マタニティハラスメント(マタハラ)とは?
定義・種類・具体例・法的保護・対処法・相談窓口を徹底解説
妊娠・出産・育児に関連して職場で受ける嫌がらせ「マタハラ」。法律で禁止されているにもかかわらず多くの女性が苦しんでいます。定義・種類・具体例・心身への影響・法的保護・対処法・相談窓口、そしてパタハラ・ケアハラまで、必要な情報をすべてここにまとめました。
マタニティハラスメント(マタハラ)とは
マタハラは妊娠・出産・育児に関連して職場で受ける嫌がらせや不利益な扱いです。法律で明確に禁止されていますが、いまだに多くの働く女性が苦しんでいます。
マタニティハラスメントとは何か
マタニティハラスメント(Maternity Harassment、略称:マタハラ)とは、女性労働者が妊娠・出産したこと、あるいは産前産後休業・育児休業などの制度を利用したこと(または利用しようとしたこと)を理由として、職場において上司や同僚から受ける嫌がらせや不利益な取扱いのことです。
マタハラの本質は、妊娠・出産・育児という人生の重要なライフイベントと、労働者としての権利を守ることの間で、不当な犠牲を強いられることにあります。「子どもを産むなら仕事を辞めるべき」「育休を取ると周りに迷惑がかかる」——こうした考え方は、個人の選択と法律上の権利を無視するものであり、社会全体の持続可能性を損なうものです。
日本においてマタハラが社会問題として広く認識されるようになったのは2010年代以降のことですが、その問題自体は長い歴史を持っています。2014年には最高裁判決(広島中央保健生活協同組合事件)で妊娠・出産を理由とする降格が違法と判断されたことが大きな転機となり、2017年の法改正でマタハラ防止措置が事業主に義務づけられました。
法律上のマタハラ——2つの類型
法律上、マタハラに関連する規定は主に男女雇用機会均等法(均等法)と育児・介護休業法に置かれています。これらの法律では、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」として以下の2つの類型を定義しています。
例:育児休業の取得を申し出たところ、上司から「休みをとるなら辞めてもらう」と言われた。
例:妊娠を報告したところ、同僚から「忙しい時期に迷惑だ」と繰り返し言われた。
マタハラに該当するかの判断基準
ある言動がマタハラに該当するかどうかは、以下の基準で判断されます。
- 行為の主体上司からの言動と同僚からの言動で判断基準が異なる場合がある。上司からは1回の言動でもハラスメントと認められやすいが、同僚からは「繰り返し又は継続的に」行われることが要件とされる場合がある
- 業務上の必要性業務上の必要性に基づく合理的な言動は、原則としてハラスメントには該当しない。ただし、業務上の理由を装って実質的に不利益を与える場合はハラスメントに該当し得る
- 言動の内容と影響言動の内容が客観的に見て就業環境を害するものであるかどうか。「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断される
- 不利益取扱いとの関連妊娠・出産・育児休業等を「理由として」不利益な取扱いが行われたかどうか。時間的近接性や因果関係が重要な判断要素となる
マタハラとマタニティブルーの違い
マタハラとよく混同されることがある用語に「マタニティブルー」があります。マタニティブルー(マタニティブルーズ)は、出産後のホルモン変化に伴う一時的な気分の落ち込みや不安定さを指す医学的な用語であり、マタハラとは全く異なる概念です。
マタハラは外部からの加害行為であり、マタニティブルーは生理的な反応です。ただし、マタハラ被害に遭った妊産婦がマタニティブルーや産後うつを悪化させるリスクがあることは注意すべき点です。妊娠・出産期は心身ともに脆弱になりやすい時期であり、この時期にハラスメントを受けることの影響は特に深刻です。
制度等の利用への嫌がらせ型
労働者が妊娠・出産・育児に関する法律上の制度を利用したこと、または利用しようとしたことに対して行われる嫌がらせです。以下の制度の利用が保護対象となります。
これらの制度を利用する権利は法律で保障されており、制度の利用を理由とする不利益な取扱いやハラスメントは明確に違法です。
状態への嫌がらせ型
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠・出産に関する状態にあることに対して行われる嫌がらせです。以下の「状態」が保護対象となります。
- 妊娠したこと
- 出産したこと
- つわりや切迫流産など妊娠に起因する症状により労務の提供ができないこと、または労働能率が低下したこと
- 坑内業務や危険有害業務に就けないこと
- 産後の就業制限により就業できないこと
状態への嫌がらせ型は、妊娠そのもの、あるいは妊娠に伴う体調の変化に対する否定的な言動を指します。「つわりで休むなんて甘えだ」「妊婦は使い物にならない」といった発言が典型例です。
不利益取扱い(均等法違反)
マタハラとは別に、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは、男女雇用機会均等法第9条第3項により禁止されています。ハラスメント(就業環境を害する言動)とは区別されますが、密接に関連する問題です。禁止される不利益取扱いには以下のものがあります。
不利益取扱いについては、妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」行われた場合、原則として妊娠・出産等を「理由として」行われたものと判断されます。ただし、業務上の必要性から不利益取扱いに当たる行為が行われ、その理由が妊娠等の事由とは関係がないことが客観的に明らかな場合は例外とされます。
マタハラの分類一覧
マタハラと関連する不利益取扱いを5つに整理すると、以下のようになります。
上司からのマタハラの具体例
上司からのマタハラは、職場における力関係を背景に行われるため、被害者にとって特に抵抗しにくく、深刻な影響を及ぼします。
- 妊娠の報告を受けて「このタイミングで?困るんだけど」と不快感を示す
- 「妊娠したなら早く辞めたほうがいい」「もう戦力として期待できない」と退職を示唆する
- 育児休業の取得を申し出たところ「休むなら代わりの人を自分で見つけてこい」と言う
- 「前例がないから」「今の時期は無理」と制度利用の申請を受け付けない
- 妊娠中の体調不良で休暇を取ったところ、人事評価を下げる
- 産休・育休から復帰した部下を以前とは異なる(格下の)ポジションに配置する
- 「子どもがいるんだから残業できないよね」と本人の意向を確認せずに重要なプロジェクトから外す
- 「妊娠は自己責任」「会社に迷惑をかけている自覚はあるのか」と叱責する
- 時短勤務の申請を渋り、「皆フルタイムで頑張っているのに」と言って罪悪感を与える
- 妊婦健診のための通院時間を認めず、業務時間外に行くよう指示する
同僚からのマタハラの具体例
同僚からのマタハラは、「自分たちの負担が増える」という不満を背景に発生することが多く、繰り返し行われることで深刻な被害となります。
- 「あなたが休むせいで私たちの仕事が増えるんだけど」と繰り返し言う
- 「妊婦だから楽でいいよね」と嫌味を言う
- 妊娠した同僚を無視する、仲間外れにする
- 「また休むの?」「体調管理できないの?」とつわりによる休みを責める
- 「子どもを産んだくせにすぐ戻ってきて、中途半端」と復帰を批判する
- 育休中の同僚について陰口を言う、噂を広める
- 「私は子どもがいなくても頑張っているのに」と比較して圧力をかける
- 妊娠した同僚の業務を引き継ぐことを露骨に嫌がる
同僚からのマタハラについて、法律上は「繰り返し又は継続的に」行われることが要件とされることがありますが、複数の同僚から行われる場合や、内容が特に悪質な場合は、少ない回数でもハラスメントに認定されることがあります。
制度面でのマタハラ(組織的マタハラ)
直接的な言動によるハラスメントだけでなく、組織の制度や慣行を通じて行われるマタハラも存在します。
- 育児休業の取得率の低さを「文化」として容認し、取得しにくい雰囲気を放置する
- 育休復帰後の配置において、本人の能力や希望を考慮せず、一律に補助的な業務に割り当てる
- 「マミートラック」——子育て中の女性を昇進・昇格のルートから外し、キャリアの発展を制限する
- 妊娠・出産を考慮しない長時間労働前提の評価制度
- 時短勤務者に対する人事評価の不当な引き下げ(時短分以上の評価減)
- 「本人の同意」を形式的に取りつけて、実質的な不利益変更を行う
組織的マタハラは個人の言動と比べて可視化されにくく、「会社の方針」として受け入れさせられてしまうことがあります。しかし、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは、形式的な同意があっても違法となり得ます。最高裁判決(広島中央保健生協事件、2014年)では、降格について本人の「自由な意思」に基づく同意があったかどうかが厳格に判断されました。
見落とされがちなマタハラ
以下のような言動は、善意や気遣いのつもりで行われることが多いですが、場合によってはマタハラに該当することがあります。
- 過度な配慮「妊婦さんは無理しないで」と、本人が希望していないのに仕事を取り上げる。本人のキャリア意欲や能力を無視した「配慮」は、実質的な能力否定になることがある。
- 善意の押し付け「子どものためにも辞めたほうがいいんじゃない?」「育児に専念したほうが子どものためだよ」など、本人の意向を確認せずに退職や働き方の変更を勧める。
- プライバシーへの過度な干渉妊娠に関する情報を本人の同意なく職場で共有する。体調について周囲に詳しく説明するよう求める。
- 「期待の低下」の表明「もう出世は考えなくていいから」「しばらくは家庭優先でいいよ」など、本人のキャリア志向を勝手に断定する。
マタハラを生む4つの背景
マタハラの背景には複数の要因が絡み合っています。タブを切り替えてそれぞれの要因を確認してください。
「女性は家庭を守り、男性は外で働く」という伝統的な性別観が、妊娠・出産した女性が仕事を続けることに対する否定的な態度を生み出します。日本では長年にわたって専業主婦モデルが一般的であったため、妊娠した女性が退職するという「暗黙の了解」が多くの職場に存在してきました。法制度が整備された現在でも、この意識が完全に払拭されたとは言い難く、特に管理職世代を中心に根強い性別役割意識が残っている場合があります。
「長く働くことが評価される」「常にフルタイムで働ける人が優秀」という価値観のもとでは、妊娠による体調変化や時短勤務は「マイナス」として捉えられやすくなります。慢性的な人員不足のもとで一人が産休・育休で抜けると残りのメンバーへの負担が急増し、これが妊娠した同僚への不満やハラスメントにつながることがあります。本来、欠員時の業務体制の見直しや人員補充は企業の責任であり、その負担を妊娠した労働者個人に転嫁することは不当です。
マタハラの多くは、妊娠・出産・育児に関する法律上の権利や制度について、管理職や従業員の理解が不十分なことに起因しています。「法律を知らなかった」は免責事由にはなりませんが、教育と啓発によって防止できるタイプのマタハラが多いことも事実です。
妊娠・出産が社会全体にとって重要であり、その支援は社会の持続可能性に直結するという認識の不足から生まれる偏見も、マタハラの背景にあります。少子化が深刻な社会問題となっている日本において、マタハラは少子化をさらに加速させる要因ともなっています。
- 「子どもが小さいうちは母親が家にいるべき」
- 「仕事と育児の両立は女性の責任」
- 「妊娠したら仕事を辞めるのが当然」
- 長時間労働文化
- 慢性的人員不足
- 業務負荷の偏り
- マネジメント不全
- 産休・育休が法律上の権利であることを知らない管理職がいる
- 「育休は会社の恩恵・福利厚生」であって「取れるかどうかは会社が決める」と誤解されている
- 妊婦健診のための通院時間の確保が事業主の義務であることが知られていない
- 不利益取扱いの禁止規定の内容が正確に理解されていない
- パートタイム労働者や有期契約労働者にも育休の権利があることが認識されていない
- 「妊娠は自己責任」という考え:個人的な選択として、影響は本人が引き受けるべきと考える
- 妊婦の能力に対する過小評価:能力が低下する、判断力が鈍るといった根拠のない思い込み
- 「お互い様」意識の欠如:自分には関係ないこととして支援を拒否する
- 逆差別意識:「妊婦だけ特別扱い」「不公平だ」と制度利用が特権として捉えられる
マタハラが心身に与える影響
妊産婦とその家族への深刻な影響——メンタルヘルス・身体・キャリアへの長期的ダメージを理解しましょう。
妊娠中の心理的影響
マタハラは、妊娠中の女性の心理的健康に深刻な影響を及ぼします。妊娠期は心身ともに大きな変化の時期であり、通常よりもストレスに対して脆弱であるため、ハラスメントの影響がより深刻なものとなります。
産後うつとの関連
マタハラ被害は、産後うつ(産後うつ病)の発症リスクを高める要因です。産後うつは、出産後の女性の約10〜15%が経験するとされる精神疾患で、持続的な気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、疲労感、集中困難、自責感、睡眠障害、食欲変化などの症状を特徴とします。マタハラを受けた経験は、以下のメカニズムで産後うつのリスクを高めます。
- 妊娠中から蓄積されたストレスが出産後に爆発的に表面化する
- 職場からのサポート喪失により、育児と仕事の間で孤立感が深まる
- 「母親としても労働者としても失格だ」という自己否定感が強まる
- 職場復帰への不安が産後の精神状態をさらに悪化させる
- マタハラにより退職を余儀なくされた場合、経済的不安が精神的負担を増大させる
産後うつは適切な治療を受ければ回復が見込める疾患ですが、放置すると重症化し、母親自身の健康だけでなく、母子関係や家族全体の幸福に長期的な影響を及ぼすことがあります。
身体的健康への影響
マタハラによるストレスは、妊娠中の身体的な健康にも直接的な影響を与えます。
キャリアと経済面への影響
マタハラは、被害者のキャリアと経済状況にも長期的な悪影響を及ぼします。
- 退職の強要マタハラにより退職を余儀なくされるケース。特に妊娠初期のつわりが重い時期や、育休復帰後に居場所がなくなった場合に多い。
- マミートラック育休復帰後に、昇進・昇格のルートから外され、補助的な業務に固定される。キャリアの停滞・後退。
- 所得の減少時短勤務による所得減に加え、不当な評価による賞与・昇給への影響。
- スキル・経験の断絶育休中のブランクと復帰後の担当業務の変更により、キャリアの連続性が失われる。
- 再就職の困難マタハラにより退職した場合、幼い子どもを抱えての再就職は困難を伴うことが多い。
- 経済的自立の喪失退職による収入喪失は、女性の経済的自立を脅かし、家庭内の力関係にも影響する。
マタハラの経済的影響は、個人にとどまらず社会全体に及びます。女性の労働参加率の低下、人材の流出、少子化の加速——マタハラは、日本の経済と社会の持続可能性に関わる問題です。
家族への波及的影響
マタハラの影響は被害者本人にとどまらず、パートナーや子どもを含む家族全体に波及します。
- パートナーとの関係への影響マタハラによるストレスは夫婦関係にも緊張をもたらす。特に、パートナーがマタハラの深刻さを理解してくれない場合、孤立感が深まる。
- 母子関係への影響産後うつやストレスは、母親と赤ちゃんの愛着形成(ボンディング)に影響を及ぼすことがある。
- 家族の経済状況退職や収入減少により、家計に負担が生じる。
- 子どもの将来の価値観親がマタハラを経験したことは、子どもの仕事観やジェンダー意識に長期的に影響し得る。
男女雇用機会均等法による保護
男女雇用機会均等法(均等法)は、マタハラに関する最も重要な法的基盤の一つです。
事業主は、女性労働者が妊娠・出産したこと、産前産後休業の請求・取得をしたこと、その他の妊娠・出産に関する事由を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。妊娠中および出産後1年以内に行われた解雇は、事業主が妊娠・出産等を理由とするものでないことを証明しない限り、無効とされます(第9条第4項)。
2017年1月の改正により、事業主には妊娠・出産等に関するハラスメント防止のために必要な措置を講じる義務が課されました。具体的には、方針の明確化と周知・啓発、相談窓口の設置と適切な対応、事後の迅速かつ適切な対応、マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置が義務づけられています。
育児・介護休業法による保護
育児・介護休業法も、マタハラに関連する重要な法律です。
事業主は、育児休業、介護休業、子の看護休暇、時短勤務等の制度を利用したことを理由として、労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないとされています。
育児休業等の制度の利用に関するハラスメント防止のために必要な措置を講じることが事業主に義務づけられています。
2022年の法改正のポイント
- 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設:子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
- 育児休業の分割取得:子が1歳になるまでに2回に分割して取得可能に
- 育児休業取得の個別周知・意向確認の義務化:本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対して、制度について個別に周知し、取得意向を確認することが義務化
- 育児休業取得状況の公表義務化(従業員1000人超の企業)
その他の関連法令
マタハラに関連するその他の法令として、以下のものがあります。
- 労働基準法産前産後休業(第65条)、育児時間(第67条)、妊産婦の時間外労働等の制限(第66条)、危険有害業務の就業制限(第64条の3)など、妊産婦の保護に関する規定。
- 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)パワハラ防止措置の義務化とあわせて、マタハラを含むハラスメント全般に関する事業主の責務を規定。
- 民法不法行為に基づく損害賠償(第709条)、使用者責任(第715条)、債務不履行に基づく損害賠償(第415条・安全配慮義務違反)。
- 憲法個人の尊厳(第13条)、法の下の平等(第14条)の精神がマタハラ禁止の根拠となる。
被害を受けたらまず行うこと
マタハラ被害を受けた場合、まず以下のことを心がけてください。
- 記録を取るマタハラの言動について、日時、場所、相手の氏名・役職、具体的な発言内容、居合わせた人(目撃者)を詳しく記録。メモ帳やスマートフォンのメモアプリに、できるだけ早くその日のうちに記録することが大切です。
- 証拠を保全するメール、LINE、社内チャットなどのメッセージはスクリーンショットで保存。録音も有効な証拠になります。
- 自分を責めない「妊娠した自分が悪い」「迷惑をかけている」と思う必要はありません。妊娠・出産は権利であり、マタハラの責任は加害者と、適切な対応を怠った組織にあります。
- 体調を最優先する妊娠中は母体と胎児の健康が最も大切です。ストレスが体調に影響している場合は、産婦人科医に相談してください。
社内での相談と対処
マタハラへの対処は、以下のステップで進めることを推奨します。
法的手段の活用
マタハラ被害に対しては、さまざまな法的手段を活用することができます。
- 都道府県労働局への相談・申告労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。助言・指導・調停(紛争調整委員会によるあっせん)を無料で利用できます。
- 労働審判裁判所における迅速な紛争解決手続き。原則3回以内の期日で結論が出ます。解雇の撤回や損害賠償を求めることができます。
- 民事訴訟不当解雇の無効確認、損害賠償請求(慰謝料、逸失利益など)を裁判で争うことができます。
- 労働基準監督署への申告産前産後休業や労働時間制限など、労働基準法違反がある場合に申告できます。
妊娠中のメンタルヘルスケア
マタハラのストレスに対処しながら妊娠期を健やかに過ごすために、以下のセルフケアを心がけてください。
- ✓産婦人科医への相談:ストレスが体調に影響している場合は、必ず産婦人科医に伝える。必要に応じて診断書の発行や休業の指示を受けられる
- ✓信頼できる人とのつながり:パートナー、家族、友人など、信頼できる人に状況を話し、孤立しないようにする
- ✓十分な休息:無理をせず、体が求める休息を取る。妊娠中は普段以上に休息が必要
- ✓リラクゼーション:マタニティヨガ、呼吸法、散歩など、心身をリラックスさせる活動を日常に取り入れる
- ✓権利の確認:自分にどのような権利があるかを知ることは、心理的な安定にもつながる
- ✓専門家のサポート:不安やうつ症状がある場合は、心療内科や臨床心理士のカウンセリングを受けることを検討
事業主に義務づけられた防止措置
男女雇用機会均等法および育児・介護休業法により、事業主には以下のマタハラ防止措置が義務づけられています。
- 方針の明確化と周知・啓発マタハラがあってはならない旨の方針を明確にし、管理監督者を含む全労働者に周知・啓発。行為者に対して厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発。
- 相談体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知。相談窓口の担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
- 事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に確認。事実確認ができた場合は、被害者に対する配慮措置を適正に行い、行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講ずる。
- 原因や背景となる要因の解消業務体制の整備など、マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置を講ずる。これは他のハラスメント(セクハラ、パワハラ)にはないマタハラ特有の義務。
- プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止相談者・行為者等のプライバシーを保護し、相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止。
業務体制の整備
マタハラの原因の多くは、人員不足や業務負荷の偏りにあります。企業は、従業員が産休・育休を取得しても業務が円滑に回る体制を整備する必要があります。
- 代替要員の確保:産休・育休取得者の業務を引き継ぐ人材を確保する仕組みを整える。派遣社員の活用、他部門からの一時的な異動、業務の外部委託などの選択肢を検討
- 業務の見直しと効率化:属人的な業務を減らし、複数人で対応できる体制にする。業務マニュアルの整備、ナレッジの共有などにより、個人への依存度を下げる
- 引継ぎの計画的な実施:産休に入る前に十分な期間を確保して計画的に引継ぎを行う
- 残された従業員への配慮:産休・育休取得者の業務を引き受ける従業員に対して、業務量の調整や手当の支給などの配慮を行う。この配慮がないと、残された従業員のストレスがマタハラにつながることがある
管理職の教育と意識改革
管理職はマタハラの防止において最も重要な役割を担います。管理職の言動がそのまま部門の文化を形成するため、管理職への教育は不可欠です。
- 妊娠・出産・育児に関する法律上の権利と制度の正確な理解
- マタハラの定義、具体例、判断基準に関する知識
- 部下から妊娠の報告を受けた際の適切な対応方法
- 制度利用の申し出に対する前向きな姿勢の養成
- 業務体制の調整や代替要員の確保に関するマネジメントスキル
- 無意識のバイアス(偏見)への気づき
管理職研修では、知識の伝達だけでなく、ロールプレイやケーススタディを通じて実践的な対応力を養うことが効果的です。「自分の部下が妊娠したら」というシミュレーションを行い、適切な対応と不適切な対応の違いを体感することが重要です。
全社員向けの啓発活動
マタハラ防止は管理職だけの問題ではありません。同僚からのマタハラを防ぐためには、全社員を対象とした啓発活動が必要です。
- マタハラに関する全社員向け研修の定期的な実施
- 妊娠・出産・育児に関する制度の周知(ハンドブック、イントラネットでの情報発信など)
- 「お互い様」の文化の醸成——自分もいつかは制度を利用する側になる可能性があるという意識づけ
- 妊娠した同僚をサポートする立場の社員への負担軽減策の周知
- マタハラ被害を見かけた場合の通報を奨励する風土づくり
代表的な裁判例
妊娠中の軽易業務への転換を機に副主任を免ぜられた理学療法士が、降格は均等法第9条第3項に違反するとして争った事案。最高裁は、妊娠中の軽易業務転換を「契機として」降格させることは、原則として均等法第9条第3項の禁止する不利益取扱いに該当するとの判断を示した。例外が認められるのは、①本人の自由な意思に基づいて降格を承諾したと認められる合理的な理由が客観的に存在する場合、または②業務上の必要性等の特段の事情が存在する場合に限られるとした。この判決は、妊娠・出産を「契機とした」不利益取扱いの違法性を明確にし、企業に対して妊産婦の処遇に関する厳格な対応を求めるものとして、大きな影響を与えた。
語学スクール運営会社の女性従業員が、育児休業からの復帰に際して正社員から契約社員への変更を強いられた事案。裁判所は、育児休業を取得したことを理由とする雇用形態の変更は不利益取扱いに当たると判断。本人が契約社員への変更に「同意」していたものの、それが真に自由な意思に基づくものではなく、会社からの圧力によるものであったことが認定された。形式的な同意があっても実質的に強制された場合は、不利益取扱いの禁止に違反するという重要な判断が示された。
裁判例から学ぶポイント
これらの裁判例から、企業と労働者が理解しておくべき重要なポイントは以下の通りです。
- 妊娠・出産・育児休業等を「契機とした」不利益取扱いは、原則として違法である
- 「本人の同意」があっても、それが真に自由な意思に基づくものでなければ違法となり得る
- 企業は「業務上の必要性」を主張する場合、その必要性を客観的に立証する責任がある
- マタハラに伴う精神的苦痛に対しては、慰謝料の支払いが命じられることがある
- 企業には安全配慮義務があり、マタハラを放置した場合の使用者責任を問われる
復帰前の準備
育休からの職場復帰をスムーズに行うためには、復帰前の準備が重要です。
- 復帰面談の実施復帰の1〜2ヶ月前に上司や人事担当者との面談を行い、復帰後の勤務形態、業務内容、保育施設の状況などについて共有する。
- 段階的な復帰計画いきなりフルタイムに戻るのではなく、時短勤務制度を活用して段階的に復帰することを検討する。
- 業務の引継ぎと更新情報の共有休業中の業務の変更点、組織の変化、新しいシステムの導入などについて情報共有を受ける。
- 保育施設の確保保育園の確保は早めに行い、復帰日を確実にする。病児保育やファミリーサポートなどのバックアップ体制も検討する。
復帰後の適切な配慮
復帰後の職場環境が、マタハラの発生を左右する重要な時期です。企業は以下のような配慮を行うべきです。
- 原職復帰の原則育休前と同等のポジション・業務に復帰させることが原則。やむを得ず異なる業務に配置する場合は、本人の同意と合理的な理由が必要。
- 能力・経験に見合った業務の付与「育休明けだから」という理由で、本人の能力を大幅に下回る業務のみを与えることは不適切。
- 研修・キャッチアップの機会提供休業中に変化した業務内容やシステムについての研修を提供する。
- 柔軟な働き方の選択肢時短勤務、フレックスタイム、テレワークなど、育児と仕事を両立できる柔軟な働き方の選択肢を提供する。
- メンター制度育休復帰経験者をメンターとして配置し、復帰後の悩みや課題を相談できる体制を整える。
復帰後に起こりやすいマタハラ
育休復帰後は、以下のようなマタハラが起こりやすい時期でもあります。注意が必要です。
- 「浦島太郎」扱い「もう仕事の仕方を忘れたでしょ」「ブランクがあるから」と、能力を過小評価される。
- マミートラックへの固定重要な案件やプロジェクトから外され、補助的な業務のみを任される。昇進のルートから排除される。
- 急な呼び出しや残業の強要保育園の迎えの時間があることを無視して、急な残業や出張を命じる。
- 子どもの体調不良による欠勤への批判「また休むの?」「子どものことで休むのは甘え」といった発言。
- 孤立化休業中に人間関係が変化し、職場内で孤立する。情報共有から外される。
公的機関の相談窓口
民間の支援団体
- ココトモチャットで無料相談が可能。メンタルヘルスに関する悩みを匿名で相談できる
- マタハラNetマタハラに特化した支援団体。情報提供と相談対応を行っている
- NPO法人 労働相談センター職場のハラスメントに関する無料電話・メール相談
- 日本労働弁護団労働問題専門の弁護士団体。全国各地で無料相談会を開催
- いのちの電話0120-783-556(24時間・無料)。精神的に追い詰められている方の相談
相談する際のポイント
マタハラについて相談する際は、以下の点を意識すると効果的です。
- 事実を時系列で整理する:いつ、どこで、誰から、どのようなマタハラを受けたかを時系列で整理しておく
- 証拠を整理する:メモ、メール、録音、診断書などの証拠を整理して持参する
- 自分の希望を明確にする:「元のポジションに戻りたい」「損害賠償を求めたい」「とにかく話を聞いてほしい」など、相談の目的を明確にしておく
- 現在の妊娠の状態を伝える:妊娠中の場合は、現在の妊娠週数や体調を伝えることで、緊急性の判断がしやすくなる
- 複数の窓口に相談する:一つの窓口で解決しない場合は、別の機関にも相談してみる
よくある質問
A. はい、マタハラに関する法的保護は、雇用形態に関わらず適用されます。正社員、パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣労働者のいずれであっても、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いやハラスメントは違法です。また、有期契約労働者(パート等)も、一定の要件を満たせば育児休業を取得する権利があります。
A. 妊娠の報告直後に行われた退職勧奨は、妊娠を理由とする不利益取扱いとして違法と判断される可能性が非常に高いです。均等法第9条第3項は、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止しており、退職勧奨もこれに含まれます。退職に応じる必要はありません。記録を取った上で、労働局や弁護士に相談してください。
A. 育児休業は法律上の権利であり、「前例がない」ことは取得を拒否する正当な理由になりません。会社の就業規則に育休の規定がない場合でも、法律上の要件を満たす労働者は育児休業を取得できます。会社に法律上の権利であることを伝え、それでも認められない場合は労働局に相談してください。
A. 育休からの復帰後は、原則として原職(休業前と同じポジション)に復帰させることが望ましいとされています。異なる部署への配置が本人の意向に反して行われ、かつ合理的な理由がない場合は、不利益取扱いに該当する可能性があります。配置転換の理由について会社に説明を求め、納得がいかなければ相談窓口に相談しましょう。
A. 我慢する必要はありません。つわりなど妊娠に起因する症状により労務の提供ができないことや能率が低下することは、法律上の保護対象です。それを理由に嫌がらせを受けることは「状態への嫌がらせ型」マタハラに該当します。まずは記録を取り、社内の相談窓口に相談してください。医師から休業の指示を受けている場合は、母性健康管理措置として休業が保障されます。
A. はい、育児休業等の制度利用を理由とするハラスメント防止措置義務は、男女を問わず適用されます。男性が育児休業を取得したこと(またはしようとしたこと)を理由とする嫌がらせや不利益取扱いは違法です。法的な対処法はマタハラと同様であり、都道府県労働局への相談や法的手段の活用が可能です。
A. マタハラにより精神障害(うつ病等)を発症した場合、労災認定を受けられる可能性があります。2023年に改正された精神障害の労災認定基準では、ハラスメント(パワハラ、セクハラ)が具体的な出来事として例示されています。マタハラについても、その内容がパワハラやセクハラに該当する場合や、それに準じる心理的負荷がある場合は労災認定の対象となり得ます。労災申請を検討する場合は、弁護士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
A. マタハラは企業にとって、法的リスク(損害賠償、行政指導)、人材流出(優秀な人材の退職)、採用力の低下(企業イメージの毀損)、生産性の低下(従業員のモチベーション低下)、訴訟リスク(裁判対応のコスト)など、多面的なリスクをもたらします。特にSNS時代においては、マタハラの評判が企業のブランドイメージを大きく損なうこともあり、経営上のリスクは甚大です。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
マタハラの苦しみは、一人で抱え込まないでください。「これはハラスメントなのかわからない」「誰に相談すればいいの」——どんな小さな悩みでも、ここに話してみてください。あなたの大切な悩みをしっかり聞かせていただきます。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。マタハラを受けてメンタルヘルスに影響が出ている場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。また、労働問題については各都道府県の労働局・労働基準監督署に相談できます。
