社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)とは?
定義・国際議論・日本の実態・メンタルヘルス・社会的包摂まで徹底解説
貧困・失業・障害・外国籍・ホームレス状態など、さまざまな要因によって社会の主流から切り離され、孤立させられている人々が存在します。社会的排除は単なる経済的困窮ではなく、住居・教育・医療・雇用・人間関係など生活の多領域にわたる参加からの排除というダイナミックなプロセス。定義・歴史・日本の実態・メンタルヘルスへの影響・支援制度まで包括的に解説します。
社会的排除の定義と概念
社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)とは、何らかの原因によって個人または集団が社会の主流から切り離され、社会参加を阻まれている状態を指します。
社会的排除とは何か
社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン/Social Exclusion)とは、何らかの原因によって個人または集団が社会の主流から切り離され、社会参加を阻まれている状態を指します。単に経済的に困窮しているという『貧困』の概念とは異なり、社会的排除は住居・教育・雇用・医療・社会保障・人間関係・文化的活動など、生活のあらゆる領域における参加の剥奪を包括的に捉える概念です。
社会的排除の重要な特徴は、それが静的な『状態』ではなく、個人や集団が社会から徐々に切り離されていく『プロセス』であるという点です。国際的な定義としては、国連開発計画(UNDP)などが採用している『社会・政治・経済・文化的な諸活動への参加が、制度的・環境的・個人的障壁によって阻まれている状態』というフレームワークが広く参照されています。欧州委員会は社会的排除を『個人が十分な所得・社会的サポート・文化・政治への参加を享受できなくなる過程と結果の双方』として定義しています。
貧困概念との違い — 静的な状態から動的なプロセスへ
伝統的な『貧困』概念は、一定の収入・消費水準を下回るという経済的・物質的側面を中心に定義されてきました。しかし1980年代以降、特に欧州において、経済的貧困だけでは捉えきれない複合的な剥奪の実態が浮き彫りになり、『社会的排除』という新たな概念が台頭しました。
社会的排除の概念は、『なぜ貧困状態が継続・再生産されるのか』『なぜ一部の人々は社会サービスにアクセスできないのか』という問いに対し、個人責任だけでなく社会構造の問題として分析する視点を提供します。
社会的排除の多次元性 — 6つの次元
社会的排除は単一の原因や次元によるものではなく、複数の領域が相互に絡み合って生じます。
フランス発の概念 — 1970年代の起源
『社会的排除』という概念は1970年代のフランスに起源を持ちます。当時のフランスの社会行政官ルネ・ルノワール(René Lenoir)が1974年に発表した著書『排除された人々(Les Exclus)』において、社会保険の枠組みから取り残された人々(障害者・ひとり親・非行少年・高齢者など)を『排除された者(les exclus)』と呼んだことが始まりとされています。この概念は当初、社会連帯の枠組みから外れた『社会的につながりを持てない人々』という意味合いが強く、フランス共和主義的な社会連帯の理念(citoyenneté、市民としての結合)を背景としていました。
1980〜90年代:欧州全体への拡大
- 1989年:EC(欧州共同体)の『社会憲章』において社会的排除への対抗が明示的な政策課題として登場
- 1992年:欧州委員会が『欧州における貧困と社会的排除に関する勧告』を発表
- 1997年:アムステルダム条約により、EUの社会政策として社会的排除の根絶が法的に位置づけられる
- 1990年代後半:英国のブレア労働党政権が『社会的排除ユニット(Social Exclusion Unit)』を設置し、社会的排除対策を国家政策の柱に据える
英国はフランスとは異なる独自の理解を発展させました。英国では『労働市場からの排除』すなわち就労の欠如を中心に据え、福祉依存からの脱却と就労促進(ワークフェア)を重視する政策的傾向が強まりました。
国際機関への広がり — 国連・世界銀行
- 国連社会開発サミット(1995年):社会統合を持続可能な発展の柱として位置づけ
- 世界銀行:『社会的包摂』を開発プロジェクト評価の基準に組み込み、特定グループ(先住民族・女性・障害者等)の包摂状況をモニタリング
- OECD:社会的結束(social cohesion)と社会的排除の関係を分析し、格差と社会参加の関係についての国際比較研究を推進
- SDGs:『誰一人取り残さない(Leave No One Behind)』という理念のもと、社会的包摂はSDGsの横断的な原則として組み込まれている
『社会的排除』概念をめぐる学術的論争
- 概念の曖昧さ:あまりに多くの現象を包含しすぎて分析上の精度が低いという批判
- 個人化の危険:構造的問題を『排除された個人の問題』として捉え、社会責任を見えにくくする危険性
- 規範的含意:『包摂されるべき主流社会』そのものへの批判的視座の欠如
- 測定の困難:多次元的な概念を量的指標に落とし込む際の困難と、指標の恣意性
これらの批判は、社会的排除論を単純化することへの警告として重要です。概念の限界を認識しつつも、人々が社会から切り離されていく複合的なプロセスを可視化し、政策的に対応するための枠組みとして、社会的排除の概念は今日も有効性を持ち続けています。
ラーケン指標と欧州社会政策の枠組み
2001年のラーケン欧州理事会において、社会的排除・貧困の測定のための共通指標(ラーケン指標)が採択されました。ラーケン指標は、①相対的貧困リスク率、②長期的貧困リスク率、③地域的なまとまり(地域格差)、④長期失業率、⑤失業世帯に暮らす18歳未満の子どもの割合、⑥教育低達成者の割合、⑦平均余命と健康状態など、複数の主要指標から構成されます。これらの指標は経済的指標にとどまらず、教育・健康・労働市場への参加という多次元的な観点を組み込んでいることが特徴です。
『貧困・社会的排除リスク指標(AROPE)』と2030年目標
現在EUで最も重視される社会的排除測定指標は、『貧困または社会的排除リスクにある人々の割合(AROPE)』です。以下の三つのいずれかに該当する人々を対象とします。
- 相対的貧困リスク(低所得):当該国の等価可処分所得の中央値の60%未満の世帯に属する
- 物質的・社会的剥奪:食事・暖房・家賃の支払い・予期しない出費・インターネット接続など、13の基本的ニーズのうち7項目以上を欠く
- 低就労世帯:18〜59歳の成人が、その年の労働能力の20%未満しか就労していない世帯
欧州委員会は、欧州社会権の柱のアクションプランにおいて、2030年までに少なくとも1,500万人の貧困・社会的排除リスク状態にある人を削減するという目標を設定しました。うち少なくとも500万人は子どもとされており、子どもの社会的排除への特別な注意が払われています。
欧州における具体的な政策的取り組み
- 社会的投資アプローチ:早期介入・予防を重視し、人的資本への投資(教育・保育・職業訓練)によって排除のリスクを未然に防ぐ考え方
- 最低所得保障制度:多くのEU加盟国が実施する、就労状況にかかわらず一定の生活水準を保障する制度
- 欧州社会基金(ESF):社会的包摂、雇用促進、教育訓練のための主要な財政手段
- 欧州プラットフォーム・アゲインスト・ポバティー:社会的排除・貧困撲滅に向けたEUレベルの政策調整の場
- 最低賃金指令(2022年):加盟国に適切な最低賃金水準の確保を義務づける。低賃金労働者の経済的包摂を促進
- 子どもの保障(European Child Guarantee):貧困・社会的排除のリスクにある子どもへの保育・教育・保健・栄養・住居への無料アクセスを保障
英国モデルとフランスモデルの比較
どちらのモデルにも限界があり、現在のEUレベルの議論では、就労促進と社会的権利保障・文化的多様性の尊重を組み合わせた『第三の道』が模索されています。
日本における社会的排除の実態と統計
日本では1990年代のバブル経済崩壊以降、社会的排除問題が顕在化。リーマンショック・派遣切り問題により広く社会に知られるようになりました。
日本における社会的排除研究の展開
日本では、1990年代のバブル経済崩壊以降、『リストラ』『派遣切り』『ニート・フリーター問題』『ホームレス問題』『ひとり親世帯の貧困』などが社会問題として浮上し、欧州で発達した社会的排除の概念が研究・政策の世界に輸入されるようになりました。2008〜2009年のリーマンショックに端を発した『派遣切り』問題、そして2008年年末の『年越し派遣村』の出現は、日本における社会的排除問題を広く社会に知らしめるきっかけとなりました。非正規雇用の拡大、セーフティネットの機能不全、住居と雇用の同時喪失という複合的な剥奪の実態が可視化されたのです。
国立社会保障・人口問題研究所による実態調査
国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)は2006年に『社会生活に関する実態調査』を実施し、日本における社会的排除の実態を定量的に把握しようとした代表的研究を公表しています。同調査によると、過去の不利な要因(離婚・解雇・傷病・15歳時の生活苦等)が、現在の社会的排除(生活必需品の欠如・住居の不安定・社会関係の欠如・社会制度への未加入等)と深く関連することが示されました。また、複数の不利な要因が累積している人ほど社会的排除の状態に陥りやすいという『累積的不利』の構造が明らかになりました。
日本の社会的排除に関する主要な統計
ホームレスの数:厚生労働省の調査では2023年時点で全国に約3,000人以上のホームレス状態の人が確認されているが、実態はさらに多いと推測される。
日本における社会的排除の特徴
- 雇用による包摂の崩壊:戦後日本では『男性稼ぎ主モデル』のもと、正規雇用が社会保険・企業福祉・住居・地位を一体的に保障していたが、非正規化の拡大でこの構造が崩れ、雇用の喪失が多面的な排除につながりやすい
- 家族依存型セーフティネットの限界:公的支援が薄い代わりに家族・親族による非公式サポートが期待されてきたが、少子化・核家族化・単身世帯の増加により家族ネットワークによる保護機能が低下
- 恥・スティグマと申請忌避:『お世話になるのは恥ずかしい』『自己責任』の文化が強く、生活保護などの公的支援への申請を避ける傾向
- 若者の社会的排除:『ひきこもり』(推計100万人以上)、ニート・フリーター問題、就職氷河期世代(ロストジェネレーション)の問題が固有の課題として存在
- 高齢化と孤立死:独居高齢者の増加と地域コミュニティの希薄化が『孤立死』『孤独死』問題を深刻化
社会的排除の対象となりやすい人々
社会的排除は誰にでも起こりうる現象ですが、特定の社会的属性や置かれた状況によってリスクが著しく高まることが、国内外の研究で一貫して示されています。
社会的排除リスクが高い主な集団
交差的不利(インターセクショナリティ)
社会的排除のリスクは、複数の不利な属性が『交差(インターセクト)』するとき、単純な足し算を超えた複合的な困難として現れます。これをインターセクショナリティ(交差性)と呼びます。
たとえば、『精神障害を持つ外国籍のひとり親女性』という場合、女性であること・精神障害があること・外国籍であること・ひとり親であることのそれぞれが生み出す不利が複合的に絡み合い、それぞれの不利を単独で経験する場合よりも深刻な排除状況が生まれます。社会的排除の分析と支援においては、このインターセクショナリティの視点が不可欠です。
貧困・非正規雇用と社会的排除
貧困は社会的排除の最も強力な規定要因の一つですが、両者は同一ではありません。非正規雇用の拡大、ひとり親世帯、就職氷河期世代の課題を見ていきます。
貧困と社会的排除の関係
貧困は社会的排除の最も強力な規定要因の一つですが、両者は同一ではありません。貧困であっても豊かな社会関係や地域コミュニティとのつながりを持ち、排除されていないと感じる人もいれば、経済的には一定の水準を保ちながらも深刻な社会的孤立状態にある人もいます。日本の相対的貧困率は約15.4%(2021年)でOECD平均(約11%)を上回り、先進国の中でも貧困率が高い部類に入ります。特に、高齢者の単独世帯(特に高齢女性)、ひとり親世帯、外国人世帯における貧困率は平均を大きく上回ります。
非正規雇用の拡大と『ワーキングプア』の社会的排除
- 低賃金:正規雇用との賃金格差は依然として大きく、非正規雇用者の多くが『ワーキングプア(働く貧困層)』の状態に置かれる
- 社会保険の不適用・適用外:一部の非正規雇用者は厚生年金・健康保険の適用から除外(2022年の法改正で段階的に拡大)
- 雇用の不安定性:景気後退時に最初に『切られる』層として、住居・生活の不安定化リスクが高い
- キャリアの閉塞性:非正規から正規への移行が困難で、長期的に不安定な状況が固定化しやすい
- 社会的なスティグマ:『正社員でない』ことへの社会的烙印が、自己肯定感の低下や人間関係の構築困難を生みやすい
経済産業研究所(RIETI)の研究では、日雇い派遣労働者について、物質的剥奪・社会関係の欠如・住居環境の不適切さなど、複数の社会的排除指標において排除率が著しく高いことが確認されています。
就職氷河期世代(ロストジェネレーション)の課題
1993〜2004年頃に就職活動をした『就職氷河期世代』(現在の40代前後)は、バブル崩壊後の厳しい雇用環境の中で、意図に反して非正規雇用や無業状態に固定化された世代です。
- 非正規雇用・フリーターとして固定化した結果、低収入・低年金のリスクが高い
- 結婚・家族形成の機会を逸した結果、老後の社会的サポートも乏しくなる可能性
- ひきこもり状態にある40〜50代の増加(『8050問題』:80代の親が50代のひきこもりの子を支える状況)との関連
- 政府は2019年以降、就職氷河期世代への集中的な就労支援プログラムを実施しているが、根本的な課題解決には至っていない
ひとり親世帯と子どもの貧困・排除
日本のひとり親世帯(約142万世帯、うち約86%が母子家庭)は、先進国の中でも際立って高い貧困率(約44.5%)を示します。ひとり親世帯の平均所得は約291万円で、共働き世帯の平均所得の約38%にとどまります。経済的困窮にとどまらず、長時間労働・低賃金による育児・家事時間の不足、保育サービスや就労支援へのアクセス格差、社会的孤立(周囲から理解・支援が得られにくい)、そして子どもが貧困・排除を経験することで生じる『貧困の世代間連鎖』も深刻な問題です。
障害者の社会的排除
- 就労からの排除:法定雇用率(2024年より2.5%→2.7%へ引き上げ)が設定されているものの、未達成の企業も多い。特に精神障害者の就労継続の困難さが指摘される
- 教育からの排除:インクルーシブ教育の観点からは、分離された特別支援教育と通常学級との間の『分断』が課題
- 差別・偏見:精神障害・発達障害に対するスティグマは特に根強く、当事者の『障害を隠す』行動につながる
- 地域生活の困難:グループホームや就労継続支援事業所等の地域資源への『施設NIMBY(ニンビー)問題』が依然として存在
2013年の『障害者差別解消法』施行(2016年4月)、2021年改正(2024年4月から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化)は、障害者の社会的排除を減らすための重要な法的枠組みです。
外国籍の人々・外国にルーツを持つ人々の排除
日本における在留外国人は2023年時点で約340万人(過去最多)を超え、日本社会の多様性は急速に高まっています。
- 制度的排除:入管法上の在留資格によって就労制限があり、一部の在留者は社会保険への加入が制限または困難
- 言語障壁:日本語でのコミュニケーションが困難な場合、行政手続き・医療受診・学校教育等での排除
- 住居差別:外国人を理由とした入居拒否が依然として発生(外国人の約30〜40%が入居拒否を経験)
- 教育機会の不平等:外国にルーツを持つ子どもの『不就学・不登校』問題。日本語指導が必要な児童生徒は増加
- 仮放免者の極度の排除:難民申請中などで『仮放免』状態にある外国人は、就労・社会保障ともに認められない極度の排除状態
差別・スティグマと社会的排除の連鎖
スティグマとは、特定の属性(障害・病歴・犯罪歴・経済的困窮等)を『価値の低いしるし』として社会的に認識し、その烙印を持つ人を社会の『劣った存在』として扱う現象です。
- 支援の申請を諦める(『どうせ差別される』『恥ずかしい』という感情による自己排除)
- 自己スティグマ(『自分は劣っている』という内面化)による自尊心・自己効力感の低下
- 支援者・医療者など専門家への不信感(過去に差別的対応を受けた経験)
- 社会参加の回避と孤立の深化
このスティグマによる排除のサイクルを断ち切るためには、法制度の整備だけでなく、社会全体の意識変革・啓発が不可欠です。
社会的排除がメンタルヘルスに与える影響
社会から排除された状態、特に社会的孤立を経験することは、うつ病・不安障害・PTSD・依存症・自殺リスクと深く関連します。
精神的健康への影響
厚生労働省『こころの健康白書』(2023年版)は、社会的孤立・孤独の問題をメンタルヘルス政策の重要課題として明示しており、孤独・孤立と精神的健康の密接な関連が政策的にも認識されるようになっています。
『排除された』という経験が自己概念に与える影響
社会的排除の長期的な経験は、当事者の自己概念・アイデンティティに深刻な影響を与えます。繰り返し排除・拒絶される経験は、『自分は社会に属せない存在だ』『自分には価値がない』という否定的な自己像(セルフコンセプト)を形成します。この否定的な自己概念は、心理学でいう『学習性無力感(Learned Helplessness)』と呼ばれる状態と深く関わっています。繰り返す失敗・拒絶・否定の経験により、『何をしても状況は変わらない』『自分には変える力がない』という信念が形成され、能動的な問題解決行動や支援希求行動が抑制されます。この学習性無力感が、支援制度への申請忌避や社会参加への回避につながることで、排除がさらに深まるという悪循環が生じます。
回復力(レジリエンス)と保護因子
- 社会的サポート:たとえ一人でも信頼できる人の存在がメンタルヘルスへの影響を和らげる。専門家・支援者・ピアサポート(同じ経験を持つ仲間)の存在が重要
- 所属感・つながり:地域の居場所・コミュニティへの参加が孤立感を軽減
- 意味・目的の感覚:何らかの役割・目標・達成感が『生きがい』として機能し、メンタルヘルスを保護
- 専門的支援へのアクセス:精神科・心療内科・精神保健福祉センター等の相談・治療リソースへのアクセスが確保されていること
- 制度的保護:生活保護・障害年金・生活困窮者支援等のセーフティネット制度が機能していること
子どもの貧困と社会的排除
子どもの貧困は、単なる経済的問題ではなく、社会的排除の早期からの形態として理解されます。貧困状態にある子どもは、学習機会の不均等・栄養不足・文化的活動からの排除・社会関係の貧困など、複合的な剥奪を経験します。日本では2014年に『子どもの貧困対策の推進に関する法律』が施行され、子どもの貧困対策が国の政策課題として位置づけられました。しかし、子どもの相対的貧困率は依然として約11.5%(2021年)と高水準にあります。
- 学習機会の格差:塾・習い事・文化体験など『お金がかかる活動』への参加できない。『不登校』『学習意欲の低下』につながりやすい
- 社会関係の貧困:『友達と外食できない』『修学旅行に参加できない』など、経済的理由による仲間からの疎外感
- 健康格差:必要な医療・歯科医療を受けられない。栄養状態の悪化が発達に影響
- 自尊心・将来展望への影響:幼少期からの排除経験が『自分の未来は変えられない』という固定的思考(固定マインドセット)を形成しやすい
- 貧困の世代間連鎖:親の貧困・排除が子どもに受け継がれる『世代間連鎖』が起きやすい構造的問題
若者のひきこもりと社会的排除
『ひきこもり』は日本固有の社会的排除の形態として国際的に注目されています。内閣府の2023年調査では、ひきこもり状態にある人が全国に推計約146万人(15〜64歳)いるとされています。ひきこもりは、社会的排除の結果であると同時に、さらなる排除を生み出すプロセスでもあります。いじめ・不登校・就職活動の失敗・職場でのハラスメントなど、社会における排除経験がひきこもりのきっかけとなることが多く、その後の長期的な社会参加の断絶がさらなる社会的排除を深めていきます。
- 8050問題:80代の親が50代のひきこもりの子を扶養する状況が増加しており、親亡き後の生活への深刻な不安
- ひきこもり当事者の多くが、社会に出られない自分への強い自己否定・恥・罪悪感を抱えている
- 支援のアクセスが困難で、家族のみが長期にわたって対応を抱え込みやすい
- ひきこもり地域支援センター(都道府県・政令市に設置義務)を通じた相談・支援体制が整備されつつあるが、まだ不十分
若者の孤独・孤立と社会的排除
かつて孤独・孤立問題は高齢者の問題として捉えられてきましたが、近年は若者(10代〜30代)の孤独・孤立が深刻な問題として認識されています。内閣府の調査では、孤独感が『常にある』『時々ある』と回答した割合は若年層でも高く、特に20代は他の年代と比較して孤独感が強い傾向。SNSの普及により『つながっているように見える』若者の中に、実際には深い孤独と社会的排除感を抱えている人が少なくありません。オンラインのつながりは、対面での深い人間関係や『所属感』の代替になり得ないことが多く、『SNS上では多くのつながりがあるのに孤独だ』という逆説的な状況が生まれています。
社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の理念と実践
社会的包摂は、社会的に弱い立場に置かれている人々を含め、すべての市民を孤独・孤立・排除から守り、共に支え合う社会を実現しようとする理念です。
社会的包摂とは何か
社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン/Social Inclusion)は、社会的排除の対概念として生まれた理念と実践の体系です。社会的包摂とは、社会的に弱い立場に置かれている人々を含め、すべての市民一人ひとりを孤独・孤立・排除・摩擦から守り、社会の一員として受け入れ、共に支え合う社会を実現しようとする考え方です。社会的包摂の核心にあるのは、『誰もが社会に参加できる権利(社会参加権)』という考え方。経済的困窮・障害・国籍・性別・年齢・性的指向等にかかわらず、すべての人が尊厳を持って社会参加できる環境を整備することが、社会的包摂の目指すところです。
ノーマライゼーションとの関係
社会的包摂の理念は、1960年代にスカンジナビアで生まれたノーマライゼーション(Normalization)の思想と深く関連しています。ノーマライゼーションとは、障害者や高齢者が『施設』に隔離されるのではなく、一般社会(コミュニティ)の中で、できるだけ『普通(ノーマル)』の生活を送れるようにすべきという理念です。ノーマライゼーションが主に障害者・高齢者の『施設から地域へ』という動きとして展開したのに対し、社会的包摂はより広く、あらゆる排除された人々の社会参加を保障する概念として発展しました。
日本における社会的包摂の展開
日本では2000年代以降、福祉・教育・地域政策の分野でソーシャルインクルージョンの理念が取り入れられてきました。厚生労働省は2000年に『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書』において、『社会的な絆の再生』『ソーシャル・インクルージョン』を新たな社会福祉の方向性として打ち出しました。
- 障害者分野:『地域移行・地域定着支援』により、入院中の精神障害者や施設入所者の地域生活への移行を促進。障害者の一般就労支援の拡充
- 高齢者分野:地域包括ケアシステムの構築により、高齢者が住み慣れた地域で最後まで暮らし続けられる環境の整備
- 子ども・教育分野:インクルーシブ教育システムの推進。こども食堂・学習支援など地域による子どもの居場所・包摂の場の拡大
- 生活困窮者支援:2015年施行の生活困窮者自立支援法による包括的支援
- 孤独・孤立対策:2021年に内閣府に『孤独・孤立対策担当大臣』が設置され、2023年には『孤独・孤立対策推進法』が制定
コミュニティレベルの社会的包摂実践
- こども食堂:全国で約9,000か所以上(2023年)に拡大。子どもの貧困・孤食問題に対応する地域の居場所
- 地域の居場所・サロン:高齢者・障害者・ひとり親等が気軽に集える地域の場の創出
- ピアサポート:同じ経験をした当事者が支え合う仕組み。精神障害・依存症・ひきこもり等の分野で広がる
- 生活困窮者への食料支援・フードバンク:NPO・ボランティア団体による食料支援が社会的セーフティネットを補完
- 就労支援:社会的企業・NPO等による、一般就労が困難な人への就労機会の創出
日本の社会的包摂に関する支援制度
生活保護・生活困窮者自立支援・自立支援医療・障害者総合支援・孤独孤立対策推進法など、社会的排除に対応するための公的制度を紹介します。
活用できる支援制度
個人レベルでのアプローチ
社会的排除の状況にある当事者にとって、まず自分の状況を『個人の失敗・弱さ』ではなく、『社会的・構造的な問題の結果』として捉え直す視点の転換が重要です。自己責任の内面化が、支援の申請や回復への行動を阻害することが少なくありません。
- 小さな一歩から始める:一度に大きな変化を求めず、相談窓口に一本電話することなど、小さな行動から始める
- 信頼できる人・場所を探す:家族・友人・支援者・医療機関・NPO等、どんな小さなつながりも大切にする
- 専門家への相談:精神保健福祉センター・生活困窮者支援窓口・法律相談等、状況に応じた専門機関を活用
- 自己スティグマへの対処:『支援を受けることは弱さではない』『社会的排除の状況は自分のせいではない』という認識を深める
- 権利の活用:利用できる制度・給付・支援を積極的に調べ、活用する(権利としての支援利用)
コミュニティ・地域レベルのアプローチ
- 居場所づくり:誰でも気軽に立ち寄れる地域の居場所(こども食堂・地域食堂・コミュニティカフェ等)の充実
- アウトリーチ(訪問支援):支援を求めることが困難な人に対して、支援側から積極的に働きかけるアウトリーチ型支援の強化
- スティグマの解消:社会的排除の原因となる偏見・差別を地域で解消するための啓発・対話の促進
- ピアサポートネットワーク:同じ経験を持つ当事者同士の支え合いの場・ネットワークの形成
- 多職種連携:行政・医療・福祉・教育・NPO等が連携して、『縦割り』を超えた包括的支援を実現
社会・政策レベルのアプローチ
- セーフティネットの強化:生活保護の捕捉率向上(現在の捕捉率は2〜3割程度とされる)、申請手続きの簡素化、スティグマを生まない制度運用
- 雇用の安定化:同一労働同一賃金の実現、非正規から正規への移行促進、最低賃金の引き上げ
- 差別禁止立法の整備:包括的な差別禁止法制の整備(日本には包括的な差別禁止法がまだない)
- 教育機会の均等化:家庭の経済状況にかかわらず、教育機会が保障される制度(給付型奨学金の拡充等)
- 当事者の声の政策への反映:社会的排除を経験した当事者が政策立案プロセスに参加できる仕組みの構築
専門家・相談窓口を活用するタイミング
社会的排除の状況にある方や、その家族・支援者が専門的な支援を求めることは、弱さではなく、賢明な判断です。
以下のような状況なら、専門家へ
- ✓生活費・家賃の支払いが困難になった、またはなりそう
- ✓住む場所を失う、または失いそう
- ✓仕事を失った、または長期間就労できていない
- ✓孤独感・孤立感が強く、誰にも相談できない状況が続いている
- ✓気力・意欲の低下が続き、日常生活が送りにくくなっている
- ✓『消えたい』『死にたい』という気持ちが出てきている
- ✓アルコール・薬物の使用が増え、コントロールできていない
- ✓家族が長期間外出しない・人と接触しない状態が続いている
- ✓利用できる制度・支援が何かわからず途方に暮れている
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、各都道府県・政令指定都市に設置されている、こころの健康に関する問題の相談・支援・情報提供を行う公的機関です。精神科医・精神保健福祉士・臨床心理士・保健師等の専門家が常駐し、電話相談・面接相談等を無料で行っています。
- 精神的な悩み・メンタルヘルスに関する相談
- 精神障害者の地域生活支援に関する相談
- アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症に関する相談
- ひきこもりに関する相談
- 自殺念慮に関する相談
- 各種支援制度への橋渡し
早期相談がなぜ重要か
社会的排除の状況は、放置するほど深刻化しやすく、早期に相談・支援につながることで状況を改善できる可能性が高まります。『まだそれほど深刻ではない』『自分の力で何とかできる』と感じていても、生活・精神的な問題は複合的に絡み合いやすく、一人で抱え込んでいる間に改善の機会が狭まることがあります。
また、精神的な苦しさや危機的な状況にあるときは、判断力・問題解決能力が低下することが多く、そのような状態での『一人での解決』は困難です。専門的なサポートを受けながら、少しずつ状況を整理し、利用できる制度・支援につながることが回復への重要な第一歩となります。
よくある質問
社会的排除について多く寄せられる7つの質問にお答えします。
7つの質問
A. 密接に関連していますが同一ではありません。貧困とは主に経済的・物質的な欠乏(所得・消費が一定水準を下回る状態)を指します。一方、社会的排除はより広い概念で、住居・教育・医療・雇用・社会関係・文化的活動など、生活のあらゆる領域における参加の剥奪を包括的に捉えます。また、貧困が『ある時点での状態』を示すのに対し、社会的排除は『社会から切り離されていくプロセス』という動的な側面を持っています。経済的に困窮していなくても、社会的孤立・差別・スティグマによって社会的排除の状態にある人もおり、逆に貧困でも豊かなコミュニティのつながりがあれば排除の影響が緩和される場合もあります。
A. 『自己責任』では説明できない、構造的・社会的な問題です。社会的排除に至る経路には、非正規雇用の拡大・セーフティネットの機能不全・差別・障害・疾病・家庭環境など、個人がコントロールできない多くの要因が絡んでいます。社会的排除を『個人の失敗』『怠慢の結果』として捉えることは実態を誤って理解するだけでなく、支援を求める人の自己スティグマを強め回復を阻む害をもたらします。国際的な研究や政策の世界では、社会的排除は社会構造・制度・文化的メカニズムが生み出す問題として理解されており、社会全体の責任として捉えられています。
A. 国内外の研究で一貫して深刻な影響が示されています。疎外感・孤立感・社会的交流の欠如を多面的に経験している人はうつ病発症リスクが4〜5倍高いとする研究があります。また、不安障害・PTSD・アルコール・薬物依存など、様々な精神的健康問題とも関連。社会的排除による『自分は社会から必要とされていない』『社会に属せない存在だ』という否定的な自己概念の形成は自殺念慮とも直結することがあります。さらに、精神的健康の悪化がさらなる社会参加の困難をもたらし、排除が深まる悪循環が生じやすい。こころの苦しさを感じている方は、精神保健福祉センターや医療機関への相談を検討してください。
A. 生活保護の前段階として活用できる制度があります。お住まいの市区町村の『生活困窮者自立支援』の相談窓口(自立相談支援機関)が入口。住居を失いそうな方への『住居確保給付金』、すぐに就労が難しい方への『就労準備支援』、家計管理のサポートなど。精神疾患があれば『自立支援医療制度(精神通院医療)』で医療費の自己負担が軽減。障害があれば『障害者総合支援法』に基づく各種サービス。NPO・社会福祉協議会の『フードバンク』『緊急小口資金』も有効。まずは相談窓口に足を運ぶか、電話することが大切です。
A. 都道府県・政令市に設置された『ひきこもり地域支援センター』が最初の相談先。家族のみでも相談でき、本人への支援方法や家族自身の気持ちの整理についても専門家がサポート。精神保健福祉センターでも相談を受け付けています。『無理に外に出させる』『叱責する』アプローチは逆効果で、本人のペースと意志を尊重しながら安心できる関係性を土台に少しずつ社会参加の機会を広げていくことが重要。家族だけで問題を抱え込まず、KHJ全国ひきこもり家族会連合会などの家族支援団体への参加も情報収集と精神的サポートの点で有効。
A. 社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)は、経済的困窮・障害・国籍・年齢・性別・性的指向等にかかわらず、すべての人が尊厳を持って社会に参加できる環境を実現しようとする理念と実践の体系。一人ひとりにできることは、日常的な言動の中に潜む偏見・スティグマを振り返ること、社会的に弱い立場の人々への差別的な言動を見聞きしたときに声を上げること、地域のボランティア活動や支援活動への参加など。生活困窮者支援のNPOへの寄付・フードドライブ・こども食堂のボランティアなど、地域での実践的な関わりも一歩です。
A. あなたが弱いのではなく、それほど追い詰められているというサインです。24時間対応の『いのちの電話(0120-783-556)』、『よりそいホットライン(0120-279-338)』に電話できます。よりそいホットラインは24時間・年中無休・無料。都道府県の精神保健福祉センターにもこころの悩みを相談できます。命にかかわる緊急の危機状態の場合は、救急(119番)や警察(110番)に連絡するか、精神科・心療内科の救急外来を受診してください。あなたは一人ではありません。

社会的排除の状況は
あなたの責任ではありません
社会的排除・孤立・生活の困難・こころの苦しさを感じているなら、一人で抱え込まないでください。支援を求めることは、回復への重要な第一歩です。ココトモに話してみませんか。
精神科・心療内科に通院中の方は自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで、医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。生活困窮の方は生活困窮者自立支援制度の相談窓口(市区町村に設置)でご相談ください。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。