【ライト純文学、音楽小説】 ベートーベンとミストレス ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #07『天才VS天才』
visibility1,754 edit2016.03.04
小説もくじ
前回からの続き。
#07、『天才 VS 天才』
「柊卓人がどうかは分かりませんが、俺もちょっと、ピアノには覚えがあります」
酔い覚ましだ。
俺は小男……謎のピアニストへ挑むことを決めた。
「おう、やるかい? 酔ってんじゃねえのか?」
「大丈夫です。もう覚めました」
「アラ演るの? 挑戦料は一回三万円、賞金は百万円。お金はあのテーブルへ置いて頂戴。選曲は自由よ。だけど、十分以内の曲でお願い。あと、鍵盤を滅茶苦茶に鳴らすナシね。聞く側が耳障りなの。それと、見事達成した場合は、二度目の挑戦は出来ないから、悪しからず」
マスターが丁寧に説明してくれた。
なんだか、縁日の屋台の説明みたいで面白い。
「じゃ、初めは俺が金を出してやるよ」
言って、おっさんがポケットからクシャクシャの諭吉を三枚取り出し、俺に手渡した。
「え……」
「ココに連れてきたのはおっちゃんだからな。気にするな。ま、気楽に弾けや」
言って、バンバンと背中を叩かれる。結構痛い。
席を立ち、ピアノへと向かう。
途中、小さな丸テーブルの上にクシャクシャの三万円を置く。
ピアノの椅子に座り、まずはピアノの音を確かめる事にした。
『ポーン』
『ラ』音を出す。よく調律されている。
店中の視線が集まるのを感じる。
ん、やはりこれはコンクールの緊張感に近い。
曲を決めなければ。
どの曲がいいだろう。
考えた末に俺は、オリジナルを一曲、披露する事にした。
ギシ、と椅子にもたれ掛り、モノクロの鍵盤に指を這わせ、
始める。
『――――――』
この曲は、世界中で俺以外、誰も知らない曲である。
作曲コンクール用に温めていたピアノ曲で、当然ながら未発表。
作曲、柊卓人。ちょっとした自信作である。
えへん。
しかし、こんなところで披露する事になるとは思わなかった。
『――――!』
演奏が終わる。
まさか、オリジナル曲を持ってくる奴なんていないだろう。
これで百万円が貰えるのなら、自作自演で初演をした甲斐があったというもの。
俺がピアノを離れると、黒猫がトコトコとやってきて、椅子に座る。
俺もおっさんが持つバーカウンターに戻った。
小男は、
カツカツと、リズミカルに白い杖で地面を叩きながら、ピアノの前へ向かった。
白杖。目の不自由な人が持つ杖だったはずだ。
手助けしなくても大丈夫だろうか。
俺の心配を余所に、小男はピアノに向かって指を伸ばし。
『ポーン』と、一つのキーを押した。
そのキーは、俺が調律を確かめた時と同じ音だ。
「ごめんねー、さっき言い忘れちゃったの」
と、後ろから、マスターが告げる。
「あのこね、本当にぜーんぶコピーしちゃうの。指ならしで音を鳴らすのは構わないけど、全部含めて十分以内でお願いね。ああ、先ほどの演奏は、音だし入れても十分以内だったから、構わないわ。次から気を付けてね」
「じ、次回以降って……」
「あらやだ。失言ね、ごめんあそばせ。では、演奏をお楽しみください」
そして、小男はそっくりそのまま、
見事に、
完璧に、
俺のオリジナル曲の、再演をした。
「あ、あ……」
開いた口が塞がらない。
自分の曲を聞いたのは初めてだ。
聴衆から拍手と、「パーフェクト!」という喝采が飛ぶ。
白い猫が諭吉が置かれたテーブルへ飛び乗り、チリンという音が鳴る。
つまり、俺の負けである。
彼女はぺこりとお辞儀をして、くしゃくしゃの三万円を伸ばして確かめると懐に仕舞った。
そして席に戻りぎわ、
「変な曲……」
と、無機質な小さな呟きが聞こえた。
「へ、……!」
変な曲とはずいぶんな言い草だ。一生懸命作ったのに!
めーっちゃ勉強したのに!
ああああ!
くやしい! くやしい!
さっきの一言で火がついてしまった。
俺は財布から諭吉の札を三枚を取り出し、勢いよく、テーブルに置いた。
今度は、正真正銘、紛う事なき自分の金だ。
「やってやらぁ!」
リベンジである。
選曲、選曲、選曲!
目を瞑って考える。
もはや、気楽に弾けるわけがない。
ガチでやる。
曲選びから、ガチで練り直す。
曲は重要だ。
何も考えずに挑めば、さっきの様に必ず負ける。
俺の前に挑戦した、あの男は決して下手ではなかった。むしろかなり高度な技術を持ったピアニストだ。俺のレパートリーの中で難しい曲と言えば、リストやプロコフィエフ、あとはベートーヴェン……。だが、この女は既に何人ものプロに勝っているという。単純に難易度の高い曲ではだめだろう。となると有効なのは、マイナーな曲、もしくは、オリジナルの曲が選択肢に入る。
が、
先の通り、オリジナルの曲はダメだった。
オリジナルの曲には別の問題がある。ジャッジを下す、聴衆の記憶力の問題だ。
ココは酒場だ。酔っている人間がほとんどである。二つの演奏を聞いて、全く同じでなくても、似たような演奏をするだけで『パーフェクト!』と叫んでしまう可能性がある。
なにか、突破口はないか。
俺は、ルールについて、再度考え直してみた。
『選曲は自由』
『十分以内の曲』
『滅茶苦茶に演奏するのは無し』
注目したのは、二つ目と三つ目だ。マスターは観客のせいにしているが、これは、演奏者の限界を表しているのかもしれない。
十分以内とデタラメな演奏の禁止、これが聞く側ではなく、小男の方に理由があるとすればどうだろう。記憶力や集中力の限界があるのかもしれない。もしくは、何かのイカサマをするために、このルールが必要……だとか。
記憶力の限界。
集中力の分散。
選曲の自由。
(よし、百万。獲りに行くぞ)
その事を念頭に置き、俺はある曲を選んだ。
#08『天才の正体』に つづく
#06『COPPY GIRL』←いっこまえ
- ココトモメンバーたちと交流しよう♪
-
ココトモメンバーたちと交流するための『メンバーのお部屋』掲示板ができました。気になるメンバーと気軽にお話することができます。ぜひ色んなメンバーのお部屋に遊びに行ってみてください♪
メンバーのお部屋はこちら


