職場いじめとは?
定義・種類・パワハラとの違い・対処法・相談窓口を徹底解説
職場いじめは、働く人の尊厳と心身の健康を深刻に脅かす問題です。厚労省の労働相談では「いじめ・嫌がらせ」が12年連続で最多。定義からパワハラとの関係、種類・具体例、心身への影響、法的保護、実践的な対処法、相談窓口まで、専門知見を踏まえて網羅的に解説します。
職場いじめとは
職場いじめは、働く人の尊厳と心身の健康を深刻に脅かす問題です。厚生労働省の統計によれば「いじめ・嫌がらせ」に関する労働相談は12年連続で最多を更新し、年間6万件を超えています。
職場いじめとは何か
職場いじめとは、職場における同僚、上司、部下、取引先などから受ける、反復的かつ組織的な嫌がらせ行為であり、被害者の精神的・身体的健康および職務遂行に悪影響を及ぼすものを指します。暴言、無視、仲間はずれ、過大・過小な業務の付与、業績の横取り、プライバシーの侵害など、多様な形態で現れます。
国際的には、職場いじめ(Workplace Bullying)は「対人的に虐待的な行動への反復的かつ組織的な関与であり、ターゲットとなった個人と職場組織の双方に悪影響を与えるもの」と定義されています。重要なのは「反復的」という要素で、1回限りの摩擦や衝突とは区別されます。
職場いじめは「大人のいじめ」の最も一般的な形態であり、日本の労働相談において「いじめ・嫌がらせ」は相談件数の首位を占め続けています。しかし、いまだに「職場のいじめは甘え」「大人なのだから自分で解決すべき」という認識も根強く、被害者が声を上げにくい状況が続いています。
職場いじめの4つの構成要素
職場いじめは以下の構成要素から定義されます。これらをすべて満たす場合に「職場いじめ」と判断されることが一般的です。
- 反復性・継続性一度きりの出来事ではなく、一定期間にわたって繰り返し行われる。研究によっては「6ヶ月以上にわたり、週1回以上」という基準が用いられることもあります。
- 力の不均衡加害者と被害者の間に何らかの力の差がある。職位の上下関係だけでなく、人数(集団対個人)、情報の優位性、社会的影響力なども含まれます。
- 意図性(必ずしも必要ではない)意図的に行われる場合が多いが、「無自覚」のいじめも存在します。相手を傷つける意図がなくても、結果的に相手が苦痛を感じていればいじめに該当し得ます。
- 被害者への否定的影響精神的苦痛、身体症状、職務遂行能力の低下、退職など、被害者に実際の悪影響が生じている状態を伴います。
日本と世界の職場いじめの現状
職場いじめが一部の不幸な個人の問題ではなく、社会全体に広がる構造的な問題であることをデータが示しています。
パワハラと職場いじめ——重なる部分と異なる部分
パワーハラスメント(パワハラ)は、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)において、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3要素をすべて満たすものと定義されています。
職場いじめは、パワハラよりも広い概念です。パワハラは「優越的な関係を背景とした」言動に限定されますが、職場いじめは同僚間、部下から上司への言動(いわゆる逆パワハラ)、集団による排除など、必ずしも「優越的な関係」を背景としないものも含みます。
- 法的定義パワハラ:労働施策総合推進法に明確な定義あり / 職場いじめ:明確な法的定義はない
- 関係性パワハラ:優越的な関係が要件 / 職場いじめ:同僚間、集団対個人なども含む
- 方向性パワハラ:主に上から下(上司→部下) / 職場いじめ:あらゆる方向(上→下、横、下→上)
- 反復性パワハラ:1回でも該当し得る / 職場いじめ:通常は反復的な行為
- 法的保護パワハラ:企業に防止措置義務あり / 職場いじめ:パワハラに該当するものは同様に保護
- 範囲パワハラ:パワハラ6類型に基づく / 職場いじめ:より多様な形態を含む
厚労省が示すパワハラ6類型
厚生労働省は、パワハラの典型的な6つの類型を示しています。これらは職場いじめの多くの形態をカバーしています。
職場いじめの種類と具体例
職場いじめは多様な形態を取り、目に見えにくいものほど深刻な被害を生みます。直接的・間接的・業務型・モビング・サイバーの5系統と、現場で実際に起きる具体例を整理します。
職場いじめの5つの種類
職場いじめは大きく5つの系統に分類できます。タブで切り替えて、それぞれの特徴と典型例を確認してください。
加害者から被害者に対して明確に向けられる攻撃的行為。
表面上は分かりにくいが、被害者を精神的に追い詰める「陰湿ないじめ」。発見が難しい。
業務指示や評価を通じて行われ、「仕事の一環」と偽装されるためいじめと認識されにくい。
集団で一人をターゲットにするいじめ。被害者には逃げ場がなく精神的ダメージが大きい。
デジタル手段(メール・SNS・チャット)を介した嫌がらせ。記録が残りやすい特徴がある。
- 暴言・罵倒:「バカ」「無能」「消えろ」「死ね」など人格否定的発言・大勢の前での怒号
- 威嚇・脅迫:「クビにするぞ」「評価を下げるぞ」と脅す。机を叩く、物を投げる
- 身体的暴力:殴る、蹴る、物を投げつける、突き飛ばす
- 公開の場での叱責・辱め:他の社員の前で長時間叱責、ミスを全社メールで晒す
- 無視・排除:挨拶を返さない、会話に入れない、会議に呼ばない、メールのCCから外す
- 情報の遮断:業務に必要な情報を意図的に共有しない、重要な連絡を回さない
- 陰口・噂の流布:本人のいないところで悪口を言う、虚偽の噂を広める
- 微小な嫌がらせの蓄積(マイクロアグレッション):ため息、目を合わせない、発言を遮る
- 過大な要求:明らかに達成不可能なノルマや納期、一人では処理できない量の業務
- 過小な要求:能力・経験に見合わない単純作業のみ、仕事を与えない(追い出し部屋・窓際族)
- 成果の横取り:部下や同僚の成果を自分のものとして報告
- 不当な評価:特定の人にだけ厳しい基準を適用、正当に評価しない
- キャリアの妨害:昇進・昇格、研修・出張の機会を与えない
- 責任の押し付け:自分のミスを部下に擦り付ける、部署全体の失敗を個人のせいに
- 職場の複数のメンバーが結託して一人を無視する
- チーム全体で特定の人を会話や活動から排除する
- 陰で「あの人はダメだ」という評判を組織的に広める
- 複数人が交代で嫌がらせを行い、「みんなが思っている」と圧力をかける
- 会議(Zoom等)での発言機会の剥奪・マイクミュート強制
- チャットでの無視・既読スルー、グループチャットから除外
- 業務時間外の過剰な連絡要求
- 監視ソフトによる過度な監視
目に見えにくい職場いじめのサブタイプ
明らかな暴言や物理的ないじめだけでなく、目に見えにくい形態の職場いじめも深刻な被害をもたらします。
現場で起きている職場いじめの具体例
上司から部下への例:典型的な上下関係でのいじめ。
- 報告に行くたびに「また来たのか」「忙しいんだけど」と追い払い、相談しにくい雰囲気を作る
- 他の部下の前で「お前はチームのお荷物だ」「なんで辞めないの?」と言う
- すべてのミスを大げさに取り上げ、全体ミーティングで名指しで批判する
- 有給休暇の申請を何度も却下する、または取得理由を執拗に追及する
- 特定の部下だけに残業を強制し、他の部下は帰らせる
- 業務とは無関係な雑用(個人的な買い物、車の掃除など)を命じる
- 「この仕事は○○さんに頼もう」と、いつも同じ人にだけ難しい仕事を振る
- 成果を出しても「当たり前だ」と認めず、ミスしたときだけ厳しく叱責する
同僚間の例:横の関係でのいじめは陰湿化しやすい。
- 特定の同僚だけランチに誘わない、飲み会に呼ばない
- 仕事上の連絡を意図的に回さない、共有ファイルにアクセスさせない
- 本人の聞こえるところで陰口を言う、聞こえないところでも噂を流す
- 新人に対して「あの人と仲良くしないほうがいい」と吹き込む
- 業務の引継ぎを意図的に不十分にして失敗させる
- 体調不良の休暇について「ずる休みだ」と噂する
- 結婚、出産、家庭環境などプライベートについて嫌味を言う
部下から上司への逆パワハラの例:職場いじめは「上から下」だけではありません。
- 上司の指示を集団で無視する、従わない
- 上司の陰口を部署全体で共有し、孤立させる
- 上司の小さなミスをSNSや社内で拡散する
- 「パワハラだ」と虚偽の申告を繰り返し、上司を萎縮させる
- 上司のプライベートを詮索し、嘲笑する
職場いじめを生む組織的要因
職場いじめは、個人の問題ではなく組織構造の問題として捉える必要があります。以下の組織要因がいじめを生みやすくします。
- 過度な成果主義数字やKPIだけで評価される環境では、協力よりも競争が優先され、他者を蹴落とすインセンティブが生まれます。
- 長時間労働とストレス慢性的な残業やストレスが蓄積すると、攻撃性が高まり、弱い立場の人への矛先が向きやすくなります。
- 閉鎖的な人間関係異動が少なく固定的なメンバーで長期間働く環境では、いじめが構造化しやすくなります。
- 管理職のマネジメント能力不足チームの人間関係を把握し適切に介入する能力を持たない管理職のもとで、いじめが放置されやすくなります。
- ハラスメント対策の形骸化制度や窓口が存在しても実効性がない場合、「声を上げても無駄」という認識が広がり、いじめが常態化します。
- トップの姿勢経営層がいじめやハラスメントに無関心な場合、組織全体にいじめを容認する文化が形成されます。
加害者・被害者にみる個人的要因
組織要因に加え、個人レベルの要因もいじめの発生に関与します。
- 加害者の特性権力欲が強い、共感性が低い、自己愛的傾向がある、ストレス耐性が低い、自身もいじめを受けた経験がある、などの傾向が報告されています。
- 被害者のリスク要因新入社員・中途採用者、障害者、外国人、性的マイノリティ、育児・介護中の社員など、マイノリティの立場にある人がターゲットにされやすい傾向があります。ただし、これは被害者の責任ではなく、組織のダイバーシティ意識の欠如の問題です。
なぜ大人がいじめに走るのか——加害者の5つの心理パターン
加害者の動機を理解することは、組織的な対策を考える上で重要です。
個人の問題に帰結させるだけでなく、加害者を生み出す組織文化を理解することが、職場いじめの根絶につながります。
- いじめを黙認する上司・組織「多少のことは職場の個人間問題」として介入しない文化が、加害者を野放しにします。
- 競争を過度に煽る評価制度同僚を蹴落とすことがキャリアアップにつながる環境が、いじめを「合理的な戦略」にしてしまいます。
- 多様性(ダイバーシティ)への無理解異質な存在を排除する同調圧力が強い職場では、マイノリティへのいじめが起きやすくなります。
- ハラスメント相談窓口の機能不全相談しても「証拠がない」「個人的な問題」として取り合ってもらえない場合、加害者が守られる構造ができあがります。
職場いじめ目撃者(バイスタンダー)の4つの行動
職場いじめの現場を目撃した同僚(傍観者・バイスタンダー)の行動が、いじめの継続・悪化・終息に大きく影響します。
職場いじめが心身に与える影響
職場いじめは、被害者の精神的健康に広範かつ深刻な影響を与え、身体症状や長期健康リスク、さらには組織全体にも波及します。
精神的健康への影響——6つの精神疾患リスク
研究によれば、職場いじめは不安、うつ、PTSD、バーンアウト、睡眠障害、心血管系の問題、欠勤、離職と強く関連しています。
これらの疾患はいずれも治療可能です。「職場いじめが原因でメンタルが壊れた」と感じたら、早めに心療内科・精神科を受診してください。
長期いじめがパーソナリティに与える変化
最新の研究では、長期にわたる職場いじめが被害者のパーソナリティ(性格特性)自体を変化させる可能性があることが示されています。具体的には、神経症的傾向(不安を感じやすさ)の増加、外向性の低下(社交性の減退)、協調性の変化、開放性の低下などが報告されています。
これは、職場いじめの影響が単なる「気分の問題」ではなく、人格の根幹にまで及ぶ可能性があることを示しており、早期の介入と支援の重要性を強調するものです。
心理的ストレスが引き起こす身体症状
職場いじめは心の問題にとどまらず、全身の身体症状として現れます。
- 消化器系胃痛、吐き気、食欲不振、過食、下痢、便秘、過敏性腸症候群
- 循環器系動悸、胸の圧迫感、高血圧、心臓病リスクの増大
- 神経系頭痛(緊張型・片頭痛)、めまい、手足のしびれ
- 筋骨格系肩こり、首の痛み、腰痛、顎関節症
- 免疫系風邪を引きやすい、口内炎、帯状疱疹
- 睡眠不眠、悪夢、中途覚醒、過眠
- その他慢性疲労、体重変動、肌荒れ、脱毛
長期的な健康リスク:ストレスが長期化すると以下のリスクが生じます。
- 心血管疾患(高血圧、冠動脈疾患)のリスク増大
- 免疫機能の慢性的な低下
- 2型糖尿病のリスク増大(ストレスによる代謝異常)
- 慢性疼痛(線維筋痛症など)の発症リスク
- アルコール依存症や薬物乱用のリスク
職場いじめと自殺リスク
職場いじめは自殺リスクと有意に関連することが、複数の研究で示されています。スウェーデンの研究では、職場いじめ被害者の自殺念慮リスクは一般の約2.3倍であるとされています。
・よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
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・ココトモのチャット相談:/chat-soudan(無料)
・精神保健福祉センター:各都道府県(平日・無料相談)
命は何より大切です。職場を離れることを最優先に考えてください。
職場いじめが組織全体に与える影響
職場いじめは個人の問題にとどまらず、組織全体に深刻な悪影響を及ぼします。
- 離職率の上昇被害者の60%以上が退職。優秀な人材の流出につながる。
- 生産性の低下被害者の生産性は約20%低下するとされ、職場全体の士気にも悪影響。
- 欠勤の増加精神的・身体的な不調による欠勤が増える。
- 組織文化の悪化いじめが放置される職場では信頼関係が崩壊し、協力的な文化が失われる。
- 採用への悪影響口コミや評判サイトを通じて企業イメージが低下し、人材確保が困難になる。
職場いじめに関する法的枠組み
2020年施行のパワハラ防止法をはじめ、被害者を守る法律と事業主の義務があります。法的手段の選択肢を整理します。
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)と事業主の義務
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は、職場いじめに対する最も重要な法的基盤です。2022年4月からは中小企業にも全面適用されています。
事業主に義務づけられている防止措置は以下の通りです。
- ✓パワハラに関する方針の明確化と周知・啓発
- ✓相談窓口の設置と適切な対応
- ✓事後の迅速かつ適切な対応(事実確認、被害者保護、行為者処分、再発防止)
- ✓プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止
被害者が取り得る6つの法的手段
職場いじめへの対処として利用できる法的・行政的手段は、状況に応じて複数あります。
- 社内相談窓口まずは社内のハラスメント相談窓口に相談する。
- 都道府県労働局総合労働相談コーナーでの相談、助言・指導・あっせんの申請。
- 労働審判裁判所における迅速な紛争解決(原則3回以内)。
- 民事訴訟加害者個人および企業に対する損害賠償請求(民法709条不法行為・715条使用者責任)。
- 労災申請職場いじめにより精神障害を発症した場合の労災認定申請。2023年改正基準でパワハラが心理的負荷の具体的出来事として明示。
- 刑事告訴暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱罪等に該当する場合。
各国の職場いじめ対策——日本の現在地
国際的な視点から、日本のパワハラ防止法の位置づけと残された課題を確認します。
- スウェーデン1993年に世界初の職場いじめ防止法(AFS 1993:17)施行。
- EU指令2000年以降、ハラスメント防止が雇用平等指令に組み込まれる。
- オーストラリア2013年改正公正労働法で職場いじめの独立した申請制度。
- 日本2022年に中小企業含む全事業場にパワハラ防止法が全面適用。ただし「いじめ」の定義・認定基準が諸外国より曖昧で、法的救済のハードルが依然として高い状況。
被害者のための対処法
職場いじめに遭遇したときの行動指針です。証拠の確保・相談ステップ・セルフケア・休職/退職の判断まで、段階的に解説します。
最重要ステップ——証拠の確保
職場いじめへの対処において、証拠の確保は最も重要なステップの一つです。被害発生直後から記録を始めることが大切です。
- 日記・メモいじめの日時、場所、内容、加害者の言動、目撃者を具体的に記録。手書きのメモは日付の改ざんが困難なため証拠価値が高い。
- メール・メッセージの保存ハラスメントに関連するメール、LINE、チャットのメッセージをスクリーンショットで保存。
- 録音職場での会話の録音は、盗聴とは異なり原則として適法。叱責やいじめの場面を録音しておく。
- 医療記録精神的・身体的な不調が生じた場合は医療機関を受診し、診断書を取得。
- 目撃者の確認いじめを目撃した同僚の名前をメモしておく。
相談の4ステップ
社内から外部、そして法的手段へと、段階的に対応を進めます。
メンタルヘルスのセルフケア
職場いじめを受けている間、または職場から距離を置いている間のセルフケアが、心身の保護に重要です。
日常で意識したい6つのケアポイント:
- ✓自分を責めない:いじめの責任は加害者にあります。あなたが悪いのではありません
- ✓孤立しない:信頼できる人(家族、友人、カウンセラー)に状況を話す
- ✓オン・オフの切り替え:勤務時間外はいじめのことを考えない時間を意識的に作る
- ✓身体的なケア:十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動
- ✓専門家に相談する:不眠、食欲不振、気分の落ち込みが2週間以上続く場合は心療内科を受診
- ✓転職も選択肢:環境が改善されない場合、転職は「逃げ」ではなく自分を守る前向きな選択
心療内科・精神科を受診すべきサイン
以下のサインが見られたら、医療機関への受診を検討してください。早めの相談が回復への近道です。
- ✓気分の落ち込み・不眠・食欲不振が2週間以上続いている
- ✓「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちが浮かぶ
- ✓出勤しようとすると動悸・吐き気・涙が出る
- ✓職場や同僚を見るだけで心臓がドキドキする
- ✓業務に集中できず、判断力が著しく低下している
- ✓「自分が悪い」「自分には能力がない」と感じ続けている
- ✓身近な人から「最近様子が違う」と指摘された
休職・配置転換・退職の判断と手続き
心身に限界を感じたら、休職や退職を選択することは適切な自己保護です。3つの選択肢の特徴を整理します。
- 休職メリット:雇用・給与(傷病手当金)を維持しながら療養できる。会社との関係を保ちつつ状況を見守れる。
手続き:主治医の診断書→会社の人事部へ提出。傷病手当金は健康保険組合・協会けんぽへ申請(連続3日以上の欠勤後、4日目以降から標準報酬日額の2/3を最大1年6ヶ月)。 - 配置転換願いメリット:職場環境を変えて雇用継続できる。会社側にも義務がある場合あり。
手続き:人事部・産業医・ハラスメント相談窓口に申し出。書面での記録を残す。 - 退職メリット:職場との完全な切断で回復しやすい。失業給付が受給できる場合も。
手続き:退職届提出(退職2週間〜1ヶ月前)。離職票で失業給付申請。健康保険の切り替え手続き。
企業の職場いじめ防止策
健全な職場環境を構築するために、企業が取り組むべき予防策・対応フロー・産業保健リソースを整理します。
予防のための6つの取り組み
企業による職場いじめ防止策は、トップのコミットメントから現場の仕組みまで多層的に必要です。
- トップのコミットメント経営トップが「職場いじめは許さない」という明確なメッセージを発信する。
- 方針と規程の整備いじめ・ハラスメントの定義、禁止事項、処分内容を明確に規定する。
- 教育・研修の実施全社員向けのハラスメント防止研修を定期的に実施。管理職向けにはマネジメント研修を行う。
- 相談窓口の実効性確保社内外の複数の相談ルートを設置し、プライバシー保護と不利益取扱い禁止を徹底する。
- ストレスチェックの活用結果を部署単位で分析し、リスクの高い職場を早期に特定する。
- 風通しのよい職場づくり1on1ミーティング、匿名アンケート、従業員満足度調査などを通じて、問題を早期に発見する仕組みを作る。
発生時の対応フロー——6ステップ
職場いじめが発覚した場合の標準的な対応プロセスです。
産業医・EAP・ストレスチェックの活用
職場いじめの早期発見・対応において、産業保健スタッフは重要な役割を果たします。
- 産業医50人以上の事業場では選任が義務。ストレスチェック実施・面接指導・休職・職場復帰の判断に関与する。「産業医に相談したい」と人事部に申し出ることができる。
- EAP(従業員支援プログラム)社外の専門家(カウンセラー・弁護士等)による無料・秘密厳守の相談サービス。大企業では導入率が高まっており、EAPへの相談は会社に知られない。
- ストレスチェック制度従業員50人以上の事業場では年1回のストレスチェックが義務。高ストレス者には医師による面接指導が実施される。
- 復職支援プログラム(リワーク)休職から職場復帰する際の段階的復帰計画の策定と支援。
職場いじめからの回復のプロセス
心の傷を癒し、新しいスタートを切るために。回復を支える要素、PTSD・複雑性PTSDへの対処、転職での再出発のポイントを整理します。
回復を支える5つの要素
回復のプロセスは時間がかかります。焦らず、複数の要素を組み合わせていくことが大切です。
- 安全な環境の確保いじめの環境から離れることが回復の第一歩。配置転換、休職、転職などの選択肢を検討する。
- 専門家のサポート心療内科・精神科での治療、カウンセリング(認知行動療法、EMDR等)の利用。
- 社会的なつながり家族、友人、同じ経験をした人々とのつながりが回復を支える。
- 自尊心の回復いじめによって損なわれた自己肯定感を取り戻すプロセス。自己効力感(Bandura)の回復が重要。
- 時間回復には時間がかかります。焦らず、自分のペースで。
PTSD・複雑性PTSD(C-PTSD)への対処
慢性的な職場いじめは、複雑性PTSD(C-PTSD)を引き起こすことがあります。複雑性PTSDは、単回性のトラウマではなく、長期反復的なトラウマ体験(いじめ・DVなど)によって生じる状態で、通常のPTSD症状に加え、感情調節困難・否定的な自己概念・対人関係障害が特徴です。
職場いじめ後の転職・新しいキャリア
職場いじめを経験した後、新しい職場でやり直すことは完全に可能です。転職する際のポイントを紹介します。
- ✓心身の回復を最優先:症状が落ち着かないうちの転職活動は、判断力の低下から「またつらい職場」を選ぶリスク
- ✓ハラスメント対策を確認:転職先のハラスメント防止制度・社内風土を事前にリサーチ(口コミサイト・面接で確認)
- ✓支援機関の活用:就労移行支援事業所・ハローワーク障害者担当・転職エージェントの相談
- ✓面接での説明:前職の退職理由を正直に話す必要はないが、「職場環境の問題」と端的に表現し、次は自分に合った環境を探していると伝える
相談窓口一覧とよくある質問
一人で抱え込まずに、専門機関に相談しましょう。公的・民間の窓口と、被害者・家族・支援者からよく寄せられる質問をまとめます。
公的機関の相談窓口
職場いじめは、公的機関の窓口を活用することで、第三者の介入や法的保護を受けられます。
- 総合労働相談コーナー(各都道府県の労働局・労基署内)職場いじめを含むあらゆる労働問題の無料相談
- 都道府県労働局(各都道府県に設置)助言・指導・あっせん(調停)
- 法テラス(0570-078374)無料法律相談、弁護士紹介
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)メンタルヘルスに関する相談
- 警察相談専用電話(#9110)暴力・脅迫等の犯罪被害の相談
- 精神保健福祉センター(各都道府県)メンタルヘルス専門相談(平日・無料)
民間の支援団体・サービス
公的機関と並行して、民間のチャット相談・ホットライン・専門家サービスも活用できます。
- ココトモ(/chat-soudan)チャットで無料相談。メンタルヘルスの悩みを匿名で相談できる
- よりそいホットライン(0120-279-338)24時間・無料
- いのちの電話(0120-783-556)24時間・無料
- NPO法人 労働相談センター(電話・メール相談)職場の問題に関する無料相談
- EAP(従業員支援プログラム)(企業契約)外部カウンセリングサービス
- 各地域の弁護士会(地域別)初回無料の法律相談を実施している場合あり
よくある質問
A. パワハラは「優越的な関係を背景とした言動」に限定されますが、職場いじめはより広い概念で、同僚間や部下から上司への嫌がらせ、集団によるモビングなども含みます。パワハラに該当するものは法的に明確に禁止されていますが、パワハラの定義に当てはまらない職場いじめも存在します。いずれにしても、労働者の就業環境を害する行為は問題であり、対処が必要です。
A. 証拠がなくても相談は可能です。相談窓口や弁護士は、証拠の有無にかかわらず相談を受け付けます。相談プロセスの中で、今後の証拠の集め方についてアドバイスを受けることもできます。今からでも日記をつけ始め、今後のいじめの記録を残していくことをおすすめします。
A. 職場いじめにより精神障害を発症した場合、労災認定を受けられる可能性があります。2023年に改正された精神障害の労災認定基準では、パワハラが心理的負荷の評価における具体的な出来事として明示されました。労災申請には医師の診断書が必要ですので、まずは医療機関を受診し、弁護士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
A. すぐに転職できない場合でも、①証拠を集め続ける、②社内外の相談窓口に相談する、③心療内科やカウンセラーのサポートを受ける、④労働局に相談して会社への助言・指導を求める、などができます。会社には安全配慮義務があり、いじめを放置することは法的義務違反です。外部機関の介入を求めることで、状況が改善される場合があります。
A. 会社が適切な対応を取らない場合は、外部機関に相談しましょう。都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談し、助言・指導・あっせんを申請することができます。また、弁護士に相談して法的手段(労働審判、民事訴訟)を検討することも選択肢です。会社のハラスメント防止措置義務違反として、行政指導の対象となる可能性もあります。
A. 断じて「甘え」ではありません。職場いじめは法律で禁止されたパワハラに該当し得る行為であり、被害者の心身の健康に深刻な影響を与える人権侵害です。我慢し続けることは問題の解決にはならず、むしろ精神的な被害が深刻化します。「大人なんだから我慢しろ」という周囲の声に惑わされず、自分の心身を守るために行動してください。
A. 今すぐ誰かに話してください。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)やいのちの電話(0120-783-556)に電話するか、ココトモのチャット相談に相談してください。職場いじめで追い詰められて「消えてしまいたい」と思うことは、あなたの弱さではなく、限界まで追い詰められたサインです。今すぐ職場から距離を置くこと(休職・診断書の取得)が最優先です。あなたの命は何よりも大切です。
A. 主な証拠として①日時・場所・内容を記録した記録(手帳・メモ・スマホのメモアプリ)②メール・チャット・SNSのスクリーンショット③目撃者の証言④医療機関の受診記録(診断書)⑤音声録音(法的に許可された範囲)が有効です。完璧な証拠がなくても相談は可能ですが、記録は被害発生直後からつけ始めることが大切です。弁護士・社会保険労務士・労働局への相談時に証拠として提示できます。
A. 職場いじめが原因でうつ病・適応障害などを発症し、仕事を休んだ場合、健康保険の傷病手当金が受給できます。条件は①連続3日以上の欠勤②欠勤4日目以降から支給③標準報酬日額の2/3が最大1年6ヶ月支給されます。業務上の疾病と認定された場合(労災)は、休業補償給付(給与の80%)が受給できます。まず主治医に「就業不能」の診断書を書いてもらい、会社の人事部または健保組合に申請してください。
A. 職場いじめが不法行為(民法709条)または使用者責任(民法715条)に該当する場合、民事上の損害賠償請求が可能です。刑事上では、暴行・傷害・脅迫・名誉毀損・侮辱罪などに該当する場合、刑事告訴も可能です。ただし、職場いじめ自体を直接罰する刑事罰の規定はなく、行為の内容によって適用される法律が異なります。また、会社がパワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法)に違反していた場合、行政指導の対象となります。法的手段の検討は、労働問題に詳しい弁護士(法テラス0570-078374)への相談をお勧めします。
A. 職場いじめからの回復には時間がかかります。多くのサバイバーが経験する回復のプロセスとして①安全な環境の確保(休職・転職・職場からの離脱)②心療内科・精神科での治療(うつ病・PTSDへの対処)③信頼できる人への「話す」こと④自分の体験を客観的に整理する(カウンセリング・日記)⑤新しい人間関係の構築があります。「自分が悪かったのかも」という自責感は、いじめの後遺症として多くの方が経験します。あなたは悪くありません。回復は可能です。ココトモのチャット相談でいつでも話を聞いています。
A. はい。2022年4月から、パワハラ防止法は中小企業にも全面適用されています。中小企業でも①社内ハラスメント相談窓口の設置義務②措置義務(事実確認・被害者保護・再発防止)が法的に課されています。ただし、中小企業では社内での解決が難しい場合も多いため、外部機関(総合労働相談コーナー・都道府県労働局・弁護士)への相談がより重要です。中小企業だからといって諦める必要はありません。
A. オンラインハラスメント(テキストハラスメント・デジタルモビング)はリモートワーク環境でも増加しています。主な形態として①会議(Zoom等)での発言機会の剥奪・マイクミュート強制②チャットでの無視・既読スルー③グループチャットから除外④業務時間外の過剰な連絡要求⑤監視ソフトによる過度な監視があります。オンラインでのハラスメントは証拠(チャットログ・メール)が残りやすい点で、対処しやすい面もあります。発見したらスクリーンショットで保存してください。
A. 職場いじめ後に「人が怖くなる」「職場の同僚を見ると心臓がドキドキする」「会社のビルに近づけない」などの症状が出る場合、PTSDまたは複雑性PTSD(C-PTSD)の可能性があります。これは意志の弱さではなく、トラウマによる神経系の防衛反応です。PTSD・C-PTSDには有効な治療法(EMDR・CPT・ナラティブセラピー等)があります。「人が怖い」と感じたら、それは回復に向けた支援を求めるサインです。心療内科・精神科に相談してください。
A. 社会人の子どもが職場いじめを受けている場合、親としてできることがあります。①まず話を聞く——「なぜ会社を辞めないの」「もっと頑張れ」ではなく「つらかったね」と共感する②精神科・心療内科への受診を一緒に検討する③休職・退職を勧める——「我慢しなくていい」と伝える④経済的なサポートを申し出る(一時的な生活援助)⑤自分たち親自身が精神保健福祉センターに相談して対応方法を学ぶ。「子どもが弱いから」ではなく「組織の問題」という認識が、親子関係の修復にも重要です。
A. 相談する際に整理しておくと良い情報は①いじめが始まった時期②加害者の立場(上司・同僚・部下・取引先)③具体的な行為の内容(言葉・行動)④頻度(毎日・週数回等)⑤目撃者の有無⑥これまで社内で相談したか・した場合の結果⑦現在の心身の状態(医療機関受診の有無)です。完璧に整理できていなくても大丈夫です。「うまく話せるか不安」な場合は、メモを手元に持って相談してください。ココトモのチャット相談でも文字で状況を伝えることができます。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
「職場でいじめられているのかもしれない」「毎朝会社に行くのが怖い」「誰にも言えず、心が限界に近い」——職場いじめの苦しさは、あなたのせいではありません。一人で抱え込まず、まず話してみませんか。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。職場いじめによる精神的影響が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。通院医療費の自己負担を1割に軽減できる自立支援医療制度も活用できます。
