傷病手当金とは?
条件・金額・申請方法を完全解説【うつ病・休職対応】
傷病手当金は、健康保険に加入する会社員等が病気やケガで働けなくなった際、給与の約3分の2を最長1年6ヶ月受け取れる制度です。うつ病・適応障害などの精神疾患も対象。条件・金額・申請手順・退職後の継続・失業保険との関係まで完全解説します。
傷病手当金とは?定義と目的
傷病手当金は、健康保険に加入している会社員などが、病気やケガで働けなくなった期間の生活を支える公的給付です。うつ病・適応障害などの精神疾患も対象になります。
傷病手当金の基本的な定義
傷病手当金(しょうびょうてあてきん)とは、健康保険法に基づく給付制度の一つで、被保険者(健康保険に加入している会社員・公務員など)が業務外の病気やケガで働けなくなり、給与が受け取れない期間の生活を保障するために支給されるお金です。
「傷病」とは「傷(けが)」と「病(病気)」の両方を意味します。仕事中の事故や職業病は労災保険の対象となるため、傷病手当金は業務外(プライベートでの)傷病が対象です。うつ病や適応障害などの精神疾患も対象となります。
- 根拠法令:健康保険法第99条(被用者保険)、国家公務員共済組合法・地方公務員等共済組合法(公務員)
- 運営主体:全国健康保険協会(協会けんぽ)または各健康保険組合
- 目的:病気やケガで働けない期間、被保険者とその家族の生活を経済的に保障すること
- 受け取れる金額の目安:月給の約3分の2(正確には標準報酬日額の3分の2×休業日数)
誰が対象か:健康保険の被保険者
傷病手当金を受け取れるのは、健康保険の被保険者本人です。扶養に入っている家族(被扶養者)は対象外です。
| 対象者 | 加入する保険 | 傷病手当金 |
|---|---|---|
| 会社員(正社員・一定条件の非正規) | 健康保険(協会けんぽ・健保組合) | 対象(受け取れる) |
| 公務員 | 共済組合 | 対象(受け取れる) |
| 自営業者・フリーランス | 国民健康保険 | 原則対象外(受け取れない) |
| 健康保険の被扶養者(専業主婦など) | 健康保険(被扶養者) | 対象外(受け取れない) |
| 週20時間以上などの条件を満たすパート・アルバイト | 健康保険(社会保険加入の場合) | 対象(受け取れる) |
パートやアルバイトであっても、勤務先の健康保険(社会保険)に加入していれば傷病手当金の対象となります。2022年10月以降の社会保険の適用拡大により、週20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上などの条件を満たすパート・アルバイトも健康保険に加入できるようになり、傷病手当金の対象者が広がっています。
傷病手当金制度の歴史と意義
傷病手当金は日本の社会保障制度の中でも歴史が長い制度の一つです。戦後の高度経済成長期に労働者の生活保障として整備され、時代とともに給付内容が充実してきました。特に2022年の健康保険法改正では、支給期間の計算方法が大きく変わりました。
- 2022年1月の改正ポイント:以前は「支給開始から1年6ヶ月」で途中に就業できた期間があってもカウントされたが、改正後は「実際に傷病手当金を受け取った期間の通算が1年6ヶ月」に変更。途中で職場復帰して傷病手当金を受け取っていない期間はカウントされなくなった
- 意義:再発を繰り返しやすいうつ病・双極性障害などの精神疾患に対応しやすくなった
4つの支給要件をすべて満たすことが必要
傷病手当金を受け取るには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると支給されません。
- 要件① 業務外の病気・ケガで療養中であること:業務上・通勤災害による傷病は労災保険の対象。私生活での病気やケガが傷病手当金の対象。うつ病・適応障害・統合失調症などの精神疾患も含まれる
- 要件② 労務不能であること:今の仕事の内容・勤務状況などを踏まえて、医師が「仕事に就けない状態」と判断していること。完全な寝たきりでなくても、医師が労務不能と判断すれば対象
- 要件③ 連続する3日間の「待期期間」が完成していること:仕事を休み始めた最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、傷病手当金は支給されない。4日目以降の休業日が支給対象になる
- 要件④ 給与が支払われていないこと(または給与が傷病手当金より少ないこと):有給休暇を使って給与が支払われている場合は原則支給されない。ただし、給与が傷病手当金の額より少ない場合は差額が支給される
「待期期間」の3日間について
待期期間(たいききかん)は、仕事を休み始めた最初の連続する3日間を指し、この間は傷病手当金が支給されません。4日目以降が支給対象となります。
| 休業の順番 | 日数のカウント | 傷病手当金 |
|---|---|---|
| 1日目 | 待期1日目 | 支給なし |
| 2日目 | 待期2日目 | 支給なし |
| 3日目 | 待期3日目(待期完成) | 支給なし |
| 4日目以降 | 支給対象日 | 支給あり |
- 待期期間には土日祝・公休日も含まれる:「会社の営業日」ではなく「暦上の日数」で数える。土曜・日曜・祝日も待期の日数に含まれる
- 有給を使った日も待期に含む:最初の3日間に有給を使っていても待期期間としてカウントされる
- 連続していることが条件:週に1〜2日だけ欠勤するような断続的な休業では、待期期間が成立しない場合がある
「労務不能」とはどういう状態か
傷病手当金における「労務不能」とは、傷病のため、今就いている仕事に就けない状態のことです。医師が診断書や傷病手当金申請書(療養担当者記入欄)に「労務不能」と記載することで証明されます。
- 完全な寝たきりでなくてもよい:外出や軽い家事はできても、「今の仕事の負荷に耐えられない」と医師が判断すれば労務不能とみなされる
- うつ病・適応障害の場合:気力がわかない、集中できない、人と会えない、通勤できないなど、就業が困難な状態であれば医師が労務不能と判断することが多い
- 医師の裁量が重要:同じ症状でも主治医によって判断が異なる場合がある。日頃から主治医に仕事の内容や勤務状況を正確に伝えることが重要
支給期間:最長1年6ヶ月のしくみ
2022年1月の法改正により、傷病手当金は「実際に受給した期間の通算が1年6ヶ月」になりました。再発しやすい疾患にとって特に重要な改正です。
通算1年6ヶ月(2022年1月改正後)
傷病手当金の支給期間は、同一の傷病について通算して最長1年6ヶ月です。2022年1月の健康保険法改正により、「支給開始日から1年6ヶ月」から「実際に受給した期間の通算が1年6ヶ月」に変わりました。この変更は、再発を繰り返しやすいうつ病・双極性障害・がんなどの患者にとって大きな恩恵となっています。
- 改正前(〜2021年12月):支給開始日から数えて1年6ヶ月が経過した時点で終了。途中で仕事に復帰していても、その期間もカウントされた
- 改正後(2022年1月〜):傷病手当金を実際に受け取った日数の合計が1年6ヶ月(548日)に達するまで受け取れる。復職して受け取っていない期間はカウントされない
「同一の傷病」について
1年6ヶ月の上限は同一の傷病ごとに適用されます。異なる傷病であれば、それぞれ最長1年6ヶ月の支給を受けられる可能性があります。
- 同一傷病と判断されるケース:うつ病で休職→回復→再発(うつ病)の場合、これは同一傷病とみなされ、通算でカウントされる
- 別傷病と判断されるケース:うつ病が完全に治癒した後に腰痛が発症した場合などは別傷病として扱われる可能性がある(医師の判断・健保の判断による)
- 判断が難しいケース:うつ病と双極性障害、うつ病と適応障害など、診断名が変わった場合は健康保険組合や協会けんぽに確認が必要
1年6ヶ月を過ぎた後の選択肢
傷病手当金の受給期間が終了しても、まだ働けない状態が続く場合は、以下のような制度を検討することになります。
- 障害年金:精神疾患や身体疾患による障害の程度が一定以上の場合、障害基礎年金・障害厚生年金を受給できる可能性がある。傷病手当金の支給終了後に申請することが多い
- 生活保護:資産・収入が一定基準以下で生活できない場合の最後の砦となる制度
- 就労継続支援(A型・B型):一般就労が難しい障害者が、支援を受けながら働く場。A型は雇用契約あり、B型は雇用契約なし
- 配偶者・家族の収入・貯蓄:家族の収入で生活しながら治療に専念する選択肢も
金額の計算方法:標準報酬日額の2/3
傷病手当金は「直近12ヶ月の標準報酬月額の平均÷30×2/3」で1日あたりの額が決まります。月収別の目安と税金の扱いをまとめます。
傷病手当金の計算式
月額の傷病手当金(目安)= 上記の日額 × 30日 ≒ 月給の約2/3
標準報酬月額とは、毎月の給与(基本給+各種手当)をもとに健康保険の等級表に当てはめた金額です。賞与(ボーナス)は含まれません。毎年4〜6月の給与をもとに決定される「定時決定」や、給与が大きく変わった際の「随時改定」によって変更されます。
月収別の傷病手当金の目安額
実際に受け取れる傷病手当金の月額目安を、月収別に示します(標準報酬月額≒月収として試算)。
| 月収(税込)の目安 | 標準報酬月額の目安 | 日額(概算) | 月額(概算) |
|---|---|---|---|
| 月収 20万円 | 200,000円 | 約4,444円 | 約133,000円 |
| 月収 25万円 | 260,000円 | 約5,778円 | 約173,000円 |
| 月収 30万円 | 300,000円 | 約6,667円 | 約200,000円 |
| 月収 35万円 | 360,000円 | 約8,000円 | 約240,000円 |
| 月収 40万円 | 410,000円 | 約9,111円 | 約273,000円 |
| 月収 50万円 | 500,000円 | 約11,111円 | 約333,000円 |
※上記はあくまで目安です。標準報酬月額は実際の月給と完全に一致するわけではなく、また健康保険組合によって独自の付加給付がある場合もあります。正確な金額は加入している健康保険組合または協会けんぽに確認してください。
傷病手当金が減額・調整されるケース
- 給与(一部でも)が支払われている場合:傷病手当金の日額より少ない給与が支払われる場合は差額のみ支給。給与が傷病手当金以上であれば支給なし
- 老齢の年金を受けている場合:老齢退職年金を受給している場合、傷病手当金と合わせて調整が行われる
- 障害年金・障害手当金を受けている場合:障害厚生年金または障害手当金を受けている場合、傷病手当金の額が調整される(障害年金が傷病手当金を超える場合は支給なし)
- 出産手当金と重複する場合:出産手当金と傷病手当金が重複する場合は、出産手当金のみが支給される
傷病手当金には税金・社会保険料がかかるか
- 所得税・住民税:傷病手当金は非課税です。所得税も住民税もかかりません。ただし、前年の給与収入をもとに計算される住民税は、休職した翌年も一定額が課税されることがあるため注意が必要
- 健康保険料・厚生年金保険料:休職中も在籍している限り、健康保険料と厚生年金保険料は引き続き発生します。会社と折半のため、本人負担分を会社に別途支払う必要があります(一時的に会社が立替払いし、復職後に差し引く形をとる会社もある)
- 雇用保険料:休職中は給与が発生しないため、雇用保険料の支払いは不要です
申請方法・必要書類・手続きの流れ
傷病手当金の申請は、本人・会社・医師の3者が記入する4枚1組の申請書を健康保険組合または協会けんぽに提出します。
傷病手当金申請の全体的な流れ
申請書の4つの記入欄
傷病手当金支給申請書は、以下の4つのパートで構成されています。
| 記入欄 | 記入者 | 主な記入内容 |
|---|---|---|
| 被保険者記入用① | 本人 | 氏名・住所・傷病名・発症日・休業期間・振込口座など |
| 被保険者記入用② | 本人 | 労務に服せなかった期間中の報酬の有無・金額など |
| 事業主記入用 | 会社(雇用主) | 休業日・出勤日・給与支払いの有無・金額・事業主の証明 |
| 療養担当者記入用 | 主治医(医師) | 傷病名・療養期間・労務不能と認めた期間・医師の証明 |
申請書は1回の申請で1申請期間(通常1〜3ヶ月程度)をカバーします。休職が長期にわたる場合は、定期的に(通常1〜3ヶ月ごとに)申請を繰り返す必要があります。
申請のタイミングと時効
- 時効:傷病手当金を受け取る権利が発生した日の翌日から2年間。2年を超えると時効により請求できなくなる
- 申請のタイミング:一定期間(1〜3ヶ月)ごとにまとめて申請する「まとめ申請」が一般的。ただし、長く溜めすぎると書類が煩雑になるため、1〜2ヶ月ごとの申請を推奨
- 注意:申請が遅れても時効内であれば遡って申請できるが、医師・事業主の証明をさかのぼって得る必要があり、手間がかかる場合がある
うつ病・精神疾患での傷病手当金
うつ病・適応障害・双極性障害などの精神疾患はすべて傷病手当金の対象です。「見えない病気」であることへの偏見から申請をためらう必要はありません。
精神疾患も傷病手当金の対象
うつ病、適応障害、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害など、精神疾患はすべて傷病手当金の対象となります。身体の病気やケガと同様に扱われます。
日本においてうつ病などのメンタルヘルス不調による休職は近年増加傾向にあり、傷病手当金の受給理由としても精神・行動の障害が大きな割合を占めています。厚生労働省の調査では、精神疾患を理由とする傷病手当金の受給は、受給件数全体の中でも上位に入ります。
- 対象となる主な精神疾患:うつ病、双極性障害、適応障害、統合失調症、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、PTSD、摂食障害、発達障害(合併症としてのうつなど)
- 「職場ストレスが原因」でも対象:過重労働やハラスメントなどの業務上の原因でうつ病になった場合、労災(精神障害の労災認定)と傷病手当金のどちらを申請するかは状況により異なる。労災が認定された場合は労災給付が優先されるが、労災申請と並行して傷病手当金を申請することも可能(後で調整)
うつ病で申請するときの特有の難しさ
- 「見えない病気」の証明が必要:うつ病は骨折のようにレントゲンで確認できるものではないため、医師の診断と労務不能の証明が特に重要になる。定期的に通院して主治医との信頼関係を築くことが大切
- 「元気そうに見える」問題:外見からは症状がわかりにくいため、周囲から「本当に病気なのか」と思われることがある。しかし、それは申請の障害にはならない。医師が労務不能と判断すれば受給できる
- 会社との関係:うつ病の原因が職場環境にある場合、会社に伝えることへの抵抗感がある。しかし、傷病手当金の申請には事業主(会社)の証明が必要。産業医や人事部門との連携が重要
- 休む罪悪感:うつ病の症状の一つに「罪悪感」「自責」がある。「自分が情けない」「休むことへの申し訳なさ」から申請をためらう人が多い。しかし、傷病手当金は当然の権利であり、積極的に活用すべき制度
うつ病の再発と傷病手当金の活用
- 焦って復職しない:傷病手当金の期間が気になって十分回復していないうちに復職すると、再発リスクが高まる。受給期間内で十分に療養することが長期的には早い回復につながる
- リワーク(復職支援)プログラムの活用:傷病手当金を受給しながら、医療機関・リワーク施設でのリワークプログラムに参加することが可能。再発予防と段階的な復職準備に効果的
- 再発時の申請:同一疾患での再発の場合、以前の受給期間の残り(通算1年6ヶ月まで)を利用できる。新たな待期期間(3日間)が必要かどうかは、前回の受給終了からの期間などによって異なるため、健保に確認を
適応障害・燃え尽き症候群での申請
うつ病と並んで多い精神疾患として、適応障害と燃え尽き症候群(バーンアウト)があります。どちらも傷病手当金の対象です。
- 適応障害:特定のストレス要因(職場の人間関係、業務量、異動など)への反応として発症する精神障害。ストレス要因から離れれば改善しやすいが、まず休養が必要な場合が多い。医師が労務不能と判断すれば傷病手当金の対象
- 燃え尽き症候群:長期間の過重労働や感情労働の結果として生じる極度の疲弊感・意欲の喪失。うつ病や適応障害の診断名がつくことが多い。この場合も傷病手当金の対象となる
- 診断名の重要性:精神科・心療内科を受診して正式な診断名をつけてもらうことが、傷病手当金申請の第一歩
退職後の継続受給
在職中から傷病手当金を受け取っていれば、一定条件で退職後も継続受給できます。「退職日に出勤しない」が大きなポイントです。
退職後も傷病手当金を受け取り続けられる条件
在職中から傷病手当金を受け取っていた場合、一定の条件を満たせば、退職後も引き続き傷病手当金を受け取ることができます(資格喪失後の継続給付)。これを知らずに退職して受給を止めてしまう方も多いため、必ず確認しておきましょう。
- 条件① 健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること:退職日(資格喪失日の前日)まで、継続して1年以上健康保険に加入していることが必要(任意継続は除く)
- 条件② 傷病手当金を受給中か、受給できる状態であること:退職日の前日(資格喪失日の前日)に、傷病手当金を受け取っているか、または受け取れる状態(労務不能・給与未払い)であること
- 条件③ 受給期間が残っていること:通算1年6ヶ月の受給期間が残っていること
退職後の傷病手当金の申請先
退職後の傷病手当金は、在職中と同様に以前加入していた健康保険組合または協会けんぽに申請します。退職して国民健康保険に加入しても、傷病手当金の支払元は変わりません。
- 申請書の入手:以前の健康保険組合または協会けんぽから入手(会社経由でなく直接申請することになる)
- 事業主欄の記入:退職後は事業主欄が不要になる場合がある(退職後に給与が支払われていないため)。書式の指示に従う
- 療養担当者欄:引き続き主治医に記入してもらう
- 振込先:退職前と同じ口座を継続使用可能。変更する場合は申請書で届け出る
任意継続被保険者と傷病手当金
退職後に任意継続被保険者(退職後も最大2年間、前の健康保険に加入し続ける制度)として保険料を払い続けた場合でも、傷病手当金を新たに受け取ることは原則できません。
- 任意継続中に新たに発症した病気:任意継続期間中に新たに発症した病気では傷病手当金は受け取れない(任意継続では傷病手当金の給付がない)
- 在職中から受給していた場合:在職中(資格喪失前)から傷病手当金を受け取っていて、退職後も条件を満たす場合は、任意継続の有無に関係なく「資格喪失後の継続給付」として受け取れる
- 健康保険組合によっては付加給付あり:一部の健康保険組合では、任意継続でも傷病手当金相当の給付を独自に設けている場合がある。加入していた健保に確認を
失業保険との関係・ダブル受給は不可
傷病手当金と失業保険は同時受給できません。受給期間延長制度を活用することが、病気・ケガで退職した方の標準的な流れです。
傷病手当金と失業保険は同時受給できない
傷病手当金と失業保険(雇用保険の基本手当)は、同一期間に両方を受け取ることはできません。これはどちらも「収入の補填」という目的を持つ給付であるため、重複受給が禁止されているためです。
- 失業保険の受給条件:失業保険は「すぐに働ける状態にある人」が対象。病気やケガで働けない状態では失業保険の受給条件を満たさない
- 傷病手当金の受給条件:傷病手当金は「病気やケガで働けない人」が対象。つまり失業保険と傷病手当金は、互いに相反する状態を条件としている
- 両方を申請しようとすると:健康保険組合と雇用保険の情報が照合され、重複している期間の一方が返還を求められる
失業保険の受給期間延長制度の活用
病気やケガで働けない状態で退職した場合、失業保険をすぐに受け取れない代わりに、受給期間を最大3年延長する制度があります。
- 制度の仕組み:通常、失業保険の受給期間は離職日の翌日から1年間。病気・ケガで仕事に就けない場合、この受給期間を最長3年(合計4年)まで延長できる
- 申請方法:離職後30日が経過した後(31日目以降)に、ハローワークに「受給期間延長申請書」を提出する。申請期限は「離職日の翌日から2ヶ月以内」が原則(代理人・郵送申請可)
- 活用の流れ:退職→傷病手当金受給(最長1年6ヶ月)→回復後にハローワークで延長解除の手続き→失業保険受給、という順番が一般的
- 注意点:傷病手当金を受け取っている間は失業保険を申請しない(または申請しても受給しない)ことが重要
傷病手当金が終わって失業保険に切り替える際の注意点
- 「働ける状態」の確認:失業保険は「今すぐ働ける状態」が条件。まだ療養中であれば失業保険の受給条件を満たさない。主治医に「就労可能」の判断を得てからハローワークに行く
- 受給期間延長の解除手続き:受給期間を延長していた場合、ハローワークで延長を解除してから失業認定を受ける手続きが必要
- タイミングのズレに注意:傷病手当金の最後の受給日と失業保険の受給開始日が重ならないよう調整する
国民健康保険との違い
自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がありません。違いと例外、退職後の扱いを整理します。
国民健康保険には傷病手当金がない(原則)
自営業者・フリーランス・無職の方が加入する国民健康保険(国保)には、原則として傷病手当金の制度がありません。これは、健康保険(社会保険)の被保険者と国民健康保険加入者の制度的な違いの一つです。
| 比較項目 | 健康保険(社会保険) | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 対象者 | 会社員・公務員(およびその被扶養者) | 自営業者・フリーランス・無職など |
| 傷病手当金 | あり(最長1年6ヶ月・月給の約2/3) | 原則なし |
| 出産手当金 | あり | 原則なし |
| 保険料の計算 | 標準報酬月額に基づき、労使折半 | 前年所得・世帯人数などに基づき、全額本人負担 |
| 扶養の概念 | あり(被扶養者は保険料負担なし) | なし(世帯員それぞれに保険料) |
例外:コロナ禍の特例と一部自治体の独自制度
- 新型コロナウイルス感染症の特例(2020年〜):コロナ禍において、一部の自治体が国民健康保険の加入者に対しても傷病手当金の支給を行う特例措置を設けた。ただしこれはあくまで特例であり、恒久的な制度ではない
- 一部市区町村の独自制度:ごく一部の自治体では、条例に基づいて国民健康保険加入者への傷病手当金相当の給付を設けているところもある。居住する市区町村の国保担当窓口に確認を
- フリーランス・自営業者への代替手段:所得補償保険(民間の保険)への加入や、小規模企業共済の加入など、民間の仕組みを活用することが選択肢となる
退職して国民健康保険に切り替えた場合の傷病手当金
在職中から傷病手当金を受け取っていて、退職後に国民健康保険に切り替えた場合でも、「資格喪失後の継続給付」の条件を満たしていれば、以前加入していた健康保険から引き続き傷病手当金を受け取ることができます。
- 支払元は以前の健保のまま:国民健康保険に加入したからといって、傷病手当金の支払元は国民健康保険に移らない。以前の協会けんぽ・健保組合から支払われ続ける
- 申請先も以前の健保:申請書の提出先は、以前加入していた協会けんぽまたは健康保険組合
- 国民健康保険料との二重負担:退職後に国民健康保険に加入すると、国民健康保険料を支払いながら傷病手当金は以前の健保から受け取るという状況になる。これは制度上の構造的な問題だが、現行制度ではこのような仕組みになっている
支給されない・減額されるケースの一覧
- 業務上・通勤災害が原因の傷病:仕事中のケガや職業病、通勤途中の事故などは労災保険の対象。傷病手当金ではなく労災給付を申請する
- 待期期間(最初の3日間):休業開始から連続する3日間は傷病手当金が支給されない
- 給与が傷病手当金以上支払われている場合:有給休暇を使って給与が全額支給されている場合や、休職中も給与が傷病手当金以上支払われる場合は支給なし
- 国民健康保険の加入者:原則として国民健康保険には傷病手当金がない
- 自営業者・フリーランス:社会保険(健康保険)に加入していないため、傷病手当金の対象外
- 被扶養者(家族):健康保険の被保険者本人ではなく、扶養に入っている家族は対象外
- 退職後の新たな傷病:退職後に初めて発症した病気では、原則として傷病手当金は受け取れない(在職中からの継続分のみ)
- 1年未満の被保険者期間での退職後:退職時点での健康保険の継続加入期間が1年未満の場合、退職後の継続給付を受けられない
- 退職日に出勤した場合:退職日当日に就業した場合、退職後の継続給付を受けられなくなる可能性がある
- 老齢年金・障害年金との調整:老齢退職年金や障害年金の受給額によっては、傷病手当金が減額または支給停止になる場合がある
よくある勘違いと注意点
- 「有給を使うと傷病手当金が減る」:有給期間中は給与が支払われているため、傷病手当金は支給されない。ただし、有給を使っても待期期間のカウントは進む(最初の3日間に有給を充てることは有効)
- 「アルバイト・パートは対象外」:社会保険(健康保険)に加入していれば、雇用形態に関わらず対象。2022年10月以降の社会保険適用拡大により、週20時間以上のパート・アルバイトも対象になりやすくなった
- 「退職したら受け取れない」:条件を満たせば退職後も継続給付を受けられる。知らないと損をする制度の代表例
- 「申請すると会社に迷惑がかかる」:傷病手当金は健康保険から支給されるため、会社の費用負担は生じない(会社の保険料率に影響する場合はあるが、一般的に個別の影響は微小)
傷病手当金と他の支援制度の活用
傷病手当金と並行して使える公的制度を組み合わせることで、休職中の経済的・医療的な負担を大きく軽減できます。
自立支援医療制度(精神通院医療)との併用
うつ病などの精神疾患で傷病手当金を受給しながら通院している方には、自立支援医療制度(精神通院医療)の活用を強くお勧めします。
- 制度の内容:精神疾患(うつ病、統合失調症、双極性障害、不安障害など)の継続的な通院医療に対して、医療費の自己負担を原則1割(通常3割)に軽減する制度
- 対象となる医療費:精神科・心療内科の診察料、薬代、訪問看護費など
- 申請窓口:市区町村の福祉担当窓口(または精神保健福祉センター)
- 所得上限:世帯の所得に応じて月あたりの自己負担上限額が設定される(低所得者は0円)
- 傷病手当金との関係:自立支援医療は収入の有無に関係なく申請できる。傷病手当金受給中でも申請可能
精神保健福祉センターへの相談
精神保健福祉センターは、各都道府県・指定都市に設置された精神保健・精神障害に関する総合的な支援機関です。傷病手当金の申請方法から生活支援まで、幅広い相談に対応しています。
- 相談内容:精神疾患に関する相談全般、社会福祉制度の利用方法、家族への支援方法、医療機関の紹介など
- 費用:無料
- 対象:精神疾患を抱える本人・家族・関係者
- アクセス:都道府県・指定都市のウェブサイトで最寄りの精神保健福祉センターを検索
障害年金との関係
傷病手当金の受給期間(最長1年6ヶ月)が終了しても病状が回復しない場合、障害年金の申請を検討することになります。
- 障害基礎年金:国民年金に加入している期間中に初診日がある傷病で、障害等級1・2級に該当する場合に受給できる
- 障害厚生年金:厚生年金(社会保険)に加入している期間中に初診日がある傷病で、障害等級1〜3級または障害手当金に該当する場合に受給できる
- 初診日の重要性:障害年金は「初診日」(最初に医療機関を受診した日)に加入していた年金によって支給される年金が決まる。会社員として健康保険・厚生年金に加入している間に初診日があれば、障害厚生年金の対象になる可能性がある
- 傷病手当金との同時受給:傷病手当金と障害厚生年金を同時受給する場合は調整がある(障害年金が傷病手当金額より多い場合は傷病手当金が支給停止)
高額療養費制度との組み合わせ
医療費が高額になった場合は、高額療養費制度も活用できます。傷病手当金と高額療養費制度は同時に利用できます。
- 制度の内容:同一月に支払った医療費の自己負担額が一定額(所得に応じた「自己負担限度額」)を超えた場合、超えた分を後から払い戻す制度
- 申請先:加入している健康保険組合または協会けんぽ
- 入院が長引く場合:精神科への入院が必要な場合、高額療養費制度を利用して医療費を抑えながら、傷病手当金で生活費を賄うことが可能
傷病手当金を受け取りながら「休むこと」の大切さ
傷病手当金を受け取っている期間は、基本的に治療と療養に専念する時間です。「お金をもらっているのに休んでいていいのか」という罪悪感を感じる方も多いですが、この制度はまさに安心して休み、治療に集中するために設けられたものです。
- うつ病休職の初期は「休むことが仕事」:うつ病の急性期は、脳と体が極度に疲弊した状態。まずは十分な休養をとることが最も重要な治療の一つ
- 焦りは禁物:「早く復職しなければ」と焦ることがうつ病の再発・遷延化につながる。傷病手当金という経済的なセーフティネットを使いながら、主治医の指示に従って療養することが重要
- 規則正しい生活リズム:休職中も起床・就寝の時間を一定に保ち、日光を浴びるなど、生活リズムを整えることが回復を助ける
休職中に注意すべきこと
- 就業活動はしない:傷病手当金受給中は「労務不能」が条件。アルバイトや副業を行うと受給資格を失ったり、不正受給とみなされる可能性がある
- 主治医への定期受診を継続:申請書に医師の証明が必要であるため、定期的に通院することが必要。また、回復状況を主治医に伝え続けることも重要
- 会社との連絡は最小限に:休職中の会社との連絡は産業医・人事部門を通じて行い、直属の上司や同僚との連絡は医師と相談しながら最小限に留める
- SNS・メール管理:職場や仕事に関連するSNS・メールの確認はストレスの原因になる場合がある。メール通知をオフにするなどの対策を
心理的回復のプロセスと段階
傷病手当金についてのよくある質問
現場でよく寄せられる疑問にお答えします。
よくある質問と回答
A. 仕事を休み始めた日から数えて4日目以降が支給対象となります。最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、傷病手当金は支給されません。待期期間には土日祝・有給取得日も含まれます。例えば月曜日から仕事を休み始めた場合、月・火・水が待期期間となり、木曜日以降が支給対象です。申請後、実際に振り込まれるのは協会けんぽの場合で申請書受付から約2週間程度です。
A. はい、うつ病は傷病手当金の対象です。適応障害、双極性障害、統合失調症、パニック障害なども対象となります。精神科・心療内科を受診して診断を受け、医師が「労務不能」と判断すれば、身体疾患と同じように傷病手当金を受け取ることができます。「見えない病気」であることへの偏見から申請をためらう必要はありません。精神疾患は正当な傷病手当金の対象です。
A. 有給休暇を取得していて給与が支払われている場合、その期間は傷病手当金が支給されません(給与が傷病手当金より少なければ差額が支給)。ただし、最初の3日間の「待期期間」に有給を充てることは有効です。多くの方が、待期期間(最初の3日間)に有給を使い、4日目以降の欠勤から傷病手当金を申請する、という方法をとります。この場合、待期期間中も給与が受け取れるため、実質的な収入ゼロ期間を最小化できます。
A. 一定の条件を満たせば退職後も継続して受け取れます。条件は、①退職日まで健康保険に継続して1年以上加入していること、②退職日の前日に傷病手当金を受け取っている(または受け取れる状態である)こと、③1年6ヶ月の受給期間が残っていること、の3つです。なお、退職日当日に出勤すると継続給付を受けられなくなる可能性があるため注意が必要です。退職後の申請は以前加入していた健康保険組合または協会けんぽに対して直接行います。
A. 同時受給はできません。傷病手当金は「働けない状態の人」に、失業保険は「すぐに働ける状態の人」に支給されるものであり、条件が相互に矛盾するためです。退職後に傷病手当金を受け取りながら、失業保険の受給期間を最長3年間延長する「受給期間延長制度」を活用するのが一般的な流れです。傷病手当金が終了して回復したタイミングでハローワークに行き、延長を解除して失業保険の受給を開始します。
A. 原則として受け取ることができません。傷病手当金は健康保険(社会保険)の被保険者が対象であり、自営業者・フリーランスが加入する国民健康保険には傷病手当金の制度がないためです。フリーランスや自営業者が病気やケガで働けなくなった場合の収入補填としては、民間の所得補償保険(就業不能保険)への加入が有効な選択肢となります。小規模企業共済に加入している場合は共済金の受取りも選択肢の一つです。
A. 傷病手当金は非課税所得です。所得税も住民税もかかりません。ただし、住民税は前年の給与所得をもとに計算されるため、休職した翌年もある程度の住民税が課税されることがあります(前年に給与を受け取っていたため)。また、在籍中は健康保険料・厚生年金保険料が引き続き発生しますので、これらは会社に別途支払う必要があります。具体的な金額は会社の人事部門または健康保険組合に確認してください。
A. 傷病手当金の受給期間(通算1年6ヶ月)が終了しても回復していない場合は、障害年金の申請を検討することになります。精神疾患であれば、障害等級2〜3級程度の状態であれば障害厚生年金(会社員だった場合)の受給対象となる可能性があります。また、資産・収入が一定基準以下であれば生活保護の申請も選択肢です。精神保健福祉センターや社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。うつ病などで継続通院中の方は、自立支援医療制度により医療費が原則1割に軽減されます。市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターにお問い合わせください。
