メンタルヘルス用語辞典 · ヤングケアラー

ヤングケアラーとは?
実態・心身への影響・支援制度をわかりやすく解説

ヤングケアラーとは、家族の病気・障害・精神疾患などのために、大人が担うべきケアを日常的に行っている18歳未満の子どもです。「いい子」として見過ごされがちですが、学業・友人関係・メンタルヘルスへの深刻な影響があります。定義・ケアの種類・心身への影響・支援方法まで、必要な情報をまとめました。

ABOUT YOUNG CARER

ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、家族の病気、障害、精神疾患、依存症などのために、大人が担うべきケアや家事を日常的に行っている18歳未満の子ども・若者を指します。「家族思いのいい子」として見過ごされやすいですが、子どもらしい時間を奪われるという深刻な問題を抱えています。

定義

ヤングケアラーの定義——「子どものうちから大人の役割を担う」

ヤングケアラー(Young Carer)とは、本来大人が担うべきケアや責任を日常的に引き受けている18歳未満の子ども・若者を指します。イギリスでは1980年代から問題として認識されてきており、日本では2010年代後半から社会的な注目が高まっています。2020年代に入り、日本の文部科学省・厚生労働省も実態調査を開始し、政策的な支援の議論が進んでいます。

ヤングケアラーが担うケアの対象は、身体的な病気・障害のある家族、精神疾患・依存症のある家族、高齢の祖父母、障害のあるきょうだい、日本語が話せない家族など多岐にわたります。また、ケアの内容も身体的介助から感情的サポート、家事、通訳まで様々です。

📌

ヤングケアラーとは——要点まとめ

①18歳未満の子ども・若者 ②家族の誰かに慢性的な支援・ケアが必要な状況 ③本来大人が担うべきレベルのケアや責任を日常的に担っている ——この3つが重なる状況を指します。手伝いの範囲を超えた継続的・責任ある役割を担っていることがポイントです。

「家族を助けるのは悪いこと?」という誤解についてヤングケアラーを支援することは「家族を助けることを否定する」のではありません。子どもが子どもらしい時間(学習、遊び、休息、夢)を確保しながら、家族への思いやりも持てる環境をつくることが目標です。ケアすること自体が問題なのではなく、「子どもが担うには過度な責任を一人で抱えている」ことが問題です。
ケアの種類

ヤングケアラーが担う様々なケア

ヤングケアラーが担うケアは多岐にわたります。以下の4つのカテゴリーに整理できますが、複数のケアを同時に担うことも多くあります。

🏥
病気・障害のある家族の身体的ケア
身体的ケア
家族の入浴介助、食事介助、着替えの手伝い、移動の補助、医療機器の管理、投薬管理など、身体的な介護を担います。専門的な訓練なしに行う医療行為に近いケアを担うこともあり、子どもの安全や心理的負担が懸念されます。特に難病や障害のある親・きょうだいのケアでは、医療的な知識と技術が必要な場面も生じます。
身体介助医療的ケア介護体力的負担
🧠
精神疾患・依存症の家族への感情的サポート
感情的サポート
うつ病、統合失調症、双極性障害、アルコール依存症などの精神疾患を抱える親や家族の「感情的サポート」を担います。親の気持ちを聞く「感情的な親代わり」(感情的ケア)、親の機嫌を管理する、危機的な状況に対処するなど、子どもが担うべきでない役割を引き受けます。精神疾患の症状は予測が難しいため、常に「次は何が起きるか」という緊張の中で生活します。
精神疾患感情的ケア感情労働慢性的緊張
🏠
家事と家族管理の担い手
家事・家族管理
食事の準備、掃除、洗濯、買い物など家事全般を担います。年下のきょうだいの世話(送迎、宿題の手伝い、入浴、就寝のサポート)、通院の付き添い、役所などへの手続き補助も行います。経済的な困難がある家庭では金銭管理を手伝うこともあります。これらの役割は家族の誰かが担わなければならないという現実の中で、子どもが自然と引き受けることが多いです。
家事きょうだいケア家族管理経済的支援
🗣️
言語・コミュニケーションの通訳・代理
通訳・代理
外国にルーツを持つ家庭で、日本語が不得意な家族のために学校・病院・行政機関などの場で通訳や代理を担います。日本語のみならず、専門用語(医療・法律・行政など)の「通訳」を行うこともあります。子どもが理解することが難しい内容(医療診断、法的手続きなど)を通訳する際の心理的負担は大きく、また家族に悪い知らせを伝えることも求められることがあります。
通訳外国にルーツ言語的代理心理的負担
実態データ

ヤングケアラーの実態——日本の調査から

日本では2021年に文部科学省と厚生労働省が初めてヤングケアラーに関する実態調査を実施しました。この調査の結果、ヤングケアラーの存在が「特殊なケース」ではなく広く存在することが明らかになりました。

約5.7%
中学2年生の約5.7%(約17人に1人)がヤングケアラーに相当(2021年文科省調査)
約4.1%
全日制高校2年生の約4.1%(約24人に1人)がヤングケアラーに相当(同調査)
約6
ヤングケアラーの約6割が「特に相談したことはない」と回答。支援が届いていない実態
ケアの対象(複数回答)
きょうだい(障害・病気のある)
61%
父母(精神疾患・依存症含む)
49%
祖父母(高齢・要介護)
31%
その他の家族
12%

※ 文部科学省2021年調査の概数をもとにした参考値

見えにくい理由

なぜヤングケアラーは見えにくいのか

🤫
「家のことは話してはいけない」
家族の秘密(精神疾患、依存症、経済的困難など)は「外に漏らしてはいけない」という意識が強く、相談できない。
🌟
「ありがたい子」として称賛される
「家族思いのいい子」「しっかりしている」と称賛されるため、問題として認識されにくい。本人も「ほめられているんだから大丈夫」と思いやすい。
🔄
「これが普通」という思い込み
幼少期からケアを担ってきた子どもは「これが普通の家庭」だと思っており、異変に気づけない。
💔
家族を「売る」感覚
「親や家族のことを外に言うと施設に入れられる」「家族を裏切ることになる」という恐れから相談を避ける。
😤
「弱音を吐いてはいけない」
「自分がしっかりしなければ」という過剰な責任感から、困っていることを表明できない。
👁️
外から見えにくいケアの存在
感情的ケアや通訳など、外から見えないケアは特に発見が難しい。学校での成績や出席状況だけでは把握できない。
💡
「手を挙げられない」子どもに届く支援をヤングケアラーは自ら「助けてください」と言えないことがほとんどです。だからこそ、周囲の大人が「もしかして?」と気づき、声をかけることが重要です。気づきと声かけが、支援の入口になります。
REALITY & DAILY LIFE

ヤングケアラーの日常——「子どもとして生きる時間」を奪われる

ヤングケアラーの日常は、多くの子どもが「当たり前」として享受していることができない状況に満ちています。具体的な日常の様子を通じて、その困難を理解しましょう。

日常の様子

ヤングケアラーの一日——ある中学生のケース

🕐ある中学生(Aさん)のケース
6:00
起床。うつ病の母が起きられないため、自分と小学生の弟の朝食を準備する。
7:30
弟を小学校まで送ってから中学校へ。授業中も「母は大丈夫か」と気になって集中できない。
15:30
授業終了後すぐに帰宅。部活や友人との会話を断り急いで帰る。
16:00
帰宅後に夕食の準備・洗濯・掃除。宿題をやる時間がない日も多い。
18:30
弟を迎えに行き、宿題を手伝う。
20:00
母の服薬管理をし、気分が落ち込んでいる母の話を聞く。
22:00
やっと自分の時間。宿題は半分しかできないまま就寝。

※ このケースは実際の状況を参考に作成したフィクションです。実際のヤングケアラーの状況はさらに多様で複雑です。

💡
Aさんのような状況でも「うちはひどくない」「もっと大変な人もいる」と思ってしまうことが多いです。しかし、子どもが継続的に大人の役割を担い、学習や休息や友人関係が犠牲になっている状況は、支援が必要な状況です。
失われるもの

ヤングケアラーが失いやすいもの

ヤングケアラーは「ケアをすること」で多くのものを失います。これらは一時的な損失ではなく、長期にわたって積み重なることで成人後の生活にも影響を及ぼします。

🎮
「子どもらしい」遊びと休息の時間
放課後に友達と遊ぶ、部活に打ち込む、ゲームやアニメを楽しむ——「普通の子ども」として享受できる時間が圧倒的に少なくなります。
📝
学習と進学の機会
宿題の時間が確保できず、学力が低下します。進学先の選択も家族のケアを中心に考えなければならず、自分の夢を優先できません。
👫
友人との関係とコミュニティ
急な帰宅、約束のキャンセル、「家のことを言えない」秘密主義が、友人関係の構築を妨げます。「友達とどう話せばいいかわからない」という疎外感が生じることも。
🌱
自己発見と成長の機会
「自分は何が好きか」「将来何をしたいか」を探求する時間が奪われます。自分自身のアイデンティティより「ケアをする人」というアイデンティティが前面に出ます。
😴
十分な睡眠と健康
ケアのために睡眠時間が削られ、自分の健康管理も後回しになります。慢性的な疲労が学業や感情にさらに影響します。
💭
「悩む権利」と感情的サポート
自分の感情や悩みを表現する場がなく、「自分が相手の感情をサポートする立場」に固定されます。「自分が弱音を吐いてはいけない」という制約の中で生きます。
MENTAL HEALTH IMPACT

ヤングケアラーの心身への影響

ヤングケアラーとして過ごした経験は、成長期の心身の発達、そして成人後の精神的健康に広範な影響を与えます。影響を知ることで、適切な支援につながることができます。

4領域への影響

ヤングケアラーが受ける4領域への影響

📚学業・進学への影響
  • 遅刻・欠席・早退が多くなる
  • 宿題や学習の時間が確保できない
  • 集中力の低下・学業成績の低下
  • 進学・進路選択の制限(ケア義務で進学先を制限)
  • 学校行事(遠足、修学旅行など)への参加が難しい
  • 奨学金を利用しても経済的理由で進学を諦める
影響は成人後も続くことがあるヤングケアラーを経験した成人(元ヤングケアラー)は、慢性的な疲弊感、自己犠牲の傾向、自分のニーズを後回しにするパターンなどを成人後も持ち続けることがあります。「過去のこと」ではなく「現在進行形の影響」として支援が必要な場合があります。
精神的健康

ヤングケアラーと精神的健康——見えにくいメンタルヘルスの問題

ヤングケアラーの精神的健康に関する研究では、一般の子どもと比べてうつ症状、不安症状、慢性的な疲労が高いことが示されています。しかし、ヤングケアラーはその状況を「当然のこと」として受け入れていることが多く、自分が「大変」だとか「支援が必要」だと思わないケースが多いです。

😟
慢性的な不安
「家族に何かあったら」という絶え間ない不安。ケアから離れている時も(学校にいる時も)不安が続く。
😞
抑うつ・無力感
「自分が休んだら家族が大変になる」という追い詰められた感覚。先が見えない閉塞感。
😤
怒りと罪悪感の葛藤
「なぜ自分だけ」という怒りと、「こんなことを思ってはいけない」という罪悪感が同時に存在する。
💔
喪失感・悲嘆
「自分は何かを犠牲にしている」という感覚。「普通の子どもになれなかった」という喪失への悲しみ。
⚠️
「大変」だと感じていなくても支援が必要なことがあるヤングケアラーが「自分は大丈夫」と言っていても、慢性的な緊張状態にあることが多いです。「大変そうに見えない」は「支援が不要」を意味しません。定期的な関わりと見守りが重要です。
SUPPORT & RESOURCES

ヤングケアラーへの支援

ヤングケアラーへの支援は「ケアをやめさせる」ことではありません。子どもが子どもとして生きる時間を確保しながら、家族全体に必要なサポートが届く仕組みをつくることが目標です。

支援のプロセス

ヤングケアラーへの支援——5つのステップ

STEP 01
まず「気づく」——ヤングケアラーであることを認識する
多くのヤングケアラーは自分がヤングケアラーだという認識がありません。「家族のことを手伝っているだけ」「これが普通だ」と思っています。また、「家族のことを外に言ってはいけない」という意識から、困っていても声を上げにくい状況にあります。学校の先生、地域の人、友人など周囲の大人が「もしかしてヤングケアラー?」と気づき、声をかけることが重要な第一歩です。本人が「ヤングケアラー」という言葉を知ることで、「これは自分一人が抱えるべき問題ではない」という気づきにつながることもあります。
気づき
STEP 02
「相談していい」という安心感を届ける
ヤングケアラーが支援につながる最大の障壁のひとつが「相談することへの抵抗」です。「家族のことを言うと施設に入れられるかもしれない」「親のことを悪く言ってはいけない」「弱音を吐くのはダメだ」という思いが相談を阻みます。支援する側は「あなたの家族を非難しているのではない」「あなたのことが心配なんだ」という姿勢を伝え、相談したことで状況が急変するわけではないことを丁寧に説明することが大切です。
信頼形成
STEP 03
ニーズのアセスメント——何に困っているかを丁寧に聞く
「何に困っているか」はヤングケアラーによって異なります。学校への遅刻が問題な子、友達と過ごせないことが辛い子、感情的に疲弊している子、経済的に困窮している子——それぞれの状況に合わせた支援が必要です。「困っているでしょ」と押し付けるのではなく、本人の言葉で困りごとを聞く丁寧なアセスメントが支援の質を決めます。また、ケアを担われている家族の状況も理解した上での包括的なアセスメントが重要です。
アセスメント
STEP 04
利用できる支援につなぐ——子どもと家族両方へのサポート
ヤングケアラー支援は、子ども本人への支援と、ケアを必要としている家族への支援の両方が必要です。子どもへの支援:スクールカウンセラー、子ども家庭相談窓口、ヤングケアラー支援団体など。家族への支援:介護保険サービス(要介護認定が必要)、精神保健福祉センター(精神疾患の家族向け)、障害福祉サービスなど。子どもの「ケアを減らすこと」だけが目標ではなく、子どもが「子どもらしくいられる時間」を確保することが重要です。
支援接続
STEP 05
継続的なフォローアップ
ヤングケアラー支援は一度相談したら終わりではありません。状況は変化し、ケアの内容も変わります。また、支援に繋がったからといってすぐに状況が改善するわけでもありません。継続的な関わりと定期的な状況確認が、長期的な支援につながります。特に、家族の状況が悪化した際(親の入院、家族の死亡など)には集中的なサポートが必要です。
継続支援
ヤングケアラー本人へ

ヤングケアラーのあなたへ——あなたは一人じゃない

もしあなたが「自分はヤングケアラーかもしれない」と思っているなら、以下のメッセージをあなたに伝えたいと思います。

1
あなたが家族を助けていることは、素晴らしいことです。でも、それはあなた「だけ」が担う必要はありません。
2
「大変だ」と感じている自分の気持ちは、正直で正当な気持ちです。それを感じることは弱さではありません。
3
学校の先生、カウンセラー、相談窓口——あなたの話を聞いてくれる大人は必ずいます。
4
家族のことを話すことは、家族を裏切ることではありません。あなた自身のことを大切にすることです。
5
あなたには、勉強する権利、友達と遊ぶ権利、休む権利、夢を持つ権利があります。
6
支援を求めることは「弱さ」でも「逃げ」でもありません。あなたと家族の両方に必要なことです。
あなたが家族を愛しているから、助けようとしているのですよね。その気持ちは本物です。でも、あなた一人で抱えきれないことを誰かに話すことは、その愛情を否定することにはなりません。助けを求めることは、あなたと家族、両方のためになります。
利用できる支援

ヤングケアラーが利用できる支援リソース

🏫
学校のスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー
学校内でアクセスしやすい相談窓口です。スクールカウンセラーは心理的サポート、スクールソーシャルワーカーは家庭環境を含む福祉的支援を提供します。担任の先生や部活の先生も相談の入口になります。
🏛️
子ども家庭センター(旧:児童相談所)
子どもと家庭の問題全般について相談できる公的機関です。虐待だけでなく、ヤングケアラーを含む家庭の困難についても相談できます。地域によって名称が異なります。
💜
ヤングケアラー支援団体
ヤングケアラーに特化した民間支援団体が全国で活動しています。同じ経験を持つ仲間との交流(ピアサポート)、相談窓口、学習支援、食事支援などを提供します。一般社団法人ヤングケアラー協会などが代表的です。
📞
子ども専用相談窓口
「子どもの人権110番」(0120-007-110)、「よりそいホットライン」(0120-279-338)など、子ども向けの電話・チャット相談が利用できます。匿名で相談できます。
🏥
精神保健福祉センター
精神疾患を抱える家族への支援を提供する公的機関です。ヤングケアラーが精神疾患の親のケアを担っている場合、家族全体への支援としてアクセスできます。
👴
介護・福祉サービス
要介護状態の家族がいる場合、介護保険サービス(訪問介護、デイサービスなど)の利用がヤングケアラーの負担軽減につながります。介護認定の手続きを行政に相談しましょう。
FOR SOCIETY & SUPPORTERS

社会・周囲の人へ——ヤングケアラーを見つけ、支えるために

ヤングケアラー支援は社会全体の課題です。学校の先生、地域の大人、友人——周囲のあらゆる人が「気づき」と「声かけ」を通じてヤングケアラーを支えることができます。

立場別メッセージ

学校・地域・友人へ伝えたいこと

👩‍🏫学校の先生へに伝えたいこと
  • 「遅刻が多い」「宿題ができていない」の背景に家庭のケア負担がある可能性を考える
  • 「宿題できなかった理由を聞いてみる」という小さな関わりが発見につながる
  • 「ヤングケアラー?」と感じたら一人で抱え込まず、スクールソーシャルワーカーや管理職に相談する
  • 欠席連絡の際に「最近どんな様子ですか」と家庭の状況を丁寧に聞く
  • 進学相談の際に「家の事情で選択肢が狭まっていないか」を確認する
「気づき」が支援の入口ヤングケアラーへの支援で最も重要なのは「気づき」です。専門的な知識がなくても「何か困っていない?」と声をかけることができます。その一言が、子どもにとって「話してもいいんだ」という扉を開くことがあります。
政策・制度

日本のヤングケアラー支援政策の動向

日本では2020年以降、ヤングケアラー支援に関する政策が急速に進展しています。2021年の実態調査を経て、2022年には「こども家庭庁」設置の議論の中でヤングケアラー支援が重点課題となりました。

主な政策・取り組み
  • 文部科学省・厚生労働省による実態調査の実施(2021〜)
  • 学校への周知・研修プログラムの整備
  • スクールソーシャルワーカーの配置拡充
  • ヤングケアラーを含む「こどもの貧困」対策の強化
  • 各都道府県・市区町村でのヤングケアラー支援体制の整備
  • 民間支援団体との連携強化

しかし、制度の整備と現場への浸透にはまだ課題が多く、特に農村部・地方部での支援体制は不十分な地域も多いのが現状です。一人でも多くの人がヤングケアラーへの理解を深め、周囲の子どもへの目配りを続けることが、今最も重要な取り組みです。

関連する用語
機能不全家族世代間トラウマ複雑性PTSD愛着障害児童虐待不登校社会的孤立
GLOBAL PERSPECTIVE

海外のヤングケアラー支援——日本との比較

ヤングケアラー支援の先進国であるイギリスやオーストラリアの制度を知ることで、日本の現状と課題が見えてきます。海外の成功事例は、日本の支援体制改善のヒントを与えてくれます。

海外比較

イギリス・オーストラリア・日本のヤングケアラー支援比較

ヤングケアラー問題はイギリスで1980年代に最初に社会的課題として認識され、以降オーストラリア、北欧諸国、そして日本へと認知が広がってきました。支援の成熟度は国によって大きく異なります。

🇬🇧
イギリス
認識開始:1980年代〜 / 主な法律:2014年「子どもと家族に関する法律」
  • 地方自治体にヤングケアラーの特定・支援を義務化
  • 全国約300以上のヤングケアラー支援団体
  • 専用アセスメントシートによる学校・SSW連携
  • ケアラーズセンターによる包括的サポート
🇦🇺
オーストラリア
認識開始:2010年〜 / 主な法律:2010年「ケアラー承認法」(全州)
  • 12〜25歳対象の給付型奨学金(年約3,000AUD)
  • ケアラーの権利を法律で明文化
  • 連邦政府によるヤングケアラー支援プログラム
  • 若者ケアラーまで25歳に対象を拡大
🇯🇵
日本
認識開始:2021年〜 / 主な法律:2024年「改正子ども・若者育成支援推進法」
  • 2021年に初の全国実態調査を実施
  • 2024年にヤングケアラー支援が法律に明文化
  • こども家庭庁が相談窓口検索サービスを提供
  • スクールソーシャルワーカーの配置拡充が課題
日本の課題——制度はあっても現場に届いていない日本では2024年に法整備が進みましたが、支援の現場への浸透には課題が残ります。特に地方部・農村部では支援団体や相談窓口へのアクセスが難しく、スクールソーシャルワーカーの不足も深刻です。イギリスのように「地方自治体に支援義務を課す」仕組みの強化が今後の焦点です。
2024年法改正

2024年改正子ども・若者育成支援推進法——何が変わったか

2024年6月に成立した改正子ども・若者育成支援推進法は、日本で初めてヤングケアラー支援を法律に明文化した画期的な法改正です。この法律により、国および地方公共団体に対して以下の支援が努力義務として課されました。

改正法の主なポイント
  • ヤングケアラーへの相談・助言・指導の実施(努力義務)
  • 医療・療養を受けることを助ける支援の実施
  • 18歳以上の若者ケアラーへの切れ目のない支援を明文化
  • 国・都道府県・市区町村の連携による包括的支援体制の整備
  • 民間支援団体との連携強化

この法改正により、ヤングケアラーが「子ども・若者支援」の対象として明確に位置づけられました。こども家庭庁ではヤングケアラー特設サイト(kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/)を運営し、全国の相談窓口検索が可能です。また、各都道府県でも「ヤングケアラー支援センター」の設置が広がっています。例えば京都府は「京都府ヤングケアラー総合支援センター」を開設し、平日・土曜日に対面・オンラインで相談を受け付けています。

📋
自立支援医療制度——精神疾患の家族がいるヤングケアラーへ精神疾患のある親を持つヤングケアラーにとって重要な制度が「自立支援医療制度(精神通院医療)」です。この制度を利用すると、精神科・心療内科の医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。親が治療を継続しやすくなることで、ヤングケアラーのケア負担も軽減される効果が期待できます。申請は市区町村の窓口または精神保健福祉センターへご相談ください。
精神保健福祉センター

精神保健福祉センター——精神疾患の家族を持つヤングケアラーへの専門窓口

精神保健福祉センターは、各都道府県・政令指定都市に設置されている公的機関で、精神的な健康に関するあらゆる相談に対応します。精神疾患のある家族のケアを担うヤングケアラーにとって、特に重要な相談窓口です。

🏥
精神疾患の家族への支援相談
うつ病・統合失調症・依存症など精神疾患のある家族を持つ方が、家族の病気の理解・対応方法・支援サービスについて相談できます。ヤングケアラーとして親のケアを担っている場合も対象です。
📋
自立支援医療制度の申請サポート
精神通院医療の自立支援医療制度(医療費を原則1割負担に軽減)の申請手続きについて、精神保健福祉センターまたは市区町村窓口で相談できます。
💬
家族向け心理教育・グループ
精神疾患を抱える家族の対応方法を学ぶ「家族教室」や、同じ立場の家族が集まるグループを提供しているセンターもあります。
🔗
地域の支援ネットワークへの橋渡し
精神保健福祉センターは、医療機関・福祉事務所・ヤングケアラー支援団体など、地域の複数の支援機関への橋渡し役を担います。
精神保健福祉センターへのアクセス方法各都道府県に1か所以上設置されています。「(都道府県名)精神保健福祉センター」で検索するか、こども家庭庁の相談窓口検索サービスをご利用ください。電話・対面・オンラインでの相談が可能です。費用は無料です。
ADULT YOUNG CARERS

元ヤングケアラーの成人後——「過去」ではなく「現在進行形」の影響

ヤングケアラーとして過ごした経験は、成人後も心理的・社会的な影響を及ぼすことがあります。「もう子ども時代は終わった」と思っていても、今の自分の困難がヤングケアラー経験と結びついている場合があります。

成人後の影響

元ヤングケアラーが抱えやすい成人後の困難

子ども時代にヤングケアラーとして過ごした人は、その経験が成人後の心理・行動・人間関係に様々な形で影響することがあります。これらは「性格の問題」ではなく、子ども時代に身についた適応戦略が成人後の環境でうまく機能しなくなっている状態です。

🔄
自己犠牲パターンの固定化
「自分より他者を優先する」「助けを求めてはいけない」という思い込みが成人後も続き、燃え尽き症候群や不健全な対人関係パターンにつながりやすい。
💼
キャリア・進学への影響
ヤングケアラー時代の学力不足・進学機会の喪失が、成人後の職業選択や経済的安定に影響することがある。高等教育進学率の低さも課題。
🤝
ピアサポートの有効性
元ヤングケアラー同士のつながりは回復に有効。「Yancle community」などのオンラインコミュニティや、一般社団法人ヤングケアラー協会のサポートグループが支援の場となっている。
💚
専門的カウンセリング
複雑性PTSDや愛着の課題を抱える元ヤングケアラーには、トラウマインフォームドケアを行うカウンセラーや精神科医との連携が有効。自立支援医療制度を活用することで経済的負担を軽減できる。
💡
「あの頃のことが今も影響している」と気づいたら元ヤングケアラーとしての経験が今の生きづらさと結びついていると感じたら、精神保健福祉センターへの相談やカウンセリングの利用が助けになることがあります。自立支援医療制度を活用すれば、精神科・心療内科の受診費用を抑えることができます。「もう大人だから」と支援を遠ざける必要はありません。
ピアサポート

元ヤングケアラー同士のつながり——ピアサポートの力

同じ経験を持つ人と出会い、語り合うことは、孤独を和らげ「自分だけではなかった」という気づきをもたらします。日本では元ヤングケアラー同士のつながりを支援するピアサポートの場が広がっています。

主なピアサポート・当事者グループ
  • 一般社団法人ヤングケアラー協会——当事者・元当事者への支援・コミュニティ運営
  • Yancle community——40歳以下のヤングケアラー・若者ケアラーのオンラインコミュニティ(Slack利用)
  • こども家庭庁主催の当事者・元当事者交流会——全国規模のイベント・シンポジウムを通じた交流
  • 各都道府県のヤングケアラー支援センター——地域ごとの対面・オンライン交流の場

「自分の経験を誰かに話す」という行為自体が、感情の整理と回復を助けます。ピアサポートは専門的な治療の代替ではありませんが、「自分は孤独ではない」という感覚を取り戻す重要な支えになります。元ヤングケアラーとして活動する当事者が支援者として関わることで、現在のヤングケアラーへの理解も深まります。

ピアサポートは「強くなければならない」場ではありません。弱音を吐いていい場所、自分の経験を言葉にしていい場所です。子ども時代に「弱音を吐いてはいけない」と学んできたからこそ、安心できる場でのつながりが回復への大きな一歩になります。
具体的な日常への影響

ヤングケアラー経験が成人の日常に与える具体的な影響

元ヤングケアラーが「なぜ今こんなに生きづらいのか」と感じる背景には、子ども時代に習得した特定のパターンがあります。これらは当時の環境では必要な適応でしたが、成人後には不要な制約となっていることがあります。

  • 過剰な責任感「すべて自分でやらなければ」という強迫的な感覚。職場や家庭で抱えすぎ、燃え尽きるパターン。
  • 感情の麻痺・切り離し長年にわたり自分の感情を後回しにしてきたため、自分が何を感じているかわからない、感情が薄いと感じることがある。
  • 助けを求めることへの強い抵抗感「助けを求める=弱い・迷惑をかける」という信念が定着し、必要な支援を受けられない。
  • 他者の感情へのアンテナの高さ(過覚醒)幼少期に家族の感情の変化に敏感でいなければならなかった経験から、他者の機嫌・感情の変化に過度に敏感になっている。
  • 「休むことへの罪悪感」自分がのんびりしていると「休んでいていいのか」という罪悪感が湧く。休息を取ることができない。
  • 人間関係における役割固定「世話をする側」の役割が固定化し、対等なパートナーシップを築くことが難しくなることがある。
⚠️
これらは「性格」ではなく「経験」の産物です元ヤングケアラーが抱えるこれらの困難は、意志の弱さや性格の問題ではありません。子ども時代の困難な環境に適応するために習得した反応パターンです。適切なカウンセリングや支援を通じて、少しずつ「自分も大切にしていい」という感覚を取り戻すことができます。
FAQ

ヤングケアラーに関するよくある質問

ヤングケアラーについてよく聞かれる質問に、専門的な観点からお答えします。

Q&A

よくある質問と回答

Q. ヤングケアラーとはどんな子どもですか?

A. 家族の病気・障害・精神疾患・依存症などのために、本来大人が担うべきケアや家事を日常的に行っている18歳未満の子どもを指します。手伝いの範囲を超え、継続的・責任ある役割を担っていることが特徴です。日本では中学2年生の約5.7%(17人に1人)、全日制高校2年生の約4.1%(24人に1人)が該当するとされています(文部科学省2021年調査)。

Q. ヤングケアラーは何歳までですか?

A. 日本では18歳未満を「ヤングケアラー」、18〜25歳頃を「若者ケアラー」と呼ぶことが多いです。2024年6月成立の改正子ども・若者育成支援推進法により、18歳を超えた若者ケアラーへの切れ目のない支援も明文化されました。イギリスも18歳未満、オーストラリアでは25歳以下を対象としています。

Q. ヤングケアラーと普通の「家族のお手伝い」はどう違うのですか?

A. 一般的な「お手伝い」は子どもの成長の一環として適切な範囲・頻度で行われますが、ヤングケアラーの場合は①毎日・長時間(平日7時間以上という例も)、②子どもが担うには重すぎる医療的・感情的ケア、③その結果として学業・友人関係・睡眠・健康が犠牲になる、という点が異なります。「どれだけ生活に支障が出ているか」が判断の重要な基準です。

Q. ヤングケアラーの子どもは学校に相談できますか?

A. できます。担任の先生のほか、スクールカウンセラー(心理的サポート)やスクールソーシャルワーカー(家庭環境・福祉的サポート)が相談の入口です。「家族のことを話すと何か大変なことになる」という不安がある場合は、まず「家のことで少し困っている」と伝えるだけで構いません。秘密を守りながら必要な支援を考えてくれます。

Q. 精神疾患の親を持つヤングケアラーへの支援はありますか?

A. あります。精神保健福祉センターは精神疾患を抱える家族への支援を行う公的機関で、家族全体への相談・支援が可能です。また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、精神科・心療内科の医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。親の治療が安定することで、子どものケア負担が軽減される効果も期待できます。

Q. ヤングケアラー支援に使える制度・サービスは何ですか?

A. 主な制度として①介護保険サービス(要介護認定された家族向け:訪問介護・デイサービスなど)、②障害福祉サービス(障害のある家族向け)、③自立支援医療制度(精神科医療の自己負担軽減)、④子ども家庭センターへの相談、⑤スクールソーシャルワーカーの活用、⑥ヤングケアラー支援団体(一般社団法人ヤングケアラー協会など)のピアサポート・相談窓口があります。

Q. ヤングケアラーは誰に相談すればいいですか?

A. ①学校の先生・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、②子ども家庭センター(旧:児童相談所)、③精神保健福祉センター(精神疾患の家族がいる場合)、④よりそいホットライン(0120-279-338)などの電話相談、⑤ヤングケアラー協会などの民間支援団体、⑥ココトモのようなチャット相談窓口があります。「まず話してみる」ことが大切で、すぐに状況が大きく変わるわけではありません。

Q. 成人してもヤングケアラーだった影響は続きますか?

A. 続くことがあります。元ヤングケアラーに多く見られるパターンとして、①自分のニーズを後回しにする習慣、②他者の感情を管理しようとする傾向、③「助けを求めてはいけない」という信念、④燃え尽き症候群(バーンアウト)への脆弱性があります。これらは幼少期から身についた適応戦略であり、適切なカウンセリングや当事者グループへの参加で回復・緩和できます。

Q. 周囲の大人がヤングケアラーに気づいたらどうすればいいですか?

A. まず「最近どう?」「家のことで何か大変なことはない?」と声をかけることから始めましょう。詳しい事情を無理に聞き出す必要はありません。学校の先生であればスクールソーシャルワーカーや管理職に相談し、地域の方であれば民生委員・児童委員への共有も有効です。「他人の家のことだから」と躊躇せず、まず一言声をかけることが最初の支援です。

Q. ヤングケアラー支援の法律・制度はどうなっていますか?

A. 2024年6月に改正子ども・若者育成支援推進法が成立し、ヤングケアラー支援が初めて法律に明文化されました。国・地方公共団体に相談・助言・医療受診支援の努力義務が課されています。また、こども家庭庁がヤングケアラー特設サイトを運営し、全国の相談窓口検索が可能です。自治体レベルでは、京都府の「ヤングケアラー総合支援センター」など先進的な取り組みも広がっています。

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精神保健福祉センター各都道府県に設置精神疾患の家族の相談・自立支援医療の申請

このページの情報は、医師による診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。精神疾患のある家族を持つ方は、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用することで医療費の自己負担を原則1割に軽減できます。詳しくは精神保健福祉センターまたは市区町村窓口にご相談ください。

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