解離性てんかん(PNES)とは?
症状・原因・治療法をわかりやすく解説
心因性非てんかん性発作(PNES)は、てんかんに似た発作が脳の電気的異常なしに起こる状態です。「仮病」ではなく、心理的要因による本物の発作です。症状の特徴からてんかんとの違い、診断・治療・日常ケアまで、必要な情報をすべてまとめました。
解離性てんかん(PNES)とは、どのような状態か
心因性非てんかん性発作(PNES: Psychogenic Non-Epileptic Seizures)は、てんかんに似た発作が繰り返し起こるものの、脳の電気的異常(てんかん性放電)を伴わない発作です。「解離性てんかん」とも呼ばれ、心理的・情緒的要因が身体症状として現れる機能性神経症状症のひとつです。
PNESの定義——「仮病」ではない本物の発作
心因性非てんかん性発作(PNES)は、けいれんや意識消失などてんかんに酷似した発作が起こりますが、脳波検査ではてんかんに特有の異常放電が検出されません。「心因性」という名称から「気持ちの問題」「仮病」と誤解されやすいのですが、これは本人の意思でコントロールできない本物の発作です。脳の機能的な変化(器質的な異常ではなく機能の異常)が関与しており、心理的ストレスや感情が脳のネットワークに影響を与えることで発作が生じると考えられています。
なぜ「仮病」ではないのか
PNESは脳の機能的MRI研究で、感情処理や運動制御に関わる脳領域の活動パターンが健常者と異なることが示されています。本人の意思やコントロールとは無関係に発作が起こる、れっきとした医学的状態です。「機能性神経症状症」として国際的な診断基準(DSM-5)にも位置づけられています。
PNESは決して珍しくない
PNESは一般にあまり知られていませんが、てんかん専門外来を受診する患者の中で見ると、かなりの割合を占めています。
PNESに対する誤解を解く
PNESについては、患者本人・家族・さらには医療従事者の間でも多くの誤解があります。正しい理解が治療への第一歩です。
こんなときは専門医に相談を
PNESの症状
PNESの症状はてんかん発作に非常によく似ていますが、いくつかの特徴的な違いがあります。発作そのものの症状と、発作に伴う身体症状の両面から理解しましょう。
てんかん発作との違い
PNESとてんかんは非常によく似ていますが、注意深く観察すると違いがあります。ただし、見た目だけでは確定診断はできず、ビデオ脳波モニタリングが必要です。
PNESに併存しやすい疾患
PNESは単独で存在することもありますが、多くの場合、他の精神疾患や身体疾患と併存します。併存疾患の治療も重要です。
PNESの原因とリスク要因
PNESは単一の原因で起こるのではなく、心理的・生物学的・社会的要因が複合的に関わる「biopsychosocial(生物心理社会的)」モデルで理解されています。
PNESの発症には、脆弱性要因(なりやすさ)、誘発要因(きっかけ)、維持要因(続かせる要因)の3層が関わっています。それぞれの要因を理解することが、効果的な治療につながります。
PNESの背景には、心理的な苦痛やストレスが大きく関わっています。感情を適切に表出することが難しい場合、抑圧された感情や耐えがたいストレスが身体症状(発作)として表れると考えられています。これは「転換」と呼ばれるメカニズムで、かつてヒステリーと呼ばれていた現象と同じ概念です。解離が中心的なメカニズムであり、圧倒的な感情から意識を切り離す防衛反応として発作が起こります。
PNESの患者の約70%にトラウマ歴があるとされ、特に幼少期の虐待(身体的・性的・心理的)、ネグレクト、家庭内暴力への曝露が高頻度で報告されています。トラウマ体験は解離傾向を強め、ストレスに対する身体反応の閾値を低下させます。ただし、すべてのPNES患者にトラウマ歴があるわけではなく、トラウマがないケースも少なくありません。
PNESは「心の問題」だけではなく、脳の機能的な変化も関与しています。ストレス応答系(HPA軸)の調節異常、前頭前皮質—辺縁系の結合異常、感情処理に関わる脳ネットワークの機能変化などが研究で示されています。約10〜30%のPNES患者にはてんかんも併存しており、神経学的な脆弱性が基盤にある場合もあります。
対人関係のストレス、職場環境、経済的困難、孤立などの社会的要因もPNESの発症・維持に関わります。家族の機能不全、サポートの欠如、社会的役割の喪失(失業・離婚など)が背景にあることも多いです。医療システム内での「正体不明の発作」という立場が、さらなるストレスや孤立感を生むこともあります。
- 感情の抑圧・表出困難
- 幼少期の虐待(身体的・性的・心理的)
- ストレス応答系(HPA軸)の調節異常
- 対人関係の問題・孤立
- 解離——圧倒的感情からの防衛反応
- ネグレクト・家庭内暴力への曝露
- 前頭前皮質—辺縁系ネットワークの機能変化
- 職場・学校でのストレス
- 対処能力を超えた心理的ストレス
- いじめ・学校での被害体験
- てんかんとの併存(10〜30%)
- 家族機能の問題
- 感情のアレキシサイミア(失感情症)の傾向
- 大人になってからのトラウマ(事故・暴力等)
- 自律神経系の調節障害
- 医療システム内での困難(診断の遅れ等)
PNESの診断プロセス
PNESの正確な診断は、適切な治療の出発点です。発症から診断まで平均7年かかるとされますが、専門的な検査によって確定診断が可能です。
PNESの診断は段階的に行われます。最も重要なのは、発作中の映像と脳波を同時に記録する「ビデオ脳波モニタリング」です。
発作時の映像と脳波を同時に記録する検査です。発作中にてんかん性の異常波が見られなければ、PNESの診断が確定します。これが最も信頼性の高い診断方法であり、可能な限りこの検査を受けることが推奨されます。
発作の様子(持続時間、パターン、誘因など)、心理社会的背景、トラウマ歴、精神科的既往歴を丁寧に聴取します。本人だけでなく、発作を目撃した家族や周囲の人からの情報も重要です。
脳MRI、通常の脳波検査、血液検査などで、てんかんやその他の神経疾患を除外します。PNESの約10〜30%はてんかんを併存しているため、てんかんが見つかってもPNESが否定されるわけではありません。
心理検査(解離体験尺度、トラウマ関連質問票、人格検査など)を用いて、心理的背景を評価します。うつ病、不安障害、PTSDなどの併存疾患の有無も確認します。
診断の伝え方(告知)が治療を左右する
PNESの診断を患者に伝える方法は、その後の治療経過に大きく影響します。研究では、適切な告知を受けた患者の約25〜50%でその後発作が減少するという報告もあります。
PNESの治療法と回復
PNESは適切な治療によって発作を大幅に減少、または消失させることが可能です。治療の中心は心理療法であり、薬物療法は併存疾患に対して用いられます。
PNESの主な治療法
PNESの治療は多職種連携(神経内科・精神科・心理士)が理想的です。以下の治療法が用いられます。
PNESがどのような病気であるかを正しく理解することが治療の第一歩です。「仮病ではない」「脳の機能的な問題である」「心理的ストレスが身体症状として現れている」ことを理解し、自分の状態を受け入れるプロセスを支えます。診断の伝え方(告知)が治療成績に大きく影響することが研究で示されています。
PNESに対して最も強いエビデンスがある心理療法です。発作の誘因となるストレスや思考パターンを特定し、より適応的な対処法を学びます。発作の前兆に気づき、リラクゼーション技法や呼吸法で発作を回避・軽減するスキルも身につけます。ランダム化比較試験で有効性が示されています。
トラウマ歴がある場合、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)やPE(持続エクスポージャー療法)などのトラウマ焦点化治療が有効です。未処理のトラウマ記憶を安全な環境で処理し、トラウマ反応としての発作を軽減させます。段階的に安定化→トラウマ処理→社会復帰のプロセスを進めます。
PNES自体に対する特異的な薬物治療はありませんが、併存するうつ病・不安障害・PTSDに対してはSSRIなどの薬物療法が有効です。抗てんかん薬はPNESには無効であり、PNESと診断された場合は段階的に減薬・中止が検討されます。ただし、てんかんとの併存がある場合は抗てんかん薬の継続が必要です。
身体感覚への気づき(ボディスキャン)、呼吸法、漸進的筋弛緩法などを学ぶことで、発作の前兆段階での対処が可能になります。慢性的なストレスや自律神経の乱れを軽減し、発作頻度の低下につなげます。グラウンディング技法(五感を使って「今ここ」に意識を戻す方法)も解離対策として有効です。
PNESの回復はどのくらい見込めるか
PNESの予後は個人差が大きいですが、適切な治療を受けることで多くの方に改善が見られます。
日常生活でできること
治療と並行して、日々の生活の中でも発作を予防し、安定を保つためにできることがあります。小さな積み重ねが回復を支えます。
周囲の人にできること
PNESの方を支えるためには、まず「PNESは本物の発作であり、仮病ではない」という正しい理解が出発点です。発作時の対応と、日常的なサポートの両面で支えていきましょう。
発作が起きた時の対応
してほしいこと・避けてほしいこと
支える側のセルフケア
PNESの方のサポートは精神的な負担が大きいものです。支える側が倒れてしまっては、サポートは続きません。ご自身のケアも大切にしてください。
スティグマ・偏見とどう向き合うか
PNESの患者は、てんかん患者よりも高い割合で「スティグマ(烙印・偏見)」を経験するとされています。「仮病だ」「演技だ」という誤解が、受診の遅れや治療継続の困難を生みます。スティグマの実態を知り、その乗り越え方を考えましょう。
PNESと偏見——87%が経験するスティグマ
国際的な調査研究では、PNESの患者の87.2%が何らかの形でスティグマを経験していると報告されています。また、PNESにおけるスティグマのリスクはてんかんと比べて42%高いとされています。これは、発作の「見え方」に起因する問題が大きく、脳波などの客観的な異常所見がないことから「異常がないなら仮病では?」と判断されやすいためです。
スティグマと向き合うための方法
スティグマに対処するためには、個人レベルの対策と、周囲・社会への働きかけの両面があります。
PNESについての正確な知識を持つことが、自己スティグマを和らげる第一歩です。「脳の機能的な問題であり、仮病ではない」という事実を理解することで、自己肯定感を保てます。信頼できる医療情報源(てんかん学会のガイドライン等)を参照しましょう。
すべての人に病状を話す必要はありませんが、家族・親友・職場の上司など「信頼できる一人」に正しく伝えておくことが、理解を得やすい環境づくりにつながります。伝える際に、医療者から患者向けの説明リーフレットを活用するのも有効です。
同じPNESを抱える人たちと情報交換したり、経験を共有することで、孤立感が軽減します。日本では専用のピアグループは限られていますが、解離性障害や機能性神経症状症のサポートグループが窓口になることがあります。
医療者からスティグマ的な扱いを受けた場合、主治医やカウンセラーに相談することが重要です。治療チームがあなたの側に立って支えてくれることを確認しましょう。別の医療機関へのセカンドオピニオンを求めることも権利として認められています。
子ども・思春期のPNES
PNESは成人だけに起こる疾患ではありません。小学生から高校生の思春期にも発症し、学校生活や友人関係に大きな影響を与えます。子ども・思春期のPNESには、成人とは異なる特徴と対応が求められます。
子どものPNESの特徴と背景
PNESは子どもでも発症し、てんかん専門外来を受診する小児患者の中に一定数が含まれています。思春期(10代)に発症するケースが特に多く、女子に多い傾向があります。
子どものPNESの背景には、学校でのいじめ、友人関係のトラブル、親子関係の問題、学業プレッシャー、部活動のストレスなどが関与することが多いです。また、家庭内での葛藤や親の精神的問題が影響している場合もあります。感情を言葉で表現することが難しい年齢であるため、身体症状として発作が現れやすくなります。
学校・教師・保護者への対応ガイド
子どものPNESには、医療機関での治療と並行して、学校環境でのサポートが欠かせません。教師・スクールカウンセラー・保護者が連携して対応することが重要です。
子どものPNESの治療アプローチ
子ども・思春期のPNESの治療は、成人と同様に心理療法が中心ですが、年齢・発達段階に合わせた工夫が必要です。
利用できる支援制度・相談窓口
PNESの治療と社会復帰を支えるために、さまざまな制度や相談窓口があります。医療費の軽減から就労支援まで、活用できるリソースを知っておきましょう。
自立支援医療制度(精神通院医療)
精神科や心療内科への通院が継続的に必要な方は、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで、医療費の自己負担を大幅に軽減できます。PNESは機能性神経症状症(転換性障害・解離性障害)として、この制度の対象となります。
精神保健福祉センターと就労支援
PNESによって日常生活や就労に支障が生じている場合、精神保健福祉センターや就労支援機関が力になってくれます。
運転免許・就労上の注意点
PNESと診断された場合、日常生活の中でいくつかの注意が必要な場面があります。適切に対処することで、安全を確保しながら社会生活を続けられます。
PNESと診断された場合、運転中に発作が起きると重大な事故につながる危険があります。日本の道路交通法では、てんかんや一定の意識障害を伴う疾患での運転に制限があります。PNESも同様のリスクがあるため、主治医と運転の可否について必ず相談してください。発作がコントロールされていると判断されるまでの間は、運転を控えることが推奨されます。
PNESがある状態で働く場合、職場に発作の可能性を伝えておくかどうかは本人の判断ですが、発作時の対応を職場の担当者(上司・産業医・保健師など)と事前に共有しておくと安全です。「発作が起きた時の対応カード」を作成し、緊急連絡先や対応手順を記載しておくことをお勧めします。また、過度なストレス環境が発作を悪化させる場合、産業医を通じた業務調整(残業の制限、配置転換など)が可能なケースもあります。
発作中に意識が低下する場合、水辺(プール・お風呂・海)や高所での作業は特に危険です。入浴はできるだけシャワーを利用し、浴槽を使う場合は家族に知らせてから入るようにしましょう。一人での海水浴や水泳も、発作がコントロールされるまでは避けることが無難です。
仲間とつながることの力——ピアサポートの活用
PNESは「正体のわからない発作」として長年孤立してきた経験を持つ方が多く、同じ経験を持つ仲間とつながることは大きな回復の力になります。
日本ではPNES専用のピアグループは少ないですが、解離性障害・機能性神経症状症の当事者コミュニティや、メンタルヘルスのオンラインコミュニティ(SNS、掲示板など)が情報共有の場として機能しています。主治医やカウンセラーに「同じ経験を持つ人とつながれる場はないか」と聞いてみることも一つの方法です。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
つらい気持ちを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、神経内科・心療内科・精神科への受診をご検討ください。
