ストーキング被害とは?
症状・法律・対処法・回復を徹底解説
ストーキング被害は年間約2万件もの相談が寄せられる深刻な問題です。つきまとい・監視・執拗な連絡・サイバーストーキングなど被害の種類から、心理的影響(PTSD・うつ)、ストーカー規制法(2025年改正対応)、警察への相談手順、日常の安全対策、治療とメンタルケア、支援制度まで、被害者・支援者・周囲の方に必要な情報をすべてまとめました。
ストーキング被害とは——日常を脅かす深刻な犯罪
ストーキング被害は、特定の人物からの執拗なつきまとい・連絡・監視などの行為により、被害者の生活・精神・身体に深刻な影響をもたらす問題です。日本では年間約2万件もの相談が警察に寄せられており、決して他人事ではない身近な問題です。
ストーキング被害の定義——ストーカー規制法が定める行為
「ストーキング」とは、特定の人物(またはその関係者)に対して、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で、一定の行為を繰り返し行うことを指します。日本では2000年に制定された「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」により、こうした行為が規制されています。
ストーカー規制法では、つきまとい・待ち伏せ・押し掛け、監視していると告げる行為、面会・交際の要求、乱暴な言動、無言電話・連続した電話・FAX・メール・SNSでの連絡、汚物等の送付、名誉を傷つける行為、性的羞恥心を害する行為、GPS機器等を用いた位置情報の取得という10類型の行為を「つきまとい等」として規制しています。2025年の改正では、紛失防止タグ(AirTagなど)を無断で取り付けたり利用したりする行為も規制対象に加わりました。
ストーキング被害の実態——警察庁データ
警察庁の統計によると、ストーキング被害に関する相談は年間約2万件と高い水準で推移しており、2023年の相談件数は19,843件(前年比721件増)を記録しました。検挙件数も増加傾向にあり、2024年は1,341件と過去最多を更新しています。
誰がストーキング被害を受けるのか——被害者と加害者の関係
ストーキング加害者は「見知らぬ不審者」というイメージがありますが、統計上は顔見知りからの被害が圧倒的に多数です。警視庁の統計では、加害者との関係で最も多いのは「交際相手・元交際相手」で47.6%を占めています。
被害者の性別については、女性が被害者全体の約80%を占めており(警察庁データ)、20〜30代の若い世代に特に多い傾向があります。ただし、男性被害者も一定数存在しており、男性被害者は周囲に打ち明けにくく、相談が遅れる傾向があることに注意が必要です。
こんな状況なら今すぐ相談を
以下のような状況に当てはまる場合は、一人で抱え込まず、警察や相談窓口に連絡してください。「まだ大丈夫」「大げさかな」と思って放置すると、被害がエスカレートする危険があります。
- ✓つきまとい、待ち伏せ、無断の接触を繰り返される
- ✓電話・メール・SNSで執拗な連絡が来て、精神的に追い詰められている
- ✓恐怖から外出・通勤・通学が困難になっている
- ✓被害がいつ起こるかわからない不安で眠れない日が続いている
- ✓フラッシュバックや悪夢で被害場面が繰り返しよみがえる
- ✓「逃げ切れない」「誰も助けてくれない」という無力感が強い
- ✓体調不良(頭痛・食欲不振・動悸など)が続いている
- !自分を傷つけたい気持ちや死にたいという気持ちがある
ストーキング被害の6つのパターン
ストーキング被害は一種類だけではありません。複数のパターンが組み合わさって起こることも多く、時間とともにエスカレートする危険があります。早期に気づき、適切に対処することが重要です。
ストーキング被害の代表的な6つのパターン
ストーカー規制法では10類型の行為を規制していますが、実際の被害は複数のパターンが重なって現れることが多いです。以下に代表的な6つのパターンを解説します。被害が複数のパターンにまたがっている場合、加害者の執着の強さを示しており、危険度が高いと考えられます。
被害が深刻化する前に気づくための警告サイン
ストーキング被害は最初は「ちょっと気になる行動」から始まり、徐々にエスカレートするパターンが多いです。以下の警告サインに気づいたら、早期に対応することが重要です。
ストーキング被害が心と体に与える影響
ストーキング被害は被害者の精神的・身体的健康に深刻な影響を与えます。「まだ被害は軽い」と思っている方も、心身に現れているサインを見逃さないようにしましょう。
ストーキング被害が引き起こす8つの心身の影響
ストーキング被害は、急性のストレス反応からPTSD・うつ・身体症状まで、幅広い心身の不調を引き起こします。一つでも当てはまるサインがあれば、軽視せず専門家に相談してください。
ストーキング被害とPTSD——深刻な心の傷
ストーキング被害はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の主要な原因の一つです。PTSDは、生命の危機を感じるような恐怖体験の後に発症する精神疾患で、ストーキング被害という「いつ何が起こるかわからない慢性的な脅威」は、PTSDを引き起こす典型的な状況と言えます。
ストーキング被害者に現れるPTSD症状には、フラッシュバック(加害者に遭遇した場面や被害内容が突然リアルに頭によみがえる)、悪夢(被害に関する悪夢を繰り返し見る)、回避(加害者に会った場所・似た状況・話題を徹底的に避ける)、過覚醒(常に周囲を警戒し、些細な物音や人影に過剰に反応する)、感情の麻痺(感情が湧かなくなる、楽しいことが楽しくない)などが含まれます。
- フラッシュバック:被害場面が突然・リアルによみがえり、今もその場にいるかのような感覚になる
- 悪夢:毎晩のように加害者や被害状況に関する悪夢を見て目が覚める
- 過覚醒:後ろを歩く足音、似た体型の人影だけで強い恐怖反応が起きる
- 回避:被害のあった場所・加害者と似た外見の人・関連する話題を徹底的に避ける
- 感情の麻痺:これまで楽しかったことへの興味が消え、感情全体が鈍くなる
- 集中困難:常に警戒しているため、仕事・勉強への集中が著しく困難になる
長期間のストーキング被害が引き起こす慢性ストレスの深刻さ
ストーキング被害の特徴の一つは、「いつ何が起こるかわからない」という予測不可能な恐怖が長期間続くことです。この慢性的なストレス状態は、脳と身体の両方に深刻な悪影響をもたらします。
人間の身体は、危険を感じると「戦うか逃げるか(Fight or Flight)」の反応として、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンを放出します。これは短期的には生存に役立つ反応ですが、ストーキング被害のように慢性的にこの状態が続くと、免疫機能の低下、心血管系への負荷、海馬(記憶・学習に関わる脳領域)の萎縮、感情調節機能の障害などが引き起こされます。
ストーカー規制法と法的手続き——あなたを守る法律
日本では2000年に制定されたストーカー規制法が、ストーキング被害から被害者を守るための法的枠組みを提供しています。2025年の改正でさらに強化された法律と、実際に使える法的手続きについて解説します。
ストーカー規制法の歴史と2025年改正
ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、2000年11月に施行されました。制定の背景には、1999年に起きた桶川ストーカー殺人事件をはじめとする深刻なストーキング犯罪の増加がありました。それ以降、社会情勢やストーキングの手口の変化に合わせて複数回の改正が行われてきました。
特に重要な改正のポイントを年代順にまとめると、2013年改正ではストーカー行為の規制対象に「電子メールによる執拗な送信行為」が追加されました。2016年改正では「SNS等でのメッセージ送信」「文書の送付」が追加され、デジタル時代のストーキングへの対応が強化されました。2021年改正では「GPS機器等を用いた位置情報の取得」が規制対象に加えられました。そして2025年改正では、「紛失防止タグ(AirTagなど)の無断取り付け・悪用による位置情報取得」が明確に規制対象に加わり、警察の職権による警告発出も可能になりました。
- ✓紛失防止タグ(AirTagなど)の無断取り付けや悪用による位置情報の追跡が規制対象に追加
- ✓被害者の申出がなくても、警察が職権で加害者への警告を発することができるように
- ✓情報提供先がストーカーであることを知りつつ被害者の情報を提供する者への禁止要請制度の新設(令和8年3月10日施行)
- ✓禁止命令等の対象行為が拡大され、より幅広い状況でストーカー行為を取り締まれるよう
ストーキング被害を受けた場合の法的手続きの流れ
ストーキング被害を受けた場合、以下の手順で法的対応を進めることができます。一人で対応しようとせず、警察・弁護士・支援センターなどの専門機関に相談しながら進めることが重要です。
ストーカー規制法違反の罰則——加害者への法的制裁
ストーカー規制法は段階的な規制と罰則を設けています。行政指導(警告)→行政処分(禁止命令)→刑事罰(検挙・起訴)という段階で対応が強化されます。
ストーキング被害を受けたときの対処法
「どうしたらいいかわからない」という状況で、何から手をつければいいかを分かりやすく解説します。一人で解決しようとせず、適切な支援機関につながることが最も重要な第一歩です。
被害に気づいたらまず行動すべき5つのこと
ストーキング被害に気づいたとき、多くの方が「大げさかもしれない」「自分で何とかできるはず」と思ってしまいます。しかし、ストーキング被害は時間が経つほどエスカレートするリスクが高く、早期の行動が重要です。以下の5つを最初に行いましょう。
日常生活での具体的な安全確保の方法
被害が続いている間、日常生活での安全を確保するための具体的な方法を紹介します。完璧にすべて実行することは難しいかもしれませんが、できることから少しずつ取り組んでいきましょう。
ストーキング被害後の治療とメンタルケア
ストーキング被害による心の傷(トラウマ)は、適切な治療とサポートによって回復することができます。「もう元の自分には戻れない」と感じている方も、専門的なケアを受けることで大きく改善できます。
ストーキング被害後のトラウマ治療——エビデンスに基づく方法
ストーキング被害によるPTSD・うつ病・不安障害などは、適切な治療によって大幅に改善することが可能です。治療は必ず「安全の確保」が前提となります。被害が続いている状況では治療の効果が限定されるため、まず安全を確保することが最優先です。
日常生活でできるセルフケア——回復を助ける習慣
専門的な治療と並行して、日常生活の中でもできるセルフケアを取り入れましょう。小さな積み重ねが、心身の回復を大きくサポートします。
回復には時間がかかります——段階的な回復の見通し
ストーキング被害からの回復は、直線的なプロセスではありません。良い日と悪い日が交互に来たり、回復していたはずなのに突然フラッシュバックが戻ったりすることは珍しくありません。これは回復の失敗ではなく、回復プロセスの一部です。
※回復の三段階(Herman, 1992年のトラウマ回復モデル)に基づいた整理です。
毎日の生活で実践できる安全対策
ストーキング被害は日常生活のあらゆる場面に影響を与えます。具体的な安全対策を日常の習慣として取り入れることで、リスクを減らし、少しでも安心して過ごせる環境を作ることができます。
SNS・スマートフォンのセキュリティ対策
現代のストーキング被害はデジタル空間に大きく広がっています。スマートフォンやSNSを通じた監視・嫌がらせは24時間止まることがなく、被害者の精神的消耗は極めて大きいです。以下の対策を早めに実施しましょう。
- ☐全てのSNSアカウントのプライバシー設定を「フォロワー限定」または「非公開」に変更する
- ☐写真・動画に含まれるジオタグ(GPS情報)を削除する設定にする
- ☐スマートフォンの位置情報共有アプリを確認し、不審なアプリを削除する
- ☐全てのアカウントのパスワードを強力なものに変更し、2段階認証を設定する
- ☐加害者・不審者からのアカウントはすべてブロック・通報する
- ☐AirTag等の紛失防止タグが所持品・車に無断取り付けられていないか確認する
- ☐スマートフォンにスパイウェアが入っていないか専門店で確認する(特に元交際相手に渡したことがある場合)
- ☐メールアドレスを新しいものに変更し、新しいアドレスは加害者に知られないようにする
職場での安全対策と職場への相談
ストーキング被害は職場にも及ぶことがあります。加害者が職場に電話してきたり、職場の近くで待ち伏せしたりするケースも少なくありません。職場での安全を確保するため、以下の対策を検討しましょう。
- 職場の上司・人事・総務部門の信頼できる人に被害状況を伝え、連携を依頼する
- 加害者からの職場への電話・来訪に対応しないよう、職場全体での対応プロトコルを作成する
- 職場の警備・受付スタッフに加害者の特徴と対応方法を伝えておく
- 通勤経路・出退勤時間を変えたり、同僚と同行したりするなど、日常的なパターンを崩す
- 職場での位置情報(Facebookの「チェックイン」など)をSNSに公開しない
- 在宅勤務・シフト変更などの配慮をお願いできるか上司に相談する
被害者の周囲にいる方へ——正しい支援の方法
ストーキング被害を受けた大切な人をどう支えたらよいか。間違った対応が被害者を傷つけたり、危険を増したりすることがあります。正しい支援の方法を知ることが、最大の力になります。
被害者への正しい接し方——してほしいこと・避けてほしいこと
被害者を支えるとき、何を言うか・しないかが回復と安全を大きく左右します。次の比較を参考に、関わり方を見直してみてください。
- •「あなたは悪くない」「信じている」と明確に伝え、被害者を孤立させない
- •被害について話したい時は傾聴し、話したくない時はそれを尊重する
- •被害記録をつけることをサポートし、証拠の保全に協力する
- •一緒に警察や相談窓口に付き添うことを申し出る
- •被害者の行動・外出・連絡先の変更などのプライバシーを厳守する
- •加害者から被害者の情報を聞かれても絶対に教えない
- •被害者が専門家(カウンセラー・弁護士・警察)につながるのをサポートする
- •緊急時のプランを被害者と一緒に考えておく
- •「大げさでは」「気のせいでは」と被害を過小評価・否定する
- •「なぜそういう状況になったの」「自分にも非があるのでは」と責める
- •加害者と「話し合えばわかる」と安易に和解を勧める
- •被害者の了承なしに、他の人に被害状況を話す
- •「警察に行っても無駄」という思い込みを伝える
- •「それくらい大丈夫」と危険性を軽く見る
- •一人ですべてのサポートを抱え込む(支援者自身が燃え尽きない)
被害者の個人情報を守ることの重要性
ストーカー加害者は、被害者の周囲の人物(家族・友人・職場の同僚など)に接触して、被害者の新しい住所・連絡先・行動パターンを聞き出そうとすることがあります。「何気ない会話」の中で情報を引き出そうとする手口も多く、気づかないうちに加害者に情報を渡してしまうケースも報告されています。
支える側のセルフケア——二次的トラウマに注意
ストーキング被害者を支援することは、支援者自身にも大きな心理的負担をかけます。被害者の恐怖や苦しみを間近で見続けることで、支援者が「二次的トラウマ(二次被害)」を経験することがあります。支える側が消耗してしまわないよう、自分自身のケアも大切にしてください。
利用できる支援制度・相談窓口一覧
ストーキング被害は一人で解決しようとしないでください。日本には、被害者を支援するための様々な制度と窓口が整備されています。まずは相談することから始めましょう。
ストーキング被害者が使える主な支援制度・相談窓口
ストーキング被害者への支援は、警察・法律・医療・福祉・精神保健など多様な機関が連携して提供しています。どこに相談すればよいかわからない場合は、まず警察(#9110)または精神保健福祉センターに連絡することをお勧めします。そこから適切な支援機関につないでもらえます。
自立支援医療制度(精神通院医療)——医療費の自己負担を軽減
ストーキング被害によるPTSD・うつ病・不安障害などで精神科・心療内科への継続的な通院が必要な方は、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を申請することで、医療費の自己負担を通常の3割から原則1割に軽減できます。長期にわたる通院が必要なストーキング被害後の精神的回復においては、この制度が経済的な負担を大きく軽減します。
身の危険を感じる場合の緊急避難先
加害者が自宅の場所を知っており、身の危険を感じる場合は、一時的な避難が必要になることがあります。以下の機関が緊急避難の支援をしています。
- 警察による一時避難先の確保(費用は公費負担の場合あり)——相談した警察署に依頼する
- DV・ストーカー被害者向けシェルター(民間・公的)——配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ #8008)を通じて紹介
- 友人・親族の家への一時避難——加害者が住所を知らない安全な場所
- 民間のシェルターを運営するNPO法人——地域の被害者支援団体に問い合わせる
- ホテル・ゲストハウスへの一時宿泊——費用が心配な場合は生活困窮者支援窓口に相談
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
ストーキング被害の恐怖や孤独感を、一人で抱えていませんか。誰かに話すだけで、少し楽になれることがあります。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すれば、医療費の自己負担を原則1割に抑えられます。
