自己否定とは?
「自分はダメだ」が止まらない原因・心理・うつとの関係・克服法
「自分はダメな人間だ」「何をやっても無駄だ」——そんな声が頭の中で繰り返される。自己否定の心理メカニズム、原因、うつ病との関係、自己肯定感を取り戻すための具体的な方法を徹底的に解説します。
自己否定とは——定義と自己肯定感との関係
自己否定は独立した精神疾患ではなく、学習された思考パターンです。誰もが一時的に持ちうるものですが、慢性化すると生活全般に影響を及ぼします。
自己否定の定義
自己否定とは、自分自身の価値・能力・存在を否定的に捉え、「自分はダメだ」「自分には価値がない」「自分は愛される資格がない」といったネガティブな自己評価を繰り返す心理的傾向を指します。
自己否定は独立した精神疾患ではなく、学習された思考パターンです。幼少期の体験、対人関係、社会的環境の影響を受けて形成され、無意識のうちに強化されていきます。誰もが一時的に自己否定的な思考を持つことはありますが、それが慢性化し、生活全般に影響を及ぼしている場合は注意が必要です。
自己否定と自己肯定感の関係
自己肯定感とは、アメリカ心理学会(APA)の定義では「自分が能力を持ち、配慮と尊重に値する人間であるという評価」であり、自分の存在そのものを受け入れ、認める感覚です。自己否定は、この自己肯定感の「対極」に位置する概念です。
自己否定は『謙遜』とは違う
日本文化では謙遜が美徳とされることがありますが、自己否定と謙遜は本質的に異なるものです。
- 謙遜自分の能力は認めつつ、社会的礼儀として控えめに表現する。内面では自己受容がある
- 自己否定心の底から自分を「ダメだ」「価値がない」と信じている。内面に深い苦しみがある
「謙遜のつもり」で始めた自己否定的な言動が、繰り返すうちに本当の信念として内面化されるケースもあります。
自己否定の社会的背景
自己否定は個人の問題だけでなく、社会的な文脈でも理解する必要があります。
- SNSの影響他者の「ハイライト」と自分の「日常」を比較し、劣等感が強化される
- 競争主義学歴・収入・容姿など、あらゆる面で比較・評価される社会構造
- 完璧主義文化「ミスは許されない」「弱さを見せてはいけない」という圧力
- ジェンダーの影響研究によると、社会的な性別役割の内面化が自己否定の強化に寄与する場合がある
- 日本特有の要因「空気を読む」文化、同調圧力、「出る杭は打たれる」的価値観
自己否定の心理メカニズム
コアビリーフ・認知の歪み・内的批判者・学習性無力感・アタッチメント理論——5つの観点から「なぜ思い込むのか」を解説します。
コアビリーフ(中核信念)とスキーマ
認知行動療法の枠組みでは、自己否定はコアビリーフ(中核信念)として理解されます。コアビリーフとは、幼少期から形成される自分・他者・世界に関する最も深いレベルの信念であり、無意識的に思考や感情を支配します。
- 「私は無価値だ」(I am worthless)
- 「私は愛される資格がない」(I am unlovable)
- 「私は無能だ」(I am incompetent)
- 「私は欠陥がある」(I am defective)
これらの信念は一度形成されると、確証バイアス(自分の信念を裏付ける情報ばかりに注目する傾向)によって自己強化されます。自己否定的な人は、10の成功と1の失敗があれば、1の失敗に注目して「やっぱり自分はダメだ」と結論づけるのです。
認知の歪み(思考の癖)
自己否定を維持する認知の歪みには、以下のパターンがあります。
- 全か無か思考「100点でなければ0点と同じ」「完璧でなければ失敗」
- 心のフィルターネガティブな情報だけを拾い上げ、ポジティブな情報を無視する
- 拡大解釈と矮小化失敗を過大に、成功を過小に評価する
- 個人化悪い出来事は全部自分のせいだと考える
- べき思考「〜すべきなのにできない自分はダメだ」
- レッテル貼り「ミスをした」ではなく「自分はダメ人間だ」と自己全体を否定する
- マイナス化思考良い出来事も「たまたま」「運が良かっただけ」と否定する
- 過度の一般化一度の失敗を「いつも」「すべて」に拡大する
内的批判者(インナー・クリティック)
自己否定が強い人の頭の中には、「内的批判者(inner critic)」と呼ばれる厳しい内なる声が存在します。
- 常に自分のあら探しをする
- 成功しても「まだ足りない」「もっとできたはず」と批判する
- 他者と比較して自分の劣っている点を指摘する
- 過去の失敗を何度も思い出させる
- 将来の失敗を予測して不安にさせる
内的批判者は、多くの場合、幼少期に聞いた批判的な声(親・教師・いじめの加害者など)が内面化されたものです。「自分を守るために」始まった自己監視が、いつの間にか自分を苦しめる最大の敵になっているのです。
学習性無力感と自己否定
マーティン・セリグマンの学習性無力感理論は、自己否定の形成を理解するうえで重要です。コントロール不能な否定的経験を繰り返すと、人は「何をしても無駄だ」という信念を学習し、自分の能力や努力を否定するようになります。
例えば、幼少期に繰り返し否定された子どもは、「自分が何をしても認められない」→「自分には価値がない」→「努力しても無駄」という自己否定の連鎖を学習してしまうことがあります。
アタッチメント理論と自己否定
ボウルビィのアタッチメント理論によると、幼少期の養育者との関係性が「内的作業モデル(自分と他者に対する基本的な信念)」を形成します。
- 安定型「自分は愛される存在」「他者は信頼できる」→自己肯定感が育つ
- 不安型「自分は見捨てられるかもしれない」→他者からの承認に依存しやすい
- 回避型「自分は一人でやるしかない」「他者には頼れない」→感情を抑圧しやすい
- 混乱型「自分は安全ではない」「世界は予測不能」→強い自己否定が形成されやすい
思考面の特徴
- 「どうせ自分なんて」が口癖になっている
- 成功しても「運が良かっただけ」「大したことない」と打ち消す
- 他人と比較して自分が劣っていると感じる
- 失敗を何度も反芻(ルミネーション)する
- 褒められても素直に受け取れない、「お世辞だ」と感じる
- 「自分は迷惑をかけている」と常に感じる
- 将来に対して悲観的な予測ばかりする
- 「自分が悪い」と全てを自分の責任にする
感情面の特徴
行動面の特徴
- 過剰な謝罪必要以上に「すみません」を繰り返す
- 自分の意見を言えない「自分の意見には価値がない」と感じて発言を控える
- 過剰な努力自分の価値を証明するために無理をし続ける
- 完璧主義100%でなければ認められないという強迫的な努力
- 人に合わせすぎる自分の欲求やニーズを後回しにして他者を優先する
- 機会の回避「自分にはできない」と思い、挑戦を避ける
- 承認欲求の強さ他者からの評価に過度に依存する
- 自虐的な発言冗談のふりをして自分を貶める
対人関係への影響
- 境界線(バウンダリー)を設定できず、不適切な要求にも応じてしまう
- 不健全な関係(支配的な相手、精神的虐待)に留まりやすい
- 親密な関係を避ける、または不安定な関係を繰り返す
- 「嫌われたくない」という恐怖が行動の主な動機になる
- 他者からの好意を「何か裏があるのでは」と疑う
幼少期の家庭環境
自己否定の最も大きな根源は、幼少期の養育環境にあることが多いです。
- 過度な批判・否定「なぜできないの」「ダメな子ね」という繰り返しの否定的メッセージ
- 条件付きの愛情「良い成績を取ったら愛してあげる」——存在そのものではなく成果で評価される
- 情緒的ネグレクト感情に関心を示してもらえない。「あなたの気持ちなどどうでもいい」というメッセージ
- 過保護・過干渉「あなたには無理」「危ないからやめなさい」——能力への不信が内面化される
- 兄弟姉妹との比較「お兄ちゃんはできたのに」——常に他者と比較される体験
- 身体的・性的虐待「自分は傷つけられても仕方ない存在だ」という信念の形成
- 親の精神疾患・アルコール問題子どもが親の世話をする「ヤングケアラー」としての役割逆転
学校環境での体験
- いじめ継続的な否定・排除・暴力は、自己価値を根本的に破壊する
- 成績による序列化テストの点数で「優劣」を評価される体験
- 教師からの否定的評価「あなたにはこの進路は無理」などの決めつけ
- 集団での排除体験グループに入れない、無視されるなどの体験
社会的・文化的要因
- SNSでの比較他者の「ハイライト」と自分の日常を比較し、劣等感が増幅される
- 成果主義・能力主義「何ができるか」で人間の価値が決まるという暗黙のメッセージ
- 外見至上主義容姿の社会的な理想像に合致しないことによる自己否定
- 経済的格差「持っていない」ことが「価値がない」に等式化されやすい社会
トラウマ体験
- 虐待(身体的・性的・心理的)の被害者は「自分が悪いから被害に遭った」と自責する傾向がある
- 事故・災害・犯罪被害でサバイバーズ・ギルト(生存者罪悪感)を感じることがある
- 離別・死別体験が「自分は見捨てられる存在だ」という信念を形成することがある
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)との関連
HSP(感覚処理感受性が高い人)は、環境からの刺激を深く処理する特性があるため、ネガティブな体験の影響もより強く受けやすいとされています。批判・否定のメッセージをより深く感じ取ってしまうことで、自己否定が形成されやすい傾向があります。
ただし、HSPは「良い環境」の恩恵もより強く受けるため、適切なサポートがあれば自己肯定感を育むことも十分可能です。
5つのタイプ
15項目のセルフチェック
- 1「自分はダメな人間だ」と思うことがよくある
- 2褒められても素直に受け取れない
- 3他人と比較して「自分は劣っている」と感じる
- 4失敗した経験を何度も思い出してしまう
- 5「すみません」が口癖になっている
- 6自分の意見を言うのが怖い
- 7成功しても「たまたま」「運が良かっただけ」と思う
- 8「自分がいると迷惑なのでは」と感じることがある
- 9人に頼ることに強い抵抗感がある
- 10「自分は愛される資格がない」と感じることがある
- 11完璧にできないと自分を許せない
- 12自分を犠牲にしてでも他者を優先してしまう
- 13鏡を見るのが嫌だ、自分の写真が嫌い
- 14「もっと頑張らないと価値がない」と感じる
- 15自分を好きだと言える瞬間がほとんどない
チェック結果の目安
- 0〜3個一時的な自信の低下はあるが、基本的な自己肯定感は保たれている
- 4〜7個自己否定の傾向がある。セルフケアと自己理解を深めることが有効
- 8〜11個自己否定が日常生活に影響を及ぼしている可能性。カウンセリングの利用を検討
- 12〜15個強い自己否定。うつ病などの精神疾患が背景にある可能性も。専門家への相談を推奨
キャリアへの影響
- 昇進や新しい仕事のチャンスを「自分にはできない」と辞退する
- 過剰な努力で燃え尽きる、または回避で成長が停滞する
- 自分の成果を適切にアピールできない
- 不当な扱いを受けても「自分が悪い」と我慢する
対人関係への影響
- 「嫌われるのが怖い」から本当の自分を見せられない
- 有害な関係から抜け出せない(「自分にはこれがふさわしい」と感じる)
- 過度の自己犠牲による共依存関係
- 親密さへの恐怖(「本当の自分を知られたら嫌われる」)
メンタルヘルスへの影響
- うつ病、不安障害のリスク増加
- 慢性的なストレスと心身の不調
- 自傷行為や自殺念慮のリスク
- 物質依存(アルコール、薬物)のリスク
- 摂食障害のリスク
認知行動療法(CBT)
CBTは自己否定に対して最もエビデンスが豊富な心理療法です。
- 認知再構成「自分はダメだ」という自動思考を特定し、証拠に基づいて検証する。「本当にダメだと言える証拠は?」「別の見方はできないか?」
- 行動実験自己否定的な予測を実際の行動で検証する。「発言したら笑われる」→実際に発言してみて結果を確認する
- 認知の歪みの特定全か無か思考、心のフィルター、レッテル貼りなどのパターンを自覚する
- コアビリーフの修正「自分は無価値だ」という深い信念を段階的に書き換える
スキーマ療法
スキーマ療法は、幼少期に形成された深い信念パターン(早期不適応的スキーマ)に焦点を当てた治療法です。自己否定に関連するスキーマには以下のようなものがあります。
- 欠陥/恥のスキーマ:「自分は根本的に欠陥がある」
- 失敗のスキーマ:「自分は必ず失敗する」
- 情緒的剥奪のスキーマ:「自分の感情的ニーズは満たされない」
- 見捨てられのスキーマ:「自分は見捨てられる」
スキーマ療法では、これらのスキーマの「起源」を理解し、「子どもの頃の自分」を癒す作業(限定的再養育法)を通じて修正します。
コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)
ポール・ギルバート博士が開発したCFTは、自己批判の強い人に特化した治療法です。自己否定が強い人は「脅威システム」(恐怖・不安を感じるシステム)が過活動になっており、「安らぎシステム」(安全・安心を感じるシステム)が抑制されています。
CFTでは、自分に対する「コンパッション(思いやり)」を育てることで、脅威システムを鎮め、安らぎシステムを活性化させます。
その他の治療アプローチ
- ACT自己否定的な思考を「なくす」のではなく、それに巻き込まれずに価値観に沿った行動を選択する
- EMDRトラウマに起因する自己否定のコアビリーフを再処理する
- 弁証法的行動療法(DBT)自己否定に伴う感情調節困難と対人関係の問題に対処する
- 精神力動的心理療法自己否定の「無意識の根源」を探求し、内的世界の変容を促す
セルフケアと克服法
セルフコンパッション・認知の歪みへの気づき・スモールウィン・内的批判者への対処・身体・SNSとの距離。具体的な方法を紹介します。
セルフコンパッション(自己への思いやり)
クリスティン・ネフ博士が提唱するセルフコンパッションは、自己否定への最も効果的な対処法の一つです。
- 自分への優しさ失敗したとき、「ダメだ」ではなく「辛かったね、大丈夫だよ」と自分に語りかける
- 共通の人間性「失敗するのは人間として普通のこと」——自分だけが不完全なわけではない
- マインドフルネス自己否定的な思考に気づき、巻き込まれずに観察する
具体的な練習:辛いことがあったとき、「友人が同じ状況だったら何と声をかけるか?」を考え、その言葉を自分に向けてみてください。
『認知の歪み』に気づく練習
自己否定的な思考が浮かんだとき、以下の質問で検証してみましょう。
- 「この考えを裏付ける証拠は何か?反証は?」
- 「友人が同じことを言ったら、自分はどう答えるか?」
- 「10年後の自分から見たら、この出来事はどう見えるか?」
- 「100人が同じ状況にいたら、全員が自分と同じように考えるか?」
- 「この考えは事実か、それとも解釈か?」
スモールウィンを積み重ねる
自己否定が強いと「何も成し遂げていない」と感じやすいですが、小さな達成(スモールウィン)を意識的に認識することが自己効力感の回復に効果的です。
- ✓毎日就寝前に「今日できたこと」を3つ書き出す(「起きた」「食事をした」もOK)
- ✓達成したことに対して自分を褒める(「よくやった」「大変だったのに頑張った」)
- ✓小さな目標を設定し、達成する体験を積み重ねる
内的批判者に名前をつける
自己否定的な「内なる声」を客体化するために、その声に名前をつけてみましょう(例:「また批判家のケンジが出てきた」)。
名前をつけることで、「自分の意見」と「内的批判者の声」を分離できるようになります。「ケンジはそう言っているけど、実際はどうだろう?」と距離を取ることが可能になります。
身体を通じたアプローチ
- 運動自己効力感の向上、セロトニン・エンドルフィンの分泌促進に効果的。特にヨガは自己受容の感覚を高める
- 姿勢を変える背筋を伸ばし、胸を開く姿勢は心理的にも自信を高めることが研究で示されている
- セルフタッチ自分の腕を優しく包むなどの自己慰撫行動は、自律神経を落ち着かせる
SNSとの健全な距離
- 使用時間を制限する(1日30分以内など)
- 自分を否定的な気分にさせるアカウントはミュートまたはフォロー解除する
- 「他者の投稿は編集されたハイライトだ」と意識的に思い出す
- 受動的な閲覧よりも、能動的な発信や交流を心がける
してはいけないこと
- 「もっと自信を持って」と言う自信がないからこそ苦しんでいる。精神論は効果がない
- 否定を否定する「そんなことない!あなたはすごい!」——一見良さそうだが、本人の感覚を否定することになり、かえって孤立感を深める
- 比較する「〇〇さんも同じだけど頑張っているよ」
- 励ましの強制「もっとポジティブに」「前を向いて」
効果的な関わり方
- まず聴く「そう感じているんだね」と、感じ方を否定せずに受け止める
- 具体的に認める「すごいね」よりも「あのプレゼン、資料の構成がわかりやすかったよ」と具体的に
- 存在を肯定する「あなたがいてくれて嬉しい」——能力ではなく存在そのものを認める
- 一貫した態度調子の良いときも悪いときも、同じように接する
- 境界線を尊重する本人のペースで回復することを認め、過度に踏み込まない
- 必要に応じて専門家を提案「話を聴いてくれる専門の人に相談してみるのはどう?」
回復の6ステップ
自己否定に関するよくある誤解
正しい理解で支援と回復を促す——6つの代表的な誤解と事実を整理します。
6つの誤解と事実
事実:自己否定は性格特性ではなく、学習された思考パターンです。学習されたものは「再学習」によって変えることができます。CBT、スキーマ療法、CFTなどの心理療法で、多くの人が自己否定的な思考パターンを修正しています。脳の神経可塑性により、新しい思考の「回路」を形成することは十分に可能です。
事実:むしろ逆で、自己否定が強い人ほど「頑張りすぎている」ことが多いです。「自分に価値がない」と感じるからこそ、価値を証明しようと過剰な努力をしています。必要なのは「もっと頑張ること」ではなく、「頑張らなくても自分に価値がある」と認めることです。
事実:表面的なポジティブ思考(「自分は最高!」など)は、深い自己否定には効果がないか、むしろ「思ってもいないことを言っている自分」への違和感で状態を悪化させることがあります。効果的なのは「ポジティブ」ではなく「リアリスティック(現実的)」な思考です。「自分は完璧ではないが、この部分は悪くない」という中間的な評価を目指します。
事実:自己否定は文化を問わず普遍的に見られる心理現象です。ただし、日本の文化(謙遜の美徳、同調圧力、出る杭は打たれる的価値観)が自己否定を維持・強化しやすい土壌を提供している面はあります。文化的要因を認識しつつ、個人の問題として適切にケアすることが大切です。
事実:健全な自己肯定感とナルシシズムはまったく異なるものです。自己肯定感が高い人は自分の欠点も受け入れ、他者も尊重できます。一方、ナルシシズムは実は脆弱な自己像を過大な自己顕示で覆い隠しているものであり、根底には強い自己否定が潜んでいることが多いのです。
事実:「自己否定が強いのは甘えだ」「もっと自信を持てばいい」——こうした言葉は、自己否定に苦しむ人をさらに深く傷つけます。自己否定は「努力不足」や「甘え」ではなく、多くの場合、幼少期の否定的な体験、慢性的なストレス、精神的な傷(トラウマ)から形成された、脳レベルでの深く根付いたパターンです。「自信を持て」という言葉が通じないのは、「やる気があれば骨折は治る」と言うのと同じくらい的外れです。自己否定に苦しんでいる人には、批判や励ましではなく、理解と具体的なサポートが必要です。
よくある質問
自己否定について寄せられる代表的な質問にお答えします。
よくある質問
A. 自己否定そのものは精神疾患ではなく、学習された思考パターンです。しかし、自己否定が非常に強く、日常生活に支障をきたしている場合は、うつ病、不安障害、境界性パーソナリティ障害、複雑性PTSDなどの精神疾患が背景にある可能性があります。「自分は存在する価値がない」という思考が持続している場合や、自傷・自殺の衝動がある場合は、できるだけ早く専門家に相談してください。
A. 自己肯定感の向上は一朝一夕にはいきませんが、以下のアプローチが効果的です。①セルフコンパッション(自分への思いやり)の練習、②認知の歪みへの気づきと修正、③小さな成功体験の積み重ね、④自分を否定するのではなく「ありのまま」を受け入れる練習、⑤安全で受容的な人間関係の構築。カウンセリング(特にCBTやスキーマ療法)も非常に有効です。
A. はい、変えることができます。幼少期に形成された自己否定のパターンは深く根付いていますが、脳の神経可塑性により、大人になってからでも新しい思考・感情のパターンを学ぶことは可能です。スキーマ療法やEMDR、インナーチャイルドワークなどの治療アプローチが効果的です。幼少期に得られなかった「無条件の受容」を、治療関係や安全な人間関係の中で経験し直すことが回復の鍵です。
A. 直接的な因果関係ではありませんが、関連はあります。HSP(感覚処理感受性が高い人)は環境からの刺激を深く処理する特性があるため、否定的な体験(批判・いじめ・ネグレクトなど)の影響もより強く受けやすいです。しかし同時に、良い環境からの恩恵もより強く受けるため、適切なサポートがあればHSPの人も健全な自己肯定感を育むことができます。
A. はい、非常に強い関係があります。完璧主義の根底には「完璧でなければ価値がない」という自己否定的な信念があることが多いです。100%を達成できなかった場合に自分を厳しく責め、さらに高い基準を設定するという悪循環が生まれます。健全な高い基準を持つことと、不健全な完璧主義(自己価値を条件付きにするもの)は異なります。
A. 一般的な「すごいね」「偉いね」は、自己否定が強い人には「お世辞」として処理されがちです。代わりに:①具体的なプロセスを認める(「あの部分の工夫が良かった」)、②努力を認める(「準備を頑張っていたよね」)、③存在を認める(「あなたがいてくれて助かった」)、④変化に気づく(「前より上手になったね」)——このように具体的かつ行動に焦点を当てた認め方が効果的です。
A. 完全に自己否定的な思考がゼロになることは現実的ではないかもしれません。しかし、自己否定的な思考が浮かんでも「あ、また来たな」と距離を取れるようになり、その思考に支配されずに行動できるようになることは十分に可能です。回復の目標は「自己否定をゼロにすること」ではなく、「自己否定に気づき、それと健全に付き合えるようになること」です。
A. 自己批判(セルフクリティシズム)と自己否定はしばしば混同されますが、微妙な違いがあります。自己批判は「自分の行動や言動のどこが問題だったか」を振り返る行為で、改善のための内省という健全な側面もあります。一方、自己否定は「自分という存在そのものが価値がない・ダメだ」という結論に向かう思考であり、特定の行動への反省を超えて「自分の存在価値の否定」に至るという点が大きな違いです。「あの発言は配慮が足りなかった(自己批判)」→「自分はいつもこうだ、やっぱり自分はだめだ(自己否定)」という流れで展開することが多く、自己批判が自己否定の引き金になりやすいです。健全な自己批判は自分の成長を促しますが、自己否定は自己効力感と意欲を損ないます。
A. 自己否定が強い人によく見られる認知の歪みとして、①二分法的思考(白黒思考):「完璧にできなければ完全な失敗」という0か100かの見方。②過度な一般化:一度の失敗を「いつも」「決して」という言葉で普遍化する(「またやってしまった、私はいつも失敗する」)。③心的フィルタリング:否定的な側面だけに注目し、ポジティブな側面を無視する。④結論の飛躍:証拠なしにネガティブな結論に飛びつく(「あの人は私のことが嫌いに違いない」)。⑤拡大解釈と過小評価:自分のミスを大きく見積もり、成功を小さく見積もる。⑥「べき」思考:「こうあるべきだった」「こうしなければならない」という硬直した基準で自分を縛る。これらの認知パターンに気づくことが、認知行動療法(CBT)の第一歩です。
A. 自己否定の苦しさを相談できる場所はいくつかあります。①精神保健福祉センター(各都道府県設置・無料):専門家への相談が可能で、適切な医療機関やカウンセリングへの紹介も受けられます。②心療内科・精神科:背景にうつ病や不安障害がある場合は、医療機関での治療が有効です。認知行動療法やスキーマ療法を提供しているクリニックを探しましょう。③カウンセリング:臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングは、特に幼少期の経験が影響している場合に非常に有効です。④よりそいホットライン(0120-279-338):24時間対応。今すぐ誰かに話したいときに利用できます。⑤こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556):精神保健の専門相談窓口。相談することへの恥ずかしさや、「この程度で相談していいのか」という躊躇は、多くの人が感じる自然な感情です。それでも相談する勇気が、回復への第一歩です。
「自分はダメだ」が
止まらないあなたへ
「自分はダメだ」「どうせ自分なんか」「また失敗した、やっぱり私はだめな人間だ」——自己否定の声は、あなたを壊すためにあなたの中にあるのではありません。それは過去に傷ついた心が生み出した「防衛の声」です。あなたは変わることができます。どうかあなたの悩みをきかせてください。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。通院医療費の自己負担を1割に軽減できる自立支援医療制度も活用できます。各都道府県に設置された精神保健福祉センターや、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)も無料相談を受け付けています。
