見捨てられ不安とは?
原因・症状・愛着・BPD・克服法を徹底解説
「返信が来ないだけで、もう見捨てられたのでは……」——些細なサインで心が引き裂かれる見捨てられ不安。その定義・原因・症状・愛着スタイルとの関係・BPDとの関わり・恋愛への影響・セルフケア・治療・周囲の関わり方まで、必要な情報をすべてここにまとめました。
見捨てられ不安とは何か
見捨てられ不安は、親しい人や大切な関係が失われることへの過剰な恐れであり、日常生活・恋愛・対人関係に深刻な影響を与える心理状態です。診断名ではなく、さまざまな精神疾患や愛着の特性に重なって現れる心理的傾向です。
過剰な恐れが生む苦しさ
見捨てられ不安(abandonment anxiety)とは、親しい人や大切に思う相手が自分から離れてしまう、あるいは見捨てられてしまうことへの、現実の状況に対して不釣り合いなほど強い恐れと不安を指します。誰もが別れや拒絶に痛みを感じるものですが、見捨てられ不安がある人はその恐れが日常的に心の中心を占め、些細なサインにも過剰に反応してしまいます。
たとえば、メッセージの返信が少し遅れるだけで「嫌われたのかもしれない」と胸が締め付けられる、パートナーが仕事で疲れて無口な夜に「もう自分への気持ちが冷めたのだ」と確信してしまう、友人から予定のキャンセル連絡を受けるたびに「自分が原因だ」と責め続ける——こういった思考と感情のパターンが繰り返されるのが、見捨てられ不安の特徴です。
心理学では見捨てられ不安は単独の「病名」ではなく、さまざまな精神疾患やパーソナリティの特性に関連して現れる心理的な傾向・症状群として位置づけられています。とりわけ境界性パーソナリティ障害(BPD)の中核症状として知られていますが、うつ病、不安障害、愛着障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、複雑性PTSDなどと重なって現れることも多く、診断名がつかない形で苦しんでいる人も大勢います。
見捨てられ不安はどのくらい一般的か
「見捨てられることが怖い」という感情は、人間にとって普遍的なものです。社会的なつながりは生存と深く結びついており、拒絶・孤立への恐れはヒトという種の進化的な産物でもあります。しかし見捨てられ不安が「過剰」になると、日常の対人関係や恋愛を大きく揺さぶる問題に発展します。
境界性パーソナリティ障害の日本の有病率はおよそ1〜2%と言われており、その中核には見捨てられ不安が存在します。さらに診断には至らないレベルでも、見捨てられ不安の傾向を持つ人は、うつ病や不安障害の患者、虐待や育児放棄などのトラウマを持つ人、愛着障害的な特性を持つ人の中に広く見られます。「これは自分のことだ」と感じた方は、決して少数派ではありません。
見捨てられ不安と「普通の不安」の違い
同じ「不安」「寂しさ」でも、一般的なものと見捨てられ不安では、強度・持続時間・トリガー・思考・行動・自己評価の6つの面で大きく異なります。
見捨てられ不安の原因
見捨てられ不安には、幼少期の愛着形成・過去のトラウマ・脳神経系の働き・社会文化的要因という4つの層が絡み合っています。どれか一つの原因ではなく、複数の要素が重なって形成されます。
見捨てられ不安を形作る要因
見捨てられ不安の最も根本的な原因として広く認められているのが、幼少期の養育者との愛着関係の問題です。イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論によれば、人は生まれながらに養育者との情緒的なつながりを求める本能を持ち、この愛着が安全基地として機能することで、子どもは外の世界を探索する勇気を育てていきます。
幼少期の養育環境だけでなく、人生の中で経験した見捨てられ体験・喪失体験も重要な原因になります。これらの体験は、特に感受性が高い発達段階に起きた場合、その後の人間関係のテンプレートとして深く刻み込まれます。
見捨てられ不安には、心理的・環境的要因だけでなく、脳や神経系の働きも関与しています。これらの生物学的要因が環境的要因と組み合わさることで、見捨てられ不安が強まると考えられています。「意志の弱さ」や「わがまま」ではなく、脳・心理・環境が複雑に絡み合った結果です。
個人の心理・生物学的要因に加えて、社会や文化的な環境も見捨てられ不安に影響します。
- 親の感情的な不安定さ親自身がうつ病、依存症、精神疾患などを抱えており、子どもへの対応が日によって大きく変わる環境。
- 情緒的ネグレクト身体的な世話はされていても、子どもの感情ニーズに親が応答しない、共感が得られない関わり。
- 身体的・心理的虐待暴力、言葉の暴力、脅しなどにより、親が安全基地ではなく脅威の源になってしまう関係。
- 過度の過干渉・支配子どもの自律性を認めず、過剰にコントロールしようとすることで「自分の感情を持ってはいけない」と学ぶ。
- 親との長期的な分離病気、離婚、死別、転勤などで養育者が長期間不在になる体験。
- きょうだいとの不公平な扱い特定の子だけが愛される、あるいは無視されるという体験。
- 条件付きの愛情「良い子でいれば愛される」「成績が良ければ認める」など、ありのままを受け入れてもらえない関係。
- 親の早逝・離婚親を突然失う体験は、「大切な人は必ずいなくなる」という信念を形成しやすい。
- 恋愛関係での突然の破局・裏切り深い信頼を寄せていたパートナーに突然別れを告げられた、不貞を発見したなどの体験。
- いじめや仲間外れ学校などのコミュニティで集団から排除された経験。
- 深刻な裏切り体験友人、パートナー、職場の仲間から裏切られる体験。
- 複数の喪失の重複短期間に複数の重要な関係が失われる体験。
- 扁桃体の過活動感情の処理と脅威検知を担う脳の扁桃体が過活動になると、些細な社会的シグナルも「危険」として処理されやすくなる。
- 前頭前皮質の抑制機能の弱さ感情調節を担う前頭前皮質の機能が弱いと、扁桃体の反応を抑制することが難しくなる。
- セロトニン・ノルアドレナリン系の機能差不安や気分に関わる神経伝達物質の働きの違いが、不安の感じやすさに影響する。
- 気質的な敏感さ生まれつき感受性が高く、社会的な刺激に強く反応する気質(HSP的な特性)は、見捨てられ不安と関連しやすい。
- SNS文化とつながりへの不安既読スルー、フォロー外し、投稿への反応がないことが可視化され、社会的排除の感覚を日常的に体験しやすい環境。
- 流動的な対人関係地縁・血縁コミュニティが弱体化し、人間関係が不安定になりやすい現代社会。
- 成果主義・条件付きの評価「役に立つ自分」「能力のある自分」でなければ価値がないというメッセージを受け続ける環境。
- 孤立しやすい都市生活地域コミュニティとのつながりが希薄で、困ったときに頼れる人間関係が少ない状況。
症状とセルフチェック
見捨てられ不安は感情・思考・行動の3つの面に現れます。それぞれの典型的なサインを知り、最後にセルフチェックリストで自分の傾向を確認してみましょう。
感情・思考・行動に現れる症状
12項目のセルフチェックリスト
以下の項目のうち、自分に当てはまると感じるものを数えてみてください。あくまで参考の目安であり、診断ではありません。
- 1大切な人からの返信が遅いと、見捨てられたのではないかと強く不安になる
- 2パートナーや友人が少し冷たいと感じるだけで、感情が激しく乱れる
- 3「どうせ最終的には自分は見捨てられる」という考えが頭を離れない
- 4相手を失うことへの恐れから、自分の意見や感情を抑えて相手に合わせてしまう
- 5人が自分の元から去るのを感じると、パニックに近い状態になる
- 6人を「最高の人」と「最低の人」に激しく評価が変わることがある
- 7見捨てられないように相手を試すような行動をとることがある
- 8過去の別れや拒絶の体験が何度もフラッシュバックするように思い出される
- 9一人でいることへの強烈な恐怖感がある
- 10「自分は愛される価値のない存在だ」と感じることが多い
- 11感情のコントロールが難しく、些細なことで大きく泣いたり怒ったりする
- 12関係が良好なときでも、「いつか終わるのでは」と不安が頭をよぎる
見捨てられ不安と愛着スタイル
ジョン・ボウルビィの愛着理論をもとに、メアリー・エインズワースらが発展させた研究では、人の愛着スタイルが主に4種類に分類されることが明らかになりました。見捨てられ不安は、特に「不安定型」の愛着スタイルと深く関連しています。
愛着スタイルの4分類
愛着スタイルは変えられるか
かつては愛着スタイルは幼少期に固定されるとも考えられていましたが、現代の研究では愛着スタイルは変容可能だということが明らかになっています。特に以下のような体験が、不安定な愛着スタイルを安定方向へと変化させる可能性があります。
- 安全で一貫した対応をしてくれるパートナーや友人との長期的な関係
- 専門家によるカウンセリング・心理療法(特に愛着に焦点を当てたアプローチ)
- 自己理解と感情調節スキルの習得
- コミュニティや支援グループとのつながり
恋愛・対人関係に与える影響
見捨てられ不安は、恋愛関係において最も強く現れやすい心理的テーマのひとつです。友人・職場関係でも独特のパターンが現れ、また無意識に特定タイプの相手を引き寄せる「再演」も起こります。
恋愛関係における影響
- 過剰な依存と束縛「常に一緒にいたい」「連絡が途切れるのが怖い」という強い欲求から、相手にとって「重い」「息苦しい」関係になりやすい。最初は相手が「求められている」と嬉しく思っても、次第に「自由がない」と感じ、距離を置きたくなることが多い。
- 過度な嫉妬・独占欲パートナーが他の人と話しているだけで「自分ではなくその人が選ばれるのではないか」という強い嫉妬が生じ、疑いや束縛的な行動として表れる。
- 感情の激しい高低関係が順調なときは「この人は理想の相手だ(理想化)」と感じ、少し距離を感じると「やっぱり最悪だ(こき下ろし)」と評価が激変する。この感情の急激な振れ幅が関係を不安定にする。
- 破局の自己成就的予言「どうせ見捨てられる」という恐れから行動が不安定になり、それが実際に相手を遠ざけてしまう。「ほら、やっぱり見捨てられた」という確信を強める悪循環。
- 自分から先に去る行動「どうせ見捨てられるなら、先に自分から距離を置こう」という防衛的な行動が、良好な関係をみずから壊してしまうことがある。
- 自分を犠牲にする関係「嫌われたくない」一心で、自分の感情・意見・ニーズを完全に抑圧し、相手のすべての要求に応えようとする。この姿勢は長続きせず、爆発的な感情の噴出や燃え尽きにつながる。
友人関係・職場関係での影響
見捨てられ不安は恋愛関係に限らず、友人関係や職場での人間関係にも影響を及ぼします。
- グループ内での過度な気遣いグループLINEでの反応を過剰に気にする、集まりで自分だけ無視されていないか常に確認する。
- 批判への過敏な反応上司や同僚からの軽いフィードバックでも「見捨てられた・否定された」と感じ、深く傷つく。
- 人の顔色を読みすぎる周囲の感情の微細な変化を読み取ろうと常にアンテナを張り巡らせ、精神的に疲弊する。
- 断れない「ノー」と言うと関係が終わるという恐れから、無理な要求も引き受けてしまう。
- 孤立への回避仲間外れにされることへの強い恐れから、集団に迎合し自分らしさを失う。
「引き寄せる関係」のパターン
見捨てられ不安を持つ人は、しばしば特定のタイプの人を無意識に引き寄せることがあります。たとえば、感情的に距離を置きがちなパートナー(回避型愛着スタイル)や、気まぐれで一貫性のない人を選ぶことで、無意識に幼少期の見捨てられ体験を「再現」しようとする心理が働くことがあります。これはトラウマの「繰り返し強迫(Repetition Compulsion)」と呼ばれる現象で、過去の未解決の傷を、現在の関係の中で解決しようとする無意識の試みです。
境界性パーソナリティ障害(BPD)との関係
DSM-5の診断基準で、見捨てられ不安はBPDの9つの基準の筆頭として挙げられています。BPDにとって見捨てられ不安がいかに中核的であるか、そして治療可能であることを解説します。
BPDにおける見捨てられ不安の位置づけ
境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、感情の激しい不安定さ、衝動的な行動、対人関係の不安定さ、アイデンティティの混乱などを特徴とするパーソナリティ障害です。日本における有病率は一般人口の約1〜2%と推計されており、女性に多いとされてきましたが、男性にも少なくなく、見過ごされやすいとも指摘されています。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準の中で、見捨てられ不安(現実または想像上の見捨てられを回避しようとする必死の努力)はBPDの9つの診断基準の筆頭として挙げられています。これはBPDにとって見捨てられ不安がいかに中核的であるかを示しています。
BPDの9つの診断基準
- 1現実または想像上の見捨てられを回避しようとする必死の努力
- 2理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動く不安定で激しい対人関係
- 3著明で持続的に不安定な自己像やアイデンティティの混乱
- 4自己を傷つける可能性のある衝動性(浪費、乱交、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食いなど)
- 5自殺念慮・自殺行動または自傷行為の繰り返し
- 6感情の著しい反応性による気分の不安定さ
- 7慢性的な空虚感
- 8不適切で激しい怒り、または怒りのコントロールの困難
- 9一過性のストレス関連性の解離症状または重篤な妄想様観念
BPDと愛着障害の関係
研究によれば、BPDを持つ人の多くは幼少期に「無秩序型愛着(Disorganized Attachment)」または「不安—アンビバレント型愛着(Anxious-Ambivalent Attachment)」を形成していることが示されています。養育者が子どもにとって同時に「安全の源」でありながら「恐怖の源」でもあるという矛盾した状況(身体的虐待、性的虐待、情緒的ネグレクトなど)が、無秩序型愛着の背景にあることが多いとされています。
心理学者のピーター・フォナギー(Peter Fonagy)は、メンタライジング(mentalization:自分や他者の行動を、内的な心理状態の観点から理解する能力)の不全が、BPDにおける感情調節困難と見捨てられ不安の悪化に深く関与していると指摘しています。
BPDと見捨てられ不安は治療できるか
かつてBPDは「治療が難しい」と言われていましたが、現代の精神医学では適切な治療によって症状が大きく改善することが多くの研究で示されています。特に弁証法的行動療法(DBT)や、メンタライゼーション強化療法(MBT)、スキーマ療法などのエビデンスに基づいた心理療法は、BPDおよび見捨てられ不安の改善に有効とされています。
うつ病・不安障害との関係
見捨てられ不安は、うつ病・不安障害・複雑性PTSDなどと密接に関連します。双方向に影響し合い、悪循環を形成することも珍しくありません。
見捨てられ不安とうつ病の関係
見捨てられ不安は、うつ病(大うつ病性障害)と密接に関連しています。見捨てられることへの恐れが慢性的に持続すると、以下のようなプロセスでうつ病のリスクが高まります。
- 慢性的なストレスと消耗常に「見捨てられないように」と緊張し、相手の反応を監視し続けることは、極度の精神的疲労をもたらす。
- 自己否定感の蓄積「自分は愛される価値がない」という信念が繰り返し強化されることで、抑うつ的な自己評価が深まる。
- 対人関係の破綻による喪失体験見捨てられ不安に基づく不安定な行動が関係の悪化・終結を招き、その喪失がうつ症状を引き起こす。
- 孤立の深刻化人間関係がうまく築けなくなることで社会的孤立が深まり、うつのリスクをさらに高める。
また、うつ病そのものが感情の反応性を高め、否定的な思考パターンを強化することで、見捨てられ不安をさらに悪化させるという双方向の関係もあります。うつ病と見捨てられ不安の両方を抱えている場合は、どちらか一方だけでなく両面からのケアが必要です。
見捨てられ不安と不安障害の関係
不安障害(全般性不安障害、社交不安障害など)と見捨てられ不安は、しばしば重複して現れます。
- 社交不安障害(Social Anxiety Disorder)人に否定的に評価されることへの強い恐れ。「自分は嫌われている」「変に思われている」という過度な気遣いは、見捨てられ不安と深く絡み合っている。
- 全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)様々な事柄について過剰な心配が慢性的に続く状態。対人関係への不安も全般的な不安の対象になりやすい。
- パニック障害見捨てられると感じた際に、パニック発作に近い急激な不安・身体症状(動悸、呼吸困難、発汗など)が生じることがある。
複雑性PTSD(C-PTSD)との関連
近年注目が高まっている複雑性PTSD(Complex PTSD:C-PTSD)は、長期的・反復的なトラウマ(子ども時代の虐待・ネグレクト、ドメスティックバイオレンス、長期的ないじめなど)から生じる後遺症です。C-PTSDの症状には、感情調節困難、否定的な自己概念、対人関係の困難などが含まれ、見捨てられ不安とも高い親和性があります。
C-PTSDとBPDの症状が重複することは多く、特にトラウマが背景にある見捨てられ不安の場合は、トラウマに特化したアプローチ(EMDR、トラウマフォーカスト認知行動療法など)が有効なことがあります。
「試し行動」とその悪循環
「本当に自分を受け入れてくれるのか」を確かめるための試し行動は、「安心したい」という根本的欲求から生まれます。しかし結果的に関係を壊し、不安を強化する悲劇的な循環を生みます。
試し行動とは何か
試し行動(Testing Behavior)とは、「本当に自分を受け入れてくれるのか」を確かめるために、意図的または無意識的に相手を困らせる行動をとることです。見捨てられ不安を持つ人にしばしば見られるこの行動は、「安心したい」という根本的な欲求から生まれていますが、結果的に関係を傷つけてしまうことが多い点が悲劇的です。
試し行動の例としては、以下のようなものがあります。
- 「もうあなたのことなんて好きじゃない」と言いながら、相手が慰めてくれるかどうかを見る
- わざと連絡を無視して、相手が追いかけてくるかどうかを確認する
- 突然激怒したり泣いたりして、相手が離れていかないかを確かめる
- 「どうせ私のことなんてどうでもいいんでしょ」などの言葉で相手を試す
- 不可能に近い要求を出して、それを満たしてくれるかどうかを見る
悪循環のメカニズム——5つの段階
試し行動は短期的には「受け入れてもらえた」という安心感をもたらすことがありますが、長期的には深刻な悪循環を生み出します。
克服法・セルフケア——6つのステップ
見捨てられ不安は「気持ちの問題」ではなく、具体的な気づき・スキル・習慣の積み重ねで和らげていくものです。日常で実践できる6つのステップを紹介します。
日常で実践できる、6つのセルフケア
専門的な治療・カウンセリング
セルフケアでは届かない深い心理パターンや信念に働きかけられるのが、専門家による心理療法です。エビデンスのある6つの療法、薬物療法、治療期間、受けられる場所をまとめます。
カウンセリング・心理療法(6つの選択肢)
見捨てられ不安に対して、最も根本的なアプローチとなるのが専門家によるカウンセリング・心理療法です。セルフケアでは変化が難しかった深い心理パターンや信念に働きかけることができます。
BPDおよび見捨てられ不安の治療において国際的に最もエビデンスの高いアプローチのひとつ。マインドフルネス、感情調節スキル、対人関係スキル、苦悩耐性スキルの4つの柱から構成される。個人療法とグループスキルトレーニングの組み合わせが標準的。
見捨てられ不安の背景にある思考の歪みや行動パターンを同定し、より適応的なものへと変えていく。一般的なうつ病や不安障害と併存する見捨てられ不安にも有効。
幼少期の体験から形成された「早期不適応的スキーマ(EMS)」に焦点を当て、深い信念レベルから変化を促す。「見捨てられ/不安定スキーマ」は18種類のスキーマのひとつとして概念化されている。
自分と他者の心の状態を理解する能力(メンタライジング)を高めることで、感情調節と対人関係の改善を図る。BPDに対してDBTと並んで高い有効性が示されている。
愛着スタイルに直接アプローチし、治療関係を安全基地として活用しながら不安定な愛着パターンを修正していく。
過去のトラウマ体験が見捨てられ不安の背景にある場合、EMDRによるトラウマ処理が有効なことがある。
薬物療法
見捨てられ不安そのものに直接効果のある薬は現時点では存在しませんが、併存するうつ症状、不安症状、衝動性などに対して薬物療法が補助的に用いられることがあります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)うつ症状や不安症状の改善に用いられる。感情の反応性を和らげる効果が期待される。
- 気分安定薬感情の激しい波(感情の不安定さ)を和らげる目的で用いられることがある。
- 非定型抗精神病薬衝動性や激しい感情反応に対して少量を補助的に使用する場合がある。
治療はどのくらいかかるか
見捨てられ不安の改善にかかる時間は、その重症度・背景・用いる治療法によって大きく異なります。以下はおおよその目安です。
どこで治療・カウンセリングを受けられるか
- 精神科・心療内科まず医療機関を受診し、診断・薬物療法・医療機関での心理療法を受ける。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると自己負担が1割に軽減される。
- 精神保健福祉センター各都道府県・政令市に設置されており、精神的な問題に関する相談・支援を提供。費用がかからない場合が多い。
- 民間カウンセリングルーム公認心理師・臨床心理士が在籍する民間のカウンセリングルームでも心理療法を受けられる。
- オンラインカウンセリング自宅から受けられるオンラインカウンセリングサービスも普及している。
パートナーや家族の関わり方
見捨てられ不安を持つ人を支える側にも大きなチャレンジがあります。安心させようとして疲弊することもあります。関わる側自身のケアも含めて、持続可能なサポートの形を考えましょう。
見捨てられ不安を持つ人に関わる難しさ
パートナーや家族が見捨てられ不安を持っている場合、関わる側にとっても大きなチャレンジがあります。安心させようとしても「なぜこんなに不安なのか理解できない」「何をしても足りない」という疲弊感が生じることも少なくありません。しかしその行動の背景には、深い恐れと傷ついた体験があることを理解することが、関係の出発点になります。
してよいこと・してはいけないこと
役立つコミュニケーションのコツと、関わる側自身のケアも含めた「してよいこと」、そして関係を傷つけてしまう「してはいけないこと」を整理しました。
専門家に相談すべきタイミング
「まだ相談するほどではない」と思っていても、相談してみて損はありません。早めに動くことが回復への近道です。受診のポイントも整理しました。
こんな状態なら早めに相談を
以下のような状態が続いている場合は、セルフケアだけでなく専門家への相談を優先してください。
- !自傷行為・自殺念慮:自分を傷つける、または死を考えている
- !日常生活・仕事・学業への支障が著しい
- !繰り返す関係の破綻:同じパターンで関係が壊れ止められない
- !衝動的な行動(浪費、物質乱用、過食・拒食)が頻繁に起きる
- !極端な感情の波が2週間以上続く
- !セルフケアを試みても改善しない
受診の際のポイント
- 「見捨てられ不安がある」「BPDの可能性が心配」と正直に伝えて問題ありません
- 過去の養育環境、トラウマ体験は話せる範囲で(無理に話す必要はない)
- 最初の医療機関で合わないと感じた場合、他へ変更することも選択肢
- 自立支援医療制度(精神通院医療)で医療費の自己負担を1割に抑えられる(通常3割)
読者からよくある質問
A. 適切な治療とサポートによって、多くの場合大きく改善することが可能です。「完全になくなる」というよりも、不安を感じても飲み込まれず、より適応的に対処できるようになることが目標です。特に弁証法的行動療法(DBT)や認知行動療法(CBT)は科学的なエビデンスがあり、継続的に取り組むことで症状が大幅に和らぐことが多くの研究で示されています。
A. 見捨てられ不安はBPDの中核的な症状ですが、BPD以外でも多くの人が見捨てられ不安を経験します。うつ病、不安障害、愛着障害、複雑性PTSD、あるいは診断名がつかない形でも見捨てられ不安は存在します。「自分はBPDかもしれない」と心配されている方は、精神科・心療内科で専門家に相談し、正確な評価を受けることをお勧めします。
A. チャレンジングな側面はありますが、適切な理解とサポート、そして相手自身が回復への取り組みを続けていれば、安定した関係を築くことは可能です。重要なのは「一人で相手を救おう」とするのではなく、専門家のサポートを含めた総合的な取り組みと、関わる側自身のケアも大切にすることです。
A. これは「先手を打つ防衛」と呼ばれる行動です。「どうせ見捨てられる」という確信が強いため、実際に見捨てられるよりも先に自分から離れることで、傷つきをコントロールしようとする心理的な防衛機制です。これは痛みを避けようとする試みですが、結果的に望む関係から自分を遠ざけてしまうという矛盾を生みます。
A. 過去の体験を変えることはできませんが、その体験が現在の自分に与えている影響は変えることができます。心理療法は、過去の傷から形成されたパターンや信念に働きかけ、現在の関係の質を改善することを可能にします。過去は変えられなくても、過去への意味づけと現在の反応パターンを変えることは十分に可能です。
A. まずは精神科・心療内科で診察を受け、正確な診断・評価をしてもらうことをお勧めします。その上で、薬物療法の必要性を判断してもらい、必要に応じてカウンセリング(院内または院外)の紹介を受けることができます。精神保健福祉センターへの無料相談から始めることも選択肢のひとつです。
A. 感情が激しく高ぶり、自傷や自殺を考えるような状況のときは、すぐに相談窓口に電話してください。いのちの電話(0120-783-556)やよりそいホットライン(0120-279-338)は24時間無料で対応しています。また、緊急の場合は救急(119番)や精神科救急相談窓口にも連絡できます。
「いつか見捨てられる」と
怯えてしまうあなたへ
返信が遅いだけで胸が締めつけられる、嫌われたくなくて自分を消してしまう——その苦しさは、あなたが過去に深く傷ついてきたサインです。一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
