メンタルヘルス用語辞典 · グラウンディング

グラウンディングとは?
種類・やり方・効果・PTSD・パニック・解離への活用を徹底解説

不安やパニックで頭が真っ白になる、過去のつらい記憶が突然よみがえる、現実感が薄れてふわふわする——そんな苦しい状態から「今ここ」に戻るための心理的技法がグラウンディングです。定義と神経科学的メカニズム、3カテゴリの実践、5-4-3-2-1法、PTSD・パニック・解離・複雑性PTSDへの応用、トラウマ治療での位置づけ、日常への組み込み方まで、必要な情報をすべてここにまとめました。

ABOUT GROUNDING

グラウンディングとは何か

グラウンディング(Grounding)は「今この瞬間(現在)に意識と注意を向け直し、心身を安定させる技法の総称」です。トラウマ治療、PTSD、パニック障害、解離性障害、不安障害のケアで世界中の専門家が活用し、誰でも・どこでも・道具なしで実践できるセルフケアとしても注目されています。

定義

グラウンディングの定義

グラウンディング(Grounding)とは、英語で「地面に接地する・地に足をつける」という意味を持つ言葉です。心理療法・メンタルヘルスの分野では、「今この瞬間(現在)に意識と注意を向け直し、心身を安定させる技法の総称」として用いられています。

私たちの心は、ストレスや恐怖、トラウマに関連した刺激(音・匂い・画像など)に反応するとき、過去の記憶の中や、将来への不安の中に引き込まれてしまうことがあります。フラッシュバック、パニック発作、強い解離感——こうした状態のとき、脳は「今ここは安全ではない」と誤って判断しています。グラウンディングは、五感・身体感覚・認知的な操作を使って「今ここ」という現実に意識を引き戻し、脳に「今は安全だ」というシグナルを送ることで、心身の状態を落ち着かせる技法です。

グラウンディングは特定の宗教や思想に基づくものではなく、認知行動療法(CBT)、弁証法的行動療法(DBT)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、ソマティック・エクスペリエンシング(身体体験療法)など、さまざまな科学的根拠のある心理療法で活用されている技法群です。また、特別な道具も専門的なトレーニングも不要なため、一般の方が日常的なセルフケアとして取り入れることもできます。

グラウンディングの特徴グラウンディングは、危機的な場面での「緊急対処法」としても、日常的な「予防的セルフケア」としても使える点が特徴です。薬を使わず、特別な場所も不要で、実践に数分しかかかりません。トラウマを持つ方だけでなく、誰もが活用できます。
必要になる状態

グラウンディングが必要になる6つの状態

グラウンディングが特に有効とされる心理状態には、以下のようなものがあります。

フラッシュバック
過去のトラウマ体験が突然、まるで今起きているかのようにリアルに蘇る状態。視覚的なイメージ、感覚、感情が急激に押し寄せてくる。
💥
パニック発作
突然の強烈な恐怖感とともに、動悸・息切れ・めまい・手足のしびれなどの身体症状が現れる状態。「死ぬかもしれない」という感覚を伴うこともある。
🌫
解離症状
現実感の喪失(現実がぼんやり、夢のように感じる)、自己感覚の喪失(自分が自分でない感じ)、周囲との断絶感など。
😰
強い不安・パニック
思考が「最悪の事態」に向かって止まらなくなる過度な心配や恐怖。
🔥
激しい怒り・感情爆発
感情が急激に高まって制御しにくくなっている状態。
慢性的なストレス・過覚醒
神経系が常に「戦闘・逃走モード」に入ったまま休まらない状態。
似た概念との違い

グラウンディングとマインドフルネスの違い

グラウンディングとマインドフルネスは、どちらも「今この瞬間への注意」を核心としており、重なり合う部分が多いですが、重点が異なります。

グラウンディング
危機からの脱出
主な目的は危機・解離・フラッシュバックからの脱出。症状が出たときの緊急対処として有効。強い感情から一時的に距離をとることもある。フラッシュバック・解離への即応が特に強み。
マインドフルネス
今ここの観察
主な目的は今この瞬間の観察と気づき。日常的な継続的実践が中心。感情をそのまま観察・受容する。慢性的なストレス軽減・感情調節に強み。
💡
実際の治療場面では、グラウンディングとマインドフルネスは組み合わせて使われることが多く、互いを補い合っています。
NEUROSCIENCE

グラウンディングの神経科学的メカニズム

グラウンディングがなぜ有効なのか——扁桃体・前頭前皮質・自律神経・迷走神経・ポリヴェーガル理論の観点から、心身が落ち着いていく仕組みを解説します。

扁桃体と脅威反応

扁桃体と「脅威反応」の仕組み

グラウンディングがなぜ有効なのかを理解するには、まず脳の「脅威反応システム」を知る必要があります。

脳の深部にある扁桃体(へんとうたい)は、危険を察知する「警報装置」として機能しています。トラウマを抱えている方の脳では、この扁桃体が過敏になっており、過去のトラウマに関連した刺激(特定の音、匂い、状況)に反応して、まるで今まさに危機が起きているかのように「緊急警報」を発令します。この反応が、フラッシュバック・パニック・解離といった症状として現れます。

扁桃体が警報を発すると、身体は「闘争・逃走・凍りつき」反応に入ります。心拍数が上がり、筋肉が緊張し、消化機能が抑制され、思考力・判断力を担う前頭前皮質の機能が低下します。「理性的に考えられない」「パニックが止まらない」という状態は、まさにこの状態です。

副交感神経と迷走神経

副交感神経・迷走神経とグラウンディング

グラウンディングは、五感への意図的な注意を通じて、自律神経系のバランスを変える効果があります。

自律神経系は、交感神経(アクセル)副交感神経(ブレーキ)の二つから成り立っています。ストレスやトラウマ反応のとき、交感神経が過剰に活性化された状態(過覚醒)になっています。グラウンディングによって五感に注意を向けると、副交感神経が活性化され、心拍数が低下し、呼吸が落ち着き、筋肉の緊張が和らぎます。

特に注目されているのが、迷走神経(めいそうしんけい)の役割です。迷走神経は副交感神経の主要な神経であり、脳と身体の各臓器をつなぐ「双方向ハイウェイ」として機能しています。深呼吸、足の裏で地面を踏みしめる感覚への注意、冷たい水で顔を洗うといったグラウンディング技法は、迷走神経を介して副交感神経系を活性化させ、扁桃体の過剰な反応を抑制する効果があると考えられています。

ポリヴェーガル理論

ポリヴェーガル理論とグラウンディング

神経生理学者のスティーブン・ポージェス博士が1994年に提唱したポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)は、グラウンディングの神経科学的な基盤を理解する上で重要なフレームワークです。哺乳動物の自律神経系を3つの階層として捉えます。

🌿
腹側迷走神経複合体(社会的関与システム)
安全・安心を感じているとき、人との交流が自然にでき、思考も落ち着いている状態。副交感神経が優位。
交感神経系(闘争・逃走システム)
危険を感じるとき、心拍数増加・筋肉緊張・過覚醒が起きる。パニックや強い怒りの状態。
背側迷走神経複合体(凍りつきシステム)
逃げることも戦うこともできないと判断したとき、身体が「シャットダウン」する。解離、麻痺感、感覚の遮断。

グラウンディングは、「交感神経優位」や「背側迷走神経優位」の状態から、「腹側迷走神経複合体」が優位な安全・安心状態へと神経系を移行させることを目的としています。五感への注意、身体への接地感、呼吸への集中といったグラウンディング技法が、神経系に「今ここは安全だ」というシグナルを送る手がかりとなるのです。

脳への影響

「今ここ」への意識切り替えが脳に与える影響

グラウンディングの実践中に起きる脳の変化についても、研究によってさまざまなことが分かってきています。

  • 扁桃体感覚的な注意(五感への意図的な集中)は、扁桃体の過剰な反応を抑制し、感情的な反応性を低下させることが神経画像研究で示されています。
  • 前頭前皮質グラウンディング中に思考や感覚に注意を向けることで、感情調節や意思決定を担う前頭前皮質の活動が回復し、「理性的に考える力」が戻ってきます。
  • 島皮質身体内部の感覚を意識することで、「今この身体に宿っている」という内受容感覚(interoception)が高まり、解離状態から現実へ戻る助けになります。
TYPES

グラウンディングの種類と分類

グラウンディング技法は多種多様ですが、大きく「感覚的・身体的・認知的」の3つに分類できます。状況に応じた使い分けがポイントです。

3つの大分類

グラウンディングの3つの大分類

グラウンディング技法は多種多様ですが、大きく次の3つのカテゴリに分類できます。これらはそれぞれ独立した技法として使うこともでき、また組み合わせることも可能です。「どのカテゴリが自分に合うか」は個人差があるため、いくつか試してみることが大切です。

👁
感覚的グラウンディング
五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を使って「今ここ」の環境を認識することで、現実とのつながりを回復する技法。代表例は5-4-3-2-1法。
🦶
身体的グラウンディング
身体の動き、姿勢、呼吸、接地感に意識を向けることで、身体を通じて「今ここ」に戻る技法。足裏で地面を踏みしめる、水に触れるなど。
🧠
認知的グラウンディング
思考・言語・記憶などの認知的な操作を使って「今ここ」に意識を固定する技法。「今日の日付を声に出す」「カテゴリ別に言葉を挙げる」など。
状況別の使い分け

状況別に使い分けるグラウンディング

グラウンディング技法は、置かれている状況によって使いやすいものが異なります。

📍職場・公共の場でパニックになりそう

おすすめの種類:感覚的・認知的

具体例:5-4-3-2-1法、今日の日付を心の中で唱える

PRACTICE

3カテゴリ別の実践法

感覚的(視覚・触覚・嗅覚味覚・聴覚)/身体的(呼吸・姿勢動き・ボディスキャン)/認知的(言語化・カテゴリ別リスト・安全な場所)の具体的なやり方を網羅します。

感覚的・視覚

視覚を使ったグラウンディング

視覚は最も簡単にアクセスできる感覚の一つです。周囲に目を向けることで、「今ここ」という現実環境に意識を向けることができます。

👁
色探し
周囲を見渡して、特定の色(例:青いもの、赤いもの)をできるだけたくさん見つける。5つ・7つと数を決めると集中しやすい。
👁
ものの詳細観察
手近にある一つの物(コップ、ペン、植物)を取り上げ、形・色・模様・素材・光の当たり方などをできる限り詳しく観察する。
👁
部屋の四隅に目を向ける
順番に部屋の四つの角に視線を送り、そこに何があるかを確認する。環境の「今」を脳に伝える。
👁
なじみあるものを見る
写真、好きなアート、自然の風景など、安心感を持てるものに意識的に視線を向ける。
感覚的・触覚

触覚を使ったグラウンディング

触覚は最も直接的に「現在の身体」と「環境」のつながりを感じさせる感覚です。解離状態やフラッシュバックへの対処に特に有効です。

足裏を踏みしめる
椅子に座った状態で、両足の裏を床にしっかりと押しつける。靴を脱いで直接床の感触を感じるとさらに効果的。「今、私は地面の上にいる」と意識する。
冷たい水・氷
蛇口から冷たい水を手に受けて手首や顔を洗う。または氷のかけらを握る。強い身体感覚が現実へのアンカー(錨)となる。
温かさを感じる
温かいお茶やコーヒーのカップを両手で包む。温かさと重さが「今この瞬間」を実感させる。
テクスチャーに触れる
毛布、ざらざらした壁、なめらかな机の表面など、さまざまな質感に触れてその違いを感じる。布の織り目を指でなぞる。
セルフタッチ
両手を組んで軽く押し合う。太ももに手を当てて圧力を感じる。自分の肩や腕を軽くさすって「身体が今ここにある」ことを確認する。
グラウンディングストーン
ポケットに小石や丸いビーズなどを入れておき、不安を感じたときにそれを握って質感を感じる。持ち歩けるグラウンディングツールとして使える。
感覚的・嗅覚味覚

嗅覚・味覚を使ったグラウンディング

嗅覚は脳の感情・記憶を司る部位(扁桃体・海馬)と直接つながっており、即座に感情状態に影響を与える力があります。

👃
好きな香り
アロマオイル(ラベンダー、ベルガモット、ユーカリなど)を嗅ぐ。ハンドクリームや石けんの香りでも可。「今この香りを感じている」と意識する。
👃
コーヒー・お茶
温かい飲み物の香りをゆっくり吸い込む。落ち着いた時間との記憶を引き出す。
👃
味覚グラウンディング
強い風味のもの(レモン、ミント、辛い食べ物)をひとくち食べて、その味・酸味・温度に意識を集中させる。急激な感覚入力が脳の覚醒状態を変える。
👃
水を飲む
冷たい水や温かいお湯を一口ずつゆっくり飲む。その温度、喉を通る感覚に意識を向ける。
感覚的・聴覚

聴覚を使ったグラウンディング

👂
環境音を聴く
今いる場所で聞こえる音を一つひとつ意識的に聴く。エアコンの音、外の車の音、鳥の声、自分の呼吸音など。
👂
音楽
好きな曲や落ち着く音楽を流し、楽器の音、リズム、歌詞に注意を向ける。
👂
声を出す
自分の名前、今日の日付、今見えているものの名前を声に出して言う。自分の声という聴覚刺激が現在とのつながりを強める。
👂
自然音
雨音、波の音、森の音など、自然音を聴く(スマートフォンのアプリや動画でも可)。
身体的・呼吸

呼吸によるグラウンディング

呼吸は意識的にコントロールできる唯一の自律神経機能であり、副交感神経系を直接活性化させる最も手軽な手段です。

🌬
腹式呼吸
鼻からゆっくり4秒かけて息を吸い、お腹が膨らむのを感じる。4秒息を止め、口から6〜8秒かけてゆっくり吐く。「吸う時間より吐く時間を長くする」ことが副交感神経の活性化のポイント。
🌬
4-7-8呼吸法
4秒で吸い、7秒止め、8秒で吐く。強い不安・怒り・過覚醒状態に特に有効とされる技法。
🌬
ボックスブリージング(四角呼吸)
4秒で吸う→4秒止める→4秒で吐く→4秒止めるを1サイクルとして繰り返す。米国海軍特殊部隊(SEALs)でも使用される呼吸法。
🌬
鼻呼吸の意識
口呼吸より鼻呼吸の方が副交感神経系の活性化に効果的。まず「鼻で呼吸する」ことを意識するだけでも効果がある。
⚠️
呼吸法の注意点過呼吸(急いで浅く速く息をする状態)は、不安やパニックをむしろ悪化させることがあります。呼吸グラウンディングは「ゆっくり・深く・吐く時間を長く」が基本です。呼吸に過度に集中することで不安が増す方は、まず足裏への意識など他の感覚的グラウンディングから始めることをお勧めします。
身体的・姿勢動き

姿勢・動きによるグラウンディング

身体の姿勢や動きを変えることで、神経系の状態を変えることができます。

🦶
グラウンデッド・スタンス(接地した立ち方)
肩幅程度に足を開いて立ち、両足の裏でしっかり地面を踏みしめる。「大地とつながっている」感覚を意識的に持つ。左右の足の裏に交互に体重をかけてみる。
🦶
ウォーキング
ゆっくりとした歩行を行いながら、一歩ごとに足裏が地面に触れる感覚に集中する。頭の中の思考ではなく、身体の動きに注意を向ける。
🦶
ストレッチ・身体ほぐし
首をゆっくり回す、肩甲骨を動かす、手指を開いたり閉じたりする。身体への意識を高め、緊張を緩める。
🦶
クロス・ラテラル・ムーブメント
右手で左膝をタッチ、次に左手で右膝をタッチするなど、身体の左右を交差させる動き。両半球の連携を促し、脳の過覚醒を落ち着かせる効果がある。
🦶
タッピング(EFTタッピング)
眉頭・目の外側・鼻の下・顎・鎖骨下・脇の下などのツボを指先で軽くタップしながら、安心感を呼び起こす言葉を唱える。エネルギー心理学に基づく技法で、不安・トラウマ症状の軽減効果が研究でも報告されている。
身体的・ボディスキャン

ボディスキャンによるグラウンディング

ボディスキャンは、頭のてっぺんから足の先まで、身体の各部位の感覚に順番に注意を向ける技法です。解離や現実感の低下に特に有効です。

  • まず目を閉じるか、視線を柔らかく床に向ける
  • 頭部から始め、顔・首・肩・胸・お腹・背中・腕・手・腰・脚・足へと注意を移動させる
  • 各部位で「緊張しているか」「温かいか冷たいか」「圧迫感はあるか」などを観察する
  • ただ感覚を観察するだけでよい。「変えなければ」と思わず、あるがままを認識する
  • 全体で5〜15分ほど。短縮バージョンでは1分程度でも実施可能
認知的・言語化

「今ここ」を言語化する

思考・言語を使ったグラウンディングは、パニック状態でも比較的実施しやすく、外出先など場所を選ばずに実践できます。

💬
現在の状況の言語化
「今は〇〇年〇月〇日、〇時〇分だ」「私は今〇〇にいる」「私は〇〇という名前だ」「私は今安全だ」と、現在の事実を心の中や声に出して言う。現在の文脈を脳に伝えることで、過去のトラウマ記憶から切り離す。
💬
「今」という言葉を意識する
「今、私はこの椅子に座っている」「今、私は呼吸している」「今、私は安全な場所にいる」と「今」という時制を意識して使う。
💬
日付・時刻・場所の確認
スマートフォンやカレンダーを見て、今の日付と時刻を確認する。過去の記憶の「時制」と現在の「時制」が異なることを脳に伝える。
認知的・カテゴリ別

カテゴリ別リストアップ

特定のカテゴリに属するものを思い浮かべる作業は、前頭前皮質(思考を担う部位)を活性化させ、過覚醒した扁桃体の反応を落ち着かせます。

📝
動物名を言う
「犬」「猫」「ライオン」「ペンギン」……アルファベット順や50音順でできるだけ多く挙げる。
📝
食べ物の名前
特定の色の食べ物(赤いもの・黄色いもの)や、特定の国の料理名を順番に挙げる。
📝
好きなもののリスト
好きな映画・音楽・本・旅行先・思い出の食べ物などを頭の中でリストアップする。ポジティブな記憶・感情とつながることで安心感が生まれる。
📝
計算・逆数え
100から7ずつ引く(100→93→86→79……)、または好きな歌詞を最初から思い出す。作業記憶(ワーキングメモリ)を使うことで、過去の記憶や思考のループから離れやすくなる。
認知的・安全な場所

「安全な場所」のイメージを作る

心の中に「安全な場所(セーフプレイス)」のイメージを作り、強いストレス時にそこへ「避難する」技法もグラウンディングの一種です。

  • 自分が穏やかで安全に感じられる場所(実在しても想像上の場所でもよい)をできるだけ詳細に思い描く
  • その場所の色、音、気温、匂い、質感を五感で想像する
  • 「その場所にいると、身体のどこがリラックスするか」も意識する
  • 普段から練習しておき、いざパニックやフラッシュバックのときにすぐアクセスできるようにしておく
⚠️
複雑なトラウマを持つ方はイメージ療法が逆効果になる場合があります。EMDR療法やトラウマ専門カウンセリングの中で、専門家の指導のもとで行うことが推奨されています。
5-4-3-2-1 METHOD

5-4-3-2-1法:最も広く使われる技法

医療機関・カウンセリング現場・学校・職場など多様な場面で活用されている代表的グラウンディング技法。「見えるものを5つ→触れるものを4つ→聞こえるものを3つ→嗅げるものを2つ→味わえるものを1つ」という順序が名称の由来です。

5-4-3-2-1法とは

5-4-3-2-1法とは

5-4-3-2-1法(Five Senses Grounding)は、グラウンディング技法の中で最も広く知られ、医療機関・カウンセリング現場・学校・職場など多様な場面で活用されている技法です。五感を順番に使って「今ここ」の環境に意識を向けることで、フラッシュバック・パニック・解離・強い不安から現在へと意識を引き戻します。

名称は「見えるものを5つ→触れるものを4つ→聞こえるものを3つ→嗅げるものを2つ→味わえるものを1つ」という手順の数字の並びから来ています。

詳しいやり方

5-4-3-2-1法の詳しいやり方

以下の手順で実践します。はじめはゆっくりで構いません。

STEP 0
まず深呼吸を1〜3回
鼻から吸って口からゆっくり吐く。これにより、この後の感覚への注意が集中しやすくなる。
準備
STEP 1
視覚(5つ)
今、この場所で目に見えているものを5つ見つける。形・色・大きさ・位置など詳しく観察する。「窓の外の木。葉が緑色で光っている」「机の上のペン。黒いキャップがついている」など具体的に。
5つ
STEP 2
触覚(4つ)
今、身体が触れている・感じているものを4つ確認する。「足の裏が床のひんやりした感触」「背中がイスの背もたれに当たっている感覚」「シャツの布が腕の皮膚に触れている」「手のひらの温かさ」など。
4つ
STEP 3
聴覚(3つ)
今聞こえている音を3つ挙げる。遠くの音・近くの音・環境音など。「エアコンの低い音」「外から聞こえる車の音」「自分の呼吸音」など。
3つ
STEP 4
嗅覚(2つ)
今感じられる匂いを2つ見つける。最初は「何も匂わない」と感じるかもしれないが、しばらく鼻を働かせると気づく。「紙の乾いた匂い」「空気の匂い」など。
2つ
STEP 5
味覚(1つ)
今、口の中で感じられる味を1つ感じる。唇を舌でなでる、水を一口飲む、など。「何もない(無味)」でも構わない。
1つ
STEP 6
最後に深呼吸
もう一度深呼吸をして、「今ここ、私は安全だ」と心の中で確認する。
締め
5-4-3-2-1法のアレンジ嗅覚や味覚が分かりにくいときは「聴覚・触覚・視覚」の3感覚でも構いません。また慣れてきたら「5つ見えるもの→5つ触れるもの→5つ聞こえるもの」と同じ感覚で5つずつ行うバリエーションもあります。重要なのは「技法を完璧にこなすこと」ではなく、「今ここへ意識を戻すこと」です。
有効な場面

5-4-3-2-1法が有効な場面

  • フラッシュバックが始まったとき(過去の記憶から現在へ戻る)
  • パニック発作の前触れを感じたとき(心拍数が上がり始めたとき)
  • 解離して「現実感がない」と感じるとき
  • 大事な会議・試験・面接などの前の緊張
  • 過去の後悔や未来の心配で頭がいっぱいになったとき
  • 強い感情(怒り・悲しみ)で思考が停止しているとき
APPLICATION

症状別のグラウンディング活用

PTSD・パニック発作・解離症状・複雑性PTSD——それぞれの症状で「今ここ」に戻るための具体的な手順と注意点を解説します。

PTSD

PTSDへのグラウンディング活用

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、生命の危機を脅かすような体験(暴力、事故、災害、虐待など)を経験した後に、フラッシュバック・回避・過覚醒・認知の変化といった症状が続く障害です。

PTSDの最も苦しい症状の一つがフラッシュバックです。過去のトラウマ体験が映像・音・身体感覚とともに突然よみがえり、「今まさにその体験が起きている」かのような感覚になります。このとき脳は「過去の危険」を「現在進行中の危険」として処理しており、全身が緊急状態に入ります。

グラウンディングはここで重要な役割を果たします。五感や身体感覚を通じて「今ここ」の環境に意識を引き戻すことで、脳に「今は安全だ」というシグナルを送り、フラッシュバックの強度を和らげ、段階的に現在に戻ってくることを助けます。

フラッシュバック対処の段階的グラウンディング:事前に対処プランを作成し、練習しておくことが重要です。

STEP 1
気づく
「これはフラッシュバックだ。過去の記憶だ。今は別の場所、別の時間にいる」と自分に言い聞かせる。フラッシュバックを「現実」ではなく「記憶」として認識することが最初のステップ。
認識
STEP 2
身体的接地
両足を床に押しつけ、地面の感触に集中する。「今ここで足裏が地面に触れている」という感覚を確認する。
接地
STEP 3
呼吸を整える
ゆっくりと深い呼吸(吐く時間を長くする)を3〜5回行う。
呼吸
STEP 4
5-4-3-2-1法
周囲の五感情報を順番に確認する。「今ここで見えているものが5つある」という事実が、現在という時制を強固にする。
五感
STEP 5
安全を確認する
「今は〇〇年〇月〇日。私は今〇〇にいる。安全だ」と声に出す。
言語化
⚠️
重要な注意グラウンディングはPTSDの症状管理に有効なセルフケアですが、PTSDの根本的な治療には専門家による心理療法(持続エクスポージャー療法・認知処理療法・EMDRなど)が必要です。フラッシュバックが頻繁に起きる場合は、精神科・心療内科または専門カウンセラーへの相談を強くお勧めします。

PTSD治療の前後にグラウンディングを使う:EMDR療法や持続エクスポージャー療法(PE)などのトラウマ処理を行うセッションの前後には、グラウンディングが必ず使われます。

  • セッション前トラウマ記憶にアクセスする前に、グラウンディングで「今ここの安全感」を確立しておく。神経系を安定させた状態でトラウマに向き合うことで、再トラウマ化を防ぐ。
  • セッション中トラウマ記憶が非常に強くなったとき(窓外作業)、グラウンディングで現在に戻る。トラウマと現在の安全感の間を行き来しながら処理を進める。
  • セッション後ナラティブ(物語の語り)が終了した後、必ずグラウンディングを行い、患者の意識が現在にあることを確認してからセッションを終える。
パニック発作

パニック発作へのグラウンディング活用

パニック発作は、突然の強烈な恐怖感とともに、動悸・息切れ・胸の締め付け・手足のしびれ・めまい・「死ぬかもしれない」という感覚が数分間続く状態です。身体的な危険が実際にはないにもかかわらず、脳が誤って「生命の危機」と判断し、全力で緊急反応を起動した状態です。

パニック発作のとき、過呼吸(浅くて速い呼吸)によって血中の二酸化炭素濃度が下がり、さらにしびれやめまいが悪化します。これが「このまま死ぬ・倒れる」という恐怖をさらに強め、パニックが増幅するという悪循環が生じます。

グラウンディングはこの悪循環を断ち切ることができます。呼吸を意識的にゆっくりにし、身体や周囲の感覚に注意を向けることで、扁桃体の過剰反応を沈静化させ、副交感神経を活性化させます。

パニック発作が起きたときの手順:

STEP 1
「これはパニック発作だ」と認識する
パニック発作は不快だが危険ではない。「死ぬことはない」「これは発作で、数分で収まる」と自分に伝える。
認識
STEP 2
安全な場所に座る
可能なら椅子に座り、背中をもたれさせる。両足を床に平らに着ける。
姿勢
STEP 3
呼吸を整える
鼻から4秒吸い、口から6〜8秒かけてゆっくり吐く。「吐くことに集中する」ことが最優先。
呼吸
STEP 4
足裏を踏みしめる
床に足の裏をしっかり押しつけ、「今ここで地面を感じている」という感覚に意識を向ける。
接地
STEP 5
5-4-3-2-1法を行う
周囲の5つのものを見る、4つの触感を確認する……と順番に実施する。
五感
STEP 6
冷たい刺激を使う
冷たい水で手首や顔を洗う(可能であれば)。強い感覚刺激が迷走神経を刺激し、パニック状態を落ち着かせる。
刺激

予防としてのグラウンディング習慣:パニック発作を起こしやすい方には、発作が起きたときの対処だけでなく、日常的なグラウンディング習慣による予防も効果的です。

  • 毎朝起床時に1〜3分間のグラウンディング(足裏を踏みしめる、深呼吸など)を行う
  • 不安を感じやすい状況の前(外出前・会議前など)に事前グラウンディングを実施する
  • グラウンディングストーン(お守り代わりの小石やキーホルダーなど)をポケットに入れておき、不安を感じたら触れる習慣をつける
  • パニック発作が頻繁に起きる場合は、認知行動療法(CBT)や精神科の専門的治療も受けることを検討する
解離症状

解離症状へのグラウンディング活用

解離(Dissociation)とは、意識・記憶・感覚・自己同一性などが、通常のつながりから切り離される現象です。トラウマや極度のストレスに対する防衛反応として起きることが多く、「自分が自分でない感じ(離人症)」「現実がぼんやり夢のように感じる(現実感消失)」「記憶の空白」「感覚の麻痺」などとして体験されます。

解離は、耐えられないほどの恐怖や苦痛から心を守るための脳の自動的な応答です。しかし、解離状態では現実への認識が歪み、日常生活・対人関係・安全管理に影響が出ることがあります。グラウンディングは、解離から現実へと意識を引き戻す主要な技法として、トラウマ治療の場面で広く使われています。

解離の程度が強いときは、「思考」よりも「身体感覚」へのアプローチが効果的です。強い感覚入力が解離した状態から現実へ引き戻すアンカー(錨)となります。

氷を握る
氷のかけらを手のひらに乗せ、その冷たさ・痛みに近い強い感覚に集中する。解離状態では感覚が麻痺していることがあるため、強い感覚刺激が必要になる場合がある。
ゴムバンドをはじく
手首に緩くつけたゴムバンドを軽くはじき、その感覚に意識を向ける(自傷ではなく、感覚のアンカーとして使う。力加減に注意)。
足を踏みならす
両足で床をしっかり踏みならし、振動と音を感じる。「今ここに身体がある」という感覚を取り戻す。
冷水で顔を洗う
洗面台で冷たい水を顔に当てる。ダイブリフレックス(哺乳類性の反応)が刺激され、心拍数が下がり、意識が現実へ戻ってくる。
強い味や匂い
ミントや柑橘系の強い香り、レモンや梅干しなどの強い味を使う。感覚を呼び覚ます効果がある。
⚠️
解離症状が重い場合解離症状が頻繁・重篤な場合(記憶の空白が長い、複数の自己感覚がある、日常生活への支障が著しいなど)は、解離性障害の専門的な評価と治療が必要です。グラウンディングだけで対処しようとせず、精神科・心療内科または専門の心理士に相談してください。
複雑性PTSD

複雑性PTSDとグラウンディング

複雑性PTSD(Complex PTSD, C-PTSD)は、単回の出来事によるPTSDとは異なり、長期にわたる反復的なトラウマ(幼少期の虐待・ネグレクト、家庭内暴力、人身売買、長期監禁など)によって引き起こされる状態です。WHO(世界保健機関)は2018年にICD-11で複雑性PTSDを独立した診断名として認定しました。

複雑性PTSDでは、PTSDの症状(フラッシュバック・回避・過覚醒)に加えて、次のような特徴が見られます。

  • 感情調節の困難感情が爆発しやすい、または感情が麻痺して何も感じない。感情を自分でコントロールすることが非常に難しい。
  • 自己否定・深刻な羞恥心「自分は壊れている」「自分は汚い」「誰にも愛されない存在だ」という根深い信念。
  • 対人関係の困難信頼関係を築くことが難しい、過度に依存する・距離を置く、虐待的な関係に引き込まれやすい。
  • 解離症状単純PTSDより解離が頻繁かつ重篤になりやすい。

複雑性PTSDの治療は「三相モデル(Three-Phase Treatment)」と呼ばれるアプローチが標準とされており、第一相(安全の確立とスキルの構築)にグラウンディングが中心的に位置づけられています。

PHASE 1
安全・スキル構築
グラウンディング、感情調節スキル、対人関係スキルを習得する。トラウマ記憶を掘り下げる前に、まずこの段階をしっかりと確立することが必須。
第一相
PHASE 2
トラウマ記憶の処理
第一相で習得したグラウンディングスキルを安全網として使いながら、過去のトラウマに取り組む。
第二相
PHASE 3
統合・再建
新しい人生のスタイルを確立し、対人関係や自己像を再構築する。
第三相

複雑性PTSDを持つ方は、フラッシュバックや解離が突然強く起きることが多いため、「ウィンドウ・オブ・トレランス(耐性の窓)」というコンセプトと組み合わせてグラウンディングを使うことが推奨されます。感情・覚醒レベルが「耐性の窓」の範囲内に収まるよう、グラウンディングで調節しながら治療を進めます。

TREATMENT POSITION

トラウマ治療における位置づけと効果・限界

主要なトラウマ治療法(EMDR・PE・CPT・DBT・STAIR-NST・ソマティック・エクスペリエンシング)における位置づけ、心理的応急処置(PFA)との関わり、効果と限界を解説します。

代表的トラウマ治療

代表的なトラウマ治療法とグラウンディング

グラウンディングは、現在エビデンス(科学的根拠)が確立されている主要なトラウマ治療法において、共通して重要な技法として位置づけられています。

  • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)「準備段階」でリソース(安全な場所)の確立とグラウンディング技法を習得。セッション冒頭と終了時に必ず実施。
  • PE(持続エクスポージャー療法)セッション前後の安定化に使用。感情温度計と組み合わせて、セッション中の覚醒レベルを調整する。
  • CPT(認知処理療法)セッション前後のルーティンとして導入。認知的グラウンディングと組み合わせやすい構造。
  • DBT(弁証法的行動療法)感情調節スキルの核心技法として位置づけられる。「苦痛耐性スキル」の一部としてグラウンディングを教える。
  • STAIR-NST(複雑性PTSD向け)第一段階のSTAIRで感情調節スキルとしてグラウンディングを集中的に練習。ナラティブ(物語の語り)の前後に実施。
  • ソマティック・エクスペリエンシング身体感覚へのトラッキング(追跡)を通じて、神経系の自己調節能力を高める。グラウンディングとほぼ同義の身体志向アプローチ。
PFA

心理的応急処置(PFA)とグラウンディング

災害・事故・暴力などの直後、急性ストレス状態にある方への支援として「心理的応急処置(PFA: Psychological First Aid)」があります。このPFAのスキルの一つとして、グラウンディング技法が組み込まれています。

特に東日本大震災(2011年)以降、日本でもトラウマに特化したグラウンディングの普及が進み、支援者・医療従事者・学校関係者向けのPFAトレーニングにグラウンディング技法の習得が含まれるようになっています。

主な効果

グラウンディングの主な効果と科学的根拠

グラウンディング技法の効果として、研究・臨床実践の場から以下のような知見が報告されています。

  • 不安・ストレス軽減五感への意図的な注意と深呼吸は、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌を抑制し、不安・緊張感を短時間で軽減します。複数の研究でマインドフルベースのグラウンディングによる不安症状の改善が示されています。
  • フラッシュバック抑制PTSDのフラッシュバック管理においてグラウンディングは標準的な技法として位置づけられており、EMDR・PE・STAIRなどエビデンスベースの治療に組み込まれています。
  • 感情調節の改善DBT(弁証法的行動療法)の研究では、グラウンディングを含む感情調節スキルトレーニングにより、感情的爆発・自傷行為・衝動的行動が有意に減少することが示されています。
  • 解離症状の軽減身体感覚への意図的な注意は、解離症状(離人症・現実感消失)の軽減に有効とされており、複雑性PTSDの治療ガイドラインでも推奨されています。
限界と注意点

グラウンディングの限界と注意点

グラウンディングは多くの場面で有効な技法ですが、いくつかの重要な注意点があります。

  • 症状管理であって根治ではないグラウンディングはPTSD・パニック障害・解離症状などの「症状を管理する」ための技法であり、根本的な治療の代替にはなりません。専門的な治療と組み合わせることが重要です。
  • 回避ツールになるリスクグラウンディングを「つらい感情から逃げるための手段」として常に使ってしまうと、感情の回避が強まり、長期的にはPTSD症状が悪化することがあります。専門家の指導のもとで、「感情を感じながら安定を保つ」バランスを学ぶことが大切です。
  • 身体感覚の強調が逆効果になる場合一部のトラウマを持つ方(特に身体に関するトラウマを持つ方)は、身体への注意が解離やフラッシュバックを引き起こすことがあります。このような場合は、認知的グラウンディングから始めるか、専門家の指導を受けてください。
  • 重篤な状態では単独での対処は限界がある重度のPTSD、複雑性PTSD、解離性同一性障害(DID)などの場合、グラウンディングだけでは対処しきれないことがあります。
DAILY LIFE

日常生活への組み込み方・子ども・職場・学校

毎日のルーティン化、グラウンディングメニューの作成、子ども向けの工夫、職場・学校での実践、効きにくいときの対処までを実践的にまとめます。

毎日のルーティン

毎日のルーティンにグラウンディングを取り入れる

グラウンディングは「何かが起きたときの緊急対処」としてだけでなく、毎日のルーティンに組み込むことで、神経系の基礎的な安定性を高める「予防的セルフケア」としても機能します。

起床直後(3分)
大地とのつながりを確認
ベッドから出る前に、足裏を床に着けて大地とのつながりを感じる。3回の深腹式呼吸。「今日も私はここにいる」と確認する。
食事のとき
食事のマインドフルネス
食べ物の色・香り・食感・味を意識的に感じながら食べる。「食事のマインドフルネス」はグラウンディングの一形態。
食事
通勤・移動中
今ここにいる練習
スマートフォンを見ずに、電車の中で感じる振動・周囲の音・車窓の景色に意識を向ける。「今ここ」にいる練習。
移動
仕事の休憩時間(5分)
自然に目を向ける
スクリーンから目を離し、窓の外の自然(空・木・光)を観察する。または廊下を意識的にゆっくり歩く。
休憩
就寝前(5〜10分)
ボディスキャン
ボディスキャン。頭から足まで各部位の感覚に順番に注意を向け、力を抜いていく。1日のストレスを手放して眠りに入る準備をする。
グラウンディングメニュー

「グラウンディングメニュー」を作る

自分だけの「グラウンディングメニュー」を事前に作っておくことをお勧めします。パニックや強い感情の最中には判断力が低下するため、「何をすれば良いか」をあらかじめリスト化しておくことが効果的です。以下を参考に、自分に合う技法を選んでリストを作ってみてください。

  • 感覚的グラウンディング5-4-3-2-1法、好きな香りを嗅ぐ、冷たい水で顔を洗う
  • 身体的グラウンディング足裏を踏みしめる、4-7-8呼吸法、バタフライハグ
  • 認知的グラウンディング今日の日付を言う、好きな動物を50音順に挙げる、「今は安全だ」と声に出す
  • 繋がりグラウンディング信頼できる人に連絡する、ペットを撫でる、好きな音楽をかける
💡
リストをスマートフォンのメモに保存するか、小さなカードに書いて財布に入れておくと、いざというときにすぐ使えます。
子ども

子どもへのグラウンディング活用

子どもも大人と同様にストレス・トラウマ・不安を体験します。しかし子どもは感情を言語化する能力がまだ発達途上にあるため、言葉による説明だけでなく、遊びや体験を通じたグラウンディングが特に有効です。岩手医科大学いわてこどもケアセンターなど、子どもの心のケアを専門とする機関でも、グラウンディングが支援ツールとして活用されています。

子ども向けグラウンディングには次のような効果が期待できます。

  • 感情が大きくなったとき(怒り・パニック・悲しみ)に自分で落ち着ける力をつける
  • 不安や緊張への対処スキルを早期に習得し、精神的レジリエンスを高める
  • スクールカウンセラーや保護者が子どもの感情サポートに使える具体的なツールになる

子ども向けグラウンディング技法:

🧸
スーパーヒーローポーズ
足を肩幅に開いて両手を腰に当て、大きく深呼吸する。身体を大きくすることで自信感と安定感が生まれる。6〜10歳の子どもに親しみやすい。
🧸
バタフライハグ
両腕を胸の前で交差させ、左右の肩を交互に軽くたたく。EMDRの「バイラテラル・スティミュレーション(両側性刺激)」に基づいた技法で、不安・悲しみを和らげる効果がある。
🧸
グラウンディングゲーム
「今、この部屋で赤いものをいくつ見つけられる?」「今の靴下の感触はどんな感じ?」など、ゲーム感覚で五感に注意を向ける。
🧸
お腹に手を置く呼吸
お腹に手を置き、息を吸うときにお腹が手を押し上げるのを感じる腹式呼吸。子どもには「お腹をふくらませる」という表現が伝わりやすい。
🧸
お気に入りリスト
好きな食べ物・好きな場所・好きなキャラクターを頭の中でリストアップする認知的グラウンディング。就寝前の不安対処にも有効。

保護者・教師ができること:

  • グラウンディングを「特別なことをしなければならない」と思わせず、日常的な活動(朝の深呼吸、帰宅後の「今日感じたこと話し合い」など)に組み込む
  • 保護者・教師自身がグラウンディングを実践し、「大人も使うスキル」として見せる(モデリング)
  • 不安やパニックを起こした子どもに対して「なぜパニックになったの?」と責めず、まずグラウンディングに誘う。「足を床に着けて。一緒に呼吸しよう」と声かけする
職場

職場でのグラウンディング活用場面

職場は多くのストレス要因(締め切り・対人葛藤・評価への不安・情報過多)が集まる環境です。グラウンディングは、他の人に知られることなく、数分間で実践できるため職場のメンタルヘルス維持に役立ちます。

💼
プレゼン・会議前
トイレでの5-4-3-2-1法、椅子に座って足裏を踏みしめる。「緊張は準備ができているサインだ」と言語化する認知的グラウンディング。
💼
上司・同僚との衝突後
席を離れて水を飲む、廊下を歩く。怒りが高まったときに身体的グラウンディングで感情を落ち着かせ、冷静な状態で話し合いに戻る。
💼
集中力が切れたとき
1〜2分の深呼吸、窓の外の景色を観察する。マインドフルな休憩として取り入れる。
💼
在宅ワークでの過覚醒
仕事と生活の境界が曖昧になりやすい在宅ワーク環境では、仕事の開始・終了時にグラウンディングを行うことでオン・オフの切り替えができる。
学校

学校でのグラウンディング活用

テスト・発表・いじめ・友人関係のトラブルなど、学校場面でも子ども・青年は多くのストレスにさらされています。スクールカウンセラーや担任教師がグラウンディングを知っておくことで、その場での即応が可能になります。

🎓
テスト中のパニック
問題が解けないときに「一度ペンを置いて、足を床に踏みしめ、3回深呼吸してから再開」という手順を事前に伝えておく。
🎓
いじめ・トラブル後の落ち着き
相談室でスクールカウンセラーとともに5-4-3-2-1法を実施。感情が落ち着いた後でエピソードを振り返る。
🎓
朝のホームルームに導入
全員で1〜2分の深呼吸や「今日の気分を色で表現する」グラウンディングを行い、1日のスタートを整える学校もあります。
効きにくいとき

グラウンディングが効きにくいとき

グラウンディングを試みても効果を感じにくいことがあります。以下はその主な原因と対処法です。

  • 解離が深すぎる重度の解離状態では感覚が完全に麻痺していることがあり、通常のグラウンディングが届かない場合があります。氷を握る・足を強く踏む・冷たい水で顔を洗うなど、より強い感覚刺激を使う。または専門家に相談する。
  • 身体感覚が恐怖の引き金になる性暴力など身体に関わるトラウマを持つ方は、身体への注意が逆にフラッシュバックを引き起こすことがあります。まず視覚や認知的グラウンディングから始め、身体感覚は専門家の指導のもとで少しずつ練習する。
  • 練習不足グラウンディングは「知っている」だけでは使えません。パニック状態でも使えるよう、穏やかなときに繰り返し練習することが重要です。毎日少しずつ練習することで、危機的な場面でも反射的に使えるようになります。
  • 技法が自分に合っていない感覚的グラウンディングが苦手な人は認知的グラウンディングが合う場合があります。複数の技法を試して「自分に合うもの」を見つけることが大切です。
  • 圧倒されるほどの強いトラウマ反応グラウンディングが手に負えないほどの強い症状には、専門家のサポートが不可欠です。自力での対処に限界を感じたら、精神科・心療内科・専門カウンセラーに相談してください。
FOR PROFESSIONAL HELP

専門家への相談・自立支援医療制度・FAQ

グラウンディングは有効なセルフケアですが、自力で対処しきれないときは専門家のサポートが必要です。相談タイミング、利用できる窓口・制度、よくある質問をまとめます。

相談タイミング

専門家に相談すべきタイミング

グラウンディングは有効なセルフケアですが、次のような状況では専門家への相談を優先してください。

  • フラッシュバックが週に複数回起きており、日常生活に支障が出ている
  • パニック発作が繰り返し起き、外出や仕事を避けるようになっている
  • 解離症状が頻繁で、記憶の空白が長い・生活の管理が困難
  • トラウマ体験から1ヶ月以上経っても、強い恐怖・回避・過覚醒が続いている
  • 「死にたい」「消えたい」という考えが浮かぶ
  • 自傷行為をしてしまっている
  • アルコールや薬物に頼ることが増えた
  • グラウンディングを試みても症状がまったく改善しない
⚠️
今すぐ助けが必要な場合いのちの電話:0120-783-556(24時間・無料)/よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
相談できる専門機関

相談できる専門機関

  • 精神科・心療内科PTSD、パニック障害、解離症状などの診断と医療的治療(薬物療法・心理療法)。まず「フラッシュバックがある」「パニック発作が繰り返す」と伝えて受診を。
  • 公認心理師・臨床心理士認知行動療法・EMDR・ソマティック・アプローチなどの専門的心理療法。継続的な心理支援が可能。
  • 精神保健福祉センター各都道府県に設置。精神科医・心理士・精神保健福祉士による無料相談。電話・来所・オンラインで対応。匿名相談も可能。
  • ココトモチャット形式の無料相談。気軽に悩みを話せる相談窓口。
自立支援医療制度

自立支援医療制度(精神通院医療)について

PTSDや解離症状、パニック障害などで継続的に精神科・心療内科に通院する場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。経済的な理由で受診をためらっている方は、ぜひ活用を検討してください。

  • 申請窓口:市区町村の福祉担当部署
  • 対象:精神疾患(PTSD・パニック障害・解離症状・うつ病・不安障害など)で継続的な通院が必要な方
  • 詳細は最寄りの精神保健福祉センターにお問い合わせください
FAQ

よくある質問

Q. グラウンディングはどれくらいの時間行えばいいですか?

A. 状況によって異なりますが、1〜3分でも十分に効果を感じられる技法がほとんどです。5-4-3-2-1法は5〜10分、腹式呼吸は3〜5分程度が目安です。日常的なセルフケアとしての実施は1日5〜15分、または朝・昼・夜に1〜3分ずつが無理のない範囲です。大切なのは「長時間やること」ではなく「毎日続けること」です。パニックや強い感情のときは、2〜3分でも十分に役立ちます。

Q. グラウンディングは心療内科の治療の代わりになりますか?

A. グラウンディングは非常に有効なセルフケアですが、医療的な治療の代替にはなりません。PTSD・パニック障害・解離症状・複雑性PTSDなどは、専門的な心理療法(EMDR・持続エクスポージャー療法・認知処理療法など)と医療的サポートが根本的な治療に必要な場合がほとんどです。グラウンディングは、専門治療を補助する「日常的なセルフケアツール」として位置づけるのが適切です。症状が繰り返す・日常生活に支障が出ているときは、医療機関への受診をお勧めします。

Q. グラウンディングを試みると逆に不安が強くなることがあります。どうすれば?

A. これは比較的よく見られる反応です。特に、身体感覚への注意が苦手な方(身体にまつわるトラウマを持つ方など)は、ボディスキャンや触覚グラウンディングが逆効果になることがあります。まずは「視覚」を使ったグラウンディング(周囲のものを観察する・色を数える)から始めてみてください。また「呼吸に集中する」ことで逆に不安が高まる場合は、呼吸より「足裏の感触」などに意識を向けてみてください。どの技法が自分に合うかは個人差があります。専門家(臨床心理士など)と一緒に試行錯誤することが最も安全です。

Q. グラウンディングは子どもにも安全ですか?

A. はい、子ども向けにアレンジされたグラウンディング技法は安全で、多くの子どものメンタルヘルス機関で活用されています。岩手医科大学いわてこどもケアセンターなどの専門機関でも子ども向けグラウンディングが提供されています。ただし、トラウマを抱えた子どもへのグラウンディングは、子どもの心理に詳しい専門家の指導のもとで行うことが最も安全です。特に複雑なトラウマを持つ子どもへの適用は、スクールカウンセラーや児童精神科の専門家に相談することをお勧めします。

Q. フラッシュバックのとき、何もできなくなってしまいます。グラウンディングは効きますか?

A. フラッシュバックの最中は思考力が大きく低下するため、複雑な手順のグラウンディングは実施しにくくなります。そのため、「まず足を踏みしめる」「とにかく呼吸を吐く」など、手順が最小限のものをあらかじめ練習しておくことが重要です。また「フラッシュバックが始まった」と気づいたらすぐに実施することで、フラッシュバックが最高潮になる前に食い止めやすくなります。練習を重ねることで、フラッシュバック中でも使えるようになっていきます。繰り返しても改善しない場合は、EMDRや持続エクスポージャー療法などの専門的なトラウマ治療を受けることを強くお勧めします。

Q. グラウンディングとアーシングは同じですか?

A. 混同されることがありますが、心理療法の文脈でのグラウンディングと、スピリチュアル・代替医療の文脈での「アーシング(earthing)」は異なるものです。心理療法のグラウンディングは、五感・身体感覚・認知を使って「今ここ」に意識を引き戻す、科学的根拠のある心理的技法です。一方、アーシングは「素足で地面に触れることで大地の電気を取り込む」とされるスピリチュアル的な概念で、科学的な実証はまだ限られています。この記事で説明しているグラウンディングは、心理療法における意味です。

一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。

フラッシュバックや不安、解離のつらさを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料
精神保健福祉センター各都道府県に設置無料相談・匿名可

自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、精神科・心療内科への通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。詳細は市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターへお問い合わせください。このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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