逆境体験)歴のある人は複数の嗜癖を抱えるリスクが高い。トラウマ焦点化治療との統合が必要。

物質使用障害(アルコール・薬物)併存率:高い(クロス依存)

「クロス依存」と呼ばれ、行動嗜癖と物質依存が同時・または時期をずらして存在することが多い。アルコールを断つとギャンブルが増えるなど、依存対象のシフトが見られることもある。

⚠️
「どちらが先か」より「両方を同時に診る」行動嗜癖か精神疾患か、どちらが「原因」かを決めることより、両方を視野に入れた包括的なアセスメントと治療計画が重要です。信頼できる精神科・心療内科で「行動の問題とメンタルヘルスの両方を相談したい」と伝えてください。
自己治療仮説

「自己治療」としての行動嗜癖——苦痛から逃げるための依存

「自己治療仮説(Self-Medication Hypothesis)」とは、依存が精神的・感情的な苦痛を和らげるための(意識的または無意識的な)自己治療として機能するという考え方です。ギャンブルやゲームによる一時的な興奮・没頭は、不安・抑うつ・空虚感・孤独感を一時的に和らげます。

自己治療サイクルの悪循環
1
不安・抑うつ・トラウマ記憶・空虚感などの精神的苦痛が生じる
2
ギャンブル・ゲーム・買い物などの行動が一時的に苦痛を和らげる(短期的な「効果」)
3
行動への依存が深まり、耐性が形成される(より多く必要になる)
4
依存行動による生活破綻(借金・関係悪化・仕事の問題)が新たな精神的苦痛を生む
5
さらに大きな苦痛を和らげるために、より激しい依存行動へ(①に戻る)

この悪循環を断ち切るためには、行動嗜癖そのものへの介入とともに、背景にある精神的苦痛・感情調節困難・トラウマへのアプローチが不可欠です。「なぜ依存行動に走るのか」という根本的な問いへの答えを探ることが、持続的な回復につながります。

JAPAN SUPPORT

日本における行動嗜癖の現状と相談・支援の流れ

日本では行動嗜癖への専門的な治療・支援体制が整備されつつあります。利用できる制度や相談窓口を知ることが、回復への第一歩です。

日本の現状

日本における行動嗜癖の実態——統計と課題

日本は世界でも有数のギャンブル(パチンコ・パチスロ)大国であり、ゲームコンテンツ産業も世界トップクラスです。こうした環境は行動嗜癖のリスクを高める一方、支援体制の整備は欧米と比べてまだ途上にあります。

0.8〜4.8%
ギャンブル障害の推計有病率
厚生労働省調査(令和2年度)。海外の2〜5倍と推計される場合も
約93万人
ゲーム・ネット依存が疑われる中高生
厚生労働省研究班(2017年)推計
約300機関
依存症専門医療機関(全国)
厚生労働省が指定した依存症専門・専門相談機関
各1か所
精神保健福祉センター
都道府県・政令市に設置。無料で相談可能。受診先の紹介も行う
⚠️
「治療を求めない」問題日本では行動嗜癖に悩む人のうち、専門家への相談・受診に至る割合は極めて低いとされています。「恥ずかしい」「意志が弱いと思われる」「自分で解決できるはず」という思い込みが、受診の大きな障壁になっています。行動嗜癖は病気であり、専門的な支援が有効です。
支援の流れ

相談から回復まで——日本で使える支援の4ステップ

「どこに相談すればいいかわからない」という声は非常に多くあります。以下のステップを参考に、まず一歩を踏み出してみてください。

STEP 1
まず相談する
精神保健福祉センター(無料)、またはかかりつけ医に相談。「ギャンブル(ゲーム・買い物)の問題で困っている」と伝えるだけでOK。受診先を案内してもらえる。
STEP 2
専門医療機関を受診する
精神科・心療内科の中でも、依存症専門外来を持つ医療機関が望ましい。厚生労働省「依存症対策全国センター」サイトで検索可能。診断・治療計画・必要に応じて入院治療。
STEP 3
自助グループに参加する
ギャンブラーズアノニマス(GA)、各地のゲーム依存自助グループなど。医療機関と並行して参加することで、回復の支えになる仲間のつながりを得られる。
STEP 4
経済的支援・制度を活用する
自立支援医療制度(精神通院医療)により、精神科通院の医療費自己負担が原則1割に軽減される。担当医師か医療機関のソーシャルワーカーに相談を。
主な公的相談窓口・支援機関
  • 精神保健福祉センター——各都道府県・政令指定都市に設置。無料で依存症・家族相談を受付。受診先の紹介も。
  • 保健所——身近な行政機関として相談・情報提供を行っている。
  • 依存症専門医療機関(厚生労働省指定)——ギャンブル・ゲーム・その他の行動嗜癖の専門外来を持つ医療機関。全国約300か所。
  • ギャンブラーズアノニマス(GA)——ギャンブル依存の当事者自助グループ。全国各地でミーティング開催。無料・匿名。
  • ギャマノン——ギャンブル依存者の家族・友人向け自助グループ。家族自身の回復を支援。
  • 久里浜医療センター——国内最大の依存症専門医療機関。ゲーム障害・ギャンブル障害の専門外来あり。神奈川県横須賀市。
自立支援医療制度(精神通院医療)を活用しよう精神科・心療内科への継続的な通院には、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用できます。行動嗜癖(ギャンブル障害・ゲーム障害等)の治療も対象となる場合があり、医療費の自己負担が通常の3割から原則1割に軽減されます。申請は通院先の医療機関または市区町村の窓口で行えます。担当医師やソーシャルワーカーに相談してみましょう。
FOR FAMILY

周囲の人にできること

行動嗜癖は本人だけでなく家族・パートナー・友人にも深刻な影響を与えます。支える側も適切な理解と自己ケアが必要です。

対応のポイント

してほしいこと・避けてほしいこと

✅ してほしいこと
「病気である」という理解を持ち、道徳的な批判や叱責を避ける
経済的な援助・後始末を繰り返すことで行動を可能にする「イネイブリング」を認識し、止める
「あなたを心配している」という言葉で、批判なく気持ちを伝える
本人が受診・相談を希望したとき、障壁なくサポートする
家族自身もギャマノン等の支援グループに参加し、専門家のサポートを受ける
自分自身の心身の健康を守ることを最優先する
❌ 避けてほしいこと
「意志の問題だ」「やめようと思えばやめられる」と責める
借金を肩代わりし続けたり、行動の後始末を繰り返す(行動を続けられる環境を整えてしまう)
問題を見て見ぬふりをして「普通」を演じる
一人で全ての問題を抱え込み、燃え尽きる
脅しや最後通牒を何度も空振りで繰り返し、信頼関係を損なう
💡
「イネイブリング」に注意イネイブリングとは、依存行動を可能にする(enable)行動のことです。借金の肩代わり、嘘の口実を作る手助け、問題の後始末など、「助けているつもり」でも行動嗜癖を維持・悪化させる場合があります。家族自身がカウンセリングや自助グループで学ぶことが重要です。
家族のケア

支える側の自己ケア——あなた自身の健康も大切に

行動嗜癖を持つ家族を支えることは、非常に消耗するプロセスです。支える側が燃え尽きてしまっては、長期的なサポートを続けられません。

👥
自助グループに参加する
ギャマノン(ギャンブル依存の家族)や各種家族支援グループへの参加が、孤立感の解消と回復への知識を与えてくれます。「自分だけではない」という安心感が力になります。
💬
自分もカウンセリングを受ける
支える側にもトラウマ・怒り・悲しみ・疲弊が蓄積します。専門家への相談は「贅沢」ではなく「必要なこと」です。
🛑
適切な距離を保つ
常に問題の渦中にいることを「愛情」と混同しないでください。適切な距離を保ちながら支援する方が、長続きし、実際の助けになります。
🌿
自分の生活を守る
趣味・友人・健康管理など、自分自身の生活を維持することは義務です。支える側の健やかさが、最終的には本人にとっても最善の支援になります。
関連する用語
中毒行為ギャンブル障害ゲーム障害アルコール依存認知行動療法共依存自助グループイネイブリング

一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。

つらい気持ちを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。継続的な通院には自立支援医療制度(精神通院医療)が利用できる場合があります。医療費の自己負担が原則1割に軽減されますので、受診先の医師やソーシャルワーカーにご相談ください。

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