メンタルヘルス用語辞典 · 正常圧水頭症

正常圧水頭症とは?
三徴・原因・診断・シャント手術・日常生活をわかりやすく解説

正常圧水頭症(iNPH)は、脳脊髄液の循環障害により脳室が拡大し、歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴が現れる疾患です。「治療可能な認知症」として知られ、適切なシャント手術により症状の改善が期待できることが最大の特徴です。早期発見・早期治療のために必要な情報をすべてここにまとめました。

ABOUT

正常圧水頭症とは

正常圧水頭症(iNPH)は脳脊髄液の循環・吸収障害により脳室が拡大する疾患です。「治療可能な認知症」として知られ、シャント手術により症状改善が期待できます。

定義

正常圧水頭症の定義と概要

正常圧水頭症(NPH: Normal Pressure Hydrocephalus)は、脳脊髄液(CSF)の循環または吸収の障害により脳室が拡大し、周囲の脳組織が圧迫されることで症状が出現する疾患です。名前の通り、腰椎穿刺で測定した脳脊髄液の圧力は正常範囲(60〜240mmH2O)であることが特徴であり、これが「高圧水頭症」(髄液圧が上昇する水頭症)とは異なる点です。

原因が特定できないものを「特発性正常圧水頭症(iNPH: Idiopathic NPH)」、クモ膜下出血や髄膜炎などの先行疾患に続いて発症するものを「続発性正常圧水頭症(sNPH: Secondary NPH)」と呼びます。一般的に「正常圧水頭症」と言えばiNPHを指すことが多いです。

iNPHの三大症状(Hakim-Adamsの三徴)は、①歩行障害(小刻み歩行、すくみ足、転倒)、②認知障害(遂行機能障害、処理速度低下)、③尿失禁(頻尿、切迫性尿失禁)です。三徴すべてが揃うのは全体の約50〜60%で、歩行障害のみ、または歩行障害と認知障害の2つだけという症例も多く見られます。

iNPHの最大の特徴は「治療可能な認知症」であることです。脳神経外科によるシャント手術(過剰な髄液を体の他の部位に排出する手術)により、特に歩行障害を中心に症状の大幅な改善が期待できます。適切に治療されなければ徐々に進行する疾患ですが、適切な時期に手術を受ければ日常生活の質の大幅な向上が見込めます。

⚠️
見逃さないでiNPHは「年のせい」「認知症だから仕方ない」と見過ごされやすい疾患です。特に歩行の変化(小刻み、すくみ足、転倒)が高齢者に現れた場合は、iNPHの可能性を疑い、専門医への相談をお勧めします。早期発見・早期治療が回復のカギです。
疫学

有病率・好発年齢・男女比

iNPHの疫学的特徴は次の通りです。

約1〜3%
70歳以上の高齢者の有病率。認知症の約5〜6%がiNPHとの推定も。
60〜80
好発年齢。平均発症年齢は70代。加齢とともに頻度が増加。
1.5〜2:1
男女比はやや男性に多い傾向。

日本全体では約70〜100万人以上が罹患している可能性がありますが、診断・治療を受けているiNPH患者は全体の10%未満との推計もあり、「隠れiNPH」が多数存在すると考えられています。「治療可能な認知症」として適切な診断・治療の普及が急務です。

鑑別

他の認知症・神経疾患との比較

iNPHは他の認知症やパーキンソン病と症状が似ているため、正確な鑑別が重要です。

正常圧水頭症(iNPH)
経過:数ヶ月〜数年(緩徐進行) / 主症状:歩行障害・認知障害・尿失禁
脳脊髄液(CSF)の循環や吸収の障害により脳室が拡大する疾患です。腰椎穿刺で測定した髄液圧は正常範囲であるにもかかわらず、脳室の拡大と三徴(歩行障害、認知障害、尿失禁)を呈します。最大の特徴は「治療可能な認知症」であること——適切な手術(シャント手術)により症状の改善が期待できる点です。歩行障害が最も早期に出現する症状であり、小刻みでがに股の歩行、すくみ足、転倒が特徴的です。
歩行障害が初発治療可能(シャント手術)脳室拡大髄液圧は正常
アルツハイマー型認知症
経過:数年〜15年以上 / 主症状:記憶障害が初発
脳にアミロイドβタンパク質とタウタンパク質が蓄積し、海馬を中心に神経細胞が変性する認知症です。最初に近時記憶の障害(最近の出来事を忘れる)が現れ、徐々に見当識障害、判断力の低下へと進行します。iNPHとの鑑別では、歩行障害の有無と特徴(iNPHでは早期から顕著)、記憶障害の性質(アルツハイマー型ではエピソード記憶の障害が中心)、脳画像での萎縮パターン(アルツハイマー型では海馬の萎縮が顕著)が鍵となります。
記憶障害が初発海馬の萎縮不可逆的進行薬物療法が中心
パーキンソン病
経過:10〜20年以上 / 主症状:振戦・動作緩慢
黒質のドパミン神経細胞の変性により、安静時振戦、動作緩慢、筋強剛、姿勢保持障害が現れます。iNPHとの鑑別では、安静時振戦の有無(iNPHではまれ)、レボドパへの反応(パーキンソン病では良好、iNPHでは乏しい)、脳画像での脳室拡大の程度と萎縮パターンが参考になります。パーキンソン病とiNPHが合併することもあるため注意が必要です。
安静時振戦レボドパ有効片側優位ドパミン欠乏
SYMPTOMS

正常圧水頭症の症状

iNPHの三大症状は歩行障害・認知障害・尿失禁ですが、三徴すべてが揃わない場合も多くあります。歩行障害が最も頻度が高く、最も早期に出現する症状です。

三徴

iNPHの三徴——歩行障害・認知障害・尿失禁

iNPHの中核症状は「Hakim-Adamsの三徴」と呼ばれる3つの症状です。タブで切り替えて、それぞれの詳細を確認してください。

🚶歩行障害(出現率:約90%以上)

iNPHの三徴の中で最も早期に出現し、最も頻度が高い症状です。典型的なiNPHの歩行は以下のような特徴を持ちます。①小刻み歩行:歩幅が著しく短くなり、足を引きずるように小さなステップで歩きます。②開脚歩行(ワイドベース):バランスを取るために足の間隔を広くして歩きます。③すくみ足:歩き始めや方向転換の際に足が地面に張り付いたように動かなくなります。④磁性歩行(magnetic gait):足の裏が磁石で床に引きつけられているように、足を上げることが困難になります。⑤ターン時の不安定:方向転換の際に多数のステップが必要になり、転倒リスクが高まります。⑥姿勢保持障害:バランスが崩れた時にすぐに体勢を立て直すことができません。これらの歩行障害は「前頭葉性歩行障害」とも呼ばれ、拡大した脳室が前頭葉の白質線維(特に冠放線)を圧迫することで生じると考えられています。

進行

三徴の出現順序

典型的には、歩行障害が最初に出現し(最も早い)、次いで認知障害、最後に尿失禁が加わるという順序で進行します。三徴すべてが揃うのは約50〜60%であり、歩行障害のみ、または歩行障害+認知障害の2つだけという症例も少なくありません。

💡
歩行の変化が最重要三徴の中で歩行障害は最も高頻度(約90%以上)で出現し、しかも最も早期に現れます。高齢者の歩行変化を「年のせい」と見過ごさず、iNPHの可能性として捉えることが早期診断の決め手になります。
付随症状

三徴以外に見られる症状

三徴に加えて、以下の症状が見られることもあります。

😴
傾眠・日中の過度の眠気
日中に強い眠気が襲い、うとうとする時間が増えます。前頭葉—基底核回路の障害による覚醒系の機能低下が関与していると考えられています。傾眠はiNPHの約30%で見られ、シャント手術後に改善することが多いです。
😶
意欲低下・アパシー
以前は楽しめていた活動への関心の喪失、自発性の低下、感情表現の平坦化が見られます。うつ病と混同されやすいですが、本人が苦痛を感じていないことが多い点が異なります。シャント手術後に改善が見られることがあります。
🤲
手指の巧緻性の低下
ボタンをはめる、箸を使う、文字を書くなどの細かい動作が困難になります。歩行障害ほど目立ちませんが、日常生活に影響を及ぼす重要な症状です。
😤
性格変化・行動異常
前頭葉の機能障害を反映して、易刺激性、衝動性の亢進、脱抑制、固執性などの性格・行動の変化が見られることがあります。前頭側頭型認知症との鑑別が必要になる場合もあります。
CAUSES

正常圧水頭症の原因

iNPHは脳脊髄液の循環・吸収障害により脳室が拡大する疾患ですが、その根本的な原因は特発性(原因不明)と続発性(先行疾患あり)に分けられます。

分類

特発性iNPHと続発性sNPH

原因による分類は2タイプです。タブで切り替えて詳細を確認してください。

特発性正常圧水頭症(iNPH)

明らかな原因が特定できないタイプで、iNPH全体の約50〜70%を占めます。60歳以上の高齢者に多く、加齢に伴う髄液の循環・吸収障害が関与していると考えられていますが、正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。現在の有力な仮説は以下の通りです。①クモ膜下腔での髄液吸収障害:脳表面のクモ膜顆粒での髄液吸収能力が加齢により低下し、髄液の循環が滞ることで脳室が拡大します。②間質での髄液流動障害:脳実質内の間質液の流れ(グリンパティックシステム)の障害が、髄液のクリアランスの低下と有害物質の蓄積に関与している可能性が指摘されています。③血管性因子:深部白質の虚血性変化(小血管病)がiNPHの発症に関与している可能性があります。iNPHの方には高血圧、糖尿病などの血管リスク因子が多い傾向があります。④アルツハイマー型病理の合併:iNPHの約30〜50%にアルツハイマー型認知症の病理変化(アミロイドβの蓄積)が合併しているとの報告があり、両者の関連が注目されています。

  • クモ膜顆粒での髄液吸収能力の低下
  • グリンパティックシステムの障害
  • 深部白質の虚血性変化(小血管病)
  • アルツハイマー型病理の合併(30〜50%)
  • 加齢による髄液循環動態の変化
  • DESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus)パターン
病態

グリンパティックシステムとiNPHの病態

近年の神経科学の進歩により、脳内の老廃物クリアランスを担う「グリンパティックシステム(Glymphatic System)」がiNPHの発症に深く関与していることが明らかになってきました。

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グリンパティックシステムとは
グリンパティックシステムとは、脳内の老廃物(アミロイドβ、タウタンパク質など)を洗い流す、脳固有のリンパ系様経路です。動脈周囲腔から脳脊髄液が脳実質に流入し、アストロサイト(グリア細胞の一種)の足突起に存在するアクアポリン4(AQP4)水チャネルを介して脳実質内を流れ、静脈周囲腔から老廃物とともに排出されます。この経路は主に睡眠中に活性化されることが知られています。
😴
睡眠とグリンパティック機能の関係
グリンパティックシステムの活動は睡眠中に最大化します。特に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)の段階で脳脊髄液の流動が増加し、老廃物のクリアランスが効率的に行われます。睡眠不足や睡眠の質の低下はグリンパティック機能を低下させ、脳内にアミロイドβやタウタンパク質が蓄積するリスクを高めます。iNPH患者では睡眠の質の低下(傾眠・睡眠構造の変化)がしばしば見られ、これがさらにグリンパティック機能を悪化させる悪循環を生じさせる可能性があります。良質な睡眠の確保はiNPHの管理において重要な要素の一つです。
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iNPHにおけるグリンパティック障害
iNPHでは、クモ膜下腔でのグリンパティック排出経路が障害されており、脳脊髄液の流動が滞ることで脳室が拡大すると考えられています。さらに、AQP4の機能低下や分布の変化がグリンパティック流動の障害に関与しているとの研究報告があります。加齢とともにグリンパティック機能は低下することが知られており、これがiNPHの有病率が高齢者で高い理由の一つとして注目されています。
💊
グリンパティック研究から見た治療の展望
グリンパティックシステムの解明は、iNPHの新しい治療法開発につながる可能性を秘めています。現在の研究では、①AQP4を標的とした薬物療法、②睡眠改善によるグリンパティック機能の回復、③体位変換(特に側臥位での睡眠)によるグリンパティック流動の促進、④運動によるグリンパティック活性化などが検討されています。シャント手術は脳脊髄液の過剰を解消することでグリンパティック流動の正常化にも貢献している可能性があります。これらの研究はiNPHの予防・治療における新たなアプローチとして期待されています。
リスク因子

iNPHのリスク因子

iNPHの発症に関連するリスク因子として、以下のものが研究・報告されています。これらのリスク因子の管理がiNPHの予防・進行抑制に寄与できる可能性があります。

🩸
高血圧
高血圧は脳の小血管病変(ラクナ梗塞、白質病変)の主要なリスク因子であり、これらの血管変化がiNPHの発症に関与していると考えられています。長期にわたる高血圧は脳室周囲白質の虚血性変化を引き起こし、髄液循環動態に影響を及ぼします。iNPH患者における高血圧の合併率は一般高齢者と比較して高い傾向があり、血圧管理がiNPHの予防に重要である可能性が指摘されています。
🍬
糖尿病
糖尿病も脳小血管病のリスク因子であり、iNPHとの関連が報告されています。高血糖状態が持続すると脳血管の内皮障害が生じ、脳実質の虚血性変化を促進します。また、インスリン抵抗性がアミロイドβの代謝障害に関与し、アルツハイマー型病理との合併に影響する可能性も研究されています。糖尿病の適切な管理が脳の健康維持に寄与する可能性があります。
💤
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、iNPHの潜在的なリスク因子として注目されています。OSASによる夜間の低酸素血症と睡眠の断片化は、グリンパティックシステムの機能低下を引き起こし、脳内老廃物の蓄積を促進する可能性があります。また、OSASに伴う脳血流変動が脳脊髄液の拍動性流動に影響を及ぼす可能性も指摘されています。iNPH患者にOSASが合併している場合、CPAP療法などによるOSASの治療がiNPHの症状管理に有益である可能性があります。
🚶
身体活動の低下
身体活動の低下はiNPHのリスク因子の一つとして考えられています。定期的な有酸素運動は脳血流を増加させ、グリンパティック機能を促進し、脳の健康維持に寄与します。また、運動は脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を促進し、神経可塑性を高める効果があります。転倒への恐怖や歩行障害のためにiNPH患者は活動量が低下しやすく、これが廃用症候群を招くという悪循環が生じることがあります。症状の範囲内での適度な身体活動の維持が重要です。
DIAGNOSIS

正常圧水頭症の診断

iNPHの診断は、臨床症状の評価、脳画像検査(MRI/CT)、髄液排除試験(タップテスト)を組み合わせた総合的なアプローチで行われます。タップテストでの症状改善がシャント手術の効果を予測する重要な指標です。

検査

iNPHの主な診断方法

iNPHの診断には、画像検査・髄液排除試験・臨床診断基準・バイオマーカーを組み合わせます。

🧠
脳MRI / CT(脳室拡大の評価)
iNPHの画像診断において最も重要なのは、脳室の拡大パターンの評価です。Evans Index(側脳室前角の最大幅と頭蓋内腔の最大幅の比率)が0.3以上の場合に脳室拡大と判定されます。ただし、脳萎縮に伴う受動的な脳室拡大(ex vacuo水頭症)との鑑別が重要であり、以下のiNPHに特徴的な画像所見が鑑別に役立ちます。①DESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus)パターン:脳室の拡大に加えて、シルビウス裂の拡大(開大)と高位円蓋部のクモ膜下腔の狭小化が同時に見られるパターンです。これはiNPHに特異性の高い所見とされています。②矢状断MRIでの脳梁角の鋭角化(90度未満)。③側脳室周囲の高信号域(T2強調画像・FLAIR画像):脳室壁からの髄液の経上衣浸出を反映しています。④シルビウス裂の開大と高位脳溝の狭小化の「不均衡」。MRIはCTよりも詳細な評価が可能であり、iNPHの診断には原則としてMRI検査が推奨されます。
💉
タップテスト(髄液排除試験)
iNPHの診断において最も重要な補助検査がタップテスト(CSF tap test)です。腰椎穿刺により30〜50mLの脳脊髄液を排除し、その前後で歩行機能と認知機能の変化を評価します。髄液排除後に症状の改善が認められた場合、シャント手術による改善が期待できるという強い予測因子となります。歩行機能の評価にはTimed Up and Go test(TUG:椅子から立ち上がり、3m歩いて戻って座る時間を計測)や歩幅の測定が用いられ、タップテスト前後で10%以上の改善があれば陽性と判定されます。認知機能の評価にはMMSE(ミニメンタルステート検査)やFAB(Frontal Assessment Battery)が使用されます。タップテストの感度は約50〜80%とされており、陽性であればシャント手術の良好な転帰が高い確率で期待できますが、陰性でも必ずしもシャント手術が無効とは限りません。
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持続腰椎ドレナージ試験
タップテストが陰性または判定が困難な場合に、より高い感度を持つ検査として持続腰椎ドレナージ試験が行われます。腰椎にカテーテルを留置し、1日あたり150〜300mLの髄液を3〜5日間にわたって持続的に排除します。タップテストよりも多量の髄液を排除するため、シャント手術の効果をより正確に予測できるとされています。感度は80〜90%と高く、タップテスト陰性例でも持続ドレナージ試験で改善が確認される場合があります。ただし、入院が必要であり、感染症(髄膜炎)、低髄液圧、硬膜下血腫などの合併症リスクがあるため、適応は慎重に判断されます。
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臨床診断基準(日本正常圧水頭症学会ガイドライン)
日本正常圧水頭症学会(JSNPH)が策定したiNPHの診断基準は、①60歳以上の発症、②歩行障害・認知障害・排尿障害のうち1つ以上、③脳室拡大(Evans Index ≥ 0.3)を基本要件とし、「possible iNPH」「probable iNPH」「definite iNPH」の3段階で診断されます。「probable iNPH」の診断にはDESHパターンの画像所見に加えて、タップテストまたは持続ドレナージ試験での症状改善が必要です。「definite iNPH」はシャント手術後に症状の改善が確認された場合に適用されます。国際的にはHakim-Adamsの三徴(歩行障害、認知障害、尿失禁)が古典的な診断基準として広く知られています。
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髄液検査・バイオマーカー
腰椎穿刺時に採取した髄液の検査も重要です。髄液圧の測定(正常範囲:60〜240mmH2Oであることを確認)、髄液の細胞数・蛋白・糖の分析(感染症や他の病態の除外)、アルツハイマー型認知症のバイオマーカー(アミロイドβ42の低下、リン酸化タウの上昇の有無)が評価されます。iNPHの約30〜50%にアルツハイマー型病理が合併するため、これらのバイオマーカーの結果はシャント手術後の認知機能改善の予測にも関連します。近年、L-PGDS(リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素)やLRG(Leucine-Rich α-2 Glycoprotein)などのiNPH特異的バイオマーカーの研究も進んでいます。
受診の流れ

専門医受診の流れ

iNPHが疑われる場合の受診ステップを4段階に分けて示します。

STEP 01
まずかかりつけ医・内科・神経内科へ
歩行障害、もの忘れ、尿失禁が気になる場合は、まずかかりつけ医に相談してください。かかりつけ医がいない場合は、内科・神経内科・もの忘れ外来を受診するのが一般的です。かかりつけ医による問診・診察、頭部CTまたはMRI検査が行われ、iNPHが疑われる場合は専門医(脳神経外科)への紹介状を書いてもらえます。
STEP 02
脳神経外科でのタップテスト・詳細評価
脳神経外科(または脳神経内科)では、詳細な問診と神経学的診察に加え、脳MRI検査(DESHパターンの評価、Evans Indexの測定)と、タップテスト(腰椎穿刺による髄液排除試験)が行われます。タップテストでは、髄液を30〜50mL排除した前後で歩行能力(Timed Up and Go test、歩幅)と認知機能(MMSE、FAB)の変化を評価します。一部の施設では、より精度の高い持続腰椎ドレナージ試験が入院で実施されます。
STEP 03
シャント手術の適応判断と手術実施
タップテストや持続ドレナージ試験で症状の改善が確認された場合、シャント手術の適応が検討されます。手術前には全身麻酔に耐えられるかどうかの評価(心肺機能検査、採血など)が行われます。本人と家族が手術のメリット・リスクについて十分に理解し、納得した上で手術の決定が行われます。手術は全身麻酔で行われ、通常1〜2時間程度の手術時間です。入院期間は施設や術式によって異なりますが、1〜2週間程度が一般的です。
STEP 04
術後リハビリテーションと長期フォローアップ
術後は入院中にリハビリテーションが開始されます。退院後もデイケア・訪問リハビリテーション・外来リハビリテーションを継続することが推奨されます。定期的な外来受診(最初は1〜3ヶ月ごと、安定後は年1〜2回)でバルブ設定の確認と症状評価を継続します。症状が悪化した場合はシャント不全の可能性があるため速やかに受診してください。
💡
受診のポイント受診時には、歩行の変化を動画で撮影しておくと医師が状態を正確に評価できます。また、症状がいつ頃から始まったか、どのような経過をたどっているかをメモにまとめておくと受診がスムーズです。家族・介護者が同行できると、より正確な情報を伝えることができます。
TREATMENT

正常圧水頭症の治療

iNPHの治療の中心はシャント手術であり、過剰な髄液を排出することで症状の改善を図ります。術後のリハビリテーションと長期フォローアップも機能回復・維持に重要です。

治療

シャント手術を中心とする5つの治療アプローチ

iNPHの治療は、シャント手術を中核としつつ、リスク管理・ETV・薬物療法・リハビリを組み合わせます。

🔧
シャント手術(最も有効な治療)
iNPHの治療の中心は脳脊髄液(CSF)の流れを改善するためのシャント手術です。過剰に溜まった髄液を体の他の部位に排出するための管(シャントシステム)を体内に留置します。最も一般的なのは脳室—腹腔シャント(VP shunt:脳室にカテーテルの一端を留置し、腹腔にもう一端を導いて髄液を排出する方法)です。そのほかに、腰椎—腹腔シャント(LP shunt:腰椎のクモ膜下腔から腹腔へ排出する方法)もよく使用されます。日本ではLP shuntの使用頻度が欧米よりも高い傾向があります。シャントシステムには圧調整弁(プログラマブルバルブ)が装着されており、術後に体外から磁気を用いて髄液排出量を調整できます。これにより、過剰排出(低髄液圧症候群、硬膜下血腫のリスク)や不十分な排出を防ぎ、最適な圧設定を見つけることができます。シャント手術の効果は歩行障害で最も大きく、約60〜80%の患者で改善が認められます。認知障害の改善率は約40〜70%、尿失禁の改善率は約30〜60%とされています。歩行障害が早期から改善しやすい一方、認知障害は改善に時間がかかることがあります。手術からの期間が短いほど、また罹患期間が短いほど改善率が高い傾向があります。
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シャント手術のリスクと合併症
シャント手術は比較的安全な手術ですが、いくつかのリスクと合併症があります。①感染症(3〜5%):シャントカテーテルの感染により、発熱、髄膜炎、腹膜炎が生じる可能性があります。感染した場合はシャントの抜去と抗菌薬治療が必要になります。②過剰排出(overdrainage):髄液が排出されすぎると、低髄液圧症候群(起立性頭痛、悪心)や硬膜下血腫(脳の表面に血液が溜まる)が生じることがあります。プログラマブルバルブの圧設定を調整することで対応可能な場合が多いです。③シャント不全(10〜20%/年):カテーテルの閉塞、断裂、位置のずれなどによりシャントが機能しなくなることがあります。症状の再悪化が見られた場合はシャント不全を疑い、速やかに医療機関を受診する必要があります。④てんかん(まれ):VP shuntの場合、脳室カテーテルの刺激によりてんかん発作が生じることがまれにあります。⑤術後の脳出血(まれ):カテーテル挿入時の脳実質損傷による出血。これらの合併症の多くは適切に管理可能であり、シャント手術による症状改善のメリットは合併症のリスクを上回ると一般的に考えられています。
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内視鏡下第三脳室底開窓術(ETV)
内視鏡を用いて第三脳室の底部に小さな穴を開け、髄液の流出路を確保する手術法です。シャントのような体内留置物を必要としないため、感染症やシャント不全のリスクがなく、理論的には魅力的な選択肢です。しかし、iNPHに対するETVの有効性はシャント手術と比較してエビデンスが限られており、主に閉塞性水頭症(髄液の通過路が物理的に閉塞されているタイプ)に適応されます。一部のiNPH症例でETVの有効性が報告されていますが、標準的な治療法としてはまだ確立されていません。
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薬物療法(補助的)
iNPHに対する確立された薬物療法は現時点では存在しません。アセタゾラミド(ダイアモックス®:炭酸脱水酵素阻害薬)が髄液産生を一時的に減少させる目的で使用されることがありますが、長期的な効果のエビデンスは限定的です。アルツハイマー型認知症が合併している場合は、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)の併用が検討されることがあります。尿失禁に対しては過活動膀胱治療薬(抗コリン薬、β3作動薬など)が症状緩和に使用されることがあります。ただし、これらの薬物療法はあくまで対症的なものであり、iNPHの根本的な治療はシャント手術です。
🏋
リハビリテーション
リハビリテーションは、シャント手術前後を通じてiNPHの機能改善に重要な役割を果たします。術前リハビリテーション:手術前から歩行訓練、バランス訓練、転倒予防教育を行い、手術後の回復をスムーズにします。術後リハビリテーション:シャント手術後は、歩行機能の改善を最大限に引き出すための集中的なリハビリテーションが推奨されます。具体的には、歩行訓練(歩幅の拡大、歩行速度の向上、方向転換の練習)、バランス訓練、筋力トレーニング(特に下肢)、日常生活動作の訓練などが行われます。認知リハビリテーション(注意力訓練、遂行機能訓練)も認知機能の回復を促進する可能性があります。長期リハビリテーション:退院後もデイケアや訪問リハビリテーションを活用し、機能の維持・向上を継続することが推奨されます。
💡
シャント手術の効果歩行障害は約60〜80%、認知障害は約40〜70%、尿失禁は約30〜60%の患者で改善が見られます。罹患期間が短いほど改善率が高い傾向があるため、早期診断・早期治療が極めて重要です。
術後管理

シャント手術後の長期フォローアップ

シャント手術を受けた後も、長期にわたる継続的なフォローアップが非常に重要です。シャントは生涯にわたって体内に留置される医療機器であり、定期的な管理と適切な対応が必要です。

📅
術後フォローアップのスケジュール
一般的なフォローアップのスケジュールは次の通りです。術後1〜3ヶ月:初回の症状評価とバルブ圧の確認・調整。術後6ヶ月:症状の改善度を詳細に評価。神経心理検査(認知機能)、歩行評価(TUG test、歩幅測定)を行います。術後1年:シャントの機能と症状の安定度を確認する重要な評価時点。術後2年以降:少なくとも年1回の定期受診。症状の再悪化(シャント不全の可能性)や新たな合併症の有無を確認します。シャントのバルブ圧設定はプログラマブルバルブの場合、体外から磁気を用いて非侵襲的に調整できます。術後の経過とともに最適な圧設定が変化する場合があり、受診時にバルブ設定の確認と必要に応じた調整が行われます。
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シャント不全のサインを見逃さない
シャント不全とは、シャントカテーテルの閉塞、断裂、位置のずれなどによりシャントが正常に機能しなくなった状態です。早期発見が重要であり、以下のようなサインに注意してください。①術後に改善していた症状の再悪化:歩行が再び不安定になった、認知機能が再低下した、尿失禁が再発したなど。②頭痛の出現または悪化:特に起き上がった時に強くなる頭痛(シャントが詰まる→髄液圧上昇の可能性)、または逆に起き上がった時に悪化する頭痛(過剰排出→低髄液圧の可能性)。③悪心・嘔吐:髄液圧の変化に伴うことがあります。④意識レベルの変化:シャント不全が進行すると意識障害が生じることがあります。これらのサインが見られた場合は、速やかに主治医または担当病院に連絡してください。緊急の場合は救急受診が必要です。
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MRIと磁気環境への注意
プログラマブルバルブを使用している場合、強い磁気によってバルブの圧設定が変化する可能性があります。MRI検査を受ける際は必ず主治医に事前に相談してください。多くのプログラマブルバルブはMRI対応(MR conditional)ですが、MRI検査後にバルブ圧の再設定が必要になる場合があります。MRI検査後は設定の確認を行い、必要に応じて再プログラムを受けてください。また、日常生活では強力な磁石(工業用磁石、一部のスピーカーなど)への接近にも注意が必要です。スマートフォン、家電製品の磁石は一般的に問題ありませんが、不安な場合は主治医に確認してください。
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再手術の可能性と対応
シャント手術後、以下のような状況で再手術が必要になることがあります。①シャント不全(閉塞・断裂・位置ずれ):シャントの修正または交換手術が必要です。②感染症:シャントを一度抜去して感染を治療した後、再植入手術を行います。③過剰排出による硬膜下血腫:バルブ圧の調整で改善しない場合、血腫の外科的除去が必要になることがあります。④バルブの経年劣化:長年の使用でバルブが機能低下した場合、交換手術が必要になることがあります。再手術の頻度は施設や術式によって異なりますが、シャント術後10年間では約30〜50%の患者が何らかのシャント関連手術を必要とするとのデータもあります。再手術の必要性を早期に発見するためにも、定期的なフォローアップが欠かせません。
⚠️
シャント不全は緊急事態になる場合があります術後に改善していた症状が急に悪化した場合(特に意識の変化・激しい頭痛・急激な歩行悪化)は、シャント不全や硬膜下血腫などの緊急事態の可能性があります。すぐに担当病院に連絡するか、救急受診してください。
DAILY LIFE

日常生活での工夫

iNPHと共に暮らす中で、転倒予防、排尿管理、認知機能の維持、シャント術後のケア、福祉制度の活用が日々の生活の質を大きく左右します。

生活の工夫

転倒予防・排尿・認知機能・術後・福祉制度

日々の生活で意識したい5つの領域について、具体的な工夫を整理しました。

🏠転倒予防と安全な環境
  • 床の障害物(コード、ラグ、雑誌)を除去する
  • 手すりを廊下、階段、浴室、トイレに設置する
  • 段差にはスロープを設置し、階段にはマーキングをする
  • 照明を十分に確保し、夜間のフットライトを設置する
  • 滑りにくい靴を使用する(サンダルやスリッパは避ける)
  • 浴室に滑り止めマットとシャワーチェアを設置する
  • 家具の配置は移動しやすい動線を確保する
  • ベッドの高さを調整し、起き上がりやすくする
🚽排尿管理の工夫
  • 定時排尿を心がける(2〜3時間ごとにトイレに行く習慣をつける)
  • トイレまでの動線を確保し、夜間は照明を点けておく
  • ポータブルトイレの設置を検討する(特に夜間用)
  • 水分摂取は十分に行うが、就寝前の大量摂取は控える
  • 適切な下着やパッドを使用し、皮膚の清潔を保つ
  • 排尿日誌をつけて排尿パターンを把握する
  • 骨盤底筋体操を試みる
  • 過活動膀胱の薬について主治医に相談する
🧠認知機能の維持と刺激
  • 日記や日誌をつけて記憶力を補助する
  • カレンダーやホワイトボードでスケジュールを視覚的に管理
  • 新聞や本を読む習慣を維持する
  • パズルや計算ドリルなどの認知刺激活動を取り入れる
  • 社会的交流(家族との会話、友人との交流、地域活動)を維持する
  • 趣味や好きな活動を可能な限り継続する
  • デジタル機器(タブレット、スマートフォン)のリマインダー機能を活用
  • 服薬管理はピルケースやアプリを使って確実に行う
📅シャント手術後の生活
  • 主治医の指示に従い定期的に受診する(バルブの圧設定の確認を含む)
  • 症状の変化を日記に記録し、受診時に報告する
  • 強い磁気を発する機器(MRI以外にも一部の電子機器)はバルブの圧設定を変化させる可能性があるため注意
  • MRI検査を受ける際は必ず主治医に相談する(プログラマブルバルブの再設定が必要な場合がある)
  • 腹部の手術や内視鏡検査を受ける際もシャントの存在を医療者に伝える
  • 症状が再悪化した場合は速やかに受診する(シャント不全の可能性)
  • シャント手術後もリハビリテーションを継続する
  • 過度な運動や腹圧のかかる動作については主治医に相談する
🏥医療・福祉制度の活用
  • iNPHは特定疾患医療費助成(指定難病)の対象ではないが、高額療養費制度は利用可能
  • 介護保険の申請(65歳以上、または40歳以上で特定疾病に該当する場合)
  • 障害者手帳の取得(歩行障害の程度による身体障害者手帳)
  • 障害年金の申請を検討
  • 訪問リハビリテーション・訪問看護の利用
  • デイサービス・デイケアへの参加
  • ケアマネージャーと相談してケアプランを作成
  • 地域包括支援センターに相談する
生活習慣

栄養・睡眠・運動習慣の整え方

iNPHの症状管理と生活の質向上のために、日々の栄養・睡眠・運動習慣を整えることが重要です。グリンパティックシステムの研究からも、良質な睡眠と適度な運動が脳の健康維持に寄与することが明らかになってきています。

🥗栄養管理と食事の工夫
  • バランスの取れた食事を規則正しく摂る(1日3食)
  • 高血圧・糖尿病の管理のため減塩・低糖食を心がける
  • 脳血管の健康維持のため、青魚(EPA・DHA)、野菜・果物、全粒穀物を意識的に摂取する
  • 十分な水分を摂る(ただし就寝前の大量摂取は控える)
  • 転倒リスクのある骨粗鬆症予防のためカルシウム・ビタミンDを十分摂取する
  • 嚥下障害がある場合はとろみをつけるなど食事形態を調整する
  • 誤嚥性肺炎予防のため食事の姿勢に気をつける(座位でゆっくり食べる)
  • 歯科的な問題(咀嚼困難)がある場合は歯科を受診して対応する
🌙良質な睡眠の確保
  • 毎日同じ時間に就寝・起床する(睡眠リズムの維持)
  • 日中の適度な活動(散歩など)で夜間の睡眠の質を向上させる
  • 就寝前のカフェイン(コーヒー、緑茶)・アルコールを避ける
  • 寝室を暗く静かに保ち、快適な温度・湿度に調整する
  • 昼寝は30分以内に留め、夜間の睡眠の質を損なわないようにする
  • いびきや睡眠中の無呼吸が見られる場合は睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の検査を受ける
  • 夜間頻尿がある場合は泌尿器科や主治医に相談する
  • 安心して眠れない不安や抑うつがある場合は精神科・心療内科に相談する
🏃適度な運動習慣の維持
  • 歩行訓練:毎日の安全な環境での散歩を心がける(転倒防止のため環境整備を先に行う)
  • 理学療法士が指導するホームエクササイズを継続する
  • 水中歩行・水泳:浮力により転倒リスクが低く、関節への負担も少ない
  • 椅子に座ってできる体操(座位体操)でも十分効果がある
  • デイケアの運動プログラムを積極的に活用する
  • 運動の強度は主治医・理学療法士と相談して決定する
  • 体調不良の日は無理をしない
  • 運動中の転倒に備えて、可能であれば家族やスタッフが見守る
FOR FAMILY

周囲の人へ——iNPHの方をサポートするために

iNPHは「治療可能な認知症」です。早期発見と適切な治療が回復のカギであり、家族の気づきと行動が大きな力となります。

サポート

家族・介護者ができる5つのサポート

家族・介護者の関わり方は、iNPHの早期発見・治療継続・回復に大きな影響を与えます。

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正常圧水頭症を正しく理解する
iNPHは「治療可能な認知症」として知られる疾患です。適切なシャント手術により症状の改善が期待できるため、早期発見と治療が極めて重要です。「年のせい」「認知症だから仕方ない」とあきらめる前に、iNPHの可能性を疑ってみてください。特に、高齢者で①歩き方がおかしくなった(小刻み、すくみ足、ふらつき)、②もの忘れが増えた、③トイレの失敗が増えた——この3つが重なった場合はiNPHの可能性を考慮し、神経内科やもの忘れ外来への受診を検討してください。iNPHは適切に治療されなければ徐々に進行し、最終的には寝たきりになる可能性があります。一方、適切な時期にシャント手術を受ければ、日常生活の大幅な改善が期待できます。
👀
歩行の変化に注意する
iNPHの最も早期の症状は歩行障害です。以下の変化が見られたら注意してください。①歩幅が小さくなった(小刻み歩行)、②足の間隔が広がった(がに股歩行)、③歩き始めに足がすくむ(すくみ足)、④方向転換が不安定になった、⑤原因不明の転倒が増えた、⑥階段の昇降が怖くなった。これらの変化は「足腰が弱った」「年のせい」と見過ごされがちですが、脳の疾患のサインである可能性があります。歩行の変化を動画で記録しておくと、受診時に医師に状態を正確に伝えるのに非常に役立ちます。
🤝
受診と治療をサポートする
iNPHの診断にはタップテスト(腰椎穿刺による髄液排除試験)が重要ですが、本人が不安を感じることもあります。検査の意味と目的を一緒に理解し、付き添いのサポートを提供してください。シャント手術を検討する際は、手術のメリットとリスクについて主治医から十分な説明を受け、本人と家族が納得した上で決定することが大切です。術後は定期的な通院(バルブの圧設定の確認を含む)が必要であり、通院のサポートも重要です。症状の変化(改善または悪化)を日記に記録し、受診時に医師に報告できるようにしておくと良いでしょう。
💪
リハビリテーションを支える
シャント手術後のリハビリテーションは、機能回復を最大限に引き出すために非常に重要です。家庭での歩行訓練(安全な環境で毎日散歩する)、バランス訓練、筋力トレーニングを継続的に支援してください。理学療法士から指導された自主訓練メニューを一緒に取り組むことで、本人のモチベーション維持にもつながります。デイケアや訪問リハビリテーションの活用も推奨されます。ただし、転倒予防には十分注意し、無理のない範囲で行うことが大切です。
❤️
介護者自身のケアも大切に
iNPHの介護では、転倒への不安、尿失禁のケア、認知障害への対応など、多面的な負担がかかります。介護者自身の心身の健康を守ることは、良質なケアを続けるための前提条件です。介護保険サービス(デイサービス、ショートステイ)を積極的に活用し、自分の休息時間を確保してください。地域の介護者サポートグループやカウンセリングの利用も効果的です。一人で抱え込まず、家族間で介護の役割を分担し、必要に応じて専門職(ケアマネージャー、ソーシャルワーカー)に相談してください。
動画記録のすすめ歩行の変化を動画で記録しておくと、受診時に医師に状態を正確に伝えるのに非常に役立ちます。「年のせい」と諦めず、専門医に相談する一歩を踏み出してみてください。
相談窓口

相談できる窓口・サポートリソース

iNPHの診断・治療・介護に関して、以下の相談窓口やサポートリソースを積極的に活用してください。一人で抱え込まず、専門的な支援を求めることが大切です。

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地域包括支援センター
65歳以上の高齢者やその家族のための総合相談窓口です。介護保険の申請サポート、ケアマネージャーの紹介、地域の介護・福祉サービスに関する情報提供を行っています。市区町村に設置されており、無料で相談できます。iNPHの診断後に利用できるサービスの整理や、施設入所の相談にも対応しています。
🧠
精神保健福祉センター
都道府県・政令指定都市が設置する精神保健・精神福祉に関する総合的な相談機関です。iNPHに伴う認知障害・うつ・介護者のメンタルヘルスに関する相談を無料で受け付けています。自立支援医療(精神通院医療)の申請相談や、精神科・心療内科への紹介なども行っています。「心の悩み」「介護の疲れ」など、遠慮なく相談してください。全国どこからでも相談できます。
📋
日本正常圧水頭症学会(JSNPH)
iNPHの診療・研究を推進する学術団体です。学会のウェブサイトでは、iNPHの診断・治療に関する情報、診療ガイドライン、連携施設(専門的な診療を受けられる医療機関)のリストなどが公開されています。専門施設を探す際の参考にしてください。
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認知症の人と家族の会
認知症の方とその家族が支え合うための全国的な組織です。各都道府県に支部があり、家族交流会・電話相談・介護経験の共有などの活動を行っています。iNPHに伴う認知障害で悩む家族も参加できます。同じ立場の人たちとつながることで、孤立感の軽減と実践的な情報の共有が期待できます。
📞
医療ソーシャルワーカー(MSW)
病院に配属されている医療ソーシャルワーカー(MSW)は、入院・通院中の患者さんの社会的問題(経済的困難、退院後の生活環境、介護保険の申請など)をサポートする専門職です。シャント手術の入院中や外来受診の際に相談することで、経済的支援制度(高額療養費、障害年金、自立支援医療)の利用や退院後の生活設計についてのアドバイスを受けることができます。
💡
自立支援医療制度(精神通院医療)についてiNPHに伴う認知障害や精神症状のために精神科・心療内科に継続して通院している場合、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで、通院にかかる医療費(診察料・薬代・デイケア費用)の自己負担が原則1割に軽減されます。所得に応じてさらに月ごとの上限額が設定されます。申請は市区町村の担当窓口(福祉課など)で行います。主治医の診断書が必要となりますので、主治医または医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
FAQ

よくある質問

正常圧水頭症について、多くの方が抱える疑問にお答えします。

Q. 正常圧水頭症は治りますか?

A. iNPHは「治療可能な認知症」として知られており、適切なシャント手術により症状の改善が期待できます。特に歩行障害は最も改善しやすく、約60〜80%の患者で改善が見られます。認知障害は約40〜70%、尿失禁は約30〜60%で改善が報告されています。ただし、罹患期間が長いほど改善率は低下する傾向があるため、できるだけ早い段階での診断・治療が重要です。また、アルツハイマー型認知症の合併がある場合は、シャント手術後の認知機能の改善が限定的になることがあります。シャント手術で完全に元通りになるとは限りませんが、生活の質の大幅な向上が期待できます。

Q. タップテストとは何ですか?

A. タップテスト(CSF tap test)は、腰椎穿刺により30〜50mLの脳脊髄液を排除し、その前後で症状(特に歩行機能と認知機能)の変化を評価する検査です。iNPHの診断とシャント手術の適応判断に最も重要な検査の一つです。髄液排除後に歩行の改善(歩幅の拡大、歩行速度の向上)や認知機能の改善が見られた場合、シャント手術による症状改善が期待できます。検査自体は腰椎穿刺(いわゆる「腰の注射」)で行われ、通常30分〜1時間程度で終了します。一時的な頭痛(低髄液圧性頭痛)が生じることがありますが、多くは自然に改善します。

Q. シャント手術は高齢でも受けられますか?

A. シャント手術は全身麻酔で行われる手術ですが、手術自体は比較的低侵襲であり、80歳以上の高齢者でも多くの施設で実施されています。年齢だけで手術の適応外とすることは一般的ではなく、全身状態(心肺機能、既往疾患など)を総合的に評価した上で判断されます。高齢者でもシャント手術による症状改善は十分に期待でき、特に歩行障害の改善により転倒リスクの低減と生活の質の向上が見込めます。手術のリスクとベネフィットを主治医と十分に相談した上で決定してください。

Q. iNPHとアルツハイマー型認知症は合併しますか?

A. はい、iNPHとアルツハイマー型認知症は合併することが報告されています。iNPHの約30〜50%にアルツハイマー型認知症の病理変化(アミロイドβの蓄積)が合併しているとの報告があります。両者が合併している場合、シャント手術による歩行障害の改善は期待できますが、認知障害の改善は限定的になることがあります。そのため、iNPHの診断時にアルツハイマー型認知症の合併を評価することが重要であり、髄液バイオマーカー(アミロイドβ42、リン酸化タウ)の検査が参考になります。合併例ではシャント手術に加えて、アルツハイマー型認知症の薬物療法(コリンエステラーゼ阻害薬など)の併用が検討されます。

Q. 正常圧水頭症を早期に疑うサインは?

A. 最も重要な早期サインは歩行の変化です。具体的には、①歩幅が小さくなった(小刻み歩行)、②歩き方が不安定になった、③すくみ足(歩き始めに足が出にくい)、④原因不明の転倒が増えた、⑤がに股で歩くようになった——これらの変化が高齢者に見られた場合はiNPHの可能性を考慮してください。さらに、⑥もの忘れ(特に集中力や判断力の低下)、⑦トイレの失敗(頻尿、尿意切迫、尿失禁)が加わると、iNPHの三徴が揃うことになります。これらの症状が数ヶ月〜数年かけて緩徐に進行している場合は、神経内科やもの忘れ外来の受診をお勧めします。

Q. 正常圧水頭症の予防はできますか?

A. iNPH(特発性正常圧水頭症)の確立した予防法はまだ存在しませんが、iNPHの発症に関連すると考えられているリスク因子を管理することで予防に寄与できる可能性があります。具体的には、①高血圧・糖尿病・脂質異常症などの血管リスク因子の適切な管理、②禁煙、③適度な有酸素運動の継続(週150分以上の中等度運動が推奨されます)、④良質な睡眠の確保(睡眠時無呼吸症候群の治療を含む)、⑤社会的交流と知的活動の維持(認知的予備力の向上)が有益である可能性があります。続発性NPH(クモ膜下出血・頭部外傷・髄膜炎後に発症するタイプ)の予防には、これらの原因疾患の予防・早期治療が重要です。

Q. iNPHに特化した専門外来はありますか?

A. 日本各地に正常圧水頭症(NPH)の専門的な診療を行う「NPHセンター」「特発性正常圧水頭症専門外来」「もの忘れ外来」などが設置されています。大学病院や地域の基幹病院の脳神経外科・脳神経内科がiNPHの診断と治療の中心を担います。かかりつけ医に相談して適切な専門施設への紹介を依頼するか、日本正常圧水頭症学会(JSNPH)のウェブサイトで連携施設の情報を確認することができます。症状が疑われる場合は、「神経内科・もの忘れ外来・脳神経外科」への受診が第一歩です。

Q. シャント手術後に気を付けるべき生活上の注意点は何ですか?

A. シャント手術後の生活で特に注意すべき点は以下の通りです。①MRI検査前の主治医への事前相談:プログラマブルバルブはMRI検査後に圧設定が変化する場合があり、検査後の再設定が必要になることがあります。②強力な磁石への接近を避ける:工業用・医療用の強力な磁石はバルブ設定に影響する可能性があります。③腹部への強い圧力を避ける:VP shunt(脳室—腹腔シャント)の場合、腹腔内に留置されたカテーテルが影響を受けることがあります。④症状の変化を記録する:症状の改善・悪化を定期的に記録し、受診時に報告することがシャント管理に重要です。⑤定期受診を継続する:症状が安定していても、バルブ設定の確認と合併症の早期発見のために定期受診が必要です。⑥他科受診時にシャントのことを伝える:腹部手術や内視鏡検査を受ける際は、事前に担当医にシャントのことを必ず伝えてください。

Q. iNPHの患者数・有病率はどのくらいですか?

A. iNPH(特発性正常圧水頭症)は比較的まれな疾患ではなく、日本においても相当数の患者がいると推定されています。高齢者(70歳以上)における有病率は約1〜3%とされており、日本全体では約70〜100万人以上が罹患している可能性があります。ただし、多くの患者が「年のせい」「認知症だから仕方ない」と思われて診断されていない(治療されていない)のが現状です。診断・治療を受けているiNPH患者は全体の10%未満との推計もあり、「隠れiNPH」が多数存在すると考えられています。認知症全体の約5〜6%がiNPHによるものとも言われており、「治療可能な認知症」として適切な診断・治療の普及が急務です。

Q. 正常圧水頭症の介護保険・障害者手帳の申請について教えてください。

A. iNPHの方が利用できる主な福祉・支援制度は以下の通りです。①介護保険:65歳以上の方は要介護・要支援認定の申請が可能です。40〜64歳の方は「特定疾病」(脳血管疾患など)に該当する場合に介護保険を利用できます。iNPH単独では特定疾病に該当しませんが、脳血管疾患を合併している場合は該当する可能性があります。②身体障害者手帳:歩行障害(下肢機能障害)の程度によって身体障害者手帳(肢体不自由)の取得が可能です。手帳取得により医療費の助成、交通機関の割引、補装具・日常生活用具の給付などの支援が受けられます。③高額療養費制度:シャント手術や長期の医療費が高額になる場合、高額療養費制度により自己負担の上限が設定されます。④自立支援医療制度(精神通院医療):iNPHに伴う認知障害や精神症状のため精神科・心療内科に通院している場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を活用することで通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。申請は市区町村の窓口で行います。⑤障害年金:一定の障害状態にある場合、障害年金の受給が可能です。制度の詳細については、市区町村の担当窓口、地域包括支援センター、または精神保健福祉センターに相談することをお勧めします。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、神経内科・脳神経外科・心療内科・精神科への受診をご検討ください。iNPHに伴う認知障害や精神症状で精神科・心療内科に通院中の方は、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで通院医療費の自己負担が軽減される場合があります。市区町村の窓口または精神保健福祉センターにご相談ください。

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