メンタルヘルス用語辞典 · 吃音

吃音(どもり)とは?
原因・症状・治療と支援をわかりやすく解説

吃音は音の繰り返し・引き伸ばし・発話のブロックが繰り返される発話障害です。世界人口の約1%が持つ一般的な状態であり、神経学的・遺伝的な素因があります。「緊張のせい」「努力が足りない」は誤解です。原因・治療・日常のヒント・周囲のサポートを解説します。

ABOUT

吃音(どもり)とは

吃音は言葉の流暢さが妨げられる発話障害です。「緊張のせい」「努力が足りない」という誤解が多いですが、神経学的・遺伝的な素因があることが明らかになっています。

基本情報

吃音の定義と特徴

吃音(きつおん、stuttering / stammering)は、言葉を流暢に話すことが困難な発話障害です。音・音節・語の繰り返し(連発)、音の引き伸ばし(伸発)、発話のブロック(難発)などの非流暢な発話が繰り返し生じる状態をいいます。

世界人口の約1%(約8,000万人)が吃音を持つとされ、日本では約120万人が該当します。男女比は成人では約4:1(男性に多い)で、幼少期に発症し青年期・成人期まで続く場合と、就学前に自然軽快する場合があります。

📋
DSM-5による診断基準(小児期発症流暢症)
  • 中核症状:音・音節の繰り返し、音の延長、発話のブロック、単語を避けた迂回表現など
  • 日常支障:学業・就業・社会的コミュニケーションへの支障がある
  • 発症:早期発達期(主に2〜5歳)に始まる
  • 除外:神経疾患・言語障害・他の医学的疾患によるものでない
「緊張すると吃音になる」は誤解吃音は緊張が「原因」ではありません。緊張によって症状が悪化することはありますが、一人で歌ったり・動物や乳幼児と話したり・役割演技(俳優)をすると流暢に話せる吃音者が多いことが、「心の問題」ではなく「発話神経回路の特性」であることを示しています。
症状のタイプ

吃音の3つの主要なタイプ

吃音の中核症状は、連発・伸発・難発の3タイプに分類されます。タブを切り替えてそれぞれの特徴を確認してください。

🔁連発(繰り返し)

例:「か・か・か・かさ」「あ、あ、あのね」

音や音節、語全体を繰り返す。吃音の中で最も頻繁に見られるタイプ。子どもに多く、言葉を出そうとするときに最初の音が繰り返される。

これらのタイプは単独で現れることもあれば、組み合わさって現れることもあります。また、吃音に伴って目をつぶる・顔をしかめる・手を叩くなどの随伴運動(二次行動)が見られることもあります。

疫学データ

吃音の有病率と経過

吃音は決して珍しい状態ではなく、世界・日本を問わず広く存在します。発症と自然軽快の傾向を数字で確認してみましょう。

約1%
成人の有病率(世界人口・日本では約120万人)
約5%
2〜5歳の幼児の発症率(多くは自然軽快)
70〜80%
就学前〜思春期までの自然軽快率
4:1
成人での男女比(男性に多い)
よくある誤解

吃音についての誤解を解く

吃音にまつわる社会的な誤解は、当事者を二重に傷つけます。よくある「誤解」と「事実」を並べて見ていきましょう。

誤解
「緊張するからどもる、精神的な問題」
事実:吃音の根本原因は神経学的・遺伝的なものです。緊張によって悪化しますが、一人でも・リラックスした状態でも吃音は起きます。
誤解
「努力すれば直る」
事実:吃音は意志や努力で制御できるものではありません。「頑張れ」という言葉は自己批判を強め逆効果です。専門的なアプローチが必要です。
誤解
「頭が悪いからどもる」
事実:吃音と知性・学力は全く関係ありません。高い知性を持ちながら吃音がある人は多数います。
誤解
「親の育て方が悪い」
事実:吃音は遺伝的・神経学的素因があり、親の育て方が原因ではありません。ただし環境が症状を増悪させる要因になりうることはあります。
誤解
「大人になれば自然に治る」
事実:成人しても続く吃音は自然に完治しないことが多いです。しかし、専門的な支援によって症状の軽減と生活の質の向上が十分に期待できます。
SYMPTOMS & IMPACT

吃音が及ぼす影響

吃音の影響は発話の非流暢さにとどまりません。心理的な苦痛・回避行動・社会参加の制限が、生活全体に大きく影響します。

心理・社会的影響

吃音がもたらす心理・社会的な影響

😰
予期不安と回避
「どうせどもる」という予期不安から、特定の言葉・場面・人との会話を避けるようになります。電話・名乗り・朗読・発表など、逃げられない場面への恐怖が高まります。回避すればするほど不安は増幅し、行動範囲が狭まる悪循環に陥ります。
😔
自己肯定感・自尊心の低下
「自分は話せない人間だ」「みんなと違う」という自己認識が定着することがあります。特に幼少期・学齢期に笑われた・からかわれた体験が深く傷つきとして残ります。成人してもその傷つきが対人関係・職業選択・恋愛に影響し続けることがあります。
🎓
学業・就業への影響
発表・グループ討議・口頭試問・就職面接・プレゼンテーションなど、言語を使う場面で不利益を被ることがあります。能力があるにもかかわらず、吃音を理由に就きたい仕事を諦めるケースも少なくありません。
👥
対人関係の困難
初対面の人との会話・電話・名乗り・自己紹介など、多くの社会的場面で強い緊張を感じます。「どもることを気にしているのが相手にバレる」「迷惑をかけている」という思いが人との交流を億劫にさせます。
🧠
二次的な心理的問題
吃音そのものより、吃音への不安・羞恥・自己批判が日常生活の質を大きく下げることがあります。社交不安障害・うつ病・社会的ひきこもりが合併するリスクが高まります。吃音の治療では、言語症状だけでなく心理的側面へのアプローチが重要です。
💼
職業・キャリアへの影響
教師・医師・弁護士・アナウンサーなど声を多く使う職業を断念するケースがあります。電話対応が必要な仕事・営業職など、言語使用が多い職種でのパフォーマンスへの影響も無視できません。キャリア支援では吃音への理解と合理的配慮が重要です。
特に難しい場面

吃音者が特に苦労しやすい場面

同じ吃音でも、場面によって出やすさ・苦しさは大きく変わります。多くの当事者が共通して挙げる「苦手な場面」を整理しました。

📞
電話
相手の顔が見えず、沈黙が「故障」に思われるかもという恐怖がある
🙋
自己紹介・名乗り
名前の最初の音が詰まりやすく、避けられない場面が多い
📢
発表・スピーチ
多人数の前で話す場面への強い予期不安
🏪
注文・レジでの会話
時間的プレッシャーの中での短い言葉のやりとり
👔
就職面接
「上手く話せなければならない」という強いプレッシャー
📖
音読・朗読
文字を音声化する際の特有の困難
「バリア」は吃音そのものより「恐れ」の方が大きい多くの吃音当事者が、「吃音自体より、吃音を恐れること・隠すことの方がずっと苦しかった」と語っています。症状の軽減と同時に、「どもっても話せる」という自己受容を育てることが、生活の質を大きく改善します。
CAUSES

吃音の原因

吃音は遺伝的・神経学的な素因を基盤とし、発達・環境・心理的要因が複合的に関与します。「心の弱さ」が原因ではありません。

主要因

吃音の主な原因メカニズム

吃音の原因は単一ではなく、複数の要因が重なって生じます。タブを切り替えて4つの要因カテゴリーを確認してください。

🧬遺伝子・神経学的基盤

吃音には強い遺伝的素因があることが明らかになっています。一親等以内に吃音者がいる場合、リスクは3〜4倍に上昇します。GNPTAB・GNPTG・NAGPA遺伝子の変異が吃音と関連することが示されており、リソソーム酵素の輸送に関わる遺伝子の異常が発話に関連する神経回路に影響している可能性があります。MRI研究では吃音者の脳において、言語産生に関わる左大脳半球の白質(弓状束など)の構造的異常、基底核・小脳の機能異常が報告されています。

  • GNPTAB・GNPTG・NAGPA遺伝子との関連
  • 左大脳半球白質(弓状束)の構造的差異
  • 基底核・小脳の機能異常
  • 一親等のリスクが3〜4倍
TREATMENT & SUPPORT

吃音の治療・支援

吃音の支援は「言語療法」「認知行動療法」「自助グループ」「合理的配慮」の組み合わせが中心です。「完治」より「豊かに生きる」ことを目標に。

治療・支援の選択肢

主な治療・支援アプローチ

🗣
言語療法(スピーチセラピー)
言語聴覚士(ST)による専門的な言語療法が最も重要な治療です。流暢性形成法(ゆっくり滑らかに話す練習)、吃音緩和法(吃音を緩和しながら話す技法:軽接触法・引き出し技法等)、総合的な吃音療法などのアプローチがあります。子どもには間接的アプローチ(親への指導・環境調整)が有効なことが多く、成人には吃音への向き合い方を含めた総合的な支援が重要です。
🧠
認知行動療法(CBT)
吃音そのものより、吃音への否定的な認知(「どもったら恥ずかしい」「話してはいけない」)と回避行動を標的とします。吃音を「恥ずかしいもの」から「自分の一部」として受け入れるプロセスを支援します。ACT(アクセプタンス・コミットメント療法)も吃音の心理的苦痛軽減に有効とされています。
👥
自助グループ・当事者コミュニティ
吃音のある人同士のつながりは、孤立感の解消・受容・社会参加の促進に非常に有効です。日本吃音臨床研究会・日本吃音・クラタリング協会・全国吃音者連絡協議会などが自助グループを運営しています。「自分だけではない」という気づきが回復の大きな力になります。
📱
テクノロジーを活用した支援
DAF(遅延聴覚フィードバック)装置・FAF(周波数変調聴覚フィードバック)装置は、自分の声を少し遅らせたり周波数を変えて聞くことで流暢性を高める補助機器です。スマートフォンアプリ(Speech Easy等)も利用可能です。根治的ではありませんが、特定の場面での補助として有効なことがあります。
「治す」より「共に生きる」という視点近年、吃音支援の方向性は「完治」から「吃音を持ちながら豊かに生きること(lived experience with stuttering)」へとシフトしています。吃音の有無にかかわらず、伝えたいことを伝えられる力・自己受容・社会参加を目指すことが現代の目標です。
よくある質問

吃音についてよくある疑問

Q吃音は治りますか?
A. 子どもの吃音は約70〜80%が成人になるまでに自然に軽快または消失します。ただし成人まで続く場合も多く、「完全に治る」ことを目標にするのではなく、「吃音があっても豊かに生活できる」ことを目指す考え方が主流になっています。言語療法・認知行動療法・自助グループなどの支援で、症状の軽減と生活の質の向上が期待できます。
Q何科を受診すればよいですか?
A. 言語聴覚士(ST)が在籍する病院・クリニック・リハビリテーション施設が主な相談先です。小児の場合は小児神経科・発達外来・小児科から言語療法に紹介されることが多いです。大人の場合は耳鼻咽喉科・精神科から紹介されることもあります。まずかかりつけ医に相談するか、言語聴覚士を直接探すことをお勧めします。
Q吃音のある人に「ゆっくり言って」は逆効果ですか?
A. 多くの吃音当事者にとって、「ゆっくり言って」「もう一度言って」という声かけは、「自分の話し方は問題だ」というメッセージに聞こえ、かえって緊張を高めます。最も良い対応は「話し終わるまでゆっくり待つこと」「内容に集中して聞くこと」です。
Q学校でからかわれています。どう対処すればいいですか?
A. 担任教師・スクールカウンセラーに速やかに相談することが重要です。吃音への無理解によるいじめ・からかいは、二次的な心理的傷つきをもたらし、症状を悪化させます。学校全体での吃音への理解啓発、クラスでの適切な対応についての指導が必要です。言語聴覚士や支援機関への相談も検討してください。
Q就職活動で吃音を開示すべきですか?
A. 開示するかどうかは本人の選択です。ただし、面接や業務での困難が予測される場合は、事前に開示して合理的配慮(電話対応の免除・発表形式の変更など)を求めることが可能です。障害者手帳が取得できる場合は障害者雇用枠の活用も選択肢になります。
DAILY TIPS

日常生活でできること

吃音のある方が日常生活の中で意識できる工夫をまとめました。「完璧に話す」より「伝えたいことを伝える」ことを目標に。

6つのヒント

日常で実践できる工夫

🌬
発話のペースを意識的に落とす
急いで話そうとすることが吃音を悪化させる主要な要因のひとつです。ゆっくり話すことを意識するだけで、症状が大幅に軽減されることがあります。ただし「ゆっくり話す」という意識自体がプレッシャーになる場合もあるため、自分に合ったペースを見つけることが大切です。
😤
吃音について「カミングアウト」する
「自分は吃音があります」と事前に伝えることで、どもったときの恥ずかしさが大幅に軽減されます。多くの吃音当事者が「カミングアウトしてから楽になった」と語っています。秘密にし続けることが予期不安を強め、症状を悪化させることがあります。
📝
メール・チャットを活用する
電話が苦手な場合、メール・LINE・チャットを積極的に活用しましょう。「電話ではなくメールで連絡してもよいですか?」と事前に伝えることは、吃音への合理的配慮の一環です。ただし、電話を完全に避け続けることが予期不安を強める面もあるため、バランスが重要です。
🧘
リラクゼーション・呼吸法を練習する
発話前の深呼吸・腹式呼吸・筋弛緩法が吃音の軽減に役立つことがあります。緊張した状態での発話は吃音を悪化させます。「話す前に一呼吸」という習慣を身につけることで、発話時の筋肉の緊張を和らげることができます。
💬
自助グループに参加する
同じ経験を持つ仲間との交流は、孤立感の解消・自己受容の促進・実践的なヒントの収集に大きな効果があります。「吃音があっても豊かに生きている人たちがいる」という事実を知ることが、自分の可能性に対する見方を変えるきっかけになります。
📚
吃音について正しく学ぶ
「吃音は緊張のせい」「努力が足りない」という誤解を払拭するために、吃音の正しい知識を身につけましょう。吃音は神経学的・遺伝的な素因があり、「性格や意志の問題」ではありません。この理解が自己肯定感の回復と社会的スティグマへの対処に役立ちます。
「どもっても話した」という経験が力になる回避を続けることは不安を強めます。「電話でどもってしまったが、ちゃんと用件が伝わった」という経験の積み重ねが、予期不安を少しずつ解消し、話すことへの自信を育てます。
関連する用語

あわせて知っておきたい関連概念

吃音は単独で生じるとは限らず、他のメンタルヘルス・発達課題と関連することがあります。理解を深める手がかりになる用語を紹介します。

場面緘黙社交不安障害ADHD言語障害発達障害認知行動療法自己肯定感
FOR FAMILY & SOCIETY

周囲の方へ

吃音のある人への適切な対応は、症状の緩和と心理的な回復に直接影響します。「上手く話せること」より「伝えようとしていること」に焦点を当ててください。

対応のポイント

してほしいこと・避けてほしいこと

✓ してほしいこと
  • 話し終わるまでゆっくり待つ(遮らない)
  • 目を見て、内容に集中する(流暢さではなく内容を聞く)
  • 「ゆっくり言って」「一度深呼吸して」などの修正を避ける
  • 吃音を「問題」として過度に取り上げない
  • 言語聴覚士(ST)に相談する
  • 吃音に関する正しい情報を学ぶ
  • 本人の話したいペースを尊重する
  • 学校・職場への相談・配慮依頼をサポートする
✗ 避けてほしいこと
  • 「ゆっくり言って」「もう一度言って」と何度も言う
  • 「落ち着いて」「深呼吸して」と言い続ける
  • 文を最後まで代わりに言ってしまう
  • どもったときに視線を外す・困った顔をする
  • 「直したいなら努力すれば直る」と思い込む
  • 兄弟・友達と比較する
  • 吃音をからかう・笑う
  • 「絶対に治る」と過剰に期待させる
「内容を聞いてもらえた」という経験が一番の支え吃音のある人にとって、「どもりながら話したのに、最後まで聞いてもらえた」「伝えたいことが伝わった」という体験は、話すことへの自信を大きく育てます。流暢さではなく、内容に集中して聞くことが最大の支援です。
学校・職場での支援

学校・職場での合理的配慮

吃音は障害者差別解消法・合理的配慮の対象となりうる状態です。学校・職場では以下のような配慮が可能です。

学校での合理的配慮の例

  • 発表・音読の形式を変更する(事前に内容を書いて提出など)
  • 発表時に時間的余裕を与える
  • 担任・クラスメートへの吃音についての適切な説明
  • 吃音によるいじめ・からかいへの毅然とした対応
  • スクールカウンセラーへの相談窓口の紹介

職場での合理的配慮の例

  • 電話対応の量や形式を調整する
  • プレゼン・発表の形式(文書提出・動画等)の変更
  • 就職面接での配慮(面接形式の変更・事前説明)
  • 職場全体での吃音への理解啓発
  • 相談できる窓口・担当者の設置
LIVED EXPERIENCE

吃音とともに生きる——当事者の声

吃音のある方たちは、障害を「克服」するのではなく、吃音と共に自分らしく生きることを学んでいます。当事者の体験から、前に進むヒントを受け取ってください。

当事者の体験

吃音と共に生きた人たちのリアルな経験

吃音のある人は「話すのが怖い」という経験と向き合いながら、それぞれの方法で生活を豊かにしています。以下は、実際の当事者の語りをもとにした体験談です。

🎤
アナウンサーを夢見ていたAさん(30代)
小学校の頃から吃音があり、発表のたびに笑われた経験から「自分は人前で話してはいけない」という信念が生まれました。高校卒業後、言語聴覚士に出会い、吃音緩和法と認知行動療法を組み合わせた支援を受けました。「完璧に流暢に話す」ことをやめ、「どもりながら伝える」ことに軸足を移したとき、対人恐怖が劇的に和らぎました。現在はWebディレクターとして働きながら、吃音の自助グループのファシリテーターを担っています。
📚
大学受験を乗り越えたBさん(20代)
中学入学後に吃音が悪化し、朗読・グループディスカッション・面接が極度に苦手になりました。高校3年時に学校のスクールカウンセラーに相談し、入試での配慮(口頭試問を文書回答に変更)を受けながら第一志望に合格。大学では吃音サークルに参加し、「自分だけではない」という感覚が自己肯定感を大きく高めたと語っています。
💼
転職を機に開示したCさん(40代)
長年、吃音を隠して営業職に就いていましたが、電話対応のたびに強い不安を感じていました。転職活動で初めて面接官に吃音を開示したところ、配慮を受けながら内定。現在の職場では電話対応をチャット対応に変更してもらいながら働いており、「開示してから人生が変わった」と話しています。
「どもる自分を許す」ことが最初の一歩吃音のある多くの人が、「流暢に話せるようになること」より「どもりながらでも話すことを選んだ瞬間」から生活が変わったと語っています。自己受容は結果ではなく、練習と経験の積み重ねです。
最新の脳科学

吃音の脳神経科学——MRI・神経画像研究からわかること

近年のMRI・DTI(拡散テンソル画像)・fMRI(機能的MRI)研究により、吃音者の脳には発話に関連する特定の神経回路に構造的・機能的な違いがあることが明らかになっています。これは「心の問題」ではなく「脳の配線の特性」であることの科学的根拠です。

  • ブローカ野(左前頭葉) (発話の計画・産生)
    吃音者では活動が低下し、右半球の相同領域が代償的に過活動することが報告されています。
  • 基底核(線条体) (動作の開始・タイミング制御)
    吃音者では基底核のドーパミン系の過活動が示唆されており、発話開始の困難さに関与すると考えられています。
  • 小脳 (発話の協調・タイミング補正)
    吃音者の小脳では発話時の活動パターンが非吃音者と異なります。流暢性形成訓練後に正常化する傾向が報告されています。
  • 弓状束(白質繊維) (ブローカ野〜聴覚野の接続)
    吃音者では左半球の弓状束の構造的完全性が低下しており、音韻計画〜発話産生の連携が不安定になりやすいとされています。
治療で脳は変化する言語療法や流暢性訓練を続けることで、吃音者の脳活動パターンが変化することがfMRI研究で示されています。「生まれつきだから変わらない」ではなく、「適切な支援で神経回路は可塑的に変化する」というのが現在の科学的理解です。
CHILD SUPPORT

子どもの吃音——年齢別の支援ガイド

吃音のある子どもへの支援は、年齢・発達段階によって大きく異なります。早期発見・早期支援が将来の自己肯定感と社会参加を守ります。

年齢別支援

発達段階に応じた吃音支援の考え方

吃音への介入は「早ければ早いほどよい」とは一概にはいえません。子どもの年齢・吃音の重症度・本人の苦痛の程度・家族の状況を踏まえ、言語聴覚士と相談しながら判断することが重要です。

2〜4歳(発症期)
見守りと早期相談
多くの吃音が発症する時期。焦らず様子を見ながら、話せた内容を褒める。「ゆっくり言って」「もう一度」は言わない。言語聴覚士への早期相談が望ましい。
5〜6歳(自然軽快の見極め)
言語療法の開始判断
この時期までに70〜80%が自然軽快。軽快しない場合は言語療法(リッカムプログラム等)を開始。就学前に学校側への情報共有を検討する。
小学校低学年
学校との連携開始
音読・発表・自己紹介など困難な場面が増える。担任・支援員への説明と合理的配慮の依頼が重要。スクールカウンセラーとの連携を。
小学校高学年〜中学
いじめ予防と心理的支援
いじめ・からかいのリスクが高まる時期。クラス全体への吃音理解啓発、教師主導の対応が不可欠。心理的支援(CBT・ACT)の導入を検討する。
高校〜大学
開示と合理的配慮の学び
就職活動・グループワーク・発表が増える。開示の練習、合理的配慮の申請方法を学ぶ。大学の学生相談室・障害学生支援室を活用する。
💡
リッカムプログラム——幼児吃音の有効な選択肢リッカムプログラム(Lidcombe Program)はオーストラリア発祥の幼児吃音プログラムで、日本でも2021年に発表された「幼児吃音ガイドライン」で最も推奨度の高い治療法に選定されました。保護者が毎日15分間、言語聴覚士の指導のもとで自宅で実施するプログラムで、4歳以上の子どもに有効とされています。
学校での相談

学校で吃音を相談するとき——保護者・教師へのガイド

吃音のある子どもが学校生活を安心して送れるよう、保護者と教師が連携することが重要です。以下のポイントを参考に、学校への情報共有と合理的配慮の依頼を進めてください。

保護者から担任へ伝えたいこと

  • 入学・進級・転入のタイミングで吃音があることを文書で伝える
  • 「どもっても最後まで待つ」「修正しない」という対応をお願いする
  • 体育・音楽・発表など特に困難な場面を具体的に伝える
  • スクールカウンセラーや特別支援コーディネーターへの相談窓口を確認する

教師が心がけること

  • クラス全体への吃音についての適切な説明(本人の意向を確認した上で)
  • 発表・音読の形式を柔軟に変更する
  • どもった際に本人の代わりに言葉を続けない
  • いじめ・からかいへの毅然とした対応と記録
WORK & SYSTEM

吃音と仕事・福祉制度

吃音があっても、適切な工夫と支援制度の活用で仕事を続けることができます。福祉制度・合理的配慮・キャリアのヒントをまとめました。

仕事のヒント

吃音のある方のための職場ヒント

📋
業務内容の確認と事前調整
電話対応が多い職種では、入社前・配属前に「メール・チャット対応に変更できるか」を確認することで、不必要なストレスを減らせます。障害者雇用枠で採用された場合は、雇用主との定期面談で配慮内容を見直すことが可能です。
🤝
職場への開示のタイミングと方法
入社時・異動時・業務変更時が開示のタイミングとして有効です。「吃音があるため、電話よりメールの方が正確に対応できます」というポジティブな伝え方が、周囲の理解を得やすくします。
📞
電話対応の代替策
社内コミュニケーションをSlack・Teams等に移行する、外部電話をメール・フォームで受け付ける、重要な電話前にスクリプトを用意するなど、工夫次第で吃音の影響を大きく減らせます。
💪
強みを活かすキャリア設計
吃音のある方の多くは、相手の話をよく聞く力・文章力・準備の丁寧さ・共感力が高い傾向があります。ライター・エンジニア・デザイナー・研究者・カウンセラーなど、多様な職種でその強みを発揮できます。
🏛
ハローワーク・障害者就労支援の活用
精神障害者保健福祉手帳を取得した場合、ハローワークの障害者窓口・就労移行支援事業所・障害者就業・生活支援センターを利用できます。吃音への理解がある職場を一緒に探してもらうことが可能です。
合理的配慮の申請方法
障害者差別解消法に基づき、職場に合理的配慮を申請できます。「どのような配慮が必要か」を具体的に文書化し、人事・上長・産業保健師に相談することが第一歩です。
福祉制度

吃音に関する福祉制度

吃音のある方が利用できる公的制度があります。「どこに相談すればよいかわからない」という方は、まず精神保健福祉センターか市区町村の福祉窓口に問い合わせるとよいでしょう。

制度
自立支援医療制度(精神通院医療)
吃音に伴う社交不安障害・うつ病・適応障害などで精神科・心療内科に通院している場合、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。所得に応じてさらに上限が設けられます。申請は市区町村の窓口で行います。
通院医療費が原則1割負担所得に応じた月額上限あり市区町村窓口で申請更新は2年ごと
制度
精神障害者保健福祉手帳
吃音(発達性吃音)が生活・就労に大きな影響を及ぼしている場合、精神障害者保健福祉手帳を申請できます。取得には精神科医の診断書と、初診から6ヶ月以上の経過が必要です。手帳取得により、障害者雇用枠での就職・各種税制優遇・公共施設の割引などが利用可能になります。審査は各都道府県の精神保健福祉センターが行います。
障害者雇用枠の利用税制優遇初診から6ヶ月後に申請可精神保健福祉センターが審査
制度
精神保健福祉センター(公的相談窓口)
各都道府県・政令指定都市に設置されている公的な精神保健の相談機関です。吃音に伴う不安・うつ・社会適応の問題について、精神保健福祉士・臨床心理士・医師による無料相談を受けられます。自立支援医療制度の申請先としても機能しており、福祉サービスへのつなぎも行っています。お住まいの地域名と「精神保健福祉センター」で検索してください。
支援機関

主な支援機関・リソース

吃音に関する相談・治療・自助活動を提供している主要な機関と団体を紹介します。地域・目的に応じて使い分けてください。

  • 医療・研究 国立障害者リハビリテーションセンター
    吃音の専門外来・成人吃音相談外来を設置。言語聴覚士による評価・訓練が受けられる。日本で最も専門性の高い機関のひとつ。
  • 当事者団体 日本吃音・クラタリング協会(JACSA)
    当事者・家族・専門家が連携する全国団体。全国各地の自助グループ情報・勉強会・研修会を運営している。
  • 自助グループ 全国言友会連絡協議会
    全国に支部を持つ吃音者の自助グループ連合。定期例会・電話相談・オンライン交流など多様な形式で活動している。
  • 公的相談窓口 精神保健福祉センター(各都道府県)
    吃音に伴う心理的苦痛・社交不安・うつについての相談が可能。自立支援医療制度の申請窓口としても機能する。無料で利用できる。
  • 研究・情報提供 発達性吃音研究プロジェクト(UMIN)
    吃音の研究者・言語聴覚士が運営する情報サイト。吃音のQ&A・治療ガイドライン・専門機関リストが公開されている。
電話恐怖への対処

電話への恐怖——吃音者が電話を克服するための4ステップ

電話での会話は、吃音のある方が最も苦手とする場面のひとつです。顔が見えない・沈黙が不自然に聞こえる・相手を待たせているという感覚が予期不安を強めます。以下のステップで少しずつ電話への恐怖に向き合ってみてください。

STEP 1
かける前にスクリプトを準備する
何を伝えるかを箇条書きにしてから電話します。「〇〇社の△△です。□□の件でお電話しました」など、冒頭の文を書いておくだけで難発の頻度が下がります。
準備フェーズ
STEP 2
ゆっくり話し始める
電話で最初の音が詰まりやすい場合、意識的に話し始めるペースを落とします。「も・し・も・し」とゆっくり言うだけで、残りの会話が流暢になることがあります。
開始フェーズ
STEP 3
どもっても続ける
どもったときに慌てて「訂正しよう」「早く言い直さなければ」と思うと、緊張が増します。どもりながらでも内容を続けることを優先します。ほとんどの相手はどもりを問題視しません。
会話中
STEP 4
電話を完全に避けない
電話恐怖を放置すると予期不安が強まります。練習電話(電話受付・問い合わせ等)を少しずつ重ねることで、慣れと自信が生まれます。
継続的に
ACQUIRED STUTTERING

成人後に始まる吃音——獲得性吃音とは

吃音のほとんどは幼小児期に発症しますが、成人後に脳疾患・強いストレス・薬の副作用などで吃音が生じる「獲得性吃音」も存在します。

獲得性吃音の種類

成人後に生じる吃音のタイプと原因

「突然どもるようになった」「事故の後から言葉が出にくくなった」という場合、発達性吃音ではなく獲得性吃音である可能性があります。原因の特定と、それに応じた専門的な対応が必要です。

🧠
獲得性吃音(神経原性)
脳卒中・頭部外傷・神経変性疾患などにより成人後に生じる吃音です。発達性吃音とは原因・症状のパターンが異なります。原因疾患の治療と並行して言語療法を行います。
💔
獲得性吃音(心因性)
強いストレス・外傷体験・転換性障害などによって成人後に急に生じることがあります。精神科・心療内科と言語聴覚士の連携が必要です。
💊
薬剤性吃音
一部の抗精神病薬・抗うつ薬・気分安定薬が吃音を引き起こすことがあります。薬の変更・減量で改善することが多く、主治医への報告が重要です。
⚠️
突然のどもりは医療機関へ大人になってから急にどもるようになった場合、脳血管疾患・神経疾患・薬の副作用の可能性があります。早めに神経内科・耳鼻咽喉科・精神科に相談し、原因を特定することが重要です。
追加Q&A

吃音についてもっと知りたい——追加Q&A

Qリッカムプログラムはどこで受けられますか?
A. リッカムプログラムは日本でも実施している言語聴覚士が増えています。国立障害者リハビリテーションセンター・大学病院・一部の言語療法クリニック・オンライン言語療法サービスでも受けられます。「リッカムプログラム 吃音」で専門家を検索するか、言語聴覚士会の検索ページを利用してください。
Q吃音と場面緘黙は同じですか?
A. 吃音と場面緘黙(かんもく)は異なる状態です。吃音は「話そうとするが言葉が詰まる・繰り返す」状態で、場面緘黙は「特定の場面で全く話せなくなる」状態です。ただし、吃音による強い予期不安が一部の場面での発話回避につながり、場面緘黙に似た状態を引き起こすことがあります。
Q吃音は遺伝しますか?
A. 吃音には強い遺伝的素因があります。一親等以内(親・兄弟)に吃音のある方がいると、リスクは約3〜4倍になるとされています。ただし、遺伝的素因があっても吃音が発症しない場合も多く、また発症しても自然軽快するケースが多数あります。「自分の子どもが吃音になるかもしれない」と心配している場合は、言語聴覚士に早めに相談することをお勧めします。
Q大人になってからでも言語療法の効果はありますか?
A. 成人の吃音に対する言語療法の効果には個人差がありますが、流暢性形成法・吃音緩和法・認知行動療法(CBT)・ACTを組み合わせることで、症状の軽減と生活の質の向上が期待できます。「完全に治す」ことを目標にするより、「吃音と共に豊かに生きる力をつける」という視点が現代の主流です。
Q吃音があることを恋人・パートナーに伝えるべきですか?
A. 開示するかどうかは完全に本人の選択です。ただし、「どもることを隠さなければ」というプレッシャー自体が症状を悪化させることがあります。パートナーに吃音を開示した多くの当事者が「開示してから関係が楽になった」と語っています。開示のタイミング・言い方については、吃音の自助グループや支援者と一緒に考えることができます。
Q吃音のある有名人はいますか?
A. 吃音のある、またはあった著名人は数多くいます。英国王ジョージ6世(映画『英国王のスピーチ』)、米国大統領ジョー・バイデン、俳優のマリリン・モンロー、ブルース・ウィリス、歌手のエド・シーランなどが知られています。「吃音があっても多様な形で活躍できる」ということは、当事者に大きな勇気を与えます。

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吃音による不安・孤立・つらさを、一人で抱え込まないでください。ここに相談窓口があります。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。

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このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。吃音に伴う通院には自立支援医療制度(精神通院医療)が利用できる場合があります(医療費の自己負担が原則1割に軽減)。詳しくはお住まいの市区町村窓口または精神保健福祉センターにご相談ください。

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