サイコロジカルファーストエイド(PFA)とは?
定義・8つのコアアクション・WHO/IASCガイドラインを解説
大規模災害、事故、事件、あるいは身近な喪失体験——深刻な危機的状況に置かれた人々を「傷つけずに」支援するための世界標準的アプローチが、PFA(心理的応急処置)です。定義・歴史・8つのコアアクション・心理的デブリーフィングとの違い・日本での活用・研修・支援者自身のセルフケアまで、必要な情報をすべてまとめました。
サイコロジカルファーストエイド(PFA)とは
深刻なストレス状況に置かれた人々に対して、人道的・支持的・実際的な支援を提供するための援助アプローチ。WHO・IASC・赤十字などが推奨する世界標準的な「心理的応急処置」です。
PFAの定義
サイコロジカルファーストエイド(Psychological First Aid:PFA)は、日本語で「心理的応急処置」と訳される、深刻なストレス状況(災害・事故・事件・喪失体験など)に置かれた人々に対して、人道的・支持的・実際的な支援を提供するための援助アプローチです。
その名称が示すとおり、身体的なケガに対する「応急処置(ファーストエイド)」と同じように、心理的な危機状態に置かれた人に対して、急性期に最初に行うべき基本的なケアを体系化したものです。PFAは特定の心理療法や治療的介入ではなく、「害を与えない(Do No Harm)」を最優先の原則とした、支援者が誰でも実践できる基本的な人間的関わりのガイドラインです。
WHOが定めるPFAの3つの目的
WHOが公式に定義するPFAの目的は次の3点です。「治療」ではなく「保護」と「自然回復の支援」が中心です。
PFAが「しないこと」
PFAを正しく理解するためには、「PFAが何をするか」だけでなく「PFAが何をしないか」を知ることも大切です。
PFAが大切にする4つの価値観
PFAの中心には、人道支援の原則に根ざした4つの価値観があります。
- 安全(Safety)当事者の身体的・心理的安全を最優先に確保する。
- 尊厳(Dignity)文化的背景・個人の特性を尊重し、当事者の尊厳を守る。
- 権利(Rights)当事者が支援やサービスを受ける権利を擁護する。
- コミュニティ(Community)地域コミュニティのつながりと互助を促進する。
PFAの歴史的背景と国際的普及
PFAは1990年代まで普及した「心理的デブリーフィング」の問題点への反省から、「害を与えない」を最優先とする現代的な支援モデルとして体系化されました。
心理的デブリーフィングへの反省から
PFAの概念が国際的に注目を集めるようになった背景には、1990年代まで広く使われていた「心理的デブリーフィング(Critical Incident Stress Debriefing:CISD)」の問題点が明らかになったことがあります。
心理的デブリーフィングは、災害・事故直後に被害者を集め、体験した出来事の詳細な感情・認知的反応を系統的に語らせる介入手法です。1990年代には「PTSDを予防する」として広く普及しましたが、2000年代以降の研究で深刻な問題が明らかになりました。
- 複数のランダム化比較試験(RCT)で、デブリーフィングがPTSDの予防に有効であるというエビデンスが得られなかった
- 一部の研究では、デブリーフィングを受けた群の方がPTSD症状が悪化するという逆効果さえ示された
- 本人の意志に関係なく体験を語らせることは、回復途上の心理的防衛機制を破壊する可能性がある
- 専門家のサポートなしに感情を一気に掘り起こすことのリスクが認識されるようになった
こうした教訓から、「害を与えない(Do No Harm)」を最優先原則とした、より安全で実践的な支援モデルとして現代のPFAが体系化されていきました。
国際的に参照される主要PFAガイドライン
現在、国際的に広く参照されているPFAのガイドラインには主に以下のものがあります。
- WHO版PFA(フィールド・ガイド)(世界保健機関(WHO))国際的に最も広く普及。人道支援の現場向けに開発。日本語版あり。
- NCTSN版PFA(実施の手引き)(米国国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク(NCTSN)&米国国立PTSDセンター)8つのコアアクションを詳細に規定。兵庫県こころのケアセンターが日本語版を作成。
- IFRC版PFAガイド(国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC))赤十字・赤新月社の活動者向けに開発。簡便な普及版。
- 子どものためのPFA(セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナル)WHOマニュアルをベースに子ども特有の発達段階に対応させたマニュアル。
- 学校版PFA(NCTSNほか)教育現場でのPFA実施に特化。学校スタッフ向け。
IASC(国連機関間常設委員会)による推奨
IASC(Inter-Agency Standing Committee)は、国連が主導する人道支援調整機関で、国連機関・NGO・国際機関で構成されています。IASCは2007年に「緊急時のメンタルヘルス・心理社会的支援に関するIASCガイドライン」を発表し、PFAを緊急支援の基本的な心理社会的アプローチとして推奨しました。このガイドラインはアラビア語、中国語、フランス語、日本語、スペイン語など多言語に翻訳され、世界中の人道支援現場で参照されています。
日本への導入と東日本大震災
日本へのPFAの本格的な導入は、2011年の東日本大震災を大きなきっかけとしています。それ以前から阪神・淡路大震災(1995年)の経験をもとに日本独自の心理支援モデルが蓄積されてきましたが、WHO版PFAの日本語版が整備されたのは2012年のことです。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が中心となり、WHO本部と契約を締結してPFAの普及活動を開始しました。また、兵庫県こころのケアセンターが米国版PFA実施の手引き(第2版)の日本語訳を作成し、無料で公開したことで、日本全国の支援者にPFAが広まりました。
PFAの基本原則:P+3L(準備・見る・聞く・つなぐ)
WHO版PFAは、活動の基本原則を「P+3L」という非常にシンプルな枠組みで示しています。複雑な心理学的知識がなくても誰でも実践できるよう設計されています。
WHO版PFAの活動原則「P+3L」
Pは「準備(Prepare)」、3つのLはそれぞれ「見る(Look)」「聞く(Listen)」「つなぐ(Link)」です。「見る・聞く・つなぐ」という日常的な行為の延長線上に、PFAは位置しているのです。
支援に入る前に、状況・利用可能なサービス・安全についての情報を収集する。事前の準備なしに現場に飛び込まない。
安全を確認する。明らかに緊急の基本的ニーズがある人を確認する。深刻なストレス反応を示している人を確認する。
支援が必要と思われる人に近づく。相手のニーズや懸念を聞く。相手の話に耳を傾け、落ち着くよう助ける。
生存のための基本的ニーズを満たし、サービスを利用できるよう助ける。身近な支援者(家族・友人)とのつながりを促す。継続的な支援が必要な場合は専門機関につなぐ。
「準備(Prepare)」の重要性
PFAにおいて「準備」が特別に強調される理由は、準備なしに支援現場に入ることが、支援者と被支援者の双方にとって危険になりうるからです。
- 状況の把握何が起きたのか(災害・事故・事件の種類)、被害の規模、支援活動の現状を把握する。
- 利用可能なサービスの確認現地で利用できる医療サービス・物資・相談窓口・避難所の情報を事前に整理する。
- 安全の確認支援者自身が危険な場所に踏み込まないよう、安全な活動範囲を確認する。
- 役割の明確化自分がどのような立場・役割で活動するのかを明確にする(組織の代表として、ボランティアとして、など)。
- 自分自身の状態の確認支援者自身が極度に疲弊していたり、個人的に影響を受けている場合は、支援に入ることを控える判断も必要。
レジリエンスを前提としたアプローチ
PFAの根本にある重要な考え方は、「ほとんどの人は、適切なサポートがあれば自然に回復できる」というレジリエンス(回復力)への信頼です。
大規模災害の直後に被災者が示す強い不安・恐怖・混乱・解離などの反応は、異常な状況に対する正常な反応です。こうした急性ストレス反応の多くは、基本的なニーズが満たされ、安全が確保されれば、時間の経過とともに自然に改善します。PFAはこの自然な回復プロセスを「邪魔しない」「妨げない」ことを大切にします。
PFAの8つのコアアクション
米国NCTSNと米国国立PTSDセンターが開発し、兵庫県こころのケアセンターが日本語版を作成した「PFA実施の手引き(第2版)」では、PFAを8つのコアアクションとして体系化しています。固定した順序ではなく、状況に応じて柔軟に組み合わせます。
NCTSN版PFAの8つのコアアクション
これらは固定した順序に従うものではなく、状況に応じて柔軟に組み合わせて実施します。
緊急の専門的支援が必要なサイン
以下のサインがある場合は、PFAにとどまらず、医療機関・精神科・救急への紹介を即座に行います。
- ⚠「死にたい」「消えたい」という言葉や自殺企図のサイン
- ⚠自傷行為(切傷、殴打など)
- ⚠幻覚・妄想・ひどい錯乱状態
- ⚠アルコール・薬物の過剰摂取
- ⚠強い興奮・暴力的行動
- ⚠基本的な自己管理ができないほどの重篤な機能低下
心理的デブリーフィングとの決定的な違い
PFAと心理的デブリーフィング(CISD)は表面的に似ているように見えて、根本的なアプローチが異なります。違いを正しく理解することは、被支援者を「傷つけない」ために不可欠です。
心理的デブリーフィングとは
心理的デブリーフィング(Psychological Debriefing、特にCritical Incident Stress Debriefing:CISD)は、1970年代にJeffrey Mitchellによって開発され、1990年代に災害・緊急支援の現場で爆発的に普及した心理的介入手法です。災害・事故直後の被害者・救援者を集め、体験した出来事の認知的・感情的反応を系統的に語らせることで、PTSDの発症を予防することを目指しました。
PFAと心理的デブリーフィングの比較
PFAとCISDは、基本的立場・体験の語り・参加意思・実施者・タイミング・科学的エビデンス・国際的推奨において根本的に異なります。
「害を与えない」の具体的な意味
PFAが心理的デブリーフィングとの対比で最も強調するのが「害を与えない(Do No Harm)」原則です。この原則が具体的に意味することは以下のとおりです。
- 回復中の防衛機制を壊さないトラウマ体験直後、人は本能的に感情の距離を置くことで自分を守ろうとする(解離・麻痺・感情の抑制)。この防衛機制を無理に打ち破ることは、かえって心理的ダメージを拡大する。
- 過度な注目を避ける大勢の前で被災者を「被害者」として焦点化することは、スティグマや羞恥心を生む可能性がある。
- 誤った情報を伝えない不確かな情報や根拠のない安心保証は、後で信頼を損なう。
- 支援者の感情的な巻き込まれを防ぐ支援者が過度に感情移入することで、当事者の感情的な混乱が強化される可能性がある。
PFAの対象となる人々
PFAは、深刻な危機的体験に直面した人であれば、基本的に誰でも対象となります。具体的には以下のような状況に置かれた人々です。
PFAの実施者——誰でも実践できる
PFAは、精神保健の専門家だけが実施するものではありません。適切な研修・情報を受けた人であれば、以下のような幅広い人々がPFAを実施できます。
PFAを実施する場面・タイミング・領域別活用
急性期だけでなく亜急性期・復興期にも有効。災害支援、子ども・学校、職場・地域コミュニティといった多様な場面でPFAは活用されています。
PFAを実施する場面・タイミング
PFAが最も効果を発揮するのは、危機的体験の直後から数日間の急性期です。ただし、活動は急性期だけに限定されません。亜急性期・復興期にもPFAの原則に基づくアウトリーチが有効です。
PFAが不適切な場面
PFAがすべての状況で適切なわけではありません。以下の場面では、PFAの範囲を超えた専門的介入が必要です。
- !自殺念慮・自傷・他者への危害リスクが高い場合——精神科救急・救急医療機関への即座の紹介が必要
- !精神疾患の急性増悪(幻覚・妄想・強い興奮状態)——精神科医・救急医への紹介
- !重篤なアルコール・薬物中毒——医療機関への紹介
- !複雑性グリーフ・慢性PTSD——心理士・精神科医による専門的な心理療法が必要
日本におけるPFAの普及と災害支援への活用
日本は「四大災害国」と呼ばれる自然災害多発国です。阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)など大規模災害が繰り返される中で、日本の災害精神医学・災害時こころのケアのあり方は大きく進化し、PFAはその中核に位置づけられるようになっています。
- 1995年 阪神・淡路大震災日本の大規模災害後のこころのケアの必要性が初めて広く認識された。精神科医・心理士・保健師が被災地に入り活動したが、当時は体系的なガイドラインが存在しなかった。
- 2011年 東日本大震災DPAT(災害派遣精神医療チーム)の前身となる精神科医療チームが全国から被災地に派遣。WHO版PFAの日本語版整備のきっかけとなった。
- 2012年以降国立精神・神経医療研究センター(NCNP)がWHO版PFA日本語版を整備・公開。兵庫県こころのケアセンターがNCTSN版PFA(手引き第2版)の日本語版を無料公開。全国での普及研修が始まった。
- 2016年 熊本地震・その後DPAT(2013年度に制度化)が機能し、PFAを基本原則とした体系的な精神医療支援が展開された。
日本の主要なPFA普及機関:
- 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ストレス・災害時こころの情報支援センターWHO版PFAの日本語版整備・普及の中心機関。研修・情報提供を実施。
- 兵庫県こころのケアセンター(J-HITS)NCTSN版PFA実施の手引き(第2版)・学校版PFAの日本語版を無料公開・普及。
- 日本赤十字社IFRC版PFAガイドを基にした研修「サイコロジカルファーストエイドワークショップ」を定期開催。
- セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン子どものためのPFAの普及研修を実施。
- 各都道府県精神保健福祉センター地域の支援者向けにPFA研修を実施。
- 日本心理臨床学会・日本トラウマティック・ストレス学会PFAに関する学術研究・情報発信・専門職教育を担う。
子どものためのPFA(PFA for Children)
子どもは発達段階の特性から、大人とは異なる形でストレス・トラウマ体験に反応します。「子どものためのPFA」は、セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルが2013年にWHOマニュアルを基に開発した子ども向けの特化版マニュアルで、日本語版も整備され、学校・保育施設・子ども支援NPOなどで広く活用されています。
子どものストレス反応の特徴(年齢別):
子どもへのPFA実施の基本原則:
- ✓子どもの目線に合わせる:身体的にも心理的にも子どもと同じ目線に立つ。しゃがんで話すなど、子どもが安心できる物理的距離感を保つ
- ✓遊びと創造活動を活用する:幼い子どもは言葉よりも遊びや絵描きなどを通じて感情を表現することが多い。遊びを通じた非言語コミュニケーションを大切にする
- ✓正直に・子どもがわかる言葉で説明する:「大丈夫だよ(大丈夫でない状況でも)」という嘘の安心より、「怖いよね。でも今ここは安全だよ。大人がそばにいるからね」という正直さが子どもの信頼を生む
- ✓日常のルーティンを回復する:災害後もできる限り食事・睡眠・学習などのルーティンを維持することが、子どもの安心感の回復に重要
- ✓親・養育者を通じた支援:子どもは養育者の状態を敏感に感じ取る。親・養育者自身が安定していること、その人たちへの支援も同時に行うことが重要
学校でのPFA:教師・スクールカウンセラーの役割
「学校版PFA(PFA for Schools)」は、学校内での緊急事態(生徒の突然の死・重大な事故・自然災害の直後など)に教職員が実施するためのガイドラインです。NCTSN版の学校版PFAが兵庫県こころのケアセンターにより日本語化されています。
- 教師の役割クラス全体の安全確認・生徒の観察・感情を表現できる空間の提供・特に落ち込んでいる生徒の把握とスクールカウンセラーへの紹介。
- スクールカウンセラーの役割個別相談・保護者への連絡・専門機関への橋渡し・教職員へのコンサルテーション。
- 避けてほしいこと全校集会で詳細な体験を語らせる・クラス全員を強制的なグループセッションに参加させる・「頑張れ」「強くなれ」といった感情を否定するメッセージを送る。
職場でのPFA——産業保健とメンタルヘルス
職場においても、PFAの考え方は重大な出来事(同僚の突然死・重大事故・深刻なハラスメントインシデントなど)後のメンタルヘルス対応として活用できます。
- 産業医・保健師による初期対応インシデント直後、産業医・保健師がPFAの原則に基づき、当事者・同僚に対して安全・安心感の提供・基本的なニーズの確認を行う。
- 管理職への啓発管理職がPFAの基本を知ることで、「部下を傷つけないサポート」ができるようになる。「早く立ち直れ」「みんなのために頑張れ」などの逆効果なメッセージを避ける。
- EAP(従業員支援プログラム)との連携急性期のPFAで初期対応をしつつ、中長期的なカウンセリング支援はEAPのカウンセラーにつなぐ。
- 「普通の仕事仲間としてのPFA」重篤なインシデントの後、職場の同僚が「ただそばにいる」「いつもどおりに接する」「必要なら話を聞く」という自然なPFAを実践することが、当事者の回復を大きく支える。
地域コミュニティでのPFA——自助・共助の力
日本では「自助・共助・公助」の考え方が防災の基本とされていますが、PFAは特に「共助」の中核的な心理的側面を担います。
- 自主防災組織へのPFA研修町内会・自治会の防災訓練の中にPFAの基本を組み込むことで、地域住民が初期の心理的支援を担う力をつける。
- 民生委員・児童委員によるPFA地域の見守り役として活動する民生委員・児童委員が、PFAの基本を学ぶことで、より効果的なアウトリーチが可能になる。
- 宗教者・寺院・教会によるPFA地域に根ざした宗教者が、悲嘆や喪失を抱えた人に対してPFAの原則に基づいた支援を行うことは、特に農村部・高齢者の多いコミュニティで有効。
回復プロセス・PTSD・支援者自身のケア
多くの人は適切なサポートで自然に回復しますが、一部の人は専門的支援が必要となります。また、PFAを担う支援者自身のセルフケアもPFAの不可欠な一部です。
自然な回復のプロセス
適切なPFAと基本的なニーズ(安全・食料・住居・家族との連絡)が確保された場合、多くの人は時間の経過とともに自然に回復します。研究によれば、災害直後に現れる急性ストレス症状の多くは、1〜3ヶ月の間に改善することが多いとされています。回復は急性期→亜急性期→回復期→長期的適応の段階を経て、ポストトラウマティック・グロース(PTG)と呼ばれる心理的成長が起きることもあります(詳細は前セクションのタイムライン参照)。
専門的支援が必要なサインとPTSD
多くの人は自然に回復しますが、一部の人は時間が経っても症状が改善せず、専門的なサポートが必要となります。以下のようなサインが見られる場合は、精神科・心療内科・心理士への相談を検討してください。
- ⚠フラッシュバック(体験が突然鮮明に蘇る)・悪夢が1ヶ月以上続く
- ⚠体験に関連する場所・人・状況を極度に避ける回避行動が顕著
- ⚠常にビクビクしている・些細な刺激でパニックになる過覚醒状態が続く
- ⚠「自分には生きている価値がない」「すべてが自分のせいだ」などの強い自己否定・罪悪感
- ⚠「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちがある
- ⚠アルコール・薬物への依存が増している
- ⚠仕事・学校・日常生活に著しい支障が出ている
回復を助けるセルフケアの実践
専門的な支援を受けながら、日常的なセルフケアも回復を支える重要な柱です。
支援者が直面するリスクと二次的トラウマ
PFAを実施する支援者は、他者の苦しみに継続的にさらされることで、自身の心理的健康に影響を受ける可能性があります。これを「二次的トラウマティックストレス(Secondary Traumatic Stress)」または「共感疲労(Compassion Fatigue)」と呼びます。
PFAのガイドラインはすべて、「支援者が自分自身のケアをすることも、支援活動の不可欠な一部である」と明確に述べています。燃え尽きた支援者は、当事者への質の高いケアを提供できなくなるだけでなく、自分自身も深刻なメンタルヘルス上の問題を抱えるリスクがあります。
二次的トラウマのサイン:
- !支援した相手の体験が頭から離れない・フラッシュバックする
- !感情的に麻痺している・何も感じなくなる(感情的虚脱)
- !支援活動に対する意欲の著しい低下・燃え尽き感
- !「誰を助けても意味がない」「自分には何もできない」という無力感・虚無感
- !睡眠障害・食欲の変化・身体的疲労の慢性化
- !支援活動に関連する状況・話題を避けるようになる
- !人間全般への不信感・シニカルな態度の増大
支援者のセルフケアの実践
支援者のセルフケアは、個人レベルと組織レベルの両面から行う必要があります。
- 活動前の準備自分の心理的な状態・強みと脆弱性を把握する。「今日は支援できる状態にあるか」を自己点検する。
- 活動中の区切り休憩を必ず取る。一人で抱え込まず、チームメンバーと情報と感情を共有する。
- 活動後のデブリーフィング(チームケア版)チームで活動を振り返り、感じたことを安全に共有する。このデブリーフィングは、被支援者に行う「心理的デブリーフィング」とは根本的に異なり、支援者の相互ケアを目的とするもの。
- 身体的ケア十分な睡眠・栄養・水分を確保する。アルコールへの依存を避ける。
- 社会的サポートの維持家族・友人との交流を絶やさない。支援活動から完全に離れる「オフ」の時間を確保する。
- 専門的なスーパービジョン定期的にスーパーバイザーや同僚に相談できる機会を確保する。
PFAの研修・学び方と専門紹介の実践
PFAは資格不要ですが、研修受講が強く推奨されます。日本の研修機会、無料の自学資料、専門機関への紹介の実践ポイントを紹介します。
日本で受けられる主な研修
PFAは特定の「資格」を必要とするものではありませんが、実際に実践するには研修(ワークショップ・トレーニング)を受けることが強く推奨されます。座学で概念を学ぶだけでなく、ロールプレイなどの実践的演習を通じて体験的に習得することが重要です。
- 日本赤十字社 PFAワークショップ「令和6年度サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)ワークショップ」を国際要員向けに定期開催。対象は日本赤十字社の国際活動関係者だが、国際支援に関心がある人にも広く開かれている。
- 国立精神・神経医療研究センター主催研修「災害時PFAと心理対応研修」を定期開催。精神保健専門職・行政職向けの実践的研修。
- 都道府県精神保健福祉センター主催研修各都道府県の精神保健福祉センターが、地域の支援者向けに開催するPFA研修。保健師・福祉職・教育職向け。
- セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どものためのPFA」研修を定期開催。教育・福祉・国際支援分野の方向け。
- 各大学院・職能団体臨床心理士・公認心理師の養成課程や各職能団体の継続研修でPFAが取り上げられることが増えている。
自学自習のためのリソース
公的機関が無料で公開しているマニュアル・ガイドを活用することで、独学でもPFAの基礎を学べます。
- WHO版PFAフィールドガイド(日本語版)ストレス・災害時こころの情報支援センターのウェブサイトから無料でダウンロード可能。
- PFA実施の手引き第2版(NCTSN版)日本語版兵庫県こころのケアセンター(J-HITS)のウェブサイトから無料でダウンロード可能。
- PFAガイド要約版(IFRC版)日本赤十字社・国際赤十字のウェブサイトから入手可能。
- 子どものためのPFA(セーブ・ザ・チルドレン)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのウェブサイトで紹介版資料が公開されている。
- eラーニング(英語)米国国立PTSDセンターがNCTSN版PFAのオンラインコースを提供。「PFA Online」として無料で受講可能(英語)。
PFAを学ぶ際の注意点
- 「PFAを学んだから何でもできる」と思わないPFAは心理療法ではなく、あくまでも初期の人道的支援。複雑なトラウマ・PTSD・精神疾患には専門的な介入が必要。
- 自分の限界を知る支援者として自分がどこまでできるか、どこからは専門家に任せるべきかを明確にしておく。
- 定期的な更新PFAの知識は時間とともに更新される。定期的に最新のガイドラインを確認し、研修を受けなおすことが重要。
専門的な心理支援への紹介・つなぎ方
PFAの8つのコアアクションの最後が「紹介と引き継ぎ」であることが示すように、PFAは専門的な支援の代替ではなく、専門的な支援につなぐための架け橋です。支援者は「私がすべてを解決しなければならない」という思い込みを手放し、適切なタイミングで適切な専門家につなぐことを「成功」として捉える必要があります。
緊急支援が必要な場合の紹介先:
- 自殺念慮・自傷行為いのちの電話(0120-783-556)・よりそいホットライン(0120-279-338)・精神科救急・救急病院。
- 精神疾患の急性増悪かかりつけの精神科医・精神科救急・救急病院。
- 身体的な緊急状態救急車(119)・救急病院。
- DVや虐待配偶者暴力相談支援センター(各都道府県)・児童相談所(0120-189-783)・警察(110)。
継続的な精神的サポートが必要な場合の紹介先:
- 精神科・心療内科PTSD・うつ病・適応障害・不安障害などの診断と治療。薬物療法・心理療法の両面からの支援が受けられる。
- 精神保健福祉センター各都道府県・政令指定都市に設置。精神科医・臨床心理士・精神保健福祉士による無料相談。匿名での相談も可能。
- 臨床心理士・公認心理師PTSD・複雑性グリーフ・適応障害などに対する心理療法(持続的暴露療法・EMDR・認知処理療法など)を提供。
- 社会福祉協議会・福祉事務所生活上の困難(住居・経済的問題)への支援。災害時の生活再建支援。
- 被害者支援センター犯罪・事故の被害者向けに、心理的支援・法的支援・生活支援を総合的に提供。
「紹介」を成功させるためのコツ:
- 本人の意思を確認する「専門家に相談してみませんか。一緒に考えましょうか」と提案し、本人の意思を尊重する。押しつけない。
- スティグマへの配慮「精神科に行く=弱い・重病だ」というイメージを払拭する説明をする。「こころの風邪を放置すると悪化するのと同じで、専門家に診てもらうことが賢明な選択です」などの言葉で、受診へのハードルを下げる。
- 具体的な情報を提供する「○○にある○○クリニックに電話してみてください」「精神保健福祉センターは無料で匿名でも相談できます」など、具体的で行動に移しやすい情報を伝える。
- 可能なら一緒に行く電話をかけるのを一緒に行う、初回の受診に同行するなど、実際の行動を一緒にサポートすることで紹介の成功率が高まる。
PFAに関するよくある質問
A. いいえ、PFAは特定の資格を必要とするものではありません。医師・心理士・看護師などの専門家はもちろん、教師・ボランティア・地域住民・職場の同僚など、基本的な研修を受けた人であれば誰でも実践できます。ただし、研修を受けずに行うことは推奨されません。まず、WHO版PFAフィールドガイドや兵庫県こころのケアセンターが無料公開しているPFA実施の手引きを読み、可能であれば対面でのワークショップに参加してから実践することをお勧めします。
A. PFAとカウンセリング(心理療法)は根本的に異なるものです。カウンセリングは、訓練を受けた専門家(臨床心理士・公認心理師など)が継続的なセッションを通じて心理的問題の治療を行うものです。一方、PFAは危機直後の急性期に、できる限り幅広い人に対して人道的・実際的な支援を提供する初期対応アプローチです。PFAは「カウンセリングの前段階」とも言え、PFAで初期の安定化を図った後、必要に応じてカウンセリングや専門的心理療法につないでいくという位置づけが適切です。
A. PFAにおいて最も大切なことの一つは、「ただそこにいること」です。苦しんでいる人に対して、必ずしも特別な言葉をかけなければならないわけではありません。「何か言わなければ」「解決策を提示しなければ」という焦りが、かえって当事者にプレッシャーを与えることもあります。安全な存在として静かにそばにいること、当事者が話したいときに話を聞く姿勢でいること、「あなたのそばにいます」というメッセージを非言語(表情・態度・眼差し)で伝えることが、PFAの本質です。「何を言うか」より「どのようにあるか」の方が重要なのです。
A. PFAは緊急直後だけに限定されるものではありません。確かに危機発生後の急性期(数日間)が最も重要な時期ですが、数週間・数ヶ月後にも心理的なサポートが届いていない人に対してPFAの原則を活用することは有効です。ただし、時間が経つにつれて、単純な「話を聞く・安全を確保する」を超えた専門的な支援が必要になる可能性も高まります。長期間症状が続く場合は、PFAを続けながら専門的な心理支援(カウンセリング・精神科受診)につなぐことが重要です。
A. これは非常に重要な問いです。自分自身が深刻な被害を受けていたり、強い感情的影響を受けている状態でPFAを実施することは、支援の質の低下につながるだけでなく、自分自身のメンタルヘルスをさらに悪化させるリスクがあります。自分が「今日は支援できる状態ではない」と感じる場合は、正直にそれを認め、支援から一時的に離れることが正しい判断です。PFAのガイドラインは、支援者が自分自身のケアを最優先にすることを明確に定めています。
A. はい、これは多くの被災者・被害者が経験することです。災害・事故直後は「なんとかしなければ」という緊張感・アドレナリンで動けていても、ある程度時間が経って安全な状況になったとき、初めて体験の重さが心身に響いてくることがあります。これは「遅延した反応」と呼ばれ、珍しいことではありません。ただし、2週間以上強い落ち込み・不眠・フラッシュバックなどが続く場合は、精神保健福祉センターや心療内科・精神科に相談することをお勧めします。一人で抱え込まないでください。
深刻な出来事のあと、
一人で抱え込まないでください
災害・事故・喪失——大きな出来事のあとに心が揺れるのは、異常ではなく自然な反応です。あなたの気持ちを、ココトモに聞かせてください。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。継続的な通院が必要な場合は自立支援医療制度(精神通院医療)により医療費の自己負担を軽減できます(原則1割負担)。詳細は精神保健福祉センターまたは市区町村の福祉担当窓口にご相談ください。
