安全計画(セーフティプラン)とは?
6つのステップ・作り方・自殺予防の活用法を解説
「死にたい」が頭をよぎったとき、自分を守るための具体的な行動指針をあらかじめ書き留めておくツール。スタンレー・ブラウンモデルの6ステップ、警告サインの特定、緊急時の連絡手順、医療機関での活用法、家族・支援者の役割まで、包括的にまとめました。
安全計画(セーフティプラン)とは何か
安全計画(Safety Plan)とは、自殺念慮や自傷衝動が高まった危機の瞬間に、自分を守るために何をすべきかをあらかじめ書き出した、個人化された行動計画です。1990年代にアメリカの精神科医グレゴリー・ブラウンとバーバラ・スタンレーが開発しました。
安全計画の定義——「単なる連絡先リスト」ではない
安全計画は、危機に陥る前の警告サインの認識から始まり、一人でできる気分転換、信頼できる人への連絡手順、専門機関への相談、環境から危険なものを取り除く手段まで、6つの段階的なステップで構成されています。
- 危機が訪れる「前」に準備することで、判断力が低下している瞬間でも迷わず行動できる
- 患者本人が自分の言葉で作成するため、形式的書類ではなく「自分のための計画」として機能する
- 医療機関、学校のカウンセリング室、地域の相談窓口など、さまざまな場面で活用されている
- スマートフォンのメモやカードに記録しておくことで、いつでも参照できる
日本の自殺の現状と安全計画の重要性
自殺念慮は一定期間続くものではなく、波のように高まっては引く性質を持っています。研究によれば、自殺の衝動が最高潮に達する時間は比較的短く(数分〜数十分程度)、その「危機の波」をやり過ごす具体的な手段があれば、多くの場合命を守ることができます。
「自殺しない約束」と「安全計画」の決定的な違い
かつての危機介入では「自殺しないと約束してください」という不自殺契約(no-suicide contract)がよく使われていました。しかし現在、この方法には重大な問題点があることが明らかになっています。
スタンレー・ブラウンモデルと科学的根拠
現在世界標準とされる安全計画は、アメリカの研究者グレゴリー・ブラウン博士とバーバラ・スタンレー博士が共同開発したスタンレー・ブラウン安全計画介入(SPI)です。
自殺予防認知療法から独立した介入法へ
- 開発の背景2001年ごろから自殺予防のための認知療法(CT-SP: Cognitive Therapy for Suicide Prevention)の一部として開発が始まった
- 独立した介入法として確立その後、単独の自殺予防介入として活用できるよう洗練され、現在は世界中の精神科救急や入院病棟、外来診療で使われている
- 公式サイトsuicidesafetyplan.comで研修資料や計画様式が公開されており、日本語版の資材も普及しつつある
- 米国退役軍人省(VA)での採用アメリカの退役軍人省はSPIを全施設に導入し、自殺率の低下に貢献している
複数の研究で確認された有効性
- システマティック・レビュー(2021年, PubMed掲載)成人の自殺関連苦悩に対する安全計画介入の有効性を検討。自殺行動の相対リスクが対照群と比較して0.570(約43%低下)、number needed to treat = 16
- 英国精神医学雑誌のメタ分析安全計画型介入が自殺行動の有意な減少と関連することを確認。入院後の外来フォローアップと組み合わせることで効果が最大化
- 定性的レビュー(2024年, Frontiers in Psychiatry)当事者・臨床家・支援者いずれの視点からも、安全計画介入は『受け入れやすく有益』と評価されることが確認
- 子ども・青年への応用成人ほどのエビデンスはまだ不足しているが、実施可能性と受容性は高く、臨床使用が広がっている
日本における安全計画の普及状況
日本では、厚生労働省の自殺対策推進や日本精神神経学会のガイドライン整備とともに、安全計画の概念が徐々に普及しています。
- 日本精神神経学会「日常臨床における自殺予防の手引き」では、危機介入の重要な要素として安全計画の策定が推奨されている
- 精神科救急病棟や自殺未遂者ケアの現場を中心に、退院時の安全計画作成が標準化されつつある
- 学校の相談体制においても、スクールカウンセラーが生徒とともに簡易的な安全計画を作成するケースが増えている
- 一般社団法人自殺予防学会や各都道府県の精神保健福祉センターが研修を実施し、支援者への普及を図っている
安全計画の6つのステップ
スタンレー・ブラウンモデルは、危機の深刻度が低い段階から順に使えるよう設計された6段階で構成されています。自力で対処できることを最初に試み、それでも乗り越えられないときに次のステップに進む、という段階的アプローチが特徴です。
6ステップの全体像
Step 1で気づき、Step 2で一人で対処できればStep 3以降に進む必要はありません。しかし、Step 2で対処できなければStep 3へ、それでも不十分ならStep 4へ、と段階を踏んで助けを求めていきます。
警告サインの特定——自分だけのサインを知る
警告サイン(Warning Signs)とは、自殺念慮や自傷衝動のある危機的状態に近づいていることを教えてくれる、個人固有のサインです。思考・感情・身体感覚・行動のいずれの形でも現れます。
思考面の警告サイン:
- 「消えてしまいたい」「いなくなりたい」という考えが浮かぶ
- 「自分は誰にも必要とされていない」「自分がいなくなった方が周りが楽になる」という思考
- 「もう希望がない」「何をしてもうまくいかない」という絶望感
- 自分を傷つける具体的な方法や場所を考え始める
- 「死は唯一の解決策だ」という考えに固執し始める
- 「荷物になりたくない」「いなくなることで問題が解決する」
感情面の警告サイン:
- 耐えられないほどの強い絶望感・虚無感
- 急激な孤独感や「誰もわかってくれない」という孤立感
- 強い怒りや憤り(自分自身または他者への)
- 激しい恥辱感・屈辱感
- 感情がまったくなくなる「麻痺した」感覚
- 「罪悪感」「自分は悪い存在だ」という強い自責感
行動・身体面の警告サイン:
- 急に人との連絡を絶ち、部屋に閉じこもる
- 大切にしていた物を人に渡したり、整理・処分し始める
- アルコールや薬物の使用量が急激に増える
- 睡眠が極端に乱れる(全く眠れない、または異常に眠い)
- 食事をほとんど取らなくなる
- 自傷行為(切る、打つなど)が増えたり、新たに始める
- 急に落ち着いた、穏やかになる(危機的な決意を固めた状態のことがある)
- 遺書に似た文章を書いたり、SNSに別れを告げるような投稿をする
記録例:
- 「仕事でミスをしたとき、頭の中で『消えてしまえ』という声が聞こえ始める」
- 「夜中に一人でいるとき、急に涙が止まらなくなり、自傷したくなる」
- 「3日以上眠れない夜が続いたとき」
- 「誰かと言い争った後、部屋に閉じこもりたくなるとき」
- 「『自分がいなければよかった』という考えが浮かんだとき」
一人でできる内的対処法——危機の波をやり過ごす
内的対処法(Internal Coping Strategies)は、他者の助けを借りずに一人で実践できる気分転換方法です。目的は自殺念慮を「完全に消す」ことではなく、危機の波が過ぎ去るまでの時間をかせぐこと。衝動は永続せず、数分〜数十分やり過ごせれば多くの場合危機の強度は下がります。
身体を使った対処法:
認知・気分を変える対処法:
気を紛らわせる社会的な場所と活動
第3ステップは、危機について「話す」ことを目的とせず、人のいる場所や活動に身を置くことで注意をそらすことが目的です。孤立は危機を深刻化させやすいため、他者の存在そのものが保護因子になります。打ち明ける必要はなく、ただ「誰かの近くにいる」「活動の中に身を置く」だけで危機の波が和らぐことがあります。
- 図書館や書店静かで安全な公共スペース。一人でいられるが完全な孤立ではない。
- カフェやファミリーレストラン人の気配があることで孤立感が薄れる。飲み物を注文するだけでも良い。
- コンビニや商業施設出かけることで環境を変え、思考の連鎖を断ち切る。
- 公園や自然の中自然環境は感情調節に効果があることが研究で示されている(注意回復理論)。
- コミュニティセンターや地域の活動スペース見知らぬ人でも同じ空間にいることで孤立感が和らぐ。
- 趣味のサークル・教室スポーツ、手芸、音楽など、あらかじめ予定に組み込んでおく。
- ボランティア活動他者のために動くことが、自己有用感を取り戻すきっかけになることがある。
- 映画館・美術館などの文化施設コンテンツに没頭できる環境。
- オンラインのグループ通話・ゲーム外出が難しい場合でも、他者の存在を感じられる。
危機を打ち明けられる人のリスト
危機の最中に「誰に電話しようか」と悩まないために、あらかじめ名前と連絡先を書き留めておくことが重要です。リストに入れる人は専門家に限らず、家族、友人、信頼できる職場の同僚など「この人なら話を聞いてくれる」と感じる人なら誰でも構いません。
- 2〜3人以上の名前と連絡先を書いておく(1人だけだと、その人が出られないときにパニックになる)
- 「電話しやすい人」と「より深刻な話ができる人」を分けて考えると良い
- 可能であれば、事前に「つらくなったときに連絡してもいいか」と伝えておく
- 家族全員が警戒しすぎて負担をかけてしまうと感じる場合は、特定の一人に絞っても良い
連絡する際の「言い出し方」の例:
- 「今、とても苦しくて。少し話を聞いてもらえますか」
- 「あなたに連絡していいと言われたことを思い出して電話しました。今つらい状態です」
- 「具体的には言えないけど、助けてほしい気持ちがあります」
- 「何もしてくれなくていい。ただ一緒にいてほしい」
「話せる人がいない」場合:次のステップ(専門家・機関への連絡)を先に使うことをためらわないでください。オンラインの自助グループ・ピアサポートグループの活用、ソーシャルワーカーや精神保健福祉士に相談先を一緒に探してもらう、支援を受けながら信頼関係を築いていく過程そのものが回復につながります。
専門家・機関への連絡
「専門家に連絡するほどの状態ではない」という考えは、危機の状態では誤った判断であることがほとんどです。すでに第5ステップまで来ているなら、十分に「相談すべき状態」です。
主治医・かかりつけ精神科医への連絡:すでに精神科・心療内科に通院している場合は、主治医または担当スタッフの緊急連絡先を安全計画に記載しておく。診察時間外の対応(緊急時の連絡方法)について、あらかじめ主治医に確認しておく。
緊急時の相談窓口:
- いのちの電話(0120-783-556)24時間・無料。全国どこからでもかけられる
- よりそいホットライン(0120-279-338)24時間・無料。どんな悩みでも相談可能
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)平日昼間。精神保健の専門家が対応
- 自殺予防いのちの電話(0120-783-556)毎月10日・24時間。その他は16:00-21:00
- 救急・警察(119 / 110)すでに自分を傷つけた、または傷つけようとしている場合
- 救急安心センター(#7119)電話相談が難しい場合に活用可能
精神保健福祉センター:各都道府県および政令指定都市に設置された専門機関。精神科医、精神保健福祉士、臨床心理士などが在籍し、無料で相談を受け付けています。本人だけでなく家族・支援者からの相談も可能、匿名相談も可能、面接相談(予約制)も多くの施設で実施しています。
環境を安全にする(致死的手段の除去)
致死的手段のカウンセリング(Lethal Means Counseling)とは、周囲の環境から自傷・自殺に使われる可能性のある手段を取り除く、または入手しにくくすることです。「衝動が最も高い数分〜数十分の間、致死的手段に手が届かない状態にする」だけで、命を守れる可能性が大幅に高まります。自殺手段へのアクセス制限は、最も強力な自殺予防策のひとつとして研究で一貫して支持されています。
- 薬の管理大量服薬(OD)のリスクがある場合、薬は信頼できる家族・支援者に預かってもらう。または毎回少量ずつ処方してもらうよう主治医と相談する。
- 刃物の管理自傷に使いやすいカッターやハサミ、包丁などを別の部屋に移す、鍵のかかる場所に保管するなど、すぐに手が届かない状態にする。
- アルコールの制限飲酒は衝動制御を著しく低下させ、危機のリスクを高める。危機的な状態では自宅へのアルコール持ち込みを控える。
- 高い場所・橋などの回避高所や特定の場所が危機を高めると感じる場合、そうした場所に一人で行かないようにする。
- インターネット上の危険なコンテンツの回避自傷・自殺を促進するようなサイトやSNSアカウントへのアクセスを制限する。フィルタリングツールを活用する方法もある。
安全計画の作成方法と実践的なコツ
安全計画は精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士、スクールカウンセラーなどの支援者と一緒に作成することが最も効果的です。作成の基本ルールと保管方法を解説します。
支援者と一緒に作成することの重要性
- 支援者がいることで、当事者が見落としている警告サインや対処法を補完できる
- 「一緒に考えてくれた人がいる」感覚が、計画を使う動機づけになる
- 作成プロセス自体が信頼関係を深める機会となる
- 作成後も定期的に見直し・更新が推奨される(通院ごとに確認する医療機関も多い)
計画作成の5つのルール
- 自分の言葉で書く専門用語や一般的な表現ではなく、自分が実際に使う言葉で書く。読んだときに『これは自分のことだ』と感じられるものにする。
- 具体的に書く『音楽を聴く』ではなく『Spotifyの○○プレイリストを聴く』。『友人に電話する』ではなく『Aに電話する(090-XXXX-XXXX)』。
- 実現可能なことを書く危機の状態でも実際にできる方法を選ぶ。状態が悪いときに遠い場所に行くことや、難しい活動を行うことは現実的でない場合がある。
- 短く、読みやすく危機の状態では長い文章を読む集中力がないことが多い。箇条書きで簡潔にまとめる。
- 複数の手段を書く1つだけでは機能しないときのために、各ステップに複数の選択肢を用意する。
どこに保管するか
- スマートフォンのメモアプリホーム画面にショートカットを置いておく。または『安全計画』という名前のアルバムを写真に保存する。
- 印刷してカードにする財布、手帳、定期入れに入れておく。名刺大のサイズに収めると持ち運びやすい。
- 冷蔵庫・鏡に貼る家にいるときに自然に目に入る場所に貼っておく。
- 信頼できる人と共有する家族や支援者に同じ内容を共有しておく。本人が使えない状況でも支援者が活用できる。
安全計画の記入例
以下のような形式で作成します(内容は個人によって異なります)。
- Step 1:警告サイン「消えたい」という考えが浮かぶ。眠れない夜が2日続く。一人でいると涙が止まらない
- Step 2:一人でできること好きなプレイリストを聴く。腹式呼吸を10回する。日記に今の気持ちを書き出す
- Step 3:場所・活動駅前のカフェに行く。近所の公園を散歩する。図書館で本を読む
- Step 4:話せる人Aさん(090-XXXX-XXXX)、Bさん(080-XXXX-XXXX)
- Step 5:専門機関主治医(XX病院 03-XXXX-XXXX)。いのちの電話:0120-783-556。よりそいホットライン:0120-279-338
- Step 6:環境の安全化薬はAさんに預けてある。カッターは引き出しの奥に入れる。アルコールを家に置かない
自傷・希死念慮への具体的な対応
希死念慮(きしねんりょ)は『死にたい』『消えてしまいたい』という気持ちです。うつ病、双極性障害、統合失調症、PTSD、境界性パーソナリティ障害などに伴って生じることがあります。
希死念慮には3つのレベルがある
- 消極的希死念慮「死んでもいい」「眠ったまま目が覚めなければいい」という、積極的な行動を伴わない死への希望。
- 積極的希死念慮(自殺念慮)「自殺したい」という具体的な考え。方法を考えているかどうかで重篤度が異なる。
- 計画のある自殺念慮具体的な方法・時期・場所を考えている状態。最も高リスクであり、直ちに専門家の介入が必要。
自傷行為(非自殺的自傷/NSSI)の心理的機能
自傷行為(Non-Suicidal Self-Injury, NSSI)は、死ぬ意図なしに自分の身体を傷つける行為です。切傷(リストカット)、打撲、熱傷、過度の薬物摂取などがあります。次のような心理的機能を果たしていることが多いです。
- 感情調節の手段耐えられないほどの感情的苦痛を、身体的な痛みで一時的に和らげようとする。
- 自己罰「自分には罰が必要だ」という自責感からの行為。
- 解離からの脱出感情が麻痺している状態(解離)から、生きている感覚を取り戻そうとする。
- コミュニケーション言葉では伝えられない苦しさを表現する手段。
自傷衝動への対処——DBT(弁証法的行動療法)の技法
自傷の代替行動として有効な技法を紹介します。
- TIPP技法体温(冷水で顔を洗う・氷を持つ)・強烈な運動・ペース調整・プログレッシブ筋弛緩。体温を急激に変えることで自律神経を刺激し感情の強度を下げる。
- 強烈な運動ダッシュ、腕立て伏せなど、強度の高い短時間の運動で衝動のエネルギーを発散させる。
- 赤ペンで書く傷をつけたい場所に赤いペンでラインを引く(視覚的な代替)。
- 輪ゴムを弾く手首に輪ゴムを弾く刺激で身体的感覚を得る(自傷の代替)。
- 誰かに電話する自傷衝動が生じているという事実を誰かに話すだけで、衝動が和らぐことが多い。
医療機関での安全計画の活用
精神科・心療内科を受診している場合、安全計画は治療の重要な一部として機能します。自立支援医療制度や精神科救急の活用法も含めて解説します。
精神科・心療内科での安全計画
- 外来診察での活用毎回の診察時に安全計画を持参し、主治医と内容を確認・更新する習慣をつける。『この1週間で計画を使った場面はありましたか?』という振り返りが治療の質を高める。
- 入院時の作成精神科急性期病棟への入院中、退院に向けた準備として安全計画を作成することが、再入院率の低下に貢献するという研究がある。
- 退院時のブリーフィング退院直後は自殺リスクが一時的に高まることが知られている。退院前に安全計画の内容を確認し、退院後すぐに使える体制を整えておくことが重要。
- 薬の管理との連携服薬アドヒアランス(薬を正しく飲むこと)の確認とあわせて、薬の安全な保管方法(過量服薬リスクの軽減)を安全計画に盛り込む。
自立支援医療制度(精神通院医療)の活用
安全計画が必要な状態にある方の多くは、継続的な精神科治療を受けています。自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで、医療費の自己負担を大幅に軽減できます。
- 対象うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、PTSD、適応障害など、継続的な通院を必要とする精神疾患のある方
- 軽減内容通院医療費の自己負担が通常の3割から原則1割に軽減。さらに所得に応じた月額上限額が設定される
- 申請方法主治医に意見書を書いてもらい、市区町村の福祉担当窓口(または精神保健福祉センター)に申請書類を提出
- 有効期間1年間(1年ごとの更新が必要)
- 相談先制度の詳細については、最寄りの精神保健福祉センターまたは医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談
精神科救急・緊急受診
安全計画のステップを経ても危機が収まらない場合、または計画作成前に深刻な危機に陥っている場合は、精神科救急を受診することが選択肢となります。
- 精神科救急情報センター各都道府県に設置されており、夜間・休日に精神症状で急いで受診したい場合の窓口となる。
- 救急搬送自傷・自殺未遂が発生した場合は119番に連絡。一般救急(外傷)と精神科救急の両方が対応。
- 措置入院・医療保護入院本人の同意なく入院が必要な場合は、精神保健福祉法に基づく措置入院・医療保護入院の手続きがある。家族が判断に困る場合は110番または精神保健福祉センターに相談。
家族・支援者の役割
家族や支援者が安全計画の内容を把握しておくことで、危機の際により迅速かつ適切なサポートが可能になります。
家族・支援者が安全計画を知ることの重要性
- 当事者が自分でプランを使えない状態(パニック、解離、極度の疲弊)のとき、代わりに計画を確認してサポートできる
- 「この人の警告サインはこれだ」と知っていることで、危機が高まりつつあることに早く気づける
- 安全計画に名前が載っている場合、その人への連絡・説明がスムーズになる
- 「安全計画を一緒に作った」という体験が、当事者との信頼関係を深める
家族・支援者ができること/避けるべきこと
家族・支援者ができること:
- 安全計画の内容を一緒に確認する(『あなたの計画を支えたい』と伝える)
- 薬の管理を引き受ける(一回分ずつ手渡す形にする)
- 警告サインに気づいたら声をかける(『最近、眠れていないみたいだけど、大丈夫?』)
- 「死にたい?」と直接聞く(直接尋ねることが自殺リスクを高める証拠はなく、気にかけている安心感につながる)
- ただそばにいる(解決策提示より、一緒にいることが最も重要なサポート)
- 自分も専門家に相談する(精神保健福祉センターや家族相談窓口)
避けるべき言動と代わりに言えること:
支援者自身のセルフケア——共感疲労を防ぐ
希死念慮のある家族・友人・患者を支援することは、支援者にも大きな心理的負担をかけます。共感疲労(Compassion Fatigue)や二次的トラウマが生じることがあるため、支援者自身のメンタルヘルスケアも非常に重要です。
- 一人で全部を抱え込まず、他の支援者や専門家と協力する
- 自分の感情(不安、怒り、無力感)を認め、それを誰かに話す
- 精神保健福祉センターや家族会では、当事者の家族向けの相談・支援も実施している
- 「自分がすべてを解決しなければならない」という責任感を手放す。専門家につなぐことも立派な支援
安全計画の限界と補完的なアプローチ
安全計画は有効なツールですが、すべての状況で万能というわけではありません。限界を理解し、心理療法や薬物療法と組み合わせて使うことが重要です。
安全計画が「万能ではない」ことを理解する
- 最重篤な危機には単独では不十分自殺の決意が非常に強い状態や精神症状が著しく重い場合は、安全計画を使う『余裕』がないことがある。そのような状況では入院など、より集中的な介入が必要。
- 意欲がなければ使われない『使いたい』という動機があってこそ機能する。『どうせ無駄だ』という絶望感が強い場合は、計画よりまず絶望感そのものへのアプローチが必要。
- 薬物・アルコールの影響下では機能しにくい深酔いの状態や薬物使用中は、計画を参照する判断力が失われている場合がある。
- 作成しただけでは不十分安全計画は『作って引き出しにしまう』ものではなく、定期的に読み返し、実際に使ってみることで初めて機能する。
安全計画と組み合わせる5つの治療法
安全計画は、以下の心理療法・治療と組み合わせることで最大の効果を発揮します。
- 認知行動療法(CBT)自殺念慮に関連する否定的な思考パターンを特定し、修正する。安全計画はCBTのセッションの中で作成・更新されることが多い。
- 弁証法的行動療法(DBT)感情調節、苦悩耐性、対人関係スキルを高める技法群。特に自傷行為・自殺念慮が繰り返される場合に有効。
- 問題解決療法(PST)危機の引き金となっている生活上の問題(経済的困難、人間関係の問題など)に具体的に取り組む。
- 薬物療法うつ病、双極性障害などの基礎疾患に対する薬物療法は、希死念慮そのものを軽減する効果がある。安全計画はあくまでも『補完的ツール』。
- マインドフルネスベースの認知療法(MBCT)思考に飲み込まれずに観察する力を養い、反芻思考を和らげる。
回復のプロセスとしての安全計画
安全計画は「危機を防ぐツール」であると同時に、当事者が自分自身の回復プロセスに主体的に参加するためのツールでもあります。計画を作成し、使い、見直すプロセスを通じて、当事者は自分の警告サインを知り、自分を助けてくれる人とのつながりを実感し、危機をやり過ごせた体験を積み重ねていきます。
- 危機をやり過ごせた経験が「自分でもできる」という自己効力感を高める
- 繰り返し使う中で、自分に合った対処法がわかってくる
- 状態が安定するにつれて、計画の内容も変化・発展していく
- 「安全計画が必要な状態」から「安全計画を使わずに過ごせる時間が増えていく」ことが回復のサイン
よくある質問
安全計画に関する7つのよくある質問にお答えします。
A. いいえ、そんなことはありません。現在希死念慮がある方だけでなく、過去に危機的な状態になったことがある方、将来危機に陥るリスクがあると感じている方、自傷行為がある方なども作成できます。危機の波は予告なく来ることもあります。状態が比較的安定している今のうちに作成しておくことで、最も苦しいときの『備え』になります。『まだそれほど深刻ではないから必要ない』ではなく、『今だからこそ冷静に考えられる』という視点で取り組むことをお勧めします。
A. 一人で作ることも可能ですが、精神科医、心理士、精神保健福祉士などの支援者と一緒に作ることが最も効果的です。支援者がいることで、自分では気づかなかった警告サインや対処法を補完できます。『一緒に考えてくれた人がいる』経験が計画を実際に使う動機づけになります。精神科や心療内科に通院している場合は、主治医または担当スタッフに『安全計画を作りたい』と伝えてみてください。まだ専門家につながっていない場合は精神保健福祉センターに相談することから始められます。
A. この不安はとても自然なものです。危機の状態では判断力が低下し、計画があることを思い出すこと自体が難しくなります。対策として、①計画をスマホのホーム画面や財布など『すぐに見える場所』に置く、②警告サインを感じた段階(まだ危機が軽い段階)で計画を取り出すクセをつける、③計画を家族・支援者と共有し外から見てもらえるようにする、④定期的に(週に一度など)計画を読み返す習慣をつける、が効果的です。支援者と『ロールプレイ』(危機の場面を想定して練習する)をしておくと、実際の使いやすさが格段に上がります。
A. まず、当事者の話をしっかり聴くことから始めてください。『死にたいの?』と直接尋ねることをためらわないでください。自殺について直接聞くことが自殺リスクを高める証拠はなく、『気にかけている』というメッセージになります。安全計画を勧める際は『あなたを守るための計画を一緒に考えたい』という姿勢で伝えると受け入れられやすいです。当事者が強く拒否する場合は無理に進めず、まず専門家(精神保健福祉センター、主治医)に家族として相談してください。今すぐ助けが必要な状況(今まさに自傷しようとしているなど)であれば、安全計画より先に119番や110番に連絡してください。
A. 一度作れば終わりではなく、定期的に見直し・更新していくものです。環境の変化(転居、仕事の変化、人間関係の変化など)に伴い、連絡できる人や気分転換できる場所も変わります。実際に計画を使ってみて『このStep 2の方法は自分には効かなかった』『この人には電話しにくかった』という気づきを反映させることで、計画はより実用的になります。精神科・心療内科通院中の場合は、定期的な受診ごとに主治医と内容を確認することが推奨されます。目安として少なくとも3〜6ヶ月に一度の見直しをお勧めします。
A. はい、基本的な構成は自分でも作ることができます。この記事の6つのステップ(警告サイン、一人でできる対処法、気分転換の場所、話せる人、専門機関の連絡先、環境の安全化)を参考に、自分の言葉で具体的に書き出してみてください。ただし、現在強い希死念慮や自傷衝動がある場合は、ひとりで作業するよりも、まず精神保健福祉センター(無料・匿名で相談可能)またはいのちの電話(0120-783-556)・よりそいホットライン(0120-279-338)に連絡することをお勧めします。電話では計画の内容を一緒に整理してもらえる場合もあります。作成したら信頼できる人に内容を共有しておくことが重要です。
A. 似たような概念ですが、厳密には異なります。セーフティプラン(安全計画)は主にスタンレー・ブラウンモデルを指し、『危機が高まったときにどうするか』という行動指針を6段階で記述したものです。クライシスプラン(危機計画)はより広い概念で、『危機に陥ったときに誰がどのような対応をするか』を当事者・家族・支援者・医療機関が合意した形でまとめたものを指すことが多いです。クライシスプランには当事者の『こうしてほしい』希望(入院を拒否するか受け入れるか、特定の薬を使うかどうかなど)も含まれます。日本では両者の区別は必ずしも明確でなく、『安全計画』『安全プラン』『危機対応計画』などの名称で使われます。いずれも『危機に備えて事前に計画を立てる』考え方は共通しています。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
今、つらい気持ちを抱えていませんか。安全計画の作成も含め、どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
継続的な精神科通院が必要な方へ:自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。詳しくは主治医または最寄りの精神保健福祉センターにご相談ください。このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。
