メンタルヘルス用語辞典 · 解離性てんかん

解離性てんかん(PNES)とは?
症状・原因・治療法をわかりやすく解説

心因性非てんかん性発作(PNES)は、てんかんに似た発作が脳の電気的異常なしに起こる状態です。「仮病」ではなく、心理的要因による本物の発作です。症状の特徴からてんかんとの違い、診断・治療・日常ケアまで、必要な情報をすべてまとめました。

ABOUT PNES

解離性てんかん(PNES)とは、どのような状態か

心因性非てんかん性発作(PNES: Psychogenic Non-Epileptic Seizures)は、てんかんに似た発作が繰り返し起こるものの、脳の電気的異常(てんかん性放電)を伴わない発作です。「解離性てんかん」とも呼ばれ、心理的・情緒的要因が身体症状として現れる機能性神経症状症のひとつです。

定義

PNESの定義——「仮病」ではない本物の発作

心因性非てんかん性発作(PNES)は、けいれんや意識消失などてんかんに酷似した発作が起こりますが、脳波検査ではてんかんに特有の異常放電が検出されません。「心因性」という名称から「気持ちの問題」「仮病」と誤解されやすいのですが、これは本人の意思でコントロールできない本物の発作です。脳の機能的な変化(器質的な異常ではなく機能の異常)が関与しており、心理的ストレスや感情が脳のネットワークに影響を与えることで発作が生じると考えられています。

てんかん発作
脳の電気的異常による発作
脳の神経細胞が過剰に興奮することで起こる。脳波検査でてんかん性異常波が検出される。抗てんかん薬が有効。
PNES(解離性てんかん)
心理的要因による機能性発作
脳の電気的異常を伴わない。心理的ストレスや解離が関与し、脳の機能的ネットワークの変化で発作が生じる。心理療法が治療の中心。
🧠

なぜ「仮病」ではないのか

PNESは脳の機能的MRI研究で、感情処理や運動制御に関わる脳領域の活動パターンが健常者と異なることが示されています。本人の意思やコントロールとは無関係に発作が起こる、れっきとした医学的状態です。「機能性神経症状症」として国際的な診断基準(DSM-5)にも位置づけられています。

名称について「解離性てんかん」「心因性非てんかん発作」「機能性発作」など、さまざまな名称で呼ばれますが、いずれも同じ状態を指します。近年では「機能性発作(Functional Seizures)」という用語が推奨される傾向にあります。
有病率

PNESは決して珍しくない

PNESは一般にあまり知られていませんが、てんかん専門外来を受診する患者の中で見ると、かなりの割合を占めています。

20〜30%
てんかん専門外来受診者のうち、PNESと診断される割合
2〜33/10万人
一般人口における推定有病率。てんかんの約1/5〜1/3に匹敵
7
発症から正確な診断までにかかる平均年数(誤診が多い)
PNESは20〜40代の女性に多く(男女比は約3:1)見られますが、あらゆる年齢・性別で起こりえます。小児でも成人でも発症し、高齢者での報告もあります。
よくある誤解

PNESに対する誤解を解く

PNESについては、患者本人・家族・さらには医療従事者の間でも多くの誤解があります。正しい理解が治療への第一歩です。

✕ 誤解「仮病」「演技」である
○ 事実PNESは本人の意思でコントロールできない不随意的な発作です。脳機能画像研究でも器質的な機能変化が確認されています。
✕ 誤解「心が弱い」人がなる
○ 事実PNESは精神的な強さ・弱さとは無関係です。むしろ、耐え難いストレスに対する脳の防衛反応と理解されています。
✕ 誤解てんかんより「軽い」病気
○ 事実PNESの生活の質(QOL)への影響はてんかんと同等かそれ以上に深刻です。就労困難、社会的孤立など重大な支障をきたします。
✕ 誤解薬で治る
○ 事実抗てんかん薬はPNESには無効です。心理療法が治療の中心であり、薬物療法は併存疾患の治療に用いられます。
✕ 誤解トラウマがなければPNESではない
○ 事実約30%のPNES患者には明確なトラウマ歴がありません。トラウマ以外のストレスや心理的要因でも発症します。
受診の目安

こんなときは専門医に相談を

⚠️PNESを疑うべきチェックポイント
  • 🔍
    けいれんや意識消失を繰り返しているが、てんかんの薬が効かない
  • 🔍
    発作がストレスの多い場面や感情的な場面で起きやすい
  • 🔍
    発作中に目を閉じていることが多いと言われる
  • 🔍
    発作の持続時間が長い(数十分以上続くことがある)
  • 🔍
    発作のパターンが毎回異なる
  • 🔍
    幼少期につらい体験がある
  • 🔍
    日常的に不安やうつ症状を感じている
  • 🔍
    発作に加えて、記憶の抜け落ちや解離症状がある
💡
上記に複数心当たりがあれば、てんかん専門医または心療内科・精神科に相談してみてください。ビデオ脳波モニタリングが可能な施設への紹介を受けられるとベストです。
SYMPTOMS

PNESの症状

PNESの症状はてんかん発作に非常によく似ていますが、いくつかの特徴的な違いがあります。発作そのものの症状と、発作に伴う身体症状の両面から理解しましょう。

🌀
けいれん様の動き
手足や全身の不随意的な動きが起こります。てんかん発作に似ていますが、頭部や体幹が左右に揺れる、骨盤を突き出すなど、てんかん発作では見られにくい動きが特徴的です。持続時間が数分以上と長いことが多い点も違います。
😵
意識の変容・消失
ぼんやりする、反応が乏しくなる、意識が一時的に失われたように見えるなどの症状です。目を閉じている(てんかん発作では通常開眼)ことが多く、声かけに対して薄く反応が残ることもあります。
🫠
脱力・崩れ落ち
突然力が抜けて崩れ落ちたり、動けなくなったりします。ゆっくりと倒れることが多く、けがをしにくい点がてんかん発作との違いです。周囲に人がいる時に起きやすい傾向があることもあります。
😢
過呼吸・泣き・叫び
発作中に激しい呼吸、泣き声、叫び声を伴うことがあります。感情的な表出が発作中に見られるのはPNESの特徴で、てんかん発作ではほとんど見られません。
👁
閉眼・眼球の動き
発作中に目を固く閉じるのはPNESに特徴的なサインです。てんかんでは発作時に開眼していることが多く、この違いは鑑別の重要な手がかりになります。瞳孔の対光反射は通常保たれています。
長時間の持続
PNESは1回の発作が数十分から1時間以上続くことがあります。てんかんの強直間代発作が通常1〜3分で終わるのに対し、大きな違いがあります。ただし短時間で終わることもあり、持続時間だけでは判断できません。
🔄
発作の変動性
発作の形態が毎回異なったり、同じ発作中でも動きのパターンが変化することがあります。てんかん発作はパターンが比較的一定であるのに対し、PNESでは動きが多様で変化しやすい傾向があります。
💭
心理的誘因との関連
ストレスの多い状況、感情的な刺激、特定の場所や人の存在が発作の引き金になることがあります。必ずしも明確な誘因があるわけではありませんが、心理社会的要因との関連が認められるケースが多いです。
💡
発作の形は人それぞれPNESの発作は、激しいけいれんから、脱力して動けなくなるものまで幅広い形態をとります。「典型的なPNES」はなく、一人ひとり異なることを理解しておきましょう。
PNES vs EPILEPSY

てんかん発作との違い

PNESとてんかんは非常によく似ていますが、注意深く観察すると違いがあります。ただし、見た目だけでは確定診断はできず、ビデオ脳波モニタリングが必要です。

鑑別ポイント
てんかん発作
PNES
発作中の開眼/閉眼
開眼が多い
閉眼が多い
発作の持続時間
1〜3分が多い
数十分〜1時間以上も
動きのパターン
比較的一定
変動しやすい
左右対称性
一定のパターン
非対称・不規則が多い
発作時脳波
てんかん性異常波あり
異常波なし
発作後の混乱
数分〜数十分
比較的短い(変動あり)
心理的誘因
関連は弱い
関連することが多い
発作中の泣き・叫び
まれ
しばしば見られる
対光反射
消失することがある
通常保たれる
舌咬傷
舌の側面が多い
舌先が多い(少ない)
⚠️
重要な注意点上記の違いは「傾向」であり、絶対的な鑑別基準ではありません。PNESの確定診断にはビデオ脳波モニタリングが必要です。また、PNESとてんかんは約10〜30%の確率で併存するため、「PNESがある=てんかんではない」とは限りません。
併存疾患

PNESに併存しやすい疾患

PNESは単独で存在することもありますが、多くの場合、他の精神疾患や身体疾患と併存します。併存疾患の治療も重要です。

😔
うつ病・不安障害
PNESの50〜80%にうつ病、40〜60%に不安障害が併存するとされます。これらの治療がPNESの改善にも寄与します。
PTSD・複雑性PTSD
トラウマ歴のある患者ではPTSD症状(フラッシュバック、回避、過覚醒)を併存していることが多く、トラウマ治療が重要になります。
🌀
解離性障害
PNESは解離性障害のスペクトラムに位置づけられます。発作以外にも離人感、記憶の空白などの解離症状を伴うことがあります。
💊
てんかん
約10〜30%でてんかんが併存します。両方の発作が混在するため、それぞれに適切な治療(抗てんかん薬+心理療法)が必要です。
CAUSES & RISK FACTORS

PNESの原因とリスク要因

PNESは単一の原因で起こるのではなく、心理的・生物学的・社会的要因が複合的に関わる「biopsychosocial(生物心理社会的)」モデルで理解されています。

PNESの発症には、脆弱性要因(なりやすさ)、誘発要因(きっかけ)、維持要因(続かせる要因)の3層が関わっています。それぞれの要因を理解することが、効果的な治療につながります。

🧠心理的・情緒的要因

PNESの背景には、心理的な苦痛やストレスが大きく関わっています。感情を適切に表出することが難しい場合、抑圧された感情や耐えがたいストレスが身体症状(発作)として表れると考えられています。これは「転換」と呼ばれるメカニズムで、かつてヒステリーと呼ばれていた現象と同じ概念です。解離が中心的なメカニズムであり、圧倒的な感情から意識を切り離す防衛反応として発作が起こります。

  • 感情の抑圧・表出困難
  • 解離——圧倒的感情からの防衛反応
  • 対処能力を超えた心理的ストレス
  • 感情のアレキシサイミア(失感情症)の傾向
PNESの原因を理解する上で最も大切なことは、「犯人探し」ではなく「全体像を把握すること」です。複数の要因が重なり合って発症するため、一つの原因に還元しようとせず、多面的に理解しましょう。
DIAGNOSIS

PNESの診断プロセス

PNESの正確な診断は、適切な治療の出発点です。発症から診断まで平均7年かかるとされますが、専門的な検査によって確定診断が可能です。

PNESの診断は段階的に行われます。最も重要なのは、発作中の映像と脳波を同時に記録する「ビデオ脳波モニタリング」です。

1
ビデオ脳波モニタリング(Gold Standard)

発作時の映像と脳波を同時に記録する検査です。発作中にてんかん性の異常波が見られなければ、PNESの診断が確定します。これが最も信頼性の高い診断方法であり、可能な限りこの検査を受けることが推奨されます。

2
詳細な病歴聴取

発作の様子(持続時間、パターン、誘因など)、心理社会的背景、トラウマ歴、精神科的既往歴を丁寧に聴取します。本人だけでなく、発作を目撃した家族や周囲の人からの情報も重要です。

3
神経学的検査

脳MRI、通常の脳波検査、血液検査などで、てんかんやその他の神経疾患を除外します。PNESの約10〜30%はてんかんを併存しているため、てんかんが見つかってもPNESが否定されるわけではありません。

4
心理学的評価

心理検査(解離体験尺度、トラウマ関連質問票、人格検査など)を用いて、心理的背景を評価します。うつ病、不安障害、PTSDなどの併存疾患の有無も確認します。

診断の伝え方

診断の伝え方(告知)が治療を左右する

PNESの診断を患者に伝える方法は、その後の治療経過に大きく影響します。研究では、適切な告知を受けた患者の約25〜50%でその後発作が減少するという報告もあります。

効果的な診断の伝え方のポイント
「良い知らせです——てんかんではありません」と伝える
PNESは本物の発作であり、仮病ではないことを明確にする
脳の機能的な問題であり、心理療法で改善の見込みがあることを説明する
治療の見通し(ロードマップ)を示す
質問の時間を十分にとる
PNESと診断されることは、ショックを受ける方も多いですが、「正確な診断がついた」ことは大きな一歩です。てんかんとは異なる、あなたに合った治療法があるということです。
TREATMENT & RECOVERY

PNESの治療法と回復

PNESは適切な治療によって発作を大幅に減少、または消失させることが可能です。治療の中心は心理療法であり、薬物療法は併存疾患に対して用いられます。

治療法

PNESの主な治療法

PNESの治療は多職種連携(神経内科・精神科・心理士)が理想的です。以下の治療法が用いられます。

心理教育(Psychoeducation)治療の土台

PNESがどのような病気であるかを正しく理解することが治療の第一歩です。「仮病ではない」「脳の機能的な問題である」「心理的ストレスが身体症状として現れている」ことを理解し、自分の状態を受け入れるプロセスを支えます。診断の伝え方(告知)が治療成績に大きく影響することが研究で示されています。

認知行動療法(CBT)最もエビデンスが豊富

PNESに対して最も強いエビデンスがある心理療法です。発作の誘因となるストレスや思考パターンを特定し、より適応的な対処法を学びます。発作の前兆に気づき、リラクゼーション技法や呼吸法で発作を回避・軽減するスキルも身につけます。ランダム化比較試験で有効性が示されています。

トラウマ焦点化心理療法トラウマ歴がある場合

トラウマ歴がある場合、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)やPE(持続エクスポージャー療法)などのトラウマ焦点化治療が有効です。未処理のトラウマ記憶を安全な環境で処理し、トラウマ反応としての発作を軽減させます。段階的に安定化→トラウマ処理→社会復帰のプロセスを進めます。

薬物療法併存疾患の治療

PNES自体に対する特異的な薬物治療はありませんが、併存するうつ病・不安障害・PTSDに対してはSSRIなどの薬物療法が有効です。抗てんかん薬はPNESには無効であり、PNESと診断された場合は段階的に減薬・中止が検討されます。ただし、てんかんとの併存がある場合は抗てんかん薬の継続が必要です。

マインドフルネス・リラクゼーションセルフケア

身体感覚への気づき(ボディスキャン)、呼吸法、漸進的筋弛緩法などを学ぶことで、発作の前兆段階での対処が可能になります。慢性的なストレスや自律神経の乱れを軽減し、発作頻度の低下につなげます。グラウンディング技法(五感を使って「今ここ」に意識を戻す方法)も解離対策として有効です。

回復の見通し

PNESの回復はどのくらい見込めるか

PNESの予後は個人差が大きいですが、適切な治療を受けることで多くの方に改善が見られます。

60〜80%
適切な治療を受けた場合に、発作が減少または消失する割合
25〜50%
適切な診断の告知だけで発作が減少する割合
早期診断
発症からの期間が短いほど予後が良い。早期の正確な診断が鍵
回復には時間がかかります。発作が減ったり増えたりしながら、徐々に良くなっていくのが一般的です。焦らず、治療を続けることが大切です。
DAILY LIFE

日常生活でできること

治療と並行して、日々の生活の中でも発作を予防し、安定を保つためにできることがあります。小さな積み重ねが回復を支えます。

📝
発作日記をつける
発作が起きた日時、状況、直前のストレスや感情、前兆、持続時間を記録します。パターンが見えてくると、誘因を避けたり前兆に早く気づけるようになります。
🌙
睡眠リズムを整える
睡眠不足や不規則な睡眠は発作の誘因になります。毎日同じ時間に寝起きし、7〜8時間の睡眠を確保しましょう。
🧘
リラクゼーション技法を練習する
呼吸法、漸進的筋弛緩法、マインドフルネスなどを日常的に練習しましょう。発作の前兆を感じた時にすぐ使えるよう、落ち着いている時にスキルを身につけておくことが大切です。
🚶
適度な運動を取り入れる
ウォーキング、ヨガ、水泳などの適度な運動はストレス軽減に効果的です。激しすぎる運動は過覚醒を引き起こす場合があるので、自分のペースで行いましょう。
🗣
感情を言葉にする練習をする
PNESでは感情を言葉で表すことが難しいケースが多いです。日記やカウンセリングを通じて、自分の感情を言語化する習慣をつけましょう。感情を溜め込まないことが発作予防につながります。
⚠️
発作時の安全対策を準備する
発作が起きた時の対応カードを携帯し、周囲に知らせておきましょう。「PNESの発作です。見守ってください。無理に押さえつけないでください」といった情報があると安心です。
🍷
アルコール・カフェインを控える
アルコールは解離を悪化させ、カフェインは不安や過覚醒を増幅させます。特にストレスが高い時期は控えめにしましょう。
💊
治療を継続する
PNESの治療には時間がかかります。発作が減っても自己判断で通院をやめず、主治医やカウンセラーと相談しながら段階的に治療を進めましょう。
すべてを一度に完璧にやろうとしなくて大丈夫です。まずは「発作日記をつけること」と「リラクゼーション技法を一つ覚えること」から始めてみてください。
関連する用語
解離性障害転換性障害機能性神経症状症PTSD複雑性PTSDてんかん身体症状症
FOR FAMILY & FRIENDS

周囲の人にできること

PNESの方を支えるためには、まず「PNESは本物の発作であり、仮病ではない」という正しい理解が出発点です。発作時の対応と、日常的なサポートの両面で支えていきましょう。

発作時の対応

発作が起きた時の対応

1
慌てず、落ち着いて対応する。発作の多くは自然に治まります。
2
周囲の危険物(角のある家具、硬い物など)を移動させ、安全を確保する。
3
無理に押さえつけない、口に物を入れない。
4
優しい声で「大丈夫だよ」「ここにいるよ」と声をかける(聞こえている場合が多い)。
5
発作が落ち着いたら、水を飲ませたり、休める場所に移動させる。
6
可能であれば発作の様子を動画で記録する(医師の診断に非常に役立つ)。
対応のポイント

してほしいこと・避けてほしいこと

✅ してほしいこと
PNESは「仮病」や「演技」ではないことを理解する——本人の意思ではコントロールできない本物の発作です
発作中は落ち着いて見守り、安全を確保する(周囲の危険物を除去する)
発作中に無理に押さえつけたり、口に物を入れたりしない
発作が落ち着いたら穏やかに声をかけ、「大丈夫だよ」と安心させる
発作の様子を記録しておく(動画があれば医師の診断に非常に役立つ)
本人が治療を続けられるよう、通院のサポートや精神的な支えになる
「また発作を起こさないで」とプレッシャーをかけない
❌ 避けてほしいこと
「気持ちの問題でしょ」「大げさ」「仮病だ」と否定する
発作中に大声で叫んだり、パニックになる(冷静な対応が本人の安心につながる)
「いつ治るの?」と焦らせたり、治療の成果を急ぐ
発作を恥ずかしいものとして隠そうとする
本人の意思に反して発作について他人に詳しく話す
一人ですべてのサポートを背負い込む(自分自身のケアも大切です)
支える側のケア

支える側のセルフケア

PNESの方のサポートは精神的な負担が大きいものです。支える側が倒れてしまっては、サポートは続きません。ご自身のケアも大切にしてください。

🛁
自分の休息を確保する
24時間の見守りは持続不可能です。定期的に自分の時間を持ち、リフレッシュしましょう。
👥
専門家に相談する
家族自身もカウンセリングを受けることを検討してください。同じ立場の人との情報交換も大きな支えになります。
📚
PNESを正しく理解する
「なぜ発作が起こるのか」を理解することで、発作に対する恐怖や怒りが和らぎます。治療チームとの連携も大切です。
📋
発作時対応プランを共有する
本人と一緒に「発作が起きた時にどうするか」を決めておきましょう。職場や学校にも対応カードを共有しておくと安心です。
あなたの理解が最大の治療的サポートですPNESを「本物の病気」として認め、寄り添ってくれる家族や友人の存在は、何よりの回復の支えになります。完璧を目指さず、できる範囲で長く支え続けることが大切です。
STIGMA & SOCIETY

スティグマ・偏見とどう向き合うか

PNESの患者は、てんかん患者よりも高い割合で「スティグマ(烙印・偏見)」を経験するとされています。「仮病だ」「演技だ」という誤解が、受診の遅れや治療継続の困難を生みます。スティグマの実態を知り、その乗り越え方を考えましょう。

スティグマの実態

PNESと偏見——87%が経験するスティグマ

国際的な調査研究では、PNESの患者の87.2%が何らかの形でスティグマを経験していると報告されています。また、PNESにおけるスティグマのリスクはてんかんと比べて42%高いとされています。これは、発作の「見え方」に起因する問題が大きく、脳波などの客観的な異常所見がないことから「異常がないなら仮病では?」と判断されやすいためです。

🏥
医療現場でのスティグマ
「検査で異常がない」→「本物の病気ではない」という短絡的な解釈から、医師・看護師から否定的な態度をとられる経験をする患者が少なくありません。「気のせい」「精神的なもの」と片付けられ、適切な治療につながれないケースも多いです。
👨‍👩‍👧
家族・職場でのスティグマ
家族から「また発作のふりをしている」「気合で治せ」と言われたり、職場で「発作を利用して仕事を休んでいる」と思われたりすることがあります。こうした周囲からの不理解が、患者の孤立感と症状の悪化を招きます。
🪞
自己スティグマ
「自分は弱い人間だ」「精神的な問題だから恥ずかしい」という内面化されたスティグマが、治療への抵抗や自己嫌悪につながることがあります。自己スティグマは助けを求める行動を妨げ、回復を遅らせます。
🌐
社会的スティグマ
「精神科の病気」というラベルへの社会的な偏見も影響します。精神疾患に対する社会全体のスティグマが、PNES患者の受診の遅れや、病名の公表をためらわせる要因になっています。
⚠️
スティグマは治療の障壁になるスティグマは患者が「助けを求める」「診断を受け入れる」「治療を継続する」すべての段階で障壁となります。スティグマを減らすことは、PNES治療において医学的な介入と同様に重要です。
スティグマへの対処

スティグマと向き合うための方法

スティグマに対処するためには、個人レベルの対策と、周囲・社会への働きかけの両面があります。

● 正しい情報を持つ

PNESについての正確な知識を持つことが、自己スティグマを和らげる第一歩です。「脳の機能的な問題であり、仮病ではない」という事実を理解することで、自己肯定感を保てます。信頼できる医療情報源(てんかん学会のガイドライン等)を参照しましょう。

● 信頼できる人に話す

すべての人に病状を話す必要はありませんが、家族・親友・職場の上司など「信頼できる一人」に正しく伝えておくことが、理解を得やすい環境づくりにつながります。伝える際に、医療者から患者向けの説明リーフレットを活用するのも有効です。

● 当事者コミュニティとつながる

同じPNESを抱える人たちと情報交換したり、経験を共有することで、孤立感が軽減します。日本では専用のピアグループは限られていますが、解離性障害や機能性神経症状症のサポートグループが窓口になることがあります。

● スティグマを感じた体験を治療者に話す

医療者からスティグマ的な扱いを受けた場合、主治医やカウンセラーに相談することが重要です。治療チームがあなたの側に立って支えてくれることを確認しましょう。別の医療機関へのセカンドオピニオンを求めることも権利として認められています。

あなたの発作は本物ですPNESは「気のせい」でも「仮病」でも「演技」でもありません。脳の機能的な変化が関与した、れっきとした医学的状態です。スティグマに傷ついた経験があるなら、それはあなたのせいではありません。正しく理解してくれる医療者・支援者と出会うことが、回復の大きな力になります。
CHILDREN & ADOLESCENTS

子ども・思春期のPNES

PNESは成人だけに起こる疾患ではありません。小学生から高校生の思春期にも発症し、学校生活や友人関係に大きな影響を与えます。子ども・思春期のPNESには、成人とは異なる特徴と対応が求められます。

小児・思春期の特徴

子どものPNESの特徴と背景

PNESは子どもでも発症し、てんかん専門外来を受診する小児患者の中に一定数が含まれています。思春期(10代)に発症するケースが特に多く、女子に多い傾向があります。

10
小児・思春期PNESの発症ピーク。月経開始前後や思春期の身体変化の時期に重なることが多い
小児・思春期のPNESは成人より予後が良好とされる。早期の適切な介入がカギ
54%
若年PNES患者の追跡研究で発作消失が確認された割合(成人より高い)

子どものPNESの背景には、学校でのいじめ、友人関係のトラブル、親子関係の問題、学業プレッシャー、部活動のストレスなどが関与することが多いです。また、家庭内での葛藤や親の精神的問題が影響している場合もあります。感情を言葉で表現することが難しい年齢であるため、身体症状として発作が現れやすくなります。

子どものPNESに多い誘因
学校でのいじめ・人間関係のトラブル
試験・受験・学業プレッシャー
部活動・スポーツでの過度な負担
家庭内の不和・親の離婚・家族の病気
性的・身体的虐待やネグレクトの経験
友人関係・恋愛関係でのトラブル
学校への行きしぶり・不登校と重なることも
💡
子どもの発作を「演技」と決めつけないで子どものPNESは特に「注目を集めるための行為」「演技」と誤解されやすいです。しかし、本人は自分の意志で発作をコントロールできません。叱ったり、「また始まった」と冷たく扱うことは症状を悪化させます。温かく見守り、専門家に相談することが最善の対応です。
学校での対応

学校・教師・保護者への対応ガイド

子どものPNESには、医療機関での治療と並行して、学校環境でのサポートが欠かせません。教師・スクールカウンセラー・保護者が連携して対応することが重要です。

✅ 学校でできるサポート
発作時の対応手順を学校全体で共有する(保健室対応など)
過度なストレスをかけるプレッシャーを軽減する
発作が起きても騒がず、落ち着いて見守る
保護者・医療機関との情報共有を密にする
出席や成績評価で特別な配慮を行う
スクールカウンセラーとの定期的な面談機会を設ける
クラス全体へのメンタルヘルス教育を実施する
❌ 避けるべき対応
発作を「仮病」「演技」として無視する
クラスメートに病状を無断で説明する
発作後に「また発作したの?」と責める
学校行事への参加を一律に禁止する
本人の意思を確認せずに家庭と情報を共有する
発作を起こしたことを記録として残さない
子どものPNESの治療では、家族全体を巻き込んだアプローチ(家族療法)が有効です。家族が正しく理解し、適切に対応することで、子どもの回復は大きく促進されます。必要に応じて家族自身がカウンセリングを受けることも検討してください。
小児・思春期の治療

子どものPNESの治療アプローチ

子ども・思春期のPNESの治療は、成人と同様に心理療法が中心ですが、年齢・発達段階に合わせた工夫が必要です。

👨‍👩‍👧
家族を含めた心理教育
子ども本人だけでなく、親・きょうだいなど家族全体にPNESについて正しく説明します。家族の理解と協力が子どもの回復に直結します。「発作のふりをしているのでは?」という疑いを払拭し、サポート体制を整えます。
🧒
年齢に合わせたCBT
子ども向けに工夫された認知行動療法が有効です。感情の「気持ちメーター」や、発作日記(絵日記形式)など、言語化が難しい子どもにも取り組みやすい方法を用います。プレイセラピー(遊戯療法)が選択されることもあります。
🏫
学校との連携
医療機関・学校・家庭の三者が連携して支援します。担任教師・スクールカウンセラーと定期的に情報を共有し、学校での対応方針を統一します。必要に応じて通級指導や特別支援教育の活用も検討します。
🌱
ストレス源への直接的介入
いじめや学業プレッシャーなど、発作の誘因となっているストレス源に直接介入することが重要です。いじめへの学校の対応、学習サポート体制の整備、部活動の負担軽減など、環境改善も治療の一部です。
予後は成人より良好です小児・思春期のPNESは成人より予後が良好とされています。追跡研究では、54%が発作消失、31%が改善を示しています。ただし、不登校の継続や就労困難など社会機能への影響が残る場合もあり、継続的なフォローアップが大切です。
SUPPORT & RESOURCES

利用できる支援制度・相談窓口

PNESの治療と社会復帰を支えるために、さまざまな制度や相談窓口があります。医療費の軽減から就労支援まで、活用できるリソースを知っておきましょう。

医療費支援

自立支援医療制度(精神通院医療)

精神科や心療内科への通院が継続的に必要な方は、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで、医療費の自己負担を大幅に軽減できます。PNESは機能性神経症状症(転換性障害・解離性障害)として、この制度の対象となります。

💊自立支援医療制度の概要
対象精神疾患・機能性神経症状症(転換性障害・解離性障害など)で継続的に外来治療が必要な方
自己負担通常3割→原則1割に軽減。世帯の所得に応じて月額の自己負担上限額が設定される
対象医療外来診療、薬物療法、心理療法(カウンセリング)、デイケア、訪問看護など
申請先お住まいの市区町村の精神保健福祉担当窓口
必要書類診断書(自立支援医療用)、健康保険証のコピー、所得確認書類、マイナンバー確認書類など
有効期間1年間(更新が必要。軽快した状態が継続している場合も申請可能)
💡
申請のタイミング自立支援医療の申請は、診断確定後できるだけ早めに行うことをお勧めします。承認まで1〜3か月かかる場合があり、遡及適用はされないため、通院開始後なるべく早めに市区町村の窓口へ相談しましょう。主治医や精神保健福祉士に相談すると、手続きをサポートしてもらえます。
福祉・就労支援

精神保健福祉センターと就労支援

PNESによって日常生活や就労に支障が生じている場合、精神保健福祉センターや就労支援機関が力になってくれます。

🏢
精神保健福祉センター
各都道府県・政令市に設置されており、精神的な問題に関する相談・情報提供・支援調整を無料で行っています。PNESについての相談や、適切な医療機関の紹介、社会資源の案内を受けられます。電話・来所・オンラインでの相談が可能な場合もあります。
💼
就労移行支援・就労継続支援
障害者総合支援法に基づく就労系の障害福祉サービスです。就労移行支援(一般就労を目指すトレーニング)や就労継続支援A型・B型(障害のある方の就労の場)を、精神障害者保健福祉手帳がなくても医師の診断書で利用できる場合があります。
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障害者就業・生活支援センター
就業と生活の両面から、障害のある方の支援を行う機関です。求職活動のサポート、職場への定着支援、日常生活に関する相談を一括して受けられます。ハローワーク(公共職業安定所)と連携して就職活動を支援します。
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精神障害者保健福祉手帳
精神疾患(機能性神経症状症を含む)によって日常生活や社会生活に制約がある場合、申請できます。取得することで、障害者雇用での就職(企業の法定雇用率に算入)、税制上の優遇、交通費の割引、福祉サービスの優先利用などが受けられます。
これらの制度は「重症者しか使えない」ものではありません。PNESによって通院が必要だったり、就労に支障が出ている場合は積極的に活用できます。どの窓口に相談すればよいかわからない時は、まず精神保健福祉センターに連絡してみましょう。
運転・就労の注意点

運転免許・就労上の注意点

PNESと診断された場合、日常生活の中でいくつかの注意が必要な場面があります。適切に対処することで、安全を確保しながら社会生活を続けられます。

🚗 運転免許について

PNESと診断された場合、運転中に発作が起きると重大な事故につながる危険があります。日本の道路交通法では、てんかんや一定の意識障害を伴う疾患での運転に制限があります。PNESも同様のリスクがあるため、主治医と運転の可否について必ず相談してください。発作がコントロールされていると判断されるまでの間は、運転を控えることが推奨されます。

💼 就労・職場への対応

PNESがある状態で働く場合、職場に発作の可能性を伝えておくかどうかは本人の判断ですが、発作時の対応を職場の担当者(上司・産業医・保健師など)と事前に共有しておくと安全です。「発作が起きた時の対応カード」を作成し、緊急連絡先や対応手順を記載しておくことをお勧めします。また、過度なストレス環境が発作を悪化させる場合、産業医を通じた業務調整(残業の制限、配置転換など)が可能なケースもあります。

🏊 水辺・高所での安全対策

発作中に意識が低下する場合、水辺(プール・お風呂・海)や高所での作業は特に危険です。入浴はできるだけシャワーを利用し、浴槽を使う場合は家族に知らせてから入るようにしましょう。一人での海水浴や水泳も、発作がコントロールされるまでは避けることが無難です。

ピアサポート

仲間とつながることの力——ピアサポートの活用

PNESは「正体のわからない発作」として長年孤立してきた経験を持つ方が多く、同じ経験を持つ仲間とつながることは大きな回復の力になります。

ピアサポートが回復に役立つ理由
「自分だけではない」という安心感が得られる
同じ経験をした人の回復談が、希望と具体的なヒントを与えてくれる
医療者には言いにくいことも、当事者には話しやすい
情報共有(おすすめの医療機関、使えた制度など)
発作時の対応方法や日常の工夫を学び合える
孤立感・スティグマの軽減に直接つながる

日本ではPNES専用のピアグループは少ないですが、解離性障害・機能性神経症状症の当事者コミュニティや、メンタルヘルスのオンラインコミュニティ(SNS、掲示板など)が情報共有の場として機能しています。主治医やカウンセラーに「同じ経験を持つ人とつながれる場はないか」と聞いてみることも一つの方法です。

オンラインコミュニティの利用についてSNSや掲示板のコミュニティは便利ですが、医学的に不正確な情報が含まれる場合もあります。参加する際は、主治医に情報を確認しながら活用しましょう。精神的に不安定な時期は、投稿を読むだけにとどめるなど、自分のペースで関わることが大切です。

一人で抱え込まないで。
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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、神経内科・心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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