ひきこもりとは?
定義・原因・段階・8050問題・支援制度・家族の対応・回復プロセスを徹底解説
「ひきこもり」は、さまざまな要因で社会的参加を回避し、原則6か月以上家庭にとどまり続ける状態。推計146万人にのぼる日本の社会課題です。定義・原因・段階・8050問題・支援制度・家族の対応・回復・当事者の声まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
ひきこもりとは
ひきこもりは、さまざまな要因により社会的参加を回避し、原則6か月以上にわたり家庭にとどまり続ける状態を指します。診断名ではなく『状態像』であり、推計146万人にのぼる日本の社会課題です。
ひきこもりの基本的な概念
「ひきこもり」とは、さまざまな要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的に6か月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態を指します。これは特定の精神疾患や障害を表す診断名ではなく、あくまで「状態像」として理解されるものです。
重要なのは、ひきこもりは単なる「怠け」や「甘え」ではないということです。当事者は多くの場合、強い苦痛や葛藤を抱えながらその状態にあり、自分自身でもどうにかしたいと感じていることが少なくありません。外に出られない自分を責め、社会から取り残されていく焦りに苛まれながらも一歩を踏み出すことができない——そのような複雑な心理状態にあることを理解することが、ひきこもりを正しく捉える第一歩です。
ひきこもりという用語は1990年代後半に精神科医の斎藤環氏が著書で広く紹介したことにより一般に知られるようになりました。当初は主に思春期・青年期の若者に見られる現象として注目されましたが、その後の調査で年齢層が大幅に拡大し、現在では40代、50代、さらには60代以上のひきこもり当事者も多数存在することがわかっています。
ひきこもり・不登校・ニート・社会的孤立の違い
ひきこもりは「不登校」「ニート」「社会的孤立」と混同されがちですが、それぞれ異なる概念です。違いを正しく理解することで、本人の状態に合った支援につながります。
不登校の子どもがそのままひきこもりに移行するケースは少なくありませんが、不登校=ひきこもりではありません。学校には行けないが友人との交流はある場合は不登校でもひきこもりではありません。同様に、ニートでも外出して友人と会ったり趣味の活動をしている場合はひきこもりとは言えません。一方で、これらが複合的に重なるケースも多く、「不登校からひきこもりへ」「ニートからひきこもりへ」という経路をたどる人も少なくありません。とくに不登校の長期化はひきこもりへの移行リスクを高める要因として注目されています。
ひきこもりは「病気」なのか
ひきこもりは、WHO(世界保健機関)のICD-11や、アメリカ精神医学会のDSM-5-TRといった国際的な精神疾患の診断基準には含まれていません。つまり、医学的な意味での「病気」や「障害」として正式に分類されているわけではありません。
しかし、ひきこもりの背景には何らかの精神疾患や発達障害が存在するケースが少なくありません。研究によれば、ひきこもり状態にある人の約3分の2に何らかの精神科的問題が認められるとされています。うつ病、社交不安障害、強迫性障害、統合失調症、自閉スペクトラム症(ASD)などが背景にある場合、それらは「一次性ひきこもり」ではなく「二次性ひきこもり」と呼ばれることがあります。
一方で、明確な精神疾患が認められないにもかかわらずひきこもり状態にある人も存在します。このような「一次性ひきこもり」のケースでは、社会的・環境的・心理的要因が複合的に作用していると考えられています。いずれの場合も、ひきこもりという状態そのものが当事者に大きな苦痛をもたらし、二次的にうつ状態や不安障害を引き起こすこともあります。
ひきこもりの歴史的背景
日本でひきこもりが社会問題として認識されるようになったのは、1990年代後半から2000年代にかけてです。バブル崩壊後の長期不況、就職氷河期、終身雇用の崩壊といった社会構造の変化が背景にありました。
2000年には、新潟少女監禁事件やバスジャック事件の加害者がひきこもり経験者であったことが報道され、「ひきこもり=危険人物」という偏見が広がりました。この報道は当事者や家族に大きな打撃を与え、さらに社会との接点を断つ方向に追い込むという悪循環を生みました。
2003年には厚生労働省が「ひきこもり対応ガイドライン」を策定し、行政としての本格的な対応が始まりました。2009年にはひきこもり地域支援センターの設置が進められ、2010年代には8050問題が注目されるようになりました。そして2025年1月には、厚生労働省が新たに「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」を策定し、支援対象者のひきこもり期間を問わないこと、家族も支援対象とすることが明確化されました。
厚生労働省による定義
厚生労働省は、ひきこもりを以下のように定義しています。
この定義のポイントは3つあります。第一に、「さまざまな要因の結果」とあるように、ひきこもりは一つの原因ではなく複合的要因の結果として生じます。第二に、「社会的参加の回避」が核心であり、物理的に家にいるかどうかだけが問題ではありません。コンビニや近所への外出があっても、社会的参加を回避していれば定義上のひきこもりに該当します。第三に、「6か月以上」という期間は一つの目安であり、令和7年(2025年)1月策定の最新ハンドブックでは支援対象者のひきこもり期間は問わないこととされ、6か月未満でも支援対象になりうることが明確化されました。
内閣府による定義と調査基準
内閣府は、ひきこもりの実態調査において狭義/準ひきこもり/広義の3区分を用いています。タブをクリックすると詳細を表示します。
ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける/自室からは出るが家からは出ない/自室からほとんど出ない。外出は極めて限定的で、社会参加はほぼない。
ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する。趣味や買い物での外出はあるが、就学・就労・対人交流は回避している。
狭義のひきこもり+準ひきこもりを合わせた状態。社会参加を幅広く回避している状態全般を指し、内閣府の実態調査の主たる対象となる。
内閣府の分類は、ひきこもりが「全く外出しない」状態だけではないことを示しています。趣味のための外出があっても、社会的参加を広く回避している場合は「広義のひきこもり」に含まれます。この分類はひきこもりの多様な実態を把握するうえで重要な枠組みとなっています。
一次性ひきこもりと二次性ひきこもり
専門家の間では、ひきこもりを背景要因によって大きく2つに分類することがあります。
ただし、この分類は必ずしも明確に線引きできるものではありません。一次性ひきこもりであっても、長期化する中でうつ病や不安障害を二次的に発症することがあり、一次性と二次性の境界は流動的です。また、当初は精神疾患が見落とされていたケースが、後に二次性と判明することもあります。
ひきこもりの重症度分類
ひきこもりの程度は一様ではなく、軽度から最重度まで幅広いスペクトラムとして理解することが適切です。
- 軽度外出:近所への外出可能、買い物も可能交流:家族との交流はある、一部の知人とは連絡可能生活:食事・入浴・睡眠は概ね規則的
- 中等度外出:外出はごく限定的(ゴミ出し程度)交流:家族との交流も限定的、友人との連絡は断絶生活:生活リズムの乱れ、昼夜逆転傾向
- 重度外出:自室からほとんど出ない交流:家族との交流もほぼなし、完全な社会的断絶生活:食事・入浴・睡眠の不規則化、セルフネグレクト傾向
- 最重度外出:自室に完全に閉じこもる交流:一切の対人交流を拒否生活:深刻なセルフネグレクト、身体的健康の悪化
ひきこもりの統計データ
2022年内閣府調査では推計146万人、うち中高年(40〜64歳)が約94万人と若年層を上回ります。性別比、長期化、国際比較まで数字で把握します。
内閣府調査の推移
日本におけるひきこもりの実態は、内閣府が定期的に行う調査によって把握されています。2022年調査では15歳から64歳までの年齢層で推計146万人がひきこもり状態にあるとされました。
- 2010年(対象 15〜39歳)推計 約69.6万人/人口比 約1.79%
- 2015年(対象 15〜39歳)推計 約54.1万人/人口比 約1.57%
- 2018年(対象 40〜64歳)推計 約61.3万人/人口比 約1.45%
- 2022年(対象 15〜64歳)推計 約146万人/人口比 約2%
- 2022年(対象 15〜39歳)推計 約52万人/人口比 —
- 2022年(対象 40〜64歳)推計 約94万人/人口比 —
特に注目すべきは、40〜64歳の中高年層が約94万人と、若年層(約52万人)を大きく上回っている点です。ひきこもりは決して若者だけの問題ではなく、むしろ中高年においてより深刻な広がりを見せています。これらの数字は調査に回答した人のみを集計したもので、調査に応じなかった人や65歳以上の高齢者を含めると実際のひきこもり人口はさらに多いと推測され、一部の専門家は実数200万人以上に上る可能性を指摘しています。
ひきこもりの年齢構成と長期化
ひきこもりの年齢構成は、近年大きく変化しています。かつては10代後半〜20代の若者が中心でしたが、現在ではひきこもりの高齢化・長期化が深刻な問題となっています。2022年内閣府調査によるひきこもり開始年齢の分布は次のとおりです。
- 15歳未満(約10%)主なきっかけ:不登校、いじめ、家庭環境
- 15〜24歳(約30%)主なきっかけ:進学・就職の失敗、人間関係の問題
- 25〜34歳(約20%)主なきっかけ:職場のストレス、退職後の再就職困難
- 35〜44歳(約20%)主なきっかけ:リストラ、病気、介護離職
- 45歳以上(約20%)主なきっかけ:退職後の喪失感、身体疾患、孤立
ひきこもりの期間も長期化傾向にあります。7年以上ひきこもっている人が全体の約半数を占め、中には20年、30年以上にわたるケースも珍しくありません。長期化するほど社会復帰のハードルは高くなり、本人の心身の健康にも深刻な影響を及ぼします。
性別によるひきこもりの違い
ひきこもりの性別比は、男性が約6〜7割、女性が約3〜4割とされていますが、女性のひきこもりは見過ごされやすいという指摘があります。女性の場合、「家事手伝い」として社会的に許容されやすいため、ひきこもり状態にあっても問題として認識されにくい面があります。
また、家庭内での役割(家事、育児、介護など)を担っている場合、外形的には「家にいる主婦・主夫」と見なされ、ひきこもりとして把握されにくい傾向があります。しかし、社会的参加を広く回避し孤立感や疎外感を抱えている場合は、性別にかかわらずひきこもりの支援が必要です。
国際比較
ひきこもりは当初、日本特有の文化結合症候群(culture-bound syndrome)と考えられていましたが、近年の研究では世界各国で同様の現象が報告されています。韓国、中国、香港、シンガポール、スペイン、イタリア、フランス、オーストラリア、アメリカなどでもひきこもり状態の若者・成人の存在が確認されています。
特にCOVID-19パンデミック以降、世界的に社会的ひきこもりが増加したとの報告があり、ひきこもりは日本固有の問題ではなくグローバルな現象として認識されるようになっています。ただし、各国の文化的背景や社会システムによってひきこもりの様態や対応は異なり、日本の知見をそのまま他国に適用できるわけではありません。
ひきこもりの原因と背景要因
ひきこもりの原因は一つではありません。個人・家族・社会の複合的要因が絡み合い、特定のトリガーを経て発生する『多因子モデル』が現在の理解です。
ひきこもりの原因は一つではない
ひきこもりの原因を「これだ」と一つに特定することはできません。多くの場合、個人的要因、家族的要因、社会的要因が複雑に絡み合い、特定のきっかけ(トリガー)を経てひきこもり状態に至ります。これを「多因子モデル」と呼びます。
同じようなストレスを受けても、ひきこもりになる人とならない人がいるのは、個人の特性(性格傾向、対処能力、レジリエンス)、環境要因(家族関係、経済状況、社会的支援の有無)、生物学的要因(精神疾患への脆弱性、発達特性)のバランスが異なるためです。
個人・家族・社会・トリガーの4要因
タブで4つの要因を切り替えて確認できます。それぞれの項目は、内閣府・厚労省調査や専門家の分類にもとづくものです。
ひきこもりの個人的背景には、性格傾向、精神疾患、過去の経験など複数の層がある。
「家族が悪い」のではなく、家族システム全体のダイナミクスとして理解する必要がある。
社会構造そのものがひきこもりを生み出している側面。
内閣府・厚労省調査による主なきっかけ(割合は概算)。
- 性格特性と気質:内向的な性格、繊細さ(HSP的特性)、完璧主義、自己肯定感の低さ、恥の感受性の高さ、対人場面での緊張の強さ
- 精神疾患・発達障害:うつ病、社交不安障害(SAD)、全般性不安障害(GAD)、パニック障害、強迫性障害(OCD)、統合失調症、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)
- トラウマ体験:いじめ、虐待、ハラスメント、暴力被害、性被害、重大な喪失体験(大切な人の死、失恋、離婚など)。とくにいじめは最も多いきっかけの一つ
- 挫折体験:受験の失敗、就職活動の不成功、職場での適応困難、リストラや解雇。「一度のレールからの逸脱」が大きなダメージとなる日本社会の特性
- 親子関係のパターン:過保護・過干渉(自律性の発達を妨げる)、放任・ネグレクト(安心基地の不足)、条件付きの愛情、感情表現の抑制
- 家族内のコミュニケーション不全:本音を言えない家庭、対立を避ける傾向、問題を「なかったこと」にする文化、世間体を重視する価値観
- 家族の精神的健康問題:親自身がうつ病やアルコール依存症などを抱える、機能不全家族(DV、虐待、親のギャンブル依存など)で育った経験
- 教育システムの問題:画一的な教育、偏差値偏重、同調圧力の強い学校文化、いじめの蔓延、不登校への対応不足
- 労働市場の問題:新卒一括採用・終身雇用を前提とした「一度きりのチャンス」型の雇用、長時間労働・ブラック企業、非正規雇用の拡大、就職氷河期世代
- 社会的プレッシャー:「一人前の社会人」への強い期待、「働いていなければ価値がない」風潮、「迷惑をかけてはいけない」という抑制的な文化規範
- デジタル社会の影響:オンラインでのつながりが孤立を緩和する一方、生活がオンラインで完結することで外出・対面交流の必要性が低下し長期化を促進
- 職場になじめなかった:約25%(人間関係、業務内容、職場環境への不適応)
- 就職活動がうまくいかなかった:約20%(就活の失敗、面接への恐怖、自信喪失)
- 人間関係がうまくいかなかった:約20%(いじめ、ハラスメント、対人トラブル)
- 病気:約15%(精神疾患の発症、身体疾患による活動制限)
- 不登校:約15%(学校不適応からの継続)
- 受験に失敗した:約5%(進学への挫折感、自己否定)
- その他・不明:約10%(特定のきっかけなく徐々に進行)
ひきこもりの段階と類型
ひきこもりは突然始まるのではなく、準備期→開始期→ひきこもり期→回復期の4段階で進行します。背景パターンによる7つの類型と、段階別の関わり方も整理します。
ひきこもりの段階モデル
ひきこもりは多くの場合、段階的に進行します。一般的に以下の4つの段階で理解されます。
ひきこもりの類型
ひきこもりの背景やパターンはさまざまで、いくつかの類型に分けて理解することが支援のうえで有用です。これらの類型は排他的ではなく、複数の要素が重なっているケースがほとんどです。たとえば、発達障害があり学校でいじめを受け(不登校延長型+発達障害関連型)、うつ病を発症して(精神疾患関連型)長期化した(長期慢性型)というように、一人の当事者に複数の類型が該当することは珍しくありません。
- 不登校延長型特徴:学校不適応からひきこもりに移行背景:いじめ、学業不振、教師との関係支援:学習支援、居場所づくり、フリースクール
- 就労挫折型特徴:就職後の職場不適応でひきこもりに背景:パワハラ、過重労働、人間関係支援:就労支援、段階的な社会復帰プログラム
- 精神疾患関連型特徴:精神疾患の症状としてひきこもり状態に背景:うつ病、統合失調症、不安障害支援:医療的治療を優先、福祉サービスの活用
- 発達障害関連型特徴:発達特性による社会適応の困難から背景:ASD、ADHD等の未診断・未支援支援:特性の理解と受容、環境調整、専門支援
- 対人恐怖型特徴:対人場面への強い恐怖・不安から背景:社交不安障害、対人トラウマ支援:認知行動療法、段階的エクスポージャー
- 喪失・挫折型特徴:大きな喪失や挫折からひきこもりに背景:離婚、死別、リストラ、事業失敗支援:グリーフケア、自己肯定感の回復
- 長期慢性型特徴:若年期からの長期ひきこもり背景:複合的要因、社会的スキルの未発達支援:包括的支援、段階的な社会参加
段階に応じた家族・支援者の関わり方
各段階に応じた適切な関わり方を理解することは、家族や支援者にとって重要です。
心理面の症状
ひきこもり状態が続くと、さまざまな心理的症状が生じたり悪化したりします。
身体面の症状
ひきこもりは心理面だけでなく、身体の健康にも深刻な影響を及ぼします。
認知面の変化
長期のひきこもりは、認知機能にも影響を及ぼすことがあります。
8050問題
80代の高齢の親が50代のひきこもりの子どもを支える状況。2018年調査で40〜64歳の当事者が61.3万人にのぼることが判明し顕在化、現在は「9060問題」も指摘されます。
8050問題とは
8050問題とは、80代の高齢の親が、50代のひきこもりの子どもの生活を支えているという状況を指す用語です。1990年代に若者のひきこもりとして社会問題化した現象が、30年以上を経て高齢化し、親子ともに社会的に孤立した状態に陥っているケースが増加しています。
2018年の内閣府調査で40〜64歳のひきこもり状態にある人が推計61.3万人に上ることが明らかになり、この問題が広く認知されるきっかけとなりました。現在では「9060問題」(90代の親と60代の子ども)も現実の問題として指摘されています。
8050問題の構造的課題
8050問題が深刻なのは、複数の問題が連鎖的に発生する構造にあるためです。
- 経済的困窮親の年金収入だけで親子の生活を支えなければならず、親が亡くなった後の経済的基盤がない。長年の社会的ブランクで就労による収入を得ることが極めて困難。最終的には生活保護に頼らざるを得ない状況に陥る。
- 介護の問題高齢の親に介護が必要になった場合、ひきこもりの子どもが介護者となることがある。長年社会との接点を持たなかった人が突然介護を担うことは極めて困難で、適切な介護サービスにつなげることもできず介護破綻に至る。
- 社会的孤立の深化親子ともに社会的接点を失い、地域から孤立した状態が長期化。親が「恥ずかしい」「世間体が悪い」と感じて外部に助けを求められず、問題が深刻化するまで周囲に気づかれない。
- 孤独死のリスク親が亡くなった後、ひきこもりの子どもが親の死に気づかない、あるいは気づいても対処できないケース。親の遺体と共に長期間生活していたという痛ましい事例も実際に起きている。
8050問題の実例と教訓
8050問題の深刻さを示す事例は数多く報告されています。2019年には、元農林水産事務次官が44歳のひきこもり状態にあった長男を殺害するという事件が起き、社会に衝撃を与えました。この事件は、家庭内で問題を抱え込み、外部に助けを求められなかった末の悲劇として、8050問題の根深さを社会に突きつけました。
また、親の死後に年金の不正受給が発覚するケース、ライフラインが停止した自宅で親子共に衰弱しているのが発見されるケース、親の介護離職を機にひきこもり状態に陥り「ダブルケア」の問題を抱えるケースなど、さまざまな形で問題が顕在化しています。
これらの事例から得られる教訓は、「早期の相談・支援が重要」ということ、そして「問題を家庭内に閉じ込めず、社会的な支援システムにつなげること」の必要性です。
8050問題への社会的対応
8050問題に対する社会的な対応は徐々に進んでいますが、まだ十分とは言えません。
- 包括的な相談体制の構築ひきこもり・高齢者介護・生活困窮などの複合的な問題に対応できるワンストップの相談窓口の整備が進められている。従来の縦割り行政では精神保健・高齢福祉・生活保護で窓口が分かれ、複合的な問題への対応が困難だった。
- アウトリーチ型支援自ら相談に来ることが難しいひきこもり家庭に対して、支援者が自宅を訪問する「アウトリーチ」の取り組みが各地で開始。民生委員や地域包括支援センターの職員が定期的に訪問し信頼関係を築きながら支援につなげる。
- 地域の見守り体制近隣住民や自治会、民生委員、商店街などが連携し、孤立している家庭を早期に発見し支援につなげるための地域ネットワークの構築。
家族の対応
家族の関わり方は本人の回復に決定的な影響を与えます。やってはいけないこと・効果的な対応・家族自身のケア——この3点を押さえることが基本です。
家族の心理的負担
ひきこもりの家族、特に親は、非常に大きな心理的負担を抱えています。「育て方が悪かったのではないか」という自責感、「いつまでこの状態が続くのか」という不安、「周囲にどう思われているか」という世間体への気遣い、「この子の将来はどうなるのか」という将来への恐怖——これらの思いが常に心を占め、家族自身がうつ状態に陥ることも少なくありません。
また、ひきこもりの問題は家族内で「秘密」として扱われがちで、親戚や友人にも相談できず、孤立を深めていくケースが多くあります。家族が孤立するほど、問題は悪化していきます。
家族がやってはいけないこと
善意から行われる対応であっても、逆効果になりかねないものがあります。
- 無理に外に出させようとする(強制は防衛反応を強める)
- 暴力的な「引き出し屋」に依頼する(監禁・暴力など人権侵害が問題化)
- 叱責や説教を繰り返す(「いつまで甘えているんだ」など)
- 腫れ物に触るように接する(無視は「自分は問題でしかない」を強化)
- 過度にサービスを提供する(食事を部屋前に運ぶ・金銭要求に全応など過保護)
なお、過度にサービスを提供すること(食事を自室の前に運ぶ、洗濯をすべて引き受ける、金銭的要求にすべて応じるなど)は当事者の自立性を奪う過保護な対応として長期化を助長しますが、急に全てのサポートを断つのも危険で、段階的な調整が必要です。
家族にできる効果的な対応
ひきこもり当事者を支えるために、家族ができることは多くあります。
- ✓日常的な声かけを続ける(「おはよう」「ごはんできたよ」など穏やかに毎日)
- ✓安心できる家庭環境を整える(批判されない・比較されない安全基地)
- ✓小さな変化を認める(リビングで過ごした、ゴミを出してくれた等を「ありがとう」)
- ✓情報を提供する(パンフレット・体験談を押しつけがましくなく置く)
- ✓専門家に相談する(家族だけの相談から始められる)
家族自身のケア
ひきこもりの家族を支えるためには、家族自身の心身の健康を保つことが不可欠です。
ひきこもりの支援制度と相談窓口
公的相談窓口・支援手法・民間団体・福祉制度の4本柱を整理。当事者だけでなく家族だけの相談から始められます。
公的な相談窓口
ひきこもりに関する公的な相談窓口は、全国各地に設置されています。
- ひきこもり地域支援センター(都道府県・指定都市)対象:当事者・家族主なサービス:相談、情報提供、関係機関との連絡調整
- 精神保健福祉センター(都道府県・指定都市)対象:精神的な問題を抱える人・家族主なサービス:相談、デイケア、家族教室
- 生活困窮者自立支援窓口(市区町村)対象:生活に困窮している人主なサービス:相談、就労支援、住居確保、家計改善
- 地域包括支援センター(市区町村)対象:65歳以上の高齢者と家族主なサービス:介護相談、地域のサービス調整(8050問題の入口にも)
- 地域若者サポートステーション(厚生労働省委託)対象:15〜49歳の無業の人主なサービス:就労相談、職場体験、コミュニケーション訓練
どの窓口に相談すればよいか分からない場合は、お住まいの市区町村の福祉課や保健所に電話で相談すると、適切な窓口を案内してもらえます。相談は無料で、秘密は守られます。
ひきこもり支援の主な手法
専門機関で行われるひきこもり支援には、さまざまな手法があります。
民間の支援機関・団体
公的な支援に加えて、民間の支援機関や団体も多数活動しています。
- NPO法人フリースクール、居場所提供、就労支援、相談支援などを行う団体が各地に。「認定NPO法人ニュースタート事務局」は共同生活を通じた社会復帰プログラムで知られる。
- 家族会「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が最大の組織で全国各地に支部。当事者の「ひきこもり当事者会」「ピアサポートグループ」も増加。
- オンライン支援SNSやオンラインチャットを活用した相談支援。対面相談が困難な当事者にとって、支援につながる重要な入口となっている。
利用できる福祉制度
ひきこもり状態にある人が利用できる可能性のある福祉制度をまとめます。
- 生活保護概要:最低限度の生活を保障する金銭給付対象条件:世帯の収入が最低生活費を下回る場合
- 障害者手帳(精神)概要:精神疾患がある場合に交付対象条件:精神疾患の診断があり、日常生活に制限がある場合
- 自立支援医療概要:精神科の医療費の自己負担を軽減対象条件:精神疾患で継続的な通院が必要な場合
- 障害年金概要:精神疾患等により就労が困難な場合の年金対象条件:精神疾患により日常生活・就労に支障がある場合
- 就労移行支援概要:一般就労を目指す訓練対象条件:障害者手帳保有者または診断がある人
- 就労継続支援A型/B型概要:福祉的就労の場の提供対象条件:障害があり一般就労が困難な人
ひきこもりからの回復プロセス
回復は一直線ではなく、進んだり戻ったりを繰り返す螺旋状のプロセス。7つのステップ、回復を促す5つの要因、妨げる4つの要因を整理します。
回復のプロセスを理解する
ひきこもりからの回復は、ある日突然「治る」ものではありません。長い時間をかけて、小さな前進と後退を繰り返しながら、螺旋状に進んでいくプロセスです。ときには大きく後戻りするように感じることもありますが、全体としては少しずつ前に進んでいる——そう信じることが、当事者にとっても家族にとっても大切です。
回復のペースは人それぞれであり、「〇か月で社会復帰できる」という画一的な見通しは立てられません。数か月で変化が見られる人もいれば、数年以上かかる人もいます。ひきこもりの期間や重症度、背景にある精神疾患の有無、支援環境、本人の特性などによって、回復の速度は大きく異なります。
回復のステップ
ひきこもりからの回復は、一般的に以下のようなステップを経ることが多いです。ただし、全ての人がこの順番通りに進むわけではなく、あくまで目安としてご覧ください。
回復を促す要因
研究により、ひきこもりからの回復を促す要因がいくつか明らかになっています。
回復を妨げる要因
一方で、回復を妨げる要因も理解しておく必要があります。
- スティグマ(偏見)「ひきこもりは怠けている」「親の育て方が悪い」といった社会的偏見は、当事者と家族をさらに追い詰め、助けを求めることを困難にする。
- 支援への不信感過去に無理解な対応を受けた経験、引き出し屋のような暴力的な介入を受けた経験がある場合、支援そのものへの不信感が回復の障壁となる。
- 社会的スキルの喪失長期間の社会的断絶により、会話や対人関係のスキルが著しく低下している場合、社会参加のハードルが極めて高くなる。
- 経済的問題治療費、生活費、住居費などの経済的負担が、支援を受けることや社会復帰への取り組みを妨げる。
ひきこもり状態にある方へのセルフヘルプ
小さな一歩から始める、自分のペースでできる5つの方法。「今の自分を責めない」ことから出発し、生活リズム・オンライン・趣味・相談へと広げていきます。
自分のペースで取り組む、5つの方法
いきなり大きな変化を目指す必要はありません。できることから少しずつ取り組んでみましょう。「楽しいと感じる力があるということは、心が完全には枯渇していない証拠」です。その力を大切にしてください。
世界のひきこもり
日本発の概念『Hikikomori』が国際的に認知される過程と、COVID-19の影響、文化的要因の3つの軸で世界の状況を整理します。
ひきこもりの国際的な広がり
ひきこもり(Hikikomori)は、かつては日本固有の文化結合症候群と考えられていました。しかし、2000年代以降の国際的な研究により、同様の現象が世界各国で確認されています。
- 韓国状況:推計約30万人の「隠遁型」ひきこもり特記:受験競争、就職難、兵役との関連
- 中国状況:大都市を中心に増加傾向特記:「躺平」(寝そべり族)との関連が議論
- 香港・台湾状況:社会問題として認識が広がる特記:高い住宅費、少子高齢化との関連
- イタリア・スペイン状況:南欧でも報告が増加特記:若年失業率の高さ、家族主義との関連
- フランス状況:「retrait social」として研究が進む特記:教育制度のプレッシャーとの関連
- オーストラリア状況:先住民コミュニティでも報告特記:社会的排除、文化的断絶との関連
- アメリカ状況:「failure to launch」との類似性特記:経済的要因、学生ローンとの関連
2019年にはWHOのICD-11の改訂にあたり、ひきこもりを正式な精神疾患として含めるかどうかが議論されましたが、最終的には独立した診断カテゴリーとしては採用されませんでした。しかし、ひきこもり研究は国際的にますます活発化しており、将来的な診断基準の確立に向けた議論が続いています。
COVID-19パンデミックとひきこもり
2020年以降のCOVID-19パンデミックは、ひきこもりの問題に大きな影響を与えました。
- ひきこもりの増加ロックダウンやリモートワーク・オンライン授業の普及で社会的接触の機会が減少し、新たにひきこもり状態に陥る人が増加。とくに若者でパンデミック後も社会活動に復帰できないケースが報告されている。
- 既存のひきこもりへの影響パンデミック中は「外に出ないことが正しい」とされ矛盾が軽減された面があった一方、ポストコロナの活動再開で「みんなは通常に戻ったのに自分はまだ」という焦りや劣等感が増した面もある。
- デジタル化の加速オンライン診療・テレワーク・オンライン支援の普及は、ひきこもり当事者にとって新たな社会参加の経路を開いた。自宅にいながらできる仕事や活動の選択肢が増え、回復を後押しする可能性。
ひきこもりと文化的要因
ひきこもりの発生と維持には、文化的要因が大きく関わっています。
- 恥の文化日本をはじめとする東アジア文化圏では「恥」の感覚が社会的行動を強く規制。失敗や逸脱が「恥ずかしいこと」として内面化され、社会からの撤退が「これ以上恥をかかない」防衛策として機能する。
- 集団主義と同調圧力「みんなと同じ」であることが期待される文化では、その枠から外れることへの恐怖が強くなる。ひきこもりは同調圧力から身を守るための極端な適応策とも解釈できる。
- 「甘え」の構造日本の家族関係の特徴である「甘え」(他者への依存を前提とした関係性)が、成人した子どもが親の庇護のもとにとどまることを可能にする構造的条件を提供しているという指摘もある(当事者を非難するものではなく社会システムの構造的特徴)。
ひきこもりに関する誤解と偏見
9つのよくある誤解とその事実、メディアの報道バイアス、そしてひきこもりがもたらしうるポジティブな側面まで——正しい理解が当事者と家族を救います。
よくある誤解を正す
メディアの報道バイアス
ひきこもりに関するメディアの報道には、深刻なバイアスが存在します。2019年に発生した川崎殺傷事件や元農水事務次官の事件の際、「ひきこもり=犯罪予備軍」という印象を与える報道が多数なされました。
しかし、ひきこもり状態にある人が他者に対して暴力を振るう確率は、一般人口と比較して特に高くないことが研究で示されています。むしろ、ひきこもり当事者は自分自身に対する攻撃性(自傷行為、自殺念慮など)の方が深刻な問題です。
メディアがセンセーショナルに報道することで、当事者や家族はさらに社会の目を恐れ、助けを求めることが困難になります。ひきこもりに対する正しい理解を広めることは、メディアリテラシーの観点からも重要な課題です。
ひきこもりのポジティブな側面
ひきこもりを一方的に「問題」として捉えるだけでなく、ひきこもりの時間がもたらすポジティブな側面にも目を向けることが、回復的な視点として重要です。
ひきこもりの期間中に、自己を深く見つめ直し、自分が本当に望んでいることや大切にしたい価値観を発見した人もいます。社会の競争から距離を置くことで、自分のペースや自分に合った生き方を見つけるきっかけになったという当事者の声もあります。
また、ひきこもり経験者が支援者となり、同じ経験を持つ人を助ける「ピアサポーター」として活躍しているケースも増えています。ひきこもり経験は、他者の痛みを理解し、寄り添う力の源泉にもなりうるのです。
当事者の声と回復の体験談
ひきこもりの中にいるときの気持ち、回復のきっかけ、回復した人からのメッセージ——複数の当事者の声をもとに構成しました。
ひきこもりの中にいるときの気持ち
ひきこもりの当事者が語る、ひきこもり状態にあるときの心理をまとめます。これらは複数の当事者の声を基に構成したものです。
回復のきっかけ
ひきこもりからの回復は、さまざまなきっかけで始まります。当事者の体験から、以下のようなきっかけが報告されています。
- 家族の変化「親が家族会に参加して変わった。叱るのをやめて、『今のままでいいよ』と言ってくれるようになった。それが逆に、自分から動いてみようという気持ちを芽生えさせた。」
- オンラインでの出会い「ネット上で同じ経験をしている人とつながれたことが大きかった。自分だけじゃないと知れたことで、少し楽になった。」
- ペットとの関わり「猫を飼い始めたことがきっかけだった。猫のために餌を買いに行かなくてはいけない。それが最初の外出の理由になった。」
- 身体の不調「歯が痛くなって、どうしても歯医者に行かなければならなくなった。何年ぶりかの外出は怖かったけれど、なんとか行けた。そこから少しずつ外出できるようになった。」
- 支援者との出会い「訪問支援の人が月に1回来てくれた。最初は会いたくなかったけど、ドア越しに話すだけでも『自分のために来てくれる人がいる』と思えた。半年後、初めてドアを開けた。」
回復した人が伝えたいこと
ひきこもりを経験し、回復の過程にある人たちが伝えたいメッセージを紹介します。
- ♡「回復は一直線じゃない。3歩進んで2歩下がるような感じ。でも、確実に前に進んでいる。焦らなくていい」
- ♡「『普通』に戻ることが回復ではない。自分に合った生き方を見つけることが回復だと、今は思う。フルタイムで働くことだけが正解じゃない」
- ♡「ひきこもりの期間は、無駄じゃなかった。自分としっかり向き合う時間が必要だったんだと思う。あの時間がなかったら、今の自分はなかった」
- ♡「助けを求めることは恥ずかしいことじゃない。自分一人でなんとかしようとして、余計に長引いた。もっと早く誰かに話していればと思う」
- ♡「今ひきこもっている人に伝えたい。あなたの人生は、まだ終わっていない。何歳からでも、やり直せる。それは、30代、40代、50代でひきこもりから歩き出した人たちが証明している」
よくある質問
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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
