メンタルヘルス用語辞典 · 心理的応急処置(PFA)

心理的応急処置(PFA)とは?
WHO国際標準の「見る・聞く・つなぐ」をわかりやすく解説

災害・事故・突然の喪失など、強烈なストレス体験に晒された人々への急性期支援の枠組み——心理的応急処置(PFA)。WHO・赤十字が国際標準として推奨する「見る・聞く・つなぐ」の3原則、歴史と国際的広がり、職場・災害・自死リスクへの応用、支援者自身のセルフケアまでをまとめました。

ABOUT PFA

心理的応急処置(PFA)とは

PFA(Psychological First Aid)は、災害・事故・犯罪・突然の喪失など、強烈なストレス体験に見舞われた人々に対し、急性期に提供する人道的・実践的な心理社会的支援の枠組みです。WHOや赤十字が国際標準として推奨し、専門家だけでなく現場にいるすべての人が学び活用できます。

定義

心理的応急処置(PFA)の定義

心理的応急処置(PFA:Psychological First Aid)とは、生命の危機や大きな喪失体験など、圧倒的なストレスに晒された人々に対して、急性期(発生直後から数日〜数週間)に行う心理社会的支援の体系的な枠組みです。名称に「応急処置」という言葉が使われていますが、身体的な傷の消毒・止血といったファーストエイドと同じ発想で、心の緊急時にも誰でも実践できる最初の支援を提供しようというコンセプトに基づいています。

PFAは特定の心理療法でも精神医学的診断の手続きでもありません。まず人々の安全を確保し、基本的なニーズ(水・食料・シェルター・医療など)に対応し、孤立感を和らげ、社会的なつながりを回復させ、必要な場合に専門的な支援機関へ橋渡しすることを目的としています。

「あなたは一人ではない」を伝える被災者や危機に直面した人に「あなたのことを気にかけている人がいる」「あなたは一人ではない」というメッセージを伝え、自然回復力(レジリエンス)を引き出すことを最優先にします。
目的とDo No Harm

「害を与えない」が最重要原則

PFAが最も重視するのは、「害を与えない(Do No Harm)」という原則です。良かれと思っておこなう支援が、かえって苦しんでいる人を傷つけることがあります。たとえば、無理に話を聞き出そうとしたり、気持ちを整理するよう求めたり、感情表現を強要したりすることは、急性期の心理支援では逆効果になる場合があります。PFAはこうした危険を回避し、証拠に基づいた最善の支援を提供するために設計されています。

💡
善意が傷つけることもある急性期にトラウマ体験を繰り返し語らせることは、再トラウマ化のリスクがあります。「話してすっきりさせよう」という善意の介入が、回復を妨げることもあるのです。
対象と担い手

対象は「すべての助けを必要としている人」、担い手は「現場にいる誰でも」

WHO版PFAマニュアルによれば、PFAの対象は「あらゆる年齢の、助けを必要としているすべての人々」であり、提供者は「人道支援活動に携わるすべての人」とされています。医師・看護師・心理士などの専門家だけでなく、消防士・警察官・教師・地域のボランティア・宗教指導者・行政職員など、危機の現場にいる多種多様な人が担い手となります。PFAは「誰でも学べる、誰でも使える」支援技法として設計されています。

急性期の特徴

「今、この瞬間」の安全と安心に焦点を当てる

PFAの大きな特徴の一つは、「被災体験や感情を詳しく語らせない」という姿勢です。急性期にトラウマ体験を繰り返し語ることが必ずしも有益ではなく、むしろ再トラウマ化のリスクがあることが研究で示されています。PFAは過去の体験を掘り下げるのではなく、「今、この瞬間」の安全と安心に焦点を当てます。

HISTORY

PFAの歴史と国際的な広がり

PFAは第二次世界大戦中の「最前線でのケア」を起源としつつ、2000年代以降に現代的な形が整いました。WHO・米国NCTSN・赤十字などの国際機関により、世界100か国以上で標準化されています。

起源と発展

戦時下から始まった心理的応急処置

PFAという概念の起源は第二次世界大戦中にまでさかのぼります。戦闘ストレス反応を呈した兵士たちへの緊急心理支援として、「最前線でのケア(Forward treatment)」が試みられたことが出発点とされています。

現代的なPFAの形が整い始めたのは2000年代以降であり、2003年にNational Child Traumatic Stress Network(NCTSN)と米国国立PTSD研究センター(NCPTSD)が共同でPFAフィールドオペレーションガイドを開発・公表したことが大きな転換点となりました。

国際標準化

WHO版PFAと8つのコアアクション

2011年にはWHO(世界保健機関)が国連機関・赤十字国際委員会・国際赤十字・赤新月社連盟との協働で「WHO版PFA:フィールドワーカーのためのガイド」を作成・公表し、世界標準の心理的応急処置として国際的な認知を得ました。これ以降、世界各地での災害・紛争・大規模事故への対応において、PFAは急性期支援の基本フレームワークとして広く採用されています。

同じく2011年には「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版」の日本語版が兵庫県こころのケアセンターによって翻訳・公開されました。これは米国NCTSN・NCPTSDが開発したより詳細な実践マニュアルで、以下の8つのコアアクションを解説しています。

  • 1. 接触と関与
  • 2. 安全と安心感
  • 3. 安定化
  • 4. 情報収集
  • 5. 現実的な支援
  • 6. 社会的支援との連携
  • 7. 対処に関する情報
  • 8. 協力サービスとの連携

現在PFAは、100か国以上で実施・普及されており、自然災害・武力紛争・テロ・難民支援・パンデミックなど、あらゆる緊急事態への心理社会的対応の基礎となっています。国連人道問題調整事務所(OCHA)や国境なき医師団(MSF)なども、活動指針にPFAを取り入れています。

COVID-19と遠隔PFA

パンデミック下で進化した「遠隔PFA」

2020年から2023年にかけてのCOVID-19パンデミックでは、感染拡大による社会的孤立・経済的苦境・悲嘆(大切な人の突然の死など)への対応にPFAの原則が活用されました。対面でのPFA実施が困難な状況では、電話・ビデオ通話・オンラインプラットフォームを通じた「遠隔PFA(Remote PFA)」の実践が試みられ、その有効性についての研究も進んでいます。

日本では2011年の東日本大震災を契機に、国立精神・神経医療研究センターを中心にPFAの普及が加速しました。詳しくは「日本での普及」を後の節で解説します。
PRINCIPLES

PFAの3つの行動原則:見る・聞く・つなぐ

WHO版PFAは「見る(Look)」「聞く(Listen)」「つなぐ(Link)」という3つのシンプルな行動原則を核心に持ちます。複雑な心理的介入の知識がなくても、現場にいる誰もが実践できるよう設計されています。

Look/Listen/Link

「見る」「聞く」「つなぐ」の具体的な実践

3つの原則は、その簡潔さゆえに世界中で採用されています。専門的な心理療法の知識がなくても理解・実践できるため、多職種・多分野の人材がPFA担い手として機能できます。ただしこのシンプルさは、深い人間理解と文化的感受性が伴ってはじめて真の力を発揮します。

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見る(Look)
支援を始める前に状況全体を客観的に把握します。現場の安全は確保されているか、今すぐ基本的なニーズ(水・食料・医療・避難場所)が必要な人はいないか、明らかに動揺している人・孤立している人・特別な支援が必要な人(子ども・高齢者・障害者・妊婦・重症者)はいないか、その場の雰囲気・全体状況を確認します。支援者自身の安全確保が最優先。危険な現場に無謀に飛び込むことは被支援者の数を増やすことになります。
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聞く(Listen)
PFAの中で最もきめ細かなスキルを要する部分。「解決策を提示する」のではなく「そばにいて安心感を提供する」ことが重要です。サポートが必要かを確認し押しつけがましくなく声をかける/話を丁寧に傾聴し感情を否定せず受け止める/何が起きたかを詳細に語らせたり体験の処理を強要したりしない/感情的に動揺している人を落ち着かせる(安定化・グラウンディング)/何が必要かを尋ね現実的に対応できることを伝える/文化的・宗教的背景を尊重する。目を合わせる・うなずく・リフレクション・共感的な言葉といったアクティブリスニング(積極的傾聴)の基本技術を活用します。
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つなぐ(Link)
必要な支援・情報・サービスにアクセスできるよう橋渡しをします。行政サービス・福祉サービス・医療機関などの現実的情報を提供/家族・友人・コミュニティなど社会的つながりの回復を支援/専門的な精神科・心療内科への受診が必要な場合に適切な紹介/継続的支援が受けられる機関・連絡先を伝える/本人のコーピング能力を支える。「すべての問題を自分で解決しなければ」と思わず、より専門的・包括的な支援システムへの橋渡しを円滑にすることが役割です。
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シンプルさが世界に広まった理由「見る・聞く・つなぐ」の3原則は、専門資格を問わず、世界中の現場で使えるよう設計されています。日常会話のレベルから実践できるからこそ、地域・職場・学校で広く活用できるのです。
ゲートキーパー

ゲートキーパーとしてのPFA

「ゲートキーパー」とは、自死のリスクが高まっている人に気づき、声をかけ、必要な支援につなぐ役割を果たす人のことを指します。厚生労働省の自殺対策においても、ゲートキーパーの育成は重要な施策として位置づけられています。PFAはゲートキーパーとしての実践と深く重なっています。

「見る」では「様子がおかしい人・明らかに追い詰められている人」への気づきが含まれます。「聞く」では「死にたいと思っていないか」を直接的・穏やかに確認するスキル(自殺リスクアセスメント)が含まれます。「つなぐ」では精神保健福祉センター・相談窓口・救急医療機関への適切な紹介が含まれます。

直接尋ねることはリスクを下げる「死にたいという気持ちについて直接聞くと自死を誘発するのではないか」という不安は誤解です。研究によれば、穏やかに「死にたいと思っていませんか?」と直接尋ねることは自死リスクを下げる効果があり、当事者は「自分の気持ちを理解してもらえた」という安堵感を感じ、話を続けられるケースが多いとされています。

厚生労働省は「ゲートキーパー養成研修」を全国の自治体・事業所・学校を通じて展開しており、内容の多くはPFAの原則と重なります。PFA研修を受けることは、ゲートキーパーとしての力量を高めることに直結します。

VS DEBRIEFING

PFAとデブリーフィングの違い

PFAと混同されやすい心理的支援技法として「デブリーフィング(CISD)」があります。両者は目的も方法論も異なり、現在の国際的コンセンサスは「急性期にはPFA、デブリーフィングの義務的実施は推奨しない」というものです。

比較

PFAとCISDの違いを6項目で整理

PFAとデブリーフィング(Critical Incident Stress Debriefing:CISD)は、両方とも「危機後の心理支援」として語られることが多いため、違いを正確に理解しておくことが重要です。

実施時期
PFA
急性期(直後〜数日・数週間)
CISD
発生から24〜72時間後、または数日後
目的
PFA
安全・安心の確保、基本ニーズ対応、社会的サポートへの橋渡し
CISD
体験の詳細な言語化・感情処理による心理的回復
トラウマ体験の扱い
PFA
詳細な語りを求めない・強制しない
CISD
体験の詳細(思考・感情・感覚反応)を段階的に言語化させる
実施者
PFA
訓練を受けた誰でも(非専門家も可)
CISD
専門的な訓練を受けたファシリテーター
形式
PFA
個別または小グループ、柔軟な場所・状況で実施
CISD
通常は構造化されたグループセッション
科学的根拠
PFA
国際的コンセンサスに基づき推奨
CISD
有効性への疑問が呈されており、義務的実施は推奨されない
研究背景

義務的デブリーフィングが推奨されない理由

デブリーフィングは1980年代から1990年代にかけて緊急援助職員(消防・救急・軍人等)向けに広く使われましたが、2000年代以降の系統的レビュー(Cochrane Review等)で、義務的な単回デブリーフィングはPTSD発症率を下げるどころか、かえって症状を悪化させる可能性があることが指摘されました。特に急性期に感情的体験を無理に詳述させることで、再トラウマ化が起きるリスクがあるとされています。

現在の国際的コンセンサスは「急性期にはPFAを実施し、デブリーフィングの義務的実施は推奨しない」というものです。これはデブリーフィングを完全に否定するものではなく、任意参加であること・一定期間が経過した後に自発的なニーズに応じて行うこと・特定のグループ(緊急援助職員等)への事後的なピアサポートとして活用するといった限定的な役割が提案されています。

💡
PFAとデブリーフィングは「どちらが優れているか」という競合関係ではなく、時期・目的・対象者に応じた異なるツールとして理解するのが適切です。急性期・現場レベルのファーストコンタクトにはPFA、一定時間後の自発的なグループ処理にはデブリーフィングや支持的グループセラピーなどを使い分けます。
APPLICATION

場面別の応用——災害・喪失・職場・難民支援

PFAは自然災害・人為的災害・突然の喪失・職場や学校での重大事故・難民支援など、さまざまな場面で活用されます。場面ごとに優先される配慮や対応のポイントが異なります。

4つの場面

PFAが活用される主な場面

🌊
自然災害・人為的災害
地震・津波・台風・洪水・土砂崩れ・火災・爆発・テロ・大規模交通事故などの現場。避難所・医療救護所・支援拠点でPFAが実施されます。被災者は身体的な傷・家族の安否不明・生活基盤の喪失など複数のストレス源に同時に晒されるため、「まず安全を確保し基本的ニーズに対応する」という実践的な優先順位に従います。精神的支援は生命の安全と身体ケアの次に位置づけられますが、信頼関係と「気にかけてくれている」という感覚の提供は急性期から一貫して重要です。
🕊
突然の喪失体験(事故死・急病死・自死遺族)
遺族の「信じられない・現実感がない」という解離的な感覚(急性ストレス反応)を受け入れ、無理に現実を受け入れさせようとしないことが重要です。「なぜ死んだのか」「こうすれば防げたのか」という自責・罪悪感・怒りといった複雑な感情を非審判的に受け止めます。自死遺族には「自殺について話すことがさらなる自死を誘発する」という誤解を払拭し、安全な場で感情を表現できるよう支援することが推奨されます。
🏢
職場・学校での重大事故
労働災害・学校事故などでは目撃した同僚・クラスメートへのPFAが重要。グループの中で強いショックを受けた人・解離症状を示す人を特定し、より集中的な支援につなぎます。事故後の緊急的な職場復帰・学校復帰では、段階的な再統合のサポートとPFAを組み合わせることも有益です。
🌏
難民・強制移住者
暴力・迫害・人身売買の被害者は、文化的背景・言語の違い・当局への不信感・継続的な危険といった複合的な困難を抱えます。難民支援の文脈でのPFAでは、文化的適合性(Cultural competency)と通訳・文化仲介者の活用が特に強調されます。
職場とEAP

職場での危機対応とEAP(従業員支援プログラム)

職場は、メンタルヘルス危機が表面化しやすい重要な場所です。過重労働・ハラスメント・職場の人間関係トラブル・業務上のストレス、そして職場内での重大事故・同僚の突然の自死・大規模リストラなど、職場特有の危機状況が多数存在します。職場でのPFAにおいて特に重要な担い手は、上司・管理職・人事担当者・産業保健スタッフ(産業医・保健師・産業カウンセラー)です。

EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、従業員のメンタルヘルス問題・物質依存・家族問題・法律問題・財務問題などに対して、専門的なカウンセリングや情報提供を行う外部機関との契約サービスです。厚生労働省が推進する「4つのケア(セルフケア・ラインによるケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケア)」の中で、EAPは「事業場外資源によるケア」に位置づけられます。

PFAとEAPを組み合わせた職場危機対応の理想的な流れは、①管理職・同僚によるPFAの実践(気づきと声かけ)→②産業保健スタッフによる初期アセスメント→③重篤な場合はEAP機関や精神科・心療内科への紹介、という段階的なシステムです。EAP機関の多くは危機介入(クライシスインターベンション)のサービスも提供しており、職場内での深刻なメンタルヘルス危機や自死事例の後処理(ポストベンション)における重要なパートナーとなります。

⚠️
職場自死の対応はとくに繊細同僚の自死(職場自死)が発生した場合、遺族・目撃者・親しい同僚・職場全体に対するPFAの実施、自死の詳細情報の過剰な拡散を防ぐ配慮(センシティブな情報管理)、自死の「美化・ロマンチック化」を避けた適切なコミュニケーション(ポストベンション)が求められます。
日本での普及

東日本大震災以降の日本のPFA普及

日本でのPFA普及において決定的な転換点となったのは、2011年3月11日の東日本大震災・津波・東京電力福島第一原子力発電所事故という複合大規模災害でした。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)はWHO版PFAマニュアルの日本語版翻訳・普及に着手し、同センター内に「ストレス・災害時こころの情報支援センター」が設置されました。

NCNPは2012年にWHOとの契約に基づいてPFAの積極的な普及活動を開始し、研修会・ワークショップ・講演会などを全国各地で展開してきました。2022年末時点で研修参加者数は累計約2万人に達しています。

2011年以前は、災害直後に「こころのケアチーム」が被災地入りし、被災者に話を聞かせることに重点を置いていましたが、これが逆効果になるケースも報告されていました。PFAへの転換は大きな方向転換でもあり、「急性期には被災者に心理的トラウマの処理を強要しない」「安全と安心の確保を最優先とする」「支援者自身のメンタルヘルスにも配慮する」という原則が日本の災害精神医学の基本として定着しました。

日本では東日本大震災後も、熊本地震(2016年)・西日本豪雨(2018年)・令和元年台風19号(2019年)などの大規模災害において、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の活動にPFAの原則が組み込まれています。DPATは都道府県が整備する精神科医・看護師・精神保健福祉士などで構成された専門チームで、その活動基盤にPFAの考え方があります。

一般社団法人日本心理臨床学会は東日本大震災後にPFAの特設ホームページを設置。赤十字社・日本精神神経学会・日本トラウマティック・ストレス学会も独自のPFA研修プログラムを開発・実施しています。2024年1月の能登半島地震への対応においてもPFAが実践され、長期避難生活・インフラ復旧の遅れ・地域コミュニティの崩壊といった複合的な問題に対応するためPFAと中長期の心理社会的支援を組み合わせたプログラムの重要性が改めて認識されています。

SPECIAL CARE

特別な配慮が必要な人へのPFA

子ども・高齢者・障害者は、危機状況においてさらに脆弱な立場に置かれます。発達段階・身体状況・コミュニケーション手段に応じた、個別的な配慮が必要です。

対象別

子ども・高齢者・障害者へのPFAのポイント

👶
子ども
乳幼児は激しい泣き声・ぐずり・退行(おねしょ・指しゃぶりへの逆戻り)・食欲不振・睡眠障害など行動変化として現れる。学齢期は分離不安・集中力低下・学力急落。青年期は引きこもり・反抗的行動・アルコール薬物への逃避として現れることがある。まず保護者や信頼できる大人との安全なつながりを回復させることが最優先。年齢に合わせた言葉で「何が起きているか」「あなたは安全だ」「大人が守ってくれている」を繰り返し伝える。遊び・絵を描く・歌うなど非言語的手段も活用。米国NCTSN等が「子どものためのPFA(Child PFA)」を開発しており、日本でも2025年前後から子ども特化型研修の整備が進む。
👴
高齢者
身体的脆弱性に加え、認知機能の低下・感覚障害(視覚・聴覚)・社会的孤立・複数の慢性疾患を抱える。災害では避難行動の困難・常用薬の喪失・環境変化に伴うせん妄リスク上昇が深刻な問題に。ゆっくりとした明確な話し方、視線を合わせる、必要に応じて身体的なサポート(手を握るなど)が有効。日常的なルーティンや生活環境の連続性が失われることが精神的苦痛の大きな原因となるため、できる限り習慣的な日課・食事・薬の服薬を維持する支援が重要。
障害者・特別なニーズを持つ人
身体障害・知的障害・精神障害・発達障害を持つ人は危機状況でさらに脆弱な立場に置かれる。避難情報の理解が困難なケース、コミュニケーション手段(手話・AAC機器など)が失われたケース、精神科薬の服薬が中断されるケースなどに特別な配慮が必要。個々のニーズを丁寧にアセスメントし、本人の意思を尊重した支援が基本。社会福祉士・ケアマネジャー・相談支援専門員など障害支援の専門家との連携が不可欠。
個別性を尊重するのが基本「障害者・子ども・高齢者だから」と一律に対応するのではなく、一人ひとりのニーズと意思を丁寧にアセスメントすることがPFAの基本姿勢です。
HELPER SELF-CARE

支援者自身のセルフケアと二次的トラウマの予防

PFAを実施する支援者自身が、支援活動を通じて心理的な傷つきを受けるリスクがあります。STS(二次的トラウマティックストレス)とバーンアウトの理解、個人レベル・組織レベル両面のサポートが不可欠です。

STSとバーンアウト

二次的トラウマティックストレス(STS)とバーンアウト

二次的トラウマティックストレス(Secondary Traumatic Stress:STS)とは、トラウマ体験をした人を直接支援することによって支援者自身が体験するトラウマ反応で、「共感疲労(Compassion Fatigue)」とも呼ばれます。被支援者のつらい体験を繰り返し聞くことで、侵入的な思考・フラッシュバック・悪夢・感情的回避・過覚醒などのPTSD様症状を経験することがあります。

STSとは別に、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」も支援者が陥りやすい状態です。バーンアウトは慢性的な過負荷・達成感の喪失・感情的枯渇・シニシズム(皮肉的な感情)として現れます。STS・バーンアウトともに、支援の質の低下・離職・健康被害につながるリスクがあり、組織的な予防策が必要です。

個人レベル

個人レベルのセルフケア(7つの実践)

  • 十分な睡眠・規則的な食事・適度な運動を維持する
  • 支援活動と私生活の間に明確な境界線を引く(「オフ」の時間を確保する)
  • マインドフルネス・瞑想・深呼吸・プログレッシブ筋弛緩法などのリラクゼーション技法を習慣化する
  • 自分の感情・身体的反応を定期的にモニタリングし、変化に早く気づく
  • 趣味・創造的活動・自然の中での時間など「回復活動」を意識的に取り入れる
  • 信頼できる同僚・友人・家族に気持ちを話す機会を持つ
  • 自分の限界を認識し、過度な支援活動に「ノー」と言える勇気を持つ
組織レベル

組織・チームによるサポート

組織・チームとして支援者のメンタルヘルスを守るための仕組みも重要です。

  • 役割と業務量の明確化役割の曖昧さがストレスを増大させるため、責任範囲を明確にする。
  • 定期的なチームデブリーフィング支援者同士の振り返りと感情処理の機会を組織として設ける。
  • スーパービジョン経験豊富な指導者による定期的なケース振り返り。
  • 交代制の確保同一ケースへの長期的な集中を避け、ローテーションを組む。
  • 専門ケアへのアクセス確保精神科・カウンセリングを必要時に利用できる窓口を整備する。
💡
満杯のコップからしか水を注げないWHO版PFAマニュアルには「支援者の準備(Looking after yourself and your colleagues)」という章が設けられており、支援者自身のウェルネスがPFAの効果的な実践の前提条件であることが明示されています。自分自身が疲弊した状態では、質の高い支援を提供することはできません。
TRAINING & PROFESSIONAL

PFA研修と専門的精神科治療との連携

PFAは「誰でも学べる」支援技法ですが、研修を受けることで実践の質が大きく向上します。また、PFAは「入口」であり「すべて」ではなく、専門的精神科治療への橋渡しを担う段階的システムの一部です。

研修機関

日本国内の主要なPFA研修プログラム

PFAには国家資格や統一的な認定制度は現時点では存在しませんが、いくつかの研修プログラムは修了証を発行しています。重要なのは資格取得よりも、実践的な場面で「見る・聞く・つなぐ」を自然に実行できる能力を身につけることです。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

「ストレス・災害時こころの情報支援センター」が日本でのWHO版PFA普及の中心機関。「災害時PFAと心理対応研修」を年に複数回開催。通常1日(5〜6時間)形式で、講義に加えてシミュレーション・ロールプレイ・グループディスカッションを組み合わせた実践的内容。

兵庫県こころのケアセンター

阪神・淡路大震災(1995年)の教訓から設立。米国NCTSN・NCPTSDの「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版」日本語訳を公開し、都道府県・市区町村・企業向けの研修支援も行う。豊富な情報・教材を無償公開。

日本赤十字社

国際赤十字・赤新月社連盟が推進するPFAの普及に積極的に取り組み、独自のPFA研修・リーフレットの作成・配布を行う。全国のボランティアネットワークで研修機会を提供。

PFA-JP / PFA JAPAN等のプロジェクト

民間・NPO的プロジェクトが医療・福祉・教育・企業・一般市民向けのPFA普及を展開。学術研究と実践の橋渡しを担い、オンライン教材・eラーニングの整備も進む。

研修内容

PFA研修で学べる7項目

  • 急性ストレス反応の基礎知識(正常範囲の反応と要注意サインの見分け方)
  • PFAの原則・「見る・聞く・つなぐ」の具体的な実践方法
  • 文化的配慮・多様性への対応
  • 特別なニーズを持つ人(子ども・高齢者・障害者)への対応
  • ロールプレイを通じた傾聴・コミュニケーションスキルの練習
  • 支援者自身のセルフケア・二次的トラウマの予防
  • 地域・職場の支援リソースへの橋渡し方法
ピラミッドモデル

心理社会的支援のピラミッドモデル(IASC)

PFAは「入口」であり「すべて」ではありません。機関間常設委員会(IASC)が開発した「メンタルヘルス・心理社会的支援のピラミッドモデル」は、段階的支援の枠組みを示しています。PFAは主に第2層に位置しますが、「つなぐ」機能を通じて第3層・第4層の専門的支援への橋渡しを担います。

第1層(最広範)
基本的安全と安心の確保・生活環境の安定化
全被災者を対象とする土台。水・食料・シェルター・医療など基本的ニーズへの対応がここに含まれます。
全被災者
第2層
コミュニティの社会的サポート・PFAなどの心理社会的支援
PFAが主に位置する層。家族・友人・コミュニティとのつながり回復、現場での声かけと傾聴。
支援が必要な多くの人
第3層
非専門家による焦点化されたサポート
ピアサポート・グリーフケア等の構造化された支援。特定の支援ニーズに焦点を当てます。
特定の支援が必要な人
第4層(最少数)
精神科医・心理士による専門的精神科治療
薬物療法・トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)・EMDR(眼球運動脱感作再処理法)・持続エクスポージャー療法(PE)など。発症から4〜12週間後以降に開始されることが多い。
精神科的診断・治療が必要な人
専門医療への紹介

専門的精神科治療が必要なサイン

急性期(4週間以内)に診断されるPTSD前駆段階の障害として「急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)」があり、ASDを持つ人の多くが後にPTSDに移行するリスクがあります。以下のサインが見られた場合、早期に精神科・心療内科への受診を促すことがPFAの「つなぐ」において最も重要な判断の一つです。

  • !急性ストレス障害(ASD)の症状(4週間以内のトラウマ反応)
  • !PTSDの症状(侵入・回避・過覚醒・認知や気分の陰性変化)
  • !重篤な解離症状(現実感喪失・離人感)
  • !希死念慮・自死の具体的計画
  • !重度のうつ状態(無気力・絶望感・自責感の持続)
  • !幻覚・妄想などの精神症状の出現
  • !日常生活が困難なほどの機能障害の持続
💡
専門的トラウマ治療専門的なトラウマ治療として現在最も強力な科学的根拠を持つのは「トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)」「EMDR(眼球運動脱感作再処理法)」「持続エクスポージャー療法(PE)」などです。これらは急性期ではなく、状態が安定した後(通常は発症から4〜12週間後以降)に開始されます。PFAはこれらの専門的治療への道をつけるための橋渡し役であり、専門的治療の代替ではありません。
スティグマを払拭するコミュニケーション専門機関への受診を促す際は、「精神科に行く=重症・弱い人」という偏見(スティグマ)を払拭するコミュニケーションが重要です。PFA実施者が事前に地域・職場周辺の精神科医療機関・相談窓口の情報を把握しておくことが不可欠です。
FAQ

よくある質問

Q. 心理的応急処置(PFA)は専門家でないとできませんか?

A. いいえ、PFAは専門家だけでなく、訓練を受けた誰でも実践できる支援の枠組みとして設計されています。WHO版PFAマニュアルは、医師・看護師・心理士などの専門家だけでなく、教師・行政職員・消防士・警察官・ボランティア・NGOスタッフ・一般市民も対象読者として想定しています。研修を受けることで実践の質が向上しますが、「見る(状況を確認する)」「聞く(そばにいて話を聞く)」「つなぐ(必要な支援につなぐ)」という3つの基本原則は特別な資格がなくても実践できます。重要なのは「害を与えない(Do No Harm)」という姿勢と、自分の限界を認識して必要に応じて専門家に引き継ぐ準備があることです。支援者の「気にかけている」という姿勢そのものが、危機に直面した人に大きな助けになることが研究でも示されています。

Q. PFAとカウンセリング・心理療法はどう違うのですか?

A. PFAとカウンセリング・心理療法は目的・実施時期・対象・担い手で大きく異なります。PFAは危機発生直後の急性期に行う「最初の支援」であり、安全と安心の確保・基本的ニーズへの対応・社会的つながりの回復・適切な支援機関への橋渡しを目的とします。一方、カウンセリング・心理療法は、状態が安定した後に開始される継続的・系統的な精神的支援です。PFAは過去の体験を詳しく掘り下げたり、トラウマの処理を促したりしませんが、心理療法(特にトラウマ焦点化CBT・EMDRなど)では段階的にトラウマ記憶に向き合うことを通じて症状の軽減を図ります。PFAは非専門家も担えますが、心理療法は臨床心理士・公認心理師・精神科医などの専門家が実施します。PFAは心理療法への「橋渡し」であり、両者は補完的な関係にあります。

Q. 被災した人に「つらかったですね」と言うだけで何か意味があるのですか?

A. はい、大きな意味があります。危機状況・トラウマ体験の直後、人は深い孤立感と「誰もわかってくれない」という感覚に苦しむことが多いです。「つらかったですね」「あなたのことを気にかけています」という共感的な言葉は、この孤立感を和らげ、「自分は一人ではない」「誰かがそばにいてくれる」という安全感・つながり感を提供します。神経科学的には、共感的な対人接触は扁桃体の過活動(恐怖・不安反応)を抑制し、オキシトシンの分泌を促して心理的安定をもたらすことが研究で示されています。PFAの「聞く」の核心は「問題を解決する」ことではなく「苦しんでいる人のそばに落ち着いた存在として在る」ことです。専門的な言葉や技術よりも、真心のこもった共感と存在感が急性期の心理支援で最も重要であることを、多くの研究と実践が示しています。

Q. 子どもへのPFAで特に気をつけることは何ですか?

A. 子どもへのPFAで最も重要なことは、保護者や信頼できる大人との安全なつながりを回復・維持させることです。子どもは大人のストレス反応を鋭く察知するため、まず保護者自身が落ち着いた状態でいられるよう支援することが間接的な子ども支援になります。子どもの発達段階に合わせたコミュニケーション(乳幼児には非言語的なスキンシップ・穏やかな声かけ、学齢期には正直でわかりやすい説明、青年期には主体性の尊重)が重要です。「何が起きているか」「今は安全だ」「大人が守ってくれている」という情報を繰り返し伝えることが安心感につながります。遊び・絵・音楽などの非言語的表現手段を活用することも有効です。「子どもの前では何も感情を見せてはいけない」という考え方は誤りで、親が適度に感情を表現しながら状況に対処する姿を見せることは、子どもの感情調整能力の発達に寄与します。

Q. 自分が支援した後、自分自身がつらくなった場合はどうすればよいですか?

A. 支援活動後に強い苦痛(フラッシュバック・悪夢・感情的まひ・支援への意欲喪失・過覚醒など)を感じた場合、それは二次的トラウマティックストレス(共感疲労)の可能性があります。これは弱さのサインではなく、強い共感能力と責任感を持つ人が陥りやすい自然な反応です。まず、信頼できる同僚・スーパーバイザー・友人に気持ちを話すことが重要です。「話すことで状況が悪化する」という心配は無用で、安全な場での感情の吐き出しは回復を促します。意識的に「オフ」の時間を確保し、睡眠・食事・運動などの基本的セルフケアを優先してください。症状が2週間以上続く場合や日常生活に支障をきたす場合は、精神科・心療内科・産業医・EAP機関などの専門的サポートを積極的に活用してください。「支援者である自分が助けを求めてはいけない」という思い込みを手放すことが、長期的な活動継続の鍵です。

Q. 身近な人が自死を考えていると思ったとき、PFAとしてどう対応すればよいですか?

A. 最初の一歩は「直接尋ねる」ことです。「死にたいと思っていない?」「消えてしまいたいと感じていることはある?」と穏やかに、直接的に聞くことは、自死リスクを高めるどころか、多くの場合リスクを下げる効果があることが研究で示されています。次に、その答えに対して非審判的(責めず・慌てず)に受け止めます。「なぜそんなことを考えるの?」という叱責や「そんなこと考えたらダメ」という否定は避け、「話してくれてありがとう」「あなたのことを心配している」という受け止めを伝えます。死にたい気持ちが強い・具体的な計画がある場合は、一人にしないことが最優先です。そのうえで、いのちの電話(0120-783-556)・よりそいホットライン(0120-279-338)・精神保健福祉センター・精神科救急などへの連絡を一緒に行いましょう。あなたが一人で解決しようとする必要はありません。つなぐことがあなたの最大の役割です。

Q. PFAを職場で取り入れるには、どこから始めればよいですか?

A. 最初のステップは、まず管理職・人事・産業保健スタッフがPFA研修を受講することです。国立精神・神経医療研究センターや兵庫県こころのケアセンター、日本赤十字社などが定期的に研修を開催しています。次に、職場全体の「メンタルヘルスリテラシー向上」として、ストレスの基礎知識・相談窓口情報・PFAの基本的な考え方を社内研修や回覧物で共有することが有効です。特に管理職が「部下の変化に気づき・声をかけ・社内外の相談窓口につなぐ」というPFAの3原則を実践できるよう、ラインケア研修にPFAの要素を組み込むことをお勧めします。また、職場のEAP機関や産業医と連携し、緊急時の対応フローを事前に整備しておくことで、危機時に迷いなく動ける体制が整います。PFAは「特別なプロジェクト」ではなく、職場の日常的なコミュニケーション文化として根づかせることが最終的な目標です。

Q. PFAはどれくらいの効果があるのですか?科学的根拠はありますか?

A. PFAの科学的根拠(エビデンス)については、他の心理療法ほど大規模なランダム化比較試験(RCT)が実施されていないことが正直なところです。これは、災害・急性期という状況の特殊性(倫理的な対照群の設定困難・研究設計の難しさ)によります。ただし、PFAの各コアアクション(安全感の確保・落ち着きの提供・つながり感の回復・自己効力感の回復)は、急性ストレス反応・PTSDの回復に関する研究知見に基づいて設計されており、「原則への支持(consensus-based)」と「利用可能な最善のエビデンスとの整合性」の両面から国際的なコンセンサスが得られています。米国の複数の研究では、PFA研修を受けた支援者が受けていない支援者と比べて、被支援者への適切な声かけ・つなぎが増加することが報告されています。現時点では「利用可能な最良の実践(best available practice)」として国際的に推奨されています。

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災害や喪失、危機の現場で誰かを支えること、そして自分が支えを必要としていると感じること——どちらもとても大切な気づきです。一人で抱え込まず、ココトモに話してみませんか。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。また、各都道府県には心の健康に関する相談を無料で受け付ける精神保健福祉センターが設置されています。精神科・心療内科への通院医療費を最大9割軽減できる自立支援医療制度(精神通院医療)もあります。

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