ヤングケアラーとは?
実態・心身への影響・支援制度をわかりやすく解説
ヤングケアラーとは、家族の病気・障害・精神疾患などのために、大人が担うべきケアを日常的に行っている18歳未満の子どもです。「いい子」として見過ごされがちですが、学業・友人関係・メンタルヘルスへの深刻な影響があります。定義・ケアの種類・心身への影響・支援方法まで、必要な情報をまとめました。
ヤングケアラーとは
ヤングケアラーとは、家族の病気、障害、精神疾患、依存症などのために、大人が担うべきケアや家事を日常的に行っている18歳未満の子ども・若者を指します。「家族思いのいい子」として見過ごされやすいですが、子どもらしい時間を奪われるという深刻な問題を抱えています。
ヤングケアラーの定義——「子どものうちから大人の役割を担う」
ヤングケアラー(Young Carer)とは、本来大人が担うべきケアや責任を日常的に引き受けている18歳未満の子ども・若者を指します。イギリスでは1980年代から問題として認識されてきており、日本では2010年代後半から社会的な注目が高まっています。2020年代に入り、日本の文部科学省・厚生労働省も実態調査を開始し、政策的な支援の議論が進んでいます。
ヤングケアラーが担うケアの対象は、身体的な病気・障害のある家族、精神疾患・依存症のある家族、高齢の祖父母、障害のあるきょうだい、日本語が話せない家族など多岐にわたります。また、ケアの内容も身体的介助から感情的サポート、家事、通訳まで様々です。
ヤングケアラーとは——要点まとめ
①18歳未満の子ども・若者 ②家族の誰かに慢性的な支援・ケアが必要な状況 ③本来大人が担うべきレベルのケアや責任を日常的に担っている ——この3つが重なる状況を指します。手伝いの範囲を超えた継続的・責任ある役割を担っていることがポイントです。
ヤングケアラーが担う様々なケア
ヤングケアラーが担うケアは多岐にわたります。以下の4つのカテゴリーに整理できますが、複数のケアを同時に担うことも多くあります。
ヤングケアラーの実態——日本の調査から
日本では2021年に文部科学省と厚生労働省が初めてヤングケアラーに関する実態調査を実施しました。この調査の結果、ヤングケアラーの存在が「特殊なケース」ではなく広く存在することが明らかになりました。
※ 文部科学省2021年調査の概数をもとにした参考値
なぜヤングケアラーは見えにくいのか
ヤングケアラーの日常——「子どもとして生きる時間」を奪われる
ヤングケアラーの日常は、多くの子どもが「当たり前」として享受していることができない状況に満ちています。具体的な日常の様子を通じて、その困難を理解しましょう。
ヤングケアラーの一日——ある中学生のケース
※ このケースは実際の状況を参考に作成したフィクションです。実際のヤングケアラーの状況はさらに多様で複雑です。
ヤングケアラーが失いやすいもの
ヤングケアラーは「ケアをすること」で多くのものを失います。これらは一時的な損失ではなく、長期にわたって積み重なることで成人後の生活にも影響を及ぼします。
ヤングケアラーの心身への影響
ヤングケアラーとして過ごした経験は、成長期の心身の発達、そして成人後の精神的健康に広範な影響を与えます。影響を知ることで、適切な支援につながることができます。
ヤングケアラーが受ける4領域への影響
- 遅刻・欠席・早退が多くなる
- 宿題や学習の時間が確保できない
- 集中力の低下・学業成績の低下
- 進学・進路選択の制限(ケア義務で進学先を制限)
- 学校行事(遠足、修学旅行など)への参加が難しい
- 奨学金を利用しても経済的理由で進学を諦める
- 友人と過ごす時間が持てない
- 放課後の活動(部活、習い事)に参加できない
- 「家の事情を話せない」孤独感・秘密主義
- 友人の家庭との差異に気づき、羞恥心・疎外感を感じる
- 緊急のケアが生じると約束をキャンセルしなければならない
- 成人後も人間関係の構築に困難を抱えることがある
- 慢性的なストレス・疲弊
- 不安障害・うつ病の発症リスクが高い
- 「ケアしなければ家族が大変なことになる」という過剰な責任感
- 「自分だけが楽しんではいけない」という罪悪感
- 感情的燃え尽き(エモーショナルバーンアウト)
- 自分のニーズを表現できない・後回しにするパターンの固定化
- 慢性的な疲労・睡眠不足
- 身体的ケアによる怪我のリスク
- 自分の健康ニーズが後回しになる(通院を控える等)
- 偏った食生活・運動不足
- 慢性的な身体症状(頭痛、腹痛など)
ヤングケアラーと精神的健康——見えにくいメンタルヘルスの問題
ヤングケアラーの精神的健康に関する研究では、一般の子どもと比べてうつ症状、不安症状、慢性的な疲労が高いことが示されています。しかし、ヤングケアラーはその状況を「当然のこと」として受け入れていることが多く、自分が「大変」だとか「支援が必要」だと思わないケースが多いです。
ヤングケアラーへの支援
ヤングケアラーへの支援は「ケアをやめさせる」ことではありません。子どもが子どもとして生きる時間を確保しながら、家族全体に必要なサポートが届く仕組みをつくることが目標です。
ヤングケアラーへの支援——5つのステップ
ヤングケアラーのあなたへ——あなたは一人じゃない
もしあなたが「自分はヤングケアラーかもしれない」と思っているなら、以下のメッセージをあなたに伝えたいと思います。
ヤングケアラーが利用できる支援リソース
社会・周囲の人へ——ヤングケアラーを見つけ、支えるために
ヤングケアラー支援は社会全体の課題です。学校の先生、地域の大人、友人——周囲のあらゆる人が「気づき」と「声かけ」を通じてヤングケアラーを支えることができます。
学校・地域・友人へ伝えたいこと
- 「遅刻が多い」「宿題ができていない」の背景に家庭のケア負担がある可能性を考える
- 「宿題できなかった理由を聞いてみる」という小さな関わりが発見につながる
- 「ヤングケアラー?」と感じたら一人で抱え込まず、スクールソーシャルワーカーや管理職に相談する
- 欠席連絡の際に「最近どんな様子ですか」と家庭の状況を丁寧に聞く
- 進学相談の際に「家の事情で選択肢が狭まっていないか」を確認する
- 近所の子どもが一人で買い物していたり、大量の荷物を運んでいる様子に気づく
- 「何かあったら相談してね」という一言が子どもにとっての「逃げ場」になる
- 地域の民生委員・児童委員への情報共有が支援につながることがある
- 「他人の家のことだから」と関わりを避けずに、地域全体で子どもを見守る意識を持つ
- 「最近どうした?」と声をかけてあげることが孤独感の緩和につながる
- 「なんでいつも急いで帰るの?」と責めずに聞く
- 「家の事情で遊べない」と断られても、関係を切らずに声をかけ続ける
- 「家でもしかして大変なことがある?」と聞いてみることが、相談のきっかけになることがある
日本のヤングケアラー支援政策の動向
日本では2020年以降、ヤングケアラー支援に関する政策が急速に進展しています。2021年の実態調査を経て、2022年には「こども家庭庁」設置の議論の中でヤングケアラー支援が重点課題となりました。
- 文部科学省・厚生労働省による実態調査の実施(2021〜)
- 学校への周知・研修プログラムの整備
- スクールソーシャルワーカーの配置拡充
- ヤングケアラーを含む「こどもの貧困」対策の強化
- 各都道府県・市区町村でのヤングケアラー支援体制の整備
- 民間支援団体との連携強化
しかし、制度の整備と現場への浸透にはまだ課題が多く、特に農村部・地方部での支援体制は不十分な地域も多いのが現状です。一人でも多くの人がヤングケアラーへの理解を深め、周囲の子どもへの目配りを続けることが、今最も重要な取り組みです。
海外のヤングケアラー支援——日本との比較
ヤングケアラー支援の先進国であるイギリスやオーストラリアの制度を知ることで、日本の現状と課題が見えてきます。海外の成功事例は、日本の支援体制改善のヒントを与えてくれます。
イギリス・オーストラリア・日本のヤングケアラー支援比較
ヤングケアラー問題はイギリスで1980年代に最初に社会的課題として認識され、以降オーストラリア、北欧諸国、そして日本へと認知が広がってきました。支援の成熟度は国によって大きく異なります。
- 地方自治体にヤングケアラーの特定・支援を義務化
- 全国約300以上のヤングケアラー支援団体
- 専用アセスメントシートによる学校・SSW連携
- ケアラーズセンターによる包括的サポート
- 12〜25歳対象の給付型奨学金(年約3,000AUD)
- ケアラーの権利を法律で明文化
- 連邦政府によるヤングケアラー支援プログラム
- 若者ケアラーまで25歳に対象を拡大
- 2021年に初の全国実態調査を実施
- 2024年にヤングケアラー支援が法律に明文化
- こども家庭庁が相談窓口検索サービスを提供
- スクールソーシャルワーカーの配置拡充が課題
2024年改正子ども・若者育成支援推進法——何が変わったか
2024年6月に成立した改正子ども・若者育成支援推進法は、日本で初めてヤングケアラー支援を法律に明文化した画期的な法改正です。この法律により、国および地方公共団体に対して以下の支援が努力義務として課されました。
- ヤングケアラーへの相談・助言・指導の実施(努力義務)
- 医療・療養を受けることを助ける支援の実施
- 18歳以上の若者ケアラーへの切れ目のない支援を明文化
- 国・都道府県・市区町村の連携による包括的支援体制の整備
- 民間支援団体との連携強化
この法改正により、ヤングケアラーが「子ども・若者支援」の対象として明確に位置づけられました。こども家庭庁ではヤングケアラー特設サイト(kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/)を運営し、全国の相談窓口検索が可能です。また、各都道府県でも「ヤングケアラー支援センター」の設置が広がっています。例えば京都府は「京都府ヤングケアラー総合支援センター」を開設し、平日・土曜日に対面・オンラインで相談を受け付けています。
精神保健福祉センター——精神疾患の家族を持つヤングケアラーへの専門窓口
精神保健福祉センターは、各都道府県・政令指定都市に設置されている公的機関で、精神的な健康に関するあらゆる相談に対応します。精神疾患のある家族のケアを担うヤングケアラーにとって、特に重要な相談窓口です。
元ヤングケアラーの成人後——「過去」ではなく「現在進行形」の影響
ヤングケアラーとして過ごした経験は、成人後も心理的・社会的な影響を及ぼすことがあります。「もう子ども時代は終わった」と思っていても、今の自分の困難がヤングケアラー経験と結びついている場合があります。
元ヤングケアラーが抱えやすい成人後の困難
子ども時代にヤングケアラーとして過ごした人は、その経験が成人後の心理・行動・人間関係に様々な形で影響することがあります。これらは「性格の問題」ではなく、子ども時代に身についた適応戦略が成人後の環境でうまく機能しなくなっている状態です。
元ヤングケアラー同士のつながり——ピアサポートの力
同じ経験を持つ人と出会い、語り合うことは、孤独を和らげ「自分だけではなかった」という気づきをもたらします。日本では元ヤングケアラー同士のつながりを支援するピアサポートの場が広がっています。
- 一般社団法人ヤングケアラー協会——当事者・元当事者への支援・コミュニティ運営
- Yancle community——40歳以下のヤングケアラー・若者ケアラーのオンラインコミュニティ(Slack利用)
- こども家庭庁主催の当事者・元当事者交流会——全国規模のイベント・シンポジウムを通じた交流
- 各都道府県のヤングケアラー支援センター——地域ごとの対面・オンライン交流の場
「自分の経験を誰かに話す」という行為自体が、感情の整理と回復を助けます。ピアサポートは専門的な治療の代替ではありませんが、「自分は孤独ではない」という感覚を取り戻す重要な支えになります。元ヤングケアラーとして活動する当事者が支援者として関わることで、現在のヤングケアラーへの理解も深まります。
ヤングケアラー経験が成人の日常に与える具体的な影響
元ヤングケアラーが「なぜ今こんなに生きづらいのか」と感じる背景には、子ども時代に習得した特定のパターンがあります。これらは当時の環境では必要な適応でしたが、成人後には不要な制約となっていることがあります。
- 過剰な責任感「すべて自分でやらなければ」という強迫的な感覚。職場や家庭で抱えすぎ、燃え尽きるパターン。
- 感情の麻痺・切り離し長年にわたり自分の感情を後回しにしてきたため、自分が何を感じているかわからない、感情が薄いと感じることがある。
- 助けを求めることへの強い抵抗感「助けを求める=弱い・迷惑をかける」という信念が定着し、必要な支援を受けられない。
- 他者の感情へのアンテナの高さ(過覚醒)幼少期に家族の感情の変化に敏感でいなければならなかった経験から、他者の機嫌・感情の変化に過度に敏感になっている。
- 「休むことへの罪悪感」自分がのんびりしていると「休んでいていいのか」という罪悪感が湧く。休息を取ることができない。
- 人間関係における役割固定「世話をする側」の役割が固定化し、対等なパートナーシップを築くことが難しくなることがある。
ヤングケアラーに関するよくある質問
ヤングケアラーについてよく聞かれる質問に、専門的な観点からお答えします。
よくある質問と回答
A. 家族の病気・障害・精神疾患・依存症などのために、本来大人が担うべきケアや家事を日常的に行っている18歳未満の子どもを指します。手伝いの範囲を超え、継続的・責任ある役割を担っていることが特徴です。日本では中学2年生の約5.7%(17人に1人)、全日制高校2年生の約4.1%(24人に1人)が該当するとされています(文部科学省2021年調査)。
A. 日本では18歳未満を「ヤングケアラー」、18〜25歳頃を「若者ケアラー」と呼ぶことが多いです。2024年6月成立の改正子ども・若者育成支援推進法により、18歳を超えた若者ケアラーへの切れ目のない支援も明文化されました。イギリスも18歳未満、オーストラリアでは25歳以下を対象としています。
A. 一般的な「お手伝い」は子どもの成長の一環として適切な範囲・頻度で行われますが、ヤングケアラーの場合は①毎日・長時間(平日7時間以上という例も)、②子どもが担うには重すぎる医療的・感情的ケア、③その結果として学業・友人関係・睡眠・健康が犠牲になる、という点が異なります。「どれだけ生活に支障が出ているか」が判断の重要な基準です。
A. できます。担任の先生のほか、スクールカウンセラー(心理的サポート)やスクールソーシャルワーカー(家庭環境・福祉的サポート)が相談の入口です。「家族のことを話すと何か大変なことになる」という不安がある場合は、まず「家のことで少し困っている」と伝えるだけで構いません。秘密を守りながら必要な支援を考えてくれます。
A. あります。精神保健福祉センターは精神疾患を抱える家族への支援を行う公的機関で、家族全体への相談・支援が可能です。また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、精神科・心療内科の医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。親の治療が安定することで、子どものケア負担が軽減される効果も期待できます。
A. 主な制度として①介護保険サービス(要介護認定された家族向け:訪問介護・デイサービスなど)、②障害福祉サービス(障害のある家族向け)、③自立支援医療制度(精神科医療の自己負担軽減)、④子ども家庭センターへの相談、⑤スクールソーシャルワーカーの活用、⑥ヤングケアラー支援団体(一般社団法人ヤングケアラー協会など)のピアサポート・相談窓口があります。
A. ①学校の先生・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、②子ども家庭センター(旧:児童相談所)、③精神保健福祉センター(精神疾患の家族がいる場合)、④よりそいホットライン(0120-279-338)などの電話相談、⑤ヤングケアラー協会などの民間支援団体、⑥ココトモのようなチャット相談窓口があります。「まず話してみる」ことが大切で、すぐに状況が大きく変わるわけではありません。
A. 続くことがあります。元ヤングケアラーに多く見られるパターンとして、①自分のニーズを後回しにする習慣、②他者の感情を管理しようとする傾向、③「助けを求めてはいけない」という信念、④燃え尽き症候群(バーンアウト)への脆弱性があります。これらは幼少期から身についた適応戦略であり、適切なカウンセリングや当事者グループへの参加で回復・緩和できます。
A. まず「最近どう?」「家のことで何か大変なことはない?」と声をかけることから始めましょう。詳しい事情を無理に聞き出す必要はありません。学校の先生であればスクールソーシャルワーカーや管理職に相談し、地域の方であれば民生委員・児童委員への共有も有効です。「他人の家のことだから」と躊躇せず、まず一言声をかけることが最初の支援です。
A. 2024年6月に改正子ども・若者育成支援推進法が成立し、ヤングケアラー支援が初めて法律に明文化されました。国・地方公共団体に相談・助言・医療受診支援の努力義務が課されています。また、こども家庭庁がヤングケアラー特設サイトを運営し、全国の相談窓口検索が可能です。自治体レベルでは、京都府の「ヤングケアラー総合支援センター」など先進的な取り組みも広がっています。
一人で抱え込まないで。
相談してみませんか。
つらい気持ちを抱えていませんか。どうかあなたの大切な悩みをココトモに聞かせていただきたいです。
このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。精神疾患のある家族を持つ方は、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。詳しくは精神保健福祉センターまたは市区町村窓口にご相談ください。
