メンタルヘルス用語辞典 · 疼痛障害

疼痛障害とは?
症状・原因・治療・身体症状症との違いをわかりやすく解説

一箇所以上の身体部位の持続的な痛みが主症状で、心理的要因が発症・悪化・持続に重要な役割を果たす精神医学的疾患(DSM-IV)。現在はDSM-5「身体症状症」として統合されています。痛みは本物の苦痛であり、適切な心身両面からのアプローチで改善できます。

ABOUT PAIN DISORDER

疼痛障害とは

疼痛障害は、一箇所以上の身体部位の痛みが主症状で、日常・社会生活に著しい障害をもたらす精神医学的疾患です。器質的原因で完全に説明できない持続的な痛みに、心理的要因が重要な役割を果たします。現在のDSM-5では「身体症状症」として統合されています。

定義

疼痛障害の定義——「心の痛みが体の痛みになる」

疼痛障害(Pain Disorder)は、DSM-IV(1994年)において一箇所以上の身体部位の痛みが主症状で、心理的要因が疼痛の発症・重症度・悪化・持続に重要な役割を果たすと判断される状態として定義されました。器質的疾患が合併していても、医学的状態だけでは完全に痛みを説明できない場合も含まれます。

重要なのは、疼痛障害の痛みは「作られた痛み」でも「嘘の痛み」でもなく、患者が実際に経験している本物の苦痛です。「心因性」という言葉は「体に原因がない」ことを意味するのではなく、「心理的要因が神経系を通じて実際の身体的な痛みを生み出している」ことを意味します。

DSM-5での変更について2013年のDSM-5改訂で「疼痛障害」という診断名は廃止され、「身体症状症(Somatic Symptom Disorder)」に統合されました。新しい分類では器質的原因の有無よりも、「痛みに関する不適応的な思考・感情・行動」の有無と強さを重視します。診断名が変わっても、疼痛障害的な状態を経験している方への支援の内容は変わりません。
診断の歴史

疼痛障害の診断の変遷

疼痛障害の概念と診断基準は、精神医学の発展とともに大きく変化してきました。この変遷は、「痛みと心の関係」に対する医学的理解の進化を反映しています。

DSM-III(1980年)
心因性疼痛障害
「心理的要因が疼痛の発症・悪化に重要な役割を果たす」ことを要件とした。器質的原因の否定が診断要件だった。
DSM-III-R(1987年)
身体表現性疼痛障害
心理的要因の関与を緩和し、医学的状態で完全に説明できない疼痛として定義。器質的疾患の合併も許容。
DSM-IV/IV-TR(1994/2000年)
疼痛性障害
「疼痛障害」という名称で使用。心理的要因のみ、または医学的状態と心理的要因の両方が関与するタイプを区別。
DSM-5(2013年)
身体症状症(SSD)
「疼痛障害」の概念は廃止され、「身体症状症(Somatic Symptom Disorder)」に統合。痛みへの過剰な思考・感情・行動を重視する新分類に移行。
有病率

疼痛障害の有病率

疼痛障害(身体症状症)は決して珍しい疾患ではなく、一般人口の中にも一定の割合で見られます。性別差や合併疾患の高さも特徴的です。

5〜12%
身体症状症(DSM-5)として統合された後の推定有病率(一般人口)
2
女性の有病率は男性の約2倍。ホルモン・社会的役割・トラウマ歴の差が関与
40〜50%
疼痛障害にうつ病・不安障害が合併する割合
類似疾患との違い

疼痛障害と類似疾患の比較

疼痛障害(DSM-IV)は廃止された後、現行のDSM-5では身体症状症と疾病不安症に分かれています。それぞれの位置づけを整理しましょう。

疼痛障害(DSM-IV)
痛みが主症状
説明不十分な痛みが中核。心理的要因の関与が診断要件。DSM-5では廃止された旧分類。
身体症状症(DSM-5)
様々な身体症状(痛みを含む)
症状の有無を問わず、不適応的な思考・感情・行動の過剰反応が基準。現行の分類。
疾病不安症
病気への恐怖・心配が主
身体症状は必須でなく、疾病確信・不安が中心。身体症状症とは別カテゴリの現行分類。
セルフチェック

疼痛障害のセルフチェックポイント

以下の項目に複数当てはまる場合、疼痛障害(身体症状症)の可能性が考えられます。ただしこれは簡易的な目安であり、正確な診断は必ず医師・専門家の評価を受けてください。

  • 3か月以上続く痛みがあり、検査を受けても原因がはっきりしない
  • 痛みの強さがストレスや感情の変化と連動して変わる
  • 複数の医療機関を受診しても「異常なし」と言われる
  • 痛みのことを常に考え、日常生活の大部分が痛みに支配されている
  • 痛みのために仕事・家事・対人関係に大きな支障が出ている
  • 痛みに加えて、うつ・不安・不眠などの症状がある
  • 鎮痛薬を使っても十分な効果が得られない
  • 痛みの部位が移動したり、新しい部位に広がったりする
  • 幼少期につらい体験(虐待・ネグレクト・いじめ等)がある
  • 自分の感情を言葉で表現するのが苦手だと感じる
⚠️
セルフチェックの注意点上記の項目に多く該当するからといって、必ずしも疼痛障害とは限りません。線維筋痛症・関節リウマチ・神経障害性疼痛など、器質的疾患の可能性もあります。必ず医療機関で適切な検査・評価を受けた上で、心療内科・精神科への受診を検討してください。自己判断で「心の問題だから大丈夫」と結論づけることは危険です。
線維筋痛症との違い

疼痛障害と線維筋痛症の違い

疼痛障害と線維筋痛症は「原因不明の慢性的な痛み」という点で非常に似ており、混同されることが多い疾患です。しかし両者は概念的に異なるアプローチから定義されています。

疼痛障害/身体症状症
精神医学(DSM)
心理的要因の関与・不適応反応が診断の主軸。痛みは一箇所〜複数箇所(限局的なことも)。随伴症状はうつ・不安・身体化。治療は心理療法+薬物療法が中心で、心理要因が診断の中核要件。
線維筋痛症
リウマチ学(ACR基準)
広範囲の圧痛点・疼痛スコアが診断の主軸。痛みは全身の広範囲(上下左右+体軸)。随伴症状は疲労・睡眠障害・認知障害(fibro fog)。治療は薬物療法+運動療法が中心で、心理要因は合併・増悪因子として認識。

実際には疼痛障害と線維筋痛症は重複することも多く、一人の患者がどちらの診断基準も満たすことがあります。重要なのはどちらの「ラベル」がつくかではなく、心身両面からの包括的な評価と治療を受けることです。線維筋痛症と診断されている場合でも心理的要因のケアは有用ですし、疼痛障害と診断されている場合でも身体的アプローチは必要です。

SYMPTOMS & FEATURES

疼痛障害の症状・特徴

疼痛障害の症状は持続的な痛みを中心に、心理的苦痛・行動的変化・社会機能の障害にまで広がります。「痛みの体験」そのものと「痛みに対する反応」の両方が疾患の核心です。

主な症状

疼痛障害の主な症状

疼痛障害の症状は、身体的な痛みだけにとどまらず、痛みに対する思考・感情・行動、そして生活全般への影響にまで広がります。

🔴
一箇所以上の持続的な痛み
頭・背中・腰・腹部・顔・関節など、一箇所または複数箇所にわたる持続的な痛みが主症状です。鈍痛・灼熱感・圧迫感・鋭痛など様々な性状を取り、強さに波があることも特徴です。
💭
痛みに関する過剰な思考・感情・行動
「この痛みは重大な病気の証拠に違いない」という過剰な心配、痛みに関する過剰な時間・エネルギーの消費、何度も医療機関を受診する健康探索行動が特徴です。
😔
日常・社会生活への著しい影響
痛みのために仕事・家事・人間関係・趣味・移動など日常生活の機能が著しく障害されます。「痛みのせいで何もできない」状態が長期間持続します。
😰
医学的説明が不十分または不一致
器質的検査(画像・血液検査等)で痛みの強さや機能障害を十分に説明できる原因が見つからない、あるいは見つかっても程度が一致しません。「どこへ行っても原因不明と言われる」ことが多いです。
🌀
心理的苦痛——うつ・不安の合併
うつ病・不安障害・PTSD・睡眠障害を高率に合併します。痛みと心理的苦痛は互いを悪化させ合う悪循環を形成し、心理的症状の治療が痛みの改善にもつながります。
💤
睡眠障害・疲労感
慢性的な痛みによる睡眠障害(入眠困難・中途覚醒)と翌日への疲労感・気力低下が著しいです。睡眠の質低下が痛みの感受性をさらに高める悪循環が生じます。
「不適応的な思考・感情・行動」とは?(DSM-5の基準から)DSM-5の「身体症状症」では、症状への反応として(1)痛みの重大性についての不釣り合いな・持続的思考、(2)症状・健康についての持続的な高レベルの不安、(3)これら症状や健康への懸念に費やされる過剰な時間・エネルギー、の少なくとも一つが存在することが診断要件です。
痛みの表現パターン

疼痛障害における痛みの特徴的な表現パターン

疼痛障害の痛みには器質的疼痛と区別に役立つ特徴的なパターンが見られることがあります(ただし絶対的な基準ではありません)。

  • 解剖学的に説明しにくい分布(神経支配や血管支配に一致しない部位)
  • 痛みの強さが心理的ストレス・感情状態と強く連動して変動する
  • 痛みの訴えが非常に詳細で生き生きとしている(感情的な表現が多い)
  • 複数箇所が次々と移動する・新たな症状が追加される
  • 病院を転々とし「どこも異常なし」と言われ続けてきた歴史
  • 痛みに対する安堵・「休める」という二次的利得のパターン
  • 家族・医療者の注目・配慮で症状が変動しやすい
⚠️
鑑別診断の重要性これらのパターンが見られても、器質的疾患の十分な除外なしに「心因性だから検査不要」とするのは危険です。必ず適切な医学的評価(器質的疾患の除外)を経た上で、心理社会的要因への介入に移行することが安全な診療の基本です。
合併症・併存疾患

疼痛障害に合併しやすい精神疾患・身体疾患

疼痛障害は単独で存在することは少なく、多くの場合、他の精神疾患や身体的状態と併存します。これらの併存疾患を適切に評価・治療することが、痛みの改善にも直結します。

😔
うつ病(大うつ病性障害)
疼痛障害患者の40〜60%がうつ病を併存します。慢性的な痛みによる活動制限・社会的孤立・無力感がうつを引き起こし、うつによる意欲低下・疲労感がさらに痛みの閾値を下げる悪循環が生じます。抗うつ薬(特にSNRI)は痛みとうつの両方に効果があるため第一選択となります。
😰
不安障害(全般性不安障害・パニック障害)
痛みへの過剰な心配、「この痛みは重大な病気かもしれない」という健康不安が不安障害の形を取ることがあります。パニック障害の身体症状(動悸・息切れ・胸痛)が疼痛障害の痛みとオーバーラップし、相互に増悪させることがあります。
💤
睡眠障害
慢性疼痛患者の50〜80%が何らかの睡眠障害を抱えています。入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒に加え、睡眠の質そのものが低下します。睡眠不足は痛みの感受性を高め、セロトニン・ノルアドレナリン系の機能を低下させるため、睡眠の改善は疼痛治療の重要な柱です。
🔄
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
トラウマ体験と慢性疼痛の関連は非常に強く、PTSD患者の慢性疼痛有病率は一般人口の2〜3倍です。特に幼少期のトラウマ(身体的・性的虐待)は成人後の疼痛障害発症リスクを大幅に高めます。トラウマ治療(EMDR・持続エクスポージャー療法等)が痛みの改善にもつながることがあります。
💊
物質使用障害(鎮痛薬依存)
慢性的な痛みから逃れるために鎮痛薬やアルコールに頼るケースが少なくありません。特にオピオイド系鎮痛薬は疼痛障害に対する長期的効果が限定的である一方、依存リスクが高いため注意が必要です。非薬物療法を含む多角的アプローチが依存予防の観点からも重要です。
🌀
他の身体症状症群(転換性障害・過敏性腸症候群等)
疼痛障害は転換性障害(機能性神経症状症)、過敏性腸症候群(IBS)、機能性ディスペプシア、慢性疲労症候群などと併存しやすいです。これらは「中枢性感作」という共通のメカニズムを持つと考えられており、包括的な治療アプローチが求められます。
年齢・性別の特徴

年齢・性別による疼痛障害の違い

疼痛障害は年齢や性別によって発症パターン・症状の特徴・経過に違いが見られます。ライフステージに応じた理解が適切な支援につながります。

  • 子どもの疼痛障害子どもにも原因不明の慢性的な痛み(腹痛・頭痛・四肢痛)が見られます。学校のストレス・いじめ・家庭環境の問題が背景にあることが多いです。子どもは感情の言語化が未熟なため、身体症状として表現しやすい傾向があります。子どもの場合、早期介入により比較的短期間で改善するケースも多いです。不登校との関連にも注意が必要です。
  • 思春期・若年成人の疼痛障害思春期はアイデンティティの葛藤・対人関係のストレス・進学や就職のプレッシャーが高まる時期であり、疼痛障害の発症リスクが上がります。この年代では「痛み」が感情的苦痛の代替表現となりやすく、自傷行為や摂食障害との併存にも注意が必要です。早期に心理療法につなぐことが長期予後を大きく改善します。
  • 女性と疼痛障害疼痛障害の有病率は女性が男性の約2倍です。その背景として、ホルモンの影響(エストロゲンと痛み感受性の関連)、社会的役割からのストレス、トラウマ体験の頻度の差(性的虐待・DVの被害率)、感情の身体化傾向の性差などが考えられています。月経周期と連動した痛みの変動が見られることもあります。
  • 高齢者の疼痛障害高齢者では変形性関節症・骨粗鬆症・神経障害性疼痛などの器質的疾患による痛みが多い一方、心理的要因(配偶者との死別・孤独・役割喪失・認知機能の低下への不安)が痛みを増幅させるケースが少なくありません。高齢者の場合、うつと慢性疼痛の鑑別が難しく、「老化のせい」と見過ごされることがあります。多剤併用(ポリファーマシー)にも注意が必要です。
CAUSES & MECHANISMS

疼痛障害の原因・メカニズム

疼痛障害は神経生物学的変化・心理的要因・社会的文脈・個人の脆弱性の4つが複雑に絡み合って生じます。「体か心か」という二元論ではなく、「心と体は相互作用する一つのシステム」として理解することが重要です。

🧠神経生物学的メカニズム

疼痛障害では脳・脊髄の痛み処理システムに機能的変化が生じています。下行性疼痛抑制系(内因性オピオイド・セロトニン・ノルアドレナリン系)の機能低下により、痛みを「フィルタリング・抑制」する能力が低下します。前帯状回・島皮質・前頭前野など感情と痛みを結びつける脳領域の異常活動が関与し、痛みの感情的・認知的側面が増幅されます。また扁桃体(恐怖・不安処理)の過活動が痛みへの苦痛感を増大させます。

  • 下行性疼痛抑制系の機能低下(内因性オピオイド減少)
  • 前帯状回・島皮質の過活動(痛みの感情的処理の異常)
  • 扁桃体の過活動(痛みへの恐怖・苦痛の増幅)
  • 脊髄後角でのシナプス増強(中枢性感作)
  • 自律神経系の調節障害
「身体化」——感情が体に語りかける感情は言語化されない(または言語化できない)とき、しばしば身体症状として表現されます。これは意識的な選択ではなく、神経系の無意識的なプロセスです。疼痛障害を抱える方の多くが「感情に気づく・表現する」ことを学ぶことで、痛みが軽減する体験をします。
TREATMENT & CARE

疼痛障害の治療・ケア

疼痛障害の治療は心理療法を中核とした多職種アプローチです。「痛みをゼロにする」ことより「痛みがあっても機能的な生活を送れるようになる」ことが目標です。

🧠
心理療法(CBT・身体感覚療法)
認知行動療法(CBT)は疼痛障害の心理療法として最も証拠が蓄積されています。痛みへの過剰な思考・行動パターンの修正、感情への気づきと調整スキルの習得、段階的活動増加(行動活性化)を扱います。身体感覚への気づきを高めるアプローチ(感覚運動精神療法・ソマティックセラピー)は、身体化の根本的な処理に有効です。失感情症傾向が強い場合、感情の認識・言語化を促す特定のアプローチが必要です。
💊
薬物療法(抗うつ薬・神経障害性疼痛薬)
疼痛障害のうつ・不安に対してSSRI・SNRIが有効です。特にデュロキセチン(SNRI)は身体的な痛みにも作用するため疼痛障害に有用です。三環系抗うつ薬(アミトリプチリン少量)は慢性疼痛・睡眠障害に有効で、疼痛障害でもよく使用されます。プレガバリン・ガバペンチン(抗痙攣薬)は神経障害性疼痛様の症状に使用されることがあります。
🏥
心療内科・精神科との連携
疼痛障害は身体科(内科・整形外科等)と精神科・心療内科の連携が不可欠です。身体科での適切な除外診断と基礎疾患の管理、心療内科・精神科での心理社会的評価と心理療法・薬物療法、理学療法士によるリハビリの多職種連携が最善の治療体制です。「身体の問題と心の問題を別々に扱う」のではなく、統合的なアプローチが求められます。
💪
リハビリテーション・作業療法
疼痛障害による生活機能の低下(活動制限・参加制約)に対して、理学療法士・作業療法士によるリハビリテーションが有効です。段階的活動増加プログラム(Graded Activity)、身体機能の回復、仕事・日常生活への復帰に焦点を当てた介入が行われます。「痛みがゼロになるまで待つ」のではなく「痛みがあっても機能を高める」という考え方が基本です。
👥
集学的疼痛管理プログラム
疼痛障害の重症例・難治例では、医師・心理士・理学療法士・作業療法士・ソーシャルワーカーによる多職種集学的疼痛管理プログラムが最も高いエビデンスを持ちます。慢性疼痛センター・ペインクリニック・精神科リエゾンチームでの提供が一般的です。身体・心理・社会的側面を統合的に扱う入院・外来プログラムが利用できます。
「精神科を勧められた」ことへの抵抗感について内科・整形外科から「精神科・心療内科への紹介」を提案されると、「体の問題なのに精神科?」という抵抗感を覚えることがあります。しかしこれは「あなたの痛みは嘘だ」という意味ではなく、「心と体の接点にアプローチすることで痛みが改善できる可能性がある」という現代医学の提案です。一度試してみることをおすすめします。
DAILY LIFE TIPS

日常生活の工夫

疼痛障害と向き合いながら、少しずつ生活の質を高めるための具体的な工夫を紹介します。回復は一直線ではなく、良い日悪い日を繰り返しながら少しずつ前進します。

📝
痛みの記録と感情の記録を同時につける
「今日の痛みレベル」だけでなく「今日の気分・感情・ストレス」も記録しましょう。痛みと感情の連動パターンに気づくことが、心理的要因への対処の第一歩です。
🎭
感情に「名前をつける」練習
怒り・悲しみ・不安・孤独など自分の感情に気づき、言語化する練習を続けましょう。失感情症傾向のある方には特に重要です。日記に気持ちを書く、心理士に話すなどが有効です。
🏃
少量でも体を動かす習慣
「痛いから動けない」という恐怖回避を少しずつ克服し、10分のウォーキングや軽いストレッチから体を動かす習慣をつけましょう。動くことで内因性オピオイドが分泌され、痛みの感受性が下がります。
👥
孤立を防ぐ——つながりを保つ
慢性疼痛は孤立させがちです。信頼できる人と痛みについて話すことで、感情が処理され、孤独感と痛みの両方が和らぐことがあります。患者会・ピアサポートグループも活用しましょう。
🧘
ストレス管理と自律神経の安定化
深呼吸・漸進的筋弛緩法・マインドフルネス瞑想・ヨガなどのリラクゼーション技法は、自律神経を安定させ、痛みの閾値を高めます。毎日10〜20分を「自分を整える時間」として確保しましょう。
💊
薬への過度の依存を避ける
鎮痛薬・安定剤への過度の依存は疼痛障害の長期的な回復を妨げることがあります。主治医と相談しながら、薬物療法・心理療法・リハビリのバランスのとれた治療を継続しましょう。
🌟
「痛みがあっても意味のある生活」を目指す
受容とコミットメント療法(ACT)の考え方では、「痛みをゼロにする」より「痛みがあっても自分の価値観に沿った生活を送る」ことを目標にします。自分にとって大切なことは何かを考え、痛みに支配される生活から少しずつ抜け出しましょう。
🏥
「原因究明」より「生活の質の向上」へ
疼痛障害では「本当の原因を突き止めよう」と多くの医療機関を転々とすることが多いですが、これが医療費・時間・精神的コストを増大させます。信頼できる医療チームと長期的な関係を築き、「原因探し」より「どう生きるか」に焦点を移すことが回復の鍵です。
WORK & SOCIAL SUPPORT

仕事・社会制度

疼痛障害を抱えながら働くこと、また利用できる社会制度について解説します。経済面の不安を軽減し、治療に専念するための知識を身につけましょう。

仕事への影響

疼痛障害が仕事に与える影響と対策

疼痛障害は仕事に大きな影響を及ぼします。慢性的な痛みによる集中力の低下、欠勤・遅刻の増加、パフォーマンスの低下、人間関係への支障など、様々な形で就労に影響が出ます。しかし、適切な治療と環境調整により、多くの方が働き続けることが可能です。

  • 主治医と相談し、業務内容・勤務時間の調整を職場に申し出る(合理的配慮)
  • 痛みが強い日と比較的楽な日があることを上司・同僚に理解してもらう
  • デスクワーク中の姿勢の工夫、定期的な休憩・ストレッチの実施
  • 在宅勤務・フレックスタイム制度の活用を検討する
  • 通勤ラッシュを避ける時差出勤が可能か確認する
  • 産業医やEAP(従業員支援プログラム)を活用する
休職と復職

休職の判断と復職のプロセス

痛みが強く仕事の継続が困難な場合、休職は回復のための重要な選択肢です。「休むこと=弱さ」ではなく、「回復のための積極的な治療行為」です。

  • 休職の判断基準痛みにより出勤が困難、業務に集中できない、症状が悪化し続けている場合は主治医に相談しましょう。心療内科・精神科の医師が「休養が必要」と判断した場合、診断書を作成してもらえます。休職期間は症状の程度により異なりますが、最初は1〜3か月の期間で設定し、必要に応じて延長するのが一般的です。
  • 休職中の過ごし方休職中は「何もしない」ではなく、規則正しい生活リズムの維持、心理療法・リハビリの継続、段階的な活動量の増加が重要です。痛みの日記をつけ、主治医と経過を共有しましょう。「焦らず、でも止まらず」を心がけてください。
  • 復職のステップ復職は段階的に行います。まず主治医の復職許可を得る→産業医面談→試し出勤(短時間勤務)→段階的にフルタイムへ移行、という流れが理想的です。「リワークプログラム」(復職支援プログラム)を提供する医療機関もあり、復職準備に非常に有用です。
  • 復職後の注意点復職直後は再発リスクが高い時期です。最初の3〜6か月は残業を控え、定期的な通院を継続しましょう。痛みが再び強くなったら早めに主治医に相談し、無理をしないことが長期的な就労継続の鍵です。
利用できる制度

疼痛障害で利用できる社会制度・支援

疼痛障害は長期にわたる治療が必要になることが多く、経済的負担も大きくなりがちです。以下の社会制度を活用し、治療に専念できる環境を整えましょう。

🏥
自立支援医療制度(精神通院医療)
心療内科・精神科の外来通院にかかる医療費の自己負担が原則1割に軽減される制度です。疼痛障害(身体症状症)の治療で精神科・心療内科に通院している場合に利用でき、申請は市区町村の窓口で行います。医師の診断書が必要です。
💰
傷病手当金
健康保険に加入している方が病気やケガで仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。支給額は標準報酬日額の約3分の2で、最長1年6か月間受給できます。疼痛障害による休職でも利用可能です。
📋
障害年金
疼痛障害の症状が長期化し、日常生活や就労に著しい支障がある場合、障害年金の受給対象となる可能性があります。身体症状症としての精神の障害用診断書、または痛みの部位・程度によっては肢体の障害用診断書を用いて申請します。社会保険労務士への相談も有効です。
🏢
精神障害者保健福祉手帳
疼痛障害が長期化し、精神科の継続的な治療を受けている場合、精神障害者保健福祉手帳の取得が可能な場合があります。手帳があると税制優遇・公共交通機関の割引・障害者雇用枠での就労など様々な支援を受けられます。
🤝
就労支援サービス
就労移行支援事業所では、疼痛障害などの障害を抱えた方の就職活動をサポートしています。体調管理のスキル・ビジネスマナー・職場体験などを通じて復職や新たな就労を目指すことができます。障害者雇用でなくても利用できる場合があります。
📞
精神保健福祉センター
各都道府県・政令指定都市に設置されている相談窓口です。疼痛障害に関する相談、利用可能な制度の案内、医療機関の紹介など、総合的な支援を無料で受けることができます。電話相談・来所相談の両方に対応しています。
制度の利用をためらわないで「こんな程度で制度を使っていいのだろうか」と思う方も多いですが、これらの制度は疼痛障害のような長期的な治療が必要な方のために存在します。治療費の心配が治療への取り組みを妨げることがないよう、積極的に活用しましょう。精神保健福祉センターに相談すれば、どの制度が利用できるか一緒に考えてもらえます。
FOR FAMILY & SUPPORTERS

周囲の人・サポーターへ

疼痛障害を持つ方の周囲にいる人が知っておくべき重要なことをまとめました。正しい理解と適切なサポートが、本人の回復を大きく支えます。

理解のために

疼痛障害を正しく理解するための大切なこと

  • 痛みは本物「心因性」であっても痛みは真の苦痛です。「仮病」「甘え」「気のせい」という言葉は絶対に禁物です。脳・神経系が実際に生成している痛みを否定することは、本人を深く傷つけます。
  • 「過度の保護」は回避を強化する「痛いから何もしなくていい」「全部代わりにやってあげる」という過度の配慮は、痛み行動を強化し慢性化を促進することがあります。「痛みがあっても少しずつできることを増やす」をともに目指す姿勢が大切です。
  • 「気持ちの問題」と言わない「要は気持ちの問題でしょ」という言葉は、本人が最も傷つく言葉のひとつです。「心理的要因が関与している」ことと「気持ちの問題にすぎない」は全く異なります。
  • 心理療法・精神科受診を支持する「精神科なんて行く必要ない」という否定は治療の大きな障壁になります。心理療法・精神科受診は弱さのサインではなく、痛みに対する科学的なアプローチです。
  • 長期的なサポートを覚悟する疼痛障害の回復には時間がかかります。急かさず、「一緒に長期戦で向き合う」という姿勢が本人の安心感と回復を支えます。支える側自身もカウンセリングや支援者の会を活用しましょう。
疼痛障害を抱える方のそばにいることは、支える人にとっても大きな負担になることがあります。燃え尽きを防ぐために、支える人も定期的に休息をとり、自分自身のサポートを求めることを忘れないでください。
FAQ

よくある質問

疼痛障害に関する質問と回答をまとめました。受診・治療・日常生活に役立つ情報をQ&A形式で紹介します。

Q. 疼痛障害の痛みは「気のせい」なのですか?

A. いいえ、決して「気のせい」ではありません。疼痛障害の痛みは、脳・神経系が実際に生成している本物の痛みです。MRI等の脳画像研究でも、疼痛障害の患者さんの脳では痛み処理に関わる領域(前帯状回・島皮質など)が実際に活動していることが確認されています。「心理的要因が関与している」ということは、「体に何も起きていない」ということではなく、「心理的なプロセスを通じて神経系に実際の変化が起きている」ということを意味します。あなたの痛みは本物であり、適切な治療によって改善する可能性があります。

Q. 疼痛障害は治りますか?治療期間はどのくらいですか?

A. 疼痛障害は適切な治療によって改善が期待できます。ただし「完全に痛みがゼロになる」というよりは、「痛みがあっても日常生活を送れるようになる」「痛みの強さや頻度が軽減する」という形での改善が多いです。治療期間は個人差が大きく、軽症例では数か月の心理療法で改善する方もいれば、重症例・慢性化した例では数年にわたる治療が必要になることもあります。心理療法・薬物療法・リハビリを組み合わせた多角的アプローチが最も効果的です。焦らず、主治医と長期的な計画を立てて取り組むことが大切です。

Q. どの診療科を受診すればよいですか?

A. まず身体的な原因を除外するために、痛みの部位に応じた身体科(内科・整形外科・神経内科等)を受診しましょう。十分な検査をしても痛みの原因が特定できない場合、あるいは心理的要因の関与が疑われる場合は、心療内科または精神科への受診が推奨されます。「ペインクリニック」(痛み専門外来)がある医療機関では、身体的・心理的アプローチの両方を統合的に提供してもらえることが多いです。可能であれば、心療内科・ペインクリニック・リハビリテーション科が連携している総合的な医療機関が理想的です。

Q. 薬だけで疼痛障害は治りますか?

A. 薬物療法は疼痛障害の治療において重要な役割を果たしますが、薬だけで十分な改善が得られることは多くありません。抗うつ薬(SNRI・三環系抗うつ薬等)は痛みの軽減に有効ですが、心理的要因の根本的な解決にはなりません。最もエビデンスが高いのは、薬物療法と心理療法(特に認知行動療法)を組み合わせた治療です。リハビリテーション・運動療法も加えた多角的アプローチが推奨されます。鎮痛薬(特にオピオイド系)への依存にも注意が必要で、長期的な使用は主治医と慎重に判断しましょう。

Q. 疼痛障害と診断されましたが、本当に体に異常がないか不安です

A. この不安はとても自然な感情です。疼痛障害と診断された場合でも、定期的な身体的フォローアップは重要です。ただし「原因を見つけるために次々と病院を回る(ドクターショッピング)」は、経済的・精神的コストが大きく、かえって不安を強めることがあります。信頼できる主治医(身体科+心療内科/精神科)を決め、定期的に経過を診てもらいながら、新たな身体症状が出た場合には適宜検査を受ける、という方針が安全かつ効率的です。不安な気持ちも主治医に正直に伝えましょう。

Q. 家族が疼痛障害と診断されました。どう接すればよいですか?

A. 最も大切なのは「痛みを否定しないこと」です。「気のせいだよ」「大げさだ」という言葉は本人を深く傷つけます。一方で、過度な保護(すべてを代わりにやってあげる)も回避行動を強化し、慢性化を助長します。理想的なのは「あなたの痛みは分かっている」と共感しつつ、「少しずつできることを増やしていこう」と前向きな姿勢を共に持つことです。心理療法・通院への理解と協力を示し、本人が治療に取り組みやすい環境を整えましょう。サポーター自身の疲労にも注意し、支援者の会やカウンセリングの活用も検討してください。

Q. 疼痛障害で障害年金は受給できますか?

A. 疼痛障害(身体症状症)で障害年金を受給できる可能性はあります。ただし、審査は厳しく、「痛みの強さ」だけでなく「日常生活や就労にどの程度の支障があるか」が重視されます。精神科・心療内科の医師が作成する精神の障害用診断書(様式第120号の4)を用いることが多いです。申請に際しては、日頃の症状や生活への支障を具体的に記録しておくこと、社会保険労務士に相談することをおすすめします。初診日の確認や病歴就労状況等申立書の作成も重要なステップです。

Q. 疼痛障害の人が仕事を続けるコツはありますか?

A. 仕事を続けるためには、まず主治医としっかり相談し、現在の自分が対応できる業務量・勤務時間を見極めることが大切です。職場には必要な範囲で事情を伝え、合理的配慮(勤務時間の調整・デスク環境の改善・在宅勤務の活用等)を求めましょう。痛みには日内変動・日による変動があるため、「痛みが軽い時間帯に重要な業務を集中させる」などの工夫も有効です。産業医やEAP(従業員支援プログラム)の利用も検討してください。無理を続けて悪化するよりも、ペースを落としてでも長期的に働ける環境を整えることが重要です。

Q. 認知行動療法(CBT)は疼痛障害にどう効くのですか?

A. 認知行動療法(CBT)は疼痛障害に対して最もエビデンスが蓄積されている心理療法です。CBTでは、痛みに関する「認知(考え方)」と「行動」の両方にアプローチします。具体的には、「この痛みは永遠に続く」「きっと重大な病気に違いない」といった破局的思考を現実的な思考に修正すること、痛みを恐れて活動を避ける回避行動を段階的に減らすこと、ストレス管理やリラクゼーション技法の習得、感情と痛みの関連への気づきを深めることなどを行います。研究では、CBTにより痛みの強度・生活への障害度・うつ症状が有意に改善することが示されています。

Q. 疼痛障害と線維筋痛症はどう違うのですか?

A. 疼痛障害(身体症状症)は精神医学の分類(DSM)に基づく診断で、心理的要因の関与と不適応的な反応パターンを重視します。一方、線維筋痛症はリウマチ学の分類(ACR基準)に基づく診断で、全身の広範囲の痛みと特定の圧痛点を重視します。両者は重複することが多く、同じ患者が両方の診断基準を満たすことも珍しくありません。重要なのは「どちらのラベルか」ではなく、心身両面からの包括的な評価と治療を受けることです。どちらの診断名でも、心理療法・薬物療法・運動療法を組み合わせた多角的アプローチが有効です。

Q. マインドフルネスは疼痛障害に効果がありますか?

A. はい、マインドフルネスは慢性疼痛に対する有効なアプローチとして注目されています。「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」は慢性疼痛プログラムから生まれた手法で、痛みそのものをなくすことより、痛みとの関わり方を変えることに焦点を当てます。痛みを「戦うべき敵」ではなく「ただ存在する感覚」として観察する練習を通じて、痛みへの過剰な感情的反応(恐怖・怒り・絶望)が軽減し、結果的に痛みの感じ方自体も変化することがあります。1日10〜20分の瞑想から始めることが推奨され、マインドフルネスの指導を受けられる医療機関やアプリも増えています。

Q. 子どもでも疼痛障害になりますか?

A. はい、子どもでも疼痛障害(身体症状症)は発症します。子どもの場合、腹痛・頭痛・手足の痛みとして現れることが多く、学校のストレス・友人関係の問題・家庭環境の変化・いじめなどが背景にあることが多いです。子どもは感情を言葉で表現する力が未発達なため、心理的苦痛が身体症状として表出しやすい傾向があります。不登校との関連も深く、「お腹が痛くて学校に行けない」が長期化している場合は小児科だけでなく児童精神科・心療内科への相談も検討しましょう。子どもの場合は早期介入で改善しやすく、家族療法やプレイセラピーが有効なこともあります。

原因不明の痛みを
一人で抱え込まないで

「気のせい」と言われ続けてきたつらさ、誰にもわかってもらえない孤独——ココトモに話してみませんか。あなたの痛みは本物です。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

keyboard_arrow_up