メンタルヘルス用語辞典 · 二次的外傷性ストレス

二次的外傷性ストレス(STS)とは?
共感疲労・症状・原因・回復までを支援者向けに解説

支援者・援助職がクライアントのトラウマ体験に間接的に触れることで生じるPTSD類似の症状を「二次的外傷性ストレス(STS)」と呼びます。共感疲労とも呼ばれ、援助職に起こりうる職業的リスクです。バーンアウトとの違い、4つの症状クラスター、神経生物学的メカニズム、セルフケア、組織的対応、回復プロセスまで、必要な情報をすべてまとめました。

ABOUT STS

二次的外傷性ストレス(STS)とは

支援者・援助職・対人援助専門家が、クライアントのトラウマ体験に間接的に触れることで生じるPTSD類似の症状を「二次的外傷性ストレス(Secondary Traumatic Stress: STS)」と呼びます。

定義

二次的外傷性ストレス(STS)の定義

二次的外傷性ストレス(Secondary Traumatic Stress: STS)は、トラウマを経験した人(クライアント・被害者・患者)を支援する専門家が、その人のトラウマ体験を詳細に聞いたり、目撃したり、対応したりすることによって自分自身に生じるPTSD様の症状群を指します。

「共感疲労(Compassion Fatigue)」とも呼ばれ、救急医・精神科医・臨床心理士・ソーシャルワーカー・被害者支援員・警察官・消防士など、トラウマと日常的に向き合う専門家に多く見られます。直接的なトラウマ体験ではなく、「他者のトラウマを聴く・目撃する・対応する」という間接的な経路で生じる点が特徴です。

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なぜ他者のトラウマが自分のトラウマになるのか共感と感情的な関与を通じて他者のトラウマを「経験」することで、脳内で直接的なトラウマに類似した神経学的プロセスが起こります。ミラーニューロンシステムを通じた「感情の共鳴」、扁桃体(恐怖処理)の過活動、前頭前野(感情調節)の機能低下が生じ、PTSD様の症状が形成されます。これは「弱さ」ではなく「高い共感能力を持つ支援者が払う代償」です。
「強い支援者」ほどかかりやすい二次的外傷性ストレスは、クライアントに深く寄り添い、高い共感能力を持つ支援者ほどかかりやすいと言われています。「自分はプロだから大丈夫」という過信が、早期発見・対処を遅らせるリスクがあります。プロフェッショナルであることは、STSの予防・管理を「業務の一部」として捉えることを意味します。
燃え尽きとの違い

燃え尽き症候群(バーンアウト)との違い

二次的外傷性ストレスはしばしば「燃え尽き症候群(バーンアウト)」と混同されますが、異なるメカニズムを持ちます。

緩やかに蓄積
燃え尽き症候群(バーンアウト)
長期にわたる過重な仕事負荷、報われない感覚、リソース不足によって徐々に蓄積される消耗状態。特定のトラウマ体験ではなく、慢性的な職場環境が原因。感情が鈍麻し「どうせやっても無駄」という無力感が中心。休息と仕事量・環境の改善で回復しやすい。
引き金:慢性的な過負荷・報われない状況
主症状:情緒的消耗感、脱人格化、無力感
回復:休息・仕事量の調整
突然・急激に
二次的外傷性ストレス(STS)
他者のトラウマ体験を詳細に聞いたり目撃したりすることで、自分自身にPTSDに類似した症状(フラッシュバック・悪夢・回避・過覚醒)が生じる状態。特定の事例・聴取後に急激に症状が現れることも多い。PTSD治療(EMDR・TF-CBTなど)が有効。
引き金:クライアントのトラウマ体験への間接的曝露
主症状:フラッシュバック・悪夢・回避・過覚醒
回復:トラウマ治療(EMDR等)が有効
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両方が同時に起こることもある実際には、二次的外傷性ストレスと燃え尽き症候群が同時に存在することも多く、「共感疲労=STS+バーンアウト」と捉える研究者もいます。どちらが主な問題かを正確に見極めるためにも、専門家による評価が重要です。
有病率

二次的外傷性ストレスの有病率——珍しくない問題

援助職におけるSTSの発生率は決して低くなく、複数の研究で職業的リスクとして報告されています。

30〜50%
被害者支援・性暴力支援の専門家のSTSの有病率(研究によって幅あり)
26%
救急看護師のSTS症状の報告率(Hooper et al., 2010)
75%以上
虐待対応専門職で何らかのSTS症状を経験したと報告する割合
二次的外傷性ストレスは援助職の「職業病」とも言えます。「自分はプロだから大丈夫」「こんなことで参るようでは支援者は務まらない」という思い込みが、早期発見・対処を妨げます。STSを経験することは「プロとして失格」ではなく、「深く寄り添っている証拠」でもあります。
代理受傷との違い

代理受傷(Vicarious Traumatization)とSTSの関係

二次的外傷性ストレスと混同されることが多い概念に「代理受傷(Vicarious Traumatization: VT)」があります。両者はいずれも他者のトラウマへの間接的曝露から生じますが、焦点が異なります。

STS
症状レベル
PTSDに類似したフラッシュバック・回避・過覚醒などの外顕的な症状を指します。比較的短期間で現れやすく、特定の事例や対話が引き金になります。
VT(代理受傷)
認知・信念レベル
長期的なトラウマ支援を通じて支援者の世界観・自己認識・他者への信頼感が根本的に変容していく過程を指します。緩やかに、しかし深く変化します。
「代理受傷」は回復に時間がかかるSTSは適切な治療で比較的回復しやすい一方、代理受傷(VT)は長年の支援業務の中で積み重なった世界観の変容であるため、回復には時間と深い内省的作業が必要です。STSとVTは同時に存在することも多く、どちらの側面が前景にあるかを専門家と一緒に見極めることが重要です。
神経生物学

二次的外傷性ストレスの神経生物学的メカニズム

なぜ「他者の話を聴く」だけで自分がPTSD様の症状を呈するのか。その背景には、共感と神経科学的なメカニズムが関与しています。

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ミラーニューロンシステムの役割
ミラーニューロンは、他者の行動・感情を「まるで自分が経験しているかのように」脳内で再現する神経細胞群です。共感能力の基盤であり、トラウマ体験の詳細な叙述を聴く際に活性化することで、聴き手が話し手の感情・感覚を内的に「再体験」するプロセスを生じさせます。
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扁桃体の過活動と前頭前野の抑制
トラウマ的な内容への曝露により、扁桃体(恐怖・脅威処理の中枢)が過活動状態になります。同時に、感情調節を担う前頭前野(特に腹内側前頭前野)の機能が抑制されます。これがフラッシュバック・過覚醒・感情調節困難というSTS症状の神経生物学的基盤です。
HPA軸と慢性ストレス反応
視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の慢性的な活性化により、コルチゾール分泌パターンが変化します。これが睡眠障害・免疫機能低下・慢性疲労・集中困難などの身体症状につながります。トラウマ支援業務の継続的な曝露は、HPA軸に慢性的な負担をかけます。
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神経科学が示す治療の方向性
EMDRや身体的アプローチ(ソマティック・エクスペリエンシング等)は、脳の神経生物学的変化に直接働きかける治療法です。特にEMDRは、眼球運動を通じて扁桃体の過活動を抑制し、記憶の再処理を促進することが神経画像研究で示されています。
SYMPTOMS

二次的外傷性ストレスの症状

STSの症状はPTSDの症状クラスターと同様に、侵入症状・回避症状・過覚醒症状・認知感情の変化の4つの領域で現れます。

症状クラスター

4つの症状クラスター——PTSDと類似した構造

二次的外傷性ストレスはPTSD(心的外傷後ストレス障害)とほぼ同様の症状クラスターを示します。ただし、STSの場合は「直接的に体験した出来事」ではなく「クライアントのトラウマ体験の内容」が症状の元になっている点が異なります。

🌊侵入症状(再体験)
  • フラッシュバッククライアントから聞いたトラウマ的な話の内容・場面が、不意に鮮明なイメージとして脳裏に浮かび上がる。
  • 悪夢クライアントのトラウマ体験に関連した悪夢を見る。夢の中で被害者や救助者として登場する。
  • 侵入的思考仕事から離れているはずの時間(食事中、就寝前など)に、クライアントの話した内容が頭の中に繰り返し浮かぶ。
  • 感情的反応の再体験クライアントのトラウマ話を思い出すだけで、聴取時に感じた強烈な感情が再び押し寄せる。
セルフチェック

二次的外傷性ストレスのセルフチェックリスト

以下のチェックリストは診断ツールではありませんが、現在の状態を振り返るきっかけとして活用してください。過去2週間の自分を振り返ってチェックしてください。

  • 特定のクライアントの話が頭から離れず、仕事以外の時間にも繰り返し浮かんでくる
  • クライアントのトラウマ体験に関連した悪夢を見るようになった
  • 以前は感じていたクライアントへの共感が薄れ、感情的に距離を置くようになった
  • トラウマ関連のニュースや映像を見ることを避けるようになった
  • 仕事後に気分の切り替えができず、家でも職場のことを考え続けている
  • 些細なことで怒りを感じたり、家族や友人にイライラしやすくなった
  • 「世界は危険な場所だ」「人間は残酷だ」という見方が強くなった
  • 「もっとうまく支援できたはずだ」という罪悪感に苦しんでいる
  • 仕事への意欲・使命感が低下し、支援業務を続けることに疑問を感じている
  • 睡眠・食欲・身体的健康に問題が生じている
⚠️
5項目以上に当てはまる場合は、二次的外傷性ストレスの可能性があります。スーパーバイザーへの相談、または精神科・心療内科への受診を検討してください。これは「弱さ」ではなく「プロとしての自己管理の一部」です。
CAUSES & RISK

原因とリスク要因

二次的外傷性ストレスが生じる背景には、職業特性・個人要因・組織要因・曝露の特性が複合的に関与しています。

4つのリスク要因

STSを生む4つのリスク要因

どれか一つではなく複数が絡み合うことで、STSのリスクが顕在化します。

📋トラウマ関連職種での高リスク

二次的外傷性ストレスのリスクが特に高い職種には以下が含まれます。直接的なトラウマ支援業務(被害者支援・性暴力支援・虐待対応等)に従事する専門家は特にリスクが高く、定期的なスーパービジョンとセルフケアが不可欠です。

  • 臨床心理士・精神保健福祉士・公認心理師
  • 医師・看護師(救急・ICU・精神科など)
  • ソーシャルワーカー・ケースワーカー
  • 被害者支援員・性暴力被害者支援の専門家
  • 警察官・消防士・救急隊員
  • 法廷関係者(裁判官・弁護士・検察官)
  • 虐待対応専門員・児童相談所職員
「自分に問題があるから」ではない二次的外傷性ストレスになるのは「自分が弱いから」「プロ失格」だからではありません。高リスクの環境で、十分なサポートなしに働き続けることの自然な結果です。組織レベルの対策なしに個人の努力だけで予防することには限界があります。
WHO IS AFFECTED

二次的外傷性ストレスの影響を受けやすい職種

あらゆる援助職にリスクはありますが、特に高リスクの職種と状況を理解しておくことが早期対応につながります。

高リスク職種

5カテゴリの高リスク職種

医療・心理福祉・司法公安・教育支援・メディアの5領域で、特にリスクの高い職種を整理します。

  • 🏥 医療職(リスク:高)救急医・外傷専門医/ICU・救急看護師/精神科医・精神科看護師/緩和ケア医・ホスピス看護師/産婦人科医(死産・新生児死亡対応)
  • 🧠 心理・福祉職(リスク:高)臨床心理士・公認心理師(トラウマ専門)/精神保健福祉士/被害者支援員/DV・性暴力被害者支援の専門家/児童相談所職員・虐待対応専門員
  • ⚖️ 司法・公安職(リスク:高)警察官(性犯罪・虐待担当)/検察官(重大事件担当)/刑務所・少年院職員/裁判所職員(重大事件担当)/消防士・救急隊員
  • 📚 教育・支援職(リスク:中〜高)スクールカウンセラー/特別支援教育の教師/里親・ファミリーホーム支援者/難民支援員/災害ボランティアコーディネーター
  • 📸 メディア・調査職(リスク:中〜高)戦場・災害現場の報道記者・フォトジャーナリスト/事件・事故の報道番組制作者/SNS・コンテンツモデレーター(過激コンテンツ審査)/警察・検察の映像・証拠審査担当者
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SNSモデレーターの新しいリスク近年注目されているのが、SNSプラットフォームのコンテンツモデレーター(有害コンテンツ審査員)のSTSです。暴力・性的虐待・テロ映像などを日常的に審査する作業は、高度なSTSリスクをもたらします。テクノロジー企業でも、従業員の二次的トラウマへの対応が急務になっています。
TREATMENT

STSへの対処法と治療

STSへの対処は、個人レベルのセルフケア・組織レベルの支援・必要に応じた専門的治療の3層で行うことが重要です。

3層モデル

STSへの対処の3層モデル

個人・職場・専門治療の3層を組み合わせて、回復と予防を支えます。

LAYER 1
第1層:個人レベルのセルフケア
定期的なデコンプレッション・運動・睡眠・境界設定・スーパービジョンの積極的活用
→ 定期的な自己点検(セルフモニタリング)/スーパービジョンの積極的活用/ワーク・ライフ境界の意識的な管理/身体的健康の維持(睡眠・運動・食事)
LAYER 2
第2層:職場・同僚レベルのサポート
ピアサポート・定期的なチームデブリーフィング・職場でのオープンな対話
→ ピアサポートプログラムの活用/重大事例後のチームデブリーフィング/スーパーバイザーへの早期相談/職場内のオープンなコミュニケーション文化
LAYER 3
第3層:専門的な治療
STS症状が持続する場合は、EMDRやTF-CBT等のトラウマ焦点型治療が有効
→ EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)/TF-CBT(トラウマ焦点型認知行動療法)/精神科・心療内科でのSSRI等薬物療法/EAP(従業員支援プログラム)の利用
「治療を受けること」はプロとしての選択精神科・心療内科への受診や心理療法の利用を「弱さ」と感じる支援者は多いですが、これは誤りです。自分の心の健康を管理することは、クライアントに質の高い支援を提供し続けるための「職業的責任」です。パイロットが定期的な身体検査を受けるのと同じように、支援者は定期的なメンタルヘルスのチェックを受けることが求められます。
SELF-CARE

支援者のためのセルフケア戦略

二次的外傷性ストレスを予防・軽減するための具体的なセルフケア戦略を紹介します。「余裕があればやる」ではなく「意識的に行う」ことが重要です。

8つの戦略

日常で実践できる、8つのセルフケア戦略

どれか1つに絞らず、複数を組み合わせて日常に組み込むのが効果的です。

🧘
定期的なデコンプレッション(減圧)の時間
「仕事モード」から「プライベートモード」に切り替えるための移行時間を設けましょう。帰宅前の5分間のマインドフルネス・帰宅後の着替えルーティン・散歩など、「仕事から離れる儀式」を作ることが効果的です。
🤝
定期的なスーパービジョンを受ける
信頼できるスーパーバイザーとの定期的な面談は、STS予防の最も重要な保護要因のひとつです。「困った事例がない時でも」定期的に受けることが、蓄積を防ぎます。「弱さを見せること」ではなく「専門的成長のプロセス」として捉えましょう。
📝
リフレクションジャーナルをつける
心に残った事例・感じた感情・身体的反応などを書き出すことで、感情の処理と気づきが促進されます。「今日感じたこと」を言語化するだけでも、感情の整理につながります。
🏃
身体を動かすルーティンを維持する
運動は二次的トラウマのバッファーとして強力に機能します。週3〜5回の有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳など)が理想ですが、毎日の15分散歩でも効果があります。身体の緊張を解放することが神経系の調整に役立ちます。
🔋
「感情の充電」になる活動を意識的に行う
支援業務は感情を消耗させます。自分にとって「感情が回復する活動(趣味・自然の中での時間・大切な人との時間など)」を意識的にスケジュールに入れましょう。「余裕があれば」ではなく「意識的に」が重要です。
🌿
ワーク・ライフ境界を明確にする
仕事関連のメール・連絡は一定時間以降は確認しない、クライアントに関する思考が頭を占領し始めたら意識的に別のことに注意を向けるなど、ワークとライフの境界を意識的に守る行動が蓄積を防ぎます。
💬
ピアサポート・同僚との情報共有
同じ職場の同僚や同業者との定期的なピアサポートは、「自分だけではない」という正常化と、実践的なコーピング戦略の共有につながります。守秘義務の範囲内で、感じていることを率直に話し合える職場文化を育てましょう。
🏥
症状が出たら早期に専門家に相談する
フラッシュバック・悪夢・回避・強い感情反応が2週間以上続く場合は、早めに精神科・心療内科またはEAP(従業員支援プログラム)に相談してください。STSは適切な治療で改善できます。放置すると慢性化・重症化します。
💡
セルフケアは「自己中心的」ではない「クライアントのことを考えると、自分のことを優先できない」という感覚は援助職に多く見られます。しかし、飛行機の緊急時に「まず自分の酸素マスクを着けてから他者を助ける」という原則と同様に、支援者自身の健康を守ることが、クライアントへの持続的・質の高い支援の前提条件です。セルフケアは義務です。
ORGANIZATIONAL ROLE

組織・管理者の役割

二次的外傷性ストレスの予防と対応は、個人の努力だけでは限界があります。組織・管理者レベルでの体制整備が不可欠です。

組織の行動

管理者・組織がSTSを防ぐために取るべき7つの行動

STSは「個人の問題」ではなく「組織の問題」でもあります。

  • 1. STS教育・研修の実施全スタッフが二次的トラウマについて基礎的な理解を持つための定期研修。「知識がある」ことが早期発見・早期対応につながります。
  • 2. スーパービジョン体制の整備個人スーパービジョン・グループスーパービジョンを定期的に実施できる体制と時間の確保。
  • 3. ピアサポートプログラムの導入STS後のピアサポート(同僚支援)の仕組みを整備し、サポーター養成研修を行う。
  • 4. 業務負担の管理一人のスタッフが担当するトラウマ事例の件数・種類を管理し、過負荷を防ぐ。
  • 5. EAP(従業員支援プログラム)の活用外部の心理専門家との相談ができるEAPを導入し、スタッフが気軽に利用できる環境を作る。
  • 6. セルフケアを「業務の一部」として認める文化「休むことは弱さ」という文化ではなく、「セルフケアは職業的責任」という文化を組織として明示的に採用する。
  • 7. トラウマ事例後のデブリーフィングの実施重大なトラウマ事例対応後に、構造化されたデブリーフィングセッションを提供する。
「スタッフのSTS対応」は倫理的義務スタッフをトラウマ的な業務に配置する組織には、そのリスクからスタッフを保護する倫理的責任があります。「スタッフが強くなければならない」という文化は、組織にとっても最終的には質の低下・離職率の上昇・訴訟リスクをもたらします。STSへの組織的対応は、経営的観点からも合理的です。
RECOVERY & GROWTH

回復とコンパッション満足——成長のプロセス

二次的外傷性ストレスからの回復は、単に症状がなくなることだけを意味しません。支援者としての深い成長と、コンパッション満足という肯定的な側面を育てるプロセスでもあります。

コンパッション満足

支援の仕事がもたらすポジティブな側面

二次的外傷性ストレスの議論ではネガティブな側面に焦点が当たりがちですが、支援の仕事には「コンパッション満足(Compassion Satisfaction)」という対極の面も存在します。

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コンパッション満足とは
支援の仕事から得られるポジティブな感情・充実感・意義感のことを「コンパッション満足(Compassion Satisfaction)」と呼びます。STSと燃え尽き症候群が共感疲労のネガティブ面であるのに対し、コンパッション満足は同じ援助業務から生まれるポジティブ面です。クライアントの回復・成長を目の当たりにしたとき、困難な状況でも意味を見出せたとき、自分の存在が他者の人生に貢献していると実感したとき——これらがコンパッション満足の源泉です。
⚖️
STSを緩和するメカニズム
研究によると、コンパッション満足の高い支援者はSTS症状が相対的に低く、バーンアウトへの移行リスクも低いことが示されています。「なぜこの仕事をしているのか」という意義の感覚が、トラウマ曝露のストレスに対するバッファーとして機能します。コンパッション満足を意識的に育てることは、STS予防の重要な戦略です。
🌱
コンパッション満足を育てる実践
コンパッション満足は「待っていれば自然に感じられる」ものではなく、意識的に育てることができます。クライアントの小さな回復・変化に注目する習慣、同僚との「うまくいったこと」の共有(ポジティブケース共有)、自分の仕事の意義を定期的に振り返る時間の確保、感謝を受け取る練習(「大丈夫」と跳ね返さない)などが効果的です。
ProQOL(Professional Quality of Life)尺度コンパッション満足・STS・バーンアウトの3側面を同時に評価するツールとして「ProQOL(Professional Quality of Life)尺度」が国際的に広く使われています。自分のSTSレベルとコンパッション満足レベルを客観的に把握することで、どの側面に対して重点的に取り組む必要があるかが明確になります。
回復の4段階

二次的外傷性ストレスからの回復プロセス

STSからの回復は一直線ではなく、段階的なプロセスです。自分がどの段階にいるかを理解することで、次のステップが見えてきます。

STAGE 1
認識
自分がSTSに苦しんでいることを認識する段階です。「疲れているだけ」「弱いだけ」という思い込みを超え、「これはSTSかもしれない」と気づくことが最初のステップです。セルフチェックリストや信頼できる同僚・スーパーバイザーとの対話が認識を促します。アクション:セルフチェックリストを使った自己評価/スーパーバイザーや信頼できる同僚への開示/STSに関する情報収集・学習。
気づきの段階
STAGE 2
受容と正常化
STSを「恥ずべきこと」ではなく「高い共感能力と困難な状況への自然な反応」として受け入れる段階です。「これは弱さではない」「プロとして真摯に仕事と向き合ってきたからこそ生じた」という観点の転換が、回復の土台になります。アクション:STSの正常化(「あなたのせいではない」)/感情の言語化・表現/孤立感の軽減(同業者との対話)。
心理的土台
STAGE 3
治療・回復
必要に応じて専門的な治療を受けながら、症状を軽減・解消していく段階です。EMDR・TF-CBT等のトラウマ焦点型治療が有効です。並行して、生活習慣の見直し・セルフケアの実践・スーパービジョンの継続も重要です。アクション:EMDR・TF-CBT等のトラウマ焦点型治療/精神科・心療内科での薬物療法の検討/EAP(従業員支援プログラム)の利用。
症状軽減
STAGE 4
レジリエンスの構築
回復を超えて、将来のトラウマ曝露に対するレジリエンス(回復力)を意識的に構築する段階です。コンパッション満足を育て、セルフケアを日常の習慣にし、職場でSTS予防の文化を広める役割を担う支援者へと成長していくプロセスです。アクション:コンパッション満足を育てる実践/日常的なセルフケアルーティンの確立/職場でのSTS啓発・ピアサポートへの参加。
成長の段階
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回復には時間がかかることを知るSTSからの回復は、数日・数週間で完了することもあれば、数か月から1年以上かかることもあります。「なぜもっと早く回復できないのか」という自己批判は、回復を妨げます。回復のスピードに個人差があることを受け入れ、プロセスを信頼することが重要です。
TIC

組織文化としてのトラウマインフォームドケア

STSの予防・対応に最も効果的な組織的アプローチのひとつが「トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care: TIC)」です。

  • トラウマインフォームドケア(TIC)とは組織・システム・個人がトラウマの広範な影響を理解し、回復に向けたパスを認識し、トラウマに関する知識を方針・手続き・実践に組み込むアプローチ。支援を受ける側(クライアント)だけでなく、支援を行う側(スタッフ)のトラウマにも目を向けることを含みます。
  • TICの6原則(SAMHSA)米国薬物依存・精神保健行政局(SAMHSA)が定義する6原則:①安全性(Safety)、②信頼性と透明性(Trustworthiness & Transparency)、③ピアサポート(Peer Support)、④協力と相互性(Collaboration & Mutuality)、⑤エンパワーメントと選択(Empowerment, Voice & Choice)、⑥文化・歴史・ジェンダーへの配慮(Cultural, Historical & Gender Issues)。これらはスタッフ支援にもそのまま適用できます。
  • TIC組織がSTSを防ぐ理由TICを組織文化に組み込んだ職場では、スタッフが「トラウマの影響を受けることは正常」と理解した上で働けます。スタッフのSTS症状に気づいた際の標準的な対応手順が整備されており、「助けを求めること」がキャリアに不利にならない文化があります。これがSTSの早期発見・早期対応につながります。
  • 日本の医療・福祉機関での普及日本では、児童相談所・性暴力被害者支援センター(SACSS)・精神科病院などでTICの導入が徐々に進んでいます。厚生労働省も虐待対応・DV対応分野でトラウマインフォームドな組織文化の醸成を推進。自組織にTICが導入されているかを確認し、推進する活動に参加することが支援者自身のSTSリスク低減にもつながります。
FAQ

よくある質問

二次的外傷性ストレスについて、支援者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

質問と回答

支援者からのよくある8つの質問

  • Q. 二次的外傷性ストレスとPTSDは同じですか?A. 症状のパターンはほぼ同じですが、発症の経路が異なります。PTSDは自分自身が直接的なトラウマ(事故・暴力・災害など)にさらされて発症するのに対し、STSは他者のトラウマ体験を詳細に聴く・目撃する・対応することで発症します。DSM-5では「トラウマ的な素材への繰り返しの職業的曝露」がPTSDの診断基準Aに含まれており、STSはPTSDの一形態として診断することが可能です。症状への対処法もPTSD治療(EMDR・TF-CBT等)が有効である点で共通しています。
  • Q. どれくらいの期間症状が続いたら受診すべきですか?A. 一般的には、侵入症状(フラッシュバック・悪夢)・回避症状・過覚醒症状のいずれかが2週間以上持続している場合は、精神科・心療内科への受診を検討してください。ただし、症状の重さ・日常生活・仕事への支障の程度によっては、より早い段階での受診が望ましいこともあります。「受診するほどではない」という自己判断が重症化・慢性化を招くことが多いため、迷ったら早めに相談を。精神保健福祉センターに相談することも有効な第一歩です。
  • Q. スーパーバイザーに話すことが怖いです。キャリアに影響しますか?A. この不安は非常に一般的なもので、多くの支援者が感じています。しかし、現在の精神保健・福祉・医療の倫理基準では、支援者自身のメンタルヘルス管理はプロフェッショナルとしての責任の一部と捉えられています。STSを経験していることを開示すること自体は、プロとして「自己管理ができている証拠」です。組織の文化によって安全性は異なりますが、まずは信頼できるスーパーバイザーや同僚への小さな開示から始めること、あるいは職場外のEAPや民間カウンセリングを利用することも選択肢です。
  • Q. 家族や友人に症状を理解してもらえません。どうすればいいですか?A. 「なぜそんなに仕事のことを引きずるのか」「プロなんだから割り切れるはずだ」という周囲の言葉は、STSを経験している支援者にとって孤立感を深めます。家族・友人に説明する際には、「二次的外傷性ストレスは、救急隊員や医師にも起こる職業的なリスクで、脳のレベルでの反応」という説明が伝わりやすいことがあります。また、同業者のピアサポートグループや、STSを理解している専門家(カウンセラー・精神科医)との面談が、孤立感を和らげる有効な手段です。
  • Q. EMDR治療はどこで受けられますか?費用はかかりますか?A. EMDR治療は、日本EMDR学会の認定を受けた臨床家(精神科医・臨床心理士・公認心理師など)が提供しています。精神科・心療内科クリニック、または独立開業の心理士事務所で受けることができます。費用は機関によって異なりますが、精神科・心療内科での保険診療の場合は保険適用の範囲内で受けられる場合があります。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、通院医療費の自己負担が原則1割に軽減される場合があります。日本EMDR学会のウェブサイトでEMDR治療者リストを確認できます。
  • Q. 精神保健福祉センターはどのような相談ができますか?A. 各都道府県・政令指定都市に設置された公的な専門機関で、メンタルヘルスに関するあらゆる相談を無料で受け付けています。二次的外傷性ストレスを含む職業的なメンタルヘルスの問題、精神科・心療内科への紹介、支援制度(自立支援医療制度等)の案内なども行っています。電話相談・来所相談の両方に対応しており、「自分がSTSかどうかわからない」という段階での相談にも対応しています。お住まいの都道府県の精神保健福祉センターの連絡先は、「都道府県名+精神保健福祉センター」で検索してください。
  • Q. 支援の仕事を続けながら回復できますか?A. 多くの場合、適切なサポートと治療を受けながら支援の仕事を継続することは可能です。ただし、症状の重さ・仕事の内容・職場のサポート状況によって判断は異なります。一時的な業務内容の調整(トラウマ事例の件数を減らす・高リスク業務から一時的に外れる)を職場に相談することも、回復を支える重要な選択肢です。「休むこと」や「業務調整」は「逃げ」ではなく「長期的に支援を続けるための投資」です。主治医・スーパーバイザーと相談しながら判断しましょう。
  • Q. 子どもを支援する仕事でのSTSリスクは特に高いですか?A. はい。子どもへの虐待・性的暴力・家庭崩壊に関わる支援は、STSリスクが特に高い分野です。子どもの脆弱性・無力さへの共感が強烈な感情反応を引き起こしやすく、「なぜ大人が子どもを傷つけるのか」という世界観の根本的な揺らぎが生じやすいためです。児童相談所・学校・小児科・子ども支援NPOなどで働く専門家は、定期的なスーパービジョンの確保と組織的なSTS対応体制の整備が特に重要です。
疑問はそのままにしないで「自分のケースはこれに当てはまるのか」「どこに相談すればいいのか」など、個別の疑問は精神保健福祉センターや専門家への相談を通じて解消できます。一般的な情報では解決しない個別の状況については、専門家への相談を強くお勧めします。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。詳細はお住まいの市区町村窓口または精神保健福祉センターにお問い合わせください。

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