メンタルヘルス用語辞典 · サイコロジカルファーストエイド(PFA)

サイコロジカルファーストエイド(PFA)とは?
定義・8つのコアアクション・WHO/IASCガイドラインを解説

大規模災害、事故、事件、あるいは身近な喪失体験——深刻な危機的状況に置かれた人々を「傷つけずに」支援するための世界標準的アプローチが、PFA(心理的応急処置)です。定義・歴史・8つのコアアクション・心理的デブリーフィングとの違い・日本での活用・研修・支援者自身のセルフケアまで、必要な情報をすべてまとめました。

ABOUT PFA

サイコロジカルファーストエイド(PFA)とは

深刻なストレス状況に置かれた人々に対して、人道的・支持的・実際的な支援を提供するための援助アプローチ。WHO・IASC・赤十字などが推奨する世界標準的な「心理的応急処置」です。

定義

PFAの定義

サイコロジカルファーストエイド(Psychological First Aid:PFA)は、日本語で「心理的応急処置」と訳される、深刻なストレス状況(災害・事故・事件・喪失体験など)に置かれた人々に対して、人道的・支持的・実際的な支援を提供するための援助アプローチです。

その名称が示すとおり、身体的なケガに対する「応急処置(ファーストエイド)」と同じように、心理的な危機状態に置かれた人に対して、急性期に最初に行うべき基本的なケアを体系化したものです。PFAは特定の心理療法や治療的介入ではなく、「害を与えない(Do No Harm)」を最優先の原則とした、支援者が誰でも実践できる基本的な人間的関わりのガイドラインです。

感情を引き出すための介入ではないPFAは「感情を無理やり引き出すこと」や「トラウマ体験を詳しく語らせること」を目的としません。むしろ、当事者が安心して自分のペースで回復できる環境を整えることに主眼が置かれています。
3つの目的

WHOが定めるPFAの3つの目的

WHOが公式に定義するPFAの目的は次の3点です。「治療」ではなく「保護」と「自然回復の支援」が中心です。

🛡
心理的保護
被災者・被害者を心理的に保護し、これ以上の心理的被害を防ぐこと。
🧺
基本的ニーズの充足
当事者の基本的ニーズ(安全・安心・食料・情報・家族との連絡など)を把握し、その充足を助けること。
🌱
レジリエンスの支援
当事者がもともと持つ回復力(レジリエンス)を引き出し、自然な回復プロセスを支えること。
しないこと

PFAが「しないこと」

PFAを正しく理解するためには、「PFAが何をするか」だけでなく「PFAが何をしないか」を知ることも大切です。

🚫
体験を無理に語らせない
「何があったか詳しく話してください」と詳細な体験の語りを強要しない。当事者が話したいと思ったときに話せる環境を作るのがPFAであり、カタルシスを目的とした体験の深掘りはしない。
🩺
感情を分析・診断しない
「あなたはPTSDの症状があります」「あなたは急性ストレス反応です」などの診断的判断をしない。PFAは医療行為ではなく、人間的な支援である。
📐
「こうすべき」を押しつけない
「泣いてはいけない」「強くならなければならない」などの規範的なメッセージを与えない。
🌀
将来について安易な保証をしない
「きっと大丈夫」「すぐによくなる」などの根拠のない保証を与えない。代わりに「あなたのそばにいる」「必要な支援が届くよう手伝う」という現実的なサポートを示す。
🙏
意思を無視した支援をしない
支援を望まない人に対して無理に介入しない。本人の意思と自律性を最大限尊重する。
4つの価値観

PFAが大切にする4つの価値観

PFAの中心には、人道支援の原則に根ざした4つの価値観があります。

  • 安全(Safety)当事者の身体的・心理的安全を最優先に確保する。
  • 尊厳(Dignity)文化的背景・個人の特性を尊重し、当事者の尊厳を守る。
  • 権利(Rights)当事者が支援やサービスを受ける権利を擁護する。
  • コミュニティ(Community)地域コミュニティのつながりと互助を促進する。
💡
「専門家だけ」のものではないPFAは医師・看護師・心理士・ソーシャルワーカーはもちろん、教師、消防士、警察官、ボランティア、さらには被害を受けていない地域住民も、適切な研修を経ることで実践できます。
HISTORY & GLOBAL

PFAの歴史的背景と国際的普及

PFAは1990年代まで普及した「心理的デブリーフィング」の問題点への反省から、「害を与えない」を最優先とする現代的な支援モデルとして体系化されました。

PFAの誕生

心理的デブリーフィングへの反省から

PFAの概念が国際的に注目を集めるようになった背景には、1990年代まで広く使われていた「心理的デブリーフィング(Critical Incident Stress Debriefing:CISD)」の問題点が明らかになったことがあります。

心理的デブリーフィングは、災害・事故直後に被害者を集め、体験した出来事の詳細な感情・認知的反応を系統的に語らせる介入手法です。1990年代には「PTSDを予防する」として広く普及しましたが、2000年代以降の研究で深刻な問題が明らかになりました。

  • 複数のランダム化比較試験(RCT)で、デブリーフィングがPTSDの予防に有効であるというエビデンスが得られなかった
  • 一部の研究では、デブリーフィングを受けた群の方がPTSD症状が悪化するという逆効果さえ示された
  • 本人の意志に関係なく体験を語らせることは、回復途上の心理的防衛機制を破壊する可能性がある
  • 専門家のサポートなしに感情を一気に掘り起こすことのリスクが認識されるようになった

こうした教訓から、「害を与えない(Do No Harm)」を最優先原則とした、より安全で実践的な支援モデルとして現代のPFAが体系化されていきました。

主要ガイドライン

国際的に参照される主要PFAガイドライン

現在、国際的に広く参照されているPFAのガイドラインには主に以下のものがあります。

  • WHO版PFA(フィールド・ガイド)(世界保健機関(WHO))国際的に最も広く普及。人道支援の現場向けに開発。日本語版あり。
  • NCTSN版PFA(実施の手引き)(米国国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク(NCTSN)&米国国立PTSDセンター)8つのコアアクションを詳細に規定。兵庫県こころのケアセンターが日本語版を作成。
  • IFRC版PFAガイド(国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC))赤十字・赤新月社の活動者向けに開発。簡便な普及版。
  • 子どものためのPFA(セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナル)WHOマニュアルをベースに子ども特有の発達段階に対応させたマニュアル。
  • 学校版PFA(NCTSNほか)教育現場でのPFA実施に特化。学校スタッフ向け。
IASC

IASC(国連機関間常設委員会)による推奨

IASC(Inter-Agency Standing Committee)は、国連が主導する人道支援調整機関で、国連機関・NGO・国際機関で構成されています。IASCは2007年に「緊急時のメンタルヘルス・心理社会的支援に関するIASCガイドライン」を発表し、PFAを緊急支援の基本的な心理社会的アプローチとして推奨しました。このガイドラインはアラビア語、中国語、フランス語、日本語、スペイン語など多言語に翻訳され、世界中の人道支援現場で参照されています。

IASCのMHPSS支援ピラミッドIASCは緊急時のメンタルヘルス・心理社会的支援(MHPSS)を4層のピラミッドで示しています。第1層は「社会的配慮を組み込んだ基本的サービス・安全保障」、第2層は「コミュニティおよび家族の支援」、第3層が「集中的でない心理社会的支援(PFAはこの層に位置する)」、頂点の第4層が「専門家による集中的なサービス」です。PFAは第3層に位置し、多くの被災者・被害者に広く提供できる支援として設計されています。
日本への導入

日本への導入と東日本大震災

日本へのPFAの本格的な導入は、2011年の東日本大震災を大きなきっかけとしています。それ以前から阪神・淡路大震災(1995年)の経験をもとに日本独自の心理支援モデルが蓄積されてきましたが、WHO版PFAの日本語版が整備されたのは2012年のことです。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が中心となり、WHO本部と契約を締結してPFAの普及活動を開始しました。また、兵庫県こころのケアセンターが米国版PFA実施の手引き(第2版)の日本語訳を作成し、無料で公開したことで、日本全国の支援者にPFAが広まりました。

CORE PRINCIPLE

PFAの基本原則:P+3L(準備・見る・聞く・つなぐ)

WHO版PFAは、活動の基本原則を「P+3L」という非常にシンプルな枠組みで示しています。複雑な心理学的知識がなくても誰でも実践できるよう設計されています。

P+3L

WHO版PFAの活動原則「P+3L」

Pは「準備(Prepare)」、3つのLはそれぞれ「見る(Look)」「聞く(Listen)」「つなぐ(Link)」です。「見る・聞く・つなぐ」という日常的な行為の延長線上に、PFAは位置しているのです。

📋準備(Prepare)

支援に入る前に、状況・利用可能なサービス・安全についての情報を収集する。事前の準備なしに現場に飛び込まない。

準備

「準備(Prepare)」の重要性

PFAにおいて「準備」が特別に強調される理由は、準備なしに支援現場に入ることが、支援者と被支援者の双方にとって危険になりうるからです。

  • 状況の把握何が起きたのか(災害・事故・事件の種類)、被害の規模、支援活動の現状を把握する。
  • 利用可能なサービスの確認現地で利用できる医療サービス・物資・相談窓口・避難所の情報を事前に整理する。
  • 安全の確認支援者自身が危険な場所に踏み込まないよう、安全な活動範囲を確認する。
  • 役割の明確化自分がどのような立場・役割で活動するのかを明確にする(組織の代表として、ボランティアとして、など)。
  • 自分自身の状態の確認支援者自身が極度に疲弊していたり、個人的に影響を受けている場合は、支援に入ることを控える判断も必要。
レジリエンス

レジリエンスを前提としたアプローチ

PFAの根本にある重要な考え方は、「ほとんどの人は、適切なサポートがあれば自然に回復できる」というレジリエンス(回復力)への信頼です。

大規模災害の直後に被災者が示す強い不安・恐怖・混乱・解離などの反応は、異常な状況に対する正常な反応です。こうした急性ストレス反応の多くは、基本的なニーズが満たされ、安全が確保されれば、時間の経過とともに自然に改善します。PFAはこの自然な回復プロセスを「邪魔しない」「妨げない」ことを大切にします。

💡
急性ストレス反応は「異常な状況への正常な反応」災害・事故直後に現れる動悸・震え・涙・混乱・無感覚・記憶の断片化などの反応は、脳と身体が極限状態に対処しようとする自然なメカニズムです。これらの反応を「おかしい」と否定したり、無理に抑圧させることはPFAの精神に反します。
8 CORE ACTIONS

PFAの8つのコアアクション

米国NCTSNと米国国立PTSDセンターが開発し、兵庫県こころのケアセンターが日本語版を作成した「PFA実施の手引き(第2版)」では、PFAを8つのコアアクションとして体系化しています。固定した順序ではなく、状況に応じて柔軟に組み合わせます。

8コアアクション

NCTSN版PFAの8つのコアアクション

これらは固定した順序に従うものではなく、状況に応じて柔軟に組み合わせて実施します。

ACTION 1
🤝被災者に近づき、活動を始める
支援を必要としている人に近づき、安全かつ思いやりのある方法でコンタクトを取る。当事者のペースを尊重し、相手が話したくない・関わりたくないという意思を示した場合は静かに離れる。表情・声のトーン・姿勢・距離感に配慮し、相手と同じ目線になる(立って見下ろさない)。「○○(名前)です。△△(所属)でボランティアをしています。何かお役に立てることがあれば、と思って」という形で穏やかに自己紹介する。可能な限り、周囲から離れたプライバシーが保たれる環境を整える。
ACTION 2
🛡安全と安心感
身体的・心理的な安全を確保し、当事者が安心感を感じられるよう働きかける。現場が危険な場合、まず安全な場所に誘導する。余震・二次災害のリスクがある場合は速やかに離れる。「今この場所は安全です」「避難所の場所は○○です」など、正確で役立つ情報を穏やかに伝える。不確かな情報は伝えない。大切な人と連絡が取れない不安が強い場合、通信手段の確保や安否確認の手助けをする。水・食料・毛布・医療ケアなど、生命に関わる基本的ニーズが満たされているかを確認し、必要に応じて支援につなぐ。
ACTION 3
🌿安定化
強い感情的動揺や圧倒された状態にある当事者が、少しずつ落ち着きを取り戻せるよう支援する。グラウンディング——「今ここにいること」を感じてもらうための技法。深呼吸、周囲の物に触れる感覚への注目、「今聞こえる音を5つ教えてください」などのシンプルな声かけが有効。必ずしも言葉をかけ続ける必要はなく、ただそばにいるだけで孤独感を和らげることができる。強い解離(現実感のなさ・ぼんやりした状態)が見られる場合は、直接目を見て穏やかに声をかけ、現実に引き戻す働きかけをする。泣いたり怒ったりすることは当然の反応であることを伝え、感情の表出を無理に止めない。
ACTION 4
📝情報を集める(いま必要なこと・困っていること)
当事者が今この瞬間に最も必要としていること、困っていることを把握する。「今一番困っていることは何ですか?」「何か必要なものはありますか?」というオープンクエスチョンでニーズを確認する。複数のニーズがある場合は「どれが一番大切ですか?」と優先順位を一緒に整理する。お年寄り・子ども・障害のある人・妊婦・慢性疾患のある人・精神疾患を持つ人など、より手厚い支援が必要な人を把握する。家族の死傷・家屋の損壊・財産の喪失など、当事者が受けた被害の全体像を把握する(詳細な体験談を求めるのではなく、支援のために必要な情報の把握)。
ACTION 5
🧰現実的な問題の解決を助ける
把握したニーズに基づいて、今すぐ対処できる具体的な問題解決を助ける。「どこに電話すればいいかわからない」という人には、連絡先を調べて一緒に電話する。「薬が手元にない」という人には、医療スタッフや薬剤師につなぐなど、具体的な行動を支援する。当事者自身が問題を解決できると感じられるよう、「あなたが決めることです。どうしたいですか?」というエンパワメントの姿勢を大切にする。過度に「やってあげる」のではなく自律性を支える。現地の支援機関・相談窓口・福祉サービスの情報を、正確性を確認してから伝える。
ACTION 6
👥周囲の人々との関わりを促進する
社会的なつながりは、心理的回復の最も重要な資源の一つ。孤立を防ぎ、家族・友人・コミュニティとの関わりを促す。離ればなれになった家族・友人との連絡・再会をできる限り早期に実現できるよう支援する。地域の自治会・宗教コミュニティ・ボランティアグループなど、既存のつながりを活用する。一人暮らし、独居高齢者、言語の壁がある外国人住民など、特に孤立しやすい人に意識的に声をかける。同じ体験をした人同士が安全な環境でつながれるよう、コミュニティの場や語り合いの機会を提供する。
ACTION 7
📘対処に役立つ情報
災害・危機体験後の一般的な反応と、それへの対処方法についての情報を提供する。「眠れない」「ドキドキが止まらない」「気力がわかない」といった反応が、危機体験後に多くの人が経験する自然な反応であることを伝える。「異常」ではなく「正常」であることを知るだけで、当事者の不安が和らぐ。十分な水と食事を摂ること、できる限り休息を取ること、アルコールへの依存を避けること、定期的に体を動かすことなど基本的なセルフケアを具体的に勧める。「多くの人は時間とともに回復します。でも、なかなか回復しない場合は専門家に相談することが大切です」という現実的かつ希望を持てる情報を提供する。子どもや高齢者には、それぞれの年齢・発達段階に応じた情報が必要。
ACTION 8
🔁紹介と引き継ぎ
PFAの範囲を超えた専門的なサポートが必要な人を、適切な支援機関・専門家に確実につなぐ。自殺念慮・自傷行為・重篤な精神症状(幻覚・妄想・強い解離)・物質乱用・深刻な身体症状が見られる場合は、速やかに専門医につなぐ。活動前の「準備」で把握した支援機関・医療機関のリストをもとに、当事者のニーズに合った機関を案内する。「この先は〇〇という機関が対応してくれます。一緒に行きましょうか」など、当事者が孤立しないような引き継ぎを意識する。可能な範囲で、紹介後も「どうでしたか?」と声をかけ、適切なサポートが続いているか確認する。
緊急サイン

緊急の専門的支援が必要なサイン

以下のサインがある場合は、PFAにとどまらず、医療機関・精神科・救急への紹介を即座に行います。

  • 「死にたい」「消えたい」という言葉や自殺企図のサイン
  • 自傷行為(切傷、殴打など)
  • 幻覚・妄想・ひどい錯乱状態
  • アルコール・薬物の過剰摂取
  • 強い興奮・暴力的行動
  • 基本的な自己管理ができないほどの重篤な機能低下
🚨
ためらわずに専門医療へこれらのサインが見られたら、PFAの実施よりも安全確保と即時の専門医療への紹介を優先します。一人で抱えず、救急・精神科救急・かかりつけ医に連絡しましょう。
DISTINCTION

心理的デブリーフィングとの決定的な違い

PFAと心理的デブリーフィング(CISD)は表面的に似ているように見えて、根本的なアプローチが異なります。違いを正しく理解することは、被支援者を「傷つけない」ために不可欠です。

CISDとは

心理的デブリーフィングとは

心理的デブリーフィング(Psychological Debriefing、特にCritical Incident Stress Debriefing:CISD)は、1970年代にJeffrey Mitchellによって開発され、1990年代に災害・緊急支援の現場で爆発的に普及した心理的介入手法です。災害・事故直後の被害者・救援者を集め、体験した出来事の認知的・感情的反応を系統的に語らせることで、PTSDの発症を予防することを目指しました。

PFAとCISDの比較

PFAと心理的デブリーフィングの比較

PFAとCISDは、基本的立場・体験の語り・参加意思・実施者・タイミング・科学的エビデンス・国際的推奨において根本的に異なります。

PFA
基本的立場
当事者のニーズを中心に置き、自律性を尊重する支持的アプローチ
CISD
基本的立場
体験を語らせることでカタルシス・感情処理を促す介入的アプローチ
PFA
体験の語り
体験の詳細を無理に語らせない。当事者が話したいときに話せる環境を整える
CISD
体験の語り
参加者全員が体験を語ることを積極的に求める
PFA
参加の意思
当事者の意思を最優先。支援を望まない人に無理に介入しない
CISD
参加の意思
グループ参加が基本。参加の強制が問題になることも
PFA
実施者
非専門家でも訓練後に実施可能
CISD
実施者
訓練を受けた専門家が実施することが前提
PFA
タイミング
危機直後から継続的に実施可能
CISD
タイミング
危機後24〜72時間以内の早期実施が想定されていた
PFA
科学的エビデンス
有害性のエビデンスなし。多くの専門機関が推奨
CISD
科学的エビデンス
PTSD予防効果を示すエビデンスなし。一部で逆効果のエビデンスあり。WHO・多くの専門機関が推奨を撤回
PFA
国際的推奨
WHO・IASC・IFRC・各国政府機関が推奨
CISD
国際的推奨
緊急支援としての単回デブリーフィングはWHOほか主要機関が推奨せず
Do No Harm

「害を与えない」の具体的な意味

PFAが心理的デブリーフィングとの対比で最も強調するのが「害を与えない(Do No Harm)」原則です。この原則が具体的に意味することは以下のとおりです。

  • 回復中の防衛機制を壊さないトラウマ体験直後、人は本能的に感情の距離を置くことで自分を守ろうとする(解離・麻痺・感情の抑制)。この防衛機制を無理に打ち破ることは、かえって心理的ダメージを拡大する。
  • 過度な注目を避ける大勢の前で被災者を「被害者」として焦点化することは、スティグマや羞恥心を生む可能性がある。
  • 誤った情報を伝えない不確かな情報や根拠のない安心保証は、後で信頼を損なう。
  • 支援者の感情的な巻き込まれを防ぐ支援者が過度に感情移入することで、当事者の感情的な混乱が強化される可能性がある。
WHO & WHOM

PFAの対象者と実施者

PFAは深刻な危機的体験に直面した人なら誰でも対象となり、また適切な研修を受けた人なら専門家でなくても実施できます。

対象者

PFAの対象となる人々

PFAは、深刻な危機的体験に直面した人であれば、基本的に誰でも対象となります。具体的には以下のような状況に置かれた人々です。

🌊
自然災害の被災者
地震・津波・台風・洪水・土砂崩れなどの被災者および家族。
🚨
事故・事件の被害者
交通事故・火災・テロ・暴力被害など。
🌍
人的災害の影響を受けた人
紛争・難民・強制退去など。
🕊
大切な人を突然亡くした人
予期しない死別、自殺による遺族など。
💔
その他の深刻なストレス体験
深刻ないじめ・DV・虐待・性被害・職場の重大なインシデントなど。
静かな人にも声をかける「明らかに困っていない」「落ち着いているように見える」人も、内面で大きなストレスを抱えている可能性があります。「声をかけてほしそうな人」だけでなく、ひとりでいる人・静かに座っている人・ぼんやりとしている人にも積極的に、しかし押しつけがましくない形で声をかけることを推奨します。
実施者

PFAの実施者——誰でも実践できる

PFAは、精神保健の専門家だけが実施するものではありません。適切な研修・情報を受けた人であれば、以下のような幅広い人々がPFAを実施できます。

医療・保健職
医師・看護師・保健師・薬剤師・救急救命士など。
🧠
精神保健専門職
精神科医・臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。
📚
教育職
教師・スクールカウンセラー・養護教諭・保育士。
🤲
社会福祉職
社会福祉士・ケアマネジャー・生活相談員。
🚒
行政・防災職
自治体職員・消防士・警察官・自衛隊員。
🌐
NGO・ボランティア
人道支援団体スタッフ・地域ボランティア・被災経験者。
💡
PFAは「特別なカウンセリング技術」を要求するものではなく、「誠実に人に寄り添い、つなぐ」という人間的な能力を体系化したものです。ただし、研修を受けずに実施することは推奨されません。事前の学習と実践的な演習が、安全な実施の前提となります。
APPLICATION

PFAを実施する場面・タイミング・領域別活用

急性期だけでなく亜急性期・復興期にも有効。災害支援、子ども・学校、職場・地域コミュニティといった多様な場面でPFAは活用されています。

タイミング

PFAを実施する場面・タイミング

PFAが最も効果を発揮するのは、危機的体験の直後から数日間の急性期です。ただし、活動は急性期だけに限定されません。亜急性期・復興期にもPFAの原則に基づくアウトリーチが有効です。

急性期
発生直後〜数日
感情的混乱が最も強く、基本的ニーズが最も急迫する時期。災害発生直後の避難所・救護所、事故・事件の現場や病院の待合室、大切な人の突然死・自殺の知らせを受けた直後の家族、職場での重大インシデント発生直後の従業員などへの支援が典型。
PFA最大効果
亜急性期
数日〜数週間
初期の混乱が落ち着いた後、喪失の実感・生活再建の困難・家族関係の変化などへの対応。感情的な波が続くが、少しずつ現実的な問題対処が始まる。悲嘆・怒り・罪悪感・無力感などが交互に現れることがある。
継続支援
復旧・復興期
数ヶ月〜数年
生活環境の変化による慢性的なストレス・孤立・経済的困難への対応。この時期に精神健康上の問題が顕在化するケースも多い。多くの人はこの段階で日常的な機能を徐々に取り戻すが、一部の人は症状が遷延し専門的なサポートが必要になる。
アウトリーチ
記念日反応
周年・月命日
災害や事故の周年・月命日などに強い悲嘆・症状の再燃が起きる「アニバーサリー反応」への対応。
フォローアップ
長期的適応
数ヶ月〜数年
体験を自分の人生の一部として統合し、新たな意味を見出すプロセス。「ポストトラウマティック・グロース(PTG)」と呼ばれる、体験を経た後の心理的成長が起きることもある。
PTG
不適切な場面

PFAが不適切な場面

PFAがすべての状況で適切なわけではありません。以下の場面では、PFAの範囲を超えた専門的介入が必要です。

  • !自殺念慮・自傷・他者への危害リスクが高い場合——精神科救急・救急医療機関への即座の紹介が必要
  • !精神疾患の急性増悪(幻覚・妄想・強い興奮状態)——精神科医・救急医への紹介
  • !重篤なアルコール・薬物中毒——医療機関への紹介
  • !複雑性グリーフ・慢性PTSD——心理士・精神科医による専門的な心理療法が必要
日本の災害支援

日本におけるPFAの普及と災害支援への活用

日本は「四大災害国」と呼ばれる自然災害多発国です。阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)など大規模災害が繰り返される中で、日本の災害精神医学・災害時こころのケアのあり方は大きく進化し、PFAはその中核に位置づけられるようになっています。

  • 1995年 阪神・淡路大震災日本の大規模災害後のこころのケアの必要性が初めて広く認識された。精神科医・心理士・保健師が被災地に入り活動したが、当時は体系的なガイドラインが存在しなかった。
  • 2011年 東日本大震災DPAT(災害派遣精神医療チーム)の前身となる精神科医療チームが全国から被災地に派遣。WHO版PFAの日本語版整備のきっかけとなった。
  • 2012年以降国立精神・神経医療研究センター(NCNP)がWHO版PFA日本語版を整備・公開。兵庫県こころのケアセンターがNCTSN版PFA(手引き第2版)の日本語版を無料公開。全国での普及研修が始まった。
  • 2016年 熊本地震・その後DPAT(2013年度に制度化)が機能し、PFAを基本原則とした体系的な精神医療支援が展開された。
DPAT(災害派遣精神医療チーム)とPFADPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)は、大規模災害時に被災地の精神医療機能を支援するために組織・派遣される専門チームです。2013年度に厚生労働省により制度化され、全国の都道府県がそれぞれDPATを組織・登録しています。精神科医・看護師・精神保健福祉士・臨床心理士・業務調整員で構成され、被災地の避難所や仮設住宅を訪問してPFAに基づいた支援を行うほか、現地の支援者(保健師・福祉職など)にPFAを伝授する役割も担います。

日本の主要なPFA普及機関:

  • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ストレス・災害時こころの情報支援センターWHO版PFAの日本語版整備・普及の中心機関。研修・情報提供を実施。
  • 兵庫県こころのケアセンター(J-HITS)NCTSN版PFA実施の手引き(第2版)・学校版PFAの日本語版を無料公開・普及。
  • 日本赤十字社IFRC版PFAガイドを基にした研修「サイコロジカルファーストエイドワークショップ」を定期開催。
  • セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン子どものためのPFAの普及研修を実施。
  • 各都道府県精神保健福祉センター地域の支援者向けにPFA研修を実施。
  • 日本心理臨床学会・日本トラウマティック・ストレス学会PFAに関する学術研究・情報発信・専門職教育を担う。
子どものPFA

子どものためのPFA(PFA for Children)

子どもは発達段階の特性から、大人とは異なる形でストレス・トラウマ体験に反応します。「子どものためのPFA」は、セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルが2013年にWHOマニュアルを基に開発した子ども向けの特化版マニュアルで、日本語版も整備され、学校・保育施設・子ども支援NPOなどで広く活用されています。

子どものストレス反応の特徴(年齢別):

🍼
乳幼児(0〜5歳)
過度の泣き・ぐずり、退行(おねしょの再発・指しゃぶりなど)、親から離れられない分離不安、睡眠障害・悪夢、食欲変動。
🎒
学童期(6〜12歳)
集中力の低下・成績の悪化、頭痛・腹痛などの身体症状、ごっこ遊びや絵画での体験の再現、引きこもりまたは攻撃的行動、過度の心配・恐怖。
🧑‍🎓
思春期・青年期(13〜18歳)
反抗的行動・リスク行動の増加、アルコール・薬物などへの逃避、引きこもりや社会的孤立、体験のフラッシュバック・悪夢、否定的な世界観・将来への絶望感。

子どもへのPFA実施の基本原則:

  • 子どもの目線に合わせる:身体的にも心理的にも子どもと同じ目線に立つ。しゃがんで話すなど、子どもが安心できる物理的距離感を保つ
  • 遊びと創造活動を活用する:幼い子どもは言葉よりも遊びや絵描きなどを通じて感情を表現することが多い。遊びを通じた非言語コミュニケーションを大切にする
  • 正直に・子どもがわかる言葉で説明する:「大丈夫だよ(大丈夫でない状況でも)」という嘘の安心より、「怖いよね。でも今ここは安全だよ。大人がそばにいるからね」という正直さが子どもの信頼を生む
  • 日常のルーティンを回復する:災害後もできる限り食事・睡眠・学習などのルーティンを維持することが、子どもの安心感の回復に重要
  • 親・養育者を通じた支援:子どもは養育者の状態を敏感に感じ取る。親・養育者自身が安定していること、その人たちへの支援も同時に行うことが重要
学校でのPFA

学校でのPFA:教師・スクールカウンセラーの役割

「学校版PFA(PFA for Schools)」は、学校内での緊急事態(生徒の突然の死・重大な事故・自然災害の直後など)に教職員が実施するためのガイドラインです。NCTSN版の学校版PFAが兵庫県こころのケアセンターにより日本語化されています。

  • 教師の役割クラス全体の安全確認・生徒の観察・感情を表現できる空間の提供・特に落ち込んでいる生徒の把握とスクールカウンセラーへの紹介。
  • スクールカウンセラーの役割個別相談・保護者への連絡・専門機関への橋渡し・教職員へのコンサルテーション。
  • 避けてほしいこと全校集会で詳細な体験を語らせる・クラス全員を強制的なグループセッションに参加させる・「頑張れ」「強くなれ」といった感情を否定するメッセージを送る。
職場でのPFA

職場でのPFA——産業保健とメンタルヘルス

職場においても、PFAの考え方は重大な出来事(同僚の突然死・重大事故・深刻なハラスメントインシデントなど)後のメンタルヘルス対応として活用できます。

  • 産業医・保健師による初期対応インシデント直後、産業医・保健師がPFAの原則に基づき、当事者・同僚に対して安全・安心感の提供・基本的なニーズの確認を行う。
  • 管理職への啓発管理職がPFAの基本を知ることで、「部下を傷つけないサポート」ができるようになる。「早く立ち直れ」「みんなのために頑張れ」などの逆効果なメッセージを避ける。
  • EAP(従業員支援プログラム)との連携急性期のPFAで初期対応をしつつ、中長期的なカウンセリング支援はEAPのカウンセラーにつなぐ。
  • 「普通の仕事仲間としてのPFA」重篤なインシデントの後、職場の同僚が「ただそばにいる」「いつもどおりに接する」「必要なら話を聞く」という自然なPFAを実践することが、当事者の回復を大きく支える。
地域コミュニティ

地域コミュニティでのPFA——自助・共助の力

日本では「自助・共助・公助」の考え方が防災の基本とされていますが、PFAは特に「共助」の中核的な心理的側面を担います。

  • 自主防災組織へのPFA研修町内会・自治会の防災訓練の中にPFAの基本を組み込むことで、地域住民が初期の心理的支援を担う力をつける。
  • 民生委員・児童委員によるPFA地域の見守り役として活動する民生委員・児童委員が、PFAの基本を学ぶことで、より効果的なアウトリーチが可能になる。
  • 宗教者・寺院・教会によるPFA地域に根ざした宗教者が、悲嘆や喪失を抱えた人に対してPFAの原則に基づいた支援を行うことは、特に農村部・高齢者の多いコミュニティで有効。
💡
「普通の人」こそPFAの担い手専門家による支援が届く前の数時間〜数日間、最初に被災者に接するのは近隣の住民・職場の同僚・家族です。この「普通の人」が「ただそばにいる」「必要なら話を聞く」「飲み水や温かいものを持っていく」といった基本的なPFAを実践することが、最も大きな支えになります。
RECOVERY & SELF-CARE

回復プロセス・PTSD・支援者自身のケア

多くの人は適切なサポートで自然に回復しますが、一部の人は専門的支援が必要となります。また、PFAを担う支援者自身のセルフケアもPFAの不可欠な一部です。

回復プロセス

自然な回復のプロセス

適切なPFAと基本的なニーズ(安全・食料・住居・家族との連絡)が確保された場合、多くの人は時間の経過とともに自然に回復します。研究によれば、災害直後に現れる急性ストレス症状の多くは、1〜3ヶ月の間に改善することが多いとされています。回復は急性期→亜急性期→回復期→長期的適応の段階を経て、ポストトラウマティック・グロース(PTG)と呼ばれる心理的成長が起きることもあります(詳細は前セクションのタイムライン参照)。

PTSD

専門的支援が必要なサインとPTSD

多くの人は自然に回復しますが、一部の人は時間が経っても症状が改善せず、専門的なサポートが必要となります。以下のようなサインが見られる場合は、精神科・心療内科・心理士への相談を検討してください。

  • フラッシュバック(体験が突然鮮明に蘇る)・悪夢が1ヶ月以上続く
  • 体験に関連する場所・人・状況を極度に避ける回避行動が顕著
  • 常にビクビクしている・些細な刺激でパニックになる過覚醒状態が続く
  • 「自分には生きている価値がない」「すべてが自分のせいだ」などの強い自己否定・罪悪感
  • 「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちがある
  • アルコール・薬物への依存が増している
  • 仕事・学校・日常生活に著しい支障が出ている
⚠️
PTSDとは——専門的な支援が必要な状態PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、危機的体験から1ヶ月以上経過しても再体験症状・回避症状・認知・気分の変化・過覚醒症状が持続し、日常生活に著しい障害をきたす状態です。PTSDには、持続的暴露療法(PE)・認知処理療法(CPT)・EMDRなど、有効性のエビデンスが確立した心理療法があります。「時間が解決してくれる」と我慢するのではなく、専門家への相談が重要です。
セルフケア

回復を助けるセルフケアの実践

専門的な支援を受けながら、日常的なセルフケアも回復を支える重要な柱です。

規則正しい生活リズムの維持
睡眠・食事・起床時間を一定に保つことが、乱れた神経系の安定化を助ける。
🚶
身体活動
ウォーキング・ヨガ・ストレッチなど、自分のペースでできる身体活動がストレスホルモンを減少させ、気分を改善する。
💬
社会的つながりの維持
気力がないときでも、信頼できる人と短時間でも連絡を取ることが孤立感を防ぐ。
🚱
アルコール・薬物を避ける
飲酒は短期的には気持ちを和らげるように感じられるが、長期的には症状を悪化させ、依存のリスクが高まる。
🌬
グラウンディング技法
フラッシュバックや強い不安を感じたとき、「今ここにいること」を確かめる——深呼吸をする・足を床につける感覚に集中する・周囲の物の色や形を数える。
📵
情報との距離感
災害・事件のニュースや関連情報に24時間さらされ続けることは、症状を悪化させる。意識的に「ニュースを見ない時間」を作ることが重要。
二次的トラウマ

支援者が直面するリスクと二次的トラウマ

PFAを実施する支援者は、他者の苦しみに継続的にさらされることで、自身の心理的健康に影響を受ける可能性があります。これを「二次的トラウマティックストレス(Secondary Traumatic Stress)」または「共感疲労(Compassion Fatigue)」と呼びます。

PFAのガイドラインはすべて、「支援者が自分自身のケアをすることも、支援活動の不可欠な一部である」と明確に述べています。燃え尽きた支援者は、当事者への質の高いケアを提供できなくなるだけでなく、自分自身も深刻なメンタルヘルス上の問題を抱えるリスクがあります。

二次的トラウマのサイン:

  • !支援した相手の体験が頭から離れない・フラッシュバックする
  • !感情的に麻痺している・何も感じなくなる(感情的虚脱)
  • !支援活動に対する意欲の著しい低下・燃え尽き感
  • !「誰を助けても意味がない」「自分には何もできない」という無力感・虚無感
  • !睡眠障害・食欲の変化・身体的疲労の慢性化
  • !支援活動に関連する状況・話題を避けるようになる
  • !人間全般への不信感・シニカルな態度の増大
支援者のケア

支援者のセルフケアの実践

支援者のセルフケアは、個人レベルと組織レベルの両面から行う必要があります。

  • 活動前の準備自分の心理的な状態・強みと脆弱性を把握する。「今日は支援できる状態にあるか」を自己点検する。
  • 活動中の区切り休憩を必ず取る。一人で抱え込まず、チームメンバーと情報と感情を共有する。
  • 活動後のデブリーフィング(チームケア版)チームで活動を振り返り、感じたことを安全に共有する。このデブリーフィングは、被支援者に行う「心理的デブリーフィング」とは根本的に異なり、支援者の相互ケアを目的とするもの。
  • 身体的ケア十分な睡眠・栄養・水分を確保する。アルコールへの依存を避ける。
  • 社会的サポートの維持家族・友人との交流を絶やさない。支援活動から完全に離れる「オフ」の時間を確保する。
  • 専門的なスーパービジョン定期的にスーパーバイザーや同僚に相談できる機会を確保する。
組織の責任:支援者を守るのは個人の努力だけではない支援者のセルフケアは個人の努力だけに委ねるべきものではありません。組織として、休憩・交代・スーパービジョンの機会を保障し、支援者が安心して「今日は限界です」と言える文化を作ることが組織の責任です。
LEARN & REFER

PFAの研修・学び方と専門紹介の実践

PFAは資格不要ですが、研修受講が強く推奨されます。日本の研修機会、無料の自学資料、専門機関への紹介の実践ポイントを紹介します。

研修

日本で受けられる主な研修

PFAは特定の「資格」を必要とするものではありませんが、実際に実践するには研修(ワークショップ・トレーニング)を受けることが強く推奨されます。座学で概念を学ぶだけでなく、ロールプレイなどの実践的演習を通じて体験的に習得することが重要です。

  • 日本赤十字社 PFAワークショップ「令和6年度サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)ワークショップ」を国際要員向けに定期開催。対象は日本赤十字社の国際活動関係者だが、国際支援に関心がある人にも広く開かれている。
  • 国立精神・神経医療研究センター主催研修「災害時PFAと心理対応研修」を定期開催。精神保健専門職・行政職向けの実践的研修。
  • 都道府県精神保健福祉センター主催研修各都道府県の精神保健福祉センターが、地域の支援者向けに開催するPFA研修。保健師・福祉職・教育職向け。
  • セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どものためのPFA」研修を定期開催。教育・福祉・国際支援分野の方向け。
  • 各大学院・職能団体臨床心理士・公認心理師の養成課程や各職能団体の継続研修でPFAが取り上げられることが増えている。
自学リソース

自学自習のためのリソース

公的機関が無料で公開しているマニュアル・ガイドを活用することで、独学でもPFAの基礎を学べます。

  • WHO版PFAフィールドガイド(日本語版)ストレス・災害時こころの情報支援センターのウェブサイトから無料でダウンロード可能。
  • PFA実施の手引き第2版(NCTSN版)日本語版兵庫県こころのケアセンター(J-HITS)のウェブサイトから無料でダウンロード可能。
  • PFAガイド要約版(IFRC版)日本赤十字社・国際赤十字のウェブサイトから入手可能。
  • 子どものためのPFA(セーブ・ザ・チルドレン)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのウェブサイトで紹介版資料が公開されている。
  • eラーニング(英語)米国国立PTSDセンターがNCTSN版PFAのオンラインコースを提供。「PFA Online」として無料で受講可能(英語)。
学ぶ際の注意

PFAを学ぶ際の注意点

  • 「PFAを学んだから何でもできる」と思わないPFAは心理療法ではなく、あくまでも初期の人道的支援。複雑なトラウマ・PTSD・精神疾患には専門的な介入が必要。
  • 自分の限界を知る支援者として自分がどこまでできるか、どこからは専門家に任せるべきかを明確にしておく。
  • 定期的な更新PFAの知識は時間とともに更新される。定期的に最新のガイドラインを確認し、研修を受けなおすことが重要。
専門紹介

専門的な心理支援への紹介・つなぎ方

PFAの8つのコアアクションの最後が「紹介と引き継ぎ」であることが示すように、PFAは専門的な支援の代替ではなく、専門的な支援につなぐための架け橋です。支援者は「私がすべてを解決しなければならない」という思い込みを手放し、適切なタイミングで適切な専門家につなぐことを「成功」として捉える必要があります。

緊急支援が必要な場合の紹介先:

  • 自殺念慮・自傷行為いのちの電話(0120-783-556)・よりそいホットライン(0120-279-338)・精神科救急・救急病院。
  • 精神疾患の急性増悪かかりつけの精神科医・精神科救急・救急病院。
  • 身体的な緊急状態救急車(119)・救急病院。
  • DVや虐待配偶者暴力相談支援センター(各都道府県)・児童相談所(0120-189-783)・警察(110)。

継続的な精神的サポートが必要な場合の紹介先:

  • 精神科・心療内科PTSD・うつ病・適応障害・不安障害などの診断と治療。薬物療法・心理療法の両面からの支援が受けられる。
  • 精神保健福祉センター各都道府県・政令指定都市に設置。精神科医・臨床心理士・精神保健福祉士による無料相談。匿名での相談も可能。
  • 臨床心理士・公認心理師PTSD・複雑性グリーフ・適応障害などに対する心理療法(持続的暴露療法・EMDR・認知処理療法など)を提供。
  • 社会福祉協議会・福祉事務所生活上の困難(住居・経済的問題)への支援。災害時の生活再建支援。
  • 被害者支援センター犯罪・事故の被害者向けに、心理的支援・法的支援・生活支援を総合的に提供。
💡
自立支援医療制度(精神通院医療)の活用災害・危機体験後のPTSD・うつ病・適応障害・不安障害などで精神科・心療内科への継続通院が必要となった場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで、医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。申請窓口は市区町村の福祉担当部署です。詳細は最寄りの精神保健福祉センターにお問い合わせください。

「紹介」を成功させるためのコツ:

  • 本人の意思を確認する「専門家に相談してみませんか。一緒に考えましょうか」と提案し、本人の意思を尊重する。押しつけない。
  • スティグマへの配慮「精神科に行く=弱い・重病だ」というイメージを払拭する説明をする。「こころの風邪を放置すると悪化するのと同じで、専門家に診てもらうことが賢明な選択です」などの言葉で、受診へのハードルを下げる。
  • 具体的な情報を提供する「○○にある○○クリニックに電話してみてください」「精神保健福祉センターは無料で匿名でも相談できます」など、具体的で行動に移しやすい情報を伝える。
  • 可能なら一緒に行く電話をかけるのを一緒に行う、初回の受診に同行するなど、実際の行動を一緒にサポートすることで紹介の成功率が高まる。
FAQ

よくある質問

PFAについてよく寄せられる質問にお答えします。

FAQ

PFAに関するよくある質問

Q. PFAは資格がないとできませんか?

A. いいえ、PFAは特定の資格を必要とするものではありません。医師・心理士・看護師などの専門家はもちろん、教師・ボランティア・地域住民・職場の同僚など、基本的な研修を受けた人であれば誰でも実践できます。ただし、研修を受けずに行うことは推奨されません。まず、WHO版PFAフィールドガイドや兵庫県こころのケアセンターが無料公開しているPFA実施の手引きを読み、可能であれば対面でのワークショップに参加してから実践することをお勧めします。

Q. PFAとカウンセリングはどう違いますか?

A. PFAとカウンセリング(心理療法)は根本的に異なるものです。カウンセリングは、訓練を受けた専門家(臨床心理士・公認心理師など)が継続的なセッションを通じて心理的問題の治療を行うものです。一方、PFAは危機直後の急性期に、できる限り幅広い人に対して人道的・実際的な支援を提供する初期対応アプローチです。PFAは「カウンセリングの前段階」とも言え、PFAで初期の安定化を図った後、必要に応じてカウンセリングや専門的心理療法につないでいくという位置づけが適切です。

Q. 「何か言ってあげなければ」と焦ってしまいます。どうすればいいですか?

A. PFAにおいて最も大切なことの一つは、「ただそこにいること」です。苦しんでいる人に対して、必ずしも特別な言葉をかけなければならないわけではありません。「何か言わなければ」「解決策を提示しなければ」という焦りが、かえって当事者にプレッシャーを与えることもあります。安全な存在として静かにそばにいること、当事者が話したいときに話を聞く姿勢でいること、「あなたのそばにいます」というメッセージを非言語(表情・態度・眼差し)で伝えることが、PFAの本質です。「何を言うか」より「どのようにあるか」の方が重要なのです。

Q. PFAはいつから始めればいいですか?緊急直後でないとダメですか?

A. PFAは緊急直後だけに限定されるものではありません。確かに危機発生後の急性期(数日間)が最も重要な時期ですが、数週間・数ヶ月後にも心理的なサポートが届いていない人に対してPFAの原則を活用することは有効です。ただし、時間が経つにつれて、単純な「話を聞く・安全を確保する」を超えた専門的な支援が必要になる可能性も高まります。長期間症状が続く場合は、PFAを続けながら専門的な心理支援(カウンセリング・精神科受診)につなぐことが重要です。

Q. 自分自身が被災していても、PFAを実施できますか?

A. これは非常に重要な問いです。自分自身が深刻な被害を受けていたり、強い感情的影響を受けている状態でPFAを実施することは、支援の質の低下につながるだけでなく、自分自身のメンタルヘルスをさらに悪化させるリスクがあります。自分が「今日は支援できる状態ではない」と感じる場合は、正直にそれを認め、支援から一時的に離れることが正しい判断です。PFAのガイドラインは、支援者が自分自身のケアを最優先にすることを明確に定めています。

Q. 被災後しばらく経ってから、急に気持ちが落ち込んできました。これは普通ですか?

A. はい、これは多くの被災者・被害者が経験することです。災害・事故直後は「なんとかしなければ」という緊張感・アドレナリンで動けていても、ある程度時間が経って安全な状況になったとき、初めて体験の重さが心身に響いてくることがあります。これは「遅延した反応」と呼ばれ、珍しいことではありません。ただし、2週間以上強い落ち込み・不眠・フラッシュバックなどが続く場合は、精神保健福祉センターや心療内科・精神科に相談することをお勧めします。一人で抱え込まないでください。

深刻な出来事のあと、
一人で抱え込まないでください

災害・事故・喪失——大きな出来事のあとに心が揺れるのは、異常ではなく自然な反応です。あなたの気持ちを、ココトモに聞かせてください。

今すぐ話したい方へ——相談窓口
ココトモ相談するチャット相談・無料
いのちの電話0120-783-55624時間・無料
よりそいホットライン0120-279-33824時間・無料

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。継続的な通院が必要な場合は自立支援医療制度(精神通院医療)により医療費の自己負担を軽減できます(原則1割負担)。詳細は精神保健福祉センターまたは市区町村の福祉担当窓口にご相談ください。

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