メンタルヘルス用語辞典 · 認知処理療法(CPT)

認知処理療法(CPT)とは?
仕組み・12セッション・スタックポイント・PE/EMDR比較・日本での受け方を解説

トラウマの後遺症であるPTSDに、科学的根拠に基づいた希望をもたらす心理療法が認知処理療法(CPT)です。1988年にリーシック博士が開発し、米国退役軍人省(VA)を含む世界中で標準治療として実施されています。日本でもNCNPを中心に研究・普及が進み、2023年・2025年には日本人PTSD患者を対象にした臨床試験で高い有効性が確認されました。理論・12セッションの流れ・スタックポイント・PE/EMDRとの違い・日本での受け方・費用まで、PTSDとCPTに関するあらゆる疑問に答えます。

ABOUT CPT

認知処理療法(CPT)とは何か

認知処理療法(CPT)は、PTSDの症状を軽減するために開発された認知行動療法の一形式。1988年にパトリシア・リーシック博士が性暴力被害女性のために開発し、現在は世界標準のPTSD治療として確立されています。

定義と概要

CPTの定義と概要

認知処理療法(Cognitive Processing Therapy:CPT)は、PTSD(心的外傷後ストレス症、Post-Traumatic Stress Disorder)の症状を軽減するために開発された、認知行動療法(CBT)の一形式です。1988年にアメリカの臨床心理学者パトリシア・リーシック(Patricia Resick)博士が性暴力被害を受けた女性のために開発しました。その後、戦争帰還兵、交通事故被害者、虐待サバイバー、自然災害の被災者など、あらゆる種類のトラウマを持つ人々を対象に効果が検証され、世界標準のPTSD治療法として確立されています。

CPTの核心は、「トラウマによって歪んだ思考(認知)を修正することでPTSDから回復できる」という考え方にあります。トラウマ体験後に生じる「自分が悪かった」「世界は全て危険だ」「誰も信用できない」といった極端な思考パターンがPTSDの症状を維持させているとCPTは考え、それらの思考を丁寧に検討し、より現実に即したバランスのとれた思考へと変えていく作業を行います。

CPTの基本情報
  • 対象疾患:PTSD(心的外傷後ストレス症)および関連するうつ症状・強い罪悪感
  • セッション数:全12回(個人療法:1回50分/集団療法:1回90分)
  • 期間:週1回のペースで約3ヶ月間
  • 開発者:パトリシア・リーシック博士ほか(1988年)
  • 分類:認知行動療法(CBT)の一種、トラウマ焦点化心理療法
  • 日本での位置づけ:厚生労働省認知行動療法研修事業でCPT研修が実施されており、標準的PTSD治療の選択肢のひとつ
開発の歴史

CPT開発の歴史

パトリシア・リーシック博士は、ミズーリ大学セントルイス校(UMSL)在籍中にレイプ危機センターでカウンセラーとして活動する中で、性暴力被害者が回復する過程で共通のパターンを観察しました。被害者たちは恐怖や不安だけでなく、強烈な恥の感覚・罪悪感・自己非難・世界に対する不信感に苦しんでいました。リーシック博士はこれらの思考パターンが回復を妨げていると気づき、認知理論を援用した新たな治療法を構築しました。これがCPTの始まりです。

CPTは当初、性暴力被害者の女性を対象としたランダム化比較試験(RCT)でその効果が検証されました。その後、ベトナム戦争退役軍人(2006年)、イラク・アフガニスタン戦争帰還兵、家庭内暴力(DV)被害者、児童期虐待サバイバーなど、対象を広げながら研究が積み重ねられ、現在ではPTSDに対する最も強固なエビデンスを持つ治療法のひとつとして世界的に認められています。2006年にはリーシック博士が米国退役軍人省(VA)全体へのCPT普及プログラムを開始し、数万人の退役軍人がCPTによる治療を受けました。

日本には2010年代以降、NCNPの認知行動療法センターを中心にCPTが紹介され始め、2023年と2025年に日本人PTSD患者を対象とした実証研究が発表されました。これにより日本の精神医療においても、CPTはエビデンスに基づく選択肢として確固たる地位を築きつつあります。

CPT-C

CPT-CというCPTのバリエーション

CPTには標準版のほかに、「CPT-C(Cognitive only)」と呼ばれるバリエーションがあります。標準版CPTではトラウマ体験を文章に書く「トラウマ筆記」が含まれますが、CPT-CではそのセッションをすべてA-B-C用紙(思考記録)の作業に置き換えています。どちらが良いかは現時点では一致した結論が得られておらず、患者の状態や治療者の判断によって選択されます。日本での研究ではCPT-Cの形式で実施されたものも多いです。

THEORY

CPTの理論的背景——なぜPTSDが起きるのか

CPTの理論的基盤は情報処理理論にあります。トラウマ体験が既存の信念とどう衝突し、何が回復を妨げるのか。CPT独自の枠組みを理解することは、治療への希望と動機づけにつながります。

PTSDのメカニズム

CPTが考えるPTSDのメカニズム

CPTの理論的基盤は、情報処理理論(Information Processing Theory)にあります。人は何らかの出来事を体験したとき、それを既存の「信念・世界観・自己認識(スキーマ)」と照らし合わせて意味づけします。通常、人々は「世界はおおむね安全だ」「他者はだいたい信頼できる」「自分はそれなりに価値のある人間だ」という基本的信念を持っています。

ところがトラウマ体験(性暴力、戦闘、事故、虐待など)は、この基本的信念と根本的に矛盾する出来事です。この矛盾を処理しようとして、脳は二種類の問題ある対処をすることがあります。

同化(Assimilation)
体験を信念に合わせて歪める
新しい体験を既存の信念に合わせようとするあまり、トラウマを歪めて解釈する。「あれは自分のせいだった」「もっと抵抗すべきだった」など、自己非難によって「世界は安全だ」という信念を守ろうとする。
過剰調節(Over-accommodation)
信念を極端に書き換える
逆に既存の信念を根本から書き換えてしまう。「世界は完全に危険だ」「誰も信用できない」「自分は完全に壊れた」など、極端な新しい信念を形成する。

CPTの理論では、この同化と過剰調節こそがPTSDを引き起こし維持させる核心的メカニズムだと考えます。自然な回復は、トラウマ体験を過剰な自己非難も過剰な絶望もなく、現実的に「調節(Accommodation)」することで進みます。しかしスタックポイントがこの自然な処理を妨げてしまうのです。

感情の処理

自然な感情と「作られた感情」

トラウマ直後、人は通常、強い恐怖・悲しみ・怒りなどの自然な感情を体験します。CPTではこれらを「自然な感情(natural emotions)」と呼び、時間とともに薄れていく正常な反応と位置づけます。一方、「自分が悪かった」「なぜ止められなかったのか」「なぜもっと早く逃げなかったのか」といった歪んだ思考から生まれる罪悪感・恥・怒りの感情は「作られた感情(manufactured emotions)」と呼び、思考が変わらない限り消えることのない感情です。

CPTはこの「作られた感情」を生み出すスタックポイントを特定し、修正することで自然な感情処理が進み、PTSDの症状が改善すると考えます。つまりCPTは、感情そのものに直接介入するのではなく、感情を生み出している思考(認知)を変えることで症状を改善するアプローチです。

回復の障害として

PTSDを「回復の障害」として理解する

CPTのもう一つの重要な視点は、PTSDを「脳や心の損傷」ではなく、「自然な回復プロセスが途中で妨げられている状態」として理解することです。これは当事者にとって非常に重要な視点の転換をもたらします。

「私は壊れている」「もう元には戻れない」という信念を持つPTSD当事者は多くいます。しかしCPTの枠組みでは、「あなたの脳は自然な回復を始めようとしていたが、スタックポイントという邪魔者が回復を妨げている。スタックポイントを取り除けば、回復は自然に進む」と説明します。この理解は、治療への希望と動機づけをもたらします。

PTSDに対する重要な認識PTSDはトラウマ体験後に誰にでも起こりうる自然な反応であり、脳や心の「欠陥」ではありません。CPTはその回復プロセスを科学的に支援するための、実証された心理療法です。自分を責める必要はありません。
STUCK POINTS

スタックポイントとは何か

CPTにおける最重要概念であるスタックポイント。「引っかかり」と訳され、トラウマ後に回復を妨げる具体的な思考・信念を指します。これを特定し検討することがCPTの中心作業です。

定義

スタックポイントの定義

CPTにおける最重要概念のひとつがスタックポイント(Stuck Points)です。「スタック」は英語で「はまり込んだ・動けなくなった」という意味で、日本語では「引っかかり」と訳されることもあります。スタックポイントとは、トラウマ体験の後に生じた、回復を妨げる具体的な考え(思考・信念)のことです。

スタックポイントは単なる「悲観的な考え」ではなく、次のような特徴を持ちます。

  • トラウマ体験の前後に大きく変化した信念である
  • 強いつらい感情(罪悪感・恥・恐怖・怒り)を生み出す
  • 日常生活の幅を制限させる(外出できない、人を信頼できない、親密な関係が築けないなど)
  • 多くの場合、本人は「これは明らかな事実だ」と感じているが、客観的に検討すると根拠が弱かったり、極端だったりする
具体例

スタックポイントの具体例

スタックポイントにはさまざまなものがあります。典型的な例を以下に示します。

「あのとき自分が◯◯していれば防げた」
自己非難・同化→ 持続的な罪悪感・自己嫌悪
「私がもっと強ければ抵抗できた」
自己非難・同化→ 自己否定感・恥
「世界はいつでも危険だ」
過剰調節(安全)→ 外出回避・人との接触回避
「誰も信用できない」
過剰調節(信頼)→ 孤立・親密な関係の回避
「私は傷ものになった」
過剰調節(自尊心)→ 深刻な自己否定・うつ
「あの人を絶対に許せない」
過剰調節(力・コントロール)→ 持続する強い怒り・反芻
「誰かと親しくなるとまた傷つく」
過剰調節(親密さ)→ 孤立・関係回避

重要なのは、スタックポイントが「間違い」であると断定するわけではない点です。CPTでは、これらの思考を「証拠に基づいてバランスよく検討する価値がある考え」として扱い、ソクラテス式問答(Socratic Questioning)と呼ばれる対話的な手法で一緒に検討します。

見つけ方

スタックポイントの見つけ方——意味筆記(インパクトステートメント)

CPTの治療開始時、患者はトラウマ体験が自分の生活・考え方・感情にどのような影響を与えてきたかについて短い文章を書く「意味筆記(Impact Statement)」という課題に取り組みます。この作業を通じて、治療者と患者が共同で主なスタックポイントを特定します。

その後、A-B-C用紙と呼ばれるワークシートを使って、日常の中で生じる出来事(A)、それに伴う思考(B)、感情(C)の関連を記録していきます。このワークシートへの取り組みを通じて、患者は自分の思考パターンを自覚し、スタックポイントを具体的に把握していきます。

12 SESSIONS

CPTの12セッション——何をするのか

CPTは全12回のセッションで構成され、週1回のペースで約3ヶ月間にわたって実施されます。セッションは大きく3つのフェーズに分かれ、それぞれ明確な目的を持ちます。

全体像

12セッションの全体像

CPTは全12回のセッションで構成されており、週1回のペースで実施されると約3ヶ月間かかります。各セッションは個人療法では50分、集団療法では90分です。セッションは大きく3つの段階に分けることができます。

第1〜3回
心理教育フェーズ
PTSDとCPTの仕組みを理解する
第4〜11回
認知処理フェーズ
スタックポイントを特定・検討・修正する
第12回
統合・終結フェーズ
治療全体を振り返り今後の指針を作る
各セッションの内容

各セッションの詳細な内容

以下に12回各セッションで行われることの概要を示します。

第1回
CPTの概要説明・治療目標の設定・PTSDの心理教育
練習課題:意味筆記(Impact Statement)の作成
第2回
意味筆記の振り返り・スタックポイントの初期同定・思考と感情の関係の説明
練習課題:A-B-C用紙の記録開始
第3回
A-B-C用紙の振り返り・同化について焦点を当てたスタックポイント検討開始
練習課題:A-B-C用紙の継続・トラウマ筆記の作成(標準版CPTの場合)
第4回
トラウマ筆記を読み上げる・スタックポイントの同定・自己非難と同化についての検討
練習課題:修正したトラウマ筆記の作成・A-B-C用紙の継続
第5回
修正した筆記の読み上げ・スタックポイントの掘り下げ・「思い込みを疑う質問」の導入
練習課題:思い込みを疑う質問の実践
第6回
スタックポイントへのソクラテス式問答・認知の歪みパターン(誤った思考の型)の学習
練習課題:チャレンジングビリーフ用紙(スタックポイント修正シート)の使用開始
第7回
チャレンジングビリーフ用紙の練習・「安全」テーマのスタックポイント検討
練習課題:安全テーマのスタックポイントへのチャレンジングビリーフ用紙
第8回
「信頼」テーマのスタックポイント検討・自己信頼と他者信頼の両面を探る
練習課題:信頼テーマのスタックポイントへの取り組み
第9回
「力とコントロール」テーマのスタックポイント検討・コントロール感の回復
練習課題:力・コントロールテーマへの取り組み
第10回
「価値(自尊心)」テーマのスタックポイント検討・自己評価の修正
練習課題:価値・自尊心テーマへの取り組み
第11回
「親密さ」テーマのスタックポイント検討・関係性への影響の修正
練習課題:親密さテーマへの取り組み
第12回
治療全体の振り返り・新しい意味筆記の作成と初回との比較・今後の課題確認・終結
練習課題:なし(治療終了)
ホームワーク

ホームワーク(練習課題)の重要性

CPTでは毎回のセッションの間に練習課題(ホームワーク)が設定されます。このホームワークへの取り組みがCPTの効果に直結します。なぜなら、認知の変化はセッション中だけでなく、日常生活の中でスタックポイントと向き合う実践を通じて起きるからです。

ホームワークが負担に感じられる場合は、治療者と相談して調整することができます。「宿題ができなかった」と自己批判する必要はなく、それ自体がセッションで話し合う大切な材料になります。

⚠️
CPTを受ける際の心構えCPTはトラウマについて直接向き合う治療であるため、一時的に症状が強くなったように感じることがあります。これは「治療が効いていない」のではなく、処理が進んでいるサインであることが多いです。違和感や不安が強い場合は、ためらわずに治療者に伝えてください。
集団CPT

集団CPTという形式

CPTは個人療法だけでなく、複数名のグループで行う集団CPT(Group CPT)の形式でも実施されます。集団CPTでは、同じようなトラウマを持つ仲間から「自分だけではない」という安心感が得られること、他者のスタックポイントの検討を通じて自分の思考を見直すヒントが得られることなど、個人療法とは異なる利点があります。日本のNCNPでの研究でも集団CPTの効果が確認されています。

5 THEMES

5つの重要テーマ——安全・信頼・力・自尊心・親密さ

CPTの後半(セッション7〜11)では、トラウマ体験が最も強く影響を与える5つの概念領域に焦点を当ててスタックポイントを検討します。これらは、トラウマで最もダメージを受けやすい人間の基本的信念領域です。

5つのテーマとは

CPTが扱う5つのテーマ

CPTの後半(セッション7〜11)では、トラウマ体験が最も強く影響を与える5つの概念領域に焦点を当てて、それぞれのスタックポイントを検討します。これらの5つのテーマは、トラウマ体験によって最もダメージを受けやすい人間の基本的な信念領域であることが臨床研究から明らかにされています。

各テーマの詳細

安全・信頼・力・自尊心・親密さ

🛡
テーマ1:安全(Safety)

トラウマ体験は「世界は基本的に安全だ」という信念を根本から揺さぶります。安全テーマのスタックポイントは、自分の安全と他者の安全に関する極端な信念として現れます。

過剰調節の例:「世界はいつでも危険だ」「いつ何が起こるかわからない」「外に出ると危ない」
同化の例:「あのとき自分が注意していれば防げた。だから自分は安全管理できている」(表面上は安全を感じているが、自己非難という代償を払っている)
バランスのとれた考え方:「世界にはリスクがあるが、過度に怖れなくてもよい場所や場面も多い。注意することと恐れ続けることは違う」

安全テーマのスタックポイントを持つ人は、外出回避・人との接触回避・特定の場所の回避などを呈することが多く、生活の幅が大きく狭められます。CPTではこれらの回避行動と関連する思考を丁寧に検討します。

🤝
テーマ2:信頼(Trust)

トラウマは自分への信頼と他者への信頼の両方を損なうことがあります。

過剰調節の例:他者信頼:「誰も信用できない」「みんな最終的には自分を傷つける」「助けてもらえない」
同化の例:自己信頼:「自分の判断は信用できない」「自分が弱いからあんなことが起きた」「また同じ失敗をする」
バランスのとれた考え方:「全ての人が信頼できるわけではないが、全ての人が危険なわけでもない。信頼は少しずつ確かめながら築いていける」

信頼テーマのスタックポイントは、孤立・社会的撤退・親密な関係の回避などにつながります。また、「医師や治療者も信用できない」という思考がある場合は治療そのものの妨げになることもあるため、CPTでは特に丁寧に扱います。

テーマ3:力とコントロール(Power and Control)

トラウマ体験では、多くの場合、自分の力が及ばない状況、コントロールを失った体験が伴います。これが力とコントロールに関する信念を歪めます。

過剰調節の例:コントロール喪失感:「自分には何もできない」「どうせまた無力になる」「自分では何も変えられない」/過剰なコントロール:「全ての状況を自分でコントロールしなければ危険だ」「人に任せることは絶対にできない」
同化の例:「あのとき自分が正しく行動すれば防げた(だから自分は実はコントロールできた)」
バランスのとれた考え方:「コントロールできないことは確かにある。しかし、自分の反応や選択はコントロールできる。そして、コントロールできなかったことで自分を責めるのは不公平だ」
💎
テーマ4:価値・自尊心(Esteem)

トラウマ体験は、自分自身の価値に関する信念を深刻に傷つけることがあります。特に性暴力・虐待・人から傷つけられる体験はこの傾向が強いです。

過剰調節の例:「私は傷もの(汚れた存在)になった」「自分には価値がない」「こんな自分は幸福になる資格がない」「あんなことに遭ったのは自分がダメだから」
バランスのとれた考え方:「私の価値は、トラウマ体験によって変化するものではない。トラウマは私の価値を決めない」

自尊心テーマのスタックポイントは、深刻なうつ症状・自傷行為・自殺念慮とも結びついていることがあり、CPTでは慎重かつ丁寧に扱われます。

💗
テーマ5:親密さ(Intimacy)

親密さテーマのスタックポイントは、他者との深いつながりや愛情関係に関する信念に生じます。

過剰調節の例:「誰かと親しくなるとまた傷つく」「自分のことを本当に理解してくれる人はいない」「自分はパートナーに値しない」「性的なつながりはもう持てない」
バランスのとれた考え方:「親しくなることにはリスクがあるが、それは全ての人間関係に言えること。トラウマ体験は親密さの可能性を永久に奪うものではない」

親密さテーマを検討するセッション11は治療の最終段階に位置し、それまでに安全・信頼・力・自尊心のスタックポイントに取り組んだ後に扱われます。これにより、より深い関係性の問題に安全に取り組むことができます。

EVIDENCE

CPTのエビデンス——どれほど効果があるのか

CPTはPTSDに対する最も強固なエビデンスを持つ心理療法のひとつです。世界・日本両方の研究、効果の及ぶ範囲、国際機関の推奨状況を整理しました。

世界のエビデンス

世界のエビデンス

CPTはPTSDに対する最も強固なエビデンスを持つ心理療法のひとつです。以下にその科学的根拠をまとめます。

大規模RCT
複数の高品質なランダム化比較試験
性暴力被害者・退役軍人・DV被害者など多様な集団で効果確認
-14点
日本のRCTでのCAPS-5改善
治療前後でPTSD症状を評価するCAPS-5スコアが平均14点低下
96%
日本の実行可能性試験での治療完遂率
(2023年、NCNP主導の実行可能性試験)
12ヶ月後
長期効果の確認
日本の試験で治療終了後6ヶ月・12ヶ月後も改善が維持されていた
日本のエビデンス

日本でのエビデンス

日本においてCPTの有効性を示す研究が近年続けて発表されています。

  • 2023年(実行可能性試験)NCNP認知行動療法センターが主導し、日本の精神科環境でCPTを実施することが可能かどうかを検証。参加者は平均13回のセッションに参加し、治療完遂率96.0%という高い数値を達成。治療前と比べ、治療終了時および6ヶ月後・12ヶ月後においてPTSD症状・うつ症状・自殺念慮・生活の質すべてに有意な改善が認められた。
  • 2025年(ランダム化比較試験)NCNPが主導したRCTにより、日本の通常治療にCPTを追加することがPTSD症状の改善に有効であることが確認。CAPS-5スコアが対照群と比較して有意に低下。うつ症状・自殺念慮・生活の質においても対照群と比較して有意な改善。

これらの研究成果は、日本の精神科という医療環境においてもCPTが十分に実施可能であり、高い有効性を発揮することを示す重要なエビデンスです。

効果の範囲

CPTの効果が及ぶ範囲

CPTはPTSD症状の改善にとどまらず、以下の問題にも効果があることが示されています。

  • うつ症状CPTによるPTSD症状の改善に伴い、うつ症状も有意に改善することが多数の研究で示されている
  • 罪悪感・恥の感覚CPTはこれらの「作られた感情」に直接アプローチするため、特に効果的
  • 自殺念慮日本のRCTでも自殺念慮の改善が確認されている
  • 生活の質(QOL)仕事・学業・日常生活の機能が向上することが確認されている
  • 物質使用(飲酒・薬物)PTSDとの合併症として多い物質使用の問題の改善にも寄与する可能性がある
国際機関の推奨

国際機関・学会の推奨状況

CPTは以下の権威ある機関・学会によってPTSD治療として推奨されています。

  • 米国心理学会(APA)PTSDに対する「強い推奨(Strong Recommendation)」を持つ治療法として位置づけ
  • 米国退役軍人省(VA)・米国国防総省(DoD)軍人・退役軍人のPTSD治療の第一選択肢として推奨
  • 国際トラウマティックストレス学会(ISTSS)「強いエビデンスを持つ」PTSD治療として推奨
  • 英国国立医療技術評価機構(NICE)PTSDの心理的治療として推奨される複数の治療法のひとつ
  • WHO(世界保健機関)トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)のひとつとして、成人PTSDへの推奨
COMPARISON

CPT・PE・EMDRの比較

PTSDに対するエビデンスのある心理療法は主に3つ。CPT・PE・EMDRはいずれも世界標準の効果を持ちますが、理論・技法・適している方の特性には違いがあります。

3つの主要治療

3つの主要なPTSD治療法

PTSDに対してエビデンスの確立した心理療法は主に3つあります。認知処理療法(CPT)持続エクスポージャー療法(PE:Prolonged Exposure Therapy)眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR:Eye Movement Desensitization and Reprocessing)です。これらはいずれも「トラウマ焦点化心理療法」と総称され、いずれも世界標準のエビデンスを持ちます。しかし、理論・技法・適している方の特性には違いがあります。

主なアプローチ
CPT:歪んだ思考(認知)の修正
PE:段階的な暴露による回避の解消
EMDR:眼球運動を用いたトラウマ記憶の再処理
セッション数
CPT:全12回
PE:週2回×約12週間(15〜20回)が多い
EMDR:8フェーズ・回数は個人差が大きい
トラウマの詳細な語り
CPT:標準版は「筆記」が必要。CPT-Cは不要
PE:必要(想像暴露で詳細に語る)
EMDR:言語化は最小限でよい
ホームワーク
CPT:多い(ワークシート記録)
PE:多い(実際の場面へ出向くなど)
EMDR:比較的少ない
主な対象
CPT:PTSD成人全般(特に罪悪感・自己非難が強い人に強み)
PE:PTSD成人全般(回避行動が中心の人に強み)
EMDR:PTSD成人全般(言語化が難しい人にも適する)
日本での普及状況
CPT:NCNP中心に普及中・2025年RCTで効果確認
PE:いくつかの医療機関で実施・犯罪被害者への効果が国内でも確認
EMDR:EMDR学会認定治療者リストあり・比較的普及
エビデンス水準
CPT:非常に高い
PE:非常に高い
EMDR:高い
CPTとPE

CPTとPEの比較——どちらが自分に合うか

CPTとPEはともに非常に高いエビデンスを持ち、最新のメタ分析でも両者の効果に有意な差はないとされています。したがって「どちらが優れているか」というよりは、「どちらが自分に合っているか」という観点で選ぶことが重要です。

CPTが向いている傾向
強い罪悪感・恥・自己非難がある/「あれは自分のせいだった」という考えが頭から離れない/トラウマ体験を繰り返し詳しく語ることへの抵抗感が強い(CPT-Cを選択した場合)。
PEが向いている傾向
特定の場所・状況・人物への強い回避行動がある/トラウマ記憶に直接向き合うことで解放感を求めている/比較的感情を言語化することに慣れている。

最終的には、担当の治療者と相談しながら自分に適した治療法を選ぶことが大切です。また、ある治療法を試みてうまくいかなかった場合に別の治療法に切り替えることも可能です。

CPTとEMDR

CPTとEMDRの比較

CPTとEMDRの最大の違いは、アプローチの中心が「認知(思考)」「記憶の再処理」かという点です。EMDRは眼球運動(あるいはその他の両側性刺激)を用いてトラウマ記憶を再処理しますが、なぜ効果があるのかのメカニズムは現在も研究が続いています。

  • EMDRの利点トラウマ体験を言語化することへの抵抗が強い場合や、言語化が難しい時期のトラウマ(幼少期虐待など)にも適しているとされる。ホームワークが比較的少ないため、日常生活の余裕が少ない場合に向いている場合もある。
  • CPTの利点「なぜPTSDになるのか」「思考がどう感情を生むのか」という仕組みを学びながら治療に参加できるため、「なんとなく症状が改善した」ではなく「なぜ改善したのかがわかる」という理解が深まりやすい。スタックポイントの修正という技術を習得することで、治療終了後も自分でケアできるスキルが身につく。
WHO IS IT FOR

CPTが適している人・向いていない人

CPTは幅広いPTSD患者に効果があることが示されていますが、特に効果的とされる方の特徴と、実施に注意が必要な状況があります。判断に迷う場合は専門家に相談してください。

特に効果的な方

CPTが特に効果的とされる方

CPTは幅広いPTSD患者に効果があることが示されていますが、特に以下のような特徴を持つ方に向いているとされています。

💔
強い罪悪感・恥・自己非難がある方
「あれは自分のせいだった」「もっとできることがあった」という考えが頭から離れない場合、CPTはこれらの思考に直接アプローチするため特に効果的。
🌐
世界観・他者観が大きく変化した方
「世界は危険だ」「誰も信用できない」という全体的な信念の変化がある場合。
📝
トラウマを繰り返し語ることに抵抗が強い方
CPT-Cの形式ではトラウマ筆記を省略できるため、持続エクスポージャー療法よりも受け入れやすい場合がある。
🧩
複数のトラウマ体験がある方
CPTは特定の一つのトラウマ体験に焦点を当てながらも、それ以外のトラウマによるスタックポイントも扱うことができる柔軟性がある。
📚
ホームワークに取り組める環境がある方
CPTではセッション間のワークシート作業が治療効果に直結するため、日常生活でこれに取り組む時間と意欲がある方に特に適している。
注意が必要な場合

CPT実施に注意が必要な場合

次のような状態の場合は、CPTを始める前に安定化のための支援が必要なことがあります。

  • 現在進行中の危機的状況にある場合現在もトラウマ的状況(DV、虐待)にさらされている場合は、まず安全の確保が優先される。
  • 重篤な解離症状がある場合セッション中に現実感が失われるような重篤な解離が起きる場合は、専門家の評価のもとで実施可否を判断する。
  • 活動性の精神病症状がある場合幻覚・妄想などの精神病症状がある場合は、まずそれらの治療を優先する。
  • 重篤な物質依存がある場合アルコール・薬物の重篤な依存がある場合は、依存の治療と並行して実施するか、依存の安定化が先になることがある。

これらの状況があるからといって、CPTが「絶対に受けられない」わけではありません。担当する治療者が状況を評価し、適切な実施計画を立てることが大切です。判断に迷う場合は専門家に相談してください。

IN JAPAN

日本でCPTを受けるには

CPTは訓練を受けた専門家のみが実施できる心理療法です。2026年現在の日本では実施機関は限られていますが、NCNPを中心に普及が進められています。

受けられる場所

日本でCPTが受けられる場所

CPTは訓練を受けた心理職・医師(精神科医)が実施できる専門的な心理療法であり、2026年現在の日本では、実施できる専門家は限られています。しかし国立精神・神経医療研究センター(NCNP)を中心に普及努力が続けられており、少しずつ受けられる機関が増えています。

  • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院CPTの研究・実施の中心施設。日本でCPTを受けたい場合の第一の選択肢のひとつ。認知行動療法センターのウェブサイト(cbt.ncnp.go.jp)に情報がある。
  • CPT啓発サイト「知識は、ちから。」NCNPが構築したCPT専門の情報サイト(cpt.ncnp.go.jp)。CPTを提供できる治療者のリストや関連情報が掲載されている。
  • CPT研修修了者厚生労働省認知行動療法研修事業でCPT研修を修了した治療者が、全国各地の精神科・心療内科・心理相談機関に少数ながら存在する。
  • 大学附属病院・精神科専門病院精神科専門の大学附属病院やトラウマ・PTSD専門外来を持つ施設では、CPTを含む各種エビデンスに基づいた治療を受けられる可能性がある。
CPTを探す最善の方法CPTを受けたい場合は、まずかかりつけの精神科・心療内科の主治医に「認知処理療法(CPT)を受けたい」と相談することをお勧めします。主治医がCPTを提供できない場合でも、専門家への紹介(リファーラル)を受けられることがあります。また、NCNPのCPTサイト(cpt.ncnp.go.jp)で最新の情報を確認することも有効です。
受けるまでの流れ

CPTを受けるまでの一般的な流れ

STEP 1
精神科・心療内科への受診
まず精神科または心療内科を受診し、PTSDまたはその疑いがあることを伝える。PTSD症状の評価(問診、質問票など)が行われる。
STEP 2
診断の確認
PTSDの診断が確認されるか、あるいはCPTが有益と判断される場合、CPTの説明が行われる。
STEP 3
治療者との合意形成
CPTを実施する治療者と面談し、治療の概要、期間、ホームワークへの取り組みについて説明を受け、同意する。
STEP 4
第1回セッション開始
インフォームドコンセントが得られた後、第1回のセッションが始まる。
STEP 5
12回のセッションへの参加
週1回のペースで全12回のセッションに参加する。各回のセッションとセッション間のホームワークへの取り組みが治療効果の鍵。
普及拡大の現状

CPTを受けるための普及拡大の現状

現在の日本においてCPTはまだ広く普及しているとは言えません。以下の取り組みによって普及が図られています。

  • 厚生労働省認知行動療法研修事業厚生労働省が主導するCBT研修事業の中にCPT研修が設けられており、全国の臨床家がCPTを学ぶ機会が提供されている。
  • 厚生労働省PTSD対策専門研修事業PTSD支援に携わる専門家を対象とした研修に、CPTの考え方に基づく講義が含まれている。
  • リーシック教授による研修2024年にはCPTを開発したリーシック教授本人が来日し、日本トラウマティックストレス学会(JSTSS)主催のCPT基本研修が実施された。
  • NCNP-CPTサイトの構築NCNPが「知識は、ちから。」と題したCPT啓発サイトを構築し、一般市民向けのCPTに関する情報を提供している。

これらの取り組みにより、今後数年で日本でもCPTを受けられる機関が増加していくことが期待されます。

COST & SYSTEM

CPTの費用と自立支援医療制度

CPTの費用は実施機関や形態(保険診療か自由診療か)によって異なります。自立支援医療制度を活用すれば、医療費の自己負担を大幅に軽減できます。

費用

CPTの費用はいくらか

CPTの費用は、実施する機関・形態(保険診療か自由診療か)によって大きく異なります。

  • 保険診療の場合精神科・心療内科でCPTを実施する場合、「認知療法・認知行動療法」の診療報酬算定が可能な場合があります。保険適用であれば、自己負担は3割(自立支援医療制度利用で1割)程度です。1回50分のセッションで算定できる報酬は施設・形態によって異なります。具体的な費用は受診する医療機関に確認してください。
  • 自由診療の場合精神科以外の心理相談機関やカウンセリングルームで心理士がCPTを実施する場合は自由診療となり、1回あたり8,000〜15,000円程度が目安ですが、施設によって大きく異なります。
  • 研究参加の場合NCNPなどの研究機関が行うCPT研究に参加できた場合、無料または低コストでCPTを受けられることがあります。
自立支援医療制度

自立支援医療制度(精神通院医療)の活用

精神科・心療内科での保険診療としてCPTを受ける場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を活用することで医療費の自己負担を大幅に軽減できます。

自立支援医療制度(精神通院医療)とは通常、精神科・心療内科への通院では医療費の3割を自己負担しますが、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで、自己負担が原則1割に軽減されます。PTSDを含む精神疾患で継続的な通院が必要な方が対象です。所得に応じてさらに上限が設定される場合もあります。
  • 申請窓口:お住まいの市区町村の福祉担当窓口(障害福祉課など)
  • 必要書類:医師の診断書(精神通院医療用)、保険証、マイナンバー関連書類など
  • 有効期間:1年間(毎年更新が必要)
  • 詳細:最寄りの精神保健福祉センターに相談してください

CPTは全12回のセッションが必要なため、治療全体の費用は積み上がります。自立支援医療制度を利用することで、12回分の費用を大きく抑えることが可能です。申請には主治医の協力が必要ですので、受診している精神科・心療内科で相談してみてください。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターへの相談

費用や制度についての相談は、各都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センターでも受けることができます。精神保健福祉センターでは、精神科医・精神保健福祉士・公認心理師などの専門家が無料で相談に応じており、CPTを含む各種心理療法についての情報提供や適切な医療機関への紹介も行っています。

CONCERNS

CPTを受ける前の不安と疑問

CPTを検討する方が抱きやすい4つの不安——トラウマを話す恐怖、症状の悪化、ホームワーク、薬物療法との併用——について、CPT特有の考え方を整理しました。

不安 1

「トラウマのことを話すのが怖い」

CPTを検討している多くの方が「トラウマについて話すことへの恐怖」を持っています。これは非常に自然な反応です。CPTについて知っておくと安心できる点を以下に挙げます。

  • CPT-C(認知療法のみ版)では、トラウマ体験を詳細に語ること(トラウマ筆記)は含まれない。治療者と相談して、自分に合った形式を選ぶことができる
  • スタックポイントを特定・修正する作業は、トラウマ体験を「事細かに語ること」ではなく、「トラウマ後に形成された思考を検討すること」に焦点がある
  • ペースは患者と治療者が一緒に決めるものであり、無理に進めることはない
  • 「怖い」という気持ち自体を、治療者に率直に伝えることが推奨される
不安 2

「治療中に症状が悪化するかもしれない」

CPTを含むトラウマ焦点化治療を受ける際、治療の初期段階で一時的に症状が強くなったり、感情的な苦痛が増すことがあります。これを「悪化」と捉えてしまう方もいますが、CPTの観点からは、これは「トラウマの処理が始まっているサイン」である場合が多いです。ただし、症状の強化が非常に強い場合や、自傷・自殺念慮が高まる場合は、すぐに治療者に伝えることが大切です。治療者はこのような状況に対応できるよう訓練を受けています。治療の安全性を確保しながら進めることが最優先です。

不安 3

「ホームワークをこなせるか不安」

CPTではセッション間にワークシートへの記録などの課題があり、これを負担に感じる方もいます。いくつかの点を確認しておきましょう。

  • ホームワークの量・難易度は、患者の状態に応じて治療者と相談して調整できる
  • 「課題ができなかった」ということ自体がセッションで話し合う重要な材料になる。できなかったことを隠す必要はない
  • 「なぜできなかったか(回避? 多忙? 内容が難しかった?)」を探ることが、さらなるスタックポイントの発見につながることも多い
  • ホームワークへの取り組みが治療効果と強く関連しているのは確かだが、「完璧にこなすこと」が求められているわけではない
不安 4

「薬物療法との組み合わせは可能か」

CPTは薬物療法(抗うつ薬・抗不安薬など)と並行して実施することが可能です。精神科での治療において、薬物療法と心理療法の組み合わせは一般的です。PTSDに対してSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が投与されている場合でも、CPTを追加することで相乗効果が期待できます。薬の変更・中止については必ず主治医と相談してください。

SELF-CARE

CPTとセルフケアの組み合わせ

CPTを受けている期間中、また治療終了後も、セルフケアは治療効果を支え維持するために役立ちます。日々の生活の中で実践できることを紹介します。

セルフケア

治療効果を高めるセルフケア

CPTを受けている期間中、または治療終了後も、以下のようなセルフケアが治療効果を支え、維持するために役立ちます。

😴
睡眠の確保
睡眠はPTSD症状の管理において非常に重要。就寝前のルーティンを整え、スマートフォンの使用を就寝1時間前から控えるなど、睡眠環境を整える。
🏃
定期的な身体活動
運動はPTSD・うつ症状の両方に対して有効であることがエビデンスで示されている。ウォーキング・ヨガ・水泳などを無理のない範囲で習慣化する。
👥
社会的つながりの維持
信頼できる人とのつながりを意識的に維持する。孤立はPTSD症状を悪化させる要因のひとつ。
🚫
アルコール・薬物の回避
アルコールや薬物はPTSD症状を一時的に緩和するように感じられるが、長期的には症状を悪化させる。CPT期間中は特に控えることが推奨される。
🧘
マインドフルネスの実践
過去のトラウマや未来の不安から「今この瞬間」に注意を戻す練習は、CPTの効果を補完する。
ジャーナリング

ジャーナリング(書くこと)の活用

CPTでは意味筆記やA-B-C用紙を通じて「書くこと」が重要な役割を担います。日常的なジャーナリング(日記や感情記録)も、CPTの効果を補完するセルフケアとして有益です。

  • 感情的な体験を書き出すことは、感情の処理を促進する(エクスプレッシブライティング)
  • その日に気づいたスタックポイント候補や、それへの反論をメモしておくことで、セッションでの作業がより充実する
  • 「今日うまくできたこと」「少し改善した点」を記録することで、治療の進歩を可視化できる
長期的維持

CPT終了後の長期的な維持

CPTの12回のセッションが終了した後も、習得したスキルを日常生活に応用し続けることが長期的な回復維持の鍵となります。

  • 新たなストレスや逆境に直面したとき、A-B-C用紙やチャレンジングビリーフ用紙のアプローチを自分で実践する
  • 「このとき自分はどんなスタックポイントを持っているか?」と自問する習慣が身につくと、感情の変化に気づき対処しやすくなる
  • 症状の再燃を感じた場合、早めに治療者に連絡し、ブースターセッション(追加セッション)を検討する

CPT最終セッション(第12回)では、治療を通じて変化した信念を反映した新しい意味筆記を書き、第1回で書いた意味筆記と比較します。この作業は、自分の変化を可視化し、今後の指針を立てる意味でも重要です。

TRAUMA TYPES

CPTが効果を発揮するさまざまなトラウマ

CPTはもともと性暴力被害者のために開発されましたが、現在はあらゆる種類のトラウマを持つPTSD患者への効果が検証されています。

対象トラウマ

CPTが適応されるトラウマの種類

CPTはもともと性暴力被害者のために開発されましたが、現在ではさまざまな種類のトラウマを持つPTSD患者に適応されることがエビデンスによって示されています。

💜
性暴力・性的虐待
CPTが最初に開発・検証された対象。強烈な罪悪感・恥・自己非難に特に効果を発揮する。
🎖
戦闘・戦争体験
米国退役軍人省でのCPTの広範な実施によって、退役軍人のPTSDへの効果が豊富に示されている。
🏠
身体的暴力・家庭内暴力(DV)
力とコントロール・信頼のスタックポイントへのアプローチが特に有益。
🚗
交通事故・自然災害
突然の予期しない体験による「世界は安全だ」という信念の崩壊に対応できる。
🧒
子ども時代の虐待(身体的・精神的・性的)
幼少期のトラウマによる長年にわたるスタックポイントにも対応できる。
🏥
医療的トラウマ
重篤な疾患の診断・治療体験による恐怖・無力感・生死に関する信念の変化に対応する。
犯罪被害
強盗・暴行等の犯罪被害による安全・信頼のスタックポイントに対応できる。
💼
職場でのトラウマ体験
職場での暴力・ハラスメント・深刻な業務上の事故などによるPTSDにも有効。
複雑性PTSD

複雑性PTSDへのCPTの可能性

複数のトラウマ体験が重なる、あるいは長期にわたる慢性的なトラウマによって生じる複雑性PTSD(Complex PTSD:C-PTSD)への対応については、現在も研究が進んでいます。複雑性PTSDでは感情調節の困難・自己組織化の障害・対人関係の困難など、通常のPTSD症状に加えてより複雑な問題が生じます。

研究では、複雑性PTSDを持つ方に対してもCPTは一定の効果を示す可能性が示唆されていますが、より長期間の治療や、まず安定化のための支援(感情調節スキルの習得など)が必要になる場合があります。担当の治療者と丁寧に相談しながら計画を立てることが重要です。

FUTURE

CPTの今後——日本での普及と課題

日本でのCPT普及は研究・トレーニング・啓発の多面的な取り組みで進んでいますが、依然として課題も残されています。未来への展望を整理します。

普及への取り組み

日本での普及に向けた現在の取り組み

NCNPを中心とした日本のCPT普及活動は、以下の多面的なアプローチで推進されています。

  • 研究エビデンスの蓄積2023年の実行可能性試験および2025年のランダム化比較試験という2つの重要な研究成果が、日本でのCPTの有効性を科学的に裏づけた。
  • 治療者トレーニングの拡充厚生労働省認知行動療法研修事業を通じたCPT研修の実施、実践練習研修の提供により、CPTを実施できる専門家の数が増加している。
  • 啓発サイトの構築NCNPの「知識は、ちから。」(cpt.ncnp.go.jp)により、患者・一般市民・支援者がCPTについて学べる情報基盤が整備された。
  • 実装科学の手法の導入CPTをより効果的に地域医療に広める方法を研究する「実装科学(Implementation Science)」の枠組みが導入されており、単なる研究からリアルワールドでの普及へと展開しようとしている。
普及の課題

日本での普及における課題

日本でのCPTの普及にはいくつかの課題が依然として存在しています。

  • 訓練を受けた治療者の絶対数不足CPTは正式なトレーニングと督促(スーパービジョン)が必要な専門的治療であり、実施できる治療者の数は日本全国でまだ限られている。
  • 地域格差大都市と地方の間で、CPTを含む専門的なPTSD治療を受けられる機会の格差がある。
  • 診療報酬の問題心理療法に対する日本の保険診療報酬が低い現状が、専門家がCPTに時間を割く経済的インセンティブを弱めている面がある。
  • PTSD診断の漏れ日本では、PTSDがうつ病・不眠症などとして診断・治療されるケースが多く、PTSD専門の心理療法につながっていない患者が多い可能性がある。
  • スティグマ精神科受診やトラウマについての相談に対するスティグマ(偏見・差別感)が、支援を求めることの障壁になっていることがある。

これらの課題を乗り越えるためには、医療者の訓練拡大だけでなく、社会全体でのPTSD・トラウマに関する理解の促進が必要です。

未来への期待

未来への期待——CPTがより身近になるために

世界的にはオンライン(テレヘルス)でのCPT実施の有効性も確認されており、地理的な制約を越えてCPTを受けられる環境が整いつつあります。日本においても、オンライン診療の普及とともに、CPTを含む各種心理療法へのアクセスが改善されることが期待されます。

また、デジタルヘルス技術(スマートフォンアプリ、AI支援ツールなど)を活用したCPTの補助ツールの研究も進んでおり、将来的にはより多くのPTSD患者がCPTの恩恵を受けられる環境が整う可能性があります。

FAQ

よくある質問

CPTについて頻繁に寄せられる質問への回答をまとめました。判断に迷うときの参考にしてください。

FAQ

CPTに関するよくある質問

Q1. CPTと薬物療法はどちらが効果的ですか?

A. PTSDに対しては、トラウマ焦点化心理療法(CPTを含む)と薬物療法(主にSSRI系抗うつ薬)の両方がエビデンスのある治療法です。比較研究では、心理療法の方が薬物療法より長期的な効果が高いと示す研究が多い傾向がありますが、どちらが自分に向いているかは個人の状況や好みによります。多くの場合、薬物療法と心理療法の組み合わせが最も効果的です。主治医と相談しながら、自分に最適な治療計画を立ててください。

Q2. CPTは何年も前のトラウマにも効きますか?

A. はい、CPTは長年前のトラウマに対しても効果があることが示されています。スタックポイントは、トラウマ体験から何年・何十年経っていても維持され続けていることが多く、CPTはその時間的距離に関係なく、現在のスタックポイントに取り組みます。ベトナム戦争退役軍人(トラウマ体験から30年以上経過)を対象とした研究でも有効性が確認されています。古いトラウマだからといって諦める必要はありません。

Q3. PTSD以外の診断でもCPTは受けられますか?

A. CPTはPTSDの治療として開発・検証されていますが、トラウマ関連の抑うつ症状・強い罪悪感・自己非難が中心の方にも有益な場合があります。一方、PTSDの正式な診断がない方(例:適応障害、複雑性悲嘆など)に対するCPTの有効性については、さらなる研究が必要です。「自分はPTSDではないかもしれないが、過去のつらい体験から立ち直れない」と感じている場合は、まず精神科・心療内科を受診し、適切な評価と治療法について相談することをお勧めします。

Q4. CPTは自分でできますか?

A. CPTは訓練を受けた治療者の指導のもとで実施されることが推奨されます。特にスタックポイントへのソクラテス式問答は、熟練した治療者との対話が重要な役割を果たします。ただし、CPTの考え方を紹介した書籍(「トラウマへの認知処理療法」創元社刊など)を読むことで、CPTの枠組みを理解し、自己理解を深めることはできます。完全なセルフガイドとしての実施には限界があることをご理解ください。

Q5. CPTを受けても効果がなかった場合はどうすればいいですか?

A. CPTが全ての方に同様の効果をもたらすわけではありません。「CPTが自分には合わなかった」と感じた場合、まず治療者とその理由について率直に話し合いましょう。ホームワークへの取り組み方や、特定のスタックポイントへのアプローチを変えることで改善する可能性があります。それでも効果が感じられない場合、PE(持続エクスポージャー療法)やEMDRなど別のトラウマ焦点化療法を試すことも有益です。また、薬物療法の見直しも選択肢として検討できます。一つの治療法で効果がなくても、他の方法で回復できる可能性は十分あります。

Q6. CPTを家族や支援者として知っておくべきことは何ですか?

A. 大切な方がCPTを受けている場合、第一に、CPTはトラウマについて直接向き合う治療であるため、一時的に感情が不安定になる時期があることを理解してください。この時期に批判や過度のアドバイスは逆効果です。「あなたが治療に取り組んでいることを応援している」という姿勢を示してください。第二に、ホームワークへの取り組みを邪魔しないよう、時間と静かな環境を確保する支援ができれば理想的です。第三に、支援者自身も疲弊しないよう、自分のケアを忘れないでください。必要であれば、支援者向けの相談窓口(精神保健福祉センターなど)を活用してください。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、精神科・心療内科への通院医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。詳しくはお住まいの市区町村窓口または精神保健福祉センターにお問い合わせください。

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