PHQ-9とは?
うつ病スクリーニングの質問・採点・判定基準を解説
「最近気力がわかない」「何をしても楽しくない」——そんな状態が続いているとき、自分のこころは今どんな状態にあるのでしょうか。PHQ-9は、わずか9つの質問でうつ病の可能性と重症度を数値化できる、世界中で使われているスクリーニングツールです。開発の背景、9項目の意味、採点と重症度、日本語版の妥当性、他尺度との比較、活用法までを網羅しました。
PHQ-9とは——うつ病スクリーニングの世界標準ツール
PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9:患者健康問診票)は、わずか9つの質問でうつ病の可能性と重症度を数値化できる、世界60カ国以上で使われている自己記入式スクリーニングツールです。
PHQ-9の正式名称と基本概要
PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)は、日本語で「患者健康問診票」とも呼ばれる、うつ病のスクリーニングと重症度評価のための自己記入式質問票です。9つの質問項目から構成され、合計スコアが0点から27点の範囲で算出されます。回答にかかる時間は通常2〜3分程度と非常に短く、専門家でなくても実施・採点できるため、医療現場から職場・研究まで幅広く活用されています。
名称を分解すると、PHQは「Patient Health Questionnaire(患者健康質問票)」の略で、-9は9項目版を意味します。PHQ-9は精神科・心療内科の診察室から、職場のメンタルヘルス対策、国際的な臨床研究まで、現代のうつ病対策に欠かせない存在となっています。
PRIME-MDからPHQ-9へ——開発の歩み
PHQ-9は1990年代にアメリカの精神科医ロバート・スピッツァー(Robert L. Spitzer)らによって開発されました。前身となったのはプライマリケアでの精神疾患評価ツール「PRIME-MD」です。日本語版は村松公美子(新潟青陵大学)らを中心に「翻訳→逆翻訳(back-translation)→原著者との確認」という厳格な翻訳プロセスで開発されました。
PHQシリーズ——PHQ-2・PHQ-9・PHQ-15
PHQシリーズは複数のモジュールから成り、PHQ-9はその中核をなす最も広く使用されているモジュールです。
PHQ-9が依拠する診断基準——DSM-IVとの1対1対応
PHQ-9の最大の特徴のひとつは、アメリカ精神医学会(APA)のDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版)における大うつ病エピソードの診断基準に直接対応している点です。
DSM-IVでは、大うつ病エピソードの診断に9つの症状を定義しています(そのうち5つ以上が2週間以上続き、少なくとも1つは①抑うつ気分または②興味・喜びの喪失であること)。PHQ-9の9項目は、まさにこの9つの症状と1対1で対応しています。これによりPHQ-9のスコアは単なる「気分の数値化」ではなく、臨床的な診断基準と直結した意味を持つ評価指標となっています。
PHQ-9が国際標準となった6つの理由
PHQ-9が世界中で標準的なうつ病スクリーニングツールとなっている背景には、以下の優れた特性があります。
PHQ-9の9つの質問項目と各項目の意味
すべての質問は「この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?」という共通の問いかけに対し、4段階(0〜3点)で答える形式です。「2週間」という指定はDSMの診断基準と整合しています。
9つの質問項目と対応するうつ病症状
PHQ-9日本語版の9項目を、対応するうつ病症状およびDSM症状カテゴリと対比します。
- Q1:物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない対応症状:アンヘドニア(快感消失・興味喪失)/カテゴリ:コア症状②
- Q2:気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる対応症状:抑うつ気分・絶望感/カテゴリ:コア症状①
- Q3:寝つきが悪い、途中で目が覚める、または逆に眠りすぎる対応症状:睡眠障害(不眠・過眠)/カテゴリ:付随症状
- Q4:疲れた感じがする、または気力がない対応症状:疲労感・気力低下/カテゴリ:付随症状
- Q5:あまり食欲がない、または食べ過ぎる対応症状:食欲の変化(減退・増加)/カテゴリ:付随症状
- Q6:自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳ないと感じる対応症状:無価値感・過剰な罪悪感/カテゴリ:付随症状
- Q7:新聞を読む、またはテレビを見るなど、物事に集中することが難しい対応症状:集中力・思考力の低下/カテゴリ:付随症状
- Q8:他の人が気づくほど動きや話し方が遅くなる、またはそれとは反対に、いつもよりそわそわして落ち着かず、動き回ることが多い対応症状:精神運動性の変化(制止または焦燥)/カテゴリ:付随症状
- Q9:死んだほうがましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようという考えが浮かぶ対応症状:希死念慮・自傷念慮/カテゴリ:付随症状(緊急対応が必要)
各質問項目の臨床的な意味
9項目を一つずつ選んで、その臨床的意味を詳しく見ていきましょう。
質問文:物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない
質問文:気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる
質問文:寝つきが悪い、途中で目が覚める、または逆に眠りすぎる
質問文:疲れた感じがする、または気力がない
質問文:あまり食欲がない、または食べ過ぎる
質問文:自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳ないと感じる
質問文:新聞を読む、またはテレビを見るなど、物事に集中することが難しい
質問文:他の人が気づくほど動きや話し方が遅くなる、またはそれとは反対に、いつもよりそわそわして落ち着かず、動き回ることが多い
質問文:死んだほうがましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようという考えが浮かぶ
「アンヘドニア(Anhedonia)」とは、以前は楽しめていた活動や趣味に対して、喜びや興味を感じられなくなる状態。うつ病の最も特徴的な症状の一つで「何をしてもつまらない」「好きだったことをやる気にならない」と感じられる。Q1とQ2はDSMで「コア症状」に位置づけられ、少なくともどちらか一方が2点以上であることがうつ病を疑う重要な手がかりとなる。
うつ病の最も代表的な症状。「絶望的な気持ち」という言葉が含まれているのも重要で、絶望感は自殺リスクと強く関連しているため、Q2のスコアが高い場合は特に注意が必要。
うつ病では不眠(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、早朝に目が覚める)と過眠(寝過ぎる)の両方が起こりえる。不眠は特に多くうつ病患者の80〜90%に見られる。逆に非定型うつ病では過眠が見られる。
十分に休んでも取れない慢性的な疲労感や「何もする気になれない」「体が重い」という感覚は、うつ病による神経生物学的な変化(セロトニン・ドーパミン系の機能低下)を反映する。
うつ病では食欲が減退して体重が減少することが多いが、過食・体重増加が見られるケース(特に非定型うつ病)もある。食欲の変化は自律神経系の乱れとも関連する。
「自分はダメな人間だ」「迷惑をかけている」という認知の歪みはうつ病の核心的な特徴。これらの思考はうつ病そのものによって生み出された「症状」であり、事実を反映しているわけではない。
うつ病では前頭前皮質の機能低下により、集中力・記憶力・判断力が著しく低下。「新聞が読めない」「仕事でミスが増えた」「簡単な決断もできない」という形で現れる。
「精神運動制止」(動作・発話が遅くなる)と「精神運動焦燥」(そわそわして落ち着けない)の両方がうつ病で見られる。どちらも他者が観察できるほど明確な変化として現れる。
9項目の中で最も重要な安全確認項目。「死にたい」「消えてしまいたい」という希死念慮または「自分を傷つけたい」という自傷念慮をスクリーニングする。Q9が1点以上(「数日」以上)の場合は、自殺リスクのより詳細な評価が必要であり、医療機関への紹介を優先する必要がある。
採点方法と重症度判定基準
PHQ-9は4段階の回答を単純合計するだけのシンプルな採点方式です。0〜27点のスコアは5段階の重症度カテゴリで解釈され、最も重要なカットオフ値は10点です。
回答選択肢と配点
PHQ-9の各質問に対する回答選択肢と配点は以下の通りです。これは9項目すべてに共通しています。
合計スコアは9項目の得点を単純に合計することで算出されます。最低スコアは0点(すべて「全くない」)、最高スコアは27点(すべて「ほとんど毎日」)です。
採点の具体的な例
例えば以下のような回答をした場合:Q1「数日(1点)」、Q2「半分以上(2点)」、Q3「ほとんど毎日(3点)」、Q4「半分以上(2点)」、Q5「数日(1点)」、Q6「全くない(0点)」、Q7「数日(1点)」、Q8「全くない(0点)」、Q9「全くない(0点)」——合計スコアは 1+2+3+2+1+0+1+0+0 = 10点 となります。これは「中等度のうつ病」の可能性を示唆するスコアです。
欠損値(未回答)の扱いと機能障害の追加質問
PHQ-9では原則としてすべての質問に回答することが必要です。臨床研究では「9項目中7項目以上に回答した場合は、未回答項目を平均点で補完してよい」というルールが採用されることがあります。日常臨床では、未回答がある場合は患者に確認するか、欠損のある項目のスコアを0点として扱うことが多いですが、その場合はスコアの解釈に注意が必要です。
PHQ-9本来の形式では、9項目の採点に加えて「上記の問題のいずれかによって、仕事をしたり、家事をしたり、他の人と仲良くしたりすることが、どのくらい困難でしたか?」という機能障害に関する質問が最後に設けられています。回答は「全く困難でない」「やや困難」「かなり困難」「非常に困難」の4択ですが、合計スコアには含まれません。ただし、症状スコアが高くても機能障害が軽微な場合、またはその逆の場合には、臨床的判断において参照されます。
PHQ-9の重症度カテゴリと推奨される対応
合計スコアは、クレーンケら(Kroenke et al., 2001)の原著論文に基づく以下の5段階の重症度カテゴリに対応します。
カットオフ値10点の意味
PHQ-9における最も重要なカットオフ値(閾値)は10点です。原著論文(Kroenke et al., 2001)では、スコア10点以上を「大うつ病エピソードの可能性あり」とする閾値として推奨しており、この基準による感度は88%、特異度は88%と報告されています。
どのカットオフ値を使うかは目的によって異なります。感度を重視したい場合(なるべく多くのうつ病者を見逃さない)は8点や9点を使うこともあります。特異度を重視したい場合(誤陽性を少なくする)は11点や12点を使うことも研究では行われています。日本語版PHQ-9の研究でも概ねカットオフ値は10点前後が適切とされています。
スコアだけで判断できない重要な側面
PHQ-9のスコアを解釈する際には、数値だけでなく以下の要素を必ず考慮する必要があります。
- Q9(希死念慮)の独立的評価合計スコアが低くても、Q9で1点以上(「数日」以上)の場合は自殺リスクの詳細評価が優先される。
- 症状の経過・変化1回のスコアより、経時的な変化(悪化・改善)が臨床的には重要。
- 機能障害の程度同じスコアでも、日常生活・仕事・対人関係への影響の大きさは個人差がある。
- 身体疾患・薬物の影響甲状腺機能低下症、貧血、一部の薬物はうつ症状を引き起こすため、医学的検索が必要。
- 双極性障害の除外PHQ-9はうつ病のスクリーニングツールであり、躁うつ病(双極性障害)との鑑別は別途必要。
- 文化的・言語的背景症状の表現の仕方は文化によって異なり、スコアの解釈に影響する。
治療効果の判定基準——「反応」と「寛解」
PHQ-9は治療効果の追跡評価にも広く使われています。治療の効果判定には、以下の概念が使われます。
- 治療反応(Response)ベースラインのスコアから50%以上の減少。例えば、初回16点→治療後8点以下であれば「治療反応あり」。
- 寛解(Remission)PHQ-9スコアが5点未満。症状がほぼ消失した状態。
- 症状の最小化(Minimal Symptoms)PHQ-9スコアが0〜4点。
- 再燃・再発の早期検知寛解後にスコアが5点以上に戻った場合、再燃・再発の可能性として注意が必要。
うつ病の治療では「寛解」(ほぼ症状がない状態)を目標とすることが推奨されており、PHQ-9スコア5点未満が治療目標の指標として広く用いられています。
日本語版PHQ-9の信頼性と妥当性
日本語版PHQ-9(J-PHQ-9)は2007年に村松公美子(新潟青陵大学)らが開発し、2018年に改訂。「ゴールドスタンダード」と呼ばれる構造化面接法(M.I.N.I.-Plus)との比較で高い精度が確認されています。
日本語版PHQ-9の開発経緯
PHQ-9の日本語版は、精神科医・村松公美子(新潟青陵大学)らを中心に開発されました。開発には「翻訳→逆翻訳(back-translation)→原著者との確認」という厳格な翻訳プロセスが採用されました。
- 2007年版(J-PHQ-9)村松らが開発し、プライマリケア診療での有用性を検証(Psychol Rep, 2007)。大うつ病性障害の診断に対してカットオフ値9点で感度84%、特異度95%を確認。
- 2018年版(PHQ-9日本語版2018)より自然な日本語表現に改訂され、千葉大学などとの共同研究で再検証。感度・特異度ともに良好な結果を示した。
- 著作権2018年版はPfizer Inc.とMuramatsu K.の共同著作権のもとで管理されており、非商業的目的での使用は無償で許可されている。
信頼性と妥当性の検証結果
測定ツールとしての「信頼性」には主に内的一貫性と再検査信頼性が、「妥当性」には感度・特異度・陽性的中率(PPV)・陰性的中率(NPV)が含まれます。日本語版PHQ-9の妥当性は、構造化面接法M.I.N.I.-Plus(Mini International Neuropsychiatric Interview)との比較で検証されています。
日本語版PHQ-9が活用されている分野
信頼性・妥当性が確認されたことで、以下のような分野での活用が広がっています。
- ✓プライマリケア(一般内科・家庭医)でのうつ病スクリーニング
- ✓緩和ケア病棟での抑うつ評価(精神科医が常勤しない施設での活用)
- ✓がん患者・慢性疾患患者の精神的苦痛のスクリーニング
- ✓産業保健・職場メンタルヘルス対策
- ✓国内外の疫学調査・コホート研究
- ✓抗うつ薬・心理療法の臨床試験における効果指標
他のうつ病・不安評価尺度との比較
うつ病の評価には自己記入式(PHQ-9・BDI-II・SDS)と他者評価式(HAM-D・MADRS)があります。また、不安評価尺度のGAD-7とは併用が推奨されています。
主要なうつ病・不安評価尺度の比較
うつ病の評価に使われる主要な尺度を、評価方式・項目数・スコア範囲・特徴で比較します。PHQ-9は自己記入式に分類されます。
GAD-7との徹底比較
GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)は、PHQ-9と同じくスピッツァーらによって2006年に開発された、全般性不安障害のスクリーニングと重症度評価のための自己記入式質問票です。7つの質問項目から構成され、合計スコアが0〜21点の範囲で算出されます。GAD-7は「心配や不安が止められない」「緊張してリラックスできない」「色々なことが心配になる」「イライラしやすい」「何か恐ろしいことが起こりそうな気がする」「ソワソワしたり落ち着かない感じがする」「怖くなって思わず身がすくんでしまう」という7つの不安症状を評価します。
- 対象疾患PHQ-9:うつ病(大うつ病性障害) / GAD-7:全般性不安障害(GAD)
- 項目数PHQ-9:9項目 / GAD-7:7項目
- スコア範囲PHQ-9:0〜27点 / GAD-7:0〜21点
- カットオフ値PHQ-9:10点以上 / GAD-7:10点以上
- 回答期間PHQ-9:過去2週間 / GAD-7:過去2週間
- 回答形式PHQ-9:0〜3点の4段階 / GAD-7:0〜3点の4段階
- 所要時間PHQ-9:2〜3分 / GAD-7:1〜2分
- 主な症状PHQ-9:気分・興味・睡眠・食欲・気力・罪悪感・集中力・精神運動・希死念慮 / GAD-7:心配・緊張・恐怖・焦燥・落ち着きのなさ
- 安全確認PHQ-9:Q9(希死念慮)あり / GAD-7:なし
- DSM対応PHQ-9:大うつ病性障害の診断基準 / GAD-7:全般性不安障害の診断基準
PHQ-9とGAD-7を一緒に使う理由
実際の臨床では、PHQ-9とGAD-7をセットで使用することが多く推奨されています。その理由は、うつ病と不安障害の高い共存率(comorbidity)にあります。
- うつ病患者の約50〜60%に何らかの不安症状が共存する
- 不安障害患者の40〜50%にうつ病が共存する
- PHQ-9単独ではうつ症状のみをスクリーニングし、不安症状を見逃す可能性がある
- GAD-7とPHQ-9を合わせることで、うつ病と不安障害の両方を効率的にスクリーニングできる
- 両者を合わせた実施時間は約5分以内と短く、外来での実施が容易
村松らによる研究でも「PHQ-9, PHQ-15日本語版およびGeneralized Anxiety Disorder-7日本語版:up to date」として、これら3つのツールをセットで活用することを推奨しています。
どちらを最初に使うべきか——状況別ガイドライン
- ✓主訴が「気分の落ち込み」「何もやる気がしない」→ PHQ-9から開始
- ✓主訴が「心配が止まらない」「緊張が続く」→ GAD-7から開始
- ✓主訴が漠然としている、または両方の症状がある→ 両方同時に実施
- ✓プライマリケアでのルーティンスクリーニング→ PHQ-2でまず確認し、陽性ならPHQ-9+GAD-7
医療・職場・研究での使われ方
PHQ-9はプライマリケア・精神科・緩和ケア・職場・研究と幅広く活用されています。診断補助だけでなく、治療効果の追跡、復職支援、疫学調査でも標準ツールとして機能しています。
PHQ-9によるうつ病診断の4ステップ
PHQ-9を医療現場で活用する際には、単にスコアを見るだけでなく、以下の4ステップで評価することが推奨されています。
場面別のPHQ-9活用——医療・職場・研究
PHQ-9はそれぞれの場面で異なる役割を果たします。
日本でのPHQ-9を用いた疫学知見
日本の地域住民を対象としたPHQ-9を用いた研究では、以下のような知見が報告されています。
- ✓一般成人の大うつ病性障害の時点有病率は約2〜5%程度と推計(PHQ-9カットオフ10点を用いた場合)
- ✓女性は男性よりPHQ-9スコアが高く、うつ病の有病率も高い傾向
- ✓高齢者では身体症状とうつ症状が重複しやすく、PHQ-9のスコアの過大評価に注意が必要
- ✓COVID-19パンデミック期(2020〜2022年)に日本の一般人口でPHQ-9スコアの上昇が複数の研究で報告された
職場でPHQ-9を使う際の注意点
職場での活用においては、以下の点に十分注意する必要があります。
- プライバシーの保護PHQ-9の結果は個人の健康情報であり、本人の同意なく上司や人事部門に開示してはならない。
- 自発的参加の原則PHQ-9への回答は強制ではなく、任意参加であることを明確にする。
- スクリーニング陽性者へのフォロー体制PHQ-9で高スコアが出た場合の相談窓口・受診勧奨の流れをあらかじめ整備しておく。
- 診断との混同を避けるPHQ-9のスコアが高いことを理由に、不当な人事上の不利益を与えることは許されない。
セルフチェックとしての活用法と注意点
PHQ-9は元来医療者向けに開発されましたが、簡便さと自己記入形式から、一般の方が自分の状態を知る手がかりとして活用する意義もあります。ただし、ツールとしての限界を正しく理解しておくことが大切です。
一般の方がセルフチェックとして使う意義
9つの具体的な症状を通じて、自分の状態を整理することができます。
- ✓受診の判断基準として——「最近調子が悪いけど、病院に行くほどなのか迷っている」場合の目安になる
- ✓症状を言語化するツールとして——9つの具体的な症状の問いかけで「何で困っているか」を整理できる
- ✓医師への相談をスムーズにする——受診時にPHQ-9の結果を持参することで症状を伝えやすくなる
- ✓時系列での変化を追う——定期的にPHQ-9をつけることで改善・悪化を自分で把握できる
セルフチェックとして使う際の重要な注意点
PHQ-9をセルフチェックとして使う際には、以下の重要な注意点を理解しておく必要があります。
- PHQ-9だけでは診断できないPHQ-9はあくまでスクリーニングツール。スコアが高くてもそれだけでうつ病と「診断」されるわけではなく、スコアが低くても他の精神疾患(双極性障害・適応障害など)の可能性を除外できない。
- 自己評価の限界うつ状態にあると、自分の症状を過小評価(「これくらいは仕方ない」)または過大評価(不安が強い場合)することがある。
- 身体疾患との混同疲労感・不眠・食欲低下などの症状は身体疾患(甲状腺機能低下症・貧血など)によっても起こる。身体的原因の除外には医師の診察が必要。
- 高スコアでも低スコアでも安心できないPHQ-9のスコアが低くても「うつ病ではない」と言い切れず、Q9が1点でも自殺リスクは軽視できない。
- 専門家への相談の代替にはならないPHQ-9のスコアに関わらず、つらい気持ちが続いているなら専門家への相談が最善。
PHQ-9セルフチェックの実施手順
一般の方がPHQ-9をセルフチェックとして実施する際の手順です。
スコアが高い場合の対応と次のステップ
PHQ-9のスコアが高かったとき、「何をすればよいのか」を具体的に知っておくことが大切です。受診の準備、自立支援医療制度、精神保健福祉センターまで——次の一歩を整理します。
スコアに応じた具体的な対応指針
PHQ-9のスコア・重症度に応じた推奨される次のステップを整理します。
- 0〜4点(なし(症状なし〜最小限))特別な対応は不要。十分な睡眠・休息・適度な運動を心がける。定期的なモニタリング・1〜2ヶ月後に再評価。
- 5〜9点(軽度のうつ症状)経過観察。生活リズム(睡眠・食事・運動)の改善を実践。つらければかかりつけ医や相談窓口に連絡。2〜4週後に再評価。
- 10〜14点(中等度のうつ症状)治療計画の策定を検討。心療内科・精神科への受診を強く推奨。一人で抱え込まず、信頼できる人に話す。
- 15〜19点(中等度〜重度のうつ症状)積極的な治療が必要。速やかに精神科・心療内科を受診する。仕事・学業のペースを落とすことを検討。休職・休学も選択肢。
- 20〜27点(重度のうつ症状)直ちに医療機関を受診または相談窓口に連絡。家族や信頼できる人に付き添いを頼む。一人でいないようにする。
精神科・心療内科を受診するとき
PHQ-9の結果をきっかけに精神科・心療内科への受診を検討している方に向けた、受診前の準備と受診の流れです。
- ✓PHQ-9の回答結果を印刷または書き写しておくと、医師への症状説明がスムーズになる
- ✓初診の流れ:問診(症状の経過・持続期間・生活への影響)→医師による評価・診察→必要に応じて検査(血液検査で身体疾患の除外など)→診断・治療方針の説明
- ✓「うつ病じゃないかもしれない」という迷いを持っていても大丈夫——「異常なし」と確認することにも価値がある
- ✓受診前にまず電話で相談したい場合は、各都道府県の精神保健福祉センター(無料・匿名可)に問い合わせることもできる
うつ病治療における自立支援医療制度の活用
うつ病や適応障害などで継続的に通院が必要な場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで、医療費の自己負担が原則3割から1割に軽減されます。
- 対象うつ病・適応障害・不安障害・統合失調症などで継続的な精神科・心療内科への通院が必要な方。
- 申請窓口市区町村の福祉担当部署(または精神保健福祉センター経由)。
- 必要書類医師の診断書(自立支援医療用の様式)、健康保険証のコピー、所得を証明する書類など。
- 有効期間1年間(毎年更新が必要)。
- 注意一定の所得以上の方は自己負担上限額が設定される。
精神科への通院にかかる交通費や薬代も含めた医療費全体が軽減されるため、長期治療の経済的負担を大幅に減らすことができます。詳細は最寄りの精神保健福祉センターまたは市区町村窓口にお問い合わせください。
精神保健福祉センターとは
PHQ-9についてよくある質問
無料での利用方法、10点以上の解釈、Q9(希死念慮)への向き合い方、GAD-7との使い分け、回復評価、青少年版、機能障害質問、欠損値、アルゴリズム判定まで、よく寄せられる質問をまとめました。
よくある質問と回答
A. はい、非商業的な目的(医療・研究・教育など)であれば、Pfizer Inc.の許可のもと無料で使用できます。日本語版PHQ-9(2018年版)は千葉大学・村松公美子氏の共同著作権のもとで管理されており、Pfizer社のウェブサイトや千葉大学のページからダウンロード可能です。印刷・配布も非商業目的であれば自由です。なお、商業目的での使用にはライセンス申請が必要な場合があります。
A. PHQ-9のスコアが10点以上は「うつ病の可能性がある」ことを示唆していますが、それだけでうつ病と「診断」されるわけではありません。正式な診断には精神科・心療内科の医師による問診・診察が必要です。また、甲状腺機能低下症や貧血など身体疾患によってもPHQ-9のスコアが高くなることがあります。スコアが10点以上であれば、専門家への相談を強くお勧めします。
A. Q9は「死にたい気持ちや自傷念慮」をスクリーニングする重要な安全確認の質問です。「死んだほうがましだと思った」「消えてしまいたい」という気持ちが少しでも浮かんだなら、正直に「数日」以上を選んでください。Q9に正直に答えることで必要なサポートにつながりやすくなります。回答することで何かペナルティがあるわけではありません。Q9が1点以上であれば、合計スコアに関わらず信頼できる医師やカウンセラーに話してください。今すぐ話したい場合は、いのちの電話(0120-783-556)またはよりそいホットライン(0120-279-338)へ。
A. 主な症状によって使い分けるのが基本ですが、うつ病と不安障害の症状は重複することが多いため、両方を一緒に実施することが理想的です。「気分の落ち込みや意欲の低下が主な悩み」ならPHQ-9、「心配や緊張・不安が止まらない」ならGAD-7が主なツールとなります。両者を合わせた実施時間は5分程度と短いため、医療機関での初診や職場相談では両方セットでの使用をお勧めします。
A. 必ずしもそうとは言えません。PHQ-9はうつ病(大うつ病性障害)を中心にスクリーニングするツールなので、双極性障害(躁うつ病)・適応障害・社交不安障害・パーソナリティ障害など、PHQ-9では検出しにくい精神疾患もあります。また、うつ病の初期段階では症状が軽くスコアが低い場合もあります。つらい気持ちが続いているならば、PHQ-9のスコアが低くても専門家への相談を考えてください。「ツールのスコアより自分の感覚を信じること」が大切です。
A. はい、治療効果の追跡評価にも非常に有用です。治療前(ベースライン)のスコアと治療後のスコアを比較することで症状の改善度を客観的に確認できます。「治療反応」はベースラインから50%以上のスコア減少、「寛解」はスコア5点未満が目安です。ただし、PHQ-9のスコアが改善していても、本人の主観的な生活満足度や社会機能の回復がそれに追いついていないこともあるため、スコアだけで「治った」と判断するのは避けましょう。主治医と相談しながら総合的に評価することが大切です。
A. 成人向けのPHQ-9(標準版)は原則として18歳以上を対象としています。13〜17歳の思春期・青少年を対象とした場合、「PHQ-A(Adolescent Version)」という改良版が開発されており、より若年層に適した表現と追加質問が含まれています。日本でも青少年向け評価尺度の研究は進んでいますが、PHQ-Aの日本語版検証は成人版に比べてまだ限られています。10代の方が自己チェックを行いたい場合は、保護者や学校の養護教諭・スクールカウンセラーに相談の上、適切なツールを選ぶことをお勧めします。
A. 本来の形式では、9項目の採点に加えて「上記の問題のいずれかによって、仕事をしたり、家事をしたり、他の人と仲良くしたりすることが、どのくらい困難でしたか?」という機能障害に関する質問が最後に設けられています。回答は「全く困難でない」「やや困難」「かなり困難」「非常に困難」の4択ですが、合計スコアには含まれません。ただし、症状スコアが高くても機能障害が軽微な場合、またはその逆の場合には、臨床的判断において参照されます。
A. PHQ-9では原則としてすべての質問に回答することが必要です。ただし臨床研究では「9項目中7項目以上に回答した場合は、未回答項目を平均点で補完してよい」というルールが採用されることがあります。日常臨床では、未回答がある場合は患者に確認するか、欠損のある項目のスコアを0点として扱うことが多いですが、その場合はスコアの解釈に注意が必要です。
A. 合計スコアのカットオフとは別に「大うつ病エピソードの可能性」を判定するアルゴリズムが存在します。具体的には、Q1(興味喪失)またはQ2(抑うつ気分)の少なくとも1つが「半分以上(2点)」以上であり、かつQ1〜Q9の中で「半分以上(2点)」以上を選んだ項目が合計5項目以上ある場合に「大うつ病エピソードの可能性あり」と判定されます。このアルゴリズムによる感度は73%、特異度は98%と報告されており、合計スコアのカットオフとは異なる情報を提供します。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
PHQ-9のスコアが気になる方、つらい気持ちが続いている方——あなたの悩みをぜひ聞かせてください。専門家への相談が、回復への第一歩です。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。PHQ-9のスコアはあくまでスクリーニングの目安であり、正式な診断には専門医の診察が必要です。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
