脅迫的過食(むちゃ食い障害)とは?
症状・脳のメカニズム・原因・治療法・回復のステップを徹底解説
「食べ始めると止められない」「お腹がいっぱいなのにまだ食べてしまう」「食べた後に強い罪悪感と自己嫌悪に襲われる」——脅迫的過食(Binge Eating Disorder: BED)は、DSM-5で正式に認定された最も多い摂食障害です。脳のメカニズム、症状、原因、治療法、回復のステップまで徹底解説します。
脅迫的過食(むちゃ食い障害)とは
コントロールを失って大量の食物を摂取する行為を繰り返す摂食障害。DSM-5で正式な精神疾患として認定されており、最も多い摂食障害でもあります。
脅迫的過食の定義
脅迫的過食(強迫的過食)は、コントロールを失って大量の食物を短時間で摂取する行為(過食エピソード)を繰り返す状態を指します。医学的には「むちゃ食い障害(Binge Eating Disorder: BED)」として、DSM-5に正式な精神疾患として収載されています。
むちゃ食い障害の最大の特徴は、過食の際に「コントロールの喪失感」を伴うことです。「食べたくないのに食べてしまう」「止めたいのに止められない」「まるで自動操縦のように食べ続けてしまう」——この制御不能の感覚が、単なる「食べ過ぎ」とむちゃ食い障害を区別する決定的なポイントです。
また、神経性過食症(ブリミア)とは異なり、むちゃ食い障害では過食後の代償行動(自己誘発性嘔吐、下剤乱用、過度の運動、絶食など)を定期的には行いません。そのため、体重が増加しやすく、過体重や肥満を伴うケースが多いですが、標準体重の方でも発症します。
複数の呼び方がある
正式な疾患として認定されたのは最近のこと
むちゃ食い障害が「正式な精神疾患」として認定されたのは比較的最近のことです。DSM-IV(1994年版)では「さらなる研究を要するカテゴリ」として暫定的に記載されていましたが、DSM-5(2013年)で初めて独立した診断カテゴリとして正式に収載されました。この経緯もあって、一般の認知度がまだ低く、「そういう疾患があること自体を知らなかった」という方が多いのが現状です。むちゃ食い障害について知ることは、自分または身近な人の苦しみに名前をつけ、適切な支援につながる第一歩となります。
最も多い摂食障害——数字で見るBED
むちゃ食い障害は、摂食障害の中で最も有病率が高い疾患です。生涯有病率は約1.5〜3.5%とされ、神経性やせ症(アノレキシア)の約0.5〜1%、神経性過食症(ブリミア)の約1〜2%を上回ります。
男女比は約1:1.5〜1:2で、他の摂食障害(女性が圧倒的に多い)と比べて男性の割合が高いのが特徴です。発症年齢のピークは20代〜30代ですが、10代から60代以降まで幅広い年齢層で発症が見られます。男性はBEDの認知度が低く、「男性に摂食障害はない」という誤解から受診が遅れやすい傾向があります。
BEDは肥満者の約20〜30%に見られるとされていますが、肥満でない方も多く発症します。逆に、肥満の方の全員がBEDというわけではありません。体重だけでは判断できない疾患です。
日本における有病率は欧米のデータに近い水準とされていますが、恥の感覚から受診に至るケースが少なく、実態が過小評価されている可能性があります。厚生労働省の調査では、摂食障害全体で約20万人が医療機関を受診していますが、治療を受けていない潜在的な患者数はさらに多いと推計されています。BEDは摂食障害の中で最も認知度が低く、「自分はBEDかもしれない」と気づく人が少ないことも、受診遅延の一因です。
むちゃ食い障害の脳と心で起きていること
むちゃ食い障害は、複数の神経生物学的・心理的メカニズムが絡み合って維持されています。タブを切り替えてそれぞれを確認できます。
高カロリー・高脂肪・高糖質食物が中脳辺縁系ドーパミン経路を強く活性化。①食物手がかりへの過敏反応(画像・匂いで強い渇望)、②報酬感受性の低下=耐性(もっと食べないと満足できない)、③ドーパミンD2受容体の密度低下(アルコール・薬物依存と共通パターン)。ストレスや否定的感情下では反応がさらに増強。
衝動抑制・意思決定・自己コントロールを司る前頭前皮質の機能低下が報告。「食べたい」衝動を抑制する力が落ち、一度食べ始めると止められない。「知っていてもやめられない」現象を生み出す。慢性的な睡眠不足・強いストレス・過労でさらに低下。
否定的感情(ストレス・不安・悲しみ・怒り・退屈・孤独感)が引き金。食べることで一時的に感情が緩和→過食が「感情の自己治療」として機能。「ストレス→過食→罪悪感→ストレス→過食」の悪循環を形成。感情失認(アレキシサイミア)との関連も指摘される。
食事を抜く→血糖値低下→強い空腹感→衝動的に大量摂食→罪悪感→また制限——のサイクル。長年繰り返されると神経回路レベルで定着し「学習された過食」となる。むちゃ食い障害を維持する最も強力な要因の一つ。
耶鲁大学アシュレー・ギアハート博士らのイェール食物依存スケール(YFAS)による概念。①コントロールの喪失、②耐性、③禁断症状様現象、④機能障害、⑤負の結果を知りつつ継続。超加工食品(高糖質・高脂肪・高塩分)は脳の報酬系を特に強く刺激するよう設計されている。独立した診断カテゴリとしてはまだ確立されていない。
むちゃ食いエピソードに共通する7つの特徴
むちゃ食い障害の過食エピソードには、以下の特徴があります。過食エピソードは特定の時間帯(深夜、夕方、帰宅直後)に起きやすく、特定の感情状態(職場や学校でのストレスの後、孤独を感じている時、退屈な夜)が引き金となることが多いです。
過食が長期的に引き起こす身体的問題
むちゃ食い障害による過食は、長期的に多くの身体的健康問題を引き起こす可能性があります。代表的なものは以下の通りです。
- 肥満・過体重
- 2型糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 睡眠時無呼吸症候群
- 逆流性食道炎・過敏性腸症候群などの消化器系の問題
- 関節への負担増大
- 過食直後の腹部膨満感・胃痛・動悸・強い眠気・倦怠感
また、過食の直後には身体的な不快感(腹部の膨満感、胃痛、動悸、強い眠気、倦怠感)を感じることが多く、これが過食後の自己嫌悪をさらに強化します。身体的な症状が出ていない場合でも、長期的な健康リスクの観点から早期の治療介入が重要です。
周囲が気づける8つのサイン
- ✓大量の食品が急になくなる(食料品の買い置きがすぐ空に)
- ✓食品のパッケージや容器がゴミ箱に大量に捨てられている
- ✓一人の時間に食べるために行動パターンを変える
- ✓体重が変動しやすい
- ✓食事に関する予定(外食・パーティーなど)に不安を感じる
- ✓常にダイエットをしている、または「明日からダイエットする」が口癖
- ✓食べ物のことばかり考えている
- ✓食後のトイレが長い(嘔吐などの代償行動がない場合でも罪悪感からこもる)
心の中で起きている6つの症状
むちゃ食い障害を引き起こす5つの要因
双生児研究で摂食障害全般の遺伝率は約40〜60%と推計。素因はあるが、それだけでは発症しない(遺伝×環境の相互作用)。
「全か無か」の完璧主義は「アブスティネンス違反効果」を引き起こす——わずかな逸脱が全面的過食につながる。柔軟な思考へのシフトが必要。
日本特有の文脈:会食での「全部食べる」美徳と女性への「細さ」圧力の組み合わせ。コンビニ・デリバリーアプリで24時間アクセス可能。SNSフードポルノへの常時接触。
併存は偶然ではなく、共通の神経生物学的・心理的背景を反映。併存疾患を治療せずBEDだけを治療しても効果が限られる。初診時にトラウマや気分の問題も話してよいか医師に確認を。
研究によればBED患者の約30〜50%が何らかのトラウマ体験を持つ。トラウマが背景にある場合CBTだけでは不十分なことがあり、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)、トラウマ焦点化CBT、ソマティック療法(身体に焦点を当てた療法)の組み合わせが推奨される。
- 遺伝的素因:摂食障害の家族歴、セロトニン・ドーパミン関連遺伝子多型の関与
- 脳の報酬系の個人差:報酬系の感受性が高い、または前頭前皮質の機能が弱い
- ホルモンの影響:レプチン(満腹ホルモン)・グレリン(空腹ホルモン)など食欲調節ホルモンの異常
- 感情調整の困難:食べることが主要なコーピングになっている
- 低い自尊感情:自分に自信がなく、自己価値感が低い
- 完璧主義:「全か無か」思考。「少し食べすぎた→もう失敗→とことん食べよう」
- ボディイメージの不満:慢性的な体型への不満。鏡を見るのが辛い、見られるのが怖い等の回避行動
- トラウマ体験:幼少期の虐待(身体・性・精神)、いじめ、ネグレクト
- ダイエット歴:繰り返しのダイエット(ヨーヨーダイエット)が引き金
- ダイエット文化:「痩せなければ」プレッシャー→極端な食事制限→リバウンドとしての過食
- 食環境:コンビニ・ファストフード・デリバリーで高カロリー食品に容易にアクセス
- ストレス社会:仕事・人間関係・経済的ストレスが引き金
- 体型への社会的偏見:肥満スティグマが自尊感情低下と過食の悪循環を強化
- うつ病:約50%が生涯のいずれかの時点でうつ病を経験
- 不安障害:全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害など
- ADHD:衝動性・実行機能の困難。ADHD治療がBED改善につながる場合も
- PTSD:トラウマ体験が背景にあるケースも多い
- 物質使用障害:アルコール依存症などとの併存
- ①感情調整の困難:トラウマが脳の感情調整システムを慢性的に乱し、過食が緩和手段に
- ②身体との断絶:身体的・性的虐待は身体への嫌悪・距離感を生み、「身体を気にしない」過食を促す
- ③解離とのつながり:過食中の解離的体験はトラウマ関連の解離症状と重なる場合がある
むちゃ食い障害の診断基準
頻度による4段階の重症度
診断を受けるまでの流れと事前準備
むちゃ食い障害の診断は、専門医(心療内科・精神科医)による診察で行われます。受診の流れとして、①問診(食行動の詳細、頻度、食べる量、感情状態、既往歴、生活歴など)、②必要に応じて心理検査(摂食障害の評価尺度など)、③身体診察・血液検査(身体合併症の確認)が行われます。
受診に際して事前に記録しておくと役立つこととして、以下が挙げられます。これらをメモしておくことで、限られた診察時間を有効に活用できます。
- ✓過去3か月の過食エピソードの頻度(週何回か)
- ✓一回の過食でどのくらいの量を食べるか(おおよその目安)
- ✓過食が起きやすい状況・感情・時間帯
- ✓過食後の気持ち(罪悪感の強さなど)
- ✓現在のダイエット・食事制限の状況
- ✓他の精神科症状(気分の落ち込み、不安、睡眠の問題など)
鑑別診断——似ているが異なる状態
むちゃ食い障害と鑑別が必要な状態には以下があります。
- 神経性過食症(ブリミア)過食後の代償行動(嘔吐、下剤乱用、過度の運動)があればブリミア。代償行動がない、またはほとんどない場合はBED。
- 夜間摂食症候群(NES)夕食後に総カロリーの25%以上を摂取する、または夜中に覚醒して食べるパターンが主体であればNES。
- 過体重・肥満(単純性)過食エピソードを伴わない単純な過食習慣による肥満はBEDと区別。コントロールの喪失感と過食後の苦痛が重要な区別点。
- うつ病に伴う過食うつ病の症状として過食が見られることがあるが、うつ病が主要な場合は単独BEDと区別。両方を診断されることも多い。
いずれにしても、自己判断だけではなく、専門医(心療内科・精神科、摂食障害専門外来)による正確な評価を受けることをお勧めします。
15のチェック項目
- 1短時間(2時間以内)に明らかに大量の食物を食べてしまうことがある
- 2食べ始めると止められない、コントロールできないと感じる
- 3お腹がいっぱいなのに、まだ食べ続けてしまう
- 4空腹ではないのに大量に食べてしまうことがある
- 5普通よりかなり速いスピードで食べてしまう
- 6食べている量が恥ずかしくて、一人でこっそり食べることが多い
- 7過食後に強い罪悪感、恥ずかしさ、自己嫌悪を感じる
- 8ストレスや嫌なことがあると、食べることで紛らわそうとする
- 9食べ物のことが頭から離れない時間が多い
- 10「明日からダイエットしよう」と思って今日は食べ放題にしてしまうパターンがある
- 11ダイエットと過食を繰り返している
- 12食べた後に自分を罰するような考えが浮かぶ
- 13食べている量を家族や友人に正直に言えない
- 14過食のパターンが3か月以上続いている
- 15過食の問題で日常生活に支障が出ている
このセルフチェックはあくまでも参考であり、診断ツールではありません。「当てはまる項目が多い」「結果を見て不安を感じた」という方は、ためらわずに専門家に相談してください。「自分はBEDかもしれない」と気づくこと自体が、回復への重要な第一歩です。BEDを抱える多くの方は、症状が現れてから専門家に相談するまでに数年〜10年以上かかるとされています。「まだひどくないから」「もう少し自分で頑張ってから」と先送りせずに、今日相談することで、その分早く回復の道を歩み始めることができます。
エビデンスに基づく6つの治療アプローチ
日常で取り入れられる7つの習慣
回復の長期的な予後——「治る」ということ
むちゃ食い障害の長期予後は、他の摂食障害(神経性やせ症など)と比較して良好とされています。適切な治療を受けた場合、治療終了時点での過食停止率は約60〜80%、長期追跡(5〜10年後)でも約60%が寛解状態を維持しているとされています。
回復は「直線的なプロセス」ではなく「波のあるプロセス」です。調子のよい時期と悪い時期が交互に来ることが多く、再発(過食が一時的に戻る)は回復の「失敗」ではなく「回復プロセスの一部」です。再発した時にどう対処するか——これを事前に「再発防止計画」として立てておくことが、治療の重要な最終フェーズとなります。
- 過食エピソードの頻度・量の減少
- 過食後の苦痛の軽減(罪悪感が和らぐ)
- 食事以外の感情対処法を使えるようになる
- 食事を「楽しみ」として体験できる場面が増える
再発防止——回復を維持するために
回復を維持するための再発防止策として、以下の点が重要です。
- リスク状況の特定過去に過食を引き起こしたトリガー(特定の感情・状況・場所・時間帯)を整理し対策を立てる。
- 早期警戒サインの認識「最近食事制限しがち」「食べ物のことを頻繁に考える」「人を避けがち」など再発の前兆パターンを把握。
- サポートシステムの維持回復後も定期的な通院・カウンセリング・サポートグループへの参加を続ける。「調子がいいから」と急にやめるのは再発リスクを高める。
- 生活上の大きな変化への準備転職・引越し・結婚・離婚・喪失体験など、ストレス増大時期は再発しやすいため事前にサポート体制を強化。
- 過食してしまった時の対処プラン「過食したらまず治療者に連絡」「セルフコンパッションの言葉を声に出す」など具体的プランを用意。
回復は完璧である必要はありません。年に数回、ストレスの多い時期に過食が起きることがあっても、そのたびに「また最初からやり直し」ではなく、「全体的な傾向として良くなっている」という長期的な視点で自分の回復を評価することが大切です。
家族が理解すべきこと
むちゃ食い障害は「意志が弱い」「自制心がない」という問題ではなく、脳の報酬系と感情調整の問題に基づく精神疾患です。「食べるのをやめればいい」という言葉は、うつ病の方に「元気を出せばいい」と言うのと同じく、無意味であるだけでなく有害です。本人は「やめたいのにやめられない」状態にあることを理解してください。
また、家族・周囲の方が「なんとかしてあげたい」という思いから管理・監視しようとしてしまうことがありますが、これは逆効果になりやすいです。食行動をコントロールしようとする外からの圧力は、本人の「コントロールを取り戻す」という回復プロセスを妨げます。家族にできる最も大切なことは「寄り添うこと」と「専門家につなぐこと」です。自分が「治してあげる」「管理する」という役割を担おうとすることで、家族自身も疲弊しやすいため、支援の限界を設けることも重要です。
してよいこと・避けるべきこと
BEDをめぐる6つの誤解と真実
真実:BEDは脳の報酬系の機能異常、感情調整の困難、学習された行動パターンなど複合的要因による医学的状態。意志の強さとは無関係に発症。BEDの方の多くは日常生活の他の領域では非常に自制的で高い達成を示している。「意志の問題」という誤解は助けを求めることを阻む最大の障壁。「医療の問題」として捉えることが回復への第一歩。
真実:極端なダイエットはBEDを悪化させる最大の要因の一つ。厳しい食事制限が空腹感と心理的剥奪感を蓄積させ爆発的過食として表出。研究ではダイエットがBED発症リスクを高めることが示され、特に10〜20代の若年期の厳しいダイエットがその後のBED発症の強力な予測因子。回復では体重管理より食行動の正常化を先に。
真実:BEDは体型に関係なく発症。標準体重・BMIが正常範囲の方でも診断される。医療者の間にもこの誤解があり「太っていない」「外見に問題がない」ため診断が見落とされるケースも。逆に過体重・肥満の患者が「生活習慣の問題」として扱われ単純なダイエット指導のみが行われる問題も。診断は体型・体重に関わらず症状パターンで行われるべき。
真実:BEDは「たまの食べ過ぎ」とは質的に異なる。コントロールの喪失感、過食後の著しい苦痛、週1回以上の頻度で3か月以上の持続が区別ポイント。「誰でもそんなもの」という言葉は当事者が苦しみを過小評価し助けを求めることを思いとどまらせる。「これくらいで相談していいのかな」と悩む方こそ相談する価値がある。
真実:BEDは医学的疾患であり恥ずかしいことではない。人口の約2〜3%が経験する決して珍しくない問題。専門家は守秘義務を持ち非批判的に話を聞くことが職業的義務。「食べることのコントロールに困っている」という一言から始められる。専門家に話せたことがきっかけで回復への大きな一歩を踏み出せた方が数多くいる。
真実:BEDは回復可能な疾患。適切な治療(CBT・DBT・IPT等)で寛解率は60〜80%(治療終了後)。長期追跡研究では治療後5年で過食停止が約60%。完全寛解に至らなくても頻度・量の著しい減少、心理的苦痛の軽減、生活の質の向上は多くの場合達成。再発は「失敗」ではなく「回復プロセスの一部」。再発防止計画を治療者と立てることで再発を成長の機会に変えられる。
読者から寄せられる質問
A. 誰でもたまに食べ過ぎることはありますが、むちゃ食い障害との違いはいくつかあります。①コントロール感の喪失:通常の食べ過ぎは「美味しいからもう少し」ですが、むちゃ食い障害では「止めたいのに止められない」「まるで別の何かに操られているかのよう」という感覚があります。②量と頻度:むちゃ食い障害では、通常の食事量をはるかに超える量を短時間で摂取し、それが週1回以上、3か月以上続きます。③心理的苦痛:過食後に強い罪悪感、恥ずかしさ、自己嫌悪を感じます。④隠蔽:恥ずかしさから一人でこっそり食べる傾向があります。食べ過ぎが日常的になり、上記の特徴に当てはまる場合は、専門家に相談することをお勧めします。判断に迷う場合は、本記事のセルフチェックリストをご活用ください。心療内科に相談することは、自分の状態を知るためだけでも価値があります。
A. 違います。最大の違いは「代償行動」の有無です。神経性過食症(ブリミア)では、過食の後に自己誘発性嘔吐、下剤乱用、過度の運動、絶食などの代償行動を行います。一方、むちゃ食い障害では代償行動を定期的には行いません。そのため、むちゃ食い障害の方は体重が増加しやすく、過体重や肥満を伴うことが多いです(ただし、すべての方がそうではありません)。治療アプローチも異なる部分があるため、正確な診断が重要です。なお、「時々嘔吐することがある」「たまに下剤を使う」という場合でも、それが過食の代償として定期的に行われているならブリミアの可能性があります。正確な診断のために、医師には正直に全ての行動を伝えることが大切です。
A. むちゃ食い障害をダイエットで治そうとするのは逆効果になることが多いです。極端な食事制限は空腹感と剥奪感を蓄積させ、かえって過食のトリガーになります。「制限→空腹→過食→罪悪感→さらに制限→さらに過食」という悪循環に陥ります。治療では、厳しいダイエットではなく、規則的でバランスの取れた食事パターンの確立を目指します。禁止食品を作らず、すべての食品を適度に楽しめるようになることが回復のゴールです。体重管理が必要な場合も、まず過食行動の改善を優先し、その上で緩やかな体重管理に取り組みます。「過食がある程度落ち着いてから、体重については主治医・管理栄養士と相談して無理のない計画を立てる」というステップが、長期的に見て最も健全なアプローチです。
A. ストレス時に食べる量が増えること(ストレスイーティング・エモーショナルイーティング)は非常に一般的な現象で、それ自体がむちゃ食い障害とは限りません。むちゃ食い障害との区別は、①コントロールの喪失感があるか、②食べる量が通常の食事量をはるかに超えるか、③過食後に強い苦痛(罪悪感、恥ずかしさ、自己嫌悪)があるか、④週1回以上・3か月以上のパターンとして定着しているか、で判断されます。ストレス食いが上記に該当するレベルに達している場合は、専門家に相談することをお勧めします。
A. 夜中に起きて食べる行為は「夜間摂食症候群(Night Eating Syndrome: NES)」と呼ばれる状態で、むちゃ食い障害とは区別されます。NESは、夕食後に1日の総カロリーの25%以上を摂取する、または夜中に覚醒して食べる(そのことを覚えている)ことを特徴とします。ただし、夜間の過食が「コントロールの喪失を伴う大量摂食」のパターンであれば、むちゃ食い障害の可能性もあります。いずれの場合も、睡眠と食事のパターンが乱れている状態ですので、心療内科や摂食障害外来に相談することをお勧めします。
A. 軽度の場合、セルフヘルプ教材(認知行動療法に基づくワークブックなど)を活用して改善できるケースもあります。日本語で読めるCBTに基づくセルフヘルプ書籍(フェアバーン著「過食症を克服するために」など)は、外来治療の補助としても活用されています。しかし、中等度〜重度の場合や、うつ病、不安障害などの併存症がある場合は、専門家のサポートが強く推奨されます。むちゃ食い障害は「意志の問題」ではなく、脳の報酬系や感情調整の問題に関わる疾患です。一人で頑張り続けて改善しない場合は、専門家に相談することが回復の近道です。「一人で6か月試みて改善がない」「日常生活への支障が大きい」「気分の落ち込みが激しい」場合は、専門家への相談を強くお勧めします。
A. 過食してしまった後は、自己批判ではなく「自分への思いやり」から始めることが大切です。まず、過食した後の激しい自己批判(「また失敗した」「なんてダメなんだ」)はいったん脇に置き、「つらいことがあったんだね」「今は苦しいけど、これが続くわけじゃない」と自分に声をかけましょう。次に、「過食したから今日はもう何をしても無駄」という気持ちから、さらなる過食に走ることを防ぐことが重要です(アブスティネンス違反効果への対処)。過食した後の食事は「絶食して帳消しにしよう」とするのではなく、次の食事を計画通り(規則正しく)摂ることが、制限→過食の悪循環を断ち切るための重要なステップです。また、「何がトリガーだったか」を批判なく振り返ることで、次回への学びを得ることができます。
A. 心療内科、精神科、摂食障害の専門外来で治療を受けられます。まずはかかりつけの内科や心療内科に相談し、必要に応じて専門外来を紹介してもらうのがスムーズです。精神保健福祉センター(各都道府県に設置・無料)に電話相談することもできます。国立精神・神経医療研究センターの摂食障害情報ポータルサイトでは、全国の摂食障害専門医療機関の一覧が公開されています。受診に際して「食事のコントロールに困っている」「過食が止められない」と伝えるだけで大丈夫です。初診時に詳しく話せなくても、数回の受診を重ねる中で信頼関係を築きながら話せるようになる方も多いです。受診を続けること自体が、回復への大切な一歩です。
参考文献・情報源
- American Psychiatric Association (2013). DSM-5: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition. ※むちゃ食い障害が独立した診断カテゴリとして初めて正式収載された版。
- Mayo Clinic. "Binge-eating disorder - Symptoms and causes."
- Cleveland Clinic. "Binge Eating Disorder: What It Is, Symptoms & Treatment."
- National Eating Disorders Association (NEDA). "Binge Eating Disorder."
- Fairburn, C. G. (2013). Overcoming Binge Eating, Second Edition. ※CBTに基づくセルフヘルプの代表的書籍
- 国立精神・神経医療研究センター 摂食障害情報ポータルサイト ※全国の摂食障害専門医療機関リスト掲載
- 厚生労働省「こころの情報サイト」摂食障害 ※摂食障害全般の解説・相談窓口情報
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「摂食障害」 ※医療機関の視点からの解説
- Neff, K. (2011). Self-Compassion: The Proven Power of Being Kind to Yourself. ※セルフコンパッション研究の基礎文献
一人で抱え込まないで。
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「食べ始めると止まらない」「食べた後の自己嫌悪がもう耐えられない」「誰にも言えなくてずっと一人で抱えてきた」——過食の苦しさは、意志の弱さではなく、脳と心のSOSです。あなたは一人じゃありません。どうかあなたの悩みをきかせてください。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。通院医療費の自己負担を1割に軽減できる自立支援医療制度も活用できます。
