当事者研究とは?
べてるの家・自分の専門家になる発想・参加方法を解説
「当事者研究」とは、精神障害・依存症・発達障害などの生きづらさを抱える人が、自分の苦労を「研究対象」として仲間と探究するアプローチ。北海道・浦河べてるの家で生まれ、東京大学を経て国際的に広がる実践の理念・歴史・進め方・参加方法までをまとめました。
当事者研究とは
当事者研究(とうじしゃけんきゅう)は、精神障害・依存症・慢性疾患・発達障害などの生きづらさを抱えた人が、自らの症状や苦労を「研究対象」として捉え、仲間とともに探求するセルフヘルプ・アプローチです。2001年に北海道浦河町の「浦河べてるの家」で生まれ、20年以上にわたり全国・海外に広がっています。
当事者研究の定義と誕生
当事者研究とは、精神障害・依存症・慢性疾患・発達障害などの生きづらさを抱えた人(当事者)が、自らの症状や苦労を「研究対象」として捉え、仲間とともに探求するセルフヘルプ・アプローチです。専門家から「治してもらう」受け身の立場から抜け出し、「自分の苦労の主人公・研究者」となることが核心にあります。
当事者研究が生まれたのは2001年、北海道浦河町にある「浦河べてるの家」においてです。統合失調症の当事者が「自分の症状について自分で研究してみよう」と試みたことがきっかけでした。以来20年以上にわたり、全国の精神科病院・デイケア・就労継続支援事業所・大学などに広まり、今日では国際的にも注目される実践となっています。
「自分を助けるのは自分自身である」
当事者研究の基本理念は「自分を助けるのは自分自身である」という視点です。これは「専門家は不要」という意味ではなく、「専門家の助けを借りながらも、自分が主体的に自己理解を深め、自分なりの助け方を見つける」ということです。苦労を否定・排除しようとするのではなく、苦労から学び、苦労と「うまくつき合う」方法を探ることに重きが置かれています。
また、当事者研究では「苦労は宝」という独特の価値観が根底にあります。症状や失敗体験を恥ずかしいものとして隠すのではなく、みんなに語り、一緒に考える材料とすることで、個人の苦労が地域や社会にとっての知恵となっていきます。この視点は、精神障害者を「ケアされる対象」としてのみ捉える従来の枠組みを根本から問い直すものでした。
当事者研究の3つの基本姿勢
当事者研究を貫く基本的な姿勢は、次の3つに整理できます。
「自分の専門家」になるという発想
当事者研究のもっとも根本的な発想は、「自分のことを一番よく知っているのは自分自身だ」という信念です。医師・心理士・福祉士などの専門家は重要な知識・技術をもっていますが、「この人がなぜそのような行動をするのか」「どんなときに苦しくなるのか」「何が助けになるのか」という個別具体的なことについては、当事者自身が最大の専門家です。
「自分の専門家になる」とは、自分の内側で何が起きているかを丁寧に観察・記録し、パターンを把握し、仮説を立て、実験し、その結果から学ぶというプロセスを繰り返すこと。これはまさに科学的探究の方法論を、自分自身に適用するものです。
この発想は、回復の主体性(オーナーシップ)を当事者自身に取り戻すという意味でも重要です。従来の精神医療では治療計画は専門家が立て、当事者は「患者」の立場でした。当事者研究では、当事者が自分の回復の設計者・研究者であり、専門家は「一緒に研究する仲間」として支援する役割に回ります。
「自分は病気で、専門家に治してもらう存在」という受け身の自己像から、「自分は自分の苦労の研究者・専門家」という能動的な自己像へのシフトは、自己肯定感や生きがいの回復という側面でも大きな心理的変化をもたらすことが報告されています。自分の体験が「研究データ」として意味を持つようになるため、どんな苦労も無駄ではなくなるのです。
さらに、自分の専門家になることは「他者の役に立つ」ことにもつながります。べてるの家では、研究成果を「研究発表」として仲間に共有することが大切にされており、一人の研究成果が似た苦労をもつ別の当事者の知恵となり、コミュニティ全体の「生きる知恵の蓄積」となっていきます。
浦河べてるの家と向谷地生良
当事者研究の発祥地である浦河べてるの家、そしてその創案者である向谷地生良。1984年の設立から2001年の当事者研究の誕生、2005年の書籍出版による全国展開まで、その歩みを紹介します。
浦河べてるの家——「弱さを絆に」
「浦河べてるの家」は、北海道浦河町に1984年に設立されました。浦河赤十字病院の精神科を退院した人たちを中心とした回復者クラブ「どんぐりの会」をルーツとし、障害のある人と町民有志によって立ち上げられた地域活動拠点です。昆布の袋詰めや日高昆布の販売などの仕事を通じて、精神障害をもつ人々が地域でともに生きる場をつくってきました。
べてるの家の特徴は、「弱さを絆に」というスローガンに象徴されるように、弱さや苦労を隠すのではなくむしろ前面に出し、それをコミュニティの結束の源にする点にあります。「三度の飯よりミーティング」と言われるほど、定期的な仲間の集まりが大切にされています。
向谷地生良——当事者研究の創案者
向谷地生良(むかいやちいくよし)は、べてるの家を牽引してきたソーシャルワーカーであり、2001年に当事者研究を創案した人物です。北海道医療大学を卒業後、浦河赤十字病院のソーシャルワーカーとして赴任。精神障害のある当事者たちと長年関わる中で、「専門家が問題を解決してあげる」という支援モデルの限界を実感し、当事者自身が主体的に自分の苦労を研究するアプローチを生み出しました。
向谷地は「当事者研究は当事者の苦労を研究することではなく、当事者が自分の苦労の研究者になること」という本質的な違いを強調します。専門家が当事者について研究する(オブジェクトとしての当事者)のではなく、当事者自身が研究する主体となる(サブジェクトとしての当事者)ことが、当事者研究の核心です。
2005年に医学書院から『べてるの家の「当事者研究」』が出版されると、全国の医療・福祉関係者の間で当事者研究が広く知られるようになりました。その後も向谷地は講演・執筆・研修活動を通じて当事者研究の普及に尽力し、現在は社会福祉法人浦河べてるの家の理事長として活動を続けています。
べてるの家の主なスローガン
べてるの家には、当事者研究の哲学を凝縮した独特のスローガンがいくつもあります。
- 「弱さを絆に」
- 「苦労は宝」
- 「三度の飯よりミーティング」
- 「今日も順調に苦労しています」
- 「安心してぼちぼちいきましょう」
従来の医療・支援との違い
当事者研究は従来の精神医療や福祉支援と何が違うのか。主体・症状の捉え方・目標・知識の所在・失敗の扱い・仲間との関係——6つの観点から比較し、その独自性を整理します。
従来の医療・支援と当事者研究の比較
主な違いを表にまとめると以下のようになります。
既存医療を否定するものではない
当事者研究は既存の医療を否定するものではありません。服薬・通院・カウンセリングなどの治療を継続しながら、並行して当事者研究を行うことで、相互に補完し合う関係が生まれます。服薬を続けながらも「この薬を飲んだときに自分はどう変化するか」を研究する、というように、医療行為自体も研究の素材になりえます。
当事者研究の進め方——5つのステップ
当事者研究には決まった「正しいやり方」はありませんが、実践の中でいくつかの基本的なステップが積み重ねられてきました。テーマ設定から外在化、パターン把握、仮説検証、発表まで、5ステップで紹介します。
グループでの当事者研究の一般的な流れ
以下は、グループでの当事者研究の一般的な流れです。「正しいやり方」というより「ベースとなる骨格」として参照してください。
ユニークな命名と自己病名
当事者研究の大きな特徴のひとつが、症状や問題に対してユニークで親しみやすい名前をつけること。医学的な病名ではなく、当事者自身が体験をもっとも表すと感じる言葉で命名する「自己病名」の世界を紹介します。
ユニークな命名と外在化の力
当事者研究の大きな特徴のひとつが、症状や問題に対してユニークで親しみやすい名前をつけることです。医学的・専門的な病名ではなく、当事者自身が自分の体験をもっともよく表すと感じる言葉・比喩・キャラクターの名前などを使って命名します。
べてるの家では、こんなユニークな命名が生まれています。
ユニークな命名がもたらす4つの効果
こうした命名には複数の重要な効果があります。
- 観察の容易化「私が爆発した」ではなく「爆発くんが出てきた」と語ることで、症状と自分の間に距離が生まれる。
- ユーモアの導入深刻な体験をユーモアをもって語れるようになる。重くなりすぎず、仲間と一緒に笑いながら研究できる雰囲気が生まれる。
- コミュニケーションの豊かさ「爆発くんが最近どう?」という問いかけは「調子はどうですか?」よりずっと具体的で、当事者の体験に近い言葉で話せる。
- 症状理解への姿勢症状に対して「敵対」するのではなく「理解しようとする」姿勢が生まれる。「爆発くんはなぜ出てくるのか?何を伝えようとしているのか?」と探究することが、症状との新しい関係をつくる。
自己病名(じこびょうめい)とは
自己病名(じこびょうめい)とは、医学的・専門的な病名ではなく、当事者自身が自らの症状・苦労・体験パターンに対して、自分がもっともイメージしやすい言葉や比喩を使ってつけた名前のことです。
医学的な診断名(統合失調症・双極性障害・ASDなど)は、症状の分類や治療方針を決めるうえで重要です。しかし「統合失調症」という言葉は、「自分の体の中で何が起きているか」「なぜそうなるのか」「どうすれば楽になるか」という個別具体的な問いには答えてくれません。自己病名は、この「自分にとってのリアルな体験」を言語化するものです。
自己病名のつくり方
自己病名をつくるには、まず自分の苦労を具体的に描写することから始めます。「どんな状況で」「どんな感覚が」「どんな順番で起きるか」を丁寧に言葉にしていきます。次に、その体験全体を一言で(あるいは短いフレーズで)言い表せる言葉を探します。
自己病名には「メカニズムの仮説」も含まれることがあります。「自分が『暴走くん』になるのは、誰かに頼れないと感じたとき」というように、症状が出るメカニズムを自分なりに仮説化したものが自己病名に込められていることもあります。
自己病名は一度つけたら固定ではなく、研究が進むにつれて変化・進化します。最初は「爆発くん」と呼んでいたものが、研究を続けるうちに「不安→緊張→爆発」という流れがわかり、「不安爆発連鎖症候群」へと精緻化されていく、というケースもあります。自己病名は当事者の自己理解が深まった証でもあるのです。
- 自分の体験に一番ぴったりくる言葉を選ぶ(正しさより「しっくりくる感覚」を大切に)
- 重すぎず、ユーモアがあってもよい
- 他者に語りやすい言葉であるとよい
- 症状だけでなく「自分がどうなりたいか」のヒントが含まれているとなおよい
- 仲間からフィードバックをもらいながら磨いていく
統合失調症・依存症・発達障害への適用
当事者研究は統合失調症の当事者を中心に始まり、依存症、発達障害(ASD・ADHD)など多様な領域へ広がっています。それぞれの領域での適用と効果を紹介します。
3つの領域への適用
当事者研究はもともと統合失調症の当事者を中心に始まりましたが、その後さまざまな領域に広がっています。ここでは主要な3つの領域への適用を説明します。
学術的展開と国際的な広がり
2010年代以降、当事者研究は東京大学先端科学技術研究センターを中心に学術的にも発展。熊谷晋一郎教授による「当事者科学」の構築、欧米のMad Studiesとの呼応、オープン・ダイアローグとの親和性まで広がっています。
熊谷晋一郎と東京大学
当事者研究はもともと草の根的なセルフヘルプ運動として始まりましたが、2010年代以降、大学・研究機関での学術的研究としても急速に発展しています。その中心的な存在が、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎教授です。
熊谷晋一郎は自身が脳性まひの当事者であり、小児科医・研究者・当事者研究者という複数のアイデンティティをもちます。2008年から本格的に当事者研究に関わり、東京大学先端科学技術研究センターの「当事者研究分野」を率いて、当事者研究の学術的体系化と普及に取り組んでいます。
熊谷研究室では、発達障害・自閉スペクトラム症・依存症・脳性まひなど多様な当事者と協働し、当事者の主観的体験を科学的に探究する「当事者科学」の構築を目指しています。認知科学・現象学・予測的符号化理論などの先端的な学術的枠組みと当事者の体験的知識を架橋する研究は、国内外の研究者から高い注目を集めています。
東京大学では「当事者研究Lab.」(touken.org)も設立され、研究発表・講演・ワークショップなどを通じて当事者研究の普及と学術的発展を推進しています。また、企業×当事者研究プロジェクトとして、多様性のマネジメント改革や職場のインクルージョンへの当事者研究の応用も進んでいます。
学術的な当事者研究は、単に当事者の体験を記述するだけでなく、「当事者の視点から学問の問いを立て直す」というラディカルな方法論的変革を目指しています。医学・福祉・教育・心理学などの諸学問が「当事者不在」で展開されてきた歴史を問い直し、「当事者知(とうじしゃち)」を学術の中心に置くという発想は、科学哲学・認識論的にも重要な意味をもちます。
当事者研究に関する主要な文献・機関
- 『べてるの家の「当事者研究」』浦河べてるの家・医学書院(2005年)。出版を機に全国の医療・福祉関係者の間で当事者研究が広く知られるようになった。
- 『発達障害当事者研究』熊谷晋一郎・医学書院(2014年)。発達障害領域への当事者研究の応用を学術的に示した。
- 当事者研究ネットワーク(toukennet.jp)全国のグループや情報が紹介されている。
- 東京大学先端科学技術研究センター・当事者研究分野熊谷晋一郎教授が率いる、当事者研究の学術的体系化と普及の中心拠点。
- 当事者研究Lab.(touken.org)研究発表・講演・ワークショップなどを通じて当事者研究の普及と学術的発展を推進。
- 国立精神・神経医療研究センター当事者研究関連研究を実施。
国際的な広がりと学術的評価
当事者研究は日本で生まれた実践ですが、その独創的な方法論と成果は国際的にも注目されるようになっています。
当事者研究とオープン・ダイアローグの親和性
「オープン・ダイアローグ(Open Dialogue)」は、1980年代にフィンランドのケロプダス病院で開発された精神医療のアプローチです。精神科的危機に際して、当事者・家族・支援者が一堂に会して「開かれた対話」を行い、診断や治療計画についてもすべてを透明にしながら進めるという画期的な方法論です。統合失調症の長期予後において従来の医療モデルをはるかに上回る成果を示し、世界的に注目されています。
当事者研究とオープン・ダイアローグには、複数の重要な共通点があります。
- 主体としての当事者両者とも当事者を治療の受け身の対象ではなく、「意味を創造する主体」として尊重する。
- 水平な対話関係専門家の権威的な関係性を解体し、当事者・家族・専門家が水平な対話を行うことを目指す。
- 共存のアプローチ症状や問題に対して「排除・除去」ではなく「対話・理解・共存」のアプローチをとる。
- ポリフォニー(多声性)複数の異なる声が尊重される場を作るという両者に共通する重要なコンセプト。
- 不確かさへの耐性オープン・ダイアローグの「tolerance of uncertainty」と、当事者研究の「わからないことをわからないまま研究し続ける」姿勢が深く共鳴。向谷地は「わからなさと向き合うことは不安ではなく希望だ」と語る。
熊谷晋一郎をはじめとする当事者研究の研究者たちは、オープン・ダイアローグとの親和性を積極的に論じており、日本での当事者研究とオープン・ダイアローグの相互学習・融合が進んでいます。両者を組み合わせることで、個人の自己探究(当事者研究)と対話的な場の形成(オープン・ダイアローグ)が相互補完的に機能し、より豊かな回復・エンパワメントの場が生まれうると考えられています。実際に、一部の精神科医療機関や地域活動支援センターでは当事者研究とオープン・ダイアローグを組み合わせた実践が試みられています。
参加の仕方・グループへのアクセス
当事者研究に参加する方法は5つ。地域の自助グループ、浦河べてるの家への訪問、医療・福祉機関でのプログラム、一人での実践、オンライングループ——自分のペース・状況に合った入り口を選べます。
5つの参加経路
当事者研究に参加したい場合、どのような経路があるでしょうか。主な参加方法を紹介します。
参加の際のポイント
- ✓「うまく研究しなければ」と構えなくてよい。苦労を話すだけでも十分
- ✓診断名がなくても参加できるグループが多い
- ✓最初は「見学」「聞くだけ」から始めることも歓迎される
- ✓「正解」はない。自分のペースで研究を進めることが大切
- ✓研究が「うまくいかなかった」ことも貴重な研究成果
家族・支援者ができること
当事者研究は当事者自身が主体ですが、家族や支援者が関わる形もあります。「家族の当事者研究」「支援者の当事者研究」という独自の実践と、関わり方の指針、そしてよくある質問への回答をまとめます。
してよいこと・してはいけないこと
べてるの家では、家族や支援者も「自分自身の苦労の研究者」として当事者研究に取り組むことが奨励されており、「家族の当事者研究」「支援者の当事者研究」という実践も行われています。一方で、家族や支援者が当事者の研究に過度に介入することは当事者の主体性を損なうため、「一緒に参加する」よりも「当事者が主体で自分は支える立場」であることを意識することが大切です。
- •家族・支援者自身も「自分自身の苦労の研究者」として参加できる
- •「家族の当事者研究」「支援者の当事者研究」も行われている
- •「なぜ当事者の症状悪化を前に自分はパニックになるのか」を家族が研究する
- •「なぜ特定の利用者との関係で自分は消耗するのか」を支援者が研究する
- •当事者が主体で、自分は支える立場であることを意識する
- •ユーモアあふれる命名を「不謹慎」と批判せず、回復の力として尊重する
- •当事者の研究に過度に介入する(主体性を損なう)
- •「うまく研究して症状を消そう」と結果を急かす
- •自己病名やユニークな命名を否定する
- •「治してあげる」という上下関係に戻ってしまう
- •重い急性期に深い探究を促す
- •本人の話を遮って解釈してしまう
よくある質問
A. 当事者研究は精神科治療の代替ではなく、補完的なアプローチです。服薬・通院・カウンセリングなどの医療的治療を続けながら、並行して当事者研究を行うことが一般的です。当事者研究によって自己理解が深まることで、主治医との対話がより豊かになったり、自分に合った治療方法を見つける手がかりが増えたりする効果も報告されています。「治療をやめて当事者研究だけにする」という選択は、特に症状が重い時期には勧められません。まず医師に相談したうえで、当事者研究を取り入れることをお勧めします。
A. 当事者研究は特定の診断名がある人だけのものではありません。「生きづらさ」「なんとなくうまくいかない感覚」「自分のパターンを理解したい」という動機があれば、診断のない方でも参加できるグループがほとんどです。むしろ当事者研究の理念は「誰でも自分の苦労の専門家になれる」というものであり、精神障害の診断を受けた方に限らず、発達の凸凹を感じている方・慢性疼痛をもつ方・依存的な行動パターンが気になる方・ストレスや不安を抱える方など、幅広い方が参加しています。参加を検討しているグループに問い合わせて条件を確認することをお勧めします。
A. 苦労を話すことへの不安は自然な感覚であり、無理に話す必要はありません。当事者研究のグループでは「話したくないことは話さなくてよい」「聞くだけでも歓迎」という姿勢が大切にされています。ただし、ごく稀に、苦労を語ることでフラッシュバックや感情の揺れが大きくなることもあります。そのため、症状が不安定な時期は無理して深い探究をせず、安定してきたときに少しずつ始めることが勧められます。また信頼できる支援者や主治医に相談しながら進めることで、安心して取り組みやすくなります。「今日は見ているだけにする」「短く話す」など、自分のペースを大切にすることが最も重要です。
A. 当事者研究には厳密な「正しいやり方」はありません。「自分の苦労を研究しようとする姿勢」があれば、それだけで当事者研究は始まっています。うまく言葉にできなくても、研究が進まなくても、「今日はこんな苦労があった」と話すだけで十分です。むしろ当事者研究では「うまくいかなかったこと」「わからなかったこと」が重要な研究データとして扱われます。「完璧な研究をしなければ」と構えるより、「自分の体験を少し外側から眺めてみよう」という軽い姿勢が、当事者研究を長く続けるコツです。経験豊富な当事者研究者も「自分はまだまだ研究中」と言うほど、終わりがなく続いていくのが当事者研究です。
A. 当事者研究は当事者自身が主体ですが、家族や支援者が関わる形もあります。べてるの家では、家族や支援者も「自分自身の苦労の研究者」として当事者研究に取り組むことが奨励されており、「家族の当事者研究」「支援者の当事者研究」という実践も行われています。たとえば家族が「なぜ当事者の症状悪化を前に自分はパニックになるのか」を研究したり、支援者が「なぜ特定の利用者との関係で自分は消耗するのか」を研究したりすることが、関係全体を変えていくきっかけになることがあります。一方で、家族や支援者が当事者の研究に過度に介入することは当事者の主体性を損なうため、「一緒に参加する」よりも「当事者が主体で自分は支える立場」であることを意識することが大切です。
A. 当事者研究と認知行動療法(CBT)にはいくつかの共通点があります。どちらも自分の思考・行動・感情のパターンを観察し、より適応的なパターンへの変化を目指すという点では重なります。しかし重要な違いがあります。CBTは専門家が設計したプログラムに沿って実施される構造化された治療法であり、「問題となる認知・行動パターンの修正」が主目標です。これに対して当事者研究は、当事者自身が主体的に研究テーマを設定し、方法を考え、仲間とともに探究するという非構造的なアプローチです。また、当事者研究は「問題の修正・除去」より「自己理解の深化・苦労との共存」を大切にします。CBTが「症状を減らす」ことを目標とするのに対し、当事者研究は「自分をより深く知る」ことを目標とする、という違いも重要です。両者を組み合わせることで、より豊かな回復につながることもあります。
A. 症状が非常に重い急性期には、当事者研究より医療的なサポートを最優先にすることが大切です。幻聴・妄想が激しい時期、希死念慮が強い時期、強い解離症状がある時期などには、まず安全と安定を確保することが先決です。当事者研究は症状がある程度落ち着いた「維持期・回復期」に最も力を発揮します。ただし「完全に症状がなくなってから」という必要もなく、「少し落ち着いてきたかな」という時期から少しずつ始めることができます。また、当事者研究の観点では「症状が重いときに自分はどうなるか」を知ることも重要な研究テーマになりえます。支援者や主治医と相談しながら「今の自分に合ったペース・深さ」で参加することが、長く続けられる秘訣です。焦らず、ゆっくり、「今日も順調に苦労しています」という感覚で取り組むことが大切です。
「自分の苦労」を
一緒に研究してみませんか
あなたの苦労は、あなただけが知る「貴重な研究データ」です。一人で抱え込まず、まずはココトモで話してみることから、自分の専門家になる第一歩を踏み出してみませんか。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
