精神障害者保健福祉手帳とは?
取得メリット・申請方法・等級を徹底解説
精神疾患を抱える方の自立と社会参加を支える「精神障害者保健福祉手帳」。1〜3級の認定基準、税金控除・通信費・公共施設の各種割引、申請手続き、更新方法、障害年金との関係、就労での活用法まで、必要な情報をすべてまとめました。
精神障害者保健福祉手帳とは
精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患により長期にわたって日常生活・社会生活に制約がある方に都道府県知事等が交付する手帳です。1995年に精神保健福祉法に基づき創設されました。
手帳の定義と法的根拠
精神障害者保健福祉手帳(せいしんしょうがいしゃほけんふくしてちょう)とは、精神障害を有するために長期にわたって日常生活または社会生活に制約がある方に対して都道府県知事・指定都市市長が交付する手帳です。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第45条に基づいて1995年(平成7年)に創設されました。
手帳の目的は、精神障害者の自立と社会参加の促進を図るため、手帳を持つ方が各種支援・サービスをスムーズに受けられるようにすることです。手帳の所持は義務ではなく、本人の意思に基づく任意の申請です。
- 根拠法律精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第45条
- 創設1995年(平成7年)10月
- 交付主体都道府県知事・政令指定都市市長(窓口は市区町村)
- 有効期限2年(2年ごとに更新が必要)
- 等級1級・2級・3級の3段階
- 申請要件精神疾患の初診から6か月以上経過していること
手帳の対象者
精神障害者保健福祉手帳の対象となるのは、何らかの精神疾患によって長期にわたり日常生活や社会生活に制約がある方です。ただし、申請するためには精神疾患による初診から6か月以上が経過していることが条件となっています。
知的障害のみの場合は精神障害者保健福祉手帳の対象外となりますが(知的障害は療育手帳の対象)、精神障害と知的障害の両方を有する場合は精神障害者保健福祉手帳を申請することもできます。
3種類の障害者手帳との違い
日本には障害者手帳として3種類があります。それぞれを正しく理解しておきましょう。
なお、複数の障害がある場合(例:精神障害と身体障害)は、それぞれの手帳を同時に取得することができます。手帳の種類が異なれば、それぞれ別個に申請・取得が可能です。
手帳を取得することで何が変わるか
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、主に次のような変化があります。
1級・2級・3級の認定基準と違い
手帳の等級は診断名だけで決まるものではなく、日常生活・社会生活への影響の大きさによって総合判定されます。1〜3級それぞれの基準と、税制・年金・NHKでの違いを整理します。
等級判定の仕組み
精神障害者保健福祉手帳の等級は、診断名だけで自動的に決まるものではありません。精神疾患の存在を確認した上で、日常生活や社会生活にどの程度支障があるかという「生活への影響の大きさ」によって総合的に判定されます。
等級の判定は以下のステップで行われます。
- Step 1精神疾患(機能障害)の存在の確認
- Step 2精神疾患の状態の確認(症状の程度・経過)
- Step 3能力障害(活動制限)の状態の確認(日常生活能力の程度)
- Step 4精神障害の程度の総合判定
主治医が記載した診断書をもとに、都道府県の精神保健福祉センターが審査・判定を行います。
1級の認定基準
1級は、精神障害の程度が最も重い等級です。
- 一人では食事・着替え・入浴などの基本的な日常生活動作が困難
- 常時誰かの監護・援助が必要な状態
- 重症の統合失調症・重度のうつ病・重篤な認知症などが該当しうる
- 所得税・住民税での「特別障害者控除」の対象(1級は特別障害者に該当)
- 障害基礎年金1級に認定された場合は、診断書なしに年金証書で手帳1級の申請が可能
2級の認定基準
2級は、手帳所持者の中で最も多い等級です。
- 一人での日常生活は一定程度可能だが、難しい場面が多く援助が必要なことがある
- 就労が難しいか、就労できても短時間・軽作業に限られる状態
- 中等度の統合失調症・うつ病・双極性障害の安定期以外などが該当しうる
- NHK受信料の全額免除(世帯内の他に市町村民税課税者がいない場合)の対象
- 障害基礎年金2級を受給中であれば、診断書なしに年金証書で手帳2級を申請可能
3級の認定基準
3級は、最も症状が軽い等級です。精神障害者手帳の中で3級のみ障害基礎年金に対応する等級がない(障害基礎年金は1・2級のみ)点が特徴です。
- 日常生活は概ね一人で行えるが、ストレス場面や職場・社会での行動に支障がある
- 就労は可能だが、環境調整や配慮が必要な状態
- 就労中・復職を目指している精神疾患の方が多く取得する等級
- 税金控除・各種割引など、手帳のメリットのほとんどが3級でも利用可能
- 障害者雇用枠での就職が可能になる
1級・2級・3級の比較まとめ
各等級における障害の程度・就労状況・税控除・年金・NHK受信料の違いをまとめます。
取得できるメリット一覧
税金控除・公共交通割引・通信費割引・公共施設利用・NHK受信料・就労支援・医療費軽減など、手帳取得により利用できる支援は多岐にわたります。等級によらず3級でもメリットのほとんどが利用可能です。
手帳取得で利用できる支援一覧
手帳取得により利用できる支援を8つのカテゴリーに整理しました。タブで切り替えて確認できます。
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、税制上の優遇措置が受けられます。これは手帳の最も大きなメリットの一つです。
交通機関の割引サービスは、地域・事業者によって内容が異なります。
主要な携帯電話会社が精神障害者手帳保持者向けの料金割引を提供しています。各社の割引内容や対象プランは変更になることがあるため、取得後に各キャリアの窓口または公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします。
精神障害者手帳を提示することで、多くの施設の入場料が無料または割引になります。
NHK受信料については、手帳の等級と世帯の課税状況によって異なります。
手帳を取得すると、障害者向けの就労支援サービスを公式に利用できるようになります。
手帳と連携して活用できる医療費軽減制度があります。
住宅・生活福祉資金など、その他の生活支援制度も活用できます。
- 所得税の障害者控除2・3級は年間27万円、1級(特別障害者)は年間40万円の所得控除。同一生計の配偶者や扶養親族が手帳を持っている場合も控除対象。
- 住民税の障害者控除2・3級は年間26万円、1級(特別障害者)は年間30万円の住民税控除。
- 相続税の控除手帳所持者が相続人である場合、障害者控除として一定額が控除される。
- 贈与税の非課税制度障害者特別控除信託(特定障害者扶養信託)を活用すると、6,000万円(特別障害者)または3,000万円(その他障害者)まで非課税。
- 鉄道・バスJRは現在のところ精神障害者手帳での運賃割引制度がない(身体・知的障害者手帳には適用)が、多くの私鉄・地下鉄・バスは各社の判断で割引を実施。自治体によっては公営交通が無料・割引となるケースも。
- タクシー多くのタクシー会社が1割引程度の割引を実施(事業者による)。
- 国内航空ANAおよびJALともに、精神障害者手帳での割引運賃(障害者割引)の適用対象。
- 有料道路精神障害者1級の方が運転または同乗する場合、ETC利用で高速道路料金が半額(手続きは市区町村の窓口)。
- NTTドコモ「ハーティ割引」——基本料金・通信料が割引(詳細は最新のプランを確認)。
- au「スマイルハート割引」——基本使用料・一部オプション料が割引。
- ソフトバンク「ハートフレンド割引」——基本使用料が割引。
- 楽天モバイル「障がい者割引」——月額料金の割引。
- 国立博物館・美術館国立の博物館・美術館・動物園・植物園等は、手帳提示で本人無料(同伴者も無料または割引の場合あり)。
- 都道府県・市区町村の公共施設公立の博物館・美術館・図書館・プール・体育館等で無料または割引になるケースが多い。
- 映画館多くの映画館で割引料金が適用される(1,000円前後が目安)。
- 遊園地・テーマパーク施設によって割引または無料。
- 全額免除障害者(精神障害者手帳2級以上)本人またはその配偶者・世帯員が受信契約者であり、世帯全員が市町村民税非課税の場合。
- 半額免除身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳のいずれかを持つ方(視覚・聴覚障害以外)が世帯主で受信契約者の場合。
- 障害者雇用枠での就職手帳があることで、法定雇用率の対象となる「障害者雇用枠」での求人に応募できる。
- 就労移行支援事業所障害のある方の就職を支援する福祉サービス(原則2年間、原則無料)を利用できる。
- 就労継続支援A型・B型一般就労が難しい方向けの就労機会を提供する福祉サービス。
- ハローワーク専門援助部門ハローワークの障害者担当窓口で、専任の就職支援ナビゲーターが求職活動をサポート。
- 障害者就業・生活支援センター就業面と生活面の一体的な支援。
- 障害者職業センター職業評価・職業準備支援・ジョブコーチ支援などを提供。
- 自立支援医療制度(精神通院医療)精神疾患で継続的に精神科・心療内科に通院している場合、医療費の自己負担が原則1割に軽減される制度(手帳なしでも申請可能だが、手帳と同時申請することで手続きが効率化できる)。
- 心身障害者医療費助成制度都道府県・市区町村によって、1〜2級の手帳所持者の医療費を無料または大幅に減額する制度がある(内容は地域によって大きく異なる)。
- 生活福祉資金の貸付都道府県社会福祉協議会による低利融資制度が利用可能。
- 住宅公営住宅の入居優遇(入居抽選での優先措置など)。
- 郵便点字郵便物・心身障害者用郵便物の無料制度(一部対象)。
- 水道料金市区町村によっては水道・下水道の基本料金減免あり。
- 障害者グループホーム夜間や休日の生活支援を受けながら共同生活できる住居の利用が可能。
手帳に関する基本数値
(身体・療育・精神)
障害者控除額
初診からの経過期間
申請方法・必要書類・手続きの流れ
申請は市区町村窓口で行います。主治医の診断書または障害年金証書を添えて提出し、都道府県の精神保健福祉センターで審査を経て交付されます。診断書作成料以外の手数料は無料です。
申請の全体的な流れ
精神障害者保健福祉手帳の申請は、主に以下のステップで進みます。
必要書類(診断書での申請の場合)
診断書を使って申請する際の必要書類は以下の通りです。
- ✓精神障害者保健福祉手帳交付申請書(窓口で受け取れる所定の様式)
- ✓手帳用の診断書(精神保健指定医または精神障害の診断・治療に従事する医師が記載。初診から6か月以上経過後のもの)
- ✓写真1枚(縦4cm×横3cm、上半身・正面・無帽・カラーまたは白黒、1年以内に撮影したもの)
- ✓本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証等。自治体により必要書類が異なる)
- ✓印鑑(認印。シャチハタ不可の場合あり)
- ✓マイナンバーが確認できるもの(マイナンバーカードまたはマイナンバー通知カード)
必要書類(障害年金証書を使った申請の場合)
すでに精神障害を理由に障害基礎年金1級または2級を受給している場合、診断書の代わりに年金証書を使って申請することができます。
- ✓精神障害者保健福祉手帳交付申請書
- ✓写真1枚(縦4cm×横3cm)
- ✓障害年金証書の写し(精神障害を理由に認定されたものに限る)
- ✓直近の年金振込通知書または預金通帳(現在も受給中であることの確認のため)
- ✓同意書(年金の情報照会に関する同意書。窓口で入手)
この方法では診断書の費用がかからない利点があります。ただし、手帳の等級は年金の等級に対応(1級年金→手帳1級、2級年金→手帳2級)するため、3級での取得は診断書による申請が必要です。
申請時の費用と代理申請
手帳の申請自体(行政手数料)は無料です。ただし、診断書作成費用(医療機関への支払い)として5,000〜10,000円程度がかかるのが一般的です。診断書料は医療機関によって異なりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。なお、一部の自治体では診断書作成費用の助成制度がある場合もあります。申請窓口で相談してみましょう。
体調不良等で本人が窓口に行けない場合は、家族や支援者が代理で申請することができます。代理申請の際は委任状が必要な場合があるため、事前に市区町村の窓口に確認しましょう。また、郵送での申請を受け付けている自治体もあります。
診断書を書ける医師と注意点
精神障害者保健福祉手帳の申請に必要な診断書は、以下の医師が記載できます。
- 精神保健指定医厚生労働大臣が指定した専門医。精神科の医師の多くが該当。
- 精神障害の診断または治療に従事する医師精神保健指定医でなくても、精神障害の診断・治療を行っている医師(心療内科医・神経内科医等を含む)。
- てんかん・発達障害・高次脳機能障害の場合精神科以外で診療を受けている場合は、それぞれの専門の医師(神経内科医・小児科医等)が記載したものでも可。
診断書の依頼にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 初診から6か月以上経過診断書は、精神疾患の初診日から6か月以上が経過した時点の症状を記載する必要があります。初診から6か月未満では申請できません。
- 所定の様式を使う市区町村の窓口でもらった「精神障害者保健福祉手帳用の診断書」の様式を医師に渡して記載してもらいます。任意の書式では受理されません。
- 診断書の有効期限診断書の作成日から3か月以内に申請を行う必要があります(有効期間を過ぎると再取得が必要)。
- 日常生活能力の詳細を伝える等級の判定は日常生活能力が大きく影響するため、主治医の診察時に「普段の生活でどのような困難があるか」を詳細に伝えることが重要です。
精神科・心療内科への通院をしていない方は、まず受診することが必要です。手帳の申請には初診から6か月以上の期間が必要なため、今すぐ手帳を取得したいと思っても、最短でも初診から6か月後になります。「精神科に行くのが不安」という方は、まずかかりつけ内科や精神保健福祉センターに相談し、精神科・心療内科への紹介を受けることも一つの方法です。
更新手続きとデメリット・会社にバレるリスク
手帳の有効期限は2年。更新時には診断書または年金証書での再申請が必要です。手帳取得自体に法的なデメリットはほとんどありませんが、心理的負担や年末調整での情報開示などが「デメリットとして感じられる」ことがあります。
更新の仕組みと時期
精神障害者保健福祉手帳の有効期限は2年間です。有効期限が到来すると手帳は失効するため、継続して利用するには更新手続きが必要です。
- 更新申請の受付開始有効期限の3か月前から受け付けます。
- 更新期限手帳に記載されている有効期限(末日)まで。
- 更新の方法新規申請と同様に、診断書(または年金証書)と必要書類を市区町村の窓口に提出。
- 審査期間新規申請と同様に2か月程度。
更新時の注意点
- 状態が改善している場合更新時の診断書で、症状が改善・軽快していると判断されると、等級が下がったり(例:2級→3級)、場合によっては「手帳の対象外」と判定されることがあります。
- 等級の変更申請症状が悪化した場合、更新時に限らずいつでも等級の変更を申請できます(新たな診断書が必要)。
- 更新し忘れに注意自動更新にはならないため、有効期限の3か月前ごろに通知が来ることが多いですが、自治体によっては通知がない場合もあります。手帳の裏面に有効期限が記載されているので確認しておきましょう。
- 有効期限切れ後の更新有効期限を過ぎてしまった場合でも、一般的には更新手続き(実質的には再申請)が可能ですが、期間が空いた場合に遡及が認められないこともあります。
手帳の返還について
精神障害が回復し手帳が不要になった場合や、死亡した場合には、手帳を発行した市区町村に返還します。返還は義務ではありませんが、不要になったら返還することが求められています。手帳の返還が手帳所持者の記録から削除されるタイミングについては、自治体にご確認ください。
手帳取得のデメリットとして語られること
「精神障害者保健福祉手帳を取得するデメリットは何か」という疑問を持つ方は多いです。結論からいえば、手帳の取得自体には法的なデメリットはほとんどありません。手帳の提示は本人の任意であり、取得した事実だけで何らかの不利益を受けることは制度的にはないのです。ただし、以下のような点が「デメリットとして感じられる」ことがあります。
会社にバレるリスクはあるか
「手帳を取ったら会社にバレてしまう?」という心配は多くの方が抱きます。基本的に、手帳の取得を自分から会社に申告しない限り、会社側が知ることはありません。ただし、以下の状況では会社に伝わる可能性があります。
- 年末調整で障害者控除を申告する場合「給与所得者の扶養控除等申告書」に障害者であることを記入する必要があり、会社の給与担当者に知られます。税金控除は受けたいが会社には知られたくないという場合は、自分で確定申告する方法もあります。
- 障害者雇用枠で就職・転職する場合障害者雇用枠を利用するには、会社に手帳を提示することが求められます。
- 職場に配慮・調整を依頼する場合業務上の配慮(勤務時間の調整・業務内容の変更等)を求める場合には、手帳の開示が現実的には必要になることが多い。
就職活動での告知について
一般雇用(障害者雇用枠外)で就職活動をする場合、手帳を持っていることを告知する義務はありません。ただし、面接で「健康状態に問題はありますか」という質問に対して虚偽の申告をすると、採用後にトラブルになる場合があります。基本的な考え方として、就職の際には以下の2択があります。
障害基礎年金・障害厚生年金との関係
精神障害者保健福祉手帳と障害年金はまったく別の制度です。根拠法・目的・申請窓口・等級判定基準がすべて異なります。一方で、障害年金証書で手帳申請ができるなど、一定の関係があります。
精神障害者手帳と障害年金は別制度
精神障害者保健福祉手帳と障害年金は、まったく別の制度です。混同されることが多いですが、それぞれ根拠法・目的・申請窓口・等級判定基準がすべて異なります。
障害年金証書で手帳の申請ができる関係
両制度は別物ですが、一定の関係があります。障害基礎年金・障害厚生年金の1級または2級を受給している方は、手帳申請の際に診断書の代わりに障害年金証書と振込通知書等を提出することができます。この場合、年金の等級に対応した手帳等級(1級年金→手帳1級、2級年金→手帳2級)で交付されます。
ただし、「手帳3級を希望する」場合や「精神障害者手帳の等級と障害年金の等級が一致しない」場合は、別途診断書による申請が必要です。
等級判定基準の違い
精神障害者手帳と障害年金では、等級の判定基準が異なります。例えば、手帳で3級を取得している方が障害年金を申請しても、必ずしも障害年金の等級に認定されるとは限りません。また、その逆も然りです。
- 障害年金の等級は、より厳格な基準で判定される傾向がある
- 手帳3級は、障害年金の等級には対応していない(障害基礎年金は1・2級のみ)
- 障害厚生年金には3級があるが、手帳の3級と完全に一致するわけではない
- 障害年金では「初診日の証明」「保険料納付要件」など手帳にはない要件がある
就労での活用(障害者雇用・クローズ就労)
2024年4月以降、民間企業の法定雇用率は2.5%(2026年7月以降は2.7%)。手帳を活用したオープン就労・クローズ就労それぞれのメリット・デメリット、活用できる就労支援サービス、合理的配慮について解説します。
障害者雇用率制度とは
日本には、民間企業・国・地方公共団体に対して、一定割合以上の障害者を雇用することを義務付ける障害者雇用率制度があります。2024年4月以降、民間企業の法定雇用率は2.5%(2026年7月以降は2.7%に引き上げ予定)となっています。精神障害者保健福祉手帳を持つ方は、このカウント対象となり、企業が「障害者雇用枠」として採用した場合に法定雇用率にカウントされます。
オープン就労(障害を開示した就労)の特徴
オープン就労とは、障害者であることを会社に開示し、障害者雇用枠または一般枠で就職することです。
クローズ就労(障害を開示しない就労)の特徴
クローズ就労とは、手帳・障害を会社に開示せず、一般雇用枠で就職することです。手帳を持っていてもクローズ就労は当然の権利であり、違法ではありません。
手帳を活用した就労支援サービス
手帳を持つことで利用できる就労支援サービスを適切に活用することが、就職・職場定着の鍵です。
合理的配慮について
2016年施行・2024年改正の「障害者差別解消法」により、民間企業においても障害を持つ従業員・求職者への合理的配慮の提供が義務となりました。精神障害のある方が求められる合理的配慮の例としては、次のようなものがあります。
- ✓勤務時間・勤務日数の調整(時短勤務・フレックス制など)
- ✓業務内容・担当範囲の調整
- ✓業務指示を口頭だけでなく文書でも行うなどのコミュニケーション配慮
- ✓静かな作業環境の確保
- ✓定期的な上司との面談・相談の機会の設定
- ✓通院のための休暇取得
対象となる精神疾患の範囲
精神障害者保健福祉手帳の対象はすべての精神疾患です。統合失調症・気分障害・不安障害・発達障害・てんかん・高次脳機能障害・依存症などあらゆる精神疾患が含まれ、診断名ではなく生活への影響で等級が判定されます。
すべての精神疾患が対象
精神障害者保健福祉手帳の対象は、すべての精神疾患です。特定の診断名に限定されてはいません。ただし、日常生活・社会生活に制約があることが前提です。以下に、主な対象疾患の例を示します。
発達障害での手帳取得について
発達障害(ASD・ADHD等)は、精神障害者保健福祉手帳の対象です。ただし、発達障害の診断のみで手帳が交付されるわけではなく、「日常生活や社会生活に制約がある」という基準を満たす必要があります。
発達障害の方が手帳を取得するには、発達障害の診断・治療を行っている精神科・心療内科・小児精神科での診断書が必要です。児童精神科や発達外来で診断を受けている場合は、その主治医に相談しましょう。
てんかんでの手帳取得について
てんかんは、精神疾患に分類されるため(ICD分類では精神・行動の障害に含まれる)精神障害者保健福祉手帳の対象です。神経内科・脳神経外科で治療を受けている場合も、その担当医の診断書で申請できます。てんかんの重症度・発作の頻度・日常生活への影響によって等級が判定されます。薬でコントロールが難しい難治性てんかんの場合、1〜2級が認定されるケースがあります。
自立支援医療・不服申し立て・取得後の生活・FAQ
手帳と併用できる自立支援医療制度、申請が却下・等級に不服がある場合の対応、手帳取得後の生活の変化、そして取得を迷っている方への考え方とよくある質問をまとめます。
自立支援医療制度(精神通院医療)との併用
自立支援医療制度(精神通院医療)は、精神疾患(精神障害及びそれに起因する病態)で継続的な通院による精神医療が必要な方に対して、医療費の自己負担を軽減する制度です。障害者総合支援法に基づく制度で、市区町村が窓口です。
- 自己負担通常3割の医療費自己負担が、原則1割に軽減されます。
- 対象継続的に精神科・心療内科への通院が必要な方(手帳がなくても申請可能)。
- 対象となる医療指定の医療機関での診療・薬の処方・訪問看護など(指定医療機関・指定薬局が必要)。
- 所得に応じた上限額世帯の所得によって月額の自己負担上限額が設定されており、低所得者には無料となるケースも。
- 有効期限1年(1年ごとの更新が必要)。
精神障害者保健福祉手帳の申請と自立支援医療制度(精神通院医療)の申請は、同時に行うことができます。両方の申請を一度の窓口訪問で行えるため、効率的です。また、両制度を同時申請する場合、一部の書類(診断書等)を共用できる場合があります(自治体・医療機関によって異なる)。窓口で「手帳と自立支援医療の両方を申請したい」と伝えましょう。
申請が却下・等級に不服な場合
手帳の申請が却下された場合や、認定された等級に不服がある場合は、行政不服申し立て(審査請求)を行うことができます。
- 審査請求先都道府県知事または政令指定都市市長
- 審査請求期限処分を知った日の翌日から3か月以内
- 手続き市区町村の窓口または都道府県の担当部署に審査請求書を提出
申請が却下される、または希望より低い等級で認定される主な理由は次の通りです。
- 初診から6か月未満申請要件を満たしていない。6か月後に再申請できる。
- 日常生活能力が「基準以上」と判定診断書の記載内容(日常生活能力の程度)が、手帳取得の基準を満たしていないと判定された。主治医に日常生活での困難をより詳細に伝えて再申請する。
- 診断書の記載内容が不十分医師が症状を軽く記載してしまった場合。主治医に改めて詳細な状況を伝え、再作成を依頼する。
却下された場合でも、症状が変わらず(または悪化して)6か月以上が経過していれば、再申請が可能です。却下の理由を窓口で確認し、次の申請に活かしましょう。
手帳取得後の心理的な側面での変化
手帳を取得した方の体験談では、「取得してよかった」という声が多く聞かれます。
取得を迷っている方へ
手帳の取得を迷っている方からよく聞かれる懸念と、それに対する考え方を整理します。
- 「一度取ったら一生障害者扱い?」→そうではない手帳は返還できます。症状が回復した場合は返還すればよく、「一生ついて回る烙印」ではありません。
- 「周りにバレるのが怖い」→自分で選択できる手帳の開示は完全に自分の意思で決められます。使う場面・使わない場面を自分でコントロールできます。
- 「重症じゃないと取れない?」→3級という選択肢就労中・通院中でも、生活・社会生活に制約があれば3級として取得できる場合があります。まず主治医に相談してみましょう。
- 「家族に心配をかけたくない」手帳の取得は支援を受けるための「ツール」であり、症状が悪化したことを意味するわけではありません。むしろ、社会的支援を上手に使うことで症状の安定につながります。
精神保健福祉センターへの相談
手帳の取得について迷っている方、申請手続きに不安がある方は、精神保健福祉センターへの相談がお勧めです。各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神保健福祉士・精神科医・臨床心理士等が無料で相談に応じています。手帳の申請方法だけでなく、病気の相談・就労の相談・家族の相談なども受け付けています。
よくある質問
A. 何らかの精神疾患があり、初診から6か月以上が経過しており、その精神疾患によって日常生活または社会生活に制約がある方であれば申請できます。「重症でなければ取れない」というわけではなく、日常生活や社会参加に支障がある方は3級として認定される可能性があります。まず主治医に相談してみましょう。また、知的障害のみの方は対象外です(療育手帳が対象)。
A. はい、うつ病は精神障害者保健福祉手帳の対象疾患です。ただし、「うつ病の診断があれば必ず取得できる」わけではなく、「その症状により日常生活・社会生活に制約があること」が必要です。軽症のうつ病の場合は対象外と判断されることもあります。一方、就労が困難なほどの症状がある場合は2〜3級が認定される可能性があります。主治医に「手帳の申請を考えているが、対象になりますか」と相談してみてください。
A. 申請書類を窓口に提出してから手帳が交付されるまで、通常1〜3か月程度かかります。審査は都道府県の精神保健福祉センターが行うため、窓口への提出後に時間がかかります。なお、審査中でも「申請中」であることを証明する書類(申請受理証明)を発行してもらえる自治体もあります。急ぎの場合は窓口で確認してみましょう。
A. 認定された等級に不服がある場合は、審査請求(行政不服申し立て)を行うことができます。処分を知った日の翌日から3か月以内に都道府県知事に対して申し立てが可能です。また、症状が悪化した場合は等級の変更申請(新たな診断書が必要)をいつでも行うことができます。等級変更申請は有効期限内であればいつでも可能です。
A. 一般雇用枠での就職活動において、手帳の所持を開示する義務はありません。また、手帳があることで給与が下がることも制度的にはありません。一方、障害者雇用枠で就職する場合は開示が前提ですが、法定の雇用義務があるため企業が手帳を理由に採用を拒否することは差別的取り扱いとして問題となります。むしろ、手帳を持つことで就労支援サービスを活用できるようになり、自分に合った職場を見つけやすくなるというプラスの効果もあります。
A. 申請中に同一都道府県内で転居した場合は、転居先の市区町村の窓口に手続きの移管を申し出ることで、審査が継続されます。異なる都道府県に転居した場合は、転居先の都道府県に改めて申請が必要になる場合があります。また、すでに手帳を持っている方が転居した場合は、転居後14日以内に転居先の市区町村の窓口に住所変更の届出を行う必要があります。
A. マイナンバーカード自体に障害者であることや手帳の等級が表示・記録されることはありません。ただし、マイナンバーを通じて行政間での情報連携(障害福祉サービスの受給情報など)は行われています。一般の民間企業がマイナンバーから障害者情報を確認することはできません。なお、精神障害者保健福祉手帳は2016年以降、希望者に対してICカード(カード形式)での交付も行われており、このカードにはマイナンバー機能はありません。
A. 精神疾患の初診から6か月以上が経過した後に申請できます。したがって、精神科に通い始めた日(初診日)から6か月が経過したタイミングが、最初に申請できる時期です。なお、転院した場合でも「最初に受診した医療機関の初診日」が起算点となります(ただし、転院前の医療機関で同一疾患の治療を受けていた場合)。急いで申請したい気持ちはわかりますが、初診から6か月経たないと申請できないため、それまでの間に窓口への事前相談や必要書類の確認をしておくことをお勧めします。
手帳の申請に迷っているなら、
まず話してみませんか。
精神障害者保健福祉手帳の取得を検討している方、精神疾患で生活に支障を感じている方、まず誰かに話してみましょう。ここには手帳申請のサポート窓口や、24時間相談できる電話窓口があります。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
