メンタルヘルス用語辞典 · ピアサポート

ピアサポートとは?
当事者同士の支え合い・歴史・効果・専門員養成・自助グループ・アクセス方法を徹底解説

「同じ経験をした人に話を聞いてほしい」——ピアサポート(peer support)は、精神疾患・依存症・慢性疾患などを経験した当事者同士が、対等な立場で支え合う活動です。「生きた経験(lived experience)」に基づく支援として世界で広まり、日本でも2020年代に制度化が本格化しました。定義・歴史・科学的エビデンス・ピアスペシャリストの役割・自助グループ・アクセス方法までを包括的に解説します。

ABOUT PEER SUPPORT

ピアサポートとは

ピアサポート(peer support)は、精神疾患・依存症・慢性疾患などの困難を経験した当事者同士が、対等な立場で支え合う活動です。医師やカウンセラーの専門的支援とは異なる「生きた経験(lived experience)」に基づく支援として、世界中の精神保健分野で急速に広まっています。

定義と語源

ピアサポートの語源と基本的な意味

ピアサポート(peer support)の「ピア(peer)」は、英語で「仲間」「対等な者」「同僚」を意味します。つまりピアサポートとは、同じような困難や経験を共有する仲間同士が、対等な関係性のもとで互いに支え合う活動のことを指します。

精神保健分野においては特に、精神疾患・依存症・トラウマ・生きづらさといった困難を自ら経験した当事者が、現在同じような困難を抱えている人に対して、その体験から得た知識・希望・技術を提供する支援の形態として定義されます。

重要なのは、ピアサポートが「助ける人」と「助けられる人」という上下関係ではなく、互いに対等な立場で支え合う関係性を基盤としている点です。専門職による支援が「専門知識に基づく援助」であるのに対し、ピアサポートは「生きた経験(lived experience)に基づく共感と希望の共有」が本質的な価値となります。

49
2022年メタ分析に含まれたRCT研究数
12,477
同メタ分析の総参加者数
都道府県
障害者ピアサポート研修の実施地域
4つの中心的価値

WHO・各国精神保健機関が挙げる4つの価値

世界保健機関(WHO)や各国の精神保健機関が共通して挙げるピアサポートの中心的価値は、次の4つです。

💗
当事者経験に基づく共感
experiential empathy。同じ困難を経験したからこそ生まれる深い共感が、専門家には届きにくい安心感を生みます。
🌅
希望の提供
instillation of hope。回復した当事者の存在そのものが、回復途中の人への「自分も大丈夫かもしれない」という希望のメッセージとなります。
🤝
対等性・相互性
mutuality and reciprocity。「助ける人/助けられる人」という上下関係ではなく、互いに支え合う関係性が基盤です。
💪
エンパワーメント
empowerment。当事者の自己決定権・主体性を尊重し、自らの回復を自ら探求する力を支えます。
独自の価値

ピアサポートが提供できる、専門職とは異なる価値

ピアサポートが医師やカウンセラーなどの専門職とは異なる独自の価値を持つのは、当事者の「生きた経験」が持つ説得力と共感の深さにあります。

💬
「わかってもらえた」体験
同じ診断・同じ苦しさを経験した人に話すことで、専門家相談時とは異なる本当に理解された安心感が生まれます。
🌱
ロールモデルとしての存在
同じ経験をしながら今は安定して生活しているピアサポーターを見ることで、「自分も回復できるかもしれない」という具体的な希望を持てます。
🛡
スティグマの軽減
「同じ経験を持つ人がいる」とわかることで、自分の状態への恥や孤立感(スティグマ)が和らぎます。
📖
実践的な情報
薬の副作用との付き合い方、受診の仕方、制度の使い方など、専門家からは得にくい当事者視点の実際的な情報が共有されます。
対等性による安心感
専門家との関係における権力勾配(power imbalance)がなく、対等な立場で話せる安心感があります。
「専門家の言葉では届かなかったけれど、同じ経験をした人の一言で救われた」——そんな経験を持つ人は少なくありません。ピアサポートはその独自の力を制度として活かす試みです。
対象となる状況

ピアサポートの対象となる困難・状況

精神保健分野のピアサポートは、もともと統合失調症や双極性障害などの重篤な精神疾患を抱える人を中心に発展しましたが、現在ではより幅広い状況で活用されています。

  • 精神疾患全般統合失調症、うつ病、双極性障害、不安障害、強迫症、PTSDなど。
  • 依存症・アディクションアルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、摂食障害。
  • 発達障害・知的障害ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、学習障害。
  • 慢性疾患・身体疾患がん、糖尿病、慢性疼痛、HIV/AIDS。
  • 喪失・ライフイベント死別、離婚、DV被害、産後うつ。
  • 生きづらさ全般ひきこもり、社会的孤立、自殺念慮からの回復。
HISTORY

ピアサポートの歴史——当事者運動から制度化まで

ピアサポートの歴史は、精神医療への反省と当事者の権利擁護運動の歴史と深く結びついています。19世紀の当事者運動から始まり、2020年代の日本での制度化まで、その流れをたどります。

歴史年表

当事者運動から制度化までの歩み

ピアサポートは突然生まれたものではなく、100年以上にわたる当事者運動と精神医療改革の積み重ねの中で形作られてきました。1908年のクリフォード・ビアーズから、2020年代の日本の制度化までを年表で辿ります。

1908
クリフォード・ビアーズ「わが魂にあいし友」
精神病院への強制入院を経験したC.ビアーズが自身の体験を著書として出版し、精神医療改革運動を起こす。当事者経験に基づく精神保健運動の原点。
アメリカ
1935
AA(アルコホーリクス・アノニマス)設立
アルコール依存症の当事者グループAAが設立。ピアサポートの先駆けとして大きな影響を与える。
アメリカ
1960-70s
脱施設化運動と自助グループの自然発生
精神医療の「脱施設化(deinstitutionalization)」運動が欧米で起こり、長期入院から地域生活への移行が進む中で、当事者同士の自助グループが自然発生的に生まれる。
欧米
1980-90s
精神科サバイバー運動
「精神科サバイバー(psychiatric survivor)」と自称する当事者たちが、精神医療システムへの批判と自己決定権の主張を掲げる運動を展開。当事者主体のピアサポートの概念が生まれる。
欧米
1984
浦河べてるの家設立
北海道浦河町に精神障害者の共同体「べてるの家」が設立。「当事者研究」の実践へとつながる日本のピアサポートの原点。
日本
1993
W.アンソニーのリカバリー定義
アメリカの精神科医W.アンソニーが「精神疾患という壊滅的な影響にもかかわらず、満足のいく、希望があり、貢献できる人生を生きるためのプロセス」とリカバリーを定義。
アメリカ
1996
精神障害者地域生活支援事業
日本で「精神障害者地域生活支援事業実施要綱」にピアカウンセリングが明記される。
日本
2003
大統領精神保健委員会報告書
アメリカの大統領精神保健委員会報告書がピアサポートをリカバリー志向サービスの重要な構成要素として位置づけ、メディケイドの給付対象として認める州が急増。
アメリカ
2016-19
厚労科研による研修カリキュラム開発
厚生労働科学研究費補助金により「障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究」が実施され、全国統一の研修カリキュラムが開発された。
日本
2020
ピアサポート体制加算の新設
障害福祉サービス報酬改定で「ピアサポート体制加算」が新設。ピアサポート専門員を雇用する事業所が加算を算定できる仕組みが整備された。
日本
2021-
全国でピアサポート専門員養成
都道府県が国のカリキュラムに基づく「障害者ピアサポート研修」を実施し、ピアサポート専門員の全国的な養成が本格化。
日本
2024-
精神科病院でのピアサポーター訪問支援
精神科病院における「ピアサポーター訪問支援」の取り組みが各地で拡大し、入院患者への当事者視点の支援が進む。
日本
日本の原点

浦河べてるの家と「当事者研究」

日本のピアサポートの歴史を語る上で欠かせないのが、北海道浦河町にある精神障害者の共同体「べてるの家」と、そこから生まれた「当事者研究」の実践です。

べてるの家は1984年に設立され、精神障害を持つ当事者たちが地域の中で共同生活・共同作業を行いながら自立する場として発展しました。ここで生まれた「当事者研究」とは、当事者自身が自分の困りごとや症状について、仲間と一緒に「研究」する——つまり客観的に観察し、パターンを見つけ、対処法を考える——という実践です。

当事者研究は「私の苦労は私が一番の専門家」という思想を根幹に持ち、専門家に「治してもらう」受動的な立場から、自分の回復を自ら探求する主体的な姿勢への転換を促します。この実践は日本全国、さらには海外にも広まり、ピアサポートの思想的基盤として大きな影響を与えています。

💡
リカバリーの広がり1990年代以降、アメリカを中心に「リカバリー(recovery)」の概念が精神保健の中心的価値として台頭しました。リカバリーとは症状の消失ではなく「精神疾患や障害があっても、希望を持ち、自分らしく意味のある人生を歩むプロセス」として再定義され、ピアサポートは「回復の証人(witness of recovery)」として制度的に認められるようになります。
TYPES & FORMS

ピアサポートの種類と形態

ピアサポートには1対1の個別形式から、グループ・制度内・オンラインまで多様な形があります。自分に合う形を選べるよう、4つの形態それぞれの特徴を知っておきましょう。

4つの形態

個別/グループ/制度内/オンラインの4形態

ピアサポートは目的や場面によって複数の形態があり、それぞれが補完的に機能します。タブを切り替えて、それぞれの形を確認してください。

👤個別ピアサポート(1対1)
  • ピアメンタリング回復の先輩(ピアメンター)が、回復途中の人に対して定期的に会って話を聞き、経験を共有する。就労支援や退院後支援で多く活用される。
  • ピアカウンセリング同じ障害・疾患を持つ当事者が、対等な立場でカウンセリング的な関わりを行う。身体障害分野で先行して発展し、精神障害分野にも広がった。
  • ピアナビゲーション精神科病院からの退院、就労移行、地域移行の過程でピアサポーターが伴走し、必要な機関やサービスへの繋ぎを支援する。
日本の自助グループ

日本の主な自助グループ・当事者会

日本には、精神疾患・依存症・生きづらさなど様々な困難に対応する自助グループが存在します。代表的な団体を一覧で紹介します。

断酒会(全日本断酒連盟)
対象:アルコール依存症当事者・家族

日本独自の自助グループ。例会での体験発表が中心。家族も参加可能。

AA(アルコホーリクス・アノニマス)
対象:アルコール依存症当事者

12ステッププログラムを基盤。匿名性が特徴。全国各地でミーティング実施。

NA(ナルコティクス・アノニマス)
対象:薬物依存症当事者

AAと同様の12ステッププログラム。薬物全般(処方薬含む)が対象。

GA(ギャンブラーズ・アノニマス)
対象:ギャンブル依存症当事者

ギャンブル問題に特化した12ステップグループ。

OA(オーバーイーターズ・アノニマス)
対象:摂食障害・食の問題を持つ当事者

過食・拒食などの食の問題に特化した12ステップグループ。

うつ病の会(各地)
対象:うつ病・気分障害の当事者・家族

地域ごとに運営。精神保健福祉センターが情報を持っていることが多い。

統合失調症の会・家族会
対象:統合失調症当事者・家族

家族支援団体「全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)」が有名。

当事者研究グループ
対象:精神疾患・生きづらさを持つ当事者全般

べてるの家モデルの当事者研究を実践。全国に広がる。

自助グループとは——5つの特徴自助グループは①当事者による自主運営、②対等性(「助ける人/助けられる人」の区別なし)、③経験の共有が中心活動、④無料または低費用、⑤匿名性の保護——という特徴を持ちます。専門家主導の「支援グループ(support group)」とは区別されます。
オンラインの実際

オンラインピアサポートの利点と制限

2020年のCOVID-19パンデミックは、対面でのグループ活動が困難になったことでオンラインピアサポートの急速な普及を促しましたが、それ以前から地理的・身体的・心理的な障壁でグループに参加できない人のためのアクセス手段として発展してきました。

アクセスしやすさ
○ 利点:地域や時間を問わずアクセス可能。交通手段がなくても参加できる。外出が難しい時期でも参加できる
△ 制限:インターネット環境が必要。デジタルリテラシーが必要
匿名性・開示のしやすさ
○ 利点:顔を出さずに参加できるため、話しやすい内容がある。プロフィールを選んで公開できる
△ 制限:匿名性の裏で有害な情報や不適切な関わりが生じるリスク
多様なコミュニティ
○ 利点:地域では見つけにくいニッチな状況(稀な疾患、特定の体験)のコミュニティに繋がれる
△ 制限:情報の質の管理が難しい。誤情報が混じる可能性がある
非同期コミュニケーション
○ 利点:自分のペースで参加できる。読むだけ・書くだけも可能
△ 制限:リアルタイムの危機対応が難しい。孤立感が完全には解消されない場合がある

オンラインピアサポートを安全に使うために:

  • 個人情報の管理:本名・住所・勤務先などの特定可能な情報を不特定多数に公開しない
  • 「比べすぎない」:SNSでは他者の投稿が自分より良く見えることがある(ソーシャルコンパリゾン)。「自分だけが回復できていない」と感じたら関わり方を見直す
  • 専門的支援の代替にしない:オンラインピアサポートは専門的な医療・心理的支援を補完するものであり、代替するものではない
  • 危機状態のときは専門窓口に:自傷・自殺念慮など危機的な状態のときは、オンラインコミュニティではなく専門的な危機相談窓口(よりそいホットライン等)に連絡する
  • 有害なコミュニティを避ける:自殺や自傷を美化・賞賛するコミュニティ、回復に否定的な雰囲気のコミュニティには参加しない
⚠️
注意:有害なオンラインコミュニティ一部のオンラインフォーラムやSNSコミュニティでは、自殺・自傷を促進したり、治療をやめることを勧めるような内容が含まれることがあります。「仲間」のように見えても、回復を妨げる有害な影響を与えるコミュニティが存在することを知っておいてください。もし参加しているコミュニティで不安を感じたら、精神保健福祉センターや主治医に相談してみてください。
EVIDENCE

ピアサポートの効果——科学的エビデンス

ピアサポートの効果については、2010年代以降に多くの無作為化比較試験(RCT)と系統的レビュー・メタ分析が実施されています。最大規模のメタ分析の知見と、対象別の効果を紹介します。

メタ分析の知見

2022年メタ分析が示す5つの改善効果

2022年に医学雑誌「Psychiatric Services」に掲載された最大規模のメタ分析(49件のRCT、12,477名参加)では、ピアサポートは以下の5項目について小〜中程度の有意な改善をもたらすことが示されました。

🌱
パーソナルリカバリー
ピアサポートに参加した人は、参加しなかった人と比べて「自分の人生を取り戻している」という感覚が有意に改善した。
💪
自己効力感(self-efficacy)
「自分はできる」という感覚の改善が、特に入院中の患者へのピアサポートで顕著。
🌅
希望(hope)
将来への希望の維持・改善に寄与する。
🌊
不安症状
不安症状の軽減に小さいながらも有意な効果あり。
🤝
社会的サポートの認識
孤立感の軽減と社会的なつながりの認識の改善。
💡
エビデンスの「ニュアンス」について同メタ分析では、入院患者への病棟付加型ピアサポートで効果が最も顕著な一方、地域における独立型ピアサポートの効果はより控えめな結果でした。また、国立精神・神経医療研究センターの研究班は「現時点ではピアサポートの効果を確実に支持したり否定したりできる段階ではない」と慎重な評価もしており、研究の質・対象・提供方法によって結果が異なる点に注意が必要です。
対象別の効果

うつ病・統合失調症・依存症・ピアサポーター自身への効果

対象とする疾患や立場によって、ピアサポートの効果の現れ方は異なります。それぞれの研究知見を見ていきましょう。

🌧
DEPRESSION
うつ病・気分障害への効果
  • 産後うつ(周産期うつ病)に対するピアサポートの効果は、複数のメタ分析で比較的一致した結果が示されており、うつ症状の軽減に有意な効果がある
  • うつ病から回復した人が同じ経験をした仲間と定期的に交流することで、孤立感が軽減され再発リスクが低下する可能性がある
  • ピアサポーターとの関わりが、精神科通院や服薬の継続率を高める可能性が複数の研究で示唆されている
🧩
SCHIZOPHRENIA
統合失調症・重篤な精神疾患への効果
  • 再入院率を有意に低下させるというエビデンスは現時点では一貫していない(効果なしとする研究もある)
  • 地域での社会的役割遂行(就労、友人関係、日常生活)の改善に寄与する可能性がある
  • ピアサポーターの存在がロールモデルとなり、「精神疾患があっても社会で生きられる」という認識を広げる(スティグマの軽減)
  • 受動的に治療を受けるのではなく回復に能動的に関与する意欲(agency)が高まる
🍶
ADDICTION
依存症分野での効果——自助グループの実績
  • AA(アルコホーリクス・アノニマス)の研究:断酒の維持においてAAへの参加は、個人療法と同等かそれ以上の効果を持つと複数の研究が示している(コクランレビューを含む)
  • 参加頻度と効果の関係:グループへの参加頻度が高いほど断酒継続率が高い傾向があり、スポンサー制度が効果を高める可能性がある
  • 断酒会(日本):日本固有の断酒自助グループ「断酒会」は、例会への定期出席と体験発表を中核とし、数十年の実績を持つ
🪞
FOR HELPER
ピアサポーター自身への効果
  • 「ヘルパー療法原理(helper therapy principle)」:心理学者フランク・ライズマンが1965年に提唱。人は他者を助けることで、自分自身も治癒・成長する効果がある
  • ピアサポーターとして活動することで「人の役に立てる自分」というポジティブなアイデンティティが形成され、自己効力感が向上する
  • 「患者」「障害者」という受動的アイデンティティから、「サポーター」「専門員」という主体的役割への転換がリカバリーを加速させる
  • ピアスタッフとして働くことが、一般就労に向けた段階的な就労経験となる場合が多い
RECOVERY

リカバリーという概念とピアサポートの関係

現代の精神保健で最も重要なキーワードの一つ「リカバリー」。症状の消失(cure)とは根本的に異なる、希望を持ち自分らしい人生を歩むプロセスとしてのリカバリーと、それを支えるピアサポートの核心的役割を解説します。

リカバリーとは

「リカバリー」とは何か——2つの側面

リカバリー(recovery)は、伝統的な医学的文脈での「回復(cure)」——症状が消え、病気になる前の状態に戻ること——とは根本的に異なります。精神保健領域でのリカバリーは、アメリカの精神科医ウィリアム・アンソニーによる1993年の定義が広く参照されています。

それは「精神疾患という壊滅的な影響にもかかわらず、満足のいく、希望があり、貢献できる人生を生きるためのプロセス」です。症状が続いていても、障害があっても、その中で自分らしい人生を取り戻していくこと——それがリカバリーです。

臨床的リカバリー
clinical recovery
症状の軽減、再発の防止、機能回復という医学的な側面。専門的医療が主に担う領域。
パーソナルリカバリー
personal recovery
希望を持ち、自己アイデンティティを再構築し、意味ある人生を送るという主観的・個人的な側面。ピアサポートが特に貢献できる領域。
核心的役割

リカバリーにおけるピアサポートの核心

ピアサポートがリカバリーにとって特別な意味を持つのは、「回復した当事者の存在そのものが、回復途中の人への最大のメッセージになる」という点です。

精神疾患の診断を受けた直後、多くの人は「自分はもう普通の生活は送れない」「治らないのではないか」という絶望感に陥ります。このとき、同じ診断を受けながらも、仕事をしていたり、家族と暮らしていたり、充実した活動をしているピアサポーターの存在は、何十冊の本や何百時間の専門家との面接よりも雄弁に「回復は可能だ」という希望を伝えます。

🌅
希望の「具体化」
抽象的な「回復できる」という言葉ではなく、目の前にいる具体的な人物によって希望が実体化される。
🌅
「普通化」(normalization)
精神疾患を持ちながらも普通の生活を送っている人が身近にいることで、自分の状態への過度な恐怖やスティグマが和らぐ。
🌅
スキルの伝達
「症状が悪化したときどう対処するか」「医師に何を伝えるか」「家族とどう話すか」など、リカバリーに必要な実践的スキルを当事者視点から共有できる。
WRAP

ウェルネスリカバリーアクションプラン(WRAP)

WRAP(Wellness Recovery Action Plan)は、1990年代にアメリカの当事者メアリー・エレン・コープランドが自身の双極性障害との経験から開発した、自己管理・リカバリーツールです。

WRAPは、自分のウェルネス(健康)を保つためのツール、毎日の健康維持計画、危機時の対応計画などを当事者自身が作成し管理するプランです。重要なのは、WRAPはピアサポートグループでの共同作成・共有が推奨されている点で、個人の回復プランとピアサポートを融合させた実践として世界中に普及しています。日本でも各地の精神保健支援の場でWRAPグループが実施されています。

リカバリーは「治って終わり」ではなく、「希望を持ち続けるプロセス」です。ピアサポーターという「先を歩く仲間」の存在は、そのプロセスを孤独にしないための大切な支えになります。
PEER SPECIALIST

ピアスペシャリスト(ピアサポート専門員)の役割

一般的なボランティアベースのピアサポーターと異なり、ピアスペシャリストは組織に雇用され、報酬を得て、専門的な役割を担います。日本でも2020年代以降、養成制度と加算制度が整備されてきました。

定義

ピアスペシャリストとは

ピアスペシャリスト(Peer Specialist)またはピアサポート専門員とは、精神疾患・依存症・障害の当事者経験を持ち、研修を受けた上で精神保健・障害福祉サービスの現場でスタッフとして働く人のことです。

一般的なボランティアベースのピアサポーターと異なり、ピアスペシャリストは組織に雇用され、報酬を得て、専門的な役割を担います。アメリカでは「Certified Peer Specialist(認定ピアスペシャリスト)」として多くの州で認定資格が設けられており、精神保健チームの正式な一員として活動しています。

7つの役割

ピアスペシャリストの主な役割と業務

ピアスペシャリストが担う役割は、勤務する機関や対象者によって異なりますが、主に以下のような業務を行います。

💬
個別の体験共有と情緒的サポート
利用者と1対1で会い、自分の回復経験を共有しながら、利用者の気持ちを受け止める。
🌅
希望の促進
「回復できる」という希望をロールモデルとして体現し、利用者の将来への見通しを広げる。
📣
自己アドボカシーのサポート
利用者が自分の権利を主張し、医療・支援者との関係で自分の意見を伝えられるよう支援する。
🔗
地域資源への繋ぎ
地域の支援機関、セルフヘルプグループ、就労支援などへの橋渡しをする。
👥
ピアグループのファシリテーション
ピアサポートグループを運営し、参加者が安全に体験を共有できる場を作る。
🆘
危機時の支援
精神的に不安定になった利用者に寄り添い、専門家への繋ぎを支援する(危機介入の専門家ではないが、当事者として側にいる重要な役割)。
🧑‍⚕
専門職チームへの当事者視点の提供
医師・看護師・ソーシャルワーカー等とチームを組む中で、当事者の視点と経験からの意見を伝える。
倫理基準

ピアスペシャリストが持つ倫理的基準

ピアスペシャリストは、一般のボランティアと異なり、専門的な倫理基準に従って活動します。

  • 守秘義務利用者との会話で得た情報を、業務上必要な場合を除き第三者に漏らさない。
  • 境界線の維持「仲間」でありながら、友人関係や金銭的関係など業務上の境界を越えない。
  • 自己開示の節度自分の回復経験を共有することが役割の核心だが、利用者のニーズよりも自分の経験が前面に出過ぎないよう注意する。
  • 強制しない原則特定の回復方法や価値観を押しつけず、利用者の自己決定を尊重する。
  • 自己ケア(セルフケア)支援を行いながら自分自身の精神健康を保つことが義務づけられる。
養成制度

日本の障害者ピアサポート研修制度

日本では、厚生労働省が示した標準的なカリキュラムに基づき、各都道府県・政令指定都市が「障害者ピアサポート研修」を実施しています。この研修は、精神障害だけでなく身体障害・知的障害・難病を含む幅広い障害分野に対応した内容となっています。研修は主に3つのレベルに分かれています。

BASIC
基礎研修(2日間程度)
ピアサポートの基本的な概念、当事者の経験を活かすことの意義、基本的なコミュニケーション技法などを学ぶ。ピアサポーターを目指す当事者だけでなく、支援者も受講対象となる場合がある。
国カリキュラム
ADVANCED
専門研修(2日間程度)
基礎研修の内容をより深め、具体的な支援技術、倫理、境界線の設定、自己開示の方法などを学ぶ。
国カリキュラム
FOLLOWUP
フォローアップ研修・指導者養成研修
活動を続ける中で生じる疑問や困難を共有し、スキルアップを図る。指導者層の養成も行われる。
継続研修
💡
ピアサポート体制加算とは2020年度の障害福祉サービス報酬改定で新設された「ピアサポート体制加算」は、障害福祉サービス事業所がピアサポート専門員を雇用し、一定の要件を満たした場合に加算報酬を算定できる制度です。加算(Ⅱ)の算定には、①都道府県が実施する専門研修の修了、②1年以上の実務経験が要件となります。これにより、ピアサポート専門員の雇用が全国的に促進されています。

精神障害分野に特化した「精神障がい者ピアサポート専門員養成研修」は、ピアサポート専門員研修機構などが実施しています。対象は精神障害の当事者で症状が比較的安定し、ピアサポーターとして活動する意欲を持つ人。内容はピアサポートの理念と歴史、リカバリーの概念、傾聴・コミュニケーション技術、精神保健福祉の制度・資源の知識、セルフケア、倫理と境界線など。修了後はピアサポート専門員として認定を受け、障害福祉事業所などでの就労につながるケースも多いです。

主な実施例として、東京都障害者ピアサポート研修事業(東京都福祉保健財団)、大阪府障がい者ピアサポート研修、愛知県・千葉県など各地で独自のプログラムが展開されています。自分の都道府県の研修情報は、都道府県の福祉担当部署や精神保健福祉センターに問い合わせることで得られます。

ACCESS & BECOMING

ピアサポートへのアクセス/ピアサポーターになる道

ピアサポートを「受けたい人」「探したい人」「なりたい人」のための実践情報。専門治療との違い・補完性、地域とオンラインのアクセス方法、ピアサポーターになるためのルートを解説します。

専門治療との違い

ピアサポートと専門的精神医療の根本的な違い

ピアサポートと精神科医療・心理療法は、根本的に異なる性質を持っています。しかし、どちらが優れているということではなく、それぞれが異なる強みを持ち、補完的な関係にあります。

提供者の立場
専門治療:専門的訓練を受けた専門職(医師・心理士・ソーシャルワーカー等)
ピアサポート:当事者経験を持つ仲間(当事者・ピアスペシャリスト)
関係性
専門治療:治療者と患者・クライエント(知識・権限の非対称性がある)
ピアサポート:対等な仲間・相互支援の関係(対等性が原則)
主な目標
専門治療:症状の評価・診断・治療(臨床的リカバリー)
ピアサポート:希望の提供・エンパワーメント・個人的リカバリーの支援
共感の基盤
専門治療:専門的知識と職業的共感
ピアサポート:生きた経験に基づく共感(experiential empathy)
法的・制度的責任
専門治療:医師法・医療法などの法的規制下にある
ピアサポート:法的規制は限定的(ただし倫理基準は存在する)
費用
専門治療:医療費(保険診療・自立支援医療など)
ピアサポート:多くは無料または低費用
代替にはならない

ピアサポートが提供できないこと

重要な点として、ピアサポートは専門的な精神医療や心理療法の代替ではありません。ピアサポートが提供できないこと、専門家に頼るべきことを明確にしておく必要があります。

  • 診断精神疾患の診断は医師(精神科医・心療内科医)のみが行える。ピアサポーターが「あなたはうつ病だ」と言うことはできない。
  • 投薬向精神薬の処方・管理は医師のみが行える。
  • 心理療法認知行動療法(CBT)など証拠に基づく心理療法は、訓練を受けた専門家が提供する(ただし、自助的なCBTワークブックをグループで使う試みはある)。
  • 緊急の危機対応自殺リスクの評価や危機介入は専門家(精神科医・救急)が行う。ピアサポーターは危機時に「繋ぐ」役割を担うが、専門的な評価はできない。
  • 入院の手続き精神科への入院の判断・手続きは医師が行う。
主治医に「ピアサポートを使いたい」と伝えてよいピアサポートへの参加は、精神科通院・服薬などの専門的治療と並行して行えます。主治医や担当のソーシャルワーカー・精神保健福祉士に「地域の自助グループやピアサポートグループを探したい」と伝えると、地域の情報を紹介してもらえることがあります。欧米では精神科病院や地域メンタルヘルスセンターにピアスペシャリストが雇用され、専門家チームの一員として機能する「統合型」モデルが標準的になっています。
アクセス方法

地域・オンラインからピアサポートを探す

ピアサポートへのアクセスは、地域によって利用できるリソースが異なります。以下の窓口や機関から情報を得ることができます。

🏛
精神保健福祉センター
各都道府県・政令指定都市に設置。地域のピアサポートグループ・自助グループの情報を持っていることが多い。相談員に「当事者会やピアサポートグループを探している」と伝えると紹介してもらえる。
🏠
地域活動支援センター
精神障害者が地域で生活するための活動の場。ピアサポートグループを実施している施設も多い。
💼
障害福祉サービス事業所
就労継続支援・就労移行支援事業所など、ピアスタッフが在籍する事業所でのピアサポートを受けられる場合がある。
🏥
精神科病院・外来
主治医やソーシャルワーカーに相談すると地域のグループを紹介してもらえる。病院附属のデイケアでグループが実施されている場合もある。
🏢
市区町村の福祉担当窓口
障害福祉サービスの担当窓口で地域の支援資源の情報を得られる。
🌐
COMHBO全国ピアグループ一覧
特定非営利活動法人COMHBO(地域精神保健福祉機構/comhbo.net)が管理する全国のピアグループ・当事者会のデータベース。地域別・対象別に検索可能。
📅
こくちーずプロ
kokuchpro.com にピアサポートイベントの特集ページがあり、全国のイベントを検索できる。
📞
こころの健康相談統一ダイヤル
0570-064-556。地域のグループの情報も提供している。

参加を検討する前に確認しておくと良いこと:

  • 対象者の確認:「精神疾患を持つ方対象」「アルコール問題を抱える方対象」など対象が限定されているグループがある。事前に確認する
  • 参加の状態:急性期(入院が必要な状態)よりある程度状態が落ち着いてから参加する方が多い。ただし「状態が良くないと来てはいけない」わけではない
  • 主治医への相談:医療的治療を受けている場合、主治医にピアサポートグループへの参加を考えていることを伝えておくと、スムーズに連携しやすい
  • 「見学」から始めてもよい:多くのグループでは、最初は発言せず様子を見るだけの「見学」参加を歓迎している

SNSでは「#当事者会」「#ピアサポート」「#うつ当事者」などのハッシュタグでグループや当事者の集まりを探せる場合もあります。各疾患の全国組織(「うつ病友の会」「全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)」「AA日本ゼネラルサービス」など)のウェブサイトでも地域グループ情報が掲載されています。

最初の一歩

自助グループへの「最初の一歩」のよくある不安

「自助グループに参加してみたい」と思っても、最初の一歩を踏み出すのは不安なものです。以下のような疑問を持つ方も多いです。

Q. 初めてでも大丈夫?

A. 多くのグループは初参加者を歓迎しています。「話さずに聞いているだけ」も大丈夫なグループが多い。

Q. 名前を言わなくてはいけない?

A. 多くのグループは匿名性を尊重しています。ニックネームでも「初参加の者です」だけでも大丈夫。

Q. 自分の状態がひどくてもいい?

A. どんな状態でも参加できます。ただし急性症状が重い時期は、まず医療的なケアを優先することが勧められる場合があります。

Q. 合わなければ行かなくてもいい?

A. グループの雰囲気は様々です。一つに合わなくても他のグループに合うことがあります。無理に続ける必要はありません。

ピアサポーターになる

ピアサポーターになるための前提と道筋

「自分の経験を、同じような困難を抱えている人の役に立てたい」——そのような思いを持つ当事者の方は、ピアサポーターになる道を検討してみてください。ただし、いくつかの重要な前提があります。

  • ある程度の状態の安定自分自身の精神健康が安定していることが前提。「完全に回復した」必要はないが、支援活動を行う中で自分の状態が著しく悪化しない程度の安定が必要。
  • 回復の経験の言語化自分の困難と回復の経験を、人と共有できる形で整理できていることが役立つ。
  • 「助けてあげる」ではなく「共にある」姿勢ピアサポートは慈善活動や善行ではなく、対等な関係での共存。「一緒に考える」「そこにいる」という姿勢が求められる。
  • 自己ケアの継続人を支えながら自分を守ることが必要。「共倒れ」にならないよう、定期的な休息と自己ケアを続けることが重要。

ピアサポーターとして活動するための主なルートを5つ紹介します。

STEP 1
自助グループ・当事者会への参加から始める
まず自分が参加者としてグループに加わり、仲間とのつながりを築く。長く参加する中で、自然とサポート的な役割を担うようになることが多い。
入口
STEP 2
都道府県の障害者ピアサポート研修を受ける
基礎研修・専門研修を修了することで、ピアサポート専門員として公式に認定される道が開ける。研修情報は都道府県の福祉担当部署・精神保健福祉センターで入手できる。
公的研修
STEP 3
精神障がい者ピアサポート専門員養成研修(民間)
ピアサポート専門員研修機構などが実施する民間の養成研修を受講する。
民間研修
STEP 4
病院・事業所のボランティア登録
一部の精神科病院や障害福祉事業所では、ピアサポーターをボランティアとして募集している。最初の実践経験として有用。
実践
STEP 5
ピアスタッフとして就職
ピアサポート専門員を雇用する障害福祉事業所に就職する。ハローワークや障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)等で相談できる。
就労
バーンアウト予防

バーンアウト(燃え尽き)を防ぐために

ピアサポーターは、自分自身も当事者であるため、支援活動を続ける中でバーンアウトに陥りやすいリスクがあります。特に重要なのは次のポイントです。

  • スーパービジョン・サポートの確保:活動中に生じた感情・困難を、信頼できるスーパーバイザーや同僚と定期的に振り返る場を持つ
  • 限界を設定する:「24時間対応」「どんな依頼も断らない」は持続不可能。自分にできることの限界を明確にし、必要に応じて「今日は難しい」と断る
  • 「自分の回復は自分のもの」:支援活動をしながらも、自分自身の主治医通院・服薬・休息などの自己ケアを優先する
  • 「助けられなかった」罪悪感への対処:支援がうまくいかないこともある。一人で抱え込まず、スーパービジョンの場で話し合う
⚠️
ピアサポートの課題と限界ピアサポートには①ピアサポーターの二重の立場が生む葛藤、②「ピアサポート」の名称の乱用問題、③エビデンスの限界と研究上の課題、という3つの課題が指摘されています。下のFAQの後の「家族・専門職」セクションで詳しく解説します。
FOR FAMILY & PROFESSIONALS

家族・専門職がピアサポートと関わるとき

家族もまた大きなストレスを抱えるピアサポートの対象です。同時に、家族・友人・支援職がピアサポートを「紹介する」「協働する」立場として知っておくべきこともあります。最後にピアサポートの課題と限界、FAQを掲載します。

家族のピアサポート

家族もピアサポートを必要としている

精神疾患を持つ人の家族もまた、大きなストレスと困難を抱えています。「家族ピアサポート」と呼ばれる、家族同士が経験を共有し支え合う活動が、当事者支援と並んで重要な役割を担っています。

  • 家族会・家族の自助グループ全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)をはじめ、各地に統合失調症・うつ病・依存症など様々な疾患の家族会が存在。「自分だけが苦しんでいるわけではない」という安心感と、他の家族から学ぶ実践的な知恵が得られる。
  • アラノン(Al-Anon)アルコール依存症の家族・友人のための自助グループ。当事者本人だけでなく周囲の人が回復するための場として世界中に広がっている。
  • CRAFT(コミュニティ強化と家族訓練)支援を拒否している依存症者の家族向けのプログラム。専門家主導のプログラムだが、家族がピアとして学び合う要素も含む。
紹介時の注意

支援者がピアサポートを紹介するときの注意点

家族・友人・支援者が当事者にピアサポートを勧める場合、いくつかの点に注意が必要です。

✓ してよいこと
情報を伝え、本人が選択するのを待つ姿勢を持つ
ある程度状態が落ち着いた時期にタイミングを見て勧める
本人の意向を尊重し、合わないと感じたら別のグループを提案する
専門的治療と並行して活用するものとして伝える
✗ してはいけないこと
「ピアサポートに行くべきだ」と強制する
急性期(症状が激しく不安定な時期)に無理に勧める
本人が「合わない」と言っても無理に継続を勧める
ピアサポートを「病院に行かなくていい代替手段」として位置づける
専門職との協働

支援職・専門職とピアサポートの協働

精神保健福祉士、社会福祉士、作業療法士などの専門職がピアサポートと協働する上での重要な姿勢があります。

  • ピアサポーターを「同僚」として尊重する単なる「当事者の声」として使うのではなく、チームの正式なメンバーとして意思決定に参加させる。
  • 「治す」権威性を手放すピアサポートが提供できる対等な関係性を専門職が阻害しないよう、過度に管理・指示しない。
  • ピアサポーターのセルフケアを支援するピアサポーターが活動を続けられるよう、スーパービジョンの機会や休息の確保を制度的にサポートする。
課題と限界

ピアサポートの課題と限界

ピアサポートは急速に広まっている一方で、いくつかの本質的な課題と限界も抱えています。これを理解することは、ピアサポートを健全に育てるために重要です。

ピアサポーターの二重の立場が生む葛藤
  • 「スタッフか仲間か」の境界の曖昧さ:特に同じ施設の元利用者がスタッフになった場合、「スタッフとしての役割」と「仲間」という関係性の境界が曖昧になりやすい
  • 自己開示のバランス:自分の経験を共有することがピアサポートの核心だが、開示しすぎると利用者との境界が不明確になる
  • 自分の回復が不安定なときの継続困難:精神状態が悪化したときに支援活動を続けることが難しくなるが、「利用者を見捨てるような気がする」という罪悪感から休めないことがある
「ピアサポート」の名称の乱用問題
  • 当事者でない人がピアサポーターを名乗るケース:当事者経験がなくても「ピアサポーター」と名乗ることが法的に制限されていないため、質の担保が難しい
  • 企業・営利目的の「ピアサポート」:当事者支援の理念から外れ、商業的な利益のためにピアサポートの名称を使うケース
  • 制度化による「専門職化」の逆説:制度に組み込むことで、当初の草の根的な対等性・自主性が失われ「もう一人の支援者」になってしまうリスク
エビデンスの限界と研究上の課題
  • 比較対象の設定困難:ピアサポートの効果をRCTで測定する際、「ピアサポートなし」の対照群を設定することが倫理的・実際的に難しい場合がある
  • 「ピアサポート」の定義の多様性:研究によって定義・提供方法・対象が異なるため、研究結果を単純に比較・統合することが難しい
  • 長期的効果のデータ不足:多くの研究が短期的な効果を測定しており、長期的な経過に関するデータが少ない
  • アウトカム指標の多様性:「回復」の測定方法(症状スコア、再入院率、生活の質、自己評価など)が研究によって異なるため、結果の比較が難しい
FAQ

よくある質問

Q. ピアサポートグループに参加するのに、診断名が必要ですか?

A. ほとんどの自助グループやピアサポートグループには、特定の診断名がなくても参加できます。「精神科に通っている」「なんとなく生きづらい」「気持ちが落ち込みやすい」という状態で参加している人も多くいます。一方、「うつ病の方対象」「統合失調症の当事者のみ」など、対象を絞っているグループも存在します。参加前にグループの対象者を確認してみてください。

Q. ピアサポートグループで話した内容は外部に漏れますか?

A. 多くのグループでは「ここで話したことは外に持ち出さない(守秘の原則)」というルールが設けられています。ただし、法的な守秘義務(医療職・弁護士などに課せられたもの)とは異なり、参加者の倫理的な合意によって守られるものです。心配な場合は、最初の参加時にそのグループの守秘のルールを確認することをお勧めします。

Q. ピアサポーターに相談すると、医師に報告されますか?

A. ボランティアベースの自助グループのピアサポーターには、法的な報告義務はありません。ただし、組織に雇用されているピアスペシャリスト(ピアスタッフ)は、自傷・他害のリスクが高い状況では、チームの専門職に報告することがある場合もあります。最初に「どこまで共有されるか」を確認しておくと安心です。

Q. 精神科への通院をやめてピアサポートだけにしてもいいですか?

A. これはお勧めしません。ピアサポートは専門的な医療の代替ではなく、補完的な支援です。特に服薬が必要な状態では、主治医と相談せずに治療をやめることは症状の悪化につながるリスクがあります。「ピアサポートを活用しながら、専門的な治療も続ける」というのが、多くの場合で最も効果的な選択です。

Q. うつが重くて、グループに出かける気力もないときはどうすればいいですか?

A. うつが重い時期に無理してグループに参加する必要はありません。まずは主治医・精神科への通院を続けることを優先してください。状態が少し落ち着いてきたときに、まずオンラインのコミュニティや、参加のハードルが低い形から試してみるのも良いです。「気力が出てからグループに行こう」という段階的なアプローチが現実的です。

Q. 自分がピアサポーターになれるかどうか、どうやって判断すればいいですか?

A. 「まだ回復が完全でないから無理」とは限りません。重要なのは「ある程度の状態の安定」と「支援活動を行う中で自分が過度に消耗しないこと」です。まず主治医や担当の精神保健福祉士に相談してみてください。また、ピアサポート研修を受けることで「自分に向いているかどうか」をより具体的に判断できます。

Q. 精神保健福祉センターってどこにあるのですか?

A. 精神保健福祉センターは、各都道府県と政令指定都市に1ヶ所以上設置されています(東京都は2ヶ所)。インターネットで「(お住まいの都道府県名) 精神保健福祉センター」と検索すると、所在地・電話番号・相談受付時間が確認できます。多くのセンターでは、電話相談を無料で実施しています。

一人で抱え込まないで。
同じ経験をした人と、繋がってみませんか。

「誰かに話を聞いてほしい」「同じ経験をした人と話したい」——その気持ちが、回復への大切な一歩です。ピアサポートも、専門家への相談も、組み合わせて活用していきましょう。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。申請は市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターへ。

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