メンタルヘルス用語辞典 · ストレンジ・シチュエーション法

ストレンジ・シチュエーション法とは?
愛着タイプの分類・8つのエピソード・大人への影響まで徹底解説

エインズワースが開発した愛着測定法と、安定型・回避型・抵抗型・無秩序型という4タイプ。乳幼児期の愛着が大人の対人関係・メンタルヘルスに与える影響、文化差・批判的論点、変容の可能性まで、専門知見に基づいて包括的に解説します。

ABOUT SSP

ストレンジ・シチュエーション法とは

ストレンジ・シチュエーション法(SSP)は、乳幼児と養育者の愛着の質を測定する実験観察法です。1960〜70年代にメアリー・エインズワースが開発し、1978年の著書『乳幼児における愛着のパターン』で詳細に報告されました。

基本的な定義

ストレンジ・シチュエーション法の定義

ストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure: SSP)とは、乳幼児(主に生後12〜18ヶ月)と養育者(多くの場合、母親)との愛着(アタッチメント)の質と類型を観察・測定するために開発された実験観察法です。発達心理学者メアリー・エインズワースとその同僚たちによって体系化され、1978年の著書『乳幼児における愛着のパターン(Patterns of Attachment)』で詳細に報告されました。

「ストレンジ・シチュエーション」とは「見知らぬ(奇妙な)状況」という意味で、子どもにとって少しだけ不安を喚起するように設定された実験室環境を指します。この「適度なストレス状況」に置かれたとき、子どもが養育者をどのような「安全基地(safe base)」として活用するか——その行動パターンを観察することで、養育者との愛着の質が測定されます。

何を測定するのか

子どもが養育者を安全基地として活用できているか

ストレンジ・シチュエーション法が測定する核心は、「子どもが養育者を安全基地として活用できているか」です。具体的には以下の2つの場面における子どもの行動が観察されます。

分離場面
母親が退室するとき
子どもが分離に際してどのような反応を示すか(泣く・不安になる・無反応など)を観察します。
再会場面
母親が戻ってきたとき
子どもが再会にどのような反応を示すか(近づく・無視する・怒りと接近を同時に示すなど)を観察します。

これらの観察から、子どもが養育者との関係の中でどのような「愛着の戦略」を発達させてきたかが明らかになります。この戦略は、養育者が過去にどのように子どもの感情的ニーズに応答してきたかを反映しており、愛着の「質」として評価されます。

発達心理学への意義

ストレンジ・シチュエーション法の意義

ストレンジ・シチュエーション法が発達心理学に与えた影響は計り知れません。それ以前、愛着はフロイト的な「授乳・口唇期の快楽」と結びつけられていましたが、エインズワースの研究は愛着が「安心感・情緒的絆」に基づくものであることを実験的に示しました。

  • 愛着の「質」が量よりも重要であることを科学的に示した
  • 「安全基地」という概念を実証的に裏づけた
  • 養育者の応答性(Sensitivity)が愛着の質を決定する主要な要因であることを示した
  • 乳幼児期の愛着パターンが後の社会的発達・認知発達・情緒発達に及ぼす影響を追跡研究で明らかにする土台を作った
  • 臨床現場・育児支援・保育政策・愛着障害の診断と治療に直接的な応用をもたらした
SSPは「子どもが養育者をどう活用するか」という観察を通して、見えにくい「愛着」を測定可能な現象に変えた画期的な手法です。
THEORETICAL BACKGROUND

愛着理論の背景——ボウルビィとエインズワース

ストレンジ・シチュエーション法を理解するには、その理論的基盤である愛着理論を知る必要があります。ボウルビィ・エインズワース・ハーロウの3人の研究が現代の愛着研究の出発点です。

ボウルビィ

ジョン・ボウルビィと愛着理論の誕生

愛着理論は、イギリスの精神科医・精神分析家ジョン・ボウルビィ(John Bowlby, 1907-1990)によって1940〜70年代にかけて体系化されました。ボウルビィは戦争孤児・施設収容児の情緒発達の問題を研究する中で、「母親(または一貫した養育者)との継続的な情緒的絆が、子どもの心理的健康に不可欠である」という考えに至り、この絆を「愛着(Attachment)」と呼びました。

  • 愛着行動の生物学的基盤子どもが養育者に近接を求める行動(泣く、微笑む、後追いするなど)は、捕食者からの保護や生存を確保するために進化した本能的な行動システムである。
  • 「安全基地」概念養育者は子どもにとっての「安全基地(Secure Base)」として機能し、そこから子どもは環境を探索し、危険を感じると戻ってくる。安全基地があってこそ、子どもは自律的に探索できる。
  • 感受性期間生後6ヶ月〜2歳頃が愛着形成の感受性期間(臨界期に近い重要な時期)とされる。
  • 母性的養育の剥奪施設収容児の研究から、継続的な養育者の不在が「ホスピタリズム(施設症)」と呼ばれる深刻な発達上の問題を引き起こすことを示した。
エインズワース

メアリー・エインズワースの貢献

メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth, 1913-1999)はカナダ生まれのアメリカの発達心理学者で、ボウルビィの理論を実証的に検証した研究者です。彼女はボウルビィのもとで研究を行った後、ウガンダとボルチモアで母子相互作用の縦断的観察研究を実施しました。

エインズワースのウガンダ研究(1950年代)では、家庭環境での自然な母子相互作用を詳細に観察し、母親の応答性の違いによって子どもの愛着行動が異なるパターンを示すことを見出しました。この観察から、愛着の質を実験室環境で測定するための方法論として開発されたのがストレンジ・シチュエーション法です。

  • ボルチモア研究1960年代にボルチモアで実施した26組の母子を対象とした縦断的研究が、ストレンジ・シチュエーション法の基盤となった。
  • 応答感受性(Maternal Sensitivity)養育者の「応答感受性」——子どものシグナルへの敏感さ・適切さ・一貫性——が愛着の安定性を予測する最重要の要因であることを示した。
  • 3つの愛着タイプの初期分類当初、安定型(B型)・回避型(A型)・抵抗型(C型)の3タイプが同定された。
ハーロウの研究

ハリー・ハーロウのアカゲザル実験

愛着理論の発展には、アメリカの心理学者ハリー・ハーロウ(Harry Harlow)によるアカゲザルを使った実験も重要な役割を果たしました。ハーロウの実験では、乳を与える針金製の母親と、乳は与えないが柔らかい布製の母親のどちらに子ザルが近接するかを調べたところ、子ザルは圧倒的に布製の「母親」に近づくことが示されました。

💡
接触の快が愛着を作るこの実験は「愛着は食物(生理的欲求の充足)によって形成されるのではなく、接触の快(contact comfort)・情緒的絆によって形成される」ことを示し、フロイト的な授乳ベースの愛着論に反証を与えるとともに、ボウルビィとエインズワースの愛着理論を支持しました。
PROCEDURE

8つのエピソード——SSPの手順

ストレンジ・シチュエーション法は8つのエピソードから構成される約20分間の構造化された観察実験です。各場面は通常3分間で、倫理的配慮により過度な苦痛時には中断されます。

実験設定

実験の設定と基本構造

実験は、子どもにとって「見知らぬ場所(ストレンジな状況)」である実験室(または観察室)で行われます。部屋にはおもちゃが置かれ、母親用と見知らぬ人(ストレンジャー)用の椅子が用意されています。マジックミラー越しに観察者が行動を記録します。

各エピソードは通常3分間ですが、子どもが過度に苦痛を示した場合は短縮されます。また、倫理的配慮として、子どもが極度に不安な状態になった場合は実験を中断するプロトコルが定められています。

8つのエピソード

8つのエピソードの詳細

タブを切り替えると、各場面の登場人物・手順・観察ポイントを確認できます。

第1場面
実験室への導入
実験者が母子を実験室に案内し、実験者は退室する。実験室への初期反応・探索行動の基準を観察する。
登場:実験者・母親・子ども
第2場面
母子の自由な遊び
母親は椅子に座り、子どもはおもちゃで自由に遊ぶ。母親は子どもの遊びに関与しない。見知らぬ環境での探索行動の基準値、母親を安全基地として活用しているかを観察。
登場:母親・子ども
第3場面
ストレンジャー入室
ストレンジャーが入室。1分間沈黙→1分間母親と会話→1分間子どもに働きかける。見知らぬ人への反応、母親の存在が安全感を提供しているかを観察。
登場:母親・子ども・ストレンジャー
第4場面(分離1回目)
母親が退室
母親が退室。ストレンジャーは子どもの状態に合わせて行動する(慰める・遊ぶなど)。分離への反応(泣く・探す・遊び続けるなど)とストレンジャーへの反応を観察。
登場:子ども・ストレンジャー
第5場面(再会1回目)
母親が戻る
母親が戻り、ストレンジャーは退室。母親は子どもを落ち着かせ、再び遊びに戻れるよう促す。再会への反応(接近・抵抗・無視など)、安全基地としての活用を観察。
登場:母親・子ども
第6場面(分離2回目)
子どもが一人になる
母親が退室し、子どもを一人にする(倫理的配慮で最大3分まで)。完全な孤立への反応・自己調節能力を観察。
登場:子どもが一人
第7場面
ストレンジャー再入室
ストレンジャーが入室し、子どもを慰めたり、遊んだりする。見知らぬ人によって慰められるかどうか、愛着の選択性を観察。
登場:子ども・ストレンジャー
第8場面(再会2回目)
母親が戻り抱き上げる
母親が入室し、子どもに挨拶する。子どもを抱き上げる。再会への反応(最も重要な場面)、愛着システムの活性化と解消を観察。最も強いストレス後の反応として、愛着タイプを最も鮮明に映し出す場面。
登場:母親・子ども
分離と再会

特に重要な場面——分離と再会

8つのエピソードの中で、愛着タイプの分類において最も重要なのは分離場面(第4・第6場面)再会場面(第5・第8場面)です。特に2度目の再会場面(第8場面)は最も強いストレス後の反応として、愛着タイプを最も鮮明に映し出します。

観察者は再会場面において、以下の5つの行動次元を評価します。

🤝
近接追求(Proximity Seeking)
母親に近づこうとする行動の強さ。
🫂
接触維持(Contact Maintaining)
母親との接触を維持しようとする行動。
🚪
回避(Avoidance)
母親を無視したり、回避したりする行動。
抵抗(Resistance)
母親に接触を求めながらも、接触に抵抗したり、怒りを示したりする矛盾した行動。
混乱・無秩序(Disorganization)
一貫した行動戦略がなく、フリーズや矛盾した行動を示す。
評価の信頼性

評価の基準と信頼性

ストレンジ・シチュエーション法の評価(コーディング)は、訓練を受けた評価者によって行われます。エインズワースらは詳細なコーディングマニュアルを作成しており、評価者間信頼性(Inter-rater Reliability)は通常0.85以上とされています。また、乳幼児期に分類された愛着タイプは、幼児期・学童期にも一定の安定性を示すことが多くの縦断研究で示されています。

4 ATTACHMENT TYPES

4つの愛着タイプの特徴と成因

当初3タイプ(A・B・C)でしたが、1986年にメアリー・メインとジュディス・ソロモンが無秩序型(D型)を追加し、現在は4タイプが広く認められています。

概要

4つの愛着タイプの全体像

ストレンジ・シチュエーション法によって同定された愛着タイプの全体像です。割合は研究・対象集団・文化によって異なります。なお、無秩序型は虐待リスクのある集団では50〜80%という高い割合で見られることがあります。

🌿
安定型(Secure)(B型)
分離:不安・泣くが過度ではない/再会:積極的に近づき、素早く安心する/割合:約60〜65%
🌬
回避型(Avoidant)(A型)
分離:ほとんど反応しない(泣かない)/再会:母親を無視・回避する/割合:約20〜25%
🌊
抵抗型(アンビバレント型/Ambivalent)(C型)
分離:強い苦痛を示す/再会:近接を求めながら怒りや抵抗を示す/割合:約10〜15%
🌀
無秩序型(Disorganized)(D型)
分離:混乱した・矛盾した反応/再会:フリーズ・矛盾した行動・混乱/割合:約15〜20%(一般群)
形成要因

愛着タイプを形成する5つの要因

愛着タイプは生まれつき決まるものではなく、養育者との相互作用の歴史によって形成されます。

  • 養育者の応答感受性(Sensitivity)子どものシグナルを敏感に察知し、適切に・一貫して応答できているかどうかが最も重要な予測因子とされている。
  • 養育者の愛着史(世代間伝達)養育者自身が子ども時代にどのような愛着を形成したか(成人愛着面接で測定)が、子どもの愛着タイプを予測することが示されている。
  • 子どもの気質(Temperament)子ども自身の生来の気質(神経質さ・反応性の高さなど)も、ストレスへの反応の強さに影響するが、愛着タイプそのものを決定するほどの影響は持たないとされる。
  • 環境的ストレス貧困・家庭内暴力・親のうつ病・物質依存などは養育者の応答感受性を低下させ、不安定愛着のリスクを高める。
  • 複数の愛着対象子どもは母親だけでなく、父親・祖父母・保育士など複数の愛着対象を持てる。それぞれとの関係は独立した愛着パターンを持ちうる。
安定型(B型)

安定型愛着(B型)の詳細

安定型(B型)は、最も健全な愛着パターンとされています。SSPにおける典型的な行動は以下の通りです。

🧭
探索場面
母親を「安全基地」として積極的に環境を探索する。時々母親のもとに戻り、またおもちゃで遊ぶという往来が見られる。
👀
ストレンジャー登場
母親がいれば、見知らぬ人にも比較的友好的に接する。母親がいない状況ではより慎重になる。
😢
分離場面
母親の退室時に不安を示すことが多い(泣く・探すなど)。ただし過度に激しい反応ではない。
🤗
再会場面
母親が戻ると積極的に近づき、求められれば抱っこを受け入れ、数分以内に安心して再び探索行動に戻る。抵抗や無視は見られない。

安定型を育む養育者の特徴として、エインズワースらは以下を挙げています。

  • 感受性の高さ子どもの泣き・笑い・ぐずり・視線などのシグナルに気づき、適切に応答する。
  • 一貫性子どものニーズへの応答が、日によって・状況によって大きく変動せず、予測可能である。
  • 受容性子どもの感情や行動を批判せず、ありのままに受け入れる。
  • 協調性子どものペース・リズムに合わせた相互作用ができる。一方的に押しつけるのではなく、子どもと「一緒に」動く感覚。
💡
「完璧」より「修復できる」養育研究では、安定型を育む親子関係においても失敗した相互作用(子どものシグナルを読み間違える・応答が遅れるなど)が全体の30〜40%あっても、その後に修復(Repair)が行われていることが示されています。「完璧な養育」よりも「修復できる養育」が安定型を育みます。

長期的な影響として、乳幼児期に安定型愛着を形成した子どもは、その後の発達において多くの優位性を示すことが縦断研究で示されています。

🤝
社会的コンピテンス
友人との良好な関係構築、集団への適応、協力行動が高い。
💗
情緒調節
怒り・不安などの否定的感情をより効果的に調節できる。
📚
探索・学習意欲
知的好奇心が高く、困難な課題に対しても粘り強く取り組む傾向がある。
🌟
自己概念
より肯定的な自己概念(自己肯定感)を持つ傾向がある。
🌱
レジリエンス
逆境・ストレスに対してより回復力(レジリエンス)が高い。
🧠
精神的健康
不安障害・うつ病などの精神疾患のリスクが相対的に低い。
回避型(A型)

回避型愛着(A型)の詳細

回避型(A型)は、表面上は「手がかからない子ども」に見えることがあります。しかし、その背後には愛着ニーズを抑制する戦略が存在します。

🎮
探索場面
母親があまり「安全基地」として機能していない。おもちゃに集中し、母親のもとへ戻ることが少ない。
😶
分離場面
母親の退室にほとんど反応を示さない。泣かない・探さない・遊び続ける。表面上は「平気そう」に見える。
再会場面
母親が戻っても、近づかない・無視する・視線をそらす。母親が近づいてきても体を反らす・接触を避けるなどの回避行動を示す。
🤷
ストレンジャーへの反応
ストレンジャーと母親を同様に扱う傾向がある。愛着の選択性が弱く見える。
🔬
行動と生理の解離回避型の子どもは「平気そう」に見えながらも、心拍数・コルチゾール(ストレスホルモン)の測定では高い生理的ストレス反応を示すことが明らかにされています。これは、回避型の子どもが愛着ニーズを行動レベルでは抑制しているが、生理的レベルでは活性化していることを意味します。

養育スタイルとして、回避型愛着は養育者が感情的な親密さを一貫して拒絶または最小化してきた養育経験から生じることが多いとされています。

  • 感情表現への否定的反応子どもが泣いたり、抱っこを求めたりしても、一貫して拒絶・無視・「泣き止みなさい」などの否定的反応をする。
  • 感情的な距離感身体的な世話はするが、感情的な交流・スキンシップが少ない養育スタイル。
  • 自立の強制「泣くのは弱い」「自分でできるはず」など、子どもが依存・近接を求める行動を不適切なものとして扱う。

このような環境の中で、子どもは「愛着ニーズを表現すると拒絶される」という経験を繰り返し、「愛着ニーズを抑制する」ことが養育者との関係を維持するための最良の戦略であることを学びます。回避型は「不適応」ではなく、その環境に適応した「最善の戦略」と理解されます。

長期的な影響

🔒
感情の抑制
感情、特にネガティブな感情(不安・悲しみ・依存欲求)を認識・表現することが困難な傾向。
🚪
親密さの回避
大人になってからも、親密な関係において感情的な距離を置く傾向。「一人が楽」「人に頼りたくない」という感覚。
💪
過剰な自立性
助けを求めることへの抵抗。問題を一人で抱え込みやすい。
🌫
感情表現の乏しさ
怒りは相対的に表現されやすい一方、悲しみ・不安・依存などの「脆弱な感情」の表現が困難。
💼
職場での強み
タスク指向で感情に左右されにくく、高い独立性を発揮することができる場面もある。
抵抗型(C型)

抵抗型(アンビバレント型)愛着(C型)の詳細

抵抗型(C型)はアンビバレント型とも呼ばれ、養育者に対して「近づきたいが、近づくと傷つく」という矛盾した感情を持つ愛着パターンです。

📍
探索場面
母親を「安全基地」として安心して探索することができない。常に母親のそばにいようとし、探索行動が制限される。
😭
分離場面
母親の退室時に非常に強い苦痛を示す(激しく泣く・パニックになるなど)。ストレンジャーによる慰めにはほとんど応じない。
😡
再会場面
母親が戻ると近接を強く求めながらも、同時に怒りや抵抗を示す(蹴る・たたくなど怒りを示しながらも離れない)。母親が抱っこしても安心せず、泣き続ける。探索行動に戻ることができない。

この矛盾した行動(近接追求と抵抗の共存)が「アンビバレント(両価的)」という名称の由来です。養育者への怒りを持ちながらも、離れることもできない——この葛藤が行動に表れています。

養育スタイルとして、抵抗型愛着は養育者の応答が一貫していない(予測不可能な)養育経験から生じることが多いとされています。

  • 気分や状況による応答の変動同じ子どもの泣きに対して、ある時は素早く応答するが、別の時には無視する。あるいは過剰に反応することもある。
  • 養育者の感情・心理状態の影響養育者自身が不安・うつ・ストレスを抱えている場合、子どもへの応答が一貫しなくなりやすい。
  • 過干渉と放置の繰り返し子どものニーズとは無関係に、時に過剰に関与し、時に無関心になるパターン。

このような環境では、子どもは「今度はいつ応答してもらえるだろうか?」という不安が慢性化し、愛着システムを常に高い活性化状態に保つことが「応答を引き出すための最善の戦略」となります。愛着ニーズを強く表現し続けることで、不一致な応答者からも確実に応答を引き出そうとするのです。

長期的な影響

😨
見捨てられ不安
大人になってからも、関係の中で見捨てられることへの強い不安・恐れを持つ傾向。
🔥
感情の過活性化
ストレス状況でネガティブ感情が過剰に活性化し、調節が困難になりやすい。
🪢
依存性の高さ
重要な他者への強い依存欲求と、依存することへの恐れが共存する。
🌪
関係の不安定性
親密な関係において、相手のちょっとした言動に敏感に反応し、関係が不安定になりやすい。
🪞
自己像の不安定さ
自己肯定感が低く、状況によって大きく揺れ動く傾向がある。
無秩序型(D型)

無秩序型愛着(D型)の詳細

無秩序型(D型)は、1986年にメアリー・メインとジュディス・ソロモンによって発見・記述された第4の愛着タイプです。A型・B型・C型がそれぞれ一貫した「組織化された(organized)」愛着戦略であるのに対し、D型は一貫した戦略を持たない「非組織化された(disorganized/disoriented)」愛着パターンです。

無秩序型の子どもは、再会場面において特徴的な行動を示します。

フリーズ(凍りつき)
動作を突然停止し、数秒間その姿勢のまま固まる。
矛盾した動作
母親に近づきながら頭を背ける、接触を求めながら顔を覆うなど、矛盾したシーケンスの行動。
🌀
方向感の喪失
目的なく部屋をさまよう、ぐるぐると円を描いて歩くなど。
😱
恐怖反応
養育者の接近に対して明らかな恐怖・パニック反応を示す。
💭
解離的な行動
ぼんやりした表情・トランス状態のような振る舞い。
⚠️
「解決不可能な怖れ」メインとヘッセ(Hesse)は、無秩序型愛着の成因を「解決不可能な怖れ(Fright Without Solution)」として説明しています。通常、子どもが不安を感じたとき、愛着システムは「安全基地である養育者に近づく」という行動を動機づけます。しかし、その養育者自体が怖れの源泉であるとき——この矛盾は解決不可能です。「近づくべき相手」が同時に「怖れの源泉」であるため、どちらの行動システムも完全に機能できず、行動が崩壊(disorganize)します。
  • 身体的虐待・性的虐待養育者による虐待は最も直接的な無秩序型の原因。
  • 恐怖を感じさせる養育者の行動虐待に至らなくても、突然大声で怒鳴る・脅すような目で見る・子どもの前でパニックになるなど。
  • 養育者自身の解離や未解決のトラウマ養育者が自分自身の過去のトラウマ(特に喪失や虐待)を未解決のまま持ちこんでいる場合、子どもの前で突然怖い表情をしたり・解離したりすることがある。
  • 育児放棄(ネグレクト)応答がまったくない状態も、ある種の恐怖を引き起こしうる。

長期的な影響として、無秩序型愛着は、その後の発達・メンタルヘルスに最も深刻な影響を及ぼす愛着タイプとされています。

💨
解離傾向
ストレス状況で現実感の喪失・離人症状・記憶の空白などの解離症状が生じやすい。
🌋
情緒調節の困難
強烈な感情状態(極度の怒り・パニック・恐怖)が生じやすく、調節が困難。
🌪
対人関係の混乱
「近づきたい・でも怖い」という根本的な矛盾が対人関係全般に影響し、人間関係が不安定になりやすい。
精神疾患リスクの増加
解離性障害・PTSD・境界性パーソナリティ障害・うつ病などの精神疾患との関連が示されている。
🔁
世代間伝達のリスク
無秩序型愛着を持つ人が親になったとき、未解決のトラウマが子どもの養育に影響し、同様のパターンが次世代に伝達されるリスクがある。
INTERNAL WORKING MODELS

内的作業モデルとは何か

ストレンジ・シチュエーション法で測定された愛着パターンの背景には、ボウルビィが提唱した「内的作業モデル」があります。これは他者・自己・関係についての内的な表象です。

定義

内的作業モデルの定義

ボウルビィは愛着パターンの背景を「内的作業モデル(Internal Working Models: IWM)」という概念で説明しました。内的作業モデルとは、乳幼児が養育者との相互作用経験を通じて構築する、「他者」と「自己」と「関係」についての内的な表象(メンタルモデル)です。

  • 他者についてのモデル「他の人は信頼できるか?必要なときに応答してくれるか?」
  • 自己についてのモデル「自分は愛され、助けてもらえる価値のある存在か?」
  • 関係についてのモデル「関係とはどのようなものか?近づくと傷つく?関係は予測可能か?」

安定型愛着を形成した子どもは「他者は基本的に信頼でき、自分は愛してもらえる価値がある」というポジティブな内的作業モデルを発達させます。一方、不安定型愛着の子どもはそれぞれのパターンに応じた歪んだ内的作業モデルを持ちます。

機能

内的作業モデルの機能

内的作業モデルは、単なる「過去の記憶」ではありません。それは新しい関係・状況に直面したときに、どのように反応するかを方向づける「フィルター」として機能します。

  • 情報処理の方向づけ他者の行動を解釈するとき(「この人は怒っているのか、心配しているのか」など)、内的作業モデルがフィルターとして働く。
  • 感情反応の方向づけ特定の対人状況(拒絶されそう・助けを求めたい・信頼していいかわからないなど)での感情的反応に影響する。
  • 行動の方向づけ新しい関係においてどのように振る舞うか(近づく・距離を置く・試すなど)を方向づける。
  • 予期の形成「次はこうなるだろう」という予期的な認知の形成に影響する。
安定性と変化

内的作業モデルの安定性と変化可能性

内的作業モデルは、生後6ヶ月〜2歳頃に基本的なパターンが形成されますが、固定されたものではなく、後の経験によって変化する可能性があります。

  • 安定性縦断研究では、乳幼児期の愛着タイプが学童期・青年期でも維持される場合が多い(メインの研究では60%の継続性が報告されている)。
  • 変化の可能性重要な関係経験(安定した愛着関係を持つ新たな重要他者との出会い、良好な治療関係など)によって内的作業モデルは修正されうる。
  • ライフイベントの影響喪失・離婚・虐待・重大なトラウマなどのネガティブなライフイベントは、安定型から不安定型への変化を引き起こすことがある。
  • 心理療法の効果愛着に着目した心理療法(愛着ベースの認知行動療法・精神分析的心理療法・EMDR等)によって、内的作業モデルの修正が可能であることが示されている。
愛着は固定された運命ではなく、人生を通じて修正可能な「働きかけられる」モデルなのです。
ADULT ATTACHMENT

愛着スタイルが大人の人間関係に与える影響

1980年代以降、愛着理論は成人の対人関係・恋愛関係・精神的健康に応用される研究が急速に発展しました。乳幼児期の4タイプは成人版に対応します。

成人愛着の測定

成人愛着研究の発展

成人の愛着を測定するための主な手法として、以下が開発されました。

  • 成人愛着面接(Adult Attachment Interview: AAI)メアリー・メインらが開発した半構造化面接。子ども時代の愛着経験をどのように語るかの「語り方のスタイル」によって愛着表象を評価する。乳幼児期のSSPと対応する愛着タイプを予測することが示されている。
  • 親密関係体験尺度(ECR)ブレナン、クラーク、シェイヴァーらが開発した自己報告式の尺度。「回避次元」と「不安次元」という2軸で成人の愛着スタイルを測定する。

成人愛着研究においては、乳幼児期の4タイプ(安定型・回避型・抵抗型・無秩序型)は、成人の愛着スタイルとして「安定型」「不安型(プリオキュパイド型)」「回避型(ダイスミッシング型)」「未解決型/恐れ回避型」に対応するとされています。

恋愛・パートナーシップ

恋愛・パートナーシップへの影響

愛着スタイルは、恋愛関係の様相に深く関与しています。心理学者シンディ・ハザンとフィリップ・シェイヴァーは、成人の恋愛関係が乳幼児期の愛着と類似した心理的プロセスを含むことを1987年の研究で示しました。

安定型
安定した信頼関係
安定した信頼関係を築きやすい。適切な自立と親密さのバランス。感情を率直に表現できる。代表的な悩み:相対的に問題は少ない。ただし相手が不安定型の場合に関係が難しくなることがある。
回避型(ダイスミッシング)
親密さの回避
親密さを回避し、感情的な距離を置く。コミットメントへの抵抗。「一人が好き」という感覚。代表的な悩み:「冷たい」「心を開いてくれない」と言われる。パートナーとの感情的なつながりが希薄に感じられる。
不安型(プリオキュパイド)
見捨てられ不安
見捨てられ不安が強い。過度の確認・連絡。嫉妬しやすい。相手に「もっとそばにいてほしい」という欲求。代表的な悩み:「重い」「束縛が強い」と言われる。パートナーの言動に過剰反応してしまう。
恐れ回避型(未解決型)
矛盾した感情
近づきたいが近づくのが怖い。関係に対する強い矛盾した感情。トラウマが関係に侵入しやすい。代表的な悩み:関係のパターンが不安定で、相手も本人も疲弊しやすい。トラウマ治療が必要なことがある。
職場・友人・親子

職場・友人関係・親子関係への影響

愛着スタイルの影響は恋愛に限らず、あらゆる対人関係に及びます。

  • 職場での人間関係回避型の人は過剰な自立性から助けを求めることが苦手で、孤立しやすい。不安型の人は上司・同僚の評価に過敏で、ちょっとした批判に強く傷つく。安定型は協力的でチームへの適応力が高い。
  • 友情・社会的サポートの活用安定型は社会的サポートを適切に求め活用できる。回避型は支援を求めることが苦手で、精神的危機時に孤立するリスクがある。
  • 親としての役割(養育者としての愛着)自分自身の愛着スタイルが、子どもへの養育スタイルに影響する(世代間伝達)。しかし、AAIで「自律型」と分類された成人は、自身が不安定な愛着を持っていても安定型の子どもを育てられることが示されている(earned security:獲得された安定)。
  • メンタルヘルスサービスの利用回避型の人は専門家への助けを求めることに強い抵抗感を持ちやすく、精神的問題が深刻化してから受診することがある。
ATTACHMENT DISORDER

愛着障害とストレンジ・シチュエーション法

愛着障害は、乳幼児期に安定した愛着関係を形成できなかったために生じる、対人関係や情緒調節の重大な困難を特徴とする状態です。DSM-5での分類と、臨床現場での連続的理解を解説します。

DSM-5での分類

愛着障害とは何か

愛着障害(Attachment Disorder)は、乳幼児期に安定した愛着関係を形成できなかったために生じる、対人関係や情緒調節の重大な困難を特徴とする状態です。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、愛着障害として以下の2つが分類されています。

反応性愛着障害(RAD)
過度に内向きで、大人からの慰めに応答しない。社会的な関与の著しい障害。ネグレクトや施設育ちに多く見られる。
脱抑制型対人交流障害(DSED)
見知らぬ大人に対して過度に親しみやすく、社会的境界が欠如している。「誰にでも抱きついてしまう」「見知らぬ人についていってしまう」といった行動。

これらの愛着障害は、単に不安定な愛着(ストレンジ・シチュエーション法で測定される愛着タイプ)とは区別されます。愛着障害は、養育者の深刻な不在や虐待・ネグレクトという極端な状況への適応として生じるより深刻な状態です。

スペクトラム的理解

愛着障害のスペクトラム的理解

臨床現場では、DSMの診断基準を満たすほどの愛着障害には至らないものの、乳幼児期の養育環境の影響から、対人関係・情緒調節・自己概念に困難を持つ人が多くいます。こうした状態は「愛着の問題」「愛着の傷」などと呼ばれ、以下のような形で現れることがあります。

  • 他者を信頼することが極めて困難
  • 強い見捨てられ恐怖と、見捨てられを回避するための激しい怒り
  • 自己像の不安定さ・慢性的な空虚感
  • 対人関係の急激な変動(理想化と脱価値化の繰り返し)
  • 解離症状・自傷行為・衝動制御の問題

これらの特徴は、境界性パーソナリティ障害(BPD)・複雑性PTSD(Complex PTSD)・解離性障害などとも重複することがあり、愛着の視点からのアセスメントと治療が重要とされています。

大人のメンタルヘルス

大人の愛着障害の理解とメンタルヘルス

成人において「愛着障害」「愛着の問題」が認識・診断・治療されることは、まだ十分に普及しているとはいえません。しかし、うつ病・不安障害・対人関係の慢性的な困難・依存症・摂食障害・自傷行為などの背景に、乳幼児期の愛着経験が深く関与していることは、多くの研究によって示されています。

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精神科・心療内科を受診する際、または心理カウンセリングを受ける際には、現在の症状だけでなく、幼少期の養育環境・重要な人間関係の歴史についての丁寧なアセスメントが、適切な治療法の選択に役立ちます。
CULTURE & CRITIQUES

文化差と批判的論点

SSPは西洋の文化的文脈で開発されたため、異なる文化圏での適用には慎重さが求められます。方法論的・倫理的な批判も整理しておく必要があります。

文化差

文化差の問題

ストレンジ・シチュエーション法は西洋(主にアメリカ・イギリス)の文化的文脈で開発されたため、異なる文化圏への適用に際しては慎重さが求められています。実際、複数の研究でタイプごとの出現率に文化間差異が見られています。

米国(基準)
B型:約65% / A型:約22% / C型:約12%
エインズワースの原典研究の基準値
ドイツ
B型:約57% / A型:約35% / C型:約8%
回避型が多い。自立を重んじる養育文化の影響と解釈される
日本
B型:約68% / A型:約5% / C型:約27%
回避型が少なく抵抗型が多い。母子密着型育児が多く、分離場面が通常より強いストレスを与えるためと解釈される
イスラエル(キブツ)
B型:約56% / A型:約20% / C型:約33%
抵抗型が多い。集団養育環境や夜間の分離の影響と解釈される
日本での研究では、母子分離の経験が少ない養育環境(専業主婦家庭・添い寝文化など)では、実験室での「母親の退室」が通常より強いストレスを与え、見かけ上「抵抗型」と分類される割合が高くなると解釈されています。これは、抵抗型の子どもが「不健全」ではなく、単に「その文化的文脈での通常の分離経験の少なさ」を反映している可能性があります。
方法論的批判

方法論的批判

ストレンジ・シチュエーション法に対しては、方法論的観点からもいくつかの批判があります。

  • 実験室環境の人工性実験室という非自然な環境での20分間の観察が、日常的な母子関係を正確に反映しているかどうかという疑問。ただし、エインズワース自身の家庭観察研究との一致は相当程度示されている。
  • 母親のみの観察当初は母親との関係のみを測定していた。父親や他の愛着対象との関係も独立して測定する必要があることが後の研究で示されている。
  • 年齢制限SSPは主に生後12〜18ヶ月を対象に開発されており、他の年齢層への適用には修正が必要。
  • タイプ分類の過度の単純化愛着パターンを4つのカテゴリに分類することは、実際のスペクトラム的な変異を捉えきれない可能性がある。
  • 気質の交絡子どもの生来の気質(神経質さ・反応性)が、分離場面でのストレス反応の強さに影響し、愛着タイプの分類に影響している可能性がある。
倫理的議論

倫理的な議論

ストレンジ・シチュエーション法には倫理的観点からの批判もあります。

  • 乳幼児へのストレス分離場面で子どもが明らかな苦痛を経験することへの懸念。現在のプロトコルでは過度の苦痛を示した場合の中断手順が定められている。
  • ラベリングの問題「回避型」「無秩序型」などのラベルが親や子どもへの否定的な視点につながりうることへの懸念。とりわけ「無秩序型」という分類は、養育の深刻な問題を示唆するため、慎重な使用が求められる。
  • 専門家以外への不適切な普及愛着タイプに関する情報がSNS等で広まる中で、適切な訓練なしに「あなたは回避型だ」などのレッテル貼りが行われることへの懸念。
CHANGE & SUPPORT

愛着スタイルは変えられるか——治療と支援

愛着スタイルは変化可能であることが、繰り返し研究で示されています。「獲得された安定(Earned Security)」という重要な概念とともに、治療法と日常生活の実践を紹介します。

獲得された安定

変容の可能性——「獲得された安定」

研究では愛着スタイルは変化可能であることが繰り返し示されています。特に重要な概念が「獲得された安定(Earned Security)」です。これは、子ども時代に不安定な愛着を経験したにもかかわらず、後の人生において安定した愛着表象を獲得した状態を指します。メアリー・メインらの研究では、成人愛着面接において「自律型(安定型に相当)」と分類された人の中に、子ども時代に苦しい愛着経験を持ちながらもそれを一貫した語りとして整理できている人がいることが見出されました。

🩺
良好な治療関係
心理療法・カウンセリングにおける治療者との安定した関係経験が内的作業モデルの修正につながる。
💞
安定したパートナー関係
安定型の愛着スタイルを持つパートナーとの長期的な良好な関係が、不安定型の愛着スタイルを変容させうる。
👩‍🏫
安定した師・メンター関係
学校の先生・恩師・先輩など、子ども時代以外の重要な他者との安定した関係も変化を促す。
🧠
自己理解・自己探求
自分の愛着パターンを理解し、その起源を振り返り、現在の対人関係への影響に気づくプロセス自体が変化を促進する。
心理療法

愛着に焦点を当てた心理療法

愛着の問題に対応するための心理療法には、以下の6つの主要なアプローチがあります。

CBT
愛着ベースの認知行動療法
不安定愛着に基づく認知(「他者は信頼できない」「自分は愛されない」など)の同定と修正を行う。行動実験を通じて新たな対人経験を積む。
認知再構成
DBT
弁証法的行動療法
境界性パーソナリティ障害(しばしば愛着の問題と関連)に対して開発された療法。感情調節・対人有効性・苦悩耐性・マインドフルネスのスキルを習得する。
スキル習得
SCHEMA
スキーマ療法
幼少期の経験から形成された「スキーマ(ネガティブな中核的信念)」に働きかける療法。愛着の問題から生じたスキーマを同定し、再処理する。
中核的信念
EMDR
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
愛着に関連したトラウマ記憶の再処理に効果的。無秩序型愛着と関連した虐待・ネグレクトのトラウマに対して有効。
トラウマ処理
PSYCHO
愛着ベースの精神分析的心理療法
治療者との関係そのものを「修正的情緒体験(Corrective Emotional Experience)」として活用し、内的作業モデルの変容を目指す。
修正的情緒体験
SOMA
身体志向アプローチ(ソマティック療法)
愛着のトラウマは身体感覚・自律神経系にも保存されているという観点から、身体感覚への気づきを通じた治療を行う。
身体感覚
日常生活

日常生活でできること

専門的な心理療法に加え、日常生活の中でも愛着スタイルの修正を支援する実践があります。

  • 自分の愛着パターンに気づく:「私はなぜこういう状況で不安になるのか?」「このパターンはどこから来ているのか?」と問いかける習慣
  • 安全な関係を育てる:信頼できる友人・家族・パートナーとの関係を大切に育てる。安心感を感じられる関係を積み重ねることが内的作業モデルの修正に役立つ
  • 感情に名前をつける練習:特に回避型の人は感情の認識が苦手なことが多い。「今、私は何を感じているのか?」を問いかける日記・マインドフルネスの実践
  • 自己開示の練習:小さな自己開示から始め、段階的に他者との感情共有の経験を積む
  • セルフ・コンパッション(自己への思いやり):自分の愛着パターンを「ダメなこと」として批判するのではなく、「そうせざるを得なかった過去があった」と理解し、自分に優しく接する
相談すべきサイン

専門家に相談すべきサイン

以下のような状態が続いている場合は、心理士・精神科医・心療内科医への相談を検討することをお勧めします。

  • 対人関係のパターンが繰り返し同じ形で壊れる(特定のタイプの人を引きつける・同じ別れ方を繰り返すなど)
  • 見捨てられることへの強烈な恐怖から、衝動的な言動や自傷行為が生じている
  • 誰も信頼できず、孤立感が慢性化している
  • 過去の養育経験に関する強いフラッシュバック・悪夢が続いている
  • 感情のコントロールが著しく困難で、日常生活・仕事・関係に支障が出ている
💡
自立支援医療制度(精神通院医療)について愛着の問題・愛着障害に関連したうつ病、不安障害、複雑性PTSD、境界性パーソナリティ障害などで精神科・心療内科への継続通院が必要な場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を申請することで、医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。申請窓口は市区町村の福祉担当部署です。詳細は最寄りの精神保健福祉センターにお問い合わせください。
FOR CAREGIVERS

子育てと愛着形成——養育者へのメッセージ

ストレンジ・シチュエーション法の知見は、子育てに直接的な示唆を与えます。家庭の養育者・保育者・教育者すべてに向けた重要なメッセージをまとめます。

重要なメッセージ

愛着形成において本当に重要なこと

SSPの知見が示す、最も重要な4つのメッセージです。

  • 「完璧な養育」は必要ない安定型愛着を育む親子関係においても、コミュニケーションの失敗は30〜40%あります。大切なのは失敗そのものではなく、その後の修復(rupture and repair)です。
  • 量よりも質一緒にいる時間の長さよりも、一緒にいる時間の質(子どものシグナルへの感受性・応答性)が愛着の安定性を決定します。
  • 子どものシグナルに注目する子どもが何を感じているか、何を求めているかに敏感であることが最も重要です。「泣かせておけばいい」「すぐ抱っこすると甘える」という考え方よりも、子どもの状態に応じた柔軟な応答が安定型につながります。
  • 感情の受容と名前づけ子どもの感情を「よくないこと」として否定せず、「悲しかったんだね」「怖かったね」と感情を言語化して受け取ることが、子どもの情緒発達・情緒調節の基礎を作ります。
養育者のメンタルヘルス

養育者自身のメンタルヘルスの重要性

子どもの愛着形成において、養育者自身のメンタルヘルス状態は極めて重要な要因です。

  • 産後うつとの関係産後うつは養育者の応答感受性を低下させ、子どもとの相互作用の質に影響する。産後うつの早期発見・治療が子どもの愛着形成の保護因子となる。
  • 養育者自身の愛着の問題自分自身が不安定な愛着を持つ養育者は、その影響が子どもに伝達されるリスクがある。しかし、心理療法などによって自分の愛着問題に取り組むことで、このリスクを低減できることが示されている(「反省的機能(Reflective Functioning)」の向上)。
  • 慢性的なストレス・孤立育児中の慢性的なストレス・孤立・サポート不足は養育の質を低下させる。社会的サポートの充実が子どもの愛着形成を間接的に支援する。
  • 自分を責めないこと子どもの愛着の問題を知った養育者が極度の自己批判に陥ることがある。責任を感じることは大切ですが、過度の自己批判は養育者のメンタルヘルスを悪化させ、結果的に子どもの助けにもなりません。
保育・教育現場

保育・教育現場での愛着の重要性

愛着形成は家庭内だけの問題ではありません。保育士・幼稚園教諭・学校教員・スクールカウンセラーなど、子どもに関わるすべての専門職において愛着の知識は重要です。

  • 「安全基地」としての保育者・教師保育者・教師は家庭外での愛着対象となりうる。特定の保育士との安定した関係は、家庭での不安定愛着の補完的機能を果たすことができる。
  • 不安定型愛着を持つ子どもへの理解回避型の子どもの「手がかからなさ」・抵抗型の子どもの「わがまま」・無秩序型の子どもの「問題行動」を単なる性格特性ではなく、愛着の戦略として理解することで、より適切な支援が可能になる。
  • 虐待の早期発見無秩序型の特徴的な行動(フリーズ・解離的な行動・養育者への恐怖反応)の理解は、虐待の早期発見・通報において重要な知識となる。
  • スクールカウンセラーの役割学校内で安定した関係を提供できるスクールカウンセラーの存在は、特に家庭環境が不安定な子どもにとって重要な「安全基地」となりうる。
家庭の外の安定した大人との関係も、子どもにとって大切な「安全基地」になりえます。SSPの知見は、社会全体で子どもを支える視点を私たちに与えてくれます。
FAQ

よくある質問

ストレンジ・シチュエーション法と愛着について、よく寄せられる8つの質問にお答えします。

FAQ

ストレンジ・シチュエーション法に関するQ&A

Q. ストレンジ・シチュエーション法は何歳の子どもに使われますか?

A. ストレンジ・シチュエーション法は主に生後12〜18ヶ月(1歳〜1歳半頃)の乳幼児を対象に開発・標準化されています。この時期は愛着が明確に形成されており(特定の愛着対象への選択的愛着が確立)、かつ「見知らぬ人不安(人見知り)」が発達的に顕著な時期でもあるため、分離と再会への反応が明瞭に観察できます。2歳以降の幼児期・学童期には修正版が使用されることがありますが、原型のSSPは主に1歳前後を対象とするものです。

Q. 自分がどの愛着スタイルか知りたいのですが、どうすればわかりますか?

A. 成人の愛着スタイルを専門的に測定するには、訓練を受けた専門家による成人愛着面接(AAI)が最も信頼性が高いとされています。しかし、これは一般には容易に受けられる検査ではありません。より手軽な方法として、親密関係体験尺度(ECR)などの自己報告式の愛着スタイル尺度をインターネット上で試すことができます。ただし、これらは参考程度のものであり、診断的意味を持つものではありません。自分の愛着パターンを深く理解したい場合や、対人関係に深刻な困難がある場合は、心理士(公認心理師・臨床心理士)によるカウンセリングを受けることをお勧めします。

Q. 愛着スタイルは変えられますか?生まれつき決まっているのですか?

A. 愛着スタイルは生まれつき決まっているものではありません。乳幼児期の養育者との相互作用経験によって形成されますが、その後の人生経験によって変化する可能性があります。重要な研究として、成人愛着面接の「自律型(安定型相当)」の人の中には、子ども時代に不安定な愛着を経験したにもかかわらず、後に安定した愛着表象を獲得した「獲得された安定(Earned Security)」のケースがあることが示されています。心理療法・良好なパートナー関係・安定した師との出会いなどが変化を促進することが研究で示されています。

Q. 「回避型」と分類されましたが、これは悪いことですか?

A. 愛着タイプは「良い・悪い」ではなく、それぞれの養育環境に適応した「戦略」と理解されます。回避型は、感情的な応答が一貫して得られない環境の中で、「愛着ニーズを抑制することで養育者との関係を維持する」最善の戦略を発達させた結果です。ただし、成人になってから、その戦略が対人関係・精神的健康・ストレス対処に困難をもたらしていると感じるなら、変化を目指すことは可能であり、心理療法が有効です。自分を「欠陥品」として見るのではなく、過去の経験への理解と、現在から変化を選択できるという視点が助けになります。

Q. 子どもが無秩序型に分類されました。親としてどうすればいいですか?

A. まず、無秩序型の分類は「親が悪い」という判断ではありません。無秩序型の子どもを持つ親も、しばしば自分自身の未解決のトラウマや困難な状況と戦っていることが多いのです。最も重要なのは、今から何ができるかに焦点を当てることです。専門的な支援として、①子ども自身への遊戯療法・愛着療法、②親子関係への介入(ビデオフィードバックを使った養育感受性の向上プログラムなど)、③必要に応じて養育者自身の心理療法(特に親自身のトラウマの処理)が有効とされています。最寄りの児童相談所・精神保健福祉センター・発達支援センターなどに相談することをお勧めします。

Q. ストレンジ・シチュエーション法は日本でも使われていますか?

A. はい、日本でも発達心理学・臨床心理学の研究において広く使用されています。ただし、前述の通り日本での研究では抵抗型の出現率が高いことが報告されており、文化的文脈の考慮が必要とされています。日本では数馬重行・遠藤利彦ら多くの研究者が愛着研究を展開しており、日本の文化的文脈における愛着の理解が深まっています。臨床応用としては、乳幼児精神保健・発達支援・虐待防止の領域で活用されています。

Q. 愛着の問題でカウンセリングに行くのは大げさですか?

A. 決して大げさではありません。愛着スタイルが対人関係・精神的健康・自己肯定感・感情調節に与える影響は非常に大きく、「なぜいつも同じ問題が繰り返されるのだろう」「なぜ人との関係がこんなに辛いのだろう」という疑問の背景に愛着の問題があることは珍しくありません。カウンセリング・心理療法はこうした問題に取り組む上で非常に有効なアプローチです。もし経済的な理由で専門家への相談をためらっている場合は、精神保健福祉センターでは無料の相談が受けられます。また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで精神科・心療内科への通院の医療費が軽減される場合があります。

Q. 「愛着が薄い」と「愛着障害」は同じですか?

A. 同じではありません。「愛着が薄い(不安定愛着)」とは、ストレンジ・シチュエーション法などで測定される愛着タイプが安定型でない状態を指します。一方、「愛着障害(反応性愛着障害・脱抑制型対人交流障害)」はDSMに規定された精神疾患の診断名で、深刻なネグレクト・虐待・養育者の不在という極端な状況への適応として生じるより重篤な状態です。不安定愛着は成人人口の約35〜40%に見られると言われる一般的なバリエーションですが、愛着障害は比較的稀です。ただし、臨床的には両者が連続的に存在し、境界を明確に引くことが難しい場合もあります。

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自立支援医療制度(精神通院医療)愛着障害・うつ病・不安障害・PTSDなどで精神科・心療内科に継続通院する場合、医療費の自己負担が原則1割に軽減。市区町村の福祉担当窓口または精神保健福祉センターに申請

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。

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